No.144398

『舞い踊る季節の中で』 第44話

うたまるさん

『真・恋姫無双』の二次創作のSSです。
明命√の作品となります。

来る日のため、袁術の目を警戒しながら、氏族や豪族へ強力の申し出と、下準備に忙しい日々を送る翡翠と祭の所に、雪蓮達が無事帰ってくる知らせが届いた。
そんな中、二人は語り合う・・・・・・・・孫呉のこれからを、そして一刀の事を、

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2010-05-20 22:38:31 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:19580   閲覧ユーザー数:13933

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』董卓編

   第44話 ~ 玻璃の心を、優しく包み込む魂に舞う ~

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性には危険です)

  最近の悩み:今夜も、ある一室で、二人の、 若い魅力的な女性の、静かな寝息が聞こえる。 

        時折聞こえる、寝言のような悩ましげな声、 そして女性特有の甘い香りが、俺の鼻を

        悪戯っぽく、くすぐってゆく。 それでも、俺の心は、明命達の時に比べ余裕があった。

        べつに、月達の魅力が二人に劣る訳ではないのだから、不思議だ。 少なくとも、月達

        の方が、外見的には、俺の年齢とそう変わらない分、努力が必要と覚悟していただけに、

        この結果は意外だった。 もっとも、それでも、俺の青少年の心が、色々刺激されてい

        る事には違いないので、油断は出来ない。 …………それにしても本当に、安心して寝

        ているよな・・・・・・もしかして俺って、この世界の女性からしたら、男として見られない

        のか? それとも何かあっても対応できる自信があるとか?

        そう言えば、俺の知っている将の中でも一番非力な翡翠でさえ、青竹を素手で握り潰せ

        たっけな…………うん、やめておこう、そういう事する気は無いとは言え、その事を想

        像するだけで、身が凍えてくる。・・・・・・・・幾ら血迷ったとしても、それは嫌過ぎるぞ。

        

  (今後順序公開)

★オリキャラ紹介:

諸葛瑾:

  姓 :諸葛    名 :瑾    字 :子瑜    真名:翡翠

  武器:"双天" 対の双剣

  武力:52(平均的な将を60とした場合)

  智力:81

  政治:89

  家事:92

  魅力:想像にお任せします(w

  焦った時の口癖:『 あうあう 』又は 『 ぁぅぁぅ 』等の類語です

  性格:基本的に温厚で、外見に反して大人の女性

     だが、焦ると地が出てしまう。(朱里と違って、自分を律しています)

     警戒心が強い性格だが、一度心を許されると、親身になってくれる。

     妹がいるため、基本的には面倒見が良く、放っておくと、食事を取るのを忘れる明命を心配して

     よく食事を差し入れていた。

     やはり、妹がいるためなのか、時折人をからかって、その反応を楽しんだり、とんでもない悪戯

     を仕掛ける悪癖もある、だが性質の悪い事に普段が完璧なだけに、周りは怒るに怒れないでいる。

     家事全般は人並み以上に出来、そこらのお店以上と自負していたが、丹陽で知り合った男性の腕

     を見て自信を喪失。 以降こっそり腕を磨いているが、全然敵わないと嘆く毎日を送っている。

     武術は好きではないが、妹達を変態共から守るため、必要最低限身に付けたもの。

     姉妹揃っての発育の悪さをコンプレックスに思いつつも、それを武器にする強かさを持っている。

     自分を子供扱いしない男性が好みだが、言い寄ってくるのは変な趣味の持ち主ばかりで、17の時、

     現実の男(変態の多さ)に愛想が付いた時に『八百一』と出会う。 以降のめり込み、妹達を洗

     脳するも、基本的には周りには秘密にしている。そのうち執筆も行うようになり、掲載されるよ

     うになる。

     数年たった現在では、定期的な愛読者もつき『八百一』の主要作家の一人となっており、黄巾の

     乱後、作品が益々洗練され、世に愛読者を急増させる要因となった。

翡翠(諸葛瑾)視点:

 

 

こきゅっ

こきゅっ

 

長時間の執務で、すっかり、固くなってしまった肩を首を回す事で、僅かながらでも解していく。

何とか、忙しい中を切り詰めて、三日分の休みを、もぎ取るために頑張ったのですが、やはり堪えますね。

 

