No.1044773

真・恋姫†無双~黒の御使いと鬼子の少女~ 78

風猫さん

白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。

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2020-10-31 10:00:03 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:663   閲覧ユーザー数:648

恋とねねが仲間に加わってから一日が経った。

 

 俺はといえば早朝に起きて雪華の鍛錬を終えたところだ。

 

「さて、じゃあ飯にするか」

「うん……」

 

 いまだに眠そうにしている雪華。

 

「まったく。いい加減、早朝に起きるのに慣れろっての」

「眠いから、や……」

「はぁ、大丈夫かね……」

 

 と言いつつ、内心“まぁ、あの式神相手には何とかなるだろう”とは思っているのだが。それに、眠いのは早く起きただけじゃなく、純粋な疲れも含まれる。

 

「まっ、そのうち慣れるか」

「ん~?」

「なんでもねぇよ。ほれ、戻るぞ」

 

 そう言って雪華の背中を押して陣へ戻ろうとした時だった。

 

「げ、元気そう、ねぇん……」

「この、ぞわつく声は……」

 

 恐る恐る背後を振り向けば神出鬼没の変態がそこに立ってた。

 

「小野小町……!」

 

 うげっ、と一瞬思ってしまうがその様子を見て少し落ち着く。

 

「……お前、なんかやつれてねぇか?」

「ちょ、ちょっと色々あったのよぉん……」

「そ、そうか」

 

 あんまり深く聞いたらめんどくさそうだから聞かないようにしよう。

 

「あ、てか、お前に聞きたいことがあったんだ。セキトの墓なんだが……」

「あ~、ちょっといいかしらん? その話の前に話したいことがあるのよぉん」

「話したいこと?」

 

 その言葉に勘が告げた言葉を口にする。

 

「もしかして、白装束に関してか?」

「そうよぉん。今、涼州にいるのよぉん」

「ちっ、予想通りか」

 

 やっぱり奴らは涼州にいたんだ。行商人はやっぱり白装束の術にかかって記憶が消えてしまったんだろう。

 

「くそっ、戻ったらすぐに向かうしかないか」

 

 俺はこんなタイミングできた袁術に“次あったらひどい目に合わせる”と心で誓って陣へ戻ろうとしたのだが、小町に引き留められた。

 

「なんだよ?」

「実は、今からだと間に合いそうにないのよぉん」

「まさか、申に関する何かをやってるのか?!」

「っ! そう、シンの文字を知ったのねぇん」

 

 俺の口調から察した小町は一度目を瞑り、ゆっくりと開いた。

 

「そこまで知っちゃったのなら仕方ないわねぇん。そのことを教えられる人を呼んでおくわん」

「お前が教えてくれんじゃないのかよ」

「……女には秘密がたくさんあるのよぉん♪」

 

 バチコーンという擬音語が当てはまるウィンクをかました小町はほっといて、話の続きを聞くことにした。

 

「で、時間がねぇってのはどういうことだ?」

「実は、あいつらの狙っているものが涼州にあるのよん。あなたにはそれを守ってほしいのよぉ」

「狙ってる? 何を?」

「炎の鶯」

「……宝剣とかの類か?」

「私にもはっきり言えないわぁん。でも、多分人よぉん」

「その根拠は?」

「奴らが必要なのは魂だからよぉ」

「魂が必要?」

「そう、必要なのは魂なのよ。だから、人だと思うわぁ」

 

 成程。そういことならある程度は納得できる。

 

「しかし、時間がないってことは今から向かわないとまずいってことか?」

「そうねぇ。そう思ってもらっても構わないわぁん」

 

 ……こいつが嘘をつくとは思えんし、何かが化けているとも考えられない。

 

「……少し時間をくれ。しなくてはならないことがある」

「いいわよん。じゃあ、北から陣を出て少し行ったところにある森で待ってるわぁん」

「承知した」

 

 それだけ告げた小町は人とは思えない跳躍で陣を去っていった。

 

「……相変わらず色々と規格外だな」

 

 さて。まずは……

 

「雪華、今の話聞いていたな?」

「……………」

 

 雪華は黙って俺の外套の裾を握っている。

 

「急ですまないとは思う。鍛錬に関しては雛里や愛紗に説明しているから、二人にやってもらえ。ちゃんと飯を食うのも鍛錬だからな」

「……………」

 

 俺の言葉に小さく頷く。

 

「よし、いい子だ」

 

 その頭をやさしく撫でる。

 

