タニグチリウイチの出没!
TINAMIX
タニグチリウイチの出没!

「内に守り外に攻め」

原価率の改善では、あと情報誌系で何枚も使っている版下の枚数を減らして製版代を節約したり、手書き原稿をテキストデータに変換する時に使っている外注の費用を減らすとかいった案も出ていた。「現場がやる気をなくしませんか」と聞くと歴彦社長、「そこは現場の管理職がしっかりフォローしろ」。会社なんだから慈善事業じゃないんだから、コスト管理と部下のケアが出来て当たり前な管理職、ということか。“売れる物”というよりは“良い物”を求めて金に糸目はつけず注ぎ込む、なんてイメージを勝手に抱いていた出版業界だけど、これからは他のフツーの企業同様、コスト計算の上に成り立つ製品つまりは本や雑誌を作りなさいという話になるんだろう。それで面白いものになる? うーんちょっと分からない。

よく生きると書いてベネッセ
ベネッセ・福武社長(右)と固い握手の歴彦社長(左)。相互補完のハマり具合は「お見事」の一言。問題は有機的に機能できるか、という点だけど現時点では判断保留。

さてその角川書店、守りを固める一方で攻めもなかなか派手で過激。10月の頭に突然開かれた記者会見で過去にない大提携を発表してみせた。「進研ゼミ」で有名な教育出版のベネッセコーポレーションと、販売とか物流とかネットとかコンテンツといった部分で事業提携するという話。角川では主婦の友社とかメディアワークスとかアシェット・フィリパッキとか同朋舎とかいった会社の営業・販売・物流を角川書店が受け持つ提携も始めているけれど、売上だけなら倍近い規模の会社との提携は、これまでとは違った意味を持っている。

目的から言えば、出版社ではどうせ同じ物流に調達に販売なんだから、いっしょにやった方が効率的だし機動的だよってな考えを実現するための提携で、あとは角川書店が熱を入れるネットへの傾注が、同様に教育分野でのIT化を狙うベネッセとの共通の課題としてあって、だったら一緒にやった方が良いよねという結論へとたどり着いた。加えて教育に生活に福祉とった分野に強みを発揮しているベネッセと、エンターテインメントが中心でメディアミックスに長けた角川書店とは、実に見事に事業分野が重なっていなくって、お互いの足りない部分を補完してさらなる強力なコンテンツなり営業力なり販売力なりを生み出す可能性が極めて高い。“大”とついても売上規模では中小でしかない出版社が、寄り集まり相互補完しながらインターネットや衛星放送といった新規メディアにも対応していこうとする動き。今後ますます強くなって行きそうな気がしてる。

「仕掛けて勝つ」

“角川”で“風雲児”と言えば元祖は歴彦氏ではなく兄の春樹氏。その角川春樹氏が社長を務める角川春樹事務所では、春樹氏の言うところの「第一直観」に従ってSFのブーム化を仕掛けている真っ最中で、その一環としてこのほど日本SF界の大御所、小松左京氏の名前を冠した「小松左京賞」なる文学賞を立ち上げた。出版社がブームを作ってマーケットを盛り上げようとするのはよくある話で、春樹氏自身も過去に「角川映画」での映画化とメディアミックスする形で横溝正史や森村誠一の文庫本を売り、平井和正の神がかり的な小説『幻魔大戦』を仕掛けて自身も神がかり的になって、いろいろあって今もいろいろあるみたい。それはともかく「仕掛け」によって本を売ろうとすることにかけて、この人の右に出るのはそう何人もいないだろう。

あなたのキスを数えまショ〜
角川春樹・角川春樹事務所の社長。収監が決まって次にあの怪気炎が聞けるのは何時になることやら。右奥が小松左京氏。

その「直観」が告げるSFブームの到来は、SFファンには嬉しいことこの上ない。「小松左京賞」の発表の席でも、「明日からは絶対にSFの時代だ」と太鼓判を押す春樹社長の威勢の良い挨拶に続いて、小松氏本人の「横溝正史さんだって横溝正史賞を作ってから8年は生きていたから自分も8年は生きるだろう」「誰も応募がなかったら自分で応募して自分で審査して落とす」といった楽しい挨拶があって場内は爆笑。「小松左京を襲名制にして、第1回の受賞者の平谷美樹さんに『虚無回廊』の4部をまかせる。そのためにも今のうちに彼に賞をとってもらう」といった、最近の小松氏に"恒例"の言葉もあって盛り上がる。

世紀の大ベストセラー『日本沈没』は知っていても、今いったい何をやっているんだろう? と思われていた小松氏を引っ張り出してその名前を冠する賞を作り、ブームを仕掛けて本を売る、その流れの筋の通りっぷりには恐れ入る。問題は「SF」が「直観」どおりにブームになるか? といった根本的な部分だけれど、誰を置いても春樹社長の言葉であり、最高裁で判決が出て収監が決まった春樹容疑者の娑婆への"遺言"でもある。天が見捨てても小松ファン春樹ファンは見捨てず角川春樹事務所の社員はもちろん見放さず、何としてでも「SF」ならびに「小松左京」をブームにしようと頑張るだろう。「本」って案外、こういう小さいけれども熱烈な力に支えられて命脈を保っているんだな。>>次頁

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