No.140837

恋姫無双 3人の誓い 第十九話「看病する少女達」

お米さん

第十九話となります。金曜から名古屋に行っておりまして、更新ができませんでした。今度からはしっかり報告したいと思います。
お城が大きかったな~・・・。

2010-05-04 21:06:43 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:1978   閲覧ユーザー数:1808

ヤバイって予感は朝からしていた。

より正確に言えば昨日の夜から、嫌な寒気のようなものは感じていて。

一晩寝れば治る、なんてタカをくくっていたら・・・大間違い。

激しい頭痛と悪寒は、朝から今に至るまで、一向に消える気配はない。

「ずず・・・っ」

おおぅ、鼻水まで。本格的に風邪の兆候だ。

 

 

 

 

全身には冷たい汗が浮いて気持ち悪いし、頭蓋骨を内から叩かれるような痛みは強くなるばかり。

目の前には書簡の山・・・政務は文字通り山積みだ。

「せめて、急ぎのヤツだけでも処理しないと・・・」

書簡をびっしりと埋め尽くす漢字に、目を通そうとするも・・・くそ、頭に入ってこない。

ともすれば、机に突っ伏しそうになるのを気力だけで何とか堪えながら。

「ご主人様、失礼します。」

「し、失礼します・・・」

 

 

 

 

 

二個?三個目だっけ・・・必死の思いで処理した書簡を脇に置いた時だ、扉から声が聞こえた。

「少し、お耳に入れておきたいお話が。他の方から報告はありましたか?最近の五胡の動きについてです。」

「南部の方からじょじょに侵攻しているらしく、周辺の村々では食料を奪われ、飢餓の兆候が出ているらしいです・・・」

「あ、ああ・・・聞いてるよ。最近は動きが活発になってきてるって・・・」

「はい・・・あのぅ、ご主人様?」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・え?あ、な、何だ?」

朱里が近づいてくる。雛里も一緒ついてきて、どちらも心配そうな顔を浮かべている。・・・どうやら隠しようがないらしい。

「お顔の色が優れません・・・。もしかして、お身体の調子が悪いんですか・・・?」

「すぐにバレちゃったな。さすが朱里と雛里は察しがいいよ。」

「誰でも分かりますっ!今のご主人様、お顔が真っ青ですもん・・・愛紗さんにイタズラを見つかった時の鈴々ちゃんみたいですよ。」

 

「何その微妙な例え・・・ごほっ。」

「「ご主人様!?」」

二人は声を揃え、心配そうに俺の隣へ駆け寄る。

「大丈夫、大丈夫。そんなに心配そうな顔をするな・・・ちょっと熱っぱいだけだ。」

「とてもそうは見えませんよぉ・・・」

 

 

 

 

雛里の方が泣きそうな顔。少し苦笑して、

「政務に障る程の重症じゃないよ。その書簡、さっきの南部についての報告書だろ。もらっとく。」

椅子から立って・・・書簡を受け取ろうと歩き出した一歩目は、雲を踏むような頼りなさ。

あれっ?と思った時には、すでに遅く。バタッとその場から倒れ落ちてしまった。

「ご主人様っ!?し、しっかり・・・しっかりしてくださぁい・・・」

 

 

 

 

数秒、意識が飛んだ。両脇を支えてくれる朱里と雛里の温もりの、なんて心地良いことか。

「くそっ・・・っ、ごめん朱里、雛里。手間かけるな。」

「何を仰るんですか!手間なんかじゃありません!ん・・・しょ、立てますか?」

半ば怒ったような声は耳元へ。ぶっ倒れた俺を支えようとしてくれる朱里と雛里に、思いきり体重をかけるしかないこの状況。情けないと心の底から思う。

 

 

 

 