「じゃあ、俺は他の面々にあいさつしてくる」

「……私も一緒に行く」

「……そうか」

 

 俺は雪華と共に陣を回って今すぐ旅立たねばならないという事を話していき、最後に恋と一緒にいた愛紗にそのことを伝えた。

 

「……そう、ですか」

「急な話ですまない。ただ、情報の出どころは信頼できるところだ。そこが時間がないと言っている以上は……」

「いえ、それは分かっていますが……」

 

 そう言って彼女は胸の辺りを掴んで不安そうな表情になる。

 

「……胸騒ぎがするのです」

「……大丈夫だ。ちゃんと戻ってくるさ」

 

 俺は愛紗の肩に手を置いて、安心させようとするのだが彼女の顔の曇りは晴れない。

 

「………………あ~」

 

 さてどうするか、と悩んでると恋が口を開いた。

 

「玄輝なら、大丈夫」

「恋……」

「大丈夫」

 

 飛将軍呂布の「大丈夫」はかなりの効力を持つようで、さっきよりは顔色がよくなる。

 

「……恋が言うのであれば、大丈夫なのでしょう」

「信用ねぇな俺」

「前科がありますからね」

「おいっ、今それ言うのかよ!」

 

 俺のその返答に愛紗がくすくすと笑う。

 

「冗談です。ですが、心配なのは本当です」

「分かってるよ。だから約束する」

 

 俺は小指を愛紗に向けて差し出す。

 

「必ず戻る」

「……玄輝殿、これは?」

「ん? ああ、これは日本、つーか天の国って言った方がいいか。そこでの約束の仕方だ。こうやってするんだ」

 

 と、自分の右手と左手で実演してから改めて差し出した。

 

「では」

 

 愛紗がおずおずと差し出してきた小指を自分の小指で絡め取り、軽く二回振る。

 

「では、しかと約束しましたよ」

「ああ」

 

 これで十分だ。何となくそう思う。さて、もう一つの問題は。

 

「恋殿ぉ~~~~。荷物を持ってまいりましたぞぉ!」

 

 恋もついてくる気満々だってことだ。

 

「恋、すまないがこれは俺一人で行くつもりなんだ」

「……………………???」

 

 “え? 何言ってるの? 私も行くのは決定事項だよ?”みたいな顔されてもな。

 

「正直、あいつらの事をはっきり覚えていられるのは俺とこの雪華だけなんだ。だから、今回は俺が涼州に行って、雪華はここに残ってもらうんだが……」

「……でも、私はシンを覚えてた」

「うん、確かに他のメンバーよりも覚えていられることが多いのは事実だけど、完全ではないよな?」

「……………………………(コクッ)」

 

 あ~、なんか渋々といった感じだな。まぁ、行きたい理由は痛いほどわかるんだが。

 

(セキトの仇、討ちたいよな)

 

 だが、それでも今回は出張ってもらうわけにはいかない。

 

「すまんが、今回はあきらめてくれ」

「………………………(コクッ)」

 

 ……なんだろう。嫌な予感がする頷きだな。

 

「……本当に分かってるよな?」

「………………………(コクッコクッ)」

 

 ……とりあえず、信用しとくか。

 

「じゃあ、こっちは頼んだぞ」

「………………………(コクッ)」

 

 本当に大丈夫か? と心配しながらも俺は雪華を連れて天幕へと戻る。

 

「さて、雪華。準備を手伝ってくれるか?」

「ん」

 

 そもそも今日旅立つ予定ではなかったから準備など全くできていない。戦うための支度はできているから、生活のための準備だけで済むのが幸いか。

 

「あらん、その準備は大丈夫よぉん」

「ってお前どっから入ったぁああああああああああああああああ!?!?!?」

 

 入った時から気が付いてはいたが、無視したかった。無視して準備したかった。雪華も無視しようとしていたのに!

 

「そこは乙女の秘密よん? で、さっきも言ったけどぉん、旅の準備は私がしといたわよん」

 

 そう言って彼女は小綺麗なズタ袋をこっちに差し出してきた。恐る恐る中を開けてみると……

 

「ちゃんと揃っとる……」

 

 予備の服に外套、暗器の束、鎖帷子もあれば火打石、携帯食、簡素な布で作れる屋根のセットまである。

 

「お前、これどうやって……」

「夜なべして作っておいたのよん♪」

 

 バチコーンと飛んでくるウィンクは避けて、改めて要された品々を見る。

 

「……本当にお前が作ったのかぁ?」

「あんら、失礼ねっ! これでも手芸は得意なのよぉん!」

(……いや、手芸というレベルじゃないだろう、これ)