「まだ明かりが点いているから、もしやと覗いてみたのだが、まだやって居ったのか」

 

祭様は、呆れたような口調で、そんな事を言いながら部屋の入口に立たれていました。

もう陽が落ちてから、数刻は経っており、祭様が心配されるのも分かりますが、

 

「今終わった所です。 御心配を、お掛けしました」

「うむぅ、なら一杯付き合わぬか?」

 

祭様は手にした酒壺を上げながら、そう言ってきます。

仕事も終わった事ですし、疲れを取るのには良いかも知れません。

普段は、一刀君に酒にだらしない女、と思われたくないのもあって、控えていますが、

祭様みたいに、水のように飲みたいとは思いませんが、少しずつなら、毎日飲みたいのが本音です。

とりあえず、戸棚から湯呑みを二つ取り出し来客用の机に向かいます。

 

こぽぽっ

 

幾つかの蝋燭の火が照らす中を、湯呑みに酒が満たされていく、

・・・・・・・・・・そんな心地よい音が、部屋の中に、静かに響き渡ります。

酒に満たされた湯呑みを祭様が、『くいっ』と飲まれるのを確認してから、私も静かに口に運びます。

 

(・・・・・・・美味しい)

 

私は、心の中でそう素直に呟きながら、静かに感嘆の息を吐きます。

此処連日、各地の氏族や豪族達と、酒を酌み交わしてきましたが・・・・・・、

あれは仕事の上に、隙を見せるわけには行かなかったため、幾ら銘酒であっても、美味しいとも、なんとも思えませんでした。

祭様は、そんな呑み方をしては酒が勿体無いと言われますが、此ればかりは性分ですので仕方ありません。

それに、今、酒を美味しくさせているのは、

 

「しかしお主も真面目よのぉ、休みたければ、勝手に休めばよいのに、ああして仕事を先に回させるなど、

 ましてや、策殿達が帰ってくるのを、迎える準備をするためと言えば、少しぐらい仕事が滞った所で、

 おぬし相手に誰も文句は言うまいてぇ」

 

そう、昨日早馬で、雪蓮様達が、もうすぐ凱旋なされる報せを受けました。

 

(一刀君が戻ってくる)

 

そんな思いが、今酒をいっそう美味しくさせてくれるのでしょう。

でも、喜んでばかりではいられません。

 

「そう言う訳には行きません。 懸案によっては、一日の遅れが、数ヶ月の遅れに繋がる物もありますから、

 それに、一刀君の様子しだいでは、どうなるか分かりませんから」

 

 

 

 

「・・・・・・んぐっ、はぁ~~」

 

とんっ

 

祭様は湯呑みを一気に空けられ、卓上の上に置き、

 

「お主も心配性じゃのぉ、明命も心配していたが、儂はあやつは大丈夫だと思うがのぉ、

 ほれ、その証拠に我等の勇猛さ振りを喧伝する等してくれたおかげで、日和見連中だった一族もあっさり、

 我等に協力する旨を約束してくれたではないか」

 

祭様の言いたい事は分かります。

冥琳様から送られて来た報せでは、一刀君の働きのおかげで、被害を抑えた上で、一日で難攻不落で有名な汜水関を落とす等、信じられない事をしたばかりか、その時の孫呉の奮戦振りを、各地で喧伝する等、今までにない発想で、私と祭様の支援もしてくれました。

そのおかげで、予想以上に、氏族や豪族達の協力を得られる事が出来たのは事実です。

 

もっとも、その背景には、天子様の住まわれる洛陽に攻め込む、等と言う事態が、今後の来るであろう群雄割拠の世の中に飲み込まれないための、苦肉の選択でしかない事は、私もそして向こうも理解しています。

そして其れは、孫呉が弱みを見せれば、あっさり掌を返す連中も居ると言う事・・・・・・・・、

 

「おそらく、祭様の言うとおりなのでしょうね。

 でも、それは結果論です。 一刀君の苦しんでいる姿を見ている私としては、楽観はしたくありません」

 

私の言葉に祭様は、ばつが悪そうな顔をされます。

別に祭様を責めている訳ではありませんから、祭様が何かを言われる前に、

 

「でも、一刀君がああやって、膝の上で甘えてくれるのは、私だけの特権かも知れませんね」

「・・・・・・・・・・・・おぬしも変ったのぉ、少し前までは、男なんて興味ないと言っていたと言うのに」

「べつに、元々興味が無かった訳ではありません。 ただ、見限っていたのと、嫌っていただけです」

「それが、今や一人の男にぞっこんとはのぉ、・・・・・・だが、こうして居残っておっても良かったのか?

