漫画的男子しばたの生涯一読者
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漫画的男子しばたの生涯一読者

■すごいひさびさな人たちがいろいろ〜単行本

・松本大洋「GOGOモンスター」(小学館)

GOGOモンスター
「GOGOモンスター」
(c)松本大洋

10月に出た単行本の中で、個人的に最も大きなイベントだったのがコレ。傑作「ピンポン」連載終了から3年以上が経った松本大洋。それから今までの間、時折読切を描いていたけれども、まとまった作品はホントーに久しぶり。しかもこの単行本、450ページまるまる描き下ろしなのである。当初は1999年夏発売と予告されていたこの単行本だが、予定が伸びに伸び、ようやく発売に至った。これ以上ないくらい満を持した本だけに、装丁もやたらと気合いが入っている。厚紙でできたカバー、本体もハードカバーで小口(要するに本文ページの紙の端の部分)がピンク色に塗られている。ちょうど子供向けの童話本のように丁寧な作りなのだ。それだけにお値段もそれなりで2500円+税。漫画1冊の値段としては高いけれども、中身のクオリティ、それから一つのモノとして見た場合の本の存在感から考えれば納得がいく。

「GOGOモンスター」の舞台は生徒が減りつつある小学校。主人公である3年生男子の立花雪は、ほかの人には見ることのできないものを感じることができてしまう少年だった。彼は学校にずっと存在し続けている精霊のようなものの存在を常々感じており、そのものたちの内の悪意ある勢力が強まってきつつあること、そして自分が年齢を重ねるごとにそのものたちを感じる能力が弱まりつつあることを恐れていた。そんな彼を、唯一の友達であるクラスメイトのマコトは心配しながら見守っている。

「ほかの人には見えない世界」そのものをズバリ描かずとも、その存在をひしひしと感じさせる演出力、端々までビシッと決まった画面構築力などなど、眺めているだけでもシビれてしまう。見えない、説明できないような存在を描いているだけあって、内容的には難解ではあるけれども、何度も読み返しじっくり取り組む価値はありすぎるほどにある。なお、松本大洋は11月末発売予定の「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)の新増刊「IKKI」で、ついに新連載を始める予定とのことだ。そちらも注目して待つべし!

・松永豊和「バクネヤング完全版」(小学館)

バクネヤング完全版
「バクネヤング完全版」
(c)松永豊和

こちらもすごく久しぶりな登場。1〜2巻が出た後、長らく休眠していた「バクネヤング」だが(一度、ヤングサンデーで第3部スタートの予告が掲載されたが結局掲載はされなかった)、これまでの2巻分に256ページの描き下ろしを加えて「完全版」としてこれまた2500円、化粧箱入りハードカバーの豪華本になって発売されたのである。「バクネヤング」は、希代の暴力男バクネヤングがヤクザの親分を人質にとって大坂城に立て籠もるところから始まる。世界征服が目標であると本気で語るバクネヤングに、警察、ヤクザなどなどが振り回され、凄絶なバトルを繰り広げる。破壊はそりゃもうばんばん行われ痛快至極なのだが、妙に雰囲気が呑気なのがこの作品のユニークなところ。緻密だけどユーモラスな絵柄で個性的なことこの上ない。描き下ろしで追加された256ページは、旧単行本第2巻で大活躍だったヤクザの親分の娘がメインとなってお話が進む……のだが、筆者としてはなんだか食い足りなかった。バクネがあんまり活躍しないので、旧単行本時点で一番の魅力だった、バッサバサって感じのバイオレンスシーンがあまりなく、カタルシスがちと弱いと感じた。もっともっとムチャなことやってくれると良かったんだけど。とはいえ、そこまでの展開だけでも一見の価値は絶対にあると思う。

・作:吉本昌弘+画:木崎ひろすけ「A・LI・CE」1巻(角川書店)

「A・LI・CE」
「A・LI・CE」1巻
(c)吉本昌弘
木崎ひろすけ

ひさびさ単行本組をもう一つ挙げておこう。この作品の作画者・木崎ひろすけの単行本は、コミックビームで連載された「少女・ネム」1巻以来となる。この人の、トーンを使わずガシガシ描き込む細密な作画は、ほれぼれするほどにクオリティが高い。それだけにときどき煮詰まってしまうようでかなり遅筆なのが惜しまれる。原作自体はアニメにもなった作品なので、そっちで観たという人もけっこう多いかも(筆者は観てないです。すんません)。この物語は、舞台となっている未来世界の政府の母体となった組織の生みの親である女性「アリス」を巡る冒険活劇なのだが、「コミックエース」掲載時は壮大なストーリーのわりに展開が遅く一話ごとのページ数も多くなくて、話をつかみづらいことがあった。でも単行本でまとめて読むと、だいぶどういう話なのかが分かってくる。願わくばこの調子で、しっかりと完結まで持っていってもらいたい。できればその勢いで、未完のままである過去作品「少女・ネム」「GOD GUN世郎」も……といいたいところではあるけれど、そこまでは望みますまい。

・ウエダハジメ+作:GAINAX「フリクリ」1巻(講談社)