「本当に悪い・・・自分で思ってたより重症みたいだ、ちょっと無理かも。」

「でしたら、私達に体重をかけてください。ん~~・・・しょ、と、とにかくお布団で横にならないと・・・」

こんなに小さいのにな・・・なんて頼もしい肩だ、何度かよろめきながらも俺を支え続けてくれる。

「はぁ、は・・・っ、す、すぐですからねっ、頑張ってください。」

朱里達の方がよっぽど頑張って着実な一歩を重ね、ベットまで肩を貸してくれた。

なんて情けなさだよ、俺・・・。

 

「どう・・・ぞっ、ふぅ・・・」

俺を寝かしつけ、布団をかけようとしてくれた二人の手を・・・思わず取る。

「ごめんな、頼りなくて。こんな大切な時に・・・」

「ご主人様だって人間です。ご無理を強いるつもりなんて・・・私にも、他の誰にもありませんよ。」

「ははっ、そんなに怒るなよ。」

 

 

 

 

「怒りますっ!そのような気遣いは悲しいだけです・・・ご主人様が辛い時、お支えできなくて何が家臣ですか。」

厳しい口調に込められた優しさには、ただただ頭が下がるばかりだ。

「今、人を呼んできます。少しだけ待っていてください。」

「あ、待って。」

呼び止めたのは、こんな大切な時期にみんなを心配させるわけにはいかないと、腹に決めたから。

 

 

 

 

「みんなに心配は掛けたくないんだ・・・頼む、人は呼ばないでくれ。」

「ご主人様っ!」

「頼む。どうせ、ただの風邪だよ・・・一日で吹っ飛ばすからさ。俺が倒れたって聞いたら、愛紗や鈴々が変に騒ぐだろうし。」

「それは・・・そうかもしれませんが・・・」

でも、という目に笑顔を返す。こうして向けてくれる心配は、何にも代え難い良薬だ。

 

 

 

 

「そういう動揺が軍に広がったりしたら、やっぱりマズイだろ?いつ非常事態が起こるか分からないんだからさ。」

「それは・・・はい、仰りたいことは分かります。」

「なら、それでお願い。あと緊急のことでもない限り、部屋に人を入れないようにしてくれるか?」

「・・・事が露見したら怒られますよ?」

「怒られないように協力して。みんなに心配を掛けるのと比べたら、安いもんだよ。朱里と雛里を巻き込んじゃうのは頂けないけどな。」

 

「そんなの、気にしなくて良いんですよ。」

「そうです。だから、頑張ってください・・・」

ベットの脇まで戻ってきての、優しい微笑み。朱里と雛里がギュッと俺の手を握り締めてくれる。

涙がこぼれそうな目の下に、指を伸ばすくらいはこの身体でも出来た。

「あ・・・・・」

 

 

 

 

「謝ることない、そう言ってもらえるだけで、心が楽になるよっ、げほげほ・・・!」

心配を掛けすぎないようにしたかったのに・・・語尾で咳き込んじゃ、台無しだ。

「大丈夫ですかっ!?」

「けほ・・・見ての通り、大丈夫ではないかな。ごめん・・・休むよ。」

「はい。どうか・・・ごゆっくり、お休みください。何かあったら呼んでくださいね、駆けつけます。」

 

 

 

 

声でも張り上げろと?雛里の少しの動転が可笑しくて、温かくて・・・。

「ああ・・・」

優しい気持ちに胸を満たして・・・病気に蝕まれてるとは思えない、いい気分で目を閉じられた。<

 

 

 

 

「大丈夫かなぁ・・・はうあっ!?おでこにこんなに汗が・・・あわわ、凄い熱だよぉ、朱里ちゃん。」

「慣れないことの連続で、辛かったんだと思うよ。・・・ごめんなさい。私達、ご主人様がこんなになるまで気づきませんでした。本当に家臣失格ですね・・・」

そんな風に二人は肩を落とすが、すぐに気持ちを入れ替えて、

「失格のままじゃいたくありませんから・・・頑張ってみます、私。行こう、雛里ちゃん!」

「うん!・・・すぐ、戻りますね。待っててください。」

 