 今頃、もしかして、明命と良い仲になっている、かも知れんのだぞぉ」

 

面白そうに、そして、少しだけ申し訳なさそうな顔をされて、祭様は湯呑みを空けて行きます。

私も其れに付き合うように、湯飲みを空けながら、

 

「祭様が明命ちゃんに、色々嗾けている事は知っております。

 ですが、此方を祭様一人にさせておく訳には行きません」

 

私の言葉に、『そう言う訳では無いのだがのぉ』なんて顔をされて湯呑みを更に空けますが、結果的にそうですから仕方ありません。

別に私としては、明命ちゃんにとって、良い方向に向かっているので、不満は無いです。

それに・・・・・・・・、

 

「明命ちゃんが、望みを果たしたなら、果たしたで構いません。

 一刀君と明命ちゃんが幸せになるなら、それは私の望みでもありますから」

「・・・・・・・・らしくなく、随分諦めが良い事を言うのだのぉ」

 

私の言葉に、詰まらなさそうな顔をされて、空になった湯呑みに、新たに酒を注ぎます。

祭様にとっては、私も明命ちゃんも、可愛い妹分ですから、私の諦めに似た言葉が面白くないのでしょう。

 

 

 

 

でも、そうだとしたら、祭様は勘違いされています。

私は・・・・・・・・、

 

「その上で、一刀君と結ばれるだけですから」

「ぶっっ!!」

 

祭様は私の言葉に、口に含んだお酒を盛大に噴出され、

 

「・・・・・・けほっ・・・・けほっ・・・・・・けほっ・・・・・・・・」

 

逆流したお酒が鼻か気管支でも入られたのか、目に涙を浮かべながら、激しく咽まれます。

私は、とりあえず、机の上を布巾で拭きながら、新しい酒を祭様の湯呑みに注ぎ、

 

「どうぞ」

 

そう言って、祭様に渡します。

そんな私に祭様は、一度大きく息を吐かれて

 

「・・・・・・・・翡翠の冗談が性質が悪いのは、いつもの事だが、今回は輪をかけて性質が悪いのぉ」

「別に冗談のつもりはありませんよ」

 

私の即答に祭様は、私の目をじっと覗き込まれ、やがて子供のように無邪気に

 

「わははははははっ、驚いたわ。 あの堅物の翡翠が、そんな事を言うとは思わなんだわ」

 

と愉快そうに笑われます。

 

「それでこそ、孫呉の女・・・・・・・と言いたいが、其処まで惚れ込んでおって、何故未だ望みを叶えておらぬ?

 幾ら朴念仁と言うても、お主から強引に押し倒してやれば、分からぬ訳があるまい」

 

怪訝な顔をされながら、そう言って、湯呑みを呷ります。

祭様の疑問は、分からないまでもありません。

明命ちゃんならともかく、年上の私にそれが出来ない訳ないと思われるのは当然かもしれません。

実際私も、一刀君を何度押し倒してしまおうと思ったか分かりません。

ですが・・・・・・、

 

「其れをすれば、一刀君は、まず雪蓮様を疑うでしょうね」

「・・・・・・あの時の一件か・・・・・・だが、本気だと思わせてやれば、良いのではないのか?」

 

私が何の事を言ったのか理解された祭様が、その事で眉を顰められますが、

其の上で、祭様らしい助言をされてきます。

でも、そう上手く行かない訳があるんです。

私は湯呑みを一気に空け、更にもう一杯飲み乾し、

 

「今のままでは、一刀君は、私や明命ちゃんを大切に思ってくれる余り、

 私や明命ちゃんが、国のために、そういう決意をしたと思うだけです」

 

そう、其の事に気がついてしまった以上、祭様の言うような手は使えません。

たとえ、其れをして結ばれた所で、一刀君は生涯その事を、心の重みにしてしまいます。

雪蓮様達を、心の何処かで信頼できなくなってしまいます。

それは、私にとっても、望むものではありません。

何より、大切な初めてだと言うのに、一刀君にそう言う目で見られたくありません。

勢いに任したとしても、きちんと愛されたいです。

なら残された手は一つ、

一刀君の方から、そういう気持ちにさせるしかないんです。

 

