漫画的男子しばたの生涯一読者
TINAMIX
漫画的男子しばたの生涯一読者

■でも単行本も読むのだ

バカとゴッホ
「バカとゴッホ」
(c)加藤伸吉

・加藤伸吉「バカとゴッホ」全2巻(講談社)

9月発売の単行本で真っ先に取り上げたいのがコレ。「国民クイズ」「流浪青年シシオ」で知られる加藤伸吉の最新単行本だ。モーニング新マグナム増刊で連載された表題作に、読切「イサムダイアリー」「MY MHz」を1巻に、描き下ろしの「L&P LOVE and PARAPARA」「夜ゲラ」を2巻に加えて全2巻同時発売となった。

「バカとゴッホ」は、不器用で乱暴ででも純粋なバカ・境ジンと、彼とバンドを組む相棒・正二、それから服作りに情熱を燃やす少女・通称ゴッホの3人を中心とした、「青春物語」としかいいようがないほどに青春した作品である。ジタバタし、途中さまざまなことにぶち当たりながらも、泥臭く夢に向かって進んでいく彼らの姿がイキイキと描かれている。途中ちょっと展開的にのろくなってしまうところもあるのだが、とくに第1話の高揚感、ガムシャラなパワーの炸裂ぶりは、鳥肌が立つほどに気持ちが良かった。加藤伸吉は、絵とセリフで自分ならではのメッセージを高らかに歌える実にパワーのある描き手だ。「バカとゴッホ」以外の短編も、漫画読者としての幸せを噛み締められる逸品が揃っている。最近作品を見ないが、ほかの人ではなかなか描けないようなものを描ける実力を持った人だけに、そろそろ再登場してくれることを願ってやまない。

・作:狩撫麻礼+画:いましろたかし「ハード・コア」上下巻(エンターブレイン)

ハード・コア
「ハード・コア」
(c)狩撫麻礼
いましろたかし

こちらも漫画マニアならぜひ。

学もなく商才があるわけでもなく、外見的にも冴えない。そして人付き合いも苦手で社会性なし。ないない尽くしで一般社会からはどうしても外れてしまう。だからといってワルになって一般社会を脅かすこともできない、そんな男たちの哀愁漂う生き様を描く物語である。酒を呑むと暴れるけれども別に強くもない権藤右近、頭足りなめな牛山。この二人と、彼らが見つけた謎のロボットを中心にお話は展開する。ロボットが出てくるといっても、彼ら程度ではそれを社会的に上に登れるような有益なことに使えるわけでもなく、ただ一緒に生活するのみ。結局貧乏くじをひき、負けていくしかない男たちの姿を見続けていくうちに、彼らがどうしようもなくいとおしくなってくる。こういった物語を描くと、狩撫・いましろコンビはまったく絶妙だ。そういえば「コミックビーム」(エンターブレイン)10月号で、例のコンビであるらしいハーツ&マインズ「非国民」も連載終了となった。

イヌっネコっジャンプ!
「イヌっネコっジャンプ!」1巻
(c)はっとりみつる

・はっとりみつる「イヌっネコっジャンプ!」1巻(講談社)

これは連載開始時に本連載の第3回めで取り上げたが、9月に待望の初単行本が発売された。高校時代まで幅跳びで注目を集めていた主人公・オズタカヒロが、陸上からスッパリと足を洗って楽しい大学生活を送ろうとしていたところ、昔から彼のことを知っていたらしい不思議な女子高生・ゆうきが出現。やたら元気な彼女に振り回されるオズタカヒロの大学生活が始まる……といった物語。この作品でいいのは、なんといってもキャラクターが魅力的なこと。絵柄的には最先端ってわけじゃないんだけど、それだけになじみやすい。奔放でういういいいながらぱたぱた動き回るゆうきがとにかくいい。今どきサービスシーンがパンチラや体操着姿のみだったりするのもすがすがしい。実際、キャラ萌え度はすごく高いですわい。

プラスチック・ガール
「プラスチック・ガール」
(c)古屋兎丸

・古屋兎丸「プラスチック・ガール」(河出書房新社)

ちょうどTINAMIXでも古屋兎丸×砂対談が掲載されているのでちょうどいいかも。8月に続いて2ヶ月連続で単行本が発売。STUDIO VOICEに連載された作品を収録した単行本である。2000円と単価は高いが、A4と大判の判型で、すべてのページが1枚の紙を二つ折りにして綴じられている凝った装丁など、値段が高いのにも納得できる本の作りとなっている。この単行本の掲載作品は普通に紙にインクで描かれたものではない。木の箱やプラスチック、鉄、布などといった多様な素材に描き、その写真を掲載するという形式なのだ。美術畑出身の作者だけに、素材を生かして一つの立体的なオブジェクトの中に漫画的技法を生かしている。ストーリーを追うというより、パッと見た瞬間のインパクト、細部に目を移したときの質感などを全体として楽しむべきものを作り上げている。漫画はこういうアプローチによる見せ方もあるのだということを考えさせる作品集。これはやっぱり実物を見るべきなのだろうなあ。

SF/フェチ・スナッチャー
「SF/フェチ・スナッチャー」
(c)西川魯介

・西川魯介「SF/フェチ・スナッチャー」(白泉社)

表題作は、眼鏡型の宇宙人が少女・栗本波瑠の力を借りて、スクール水着、上履き、ショーツなどなどに擬態している悪い宇宙人たちを退治していくという物語。もちろん敵役の宇宙人たちはそんな形をしているので、タダのスクール水着などと区別する必要がある。その方法として宇宙人たちにとっては劇薬である人間の唾液を使用。波瑠が舐めることによってそのスクール水着などが宇宙人でないかを判別できるのだ。人がいないところを見はからって、上履きや水着や下着を舐めたりする眼鏡っ娘。なんと「無理がなく」そして淫靡な設定であろうか!! 細かいワザの使い手である西川魯介だけあって、細かい部分にまでギャグが仕掛けられており、全体としてもドタバタと楽しいコメディになっている。そして案外エロも充実していたりするあたりがお見事。そのほか収録されている短編も全般に楽しい。

・いくえみ綾「ハニバニ!」1巻(集英社)

ハニバニ!
「ハニバニ!」1巻
(c)いくえみ綾

別冊マーガレットで先日連載終了した作品。いくえみ綾は、筆者が少女漫画を読み始めてから、真っ先に単行本を買うようになった作家の一人だ。個人的には昔の作品よりも最近のもののほうが好み。「ハニバニ!」は、平凡な女子高生・兎野ちよと同じクラスのモテ男子・椿 心の二人を中心としたスペースファンタジーちょっと込みのラブ&コメディ。ちよは椿が好きなのだが、彼はちよなど邪魔者扱い。そんな椿にひょんなことから宇宙人の魂がとりついてしまい、椿は本来の人格と宇宙人の人格が交互に出てくる二重人格状態になってしまう。そしてその一部始終を目撃していたちよに、宇宙人・椿(ちよは区別するために宇宙人のほうを「心サマ」と呼ぶ)はなついてしまうのだった……。このところのいくえみ綾の表現の洗練ぶりは実に見事なものがある。少ないコマ数、セリフ数でも十二分に読ませてしまう。ストーリー進行もテンポが良くて、男性向け漫画メインだった人でも読みやすいと思う。たぶん「ハニバニ!」は全2巻で収まると思うので、ボリューム的にも手ごろである。今からいくえみ綾作品を読み始めようという人には入手性も考えて、小学館漫画賞も受賞した「バラ色の明日」(既刊6巻。マーガレットコミックス)あたりがオススメ。

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