TINAMIX REVIEW
TINAMIX
青少年のための少女マンガ入門(11)成田美名子

前回のここで、「双子」について語られていたけど、いろいろあって、というか俺は知らないのばっかだったけど。だけど、何故成田美名子作品が言及されてないのか?と、ちょっと言いたくなってしまいました。『CIPHER』はまだ読んでないんですけど、うわさを聞くかぎりそのまんま双子の話みたいですね。そいで今日のテーマ、『エイリアン通り』も、ある意味、双子(のような)こころをうたいあげた作品だといえるでしょう。

■アンドレ

エイリアン通り
『エイリアン通り』(全8巻)
(c)成田美名子
白泉社 花とゆめCOMICS
現在は、文庫版(全4巻)で入手可能。ちなみに、[えいりあんどおり]ではなく、[えいりあんすとりーと]と発音します。

『エイリアン通り』は70年代のはじめから80年代の終わりにかけて、あのエリート誌、ララで連載された少女漫画で、舞台はアメリカ、ロサンゼルスのカレッジ、多国籍な若者がわんさか集う、まさに“エイリアンストリート"なところでの“永遠の青春グラフティー"(白泉社文庫のオビより)です。主人公は、アラブの石油成り金の息子のシャール君。砂漠出身のくせに豪奢な金髪が美麗なひねっ子だ。実はシャール君は成り金の息子ではなくアラブの王族であり、父ちゃんが掟を無視してイギリスの女優との間につくった子供なもんだから、生まれたときより特殊な環境におかれており、それが原因でひねくれたところをフランス人で記者を目指すジェラール君(ジェル君)やら家出少女の翼君やらとの出会いによってだんだん心を開いていく、というのが基本ストーリーです。

と、簡単にいいましたけどこれがまあ良く出来ていて、日ごろ永井豪なぞを専門としている私にはドキドキでした。とにかくバランス感覚が良くって、名作として今日まで語り継がれているのも大うなづきというもの。

とまあそのへんは真面目なまんが読みの人たちに任せておいてもいいので、あちきの興味としては、セレムさん。これにつきます。

シャール君は王族の出でありますので、メイドやら、料理人やら、とにかくその辺の「お付きの方々」にかしずかれて幼年時代をおくったというのは想像にかたくない。ただ髪の毛が金髪なばかりに一切表に出せない病原菌みたいな生活ではあったので、父ちゃんも不憫に思ったのか、「この子の手助けとなれーっ」とばかりにアンドレを配置しました。それが、なにを隠そう、シャール君の家庭教師として登場した、セレムさんなのでありました。

ここで断言してしまうが、成田美名子先生は絶対にオスカルよりアンドレが好きだったはずだーーーっ!!!

つまり、物語は、主人公であるシャール君の成長物語なわけですが、明らかに作者はシャール君よりもセレムのほうを愛している。セレムさんは白泉社文庫でいうと第2巻、3rd「夜毎の魔女」ではじめて物語に登場するわけですが、もちろん第一話から回想シーンに出て来た。このへんが、いわゆる僕のいう「バランスの良さ」で、思いつきだけで描いている永井豪には絶対に真似の出来ないところでもあります。何?

いやちげーぞ、豪ちゃんは無意識であれだけのストーリーを垂れ流してしまえるからすげーんだぞ! 神でしかないぞ! はあはあ、全世界冷奴教団。

読み終わって話し合ったのですが、やはり結論としては「セレムが全部持っていった」「翼君が気に食わない」というところで落ち着きました。翼君については後述。

さて、セレムさんがどういうキャラクターだったかというと、いわゆる「世界線を変更するキャラ」であったと申せましょう。彼の登場によって、物語のすべての基本ラインが変更されてしまったのです。ドラゴンボールでいうと第一には亀仙人、第二にはラディッツ。デビルマンでいうと飛鳥了の覚醒。そのくらい衝撃的なキャラクターであり事象でありました。

■ジェル君

物語は、主人公であるシャール君と、ジェル君との出会いによって始まります。白泉社文庫第1巻はほぼ、この二人の友情を主軸とした、青春物語として読めます。つまり、やおやおテイスト満載なわけですが、それはまあいい。

だがしかし! ジェル君が読者からのバレンタインチョコ投票で2位につけていられたのも、アンドレセレムが登場するまでだった。

セレム登場後、当然のごとくチョコはセレムに流れ、ジェル君は3位。ファン人気と作者の愛は乖離することも多いが、この場合完全に合致。やはり、顔が悪いジェル君では、長髪美形のセレムさんにはかなわなかったということである。

少女漫画の三大エレメントとして、「美形さ」「クールさ」「ミステリアスさ」というのがあります。ありますというか、今勝手に作ったんだが、とにかく主人公および、人気のあるキャラはこの三つをそなえている場合が多いです。『エイリアン通り』も例外ではありません。初登場時のシャール君は、まさにその化身。演劇部で女装をすれば絶世の美女とうたわれる美形、銃を持った正体不明のトレンチコートに追われてもあくまで冷静さを保ち、大学の友人たちにもその圧倒的なひねくれぶりで本当の姿をみせない。しかも、ただの成り金の息子じゃないんじゃないかという思わせぶり。そりゃ、もてるわ。

対してはじめの相方であるジェル君のほうはというと、ただのいいヤツです。いや、しかたないじゃないか。そうなんだから。ジェル君までも美形でクールな奴にしてしまったら、シャール君が際立たないだろ! ジェル君までひねくれてたらシャール君のひねくれぶりがつかめないじゃないか。

そう、ジェル君は、連載開始直後の、読者への物語紹介限定キャラとも言えるのです。ジェル君の存在は、シャール君を引き立てるだけのもの。仮に成田先生に、ジェル君で一本描け、と言っても、描けないでしょう。ジェル君はシャール君を際立たせるためのキャラだからです。それに、作者も美形を描きたかろう。

しかし、セレムは違います。成田先生は、セレムのみで一話描いてしまったのです。それが5th、「鷹は舞い下りた」でした。

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