No.1093586

強い奴と戦いたいのは本能である

砥茨遵牙さん

グリンヒル奪還後のクロ(ルカ)のあれこれ。アップル先生はすごかった。
4様との手合わせもあります。

坊っちゃん→リオン
2主→ヒエン

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2022-06-02 12:31:38 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:274   閲覧ユーザー数:274

ミューズ奪還に向けて戦力を整えている最中のアニマル軍ムツゴロウ城では、先日のグリンヒル奪還戦で活躍した新人の話題でもちきりである。戦の前にシュウから紹介されたヒエンの恋人、クロだ。

ゲンカクの弟子にしてヒエンとナナミの旧知。暗殺未遂の犯人ルシアを叩きのめしたことで腕は確かだと認められ、グリンヒル奪還戦でも強さを示したクロとすれ違うたびに皆挨拶している。

最初は百八星ではないクロの素性を怪しんだ者もいた。三年前にサンチェスに辛酸を舐めさせられた元解放軍メンバーだ。クロ本人にいろいろ質問をしたり話しかけたりしていたが、その手の質問をアップルは全て予想していた。彼女に用意された回答を暗記していたクロは難なく答えていったのだった。

 

カレッカの生き残りというクロに対して、ハンフリーが自らが元百人隊長でありカレッカの虐殺に関わっていたことを謝罪しに来た。だがそれもアップルが必ず謝罪に来ると予想しており、

「当時の上官を斬ったというのはアップルから聞いている。人道を以て上官に刃向かったお前のおかげで俺は生き延び師に拾われた。それに、俺の狙いはレオン・シルバーバーグだけだ。」

と用意された回答をした。ハンフリーはどこか安心したように、すまない、と言った。

 

ヒエンとナナミの知り合いなら何故顔を隠すのか、と二人と食事中にフリックに聞かれた。これもアップルによって予想済みの質問だったため、

「師に連れられ初めてキャロに来た日に、まだ幼かったナナミが俺の顔の火傷を見て怖がり、ギャンギャン泣いて大変だった。仮面を付けたら大人しくなった。」

とクロは答えた。もちろんヒエンとナナミも承諾済みの回答だったので、

「クロは優しいもんねー。ずっと昔のことなのにさ。今もしてるのはちっちゃい子を怖がらせないためだもんね。」

「そういえば、あの時ヒエンは泣かなかったよねー。痛い?って言ってクロさんの心配してたもん。」

と話して事なきを得た。ヒエンはともかく、ナナミの女優っぷりはすごい。流石は自分で大女優と言うだけはあるなとクロは感心していた。

ジョウイの過去に関して聞かれたら、いつもニンジンをよけて師に叱られていた、等とナナミとヒエンと打ち合わせ済みの情報を答えていく。

 

今のところ全ての質問にアップルが用意した回答が当てはまっている。本当に何者なんだアップル、恐ろしい奴だ、とクロは副軍師アップルの有能さに戦々恐々としていた。

 

顔を隠し、部屋もヒエンと一緒、風呂もヒエンの部屋の風呂に入っているため大半から疑われていたクロであったが、アップルも予想外のとある出来事によって疑いが晴れ、一目置かれることになった。

 

 

 

それはグリンヒル奪還戦直後のことである。先日の戦で久々に戦ったクロは、二ヶ月近く監禁されていたため身体が鈍って思うように戦えなかった。無傷で帰ってきたものの、この俺が雑魚に遅れを取るなどあってはならない、と体力を取り戻すために訓練所で身体を鍛えていた。同じようにフリックとビクトールも訓練をしていて、未だにクロを疑っていた二人は他の面々と共に遠巻きに見ていた。

そんな時だ。ナナミが差し入れだよー!と料理を作って持ってきたのである。予告も無しに差し入れされるナナミ料理、通称〝ナナミの飯テロ〟。その破壊力を知る皆は当然、後退りし仮病を訴える。これはやはり男気ジャンケンしかあるまいと皆が覚悟したその時、ナナミがクロを見つけたのである。

