これこた
TINAMIX
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16.新しいウェブの玄関に

編集部:なるほど。ぜひそのような雑誌にしたいですね。それでは最後に、なぜTINAMIXをウェブで行うか、パソコン通信時代からの長いウェブ経験をもつ砂さんに、とくに伺っておきたいのですが。

砂:コストの問題はすでに話にあがりましたよね。すると、そうですね、ウェブで一番問題なのは、どう公共性を作るかということだと思うんですよ。公共性といっても、これは抽象的なことではなくて、たとえばある情報が信用がおける情報かどうかを見分けにくい、とか、きちんとした議論が成り立ちにくい、とか、そういうことです。公共の場と私的な場の区別がないからですよね。いずれも掲示板であったり、ホームページであるという点ではメディア上の区別がない。たとえばインターネット以前のパソコン通信時代だと、BBS方式といって、今でいえば掲示板しかない状態に近いわけですけど、こうした場所で議論が起きた場合、参加者の制限もないし、削除も自分の書き込みに関しては自由とかで、爆発的に書き込みが増えたり、争点が突然消えたりして収拾がつかなくなる。ジャッジメントもないから、不毛なやりとりが文字通り無限に続いたりする。この状態はインターネットの掲示板においても変わってませんよね。また、インターネット上のホームページで手に入れることが出来る情報も、信用がおけるかどうかにわかには判別できない。ネットの外では、たとえば新聞、雑誌、ラジオ、テレビなどという形で公共性はいわばメディアの違いとして保証されているわけですよね。新聞に載っていたからある程度信用できる、という風に。現在インターネットで公共性を担っているのも、相当数がこうしたネット外部のメディアのホームページということになっている。ネット外部で打ち立てられた公共性をネットへ持ち込むことで、それは支えられているわけですよね。トップダウン的というか。

でも、ネットにも、ネットの活動だけで充分に信用を積み上げてきた情報ページとかはたくさんあるんですよ。コラムを担当して頂くしばたさんリウイチさんとかもそうした活動をしてきたネットワーカーです。かたやその日に読んだマンガのレビュー、かたや街ネタなどの日々のレポートという形ですが、数年間毎日更新して情報の的確さや迅速さで評価されている。積み重ねによって信用が、いわばボトムアップ的に作り出されている。これは当然のことでもあるけれど、結局ネットにおける情報の信用性はこの形で作る以外ないと思うんですよ。しかしすると、では自分はどうするか。自分もホームページを持っていますから、こうした情報発信をしていって、自分の情報の信用を作っていくというのが一つの手ですよね。しかし、すると、それに僕が成功したとしても、そうした信用あるサイトはネットのあちこちに散ったままで、それらのページすべての情報の恩恵にあずかれるのは、熱心に渉猟するネットワーカーだけに限られてしまう。これは文字通り公共性を制限してしまってますよね。単にそれらをすべてにつながるリンク集を作っても、事情はさほど変わらないでしょう。とにかく私一人では、あるいは単独では、次のステップに行けそうにない。

そこで、こうしたネット上のあちこちに散っている信用ある情報や人を集中できないか、そうしてネット由来の公共性を持つ広い場所を、サイトを作れたらいいんじゃないかと思ったんですよ。ネットの外部の保証に依存する必要のない、信用のある公共的なネットの情報発信源。ネットワーカーの言葉を、そのまま価値のある情報としてネットの内外に流通させることができるようなサイト。これがTINAMIXです。TINAMIXはそういうものになって欲しいと思います。これは、TINAMIXをなぜウェブでやるかというより、なぜウェブにTINAMIXのようなものを作らなければいけないと思うか、ですけれども。

編集部:今日はどうもお二人とも、ありがとうございました。 TINAMIXはこれから用意しているいくつかの記事を通じ、まだ見えぬ読者に向けて多くの間違った郵便を配達していくことになると思います。たとえばいまこの記事を読まれているあなたにとって、これは期待通りの問題提起なのかもしれませんし、まったくの誤配であったのかもしれません。いずれにしても今回のこれこたには、私たち編集部の態度が鮮明にあらわれています。そして編集部からお願いしたいことは、とにかく接続し続けて欲しいということなのです。同じネットワークに接続しながら、残念なことに私たちは一方で切断されています。ですからこのウェブマガジンは、誤った読者であるみなさんとの一回いっかいの接続によって、はじめて立ち上がるものだと考えています。

(2000/02/06・株式会社多聞 本社会議室にて)


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