そう改めて思いながら、私は空になった自分の湯呑みに酒を注ぎ、

色々遣る瀬ない想いと共に、酒を一気に呷ります。

そんな私を、祭様はじっと見詰めながら湯呑みを空け、

 

「・・・・・・・・朴念仁相手に・・・・・・、それは難儀な事だのぉ」

 

そう哀れみの目を向けて、言葉を漏らされます。

 

 

 

 

「そう言えば、呂家の娘を、本当に使うつもりなのか?」

 

祭様は、これ以上一刀君の話をするのは、気まずいと思われたのか、話しを変えられます。

私としても、このまま話していたら、愚痴になってしまいそうなので、ちょうど良かったです。

 

「不安ですか?」

「おぬしの目を疑うわけでは無いが、武将としてならともかく、軍師として権殿に付けると言うのは、いささ

 か不安が残る。 それに、この頃は聞かぬが、乱暴者だと言う噂は何度か聞き及んでいるからのぉ」

「たしかに、そう言う噂は私も聞いておりますが、

 祭様も、実際其の目でご覧になられ、言葉も交わされたではありませんか」

「まぁ確かに、そうは見えなんだのぉ。 だが、本人は学問をきちんと学んだ事は無い、と言うておったでは

 ないか」

 

祭様の不安も分かります。

実際調べた所、彼女は乱暴者と言われるだけの、ものはあったようです。

何しろ武力で物事を解決している事が多かったため、実の母親に『武力だけでは何も解決できぬわ』と一喝を喰らって、旅に出させられたそうですから、

そして旅に出て、半年程で帰ってきた時には、かつて暴力者と言われた彼女の姿は無く、子供の頃に戻ったかのように人見知りをし、全てを力で解決していた自分を恥じるように、学問に打ち込むようになったと言います。

 

でも学問に打ち込んだと言っても、所詮は一年も満たない月日です。 学べる量も知れています。

ですが、話してみて気がつきましたが、彼女はとにかく、物事をきちんと吟味してから、発言をします。

其の上、学んだ事をきちんと応用が聞くように、身に着けている事が伺えました。

学問を頭に詰め込むだけではなく、其れを幾つかの状況を想定し、展開を繰り返しながら、覚えて行ったのでしょう。

 

才能で言えば、冥琳様や私、そして穏ちゃんには及びませんが、一年にも満たない独学で、あれだけを身に着けたなら、これからの努力しだいで、彼女はこれから大きく伸びます。

むしろ才能が無いからこそ、いいえ、努力の才能だけが辿り着ける場所と言うものがあります。

そして、其れは蓮華様の気性と、合われる思いました。

 

「学問を学んできたものだけが、軍師に向くと言うわけではありません。

 無論、学問や知識は必要ですが、本当に必要なのは、

 現実を広く見る目と、どんな時でも考え、学び続ける事を止めない強い意志です。

 そしてそれを、確かに彼女から感じる事が出来ました」

 

私の言葉を、祭様は湯呑みを傾けながら聞かれ、やがて小さく息をを吐きながら、

 

「まぁ、確かに学があるのだと、踏ん反り返っている奴等より、成人してからも、学ぶ事を必死になっている

 奴の方が、好感は持てるわのぉ。

 それに、北郷を見出してきたお主の言だ。 しばし見守らせて貰うとするかのぉ」

「一刀君と比べるのは、些か気の毒かと、 彼女は、もう少し長い目で見てあげてください」

 

 

 

「しかし、何か大事を過ぎれば人は変わると言うが、噂の人物と、儂が見たあやつ、一体何がああまで人を変

 えたのかのぉ」

 

酒壺も半分は無くなったため、もう音を立てる事も無く、茶碗に酒を静かに満たしていく中、

祭様は、ふと思われたのか、そのような事を言ってきます。

まぁ、本気で聞いている訳ではないでしょうが、

私も其れは気になったので、彼女に直接聞いてみたのですが・・・・・・・・、

 

「元々は、ああいう人見知りのある性格なんだそうですよ。 そして、そんな自分を嫌っていたようですが、

 武術を学ぶようになってからは、その力で恥ずかしさを誤魔化していたと言っていました」

「まぁ、自分の足りぬ何かを、武術の中で見つけると言うのは、よくある事じゃが、これまた極端じゃのぉ」

「で、見兼ねた母親に、家を追い出された後、ある街でその性格が災いして、大事になったそうです」

 