「クロさんここにいたんだー!はいこれ!いっぱい食べてね!」

と山盛りに皿に盛られた料理を差し出す。クロは見た目の壮絶さに思わず身を引こうとして、動きを止めた。

クロはナナミの料理に関してアップルから無理に食べなくていいと忠告を受けている。しかし、旧知の仲という設定なら食べなければいけないのではないか、全てはヒエンのため、と得体の知れない物体をスプーンですくって、一口食べてみた。

……まずくはないが、美味くもない。見た目より食べられないほどではないなと二口三口食べ、

「お前、これ味見はしたのか?まずくはないが、美味くもないぞ。」

「えー!うっそー!ちゃんとしたもーん!」

「食べられなくはないがそれだけだ。あと見た目もどうにかしろと昔も言っただろう。」

「えー、これ可愛くない?」

「可愛くはない。」

とりあえず昔から知ってるように二人で会話して、ふと周りを見ると。訓練所にいた全員が信じられないものを見る目でクロを見ていた。二口三口では怪しまれるかとパクパク食べて、空になった皿をナナミに渡した。全部食べてくれたことにナナミは大喜びして、

「次はもっと美味しいの作るからね!」

とルンルン気分で駆けていく。味はともかく腹ごしらえはしたことだし、さて訓練を再開するかと剣を取りに行こうとしたクロに、訓練所にいたフリックとビクトール、他の面々が一斉に近付いてきた。何事かと身構えたら二人に両手をガシッと掴まれて、

「あんたすごいな!やっぱりナナミの料理に慣れてるんだな!」

「あれ全部食って平気たぁ恐れ入るぜ!疑って悪かったな!」

「???」

ぶんぶんと掴まれた両手を縦に振られて困惑する。怪しむというよりは喜んでいるようだ。他の者も嬉し涙を流しながら、救世主だ!ありがとうクロさん!と万歳しながら喜んでいて。わけがわからないクロはとりあえず手を離してもらって訓練を再開する。そこからあんた強そうだから手合わせしようぜ!とビクトールとフリックが申し出て、それを皮切りに今まで遠巻きに見ていた面々も手合わせを申し込んで来たのだ。昔はハーンとばかり手合わせしていたクロにとって、多種多様な剣術の使い手達と手合わせするのは新鮮で有意義なものだった。

 

その日の夜、クロはヒエンから初めてナナミ料理の詳細を聞かされる。ナナミの料理は通常の人間が食べると一口で卒倒して泡を吹くほどの兵器だと。差し入れされた場合は〝男気ジャンケン〟という勝った奴が食べるルールだったそうな。ヒエンですら、クロがナナミの料理を全部食べた事実を聞いて大丈夫?と涙目で心配してきた。

 

何故クロはナナミの料理を全部平らげても平気だったのか。それは狂皇子時代、父アガレスから幾度も毒を盛られたからである。あの事件以降自分を恨む息子を、殺される前に殺すつもりだったのだ。子供だった自分の息子に毒を盛るほど用心深いアガレス。毒に苦しめられ生死の境をさまよったのは一度や二度ではない。そこで身体を少しずつ毒に慣らしていき、毒への耐性をつけた。やがて事実を知った忠臣に諌められ、アガレスは息子に毒を盛ることを諦めたのだった。

実は毒物に慣れたせいで本人は気付いていないが、味覚にも異常があった。どんなにまずいものも食べられなくはない、と感じるようになっていたのだ。胃袋も毒物によって丈夫になっている。だからナナミの料理を全て食べても平気だった。

実の父親からの毒殺未遂を聞いたヒエンはぼろぼろ泣いて、ギュッとクロを抱き締めた。これからいっぱい一緒に美味しいもの食べようね、と。

その後アップルもナナミの料理を平らげたことに驚き、ますます信憑性が増したことに喜んでいた。

 

 

 

それから徐々にアニマル軍の者達はクロの仮面を気にしなくなっていた。ペシュメルガという顔が分からない仲間もいることだし、本人が顔を見せたくないなら仕方ないと。そして大半は仮面よりもクロの首輪に哀れみの目を向けるのである。