 

 どれも腕のいい職人がこしらえたとしか思えない完成度だ。正直、今着ている物を最初から全部取り換えてしまおうかと思えるほどに。

 

「……お前、本当に何者だ?」

「女の秘密を聞くのは野暮ってものよぉん?」

「……答える気はねぇ、ってことか」

 

 まぁ、少なくとも敵ではないのは確かだ。それならこれを断る理由にはならんか。

 

「今回はありがたく使わせてもらう」

 

 俺はもらったズタ袋を担いで雪華に向き合う。

 

「あ、そういやこれを渡すの忘れてたな」

「?」

 

 俺は一応持ってきておいた雛里と一緒に買った勾玉を取り出す。

 

「……これ」

「お守りだ。持っとけ」

 

 勾玉を受け取った雪華は目を煌めかせながら俺に問いかける。

 

「着けていいの?」

「ああ」

 

 彼女は嬉しそうに首から勾玉を吊り下げる。

 

「似合ってるな」

「……えへへ」

 

 そう言われてうれしそうに照れる雪華。

 

「その勾玉……」

 

 と、小町が雪華の首に光る勾玉をまじまじと見る。

 

「あん?」

「どこで手に入れたのかしらん?」

「露店で買ったんだが……。なんでも浜辺に落ちていたのを拾ったとか」

「……なるほどね。海は万物を繋ぐってことかしら」

「おーい、また素が出てんぞ」

「あらヤダ失礼」

 

 にしても、こいつが目の色変えるってことは……

 

「これ、なんか曰くでもあんのか?」

「ん? 違うわよん。本物ってことよん」

「本物? 勾玉に本物も何もないだろう」

「まったくぅ、日本で生活しておいて勾玉の意味も知らないのはどうなのかしらん」

「勾玉の意味?」

「いい? 勾玉には魂の形を模した物や、胎児の形を模した物とかがあるのよん。そして、その模した物によって意味が変わるのよぉ」

 

 ほぉ、それは知らんかった。

 

「で、胎児の形を模した物は安産を願って、魂の形を模した物は霊に守ってもらうという意味があるのよん」

「じゃあ、この勾玉は?」

「これは魂を模した物ねぇ。中に蛇の魂が宿ってるわねん」

「蛇の?」

 

 そこでちょっと嫌な予感がする。正直、大蛇とは何度か戦っているが総じて嫌な思いでしかない。

 

「安心しなさいな。この蛇は神聖な蛇よん。悪いものではないわぁん」

「……まぁ、お前さんがそう言うなら」

 

 悪さをしなければそれでいい。俺は屈んで勾玉に触れながら念じる。

 

(どうか、この雪華を守ってくれ)

 

 と、勾玉が少し暖かくなった気がした。どうやら本当に魂が宿っているらしい。

 

「雪華、これは大切にしな」

「んっ!」

 

 彼女も中に何かが入っている、と聞いたからか、さっきよりも嬉しそうに勾玉を見ている。

 

「さて、じゃあ俺は行く」

「あっ……」

 

 そこでまた寂しそうな顔に戻ってしまうが、その頭をガシガシと撫で繰り回す。

 

「絶対戻ってくるっての。心配すんな」

 

 撫でていた手を離して、真剣な表情で雪華に頼みごとをする。

 

「皆を、頼んだぞ」

「……んっ!」

 

 俺の真剣な言葉にさっきまでの寂しさを隠し、真剣に頷いた雪華を見て俺も頷いた。

 

「じゃ、行ってくるぜ」

「いって、らっしゃい!」

 

 天幕であいさつを交わして俺は外に出る。そして、いつの間にか消えていた小町の言葉を思い出す。

(確か、陣を出て北にある森って言ってたな)

 

 俺はもう一度ズタ袋を担いで出口に向かおうとすると、黄仁に声を掛けられた。

 

「御剣様っ!」

「黄仁、どうした、って!」

 

 てっきり黄仁一人かと思ったら最初期からいた隊の面々が揃いも揃って俺のところへ来ていた。

 

「何やってんだお前ら! 警戒とかはどうした!?」

「それは他の隊の方に頼んで一時的に変わってもらいました!」

「共をすることができぬのであれば、せめて見送らせていただきたいのです!」

「お前らなぁ、戻ってくるんだぞ? そこまで大事にせんでも……」

「何をおっしゃいますか! 我らは御剣様に命を救われたのです!」

「そのお方が一時とは言え、涼州までいかれるってんだから見送らなくちゃ御剣隊の名折れってもんですよっ!」

「何卒、何卒お願いいたしまする!」

「お前ら……」

 