FLCL
「フリクリ」1巻
(c)ウエダハジメ
GAINAX

アニメ原作モノをもう1冊。GAINAXアニメ「フリクリ」の漫画版であるこの単行本だが、作画を担当しているウエダハジメのセンスのぶっ飛びぶりが尋常でない。本数の少ない、ラフにさえ映る描線なのだけど、この線はなかなか引けない。シンプルだけど垢抜けていて、こりゃものすごくカッコイイ。爆発するような勢いのある大ゴマ、変則的なテンポのネームで読者をとにかくビックリさせる。ダイナミックでテクニカルな表現に度胆を抜かれる。眺めていて、恐ろしいほどに楽しい。表現的に、間違いなく、現代漫画のとある先端を突っ走っているといいっていいだろう。お話はこれだけじゃ分かったような分からないようななんだけど、読み進めるのがこれだけ気持ちいい作品はそうそうあるもんじゃない。スゲエ。


楽楽
「楽楽」
(c)宇仁田ゆみ

・宇仁田ゆみ「楽楽」(白泉社)

ヤングアニマルで読切を中心に活躍している新鋭・宇仁田ゆみの初単行本である。スッキリとしたポップな絵柄で、青臭さ漂う青春(ときに恋愛)模様を瑞々しく描く人だ。まだ漫画としてもの足りないところもあるのだけど、それにはひとまず目をつぶっちゃいたくなるくらいのフレッシュな魅力がある。何より読後感が爽やかなのがいい。


・樋口橘「MとNの肖像」(白泉社)

MとNの肖像
「MとNの肖像」
(c)樋口橘

前回もいったように少女漫画はさほど強くない筆者だが、定期購読している雑誌のうちの一つ、「花とゆめ」において最近最も楽しみにしているのがこの人。目の周りの描き方とかはちょっと濃い目なのだけど、全体にとてもサッパリした絵柄で、非常に楽しいドタバタコメディを描く人だ。この作品は、美人だけど実はマゾヒスト(M)な女の子と、美少年だけどナルシスト(N)な男の子のラブコメである。ちょいと思い込みの激しいキャラたちがバタバタ慌てるさまが微笑ましくていいし、ラブコメぢからもなかなか強力。絵柄的に親しみやすいうえパッと目を惹く個性があるし、お話も十分楽しく仕上げるだけの力は持っている。前単行本の「スワンレイク」も良かったが、この作品はさらに面白くなっている。これから少女漫画に挑戦してみようって人でも読みやすいと思われるし、そういう面からもオススメしておきたい。


地獄
「地獄」
(c)西岡兄妹

・西岡兄妹「地獄」(青林工藝舎)

個性あふれる兄妹の初単行本。収録作品は1992〜1997年のガロに掲載されたもの+描き下ろし一作。不安を感じさせるようでいて、これはこれでバランスの取れた独特の画風で、夢の中の世界を見せているような不思議な味わいの作品を描いている。ストーリーを追うというよりも、どことなく落ち着かない他人の夢の世界を追体験するような1冊。パッと見はちょっぴり近寄りにくいような雰囲気はあるけれども、読んでみると案外すんなりのめり込んでいくことができる。

・ほしのふうた「秘蜜のささやき」(東京三世社)

秘蜜のささやき
「秘蜜のささやき」
(c)ほしのふうた

えー、エロ方面からもいってみよう。最近のロリータ系では最も気にいっている作家さんの初単行本。この人のいいところは、子供たちをいかにも子供らしく描けることだ。といってもリアルってわけではなく、子供向けのちょっぴりやんちゃな雑誌にでも載っていそうな、ワイワイ楽しげな空気があふれているのである。子供たち同士が飛んだり跳ねたりして遊び回っているシーンが、なんだかすごく楽しそうでイキイキしている。とはいえ、エロシーンは実はけっこう実用的だったりするところがあなどれない。くねくねした身体のライン、それから子供らしい性に対する好奇心プラス恥じらいの表情が、ピンポイントでヒットするのだ。

・祭丘ヒデユキ「レ研」(司書房)

オーレ!
「レ研」
(c)祭丘ヒデユキ

これはぶっ飛んでてスゴイです。タイトルにある「レ研」とは「レイプ研究会」の略なんだけど、実にご立派なギャグの数々に思わず爆笑してしまう。表題作の第1話、第1コマめで爽やかそうな男が大学のキャンバスでかわいい女の子を見かけ「あ、汚れを知らぬ清純な乙女だ 平たく言うと歳をわきまえぬ少女趣味」と呟いたと思ったら、2コマめでは「即レイプ」。レ研の挨拶である「オーレ!」(「Oh!レイプ最高」の略)などなどの細かなネタ、そしてそこまでの展開とはまったく関係なく宇宙船→学園モノと舞台を移しながらダイナミックにボケまくる最終話の大ネタなど、至るところに読者を大笑いさせてくれるようなギャグを仕込みまくっていてとても頼もしい。エロ+ギャグの人としては最高レベルにセンスが良い。この単行本収録作品で何皮かムケた感じがあり、今後も要注目。まああんまりネタをバラしてもしょうがないんで、イッパツ読んでみてくだせえ。>>次頁

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