No.1034225

騎士と魔女

vivitaさん

物語的な騎士道を信条とする兵士、ルシア。
悪辣非道を信条とする武器商人、ノーチェ。
光と魔。対極の存在であるふたりが激突する。

2020-07-01 11:26:12 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:54   閲覧ユーザー数:54

 

ルシアは、廃墟に足を踏みいれた。

廃墟内には、たくさんの銃火器が飾られている。

かぐわしい匂い。香が焚かれているのだろう。

 

「月が綺麗ね、ルシア。」

 

脳をとかすような蠱惑的な声。

廃墟とは場違いな、漆黒のドレス。

長い黒髪は艶やかで、深緑の瞳はまるで宝石。

武器商人ノーチェがそこにいた。

 

「ノーチェ…!貴公、街の人々をどこへやった?」

 

ルシアが細剣をノーチェへむけた。

碑晶質の刀身が熱を帯び、青くかがやく。

 

「そうね。いまごろ、元気にだれかを襲ってるんじゃないかしら?

私があげたヘキサギアがあれば、千人力…

戦って殺して奪って、楽しく遊んでくれてると思うけど?」

 

「人々が望んでいたのは、飢えをしのぐための物資だ。

奪われたそれをとりもどしたというのに、貴公は…!」

 

ノーチェは、恍惚の息をもらした。

アーマータイプごしでもわかる。殺気のこもった騎士ルシアのまなざし。

それをうけて怯むどころか、ねばつく視線でからんでいく。

 

「そんなにみつめないで?ときめいちゃうじゃない。

…あなたの騎士道が折れるところ、なんど見てもたまらないわ、ルシア。」

 

「…もはや容赦はない。悪辣非道の魔女。その命、ここで捨ててもらう!」

 

ルシアが駆ける。姿勢をななめに、肩についた盾を前にむけた。

狙うは、心臓をつらぬく刺突一閃。

 

ドレスの裾から、櫛歯(くしば)の短剣があらわれる。

ソードブレイカー。剣殺しの剣だ。

 

騎士の剣は正々堂々。敵を苦しませずに一撃で。

 

ノーチェには、ルシアの狙いがわかっていた。

ルシアの剣が受け止められる。ソードブレイカーが刀身を喰らい、半分に折った。

 

「かわいそうね。達人の剣も、あまい騎士道に囚われればこの程度。」

 

折れた細剣が踊る。一閃、二閃とするどい剣がはしる。

ソードブレイカーがノーチェの手から弾かれる。ノーチェ自身には、かすり傷ひとつない。

 

「騎士の剣が、折れた程度で止まるなどと!」

 

ふたたび、細剣がノーチェの心臓へ突きだされる。

 

ノーチェは眉をひそめた。後ろへとびのき、時間をかせぐ。

 

廃墟の床を突きやぶって、巨大な機械虫があらわれた。

六本の脚、装甲に覆われた胴体、折り畳まれた羽状のブレード、クワガタのような大顎。

規格外ヘキサギア<サンダービートル>。ノーチェを守るように、たちはだかる。

 

『ガバナーの危機を感知。敵勢力を鎮圧します。』

 

鋼鉄の尖爪、グラップルブレードがルシアへとのびる。

ルシアは盾を手にとり、それを受け流す。

ガバナーとヘキサギア。いくら達人の技があろうとも、力の差は歴然。

威力を殺しきれず、ルシアは壁に叩きつけられた。

 

「あぶないわね。ほんとうに殺されそうだった。

…でも、かわいそうな姿が見れたから、許してあげる。

また会いましょう。

おろかであまくて、すてきな騎士様。」

 

コックピットのハッチがひらく。ノーチェはサンダービートルへとのりこんだ。

大顎でこんどは壁を突きやぶって、外へとでた。

エアフローターとブースターの駆動音。

機械虫が飛び去っていく。

 

ルシアの肉体は衝撃でぼろぼろだった。

それでも立ちあがり、よろよろと外へと出る。

多重ブースターをふかせ、相棒である<コケコ卿>が駆けつけた。

 

『ココッ!?』

 

コケコ卿が心配そうに鳴いた。

安心させるように大丈夫と言って、ルシアはその背へと乗りこむ。

まだ追える。コケコ卿ならば、追いつける。

 

「追うぞ、コケコ卿。これ以上、無辜の民を犠牲にするわけにはいかない。」

 

 

 

 

青と緑。光と魔。

レイブレードとプラズマブレードが、夜闇を染めあげる。

 

必殺の光翼をふるうコケコ卿。

多数の重火器をはなつサンダービートル。

 

ぶつかりあう、互いの爪と牙。

 

爪に体を裂かれながら、蹴り上げるようにコケコ卿が宙がえりする。

サンダービートルの六本脚が、斬られて大地へと落ちていく。

 

コケコ卿が勝鬨をあげる。

レイブレードをふりおろした。

 

空から青い光が消える。時間切れだった。

規格外兵装レイブレードは、自身を犠牲にふるう捨て身の剣。

動力を失ったコケコ卿が、ゆっくりと墜落していく。

 

サンダービートルのハッチがひらく。

激しい戦闘のあとだというのに、ノーチェに乱れはない。依然として、美しい。

 

意識をうしなったルシアを、ノーチェがのぞきこむ。

兜をはずし、血濡れた顔を晒す。

 

「敵であろうとも、敬意と慈悲は忘れない。

あなたはだれにでも、そう、私にだって優しい。

ずっと追いかけてきてね、ルシア。あなたといるときだけが幸せなの。」

 

血濡れた頬に、口づける。

唇に近づいてから逡巡して、頬へ。

香る血は、どんな菓子よりもあまかった。


2
このエントリーをはてなブックマークに追加
0
0
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択