タニグチリウイチの出没!
TINAMIX
タニグチリウイチの出没!

チアリーダーは体力勝負

いきなりの敗北に相手が悪かったと気を取り直して、向かった先は東京・水道橋にある東京ドーム。商業野球の権化たる読売巨人軍の試合が相手なら勝てると思ったのか、と巨人ファンの怒りが飛んで来そうだからあらかじめ巨人戦ではないと断っておく。もちろん坊主頭の真夏の祭典でもない。相手は『第72回都市対抗野球大会』。ノンプロと呼ばれる企業のチームが全国の都市を代表して繰り広げる”企業野球の甲子園”とも言えそうな大会だけど、そこには灼熱の太陽も、40度を超える地獄のダイヤモンドも、融け出すかち割り氷も存在しない。エアコンが効きまくった閉鎖空間で、チアリーダーたちの派手な応援を選手は背にして試合を繰り広げ、観客はビールを片手に試合とチアリーダーの鑑賞に勤しむ”酒池肉林”のスポーツイベント。これなら勝てる、そう思って当然だろう。

都市対抗野球大会
日曜日だっていうのにスタンドは社員に関係者でギッシリ。サラリーマンは気楽な稼業じゃないんだね

7月22日の第2試合目。「浜松市(ヤマハ)vs千葉市(川崎製鉄千葉)」の対戦は、千葉県民ということもあって川崎製鉄千葉の近くに座って試合ならぬ応援の様を鑑賞。真正面からはさすがに無理で遠くから眺める程度に抑えてはいても、のべつまくなしに繰り広げられるチアリーダーたちのダンスに頬も自然と緩む。否、スポーツのストイックさとは正反対のチャラチャラとしたイメージに、なんだかんだいってもスポーツだって”萌え”てるじゃんとほくそ笑む。勝ったかな。

とんでもない、と気づいたのは、踊っている中でちょっと気に入った女の子が登場する場面を待っている間、チアリーダーのダンスが決して途切れないことが分かって来た時。川鉄千葉の応援は、女の子ばかりの赤いコスチュームのチームと緑のコスチュームのチームの2チームに、男ばかりのチームも加えた3チームを順繰りに登場させる”長篠鉄砲隊方式”。ベンチの上で数分のダンスを繰り広げては下に降りて次の出番まで息を休め、再びベンチの上に飛び乗っては数分間のダンスを披露する、その繰り返しが攻撃の間も15分間、延々と続く様を見ていると、徹夜してミシンを踏んで衣装を作るコスプレーヤーの苦労とはまた違う、体力を駆使する”スポーツ的”な苦労の様が浮かび上がって来て、気持ちをジンとさせる。

体力勝負のチアリーダーは別格、日曜日だっていうのに出場している会社の応援に駆り出されては、昼日中からビールを片手に内輪をふりふり大声を張り上げ社歌を唄う”社蓄”たちの姿は、「さわやかさ」「清潔さ」「健康さ」の対極にあるんじゃないかと言う声もあるだろう。なるほど内野のベンチの上をごっそりと、それぞれの会社の関係者が家族も含めて埋め尽くし、前方に陣取る応援団のリーダーの発声に従って「カットバセ○○」「××倒せーオー」って声を上げ、手に持っている企業名とか商品名が書かれた団扇を振り上げたり仰いでみたりする様には、さわやかさのカケラもない。

企業野球に見た社会

ウェーブ
ウエーブって言われてやるものなのかなあ?

グラウンドの中で繰り広げられているプレイの状況はお構いなしに、「じゃあこれからウェーブをやります」とリーダーが声をかけると、会社の商品名が書かれたのぼりを持った人が通路を左から右にすーっと走って、座っている人たちはその動きに合わせてウェーブをしていく。圧倒的なアスリートだけが可能な素晴らしいプレイを声援する、といった感じはまるでない。

だいたいが「都市対抗」を標榜しながら、出場しているのは地元の代表ではなくどこかの会社が持っているチームで、応援するのも当然ながらそこの社員と家族たち。ひとつ営利的な目的に向かって集まった打算的な集団に過ぎない会社の看板を背負って出場している選手たちに向かって、声を張り上げ「頑張れ」と応援できてしまうこの心理は、目で見る「コードセーチョー」だったり「シューシンコヨー」だったり「カイシャハカゾク」だったり「シャチョウトイエバオヤモドウゼン」だったりする。欲しい者に集まる「オタク」の正直さ、純粋さの方が断然さわやかで人間らしい。

とはいいながらも、号令一下団扇を上げたり下げたりしながら声援している人波を見ていると、あの中にいたらきっと安心できるんだろうなあ、気持ち良いんだろうなあ、という誘惑が背筋をジワジワと上がって来て、何かに属することの幸福さ、気楽さといったものを感じてしまう当たりが悩ましい。応援している人の中には集団行動を嫌う若手の社員も少なからずいるようなのに、決して嫌そうな顔をしていない辺りにも、何かに所属することの安心感があるのかもしれない。選ばれた集団だったらなおのこと安心感も強まるもので、そうした心理でもって結束し、進んで来た集団の強みというのが、この国を支えもしたし時には揺るがしもしたんだろう。「都市対抗野球」の応援の熱っぽさは企業社会・日本の縮図。集団的生き物である人間の本能。勝ち負けは……付けられないなあ。

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