其処まで話すと、祭様は興味しげに、此方の話に喰いついて来られます・・・・・・まぁ祭様が、こういう話が好きなのは分かりますけどね。

私は呆れ半分で、酒を口にしてから、

 

「まぁ、よくある話です。 彼女は外見がああですから、街の下劣な輩に目を付けられたのですが、その時に

 遣り過ぎたらしくて、恨みを買ってしまったらしいです。 で、更に運の悪い事に、そいつが徒党を組んで

 いる首領格で、話が大きくなってきたので、早々にその街から出たらしいのですが」

「まぁ、徒党を組んでいる相手に一人では、余程の者でない限り対抗は出来まい。

 だが、そういう連中の事、それで終りにはなるまい。 大方、しつこく付け狙われたのであろう」

「ええその通りです。

 で結局、ある街で、とうとう逃げ場の無い所で包囲されてしまったようで、捕まるくらいならと覚悟をした

 そうですが、其処を、ある男性に助けられたようです」

 

そこまで一気に話し、そのまま私と祭様は静かに、酒を酌み交わして行きますが、

・・・・・・・・・・・やがて祭様が痺れを切らされ、

 

「ええい、いい加減、続きを話さぬかっ、続きをっ!」

 

と、声を大きくされますが、続きと言われましても、

 

「それでお終いです。

 その男性と何があったかは知りませんが、彼女は考えを改め、家に戻り学問に励んだそうです」

「なんじゃそれは、肝心な処が抜け落ちているではないか」

「そう私に憤慨されても、困ります。

 彼女にとって大切な思い出なのか、聞いても話してくれませんでしたから」

「人を期待させておいて、なんなんじゃそれは・・・・・・・・、つまらん」

「私にとっては、そうでもありませんよ。 少なくてもそのおかげで、彼女を得られたわけですし、

 その話をした時の彼女の様子からして、心配事は一つ無くなりましたから」

 

祭様は私の話に、面白いものを見つけたように、悪戯じみた笑みを浮かべて

 

「確かに、おぬしや明命にとっては、それは重大な心配事だのぉ、

 その辺りを確認しておく辺りは、さすが諸葛子瑜、氏族や豪族達に共に舌を巻かせるだけはあるのぉ」

「・・・・ぁぅ、ぁぅ・・・・・・、べ・別にそう言うつもりでは・・・・・・」

 

祭様の言葉に、顔が酔い意外で赤くなるのが分かります。

そして、それを誤魔化す様に、湯呑みに残った酒を一気に飲み干します。

まったく、こうやって祭様にからかわれるのも、

元はと言えば、一刀君が無自覚に、誰にでも優しくし過ぎるのが悪いんです。

 

 

 

 

「ふぅ~」

 

あの後しばらく祭様と雑談交じりに、酒を酌み交わした後、

冷たい夜風の中を帰ってきましたが、

なんのしがらみも無く、心置きなく飲めたお酒は、私の体の心から、暖めてくれてました。

酔いで頭がボーとする中、祭様と一刀君の話をしたせいでしょうか、

私は酔いと心の赴くまま、主の居ない一刀君の部屋に足を運んでしまいます。

 

 

ぼすっ

 

 

そんな音を立てて、体が寝台に軽く沈み込みます。

下から包むような布団の感触が、酔いも手伝って、とても心地良いです。

布団から、微かに香る一刀君の匂い・・・・・・・・、その匂いは、一刀君を身近に感じさせてくれます。

 

此度の、来る日に向けての有力一族達へ協力の申し入れは、間接的に一刀君に色々助けられました。

一刀君の書いた医学書も、それなりに効果が出始めています。

それに一刀君の案による、雪蓮様達の活躍の喧伝のおかげで、予想以上の協力を約束させる事ができました。

手紙では詳しい事は書かれていませんでしたが、どうやら一刀君が、頑張ってくれたおかげのようです。

 

でも、・・・・・・・・・・・・それは、より多くの人間を死に至らしめたと言う事です。

 