「準備よし、と。でも・・・ここからが大変だよ。雛里ちゃん。」

「うん。・・・そぉーっと、そぉーっと・・・」

と二人は、廊下の柱の影を走りながら外へと向かうが、

「朱里に雛里か?」

「はわわーっ!?」

「あわわーっ!?」

開始数秒で、後ろから歩いてきた愛紗に見つかった。

 

 

 

 

「むぅ、出会い頭に奇声など発して・・・。ん?背嚢など背負って、一体どうした?」

「え、ええとですね・・・ちょっと取るに足りない些細な用事がありまして・・・」

「その、森の方へ・・・」

「森に?一体何をしに?」

愛紗がズンッと前の方へと歩み寄ってくる。

 

 

 

 

「えっと、その、あの・・・そう!そこには不思議な泉がありまして・・・」

「そ、そうです!その泉に物を投げると、美しい女性が現れまして、落とした物の代わりに見たことのない綺麗な物をくれるそうなんです!」

「ほぉ・・・そんな泉が森に。ぜひ私も行きたいものだな。」

愛紗は二人の言動に怪しさを感じたのか、ついていくと言い出した。

 

 

 

 

「で、でも、その泉には愛し合った二人にしか行けないところでして!」

あわわ!?!?!?

朱里のいきなりの言葉に、雛里は顔を真っ赤に染めて口をパクパクしている。けど、そんなこと言うと、

「愛し合った?二人は女性ではないか。ま、まさか・・・!」

ほら、愛紗が変な想像した。

「ふ、二人とも。男の人にも良いところはあ、あると思うぞ!だから、女の子同士というのは・・・」

 

 

 

「えっと・・・その、愛紗さん?」

一体頭の中でどんなことを考えてるのだろうと、雛里は戸惑った。

「いや、わ、私がとやかく言うことではないな・・・。二人とも、頑張るのだぞ!」

そんなことを言うと、愛紗はそそくさとその場を去っていた。

 

 

 

 

「・・・・・朱里ちゃん。」

「ご、ごめんね、雛里ちゃん・・・。ああ言うしかなくて・・・」

「あぅ・・・後で誤解を解かないと・・・」

そんな風に、変な誤解を受けたまま、二人は森へと向かっていった。

 

「・・・ここにもないやぁ。朱里ちゃ~ん!あった~?」

「全然ないよー。仙気葛根と洛麦草さえあれば、良い薬が作れるんだけど・・・」

そんなやり取りが早一時間は続いていた。

「時季外れだもんね・・・どこかに、一本くらい生えてないかなぁ。んしょ。」

「いたっ!?あぅぅ、木の枝に引っ掛けちゃった。いたぁい、ふーふー。」

 

 

 

「大丈夫っ!?朱里ちゃん?」

「大丈夫だよ、雛里ちゃん。ご主人様に比べたら・・・全然だよ。もうちょっと奥に行ってみよう?」

「うん!」

二人はさらに森の奥に進んでいった。

 

 

 

 

「うー・・・ここにもない・・・。あ、あれ?こんな奥にまで来ちゃった・・・」

「森の奥の方って、こんなに真っ暗なんだ。あぅぅ、どうしよう~、朱里ちゃん・・・」

雛里は身体をプルプルと震わせて、朱里の袖に摑まっている。

「少し戻ろうかな・・・でも、もしかしたらもっと奥の方に行けば見つかるかもしれないし・・・」

「「どうしよう~~・・・」」

二人はその場で頭を抱えて悩んでいた。その時、草陰の方からガサガサと音が鳴る。

 

 

 

 

