これこた
TINAMIX
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6.「間違った」人たちを応援する!

東:ではなにをやるのか。TINAMIXをどういう言葉で呼ぶべきか。それはもう、今後の僕たちの活動を見てもらうしかないと思います。たとえば、次回の更新にはコスプレイヤーの桜井恭子さんに登場してもらうわけだし、その次にはリーフの高橋龍也さんと原田宇陀児さんにインタビュー、さらにその次では、小説家の阿部和重さんを招いて、砂さんと人気コミック『頭文字D』『湾岸ミッドナイト』について語ってもらうことになっている。じゃあ、なんでこういうラインナップにしたのか。ここには別に、批評的な根拠なんかないんですよ。桜井のコスプレ、リーフのゲーム、阿部の小説をともに切る新しい画期的な視点なんかは、僕は持っていないし、実際そんなのないでしょう。

けれども、だからこそ、この桜井、リーフ、阿部という三つの名前を並べられる、そこにこそTINAMIXの勝機があると思うんです。この三人の活動は、それぞれは無関係なのかもしれない。けれども、なんかの間違いで、その三者の活動が間違ったファンに届いて、本来は想定していなかったところで接触が起きる可能性はある。僕的に言えば「誤配」というやつです。そして、サブカルチャーの文化的な厚みがこれだけ大きくなってくれば、必然的に誤配の可能性も高くなるし、間違った受け手も無視できなくなる。そうすると、「恭子☆アイランド」を巡回して、『痕』にハマって、『インディヴィジュアル・プロジェクション』を愛読している読者もいるのかもしれない。というか、それは現にうちの編集部に一人いるわけだけど(笑)、そういう「間違った」連中を応援するために、僕はこのWebマガジンを展開したいんですよ。そして、そういう間違った人たちからは、また思いもかけない作品や批評が出てくるかもしれない。そのときにはむろん、TINAMIXは新しい形の発表媒体や批評誌になるのかもしれない。でもきっとそれは、少し先の段階ですね。

ただ、いま「間違った連中を応援する」とは言ったけれども、別に、TINAMIXはメチャメチャやるわけじゃないです。矛盾した言い方に聞こえるかもしれないけど、間違うためにはある程度の正しさも必要なわけで、そういう基準情報を提供する役割も少しは果たしたい。たとえば大メディアはいま、マンガやアニメ、ゲームを紹介する枠を作る必要に迫られている。けれど、これは僕の実感として知っているのだけど、大新聞の記者たちは、サブカルチャーについて一般にとても疎い。そうすると新聞の基準としては、視聴率か、大御所かという話になる。そういうところに少しは楔を打ち込みたいですね。たとえば、これはまだ未定だけど、次回クールでは『機動戦艦ナデシコ』をあらためて取り上げようとも考えているんです。というのも、僕は『ナデシコ』はとても良い作品だと思っているのだけど、同時に、いまの大メディア的な価値観とアニメの見方では、あの良さを理解するのは『エヴァ』以上に難しいとも思うんですよ。佐藤竜雄さんの仕事は、僕の考えではとてもコンセプチュアルなもので、その入口がなければただの娯楽作品に見えてしまう。しかし逆に、その入口さえ教えてあげれば、ナデシコの良さは広く理解できるものだと思うんです。TINAMIXは、その入口を提供する役割も果たしたい

まあ、つまり、二面戦略ということになるのかな。サブカルチャーの内側に向けては、情報の流れをどんどん撹乱して、間違った連中を増やす。外側に向けては、逆に、一定の基準情報を提供していくような。僕はこの二つは両立することだと思います。とにかくいまの印刷メディアは硬直していて、例えば阿部さんが『頭文字D』について何か語ろうとしても、せいぜいエッセイで取り上げてみましたとか、しげの秀一にインタビューしてみましたとか、そういうことにしかならない。小説家がマンガを語るのならこういうものだろう、という既成の回路ががっちり固まっていて、誤配も何も起きそうにない。実は僕はむかし、『ラブ&ポップ』の試写会で庵野さんに挨拶したとき、「サブカルの人はあまり好きじゃない映画かもしれないけど」とピシャリと言われた経験があるんですね。どうやら最初に『Studio Voice』でインタビューに行ったから、そう判断されたらしいんですけど。そういう回路に封じ込められてしまうのは、すごい不自由で退屈な経験です。だから僕たちも、TINAMIXから取材が来たときに、相手がすぐ「TINAMIXだったら、こう答えとけば喜ぶな」って計算できるような、そういうカラーがついちゃったらもう終わりだと思います。僕たちは、つねに妙に間違いつつも、しかし限りなくニュートラルに行かなきゃいけない。

リーフ
カルト的な人気を誇るPC系のゲームブランド。代表作に『雫』『痕』『To Heart』『White Album』


『頭文字D』
しげの秀一作、講談社刊(1995-)。『週間ヤングマガジン』で連載中。


『湾岸ミッドナイト』
楠みちはる作、講談社刊(1993-)。『週間ヤングマガジン』で連載中。


『痕』
96.7発売リーフビジュアルノベルシリーズ第二弾。鬼の転生を巡る四つの恋愛譚。


(c) Leaf


『インディヴィジュアル・プロジェクション』
阿部和重の代表作。新潮社刊(1997)。近々文庫化予定。

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