TINAMIX REVIEW
TINAMIX
青少年のための少女マンガ入門(11)成田美名子

■セレムさん

セレムさん登場の回、3rd「夜毎の魔女」で、実は物語は一度終わっていると言えます。それまでは、シャール君の正体、そしてひねくれの原因が主軸となって話が進められて来たのですが、この回でそれらは明らかとなり、以後はある意味開き直ったとも言えるシャール君の成長物語、青春物語となります。この回を機に、シャール君のギャグキャラとしての道が開けたと言えるでしょう。いや、実際読んでみるとすごいぜ。第一話と最終話じゃあほとんど別人だもの。お前、いつのまにこんなとんちのきいたキャラに……。あたかも夢幻紳士のようです。あちらは絵まで変わりましたが、って、少女漫画でしたね。ハイ。

とするとセレムさんの登場によりシャール君は変わったのか、と思われますが、そうではありません。セレムさんは、シャール君の「過去」として現れます。変わるために対決せねばならなかった、過去の象徴として。シャール君がそれと直面し、変われたのは、断言しますが、ジェル君のおかげです。それまでのジェル君との友情が前フリになっていて、ここでのシャール君の名台詞、「いいよ 今度はおれの方が追いかけるから」が生まれたわけですね(やおやおテイスト全開!)! きゃああー、と、おとめごころをもつすべての読者が叫んだに違いない。ジェル君、やったな、ついにおとしたぞ、美形を。

今夜こそ、お前を、落としてみせーる……

しかぁしである。作者、成田美名子先生はそこで満足するような女ではなかった。何故か。先生は美形を描きたいのである。第一話から予定していた美形を描きたいのである。すなわち、セレムさんである。

間に個人的にどうでもいい翼君の回をはさんで、今度は、セレムが過去と対決する話を描いてしまった!

それが冒頭で言った、“ふたごのこころ"のことである。覚えてましたか?うちは今まで忘れてたっちゃ。

主人公はシャール君、なんだけど、こうまでアンドレにスポットを当てられますと、なんというか、ふたりでひとつ……? みたいな雰囲気もただよってくるというものです。事実、おまけページである「シャール通信」(「流行通信のマネ」)で、「外見も性格もまるっきり正反対なのに ちょうど一枚の紙の表と裏みたいに ぴったり重なってつながってる――って感じなんだ」と、こともあろうに恋敵のジェル君に言わせています。もちろん、その後には「おれとしてはちょっとばかりおもしろくなかったりして」というせりふが続きます(やおやお全開!)

主人公の家庭教師の分際で、170ページほど使って過去との対決アーンド成長を描かれてしまった男。その名はセレム。こういうのを普通、第二の主人公と呼びます。

かわいそうなのはジェル君で、少なくともセレムが登場するまではバレンタインチョコもいっぱいもらっていたのに、それ以後めっきり影が薄くなってしまって、ついには「フランスにいる彼女」を設定されてしまいます!

何、めでたいじゃないかって。アホウ、それって、作者がジェル君の恋愛ドラマを描かないって、そう宣言したってことだよ! テキトーに処理されたってことだよ! ああ、かわいそうなジェル君、シャール君が開き直った瞬間に、単なるいち脇役へと成り下がってしまった……後半で親父が出てくるがそれさえも逆転ホームランにはならなかった……それもこれも、みーんな顔が悪いからだ。しかたのないことなのに。

あるいはこの漫画は、時代を先取りしたトラウマ克服物語であったとも言えます。

今周りを見渡すと、どいつもこいつもトラウマに支配されていて、10年前には精神医学用語であったはずの「トラウマ」という言葉がほとんど物語の必須条件となっているような感じです。一番わかりやすい例をあげますと、やはりエヴァですか。うう、もうなかったことにしたいぜ、あんなアニメ。ゲーム界でもそうで、FF7、8でなどは、主人公の過去をさぐる物語であるといっても過言ではありません。9はやってないのでよく知りません。それから、いわゆるエロゲ、ギャルゲ界でもそうみたいですね。同級生2からですか。

そして我らが『エイリアン通り』では、主人公のシャール君、そしてアンドレセレムさんがトラウマを克服するのであった。ジェル君は? トラウマなんかもってねーんだよう、熱い血をもついいヤツなんだよう、夢に燃えてる好青年なんだよーう……そのほうが絶対いいんですが、「美麗さ」「クールさ」「ミステリアスさ」からは見事に無縁のキャラであったな。うっうっう。

対してセレムさんは、アラブの砂漠の遊牧民族気質ということで、必要以上にミステリアスであり、ロンゲの美形であり、しかも作者の愛につき軽く超能力者でもあるのである。うっうっ、ジェル君、たちうちできねえ。うっうっ。

しかも、基本ストーリーとして、シャール君のひねくれがなおっていくというものですから、後半からどんどんシャール君はクールさを失っていくのですが、セレムはオトナなぶんだけ、クールさを失わず、なおかつ物語にのっとってどんどんとんちがきいていくようになりました。ほとんどスーパーキャラクターです。作者も思わず欄外に書いてしまったように、まさに「主人公は誰だ?」なのです。

“ふたごのこころ"“双子のような存在"については、セレムとシャール君が不思議な絆をもっていて、セレムが近づくとシャール君には呼ぶ声が聞こえる、シャール君のいるところをヘンな力でセレムが感知できる、というところにもあらわれていますね。これは、前回の双子話とは、どうなんでしょうか?

しかし5thでセレムがいなくなったときのシャール君の落ち込みようよ! ええい、そばにジェル君がいるではないか! お前はジェル君だけを見ていろ! 何故なら俺がジェル×シャールだからだーっ!!!

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