TINAMIX REVIEW
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「第二回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」レポート

■人権と道徳

日本における児童ポルノ法の恣意性について発言を行った社会学者の宮台真司氏は、三年前、同法が成立する際に重要な役割を果たしている。彼は与党案に以下の四点を修正するよう国会議員に対して働きかけ、ほぼ実現させている。

  1. 「健全育成」の言葉を削除すること。
  2. 単純所持を規制対象から外すこと。
  3. 被写体を特定できない絵やマンガを規制対象から外すこと。
  4. 規制対象の重なる地方条例を失効させること。

宮台氏がそれぞれの修正を求めた理由はきわめて明確である。第一点目は、法案の保護する利益が秩序の利益でなく個人の利益、すなわち人権の保護が目的であることを明示するため。成熟社会では生き方や価値観は多様なものとなり、何が健全であるかは人それぞれ、国家=政治権力がそれを規定することは不自然だからだ。

第二点目は、法案が恣意的に運用され、別件逮捕の理由になるおそれがあるから。またIT化は「単純所持」の意味を曖昧にする。たとえばブラウザに残されたキャッシュは事後的に再生することができるが、これは単純所持なのかどうか。

第三点目は、絵やマンガが間接的にせよ人権を侵害するといえる論拠が明らかでない。見た人が不愉快になるならゾーニング(棲み分け)をすれば済む。またマンガが犯罪を誘発するという考え方(強力効果説)を裏づける証拠はない。アカデミズムの世界で認められているのは「短期的な模倣」と「潜在的資質の持ち主にトリガーを提供すること」(限定効果説:クラッパー)だけである。さらに人妻ですら子供っぽく描かれる日本マンガの伝統においては、「子供が描かれている」と意図的な誤読ができ、これも法案の恣意的な運用を可能にする。

第四点目は、地域住民の声を反映し、道徳的な秩序を守ることを目的とした地方条例を、人権を守ることを目的とした国の法律で上書きするため。

宮台真司

しかし冒頭でも説明したように、同法には三年後の検討がうたわれており、その三年が経とうとしている現在、国会議員のあいだからは第二点の「単純所持」、第三点の「絵やマンガ」について見直すべきだという意見が出ている。だが宮台氏の観察によれば、この三年間で変わったのはむしろ、規制がもたらすだろう弊害や運用の難しさの方である。

たとえば昨年九月のアメリカ同時テロ事件の影響で、公安活動による法律の恣意的な運用はより問題となるだろうし(単純所持規制の側面)、パソコンゲームなどによる性的充足の進展は、キャラクター中心のメディアセックスと生身のセックスとの分離を推し進め、ロリコンという概念をさらに曖昧にしている(絵やマンガ規制の側面)。

また児童ポルノ法改正案と同時に、次の国会へ上程される可能性がある「青少年有害環境対策基本法案」は、上書きされた地方条例をさらに国の法律で上書きすることで、個人の権利よりも道徳的な秩序を優先するものである。これらは共通して、他者を否定しないかぎり多様な生き方をみとめる近代社会の正当性を自ら否定し、本来許されるべき多様な生き方を脅かすかもしれない――つまり人権の観点と道徳の観点を混同することの危険性、宮台氏は短い時間のなかで一貫して、論理的に、これに警告を発していた。 >>次頁

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