「いっそヒエンじゃなくてナナミに婿入りしちまえばいいんじゃねーか?」

とビクトールが言ったら、

「絶対に駄目!クロは僕の!!絶対手放さないもん!だから首輪着けたんだもん!」

とプンプン怒ってクロの腕に抱きついた。

「いや首輪は着けちゃ駄目だろ!?あんたもいいのかそれ!?」

「ヒエンがしたいなら構わんが。」

そう答えたクロにあんぐり口を開けたビクトールが、フッと哀れみの目をして、

「あんた、ほんとにこいつ好きなんだな。なんかあったら、相談に乗るからな?」

と肩をポンと叩いた。

「?あ、ああ。」

どうして哀れみの目をされるのかはクロには分からなくて首を傾げた。しかし、ナナミに関してはヒエンととある会話を事前に打ち合わせしている。

「だが、ナナミは師の大事な一人娘だ。並大抵の男にはやらん。手を出そうとする奴は即刻切り捨てる。」

「だよね。絶対嫁になんかあげないもん。」

「おおう…。」

小舅が増えちまった、軍師サマも大変だなとビクトールは肩をすくめる。同時刻、ヘックション!とシュウが盛大なくしゃみをしていた。

 

 

 

そんなある日のこと。訓練所でビクトールと手合わせしていたクロは、突如ビリビリとした威圧感を感じた。今までにない感覚に首を傾げたクロが訓練所の入り口を見ると、

「みんなー!師匠連れてきたぜー!!」

「こらシーナ、もう百人組み手はやらないよ?」

トラン共和国大統領子息というシーナに連れられて、赤いバンダナに黒い服を着た青年が入ってきた。クロから見ても軽い印象のシーナの師匠なのか、とビクトールの方を見ると、

紫の薔薇の人(ラス様)っ!」

何故か薔薇を背負ってベルば○風に作画崩壊していた。気持ち悪い、とクロにぞわぞわと鳥肌が立つ。

「クロが引いてるだろ!その顔やめい!」

「いでっ!」

後ろからフリックがチョップして元に戻った。一体何なんだと首を傾げるクロにフリックが話しかける。

「そういえば、クロはラスに会ったこと無かったか。」

「ラス…?何処かで見た名前だな。」

「薔薇の剣士って小説に同じ名前がある。」

「ああ、ヒエンが好きなやつか。」

「全部ヒエン基準かよ。」

ほんとに好きなんだなと苦笑いするフリック。薔薇の剣士の主人公の唯一無二の友として書かれていた、群島解放戦争のリーダー、ラス。それと同一人物だとビクトールは語った。

「馬鹿な。あれは作り話だろう?」

「ところがどっこい!実在の話なんだなこれが!」

「群島解放戦争自体百五十年前と聞いたことがあるが。」

「ラスは真の紋章の持ち主でな。年を取らないんだ。」

ビクトールとフリックの説明になるほどと頷くクロ。では何故ビクトールの顔がああなったのか聞くと、またベル○ら風に作画崩壊して、

「俺、薔薇の剣士の大ファンでな。主人公の唯一無二の友である紫の薔薇の人(ラス様)の前だと憧れが強すぎてこうなっちゃう。」

と身体をくねらせる。紫の薔薇の人とは何だ?やはりこの顔気持ち悪いな、と思ってたら、

「だからその顔やめい!」

「いでっ!」

フリックが再び頭にチョップして元に戻った。いいコンビだなこいつら。

気を取り直して、フリックがラスについて説明してくれた。三年前のトラン解放戦争のリーダー、リオン・マクドールの夫で、二人とは面識があるのだと。リオン・マクドールは男と聞いたが?と問うクロに、クロとヒエンが恋人同士なように、向こうも男同士で結婚したと聞いて納得する。ビクトールとは違うが、フリックもラスの強さに憧れているのだとか。

「あの男、強いのか?」

「そりゃあもう。」

「めちゃめちゃ強いぜ。」

ティント市の騒動の少し前、兵士も合わせて百人同時に手合わせした際に木刀一振りで十人をぶっ飛ばし、数分もしない内に百人倒して以降アニマル軍の伝説になっているのだとか。