「おい、見ろよ。俺が言った通りだろ。美味そうな野うさぎが見つかったぜ。しかも二匹だ。」

「はうあっ・・・!?」

草陰から三人の男達が、下品な笑い方をしながら現れた。

「ほ、ほんとだ・・・ぐへへっ、白くてちっこくて美味そうだぁ」

「あわわわわわわ・・・っ!?な、なんですかあなた達・・・!」

「なんですか、だとよ。ケケッ、震えちまって・・・可愛いねぇ。」

 

「綺麗な格好してやがる。大方、家でも出てきた商家の姉妹とでもいったところか。」

「ぐ、ぐへへ、お、おら達で食っちまっていいんだろ?兄貴ィ。」

「久しぶりの上物だ。身包みは綺麗残せよ。」

三人の男達は、剣を抜き、朱里達に刃を向ける。

「あ・・・あ・・・来ないで。来ないでください・・・!」

 

 

 

 

「大声出しても、意味ないぜ。こんな森にいる人なんて俺達ぐらいさ。」

「大人しくした方がいいぜっ!可愛がってやるよ。」

男達は一歩、また一歩と近づいてくる。身体中がガクガクと震えだす。

「あ・・・あ・・・あぁっ・・・」

「兄貴が楽しんだ後は俺だぞ。テメェは女が壊れてもお構いなしなんだからよ。」

「うう、ひどい・・・後じゃ楽しくねぇだよぉ。」

 

 

 

 

「ぐちゃぐちゃ言ってんじゃねよ、さっさととっつかまえろ!」

「わがっだ。ほらっ、大人しくしろ・・・」

「嫌・・・ぁ、来ないで・・・」

「来ないでぇっ!」

声を張り上げたその時だった。

 

 

 

 

「待てぃ!」

「な・・・っ、だ、誰だ!」

現れたのは、長い剣を携える長身の男だった。

「あなたは・・・!」

「俺は通りすがりのおっさんという名の・・・」

ゴクリッ・・・。

 

「おっさんだ!」

「ただのおっさんじゃねぇか!」

「犬畜生よりも劣る下劣なお前らに名乗る名前はねぇよ!はっ!」

携えていた剣を抜き、鋭い一閃を放つ。

「早いっ!?ぐぁおっ!?」

 

 

 

その一閃は、男のわき腹を強く叩きつけた。男はその場でぐったりと倒れていった。

「あ、兄貴ぃっ、く・・・このぉ~!」

「遅い!」

「うっ!・・・・・」

また、一人静かに倒れていく。その鮮やかさに、朱里達は口を開けて呆然としていた。

 

 

 

 

「ふっ・・・お前らの腐った血で、俺の剣は汚したくねえから、みね打ちで済ませたものの・・・あくまで殺るってんなら話は違うぞ。」

長身の男は鋭い目つきで、三人を睨みつける。そこから来る雰囲気は、思わず逃げ出したくなるほどの、強烈な殺気だった。

「ひぃぃ・・・!お、覚えてやがれ!」

「誰がお前らみたいな汚い顔を覚えるかよ、夢見が悪くなるだけだ!」

 

 

 

 

「お、覚えてろよ~!」

そんな悪役ゼリフを吐いた後、三人は消えるように走り去っていった。

「だから覚えてらんないと言って・・・聞いてるのか?おーい・・・くそっ、逃げ足だけは速い奴らだ。」

長身の男は剣をしまった後、朱里達にゆっくりと近づいてくる。

 

「ほらっ、手貸せ。」

「はい・・・ありがとうございます、助かりました。」

男は優しく手を差し伸べて、二人の手を取る。

「礼なんていらないさ。ただ通りかかっただけのことだ。それより、こんな森の奥に何の用だ?」

「ええっと・・・実は、私達のご主人様が風邪で倒れてしまって、それを治すために薬草を・・・」

「なるほどね。どんな薬草が欲しいんだ?」

 

 

 

 

「確か・・・仙気葛根と洛麦草、です。」

「・・・ああ!それなら、近くに俺の小屋にあるよ。別に病気なんてかからないから、持ってっていいぞ。」

「えっ!本当ですか!」

そう言うと、男はさっきとは別人のように、ニッコリと笑いかける。

「じゃ、ついてきな。」

 

