No.128454

恋姫異聞録27

絶影さん

武王編です北に上ります

なるべく一日一更新を目指しているのですが
なかなか時間が取れない、書くのが遅くてごめんなさい;;

2010-03-06 15:07:18 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:19649   閲覧ユーザー数:15422

 

 

「あのー、私これからどうなるんでしょうか?」

 

「さてな、とりあえずは曹操様と面会してもらう。話はそれからだな」

 

俺達は無事青洲から徐州を通り豫州に入りもうすぐ許昌に着く、その間ずっと張勲は袁術の木彫りの人形を作っている

よほど袁術が好きなのか、いつの間にか荷馬車の荷は拾った木切れで造った人形が半分を占めてしまった

 

「この人形どうするんだ?」

 

「よかったら御一つどうですか?これなんか下着が見えちゃうんですよー」

 

「いらんよ、随分と敬愛しているのだな、そろそろ許昌が見えてくるぞ」

 

俺は苦笑いで返すと目の前には許昌の城壁が見えてきた

 

「本当ですねー、城壁の上に人が居ますよー」

 

張勲の言葉で俺は城壁の上に目線を向けると、そこには凪達や霞、季衣、流琉が皆こちらを見て手を振っている。

 

「人気があるんですねー、そうだ!お兄さんから頼んでいただければ私達二人の安全は保証されたも

同然じゃないですか!お願いしますよお兄さん」

 

「張勲、俺を御使いと呼ばなくなったのは良いがそれは保障できんな、俺は曹操様の将だ曹操様の

判断に従うまでだ」

 

隣で張勲ががっくりとうなだれる。こればかりは仕方が無い、だが曹操様は無下に斬れなどとは

申さない、安心しろといってやりたいが、変な期待をさせても何かあったとき可愛そうだ

 

「着いたぞ張勲」

 

「は、はい」

 

城門を通り中に入ると将の皆に囲まれる。何と言うか少し離れていただけなのに

随分と心配をさせていたようだ

 

「隊長!御土産は?」

 

「お前、帰ってきて早々土産をねだるのか」

 

「だってだって、真桜ちゃんも私もそれだけが楽しみだったのー!」

 

「お帰りなさい、隊長」

 

「ああ、凪はえらいな」

 

俺は沙和と真桜に張勲の作った人形を渡し、凪の頭を撫でた

 

「ぶーぶー!こんな人形いらないのー!」

 

「そやそやー!ってあれ?なかなかエエ出来や無いかこの人形」

 

沙和は人形を投げて返すが真桜は人形をまじまじと見ている。どうやら気に入ったようだ

あれはそのうち可動するようするつもりだな

 

「後で適当に交換してもらった土産をやるよ、霞、季衣、流琉にもあるぞ大したものではないが」

 

「やったー!にいちゃんありがとー!」

 

「お!うちのもあるんか?もしかして酒か?」

 

「ああ、酒も少しならあるぞ。交換するときに少し分けてもらった」

 

霞、季衣は早速とばかりに荷台に上り物色し始めた。まったく仕方がないやつらだな

だが俺も帰ってきたという気持ちにはなれる

 

「昭、御帰り」

 

「秋蘭、涼風、ただいま。二人で来てくれたんだな」

 

俺は荷馬車から降りると涼風を抱いている秋蘭に近づき

涼風ごと秋蘭を抱きしめると本当に帰ってきたとそう感じた

 

「さて、曹操様の所へ報告に行ってくる。」

 

「ああ、私達もすぐに行く。ところでそこの張勲だったか?報告は聞いているが」

 

「そうだ、徐州に入ってから伝令を先に飛ばしたから話は入っているはずだろう?」

 

「聞いているさ、そうじゃない、少し・・・・・・」

 

「少し?」

 

「羨ましかっただけだよ、そのうち三人でどこか出かけるのも良いな」

 

そういう秋蘭の頬は少し朱に染まり恥ずかしそうに笑う、俺は頷き優しく頭を撫でた

遠くには行けないが時間が出来ればそのうち何処かに行きたい、きっと二人も喜んでくれる

 