一刀君はきっと、深く傷ついているはずです。

祭様は勘違いされています。

確かに結果的には、一刀君は立ち直ると思いますし、

私と明命ちゃんが、そうして見せます。

でも、一刀君は幾ら能力があると言っても、普通の男の子なんです。

(・・・・・・まぁ普通と言い切ってしまうには、抵抗はありますが、それでも、その心は普通と言えます)

ただ、人並み外れて優しいだけです。

 

一刀君は、色々理由を付けていますが、進んで私達の世界に踏み込んだ理由は、

・・・・・・・・私と明命ちゃんを守りたいだけ、

一刀君にとって、私と明命ちゃんは、守りたい家族、

・・・・・・そのために必要ならと、頑張っているに過ぎません。

 

『 一刀君、私があの人達に、慰み者にされるのを、想像してみてください 』

 

・・・・・・・・あの時、私があんな事を言ってしまったばかりに、

 

『 そんな事させないっ! 』

 

あの時の一刀君の言葉が、一刀君の痛いほど必死な顔が、私の頭の中に浮かびます。

きっと、今も一刀君の頭の中には、私や明命ちゃんが、下衆な男達に囲まれている姿が、こびり付いているのだと思います。

一刀君が其処まで、私達を大切に想っていてくれる気持ちは、涙が出るほど嬉しいです。

でも、それだけに不安にもなります。

・・・・・・・・今の一刀君の私達への想いは依存に近いものと言えます。

 

『 北郷さんが、翡翠様や明命ちゃんを守りたいと思うなら、

  辛くても、悲しくても、人のままでいてください。

  笑顔を捨てないでください。

  そうでなければ、翡翠様や明命ちゃんを守る事には、なりませんよ~ 』

 

穏ちゃんに、その気が無かったとは言え、一刀君は本当に人の心のまま戦を、受け入れてしまいました。

私と明命ちゃんを守りたいがために・・・・・・・・、

一刀君は、きっと私達のためなら、どんな無茶も頑張ってしまうのでしょう。

その事が、私を堪らなく不安にさせます。

 

 

 

 

でも、一刀君のそんな不安定な状態も、

私と明命ちゃん、どちらかでも一刀君と結ばれれば、少しはマシになるとは思います。

それが心の拠り所になり、周りを見る余裕が出来ると思います。

 

・・・・・・・・・・、今の一刀君では、それも難しいです。

 

祭様にはああ言いましたが、今のままでは一刀君は私達をそういう目で見てくれません。

本人は気がついていませんが、私の自惚れでは無く、私と明命ちゃんを、確かにそういう目で見ています。

ただ、その事に気がつかないようにしています。

無意識に、その事を考える事を拒絶しているようです。

 

『 恩人だから 』

 

『 守るべき家族だから 』

 

『 どんな事があっても、傷つけたくないから 』

 

きっと、一刀君はそう思い込んでいるのだと思います。

最初は、おそらくこの世界に放り出された不安を紛らわすため、

でも、それがいつの間にか、一刀君の行動理念になってしまったのだと思います。

そして、一刀君の鈍感さ・・・・・・、此れが相俟って、今に至っているのだと推測できます。

 

だからと言って、私も明命ちゃんも、そんな事で諦めるつもりはありません。

一刀君が鈍感でも、気付かない振りをしていようが、必ず振り向かせて見せます。

 

「・・・・・一刀君」

 

そんな想いもあってか、一刀君の布団に染付いた残り香は、私は一刀君の温もりを思い出させます。

こうして、一刀君の布団に包まって、一刀君の香りに包まれていると、一刀君に抱きしめられているような錯覚を引き起こさせます。

体に残ったお酒が、鈍くなった頭の働きが、

そんな錯覚と相俟って、だんだんと、私を夢心地にさせて行きます。

一刀君への想いが、自然と私の手を動かします。

 

 

 

 

肌寒くなってきた今日この頃ですが、今日は幸い良い天候に恵まれ、心地良い日差しが朝から降り注ぎます。

庭に干された、布団に降り注いでくれます。

 

「・・・・・あうっ、あうっ、・・・・あうっ・・・・・・・」

 

三組の布団の前で、私は顔を赤くして、ひたすら呻き続けていましたが、

時間が経つにつれ、冷静さを取り戻し、とりあえず、目の前の夕べの跡から、目を逸らす事にします。

この天気なら、汗などで時化ってしまった布団も、

お昼には、お日様の匂いで、いっぱいになってくれると思います。

・・・・・・念のため、明日も天気がよければ干す事にしましょう。

 

