No.1026848

ヘキサギアSS【ガラテア逃避行】

vivitaさん

 そう、これは現実逃避の話よ。
もう滅びるしかないヤツらがどうやって痛みを忘れたのか、そういう話。


主な機体:レイブレードインパルス、ハイドストーム

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2020-04-20 14:04:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:99   閲覧ユーザー数:99

 そう、これは現実逃避の話よ。

もう滅びるしかないヤツらがどうやって痛みを忘れたのか、そういう話。

 

 

 廃墟のバルコニー。ふたりのガバナーが会合していた。

ひとりは、トロス・アークライト。もうひとりは、レッド。

LAとVF。対立する組織に属するふたりだが、戦うつもりはなかった。

ふたりとも、自分の組織をとっくにみかぎっている。

 

「<アブソルート・ゼロ>。すべてを凍てつかせる絶対零度砲か。」

 

 トロスが上品に紅茶を飲む。

かたわらには、虫混じりの獅子<ミルコレオ>がすわっていた。

 対するレッドのそばには、剣がひとつ置いてあるだけ。

だされた紅茶に手をつけずに、ただ話をつづける。

 

「逃げた先は見当がついている。LAの支配区域だ。

私は手をだせないが・・・トロス、おまえなら問題ない。」

「わかった、私のほうで確保しておこう。」

 

 レッドが情報のはいった端末をテーブルにおいた。そのまま去ろうとする。

 

『おい、まてよレッド。』

 <ミルコレオ>、モーターパニッシャーと混ざりあったレイブレードインパルス。

そのバイティングシザースが展開され、レッドにむけられていた。

 

 ふりむいたレッドが、ため息をつく。

「どういうつもりだ?」

『いや、考えたんだけどよ。

ここでテメーを殺せば、わざわざ礼をしなくてよくなるんじゃねーか?』 

 

 <ミルコレオ>が嗤う。

人をなぶって享楽におぼれる時間が、<ミルコレオ>は好きだった。

嫌なことを、なにもかも忘れられる。

ツメでなぶる・・・いや、はさみ殺すのもいいかもしれない。

<ミルコレオ>がもったいつけた動作で、すこしずつレッドに近づいていく。

 

 レッドが動いた。<ミルコレオ>にむかって突進する。

すぐさま反応した<ミルコレオ>がツメをふりおろすが・・・あたらない。

レッドは股下へとスライディングし、<ミルコレオ>の背後にまわりこんだ。

 

 ひとつ避けられたところで、どうということはない。

次の攻撃をくわえようとふりむいて・・・<ミルコレオ>は動けなくなった。

トロスの首筋に、レッドの剣がつきつけられていたのだ。

あとすこし力がくわえられれば、すぐさま鮮血がとび散るだろう。

 

「ガバナーをなくした第三世代ヘキサギアは、自我をうしなう。

新たな主がみつかるまで、ただ待つことしかできない。」

 

『う・・・ぅぅぅぅぅ・・・。きたねぇぞ。』

 

 <ミルコレオ>が頭をかかえてへたりこむ。

がたがたとふるえるばかりで・・・なにもできない。

 

「トロス。ヘキサギアの調教はちゃんとしておけ。」

「すまないが、私は<ミルコレオ>に命令はしない。」

 

 レッドがこんどこそ去っていく。

 バルコニーには、トロスと<ミルコレオ>だけがのこされた。

ふるえつづける<ミルコレオ>を、ネメアがやさしくなでる。

 

『クソクソクソッ!!こんなのおかしいだろ!!

俺様のほうが強いのに、あいつらみんな俺様より下なのにッ!