見た目は二十代前半なのに、真の紋章持ちであるラスの底知れぬ強さ聞いて、クロはゾクゾクと気が昂っていく。沸き上がる高揚感に自然と口元に笑みを浮かべた。男は強い者に惹かれる。

クロの顔で唯一見える口元を見た二人は、やっぱりクロもその類いか、と笑う。

「クロ、せっかくなら手合わせしてもらったらどうだ?」

「…いいのか?」

「ここにいる奴らはみんな百人組み手でぶっ飛ばされ済みだ。」

「そういや、あの時ペシュメルガはまだいなかったな。あいつに先越される前に申し込んどいた方がいいぜ。紹介するからよ。」

「ああ。」

二人に連れられてラスの元へ向かう。二人がラスに挨拶して、クロに気付いたシーナもようクロ!と手を上げた。

今日は新人と手合わせしてほしくてな、とラスに話しかけるフリックの横からずいっと前に出るクロ。

「……クロという。貴殿の実力は伺っている。是非とも手合わせ願いたい。」

近づいて更に威圧感が増したのをクロは感じた。今までにない強者の気配。返事を待ちきれなくて剣を構える。おいクロ、というフリックにラスは左手を上げて制した。

「構わないよフリック。彼もまた強い者と戦いたい性分なんだろう。その手合わせ、受けよう。」

広い場所に移動して、ラスは右手で剣を抜いた。2本ある内の片方のみしか抜かないラスにクロは苛立つ。

「…こちらを侮っているのか?」

「まさか。ただ、君とは初対面だからね。様子を見させてもらう。」

「ならば全力で行かせてもらう。後悔するなよ。」

ジリジリと間合いを詰め、クロは本気でラスに斬りかかった。しかし、ギリギリのところで避けられ空振りに終わる。何度か斬りかかるも全て避けられてしまう。決してクロの動きが遅いわけではない。ラスが速すぎるのだ。

今までクロの全力の剣を、こうもあっさり避ける者はハーンぐらいだった。力押しでは駄目か、面白い。

再び剣を構え向かっていく。今度はラスの顔めがけて切っ先を向け突く、と見せかけて首を斬るつもりで攻撃しようとした。

「甘い。」

「っ!?」

斬る動作に入った瞬間に身を低くしたラスに下から剣の柄で肘を突かれ、その衝撃で腕が上へ押し上げられた瞬間、ラスの剣の切っ先がクロの喉元に突きつけられた。

「どうする?まだやるかい?」

「っ、当たり前だ!!」

上から斬ろうとしてまた避けられる。こんなに強い者との手合わせだ、早く終わるにはもったいない。口元に笑みを浮かべて、クロは再びラスに斬りかかる。

キィン!と剣と剣がぶつかる音が響く。ラスは今度は避けずに剣で受け止めた。

「避けてばかりでは味気ないからね。」

「っ、ほざけ…!」

ギリギリと力を込めるも押し返せない。ラスはふむ、とクロと剣を交互に見ると、クロにしか聴こえないほどの小声で話しかける。

「君の剣、まだ迷いがある。」

「っ!?」

「今までの人生はただ憎悪のままに全て斬れば良かったんだろうね。この世に未練も無ければ大事なものも無かった。全てを破壊するつもりで、あれに血を与えたのもそのためだろう。」

「なっ!?」

あれに血を与えただと。獣の紋章を目覚めさせるために血を与えたことを言っているのか?とクロは驚愕し仮面の下で目を見開く。ヒエンにも言っていないことを、何故初対面のこいつが?いや、そもそも何故こいつは俺の正体を知っている!?

