No.1093631

坊っちゃんが服を新調した話

砥茨遵牙さん

タイトル通りです。幻水Webオンリー星の祝祭で無配だったものです。
2軸のマクドール家。デフォルトの服からイラストに上げてる黒シャツ衣装になった話。
坊っちゃん→リオン
4様→ラス

2022-06-02 20:21:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:305   閲覧ユーザー数:305

 

「坊っちゃん。」

「嫌だ。」

「坊っ、ちゃん!」

「嫌だ。」

グレックミンスターのマクドール邸。珍しくグレミオとリオンが言い争いをしている。押しの強い母親代わりのグレミオに対しリオンが頑なに拒否している。

「駄目ですよ!そのシャツ洗ってラス様に返すんですから!他のに着替えて出してください!」

「嫌だ。」

シャツを破いてしまい、リオンの肌を晒さないためにラスが自分のシャツを着せて転移でグレックミンスターに帰ってきた。ヒエンに挨拶して転移するまで上半身裸でいたラスにムツゴロウ城内で黄色い悲鳴が上がりファンが増えたのだがそれは置いといて。

ドアを開けて二人を出迎えたグレミオが上半身裸のラスを目の当たりにしてキャーっ!!と両手で目を覆うも指の隙間から凝視し、叫び声を聞きなんだなんだと駆け付けたクレオがラスの姿を見ても動じず、テオ様の服があったはずだとラスを連れていった。

そうしてリオンとラスの服を洗濯しようとしたグレミオがいつまでも着替えないリオンに注意し、冒頭に戻る。

「んもう、どうして着替えないんです?」

凛々しく成長し立派になったと思っていたリオンがここまで意固地になるのは珍しい。グレミオが身を屈めてリオンの顔を覗き込みながら問いかける。

「……着心地がいいし、ラスの匂いがするから脱ぎたくない。」

「普段から一緒じゃないですか。」

「違う。なんか、身に付けてる服から香るのがたまらない。」

リオンの発言に唖然とするグレミオ。

「坊っちゃん……、それちょっと変態じみてます。」

「否定はしない。」

「気持ちは分かりますけど、坊っちゃんがそのままだとラス様をずっと裸で歩かせることになっちゃいますよ?道行く人がみーんなラス様の虜になっちゃいますよ?いいんですか?」

「それは……、嫌だ……。」

「そんなに気に入ったのなら僕のシャツあげようか?」

「ラス様!」

テオの服を着たラスが戻ってきた。ラスが白い服を着ているのを初めて見たグレミオとリオンはじっと見つめて、

「全く、親子揃って何をやってるんだ。」

と同じく戻ってきたクレオに呆れられてしまった。

シャツをリオンにあげてしまったらラスが着るものが無いと言うグレミオに、新しいものを買えばいいしここにいる間は今のようにテオの服を借りられるから大丈夫と返した。貴殿は坊っちゃんに甘すぎるとクレオがため息をつく。

「リオンに黒い服が似合っていたからね。もう解放戦争が終わって三年経つわけだし、装いを新たにしてもいい頃合いなんじゃないかな。」

僕のお古で申し訳ないけれどと言うラスに、リオンはそんなことないとふるふると頭を横に振る。

「ラスの服をもらえるの、嬉しい。ありがとう。」

「ラス様ありがとうございます!では坊っちゃん、ちゃんと着替えて下さいね!お洗濯して、襟を詰めないと首回りぶかぶかですから。」

「このままでいいのに。」

「駄目です。」

「詰めてもらった方がいいよ、リオン。」

そうしないと痕が見えるから、と小声でラスが耳打ちすると、リオンはポッと頬を赤く染めて分かった、と頷いた。

 

 

 

替えのシャツに袖を通したリオンの服の上からグレミオがメジャーを肩に当てて採寸して、

「本当に、変わらないんですね…。」

と呟いた。ソウルイーターを宿して五年。全く成長していないリオンに寂しさを感じる。

「……採寸、いらないだろ?」

「ええ。」

立ち上がって去っていく背中がかつてのテオと被る。身体は大きくならなくても、中身は立派に成長してくれたことに母親代わりとしては嬉しさも感じて。

自分がこの先何年生きられるか分からないが、リオンの隣にはラスがいてくれる。決して一人になることはない。それまでリオンの、二人の笑顔が見られるなら努力を惜しまない。グレミオは意を決して裁縫道具を手にするのだった。

 

 

 

 

三日後。

 

 

「わあ!坊っちゃん、よくお似合いですよ!」

 

グレミオからこれを着て下さいねと襟を詰めた黒いシャツと他の服が渡され、リオンはそれに袖を通してみた。胴衣は前と変わらないが、ズボンと手袋の色が黄色から栗色に、帯も黒から蒼に変わっている。

「グレミオ、この色……。」

「ええ。手袋とズボンもラス様の髪の色に近いものにしてみました!どうせ新調するなら、ラス様の色に染まっちゃった方が良いでしょう?」

「っ…!ありがとう。」

シャツの詰め襟だけでなくズボンと手袋も仕立てるのは大変だっただろうに。グレミオの気遣いとラスの色に染まった服が嬉しくてリオンが微笑む。グレミオもその笑顔を見て嬉しそうに笑った。

「いいえ!久しぶりに坊っちゃんのお洋服が作れて楽しかったです。それに、わたしも役得でしたし。」

「役得?」

リオンが首を傾げると、扉がガチャっと開いてラスが入ってきた。リオンにあげたはずの黒いシャツを着て。

「ラス様!着心地はいかがですか?キツくないですか?」

「ああ、ぴったりだよ。着心地も前のものと変わりない。ありがとう、グレミオ。」

「どういたしまして!」

「……グレミオ、まさかラスのシャツも?」

「ふふふふ、しっかり作らせていただきました!」

推しの採寸を測る絶好の機会を逃すはずがない。上半身だけでなく下半身の採寸もしたため、グレミオはいつでもラスの服を作れるようになったのだ。坊っちゃんとラス様の冬物の上着も作りますからね!と張り切るグレミオを止めるものはいない。

「ラス、どう?似合うか?」

「ああ、似合ってるよ。僕の色に染まった君は魅力的だけれど……。」

他の人間が君の可愛さに気付かないか心配だな、とラスがリオンの耳元に小声で呟くと、頬をポッと染めつつラスを見上げる。

「大丈夫。こんな顔見せるの、ラスの前だけだ。」

そう言ってリオンがポスッと胸板に頭を預けて抱きついて、ラスも腕を背に回して抱き締める。

「相変わらずイチャイチャしてるな。」

「ええ。でも、坊っちゃんが幸せなら私も嬉しいです。」

「ああ、私もだ。」

後からやってきたクレオと顔を見合せながらグレミオは二人を微笑ましそうに見守るのだった。

 

終わり。

 


 
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