 

 

 

「あ、えと、お名前は?」

「おお、忘れてた。性は龍、名は玄、字は朱然だ。まあ、気軽に龍玄って呼んでくれ。」

龍玄は簡単に挨拶を済ませて、二人と握手を交わす。

「私は性は諸葛、名は亮、字は孔明と言います。よろしくお願いします。」

「・・・あの、性は鳳、名は統、字は士元と言います。よろしくお願いします。」

二人も簡単に挨拶を済ませて、小屋へと向かった。

 

 

 

 

 

小屋に着くと、割と簡単に薬草が手に入った。

「はぁ~・・・これでお薬が作れるよ、朱里ちゃん・・・!」

「そうだね!あの、本当にありがとうございますっ!」

朱里と雛里は、何度も何度も頭を下げ続ける。

「そんなに頭を下げなくてもいいぞ。困った時はお互い様なんだから。」

「けど、お礼をしないと気が済みません!あの、ですから、一度お城に来ていただけますか?」

 

 

 

 

「こんなおっさんが来ちゃっていいの?」

「後でみなさんに説明しますので、大丈夫ですよ。」

「なら、一度厄介になろうかね~。ちょうど酒がなくなった頃だし♪」

そんなこんなで、薬草を手に入れた二人は、龍玄と共に城へと帰っていった。

 

眠りについてからどれくらい経ったんだろう?

不意に、耳元で微かな音。

とぽぽぽ・・・って、耳に心地よい音だ。そして、鼻腔をくすぐる草のような匂い。

ひどく重い瞼を開けると・・・ぼやけた視界に映るのは、お盆を載せた茶碗に急須からお茶をそそぐ雛里の姿と、桶の水で布を絞っている朱里の姿。

 

 

 

 

 

・・・そして、俺の顔を覗き込む知らないおっさん。

「・・・あんた誰だ。」

まあ、こんな身体のせいで突っ込みができないので、真面目に聞くことした。

「お、目が覚めたみたいだな。自己紹介は・・・置いていて。孔明ー、士元ー、目が覚めたぞー。」

「あ、ご主人様。お目覚めに・・・あらら、まだ顔色が悪いですよ。お身体、少しは楽になりましたか?」

聞かれて、『うん』・・・と答えようとした矢先に呟きが出た。

 

 

 

 

「この人誰?」

「あ、自己紹介はまだでしたね。この人は龍玄さん。薬草を頂いた方です。」

「よろしくな♪」

「・・・なんか、突っ込みたいことがたくさんあるんだけど。」

「あ、起きちゃダメです。まだ横になっていてください。」

 

 

 

 

身体を起こそうとする俺を、朱里は俺の近くに駆け寄り、俺の肩をベットに押し戻す。と、すぐに雛里から茶碗を渡される。

「・・・どうぞ、これを飲んでください。」

「ありがと・・・う?これってお茶か?」

起き抜けに感じた匂いはこれか。一度匂いを・・・うむ、清涼な草の香りだ。

「薬草で作ったお茶です。ご主人様の風邪にもよく効くかと・・・」

「薬草ねぇ・・・匂いはいいな、美味しそう。」

 

「えへへ・・・さ、熱いうちにどうぞ。」

「ん、頂くよ。ごくっ、ん。」

一息に煽る。かぁっ、と身体中に広がる熱に満足の一息をついて。

「見事にお茶の味だ。」

「ふふっ、見事にお茶ですから。ささ、もう一杯どうぞ♪」

 

 

 

 

もう一杯?機嫌よく、今度は朱里が空けたばかりの茶碗に新しいお茶を・・・んん!?