膠着状態からバッと後方へ飛ぶ。明らかに動揺しているクロに、ラスが自ら斬りかかる。

「ぐっ…!」

キィン!キィン!と剣がぶつかる音が響く。剣撃が速い上に重く、受けるだけでも手一杯だ。まさかこの俺が防戦一方とは。

再びラスの剣が襲いかかり、クロは何とか受け止める。ギリギリと鍔迫り合いをしつつもラスが再び小声で話しかけてきた。

「けれど今の君は違う。一度死にかけて命の儚さを知った君に、大事なものが出来た。かつての己の行いを悔いるほどの大事なものが。」

「っ、悔いる、だと。」

そんなはずはない。俺は俺の思うまま、望むまま邪悪だった。都市同盟もハイランドも全て滅ぼすつもりだった。

だが、ヒエンに監禁されるようになって、今まであった破壊衝動が現れなくなった。自分を好きだと、監禁してでも離さないと異常な独占欲を向けるヒエンの狂気が可愛いと、愛おしいという感情が芽生えた。絆された、と言えばそうかもしれない。あれだけ汚い罪人に見えていた都市同盟の奴らが、全てヒエンの所有物だと、ヒエンの餌だと認識するようになった。こいつらを糧に国を盗る野心を持つヒエンがいる世界ならば悪くない。それに、あの事件を聞いて、八つ当たりしてまで怒ってくれたのはナナミが初めてだった。

ギリギリと長く鍔迫り合いをするラスとクロ。

「俺は己の行いを悔いるつもりはない。かつての俺は、俺の望むまま邪悪だった。」

「…そうか。」

「っ、ぐっ!」

鍔迫り合いの状態から押し出され、後方へ飛んで着地した途端にラスの剣撃が再びクロを襲う。キィンキィンと何度も剣と剣がぶつかり合う音を響かせ、防いでいくクロ。

ヒエンを愛するようになって、笑うことが増えた。初めての感情が増えた。ナナミと話して、強引なお姉ちゃん節も悪くないと思えて。これが楽しいということなのか、と二十年ぶりに思い出した。憎悪に身を委ねて人を斬っていた時も楽しいと感じていたが、渇きは癒えなかった。だが、今は身を苛む渇きは無い。悪夢から目覚めても、すぐそこにヒエンがいる。

もしも獣の紋章が完全に血を求める物として覚醒していたら、二人を殺すことになっていた。己のしてきた罪は消えないし、必ず地獄へ落ちるのは分かっている。許されることなど望まない。

それでも俺は、ヒエンが愛しい。死ぬはずだった俺に出来た最も大事なもの。ヒエンの大事な家族であるナナミも、今となっては大事なものの一つ。だから、今度こそは。

「っ、一度死に、地位も無い俺に出来るのは戦うことだけだ。そのために再び剣を振るうことを選んだ。あいつらは、あいつらだけは、この剣で守る!!ヒエンとナナミの敵は、全て斬る!!」

「…その言葉、決して忘れてはいけないよ。」

「っ!?」

剣撃を止めたラスが一瞬でクロの右側に回り込むと、ガキィイィンという音が鳴り響く。ガランガランと地面に落ちたクロの剣。ラスが剣を振り下ろし、持っていた剣を叩き落としたのだ。クロの喉元に突きつけられるラスの剣。

「勝負あったね。」

「っ、くそっ…!」

ガクッと膝をつく。これほどまでに負けたのは久しぶりだった。もう片方の剣を抜かせることすら出来なかった。完敗だ。

「クロ。君にはかつての行いに対する贖いの時が待っている。」

「何だと…?」

「先ほど君が言った、二人を守るという言葉を決して忘れてはいけない。あとは君次第だ。」

忠告はしたよ、とくるりと振り返り、リオンを待たせていると言ってラスは訓練所を出ていった。その後を待って師匠ー!とシーナが追い掛けていく。

膝をついたままのクロにフリックとビクトールが大丈夫かと声をかける。ラスとの会話は聴こえていなかったようだ。しかしクロは先ほどラスに言われた贖いの時について思考を巡らせ、問題ないが少し休む、と言って椅子に座るのだった。

 

 

 

手合わせを見ていた、とある人物に気づかぬまま。

 

 

 

 

「馬鹿な。あれは、あの剣技は、殿下の……!!」

 

 

 

 

 

終わり。

 


 
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