 そして、隊の副隊長である黄仁が前に出てきて皆の気持ちを代弁する。

 

「我らはあなた様に返しきれぬ恩があります。こんなことで返せるなどとは思いませんが、せめて、せめてその気持ちだけは受け取ってはいただけませぬか?」

「……たっく」

 

 俺は嬉しいらやこっぱずかしいやらで頭を掻くしかできなかった、あきらめて溜息を吐いた。

 

「……じゃあ、せめて静かに見送ってくれ」

「“はっ!”」

 

 全員が返事をした後で、黄仁が号令をかける。

 

「では、御剣隊! 陣の入り口までお送りするぞ!」

「“おお~!!!”」

「静かにってさっき言わなかったか!?」

 

 と、口では言いつつもその顔は笑顔だったと思う。

 

 こうして俺は隊の皆に入り口まで送られた。なお、それを見ていた他の隊もみな声をかけてきたので結局、軍全体に見送られたようになってしまった。

 

「じゃあ、黄仁。皆を頼む」

「はっ! 道中お気を付けて!」

「“我ら御剣隊、隊長の帰りをお待ちしております!”」

 

 たっく、こいつらどっかで練習してたんじゃないだろうな?

 

「……行ってくる!」

「“行ってらっしゃいませ!”」

 

 その一言に押され、俺は陣を出て北の森を目指した。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「さて……」

 

 陣を出てしばらく。ようやく森の入り口が見えてきたのだがここで一つ問題が発生した。

 

(結局、撒けなかったか……)

 

 ちらりを後ろを見ると一瞬で死角に入る赤い髪。

 

 嫌な予感が的中した。恋がねねと一緒に付いてきてしまったのだ。

 

(まずいなぁ……)

 

 正直、恋には陣にいてほしかったのだが……

 

(さて、どうするか)

 

 森に入ったとして彼女を撒けるかどうかは怪しい。何せ、こっちの死角を瞬時に判断してそこに入り込んでしまうのだ。撒いたと思っても気が付いたら後ろにいるだろう。

 

(う~む……)

 

 入り口で悩むこと数分。

 

「あいたっ!」

 

 額に何か小さいものが当たった。

 

「虫か?」

 

 辺りを見渡すと、森の木の上にようやく見慣れた巨体が見えた。

 

(小野小町? あいつ何してんだ?)

 

 と、手に何か紙を持っている。その紙をなるべく後ろに悟られないように凝視すると……

 

(「私が何とかするわん。もう一度小石が当たったら、目と耳を塞いでおきなさぁい」?)

 

 まぁ、何とかできるのであればそうしてもらおう。俺は悩むふりをして親指を立てて“了解”の意を示すと小町は頷いて小石を投げてくる。

 

 それが額に当たると同時に俺は素早く目と耳を閉じた。

 

(………………にしても、なんで目と耳を閉じる必要性が?)

 

 気になったものの、今は恋たちを撒くのが先決だ。そう思ってそのまま続けていること数分。肩が叩かれる。

 

「終わったわよぉん」

「ああ」

 

 言われて閉じていたものを開き、後ろを見ると……

 

「んな!?」

 

 そこには奇妙な姿勢で固まっている恋とねねがいた。恋の方は戦闘態勢に近い表情をしていて、ねねは心底驚いたような表情をしたまま固まっている。

 

「これは、いったい?」

「むっふっふっふ、これぞ乙女の秘術108の一つよぉん!」

「乙女の秘術ぅ?」

「……どこに不満がるのかしらん?」

「色々」

 

 適当に流して改めて恋を見る。

 

「……これ、大丈夫なんだろうな?」

「大丈夫よん。あなたが旅立つときには解除されるわ」

「……まぁ、それならいいが」

 

 追いつかれそうな気もするが、その時はその時だ。

 

「で、どこへ行くんだ?」

「森の奥に馬を待たせてるわん。行きましょう」

 

 そう言って小町は先行して森に入っていく。

 

「……すまんな。仇がいたらそいつの首は俺がきっちり持って帰る」

 

 動かない恋にそれだけ話して、小町の後を追っていった。

 

 森に入った俺は周囲を警戒しながら進んでいた。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫よん。ここいらには野盗の類はいないから」

「それでもするにこしたことはねぇさ」

 

 それに、ある意味一人の時に警戒するのは癖みたいなもんだ。

 

「そう? でも、目的地に着いちゃったのよね」

「ん? そうなのか」

 

 言われて小町の巨体越しに前を見た俺を待っていたのは驚きの光景だった。

 

「紅い、馬?」

 

 そこにいたのは全身が真紅に染まった馬だった。ただし、生きている馬ではない。

 

「あれは、兵馬俑ってやつか?」

 

 たしか、小学校の教科書で見たことがある。中国の墓に埋められていた馬の置物だったはず。鞍はさすがに普通の馬と同じものになっているが。

 

(……置物が動いてる!?)