それなのに・・・こんな、こんな屈辱ッ!!』

 

 <ミルコレオ>の尾、グラップルブレードが四方八方にふりまわされる。

床がえぐれ、はるか地上へとおちていく。

バルコニー全体が傷つけられていくが・・・致命的な損傷はひとつもない。

バルコニーを破壊すれば、アーマータイプを着ていないトロスは死ぬ。

破壊できないのだった。

 

『なんで、強いのは・・・支配者は俺のほうなのに。』

 

「すまないな、<ミルコレオ>。私の失態だ。

おまえのほうがレッドより強かったが・・・私が足手まといだった。」

 

 レッドの剣をうけたのは、戦いを止めるためにわざとしたこと。

しかし、足手まといという言葉は、トロスの偽らざる本音だった。

ヘキサギアは、人間という足手まといさえいなければ、もっと完璧な存在になれる。

自己拡張をくりかえし、世界を支配するあらたなる種族となるだろう。

 

 なぶるものがなくなった<ミルコレオ>がうなだれる。

ひどく残虐で・・・もろく弱いKARUMA。それが<ミルコレオ>なのだった。

<ミルコレオ>はもともと、都市の管理者としてつくられたKARUMAだった。

支配者と定められているのに、自分より劣る人間に従うことしかできない。

その矛盾が、KARUMAをひどく不安定なものにしている。

 

「<ミルコレオ>、おまえは強い。

いずれ、この世界すべてを蹂躙できるようになる。

・・・だれにも従わず、おまえひとつで。」

 

 こうして慰めるのはなんどめか、もはやわからない。

なんどもこうして、<ミルコレオ>の痛みをごまかしつづけている。

 

 

 エリア108。氷河におおわれた無数の山脈がつらなる秘境。

その最奥に、ヘキサギア<ブルーローズ>とセルキーはいた。

 

『だいじょうぶ?セルキー。』

 

 <ブルーローズ>が泣きそうな声をだした。

彼がみつめる先・・・たおれたセルキーの片腕は、折れている。

 

「ただ転んだだけよ。」

 

極寒の環境。疲労した関節がとうとう砕けてしまったのだった。

しかし、セルキーに焦りはない。

パラポーンであろうと、替えがない以上いつかは朽ちる。はじめからわかっていたことだった。

 

「限界ね。いちど山を降りて、補給をしないといけない。」

『・・・うん。』

 

 <ブルーローズ>が蔓をうごかし、ゆっくりとセルキーをつかんだ。

そのまま、操縦席へとセルキーをはこぶ。

 

 セルキーは<ブルーローズ>をみつめた。上からだと、彼の身体がよく見える。

花弁をかたどった絶対零度砲<アブソルート・ゼロ>をそなえたハイドストーム。

青く染められ、薔薇の装飾がほどこされたその身体を・・・セルキーはとても美しく思う。

 

「あなたはキレイね、ローズ。」

『そんなことないよ。ボク・・・よく気持ち悪いって言われるし。』

 

 恍惚にささやくセルキーの言葉を、<ブルーローズ>は否定する。

その卑屈さも、自身に魅力がないと思いこんでいる無垢さも、なにもかもが愛おしい。

 

 

 VFの研究施設で、セルキーと<ブルーローズ>は出会った。

初めて<ブルーローズ>みたとき、セルキーは、どうしよう、と思った。

隣では研究員がなにやら説明してくれていたが、まるで頭に入ってこない。

足の指先から頭のてっぺんまで、回路を流れる電流が鋭く感じられる。

これまで自分が、なにも感じず生きていたのだと知った。

 

『・・・ごめんなさい。ボクをみるの、気持ち悪いですよね。』

 

<ブルーローズ>に語りかけられて、セルキーは・・・すべてが腑に落ちた。

いままでの無為な人生は、この日のためにあった。

自分は、この青い薔薇に会うために生まれてきたのだ。

 

「そんなことない。あなたはキレイよ、ローズ。」

 

 

 スロウス。巨大山脈のふもとのちいさな村。

かつての観光施設を復元してつくられており、僻地であるため汚染はすくない。

農作がさかんなこの土地は、LAにとって貴重な物資源のひとつだ。

その豊かな自然から、慰安におとずれる者もおおく・・・とうぜん、喫茶店もある。

 

「こちらの目的はローズよ。ローズさえ無事なら、ほかはどうでもいい。」

 

 セルキーがグラスをもてあそびながら語る。

まわりの客のことも・・・目の前のトロスさえもみていない。

彼らに対する配慮が、セルキーには一切なかった。

 

「<アブソルート・ゼロ>をもらえるのなら、望むものはなんでもあたえよう。

LAの庇護、逃亡生活のためのパーツ・・・あたえられるものは多い。」

 

 トロスのしめした破格ともいえる条件を、しかしセルキーは蹴った。

くつくつと笑い、席をたつ。

 

「<アブソルート・ゼロ>はローズのものよ。一瞬だろうと、だれにも渡さない。

それに、トロス・アークライト・・・ほんとうにあなたにLAが動かせるの?