その後、張勲を連れ玉座の間へと報告に向かった

玉座の間には軍師が集まり、張勲のことを曹操様に改めて報告をすると

やはり笑ってくださった、袁術を我が軍に降らせたのが予想外だったのだろう

 

「フフフッ、実に貴方らしいわね。二人を私達に降らせるなんて」

 

「では袁術と張勲の方は二人が揃ってからということで」

 

「ええ、かまわないわ」

 

張勲は兵に引きつられて客室へと案内される。とりあえずは降ったのだから牢屋などでは

無く客扱いということだろう

 

「それで策のほうなんですが」

 

「桂花」

 

「は、アンタにしたらよくやった方なんでしょうけどまだまだね」

 

俺の策はまだ足りない所ががあるということか?さすがに軍師の考えまでおよばなかったか

 

「私なら一馬の正体を隠さず走らせるわ、その方が華琳様と繋がりがあると疑わせることが出来るし

三人がそれで御互い言い争うでしょう」

 

「正体を、わざと曹操様とのつながりを見せるのか?」

 

「ええ、その後当たり障りの無い文を持たせた使者を袁満来、袁懿達に送る。文は何でも良いわ

使者を華琳様とのつながりだと勝手に思わせれば良いだけ、そのうち攻めてくるとね」

 

「なるほど、では刺客を討った時」

 

「そうね、そこに何か書きおきでも置いていれば上出来よ。たとえば袁家は三ついらずとかね

まあ軍師でもないアンタにしたら上々ってところよ」

 

「さすがだな、そこまでは思いつかなかったよ」

 

俺が心底感心したといった面持ちで桂花の方を見ると、胸を張って私をだれだと思っているの?

といわんばかりだ、俺もまだまだ学ばなければならないな

 

「ではでは、お兄さんがお膳立てしてくれた策をそのまま有効活用しましょう」

 

「そうね、とりあえずは一馬が戻ってきて袁術を回収してからでも遅くは無いんじゃないの?」

 

「ええ、三人の出方を見るのと川を見張る。しかし天子様の奉戴とは」

 

軍師の三人は天子奉戴にひどく驚いていた。そんな事は桂花が前々から曹操様に進言していたことだが

まさか他のものに先を越されるとは思っても見なかったのだろう

 

「では青洲から攻めますか」

 

「青洲の情報が一番多いし、昭からの報告だと随分と商人や民が徐州に流れてきているから良いと思うわ」

 

「ふむ、使者を送るのは今からでも遅くは無いのでは?今からでも十分効果は期待できますし」

 

軍師の話し合いは白熱してくる。そしていかに相手の戦力を削るか、いかに同士討ちをさせるか

戦の火種に袁と書いた矢文を敵の門兵に打ち込むなどという話になってくる

 

「・・・もういいわ」

 

曹操様は軍師達の会話を止めさせると、俺の方をじっと見ている。悲しそうに、しかし強い意志のこもった目だ

 

 

 

 

「春蘭、秋蘭、昭、我等とは」

 

俺はその眼で曹操様の心を悟り、春蘭、秋蘭と顔を見合わせると笑いあう

 

「「は、我等は誇り高き覇王の将兵」」

 

「我等の誇りとは」

 

「「我等の誇りは武にあり、我等は誇りある生と死を望みます」」

 

「ならば」

 

「「我等のとる道は戦にあり、王の覇道は武にあり」」

 

「戦の準備だ、凪、真桜、沙和!兵の準備を整えよ!」

 

「昭、こちらは季衣、流琉と親衛隊の装備を整える」

 

「姉者、霞も連れて行け、騎馬隊も共に準備させる」

 

俺達の声でその場はあわただしく動き出す。春蘭は兵舎に駆け出し秋蘭も兵糧などの確認に入る

曹操様は申し訳なさそうに三人の軍師に目を伏せた

 

「桂花、稟、風せっかく策を考えてもらったのだけど」

 