 

 思わず口が空いて間抜けな表情になってしまった。

 

「てか、どういう原理なんだよあれ!?」

 

 小町に問いかけると彼女は人差し指を口に当て相変わらずふざけたことを返す。

 

「乙女の108の秘術の一つよん♪」

「……ここまでくるともはや妖術じゃねぇか」

 

 見た目と相まって。

 

「なんか今失礼なこと考えなかったぁん!?」

「はいはい、すいませんすいません」

 

 適当に流して馬に近づく。

 

「…………!」

 

 と、俺を見つけた馬は何をするでもなく近づいてきてその頭を寄せてきた。

 

「へ?」

「撫でてあげなさいな」

 

 言われて俺は恐る恐るその手に頭を乗せて撫でる。

 

 手から伝わるのは金属特有の肌触り。だが、なぜかそこに温かさを感じる。金属の、ではない。生き物の温かさだ。

 

「……………」

 

 馬は一声も鳴かず、俺の目を見てくる。

 

「……お前、どこかで会ったか?」

 

 なぜか、そう思って問いかけてしまった。しかし、馬は首を縦にも横にも振らず、体の向きを俺が鞍に乗りやすいように変えて乗るように促してきた。

 

「……気のせいか」

 

 そも、俺は馬の知り合いなぞいないしな。そう思ってその背中に跨る。

 

「……意外と乗り心地いいな」

 

 と驚いていると小町が下からアドバイスをしてくる。

 

「荷物は体に縛り付けたほうがいいわよん」

「ん? 別に馬なら片手でも扱えるぞ」

「いいから。あと、手綱は両手で掴んでどんなことがあっても離さない。頭は絶対に上に上げない」

「おい? 素になってるぞ?」

「……いいから」

 

 いつもだったら慌てるアクションがあるのだが、と訝しく思いながらもアドバイスの通りズタ袋を体に縛り付け、手綱を両手で握る。

 

「で? この後はどうすりゃいいんだ?」

「あとはこの子が連れてってくれるわよん。じゃあ、頭を下げて」

「へぇへぇ」

 

 言われて俺は頭を下げる。

 

「いい? 絶対にその姿勢でいなさい。でないと死ぬわよん」

「ん?」

 

 今なんか最後に物騒な言葉がなかったか?

 

「今、お前なんて」

「行ってらっしゃい!」

 

 俺の質問を遮って、小町は馬の尻を軽く叩く。

 

「っ!」

 

 すると馬は一度だけ前足をあげて動かしたかと思うと、

 

「いっ!?」

 

 比喩とかではなく“暴風の如く”走り出した。

 

「なんだこれぇええええええええぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇ……………」

 

 その場には俺の叫びだけが残っていった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「さてと」

 

 小野小町は玄輝が叫びだけ残して消えたのを確認してから美女の姿に戻る。

 

「……グットラック」

 

 彼の幸運を祈って言葉を投げかけた後、呂布と陳宮に掛けた術をその場で解いた。これで彼女たちのずれた時間間隔は元に戻る。

 

「さて、彼女たちが来る前に退散するとしましょうか」

 

 小町はそう言うと木の上に跳びあがりもう一度玄輝が走り去った方角を見る。

 

「…………絶対、戻って来なさいよ」

 

 誰にも聞かれない言葉をそこに残して、彼女は風のように消え去った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。

 

さて、突如として現れた小野小町の用意された馬(?)に乗って涼州へと向かう玄輝。そこで待つ”炎の鶯”とはいったい誰なのか?

 

次回、涼州編スタートです!

 

と、言った感じで終わりましたがいかがだったでしょうか?

 

ただ、ここから先はオリジナルの話になってくるので些か苦戦しております。更新がまた少し遅くなるかもしれませんが、必ず完結はさせますので気長にお待ちいただければと思います。

 

といったところでまた次回お会いしましょう。

 

誤字脱字がありましたらコメントの方にお願いいたします。

 

ではではっ!

 

 


 
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