No.1034225

騎士と魔女

vivitaさん

物語的な騎士道を信条とする兵士、ルシア。
悪辣非道を信条とする武器商人、ノーチェ。
光と魔。対極の存在であるふたりが激突する。

2020-07-01 11:26:12 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:676   閲覧ユーザー数:676

 

ルシアは、廃墟に足を踏みいれた。

廃墟内には、たくさんの銃火器が飾られている。

かぐわしい匂い。香が焚かれているのだろう。

 

「月が綺麗ね、ルシア。」

 

脳をとかすような蠱惑的な声。

廃墟とは場違いな、漆黒のドレス。

長い黒髪は艶やかで、深緑の瞳はまるで宝石。

武器商人ノーチェがそこにいた。

 

「ノーチェ…!貴公、街の人々をどこへやった?」

 

ルシアが細剣をノーチェへむけた。

碑晶質の刀身が熱を帯び、青くかがやく。

 

「そうね。いまごろ、元気にだれかを襲ってるんじゃないかしら?

私があげたヘキサギアがあれば、千人力…

戦って殺して奪って、楽しく遊んでくれてると思うけど?」

 

「人々が望んでいたのは、飢えをしのぐための物資だ。

奪われたそれをとりもどしたというのに、貴公は…!」

 

ノーチェは、恍惚の息をもらした。

アーマータイプごしでもわかる。殺気のこもった騎士ルシアのまなざし。

それをうけて怯むどころか、ねばつく視線でからんでいく。

 

「そんなにみつめないで?ときめいちゃうじゃない。

…あなたの騎士道が折れるところ、なんど見てもたまらないわ、ルシア。」

 

「…もはや容赦はない。悪辣非道の魔女。その命、ここで捨ててもらう!」

 

ルシアが駆ける。姿勢をななめに、肩についた盾を前にむけた。

狙うは、心臓をつらぬく刺突一閃。

 

ドレスの裾から、櫛歯(くしば)の短剣があらわれる。

ソードブレイカー。剣殺しの剣だ。

 

騎士の剣は正々堂々。敵を苦しませずに一撃で。

 

ノーチェには、ルシアの狙いがわかっていた。

ルシアの剣が受け止められる。ソードブレイカーが刀身を喰らい、半分に折った。

 

「かわいそうね。達人の剣も、あまい騎士道に囚われればこの程度。」

 

折れた細剣が踊る。一閃、二閃とするどい剣がはしる。

ソードブレイカーがノーチェの手から弾かれる。ノーチェ自身には、かすり傷ひとつない。

 

「騎士の剣が、折れた程度で止まるなどと!」

 

ふたたび、細剣がノーチェの心臓へ突きだされる。

 

ノーチェは眉をひそめた。後ろへとびのき、時間をかせぐ。

 

廃墟の床を突きやぶって、巨大な機械虫があらわれた。

六本の脚、装甲に覆われた胴体、折り畳まれた羽状のブレード、クワガタのような大顎。

規格外ヘキサギア<サンダービートル>。ノーチェを守るように、たちはだかる。

 

『ガバナーの危機を感知。敵勢力を鎮圧します。』

 

鋼鉄の尖爪、グラップルブレードがルシアへとのびる。

ルシアは盾を手にとり、それを受け流す。

ガバナーとヘキサギア。いくら達人の技があろうとも、力の差は歴然。

威力を殺しきれず、ルシアは壁に叩きつけられた。

 

「あぶないわね。ほんとうに殺されそうだった。

…でも、かわいそうな姿が見れたから、許してあげる。

また会いましょう。

おろかであまくて、すてきな騎士様。」

 

コックピットのハッチがひらく。ノーチェはサンダービートルへとのりこんだ。

大顎でこんどは壁を突きやぶって、外へとでた。

エアフローターとブースターの駆動音。

機械虫が飛び去っていく。

 

ルシアの肉体は衝撃でぼろぼろだった。

それでも立ちあがり、よろよろと外へと出る。

多重ブースターをふかせ、相棒である<コケコ卿>が駆けつけた。

 

『ココッ!?』

 

コケコ卿が心配そうに鳴いた。

安心させるように大丈夫と言って、ルシアはその背へと乗りこむ。

まだ追える。コケコ卿ならば、追いつける。

 

「追うぞ、コケコ卿。これ以上、無辜の民を犠牲にするわけにはいかない。」

 

 

 

 

青と緑。光と魔。

レイブレードとプラズマブレードが、夜闇を染めあげる。

 

必殺の光翼をふるうコケコ卿。

多数の重火器をはなつサンダービートル。

 

ぶつかりあう、互いの爪と牙。

 

爪に体を裂かれながら、蹴り上げるようにコケコ卿が宙がえりする。

サンダービートルの六本脚が、斬られて大地へと落ちていく。

 

コケコ卿が勝鬨をあげる。

レイブレードをふりおろした。

 

空から青い光が消える。時間切れだった。

規格外兵装レイブレードは、自身を犠牲にふるう捨て身の剣。

動力を失ったコケコ卿が、ゆっくりと墜落していく。

 

サンダービートルのハッチがひらく。

激しい戦闘のあとだというのに、ノーチェに乱れはない。依然として、美しい。

 

意識をうしなったルシアを、ノーチェがのぞきこむ。

兜をはずし、血濡れた顔を晒す。

 

「敵であろうとも、敬意と慈悲は忘れない。

あなたはだれにでも、そう、私にだって優しい。

ずっと追いかけてきてね、ルシア。あなたといるときだけが幸せなの。」

 

血濡れた頬に、口づける。

唇に近づいてから逡巡して、頬へ。

香る血は、どんな菓子よりもあまかった。


 
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