「く、臭いっ!?こっちはいいよ遠慮する、なんかすごく不吉な予感が・・・」

「ダメですよぉ、こっちが肝心なんです!風邪の源を退治しちゃうお薬なんですから。」

説明が嫌・・・鼻が曲がりそうなこの匂い、風邪だけじゃなく俺まで成敗されそうだ。

「どうぞ♪」

俺の躊躇いを知っての笑顔での催促・・・販促だ。

 

 

 

 

「分かったよ・・・ごくっ!」

鼻をつまんで一気に煽っ、ぐ!?

「まっず~~~~~~~~っ!」

「わぁ、元気になりました!」

「すごいすごーい・・・!」

拍手とかしない!こ、これは悶えてるのだっ、くそ・・・苦い、マズイ。

 

 

 

 

「青年。良薬は口に苦し、ってやつだ。我慢して受け入れるんだな。」

「そうですね。」

苦笑い。カラにした茶碗を朱里に渡して、深くベットに背を沈める。

「くすっ、言う前から寝てくださるなんていい子です♪」

「あとはぐっすり休んで、薬の効き目を待っていてくださいね。」

二人に子供扱いされるのは、むっとくるが今は甘えさせてもらおう。

 

 

 

 

「ん、そうさせてもらうよ。色々とありがと・・・ふわぁ・・・」

「はい、お布団かけますよ~」

為すがままの俺。布団を肩までかけてもらうのも待たず、目を閉じ・・・全身から力を抜く。

「「おやすみなさい、ご主人様・・・」」

二人の優しい声を子守唄に、俺は襲ってきた睡魔に身を委ねた。

 

「ふわ・・・ぁ?んんんっ、うぉ・・・すっげ寝ちゃった。もう朝か。」

遠くでスズメが朝を教えてくれている。明るい光が差し込む窓を向いて、起き抜けに大きな伸び。

健やかな目覚めだ。身体が軋むこともなく、熱や頭痛も退いていた。

風邪ってけっこう、尾を引くものだけど・・・一夜にしてこの変化。全身に気力、体力がみなぎる感じだ。

衝撃の効き目だぜ、薬草茶。後で街の人達にも・・・・・。

 

 

 

 

「すーーー・・・」

あれ?膝に違和感が・・・って。

「むにゃ・・・、すぅ、すぅ・・・」

布団に身を投げ出すようにしてうつ伏せ、眠っていた朱里と雛里が、胸の下にある膝の動きに身じろぐ。

手には手ぬぐいか?これで、俺の寝汗を拭き取ってくれてたんだろうな。

 

 

 

 

「くーーーー・・・」

「・・・ありがとな。」

おそらく、俺が眠りにつく寸前まで看病してくれたんだろう。未だに固く手ぬぐいを握ってる拳に掌を重ねる。

「ご主人・・・様・・・」

夢の中でも看病してくれてるのか?雛里の眉間にシワが寄ったので、そこをこちょこちょと。

 

 

 

 

「・・・にゅふ。」

いい具合に表情が溶け崩れるのを見てから、そっと布団から身体を抜く。

これで、二人に風邪を引かれでもしたら顔向けできないもんな。そっと抱き上げてベットへ。

「う・・・ん・・・」

無意識に抱き返してくる手にうろたえたりしながらも、なんとか布団の上に寝かせた。

「今度は二人が、ゆっくり休んでくれな・・・」

 

 

 

 

そっと髪を撫でて、持ってきた新しい掛け布団を上から掛ける。

二人の手厚い看護のおかげで全快したんだ。溜まった政務を片っ端から片付けて、報いるとしよう。

出来れば、朱里と雛里が目覚める前に。

「すぅ、すーー・・・」

疲れた顔でお礼なんか言っても、締まらないもんな・・・よっしやるぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※どうもお米です。今回は朱里と雛里が主役の回でした。あんな可愛い子に看病されたら、逆に全然治らんよ・・・wwさて、次回はこの話の後の話になります。ちょっと展開が変わるかも。ご感想&ご指摘待っています。それでは失礼します~。


 
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