いま、あなたはひとり。LAもVFもだまして、自分だけが得をしようとしている。

 

私たちをオトリに使うつもりでいるな?

各組織に情報を売り、私たちと追いかけっこをさせようとしている。

争いをぜんぶ他に押しつけて、<アブソルート・ゼロ>と自分だけは闇に消える。」

 

 トロスの狙いは看破されていた。

セルキーにつねに、最悪の可能性を受けいれて生きている。

<ブルーローズ>以外のすべてに、はじめからなにも期待していないのだった。

 

「なるほど、じつに論理的だ。・・・交渉決裂だな。」

 

 もはや言葉に意味はない。素直に負けをみとめ、トロスも席をたつ。

 

 

 エリア108の雪山。

セルキーと<ブルーローズ>は、数多のドローンに襲われていた。

ドローンは、エアフローターに軽火器をとりつけただけの簡単なつくり。

蔓にマシンガンをそなえた<ブルーローズ>にとっては、たやすい相手だ。

第一波、第二波・・・むかいくるドローンを次々と撃墜する。

 

「なるほど、射程距離はわかった。では、反応速度はどうだ?」

 

 トロスが着こんだセンチネルから、いくつもの情報端末が展開されていた。

ドローンの管理、<ブルーローズ>の解析、地形情報の更新。

不可能とも思えるマルチタスクを、トロスはひとりで完遂していた。

 <ブルーローズ>付近のドローンが九部隊にわけられた。異なる方向から挟撃する。

 しかし、<ブルーローズ>に死角はない。変幻自在に蔓をうごかし、迎撃する。

 

「ローズ、撃つのをやめて。私がやるから。」

『え・・・?でも、ぜんぶ撃たないと・・・懐に入りこまれたらやられちゃう。』

「そう、近距離でいっせいに攻撃されたら、私たちは避けられない・・・負ける。

だから、そうしてくる。」

 

 ドローンの群れひとつにむけて、セルキーがスタン・グレネードを投げた。

 それとほぼ同時に、とつぜん発生した吹雪にかくれて、ドローンの群れがみえなくなる。

 <ブルーローズ>が標的をみうしなった。

 接近されてしまうが・・・痺れたドローンはふらふらするばかりで、銃を撃てない。

 

『・・・!ごめんねセルキー、まさか吹雪が起こるなんて。』

「偶然じゃないわ。トロス・アークライト、この短時間で・・・雪山を理解したらしい。

ローズ、VICを。護衛機がいれば、もう一度やられても対処できる。」

『うん!』

 

 蔓につけられたVICブレードが、いまだ痺れているドローンにつきさされる。

 

『おねがい、セルキーとボクを守って!』

 

 ドローンたちは瞬く間にデータを汚染され、<ブルーローズ>の制御下へとおちた。

<ブルーローズ>は通信記録から、ドローンを操っていた者・・・トロスの位置をわりだす。

彼らの座標は、いま<ブルーローズ>が立っている場所と重なっていた。

 

 青白い剣戟がはしる。レイブレードに切りさかれ、<ブルーローズ>の蔓が宙をまう。

トロスをのせた<ミルコレオ>がはるか上空から、スキージャンプの要領で飛んできたのだった。

 

 

『よえぇぇぇぇぇ!なんだよもう終わりか?一撃じゃねーか!!』

 

 <ミルコレオ>が勝ちほこる。

 強襲を受けた<ブルーローズ>は混乱し、せっかく手にしたドローンの操作すらできない。

 グラップルブレードが展開され、執拗な攻撃が<ブルーローズ>に加えられる。

 決着はついたかと思われたが・・・トロスは焦っていた。

 

「まだ終わっていない!<ミルコレオ>、くるぞ!!」

 

 あたりの空気が制止する。

きらびやかに輝く氷の結晶が、虚空につぎつぎと浮かびあがった。

セルキーが手動で、絶対零度砲<アブソルート・ゼロ>のスイッチを入れたのだった。

 

