これこた
TINAMIX
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5.批評と呼ばれたくない

編集部:作品論の話になると、結構難しい問題があると思います。そのあたり、東さんの考えはどうですか?

東:そうですね。まあ、砂さんと僕ではいろいろ立ち位置が異なっていて、砂さんがサブカルチャー・メディア出身、僕がハイカルチャー・メディア出身というだけでなく、砂さんは同人誌、僕は商業誌を主な活動の舞台にしてきたし、また、砂さんはマンガ、僕はアニメが関心の中心というのもあるし、あと、絵柄や作品についてはけっこう趣味も違うしね(笑)。そこらへんの違いがうまく活かされて、僕と砂さんの二人で内容の責任をもっているということが、逆に特集や記事の多様性に繋がればいいと思っています。

ただ、いまの僕たちの話で共通に出てきたのが『エヴァンゲリオン』だったのには、意味があると思う。あの作品の評価はいまでも大きく分かれているし、「いい」という人のなかでも、最終回までの作品世界がいいのか最終回の自壊がいいのか、TV版がいいのか劇場版がいいのか、意見はさまざまだけど、とにかく、あの作品の出現が事件だったのは疑いない。だからこのTINAMIX は、僕としては、それに対する5年遅れの答えのつもりなんですよ。『エヴァ』が出ても結局何にも変らなかった、という意見もあるけれど、僕はやっぱり雰囲気は激変したと思う。一部のアニメの質は確実に上がったし、世間一般のオタク文化への見方も変った。また、オタク文化の担い手も変わった。たとえば今日のワンフェスなんかも、客層がここ数年でずいぶん違ってきたらしいしね。だから、もし、いま日本のサブカルチャーの硬直が少しでもほぐれて来ているのであれば、今度はその受け皿を作っていく必要があると思うんです。

編集部:つまりそれは、『エヴァンゲリオン』以後の変化に対応した、新しい文化批評を開始するということですか?

東:いや、現状では、砂さんと同じく、僕もそれを「批評」という言葉では考えていません。批評というのはいまは、硬直して活力がなくなったジャンルを、言葉で根拠づけ権威づける役割を果たしている。内容でいくら悪口を言っていたとしても、やはりアニメ批評はアニメを権威づけるものだし、マンガ批評はマンガを権威づけている。そういう点で、批評家を徹底的に忌み嫌うオタクたちの直感は、ある程度は正しいと思うんです。例えば『エヴァ』がヒットしたとして、そのとき僕がいくらエヴァ論を書いたとしても、それはもう庵野秀明には何の得にもならないし、端から見れば、謎解き本を出して便乗商売をやっているのとあまり変わらないじゃない。TINAMIXがそうなっては面白くない。

ワンフェス
2月6日に東京ビッグサイトで行われた、ワンダー・フェスティバル2000[冬]。この対談の収録直前、東氏と編集長篠田は、現代美術家の村上隆氏とともにワンフェスを回っていた。なぜ村上氏が一緒に? それについては続報を待て!

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