「いえいえ、いいのですよー。稟ちゃんから華琳様のお心は聞いておりましたから、きっと策を弄する事は

お気に召さないと、今回は私達軍師の顔を立ててくださっただけですから」

 

「ええ、私の覇道は揺れていた。しかし今解ったわ、我が覇道は武の道、知略を用いるのは戦場で十分

正々堂々と正面から、それが私の覇道」

 

「はい、華琳様は策を卑怯な振る舞いと思ってしまうのは当たり前です。ですがそれこそ私達がついていこうと

思えた理由、誇り高い覇王様なのですよ」

 

風の言葉に少し笑みを見せる。今回のことで一番悩んでいたのは曹操様だ、俺が出発するときも

気が進まないと仰っていた。俺が潜入活動をさせたこともきっと悔やんでいるはずだ

 

「華琳様に進言いたします。この時を考えすでに準備は整っております。これより青洲と冀州に二面作戦を

取り、お兄さんを総大将とした部隊に青洲を、華琳様の主力部隊に冀州を」

 

「前回の袁紹軍との戦いで昭殿を総大将とした実戦での調整は済んでおります」

 

そうだったのか、だから詠が俺の軍師に着き、まるで一軍を動かしているような形にしていたのか

しかし俺が総大将だって?俺なんかよりも秋蘭のほうが適任では?

 

「風、俺が総大将とは何故だ?秋蘭のほうが適任ではないか?」

 

「お兄さんはその眼で機を見ることが出来るのですよ。それは私達軍師に出来ないこと

総大将にもっとも必要な事は機を見て軍師を動かすことなのです」

 

「機を見るか・・・・・・」

 

「その通り、いくら軍師が優秀でも戦場の全てを眼で判断する事は出来ません、ですが

昭殿なら全体の動きを見つつ戦場の変化を軍師に伝えられる。」

 

「それにアンタが前に出れないのは華琳様から聞いているし、総大将ならそうそう前に出ることはないでしょう」

 

だが俺で本当にいいのか?先の袁紹軍との戦とは違う、小隊単位ではなく一軍を動かす

都督に近い存在になるということだ

 

「私からもお願いするわ、私と共に戦って頂戴」

 

「曹操様・・・承知いたしました。私の全てを賭け勝利を」

 

俺は頷き、真直ぐ曹操様を見詰める。曹操様は笑みで返すと将を見回し

戦の開始を告げる

 

「戦の開始を告げる使者を送りなさい」

 

「承知いたしました。稟、袁家との兵数は?」

 

「はい、兵数は北の幽州で烏桓との戦いがあり、そこに大きく兵数を裂いています。

それでも兵数は若干我等が劣っていますが、兵の士気と戦場の策ではこちらが上」

 

やはり北の幽州をとった後は北の烏桓に気をつけなければ、今は有利に働いているが

後々どう転ぶかわからん、この様子なら幽州は最後に攻めても良い

 

「では編成を、まず主力である華琳様の部隊は私、稟、風」

 

「風はお兄さんに着いていくのですよ。」

 

「俺と一緒に行ってくれるのか?」

 

「はい、風は雲を運ぶもの、お兄さんを勝利へと導いて見せましょう」

 

「仕方ないわね、主力は私、稟、春蘭、霞、季衣、流琉で昭の部隊は凪たち三人と詠、風、秋蘭、一馬」

 

曹操様は頷き、俺も頷いた。妥当なところだ、凪たちが俺と一番連携を取りやすく

秋蘭を俺の補佐として付けてくれたのだろう、軍師も二人、詠と風ならうまくやってくれるはずだ

編成が決まると一斉に玉座の間から将が散っていく、俺も急がなければ

 

「待ちなさい、昭」

 

そういって曹操様は玉座から降りて俺の背後に立つ、悲しい雰囲気が背中越しに感じてくる

おそらく顔を伏せてしまっているのだろう

 

「ごめんなさい、貴方の行動を無駄に、それどころか戦で兵を」

 