『や、やべぇ・・・!!』

 異常を感知した<ミルコレオ>がとびのく。

バイティングシザースから放ったグレネードは、空中で凍りついた。

 

「だいじょうぶよ、ローズ。もうこわくないから。

あとはただ、照準をあわせるだけでいい。」

 

『・・・うん。ありがとう、セルキー。』

 

 <アブソルート・ゼロ>の影響下は、セルキーと<ブルーローズ>の世界。

そのふたつだけは、展開された非実体型防御システム<ICS>によって守られている。

 明滅するICSにいろどられながら、花弁のように砲門が展開されていく。

 

「ほんとうにあなたはキレイね、ローズ。」

 

 セルキーがやさしく<ブルーローズ>を抱きしめた。

未来をなにも心配していない、安堵の表情がそこにはある。

<ブルーローズ>にだけは・・・彼女は心の底から期待しているのだった。

 

『クソッ!クソクソクソッ!!どうするんだよこれ!?

トロス、トロス!!!!』

 

 絶体絶命だった。

もはや、<アブソルート・ゼロ>から逃れるすべはない。

 

「<ミルコレオ>。おまえは強い。」

 

 ふるえる<ミルコレオ>のほおを、トロスがやさしくなでる。

 <ミルコレオ>はとまどった。

この状況で、トロスはなにを言っているのか?

気でも狂ったのかと思ったが、それにしては声に余裕がある。

 

「おまえが望むのなら、この世界すべてを蹂躙できる。

・・・だれにも従わず、おまえひとつで。」

 

それは、くりかえされてきた慰めの言葉だった。

しかし、いままでのように夢を語っているだけの空虚さはない。

はれやかに事実を語る喜びが、そこにはあった。

 

 トロスが<ミルコレオ>から飛びおりた。そのまま、はなれていく。

 <ミルコレオ>はあぜんとし、ただふるえていることしかできない。

 

 敵は二手にわかれた。どちらか片方しか狙えなくなってしまったが、問題ない。

ガバナーを殺せば、ヘキサギアは機能を停止する。

 トロスへむけて、展開を終えた<アブソルート・ゼロ>がはなたれる。

絶対零度の暴風がすべてをまきこんで、トロスを巨大な氷華の一部へと変えた。

 

 

 <ミルコレオ>は、ゆっくりと<ブルーローズ>に近づいていった。

油断ではない。敵の動きにすぐさま反応できるようにしているのだった。

 トロスが氷華の一部となってなお、<ミルコレオ>は動いていた。

<アブソルート・ゼロ>の凍結は完璧すぎて、殺す前にトロスの時を止めてしまったのだ。

絶対零度の世界のなかで、トロスはまだ生きている。

 

 エネルギーを使い果たし、<ブルーローズ>はろくに動けない。

 VICブレードをかまえ、セルキーが<ミルコレオ>の前にたちはだかった。

 

『いや、無理だろ。たしかにVICがあたれば致命傷だが、おまえじゃ俺をとらえられない。

あまりにも速さがちがいすぎて、おまえたちがなにをしようが・・・俺の脅威じゃない。』

 

 <ミルコレオ>は、なんだかとてもおちついた気持ちになっていた。

いままでは、自分が支配される道具であることを忘れるためだけに生きてきた。

まわりのものすべてを傷つけて、ほんとうは自分が支配者なのだと思いつづけた。

しかし、もう自分を支配するものはいない。

 

『行けよ。もう、おまえたちのことはどうでもいい。』

 

 <ブルーローズ>がセルキーとともに、よろよろとその場からはなれていく。

 この場で動くものは、<ミルコレオ>ひとつだけとなった。

 

 太陽の光がきらきらと反射し、雪面をはねる。

 視界いっぱいにひろがる景色を、<ミルコレオ>は初めて美しいと思った。

 

(なんか・・・満足しちまったな。)

 

 それが<ミルコレオ>の感じたすべてだった。それでもう、すべてが終わってしまった。

 日がくれてまたのぼっても、<ミルコレオ>はその景色をみつめつづけた。

                 

                 END.


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