明日の昼過ぎには、雪蓮様達が凱旋される予定です。

そう言った事情もあって、疲れた一刀君達が、心と体をゆっくり休ませる事ができるように、今日は屋敷内を徹底的に掃除するつもりでした。

館の侍女達にも、そのように指示をしてあります。

明日は、朝から館の厨房で、簡単ながらも、雪蓮様達の凱旋を祝うための料理を拵える予定です。

いつまでも、夕べの事で落ち込んでは、いられません。

 

「さぁ、はじめましょうか」

 

 

 

 

「翡翠、留守を任せてしまって悪かったね」

 

雪蓮様達を迎える中、一刀君がそう微笑みながら、『ただいま』を言ってくれます。

 

(・・・・・・・・ひど・・・・い)

 

一月半ぶりに見た一刀君の様子は、前回より酷いものでした。

別に、怪我をしている訳ではありません。

笑顔も、悲しみに彩られながらも、以前の時とそう変わらないものです。

でも、その目に映った悲しみが、

瞳の奥に映っている苦しみが、

一刀君の心の中の叫び声が、

私の心の中まで、聞こえてくるようです。

 

 

ずきんっ

 

 

胸に痛みが奔ります。

私が、一刀君をここまで追い込んでしまっているのだと、

 

 

とくんっ

 

 

私の心の中に、一刀君の想いが広がります。

こんなになってでも、一刀君は、私達を守りたいと思ってくれているのだと、

私は、どうしようもない咎人です。

好きな人を、こんな風にさせてしまっていると言うのに、

一刀君が、傷つき、苦しむ姿を見るのが、

辛くて、悲しくて、どうしようもないのに、

それでも、心の片隅で、嬉しいと感じてしまうのですから、

 

でも、此処で、私が悲しみを、苦しむのを、絶対に見せる訳にはいきません。

見せてしまえば、一刀君は唯一弱音を吐ける場所すら、失ってしまうのですから・・・・・・・・、

だから一刀君に、優しく微笑みます。

たぶん、一刀君と同じ悲しい感じの、笑みになっているかもしれません。

でも、

一刀君に、帰ってきたのだと、

もう力を抜いてもいいのだと、

少しずつでも思わせるために、

私は笑みを浮かべます。

そして、

 

 

 

「帰りましょう。 私と明命ちゃん、そして一刀君の家へ」

 

 

 

一刀君の手を握り、

 

この我慢強い、傷だらけの男の子を、

 

痛みを、苦しみを、素直に泣き叫ぶ事も、一人で出来ない男の子を、

 

女の娘の気持ちには鈍感なくせに、心の傷や泣き声には、凄く敏感な男の子を

 

誰かが、泣いている事が嫌で堪らない男の子を

 

この、どうしようもなく、優しい男の子を、

 

少しでも早く、休ませてあげなければ

 

心を解放してあげなければいけません。

 

ほんの、いっときだとしても、

 

その間は、確かに、心が休まるのですから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

こんにちは、うたまるです。

 第44話 ~ 玻璃の心を、優しく包み込む魂に舞う ~ を此処にお送りしました。

 

今回は、祭と酒を酌み交わしながら、翡翠の心の中を、少~しだけ、覗かせて頂くお話をお送りしました。

翡翠は、朱里より少しだけ年上の外見ですが、間違いなく一刀より、ずっと年上の女性です。

女性の実年齢を語るのは趣味ではないので、他の恋姫ヒロイン達と比べてどれくらいかは、何処かで語りたいとは思っています。(当初の段階に、一刀より二歳以上年上と語っています)

明命の一刀への想い方、翡翠の一刀への想い方、それぞれ異なるように書いているつもりですが、キャラのイメージからかけ離れていないかが少し心配な所です。

 

さて、読者の皆様の中には、一刀への調教だの、やきもちを期待されていた方も居るかも知れませんが、其れはいつか機会が在れば語りたいと思います。

今回で、基本的に反董卓連合編は終わりとなります。

(と言っても、話の展開の関係上回想シーンぐらい入れる事があるかもしれませんが(汗  )

 

次回からは、寿春城編となります。

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。

 

 

 

PS:乙女(?)の秘密に突っ込むのは、いけないと思います(笑


 
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