「いいえ、兵は覚悟が出来てます。私は力を持たない民や義勇兵が死ぬのが許せないだけです」

 

「嘘をつかないで」

 

「・・・・・・はい。ですが今回自らの誇りに反してでも、軍師の策を聞き入れたのは兵達のことを思ってのことでしょう?」

 

「・・・・・・」

 

「ですからその答えは苦しんで自ら納得して出された答え。策で四州を手に入れたところでその迷いは晴れません」

 

「ええ・・・」

 

「策に頼れば我等の誇りも崩れていたでしょう、だから・・・」

 

「だから?」

 

俺は振り向き、笑顔で答えた。そうだ、だからこそ

 

「だからこそ貴方についていこうと思えるのですよ。我等は卑怯な振る舞いをせず誇りを持ち生きていける」

 

「ありがとう」

 

俺の言葉に曹操様はいつもの綺麗な笑顔を見せてくれた。兵士を失うことを苦しみ、己の誇りを捻じ曲げても

兵の命をとろうとした、そんな方に俺たちは仕えているのだ。だが俺たちは誇りなくしては生きてはいけぬ

 

「ようやく笑顔になってくれましたね」

 

「フフフッそうね、そういえば青洲の門兵の話は御面白かったわ。また聞かせて頂戴」

 

「ええもちろんですとも!脂汗を垂れ流しながらうろたえる様を貴方にも見せたかった」

 

「期待してる、もういいわ行きなさい。皆が待ってるわ」

 

頷くと部屋を出る。勝たなければ、必ずや曹操様に勝利を、俺の持てる全てを使い大陸に平穏を

 

 

 

 

戦の準備をするため俺は屋敷に戻ると秋蘭が待っていた。先に仕度を整え俺が帰ってくるのを待っていたようだ

 

「御帰り、どうだ?」

 

「その服・・・ああ、綺麗だよ」

 

秋蘭は俺が青洲から持ち帰った服を着ていた。どうやら荷を解いた季衣から渡されていたようだ

秋蘭の雰囲気に合う青の高貴礼服、龍が同じ色で刺繍されており、まるであつらえた様に似合っている

 

「フフッ、ありがとう」

 

「思ったとおりだ、よく似合ってる」

 

普段から綺麗なのだがより綺麗に見えてしまい少し鼓動が高くなる

いつものように俺は秋蘭の頬を撫でた。秋蘭もいつものように俺の手に手を添えて

 

かぷっ

 

「?!」

 

撫でた親指を甘噛みされ・・・俺は一瞬にして鼓動が早くなる

秋蘭は悪戯っぽく見上げて、少し顔を赤らめて・・・・・・

 

俺は気が付いたら秋蘭を抱きしめていた。

 

「しゅ、秋蘭」

 

はぷっ

 

「~~~~~!!」

 

今度は耳たぶを噛まれる。顔が見る間に赤くなってくるのが解り、鼓動が高鳴る

抱きしめた秋蘭の耳も少し赤くなって・・・だめだ、もうっ

 

「お前達準備は出来たかっ!・・・・・・何をしてるんだ昭?」

 

「な、なんでもありませんっ!」

 

突然入ってきた春蘭の声に一瞬にして飛びのき直立不動

何故か敬語になってしまっていた

 

「まぁ良い、早くしろよ」

 

「はいっ!」

 

「変な奴だ」と部屋を出て行く、俺の後ろでは秋蘭がクスクスと笑っている

からかったのか?ひどいことをする、そう思っていると近寄って腕を絡めてきた

 

「フフフッ、続きは帰ってからだ」

 

「なら絶対生きて帰ってこないとな」

 

「気合が入ったようだな、良かった」

 

「入りすぎたよ」

 

「・・・私もだ」

 

顔を赤くしながら腕をとり体を寄せてくる。軽く秋蘭の腕が震えているのが伝わる

まいった、生きて帰らなければ、きっと今も秋蘭は俺が戦場に出ることが嫌なのだろう

死ぬわけにはいかない、俺も皆も必ず生きて帰る、必ずだ

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
110
26

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択