Leaf 高橋&原田 INTERVIEW
TINAMIX
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高橋:今後の展開にも関わるんですけど、僕としてはゲームに費やす時間はどんどん短くなっていくべきだと思います。一本当りのプレイ時間も含めて。いま求められているのはプレイ自体よりも、プレイし終えた後のコミュニケーションだと思うんですよ。だから、プレイ中の楽しさだけでなく、プレイ後になにを残せるかが重要だと思います。単純に感想とかでもいいんです。俺は『To Heart』というゲームをこう思ったみたいな。やっぱり対人のコミュニケーションこそが一番楽しいのでは。携帯電話やインターネットのひとり勝ちもそういう理由からだと思いますし。

──『同人誌』もそんなふうに機能してますよね。

高橋:そうですね。うちの同人誌が盛り上がってくれている現状は嬉しいですね。同人誌って本を作って売るという行為はマニアックですが、プレイ後の楽しみ方としては非常に面白いと思ってます。結局コミニュケーションが一番楽しい。コミュニケーションを取る方法はいろいろあると思いますが。みんなゲームについての意見を言いたいし、聞きたいんです。俺の意見はこうだけど、みんなはどうなんだと。だからそういう意見がたくさん出る作品、そんなゲームが生き残るんじゃないかと考えています。

──『ポケモン』なんかは子供のコミュニケーションツールとして機能しますよね。

高橋:『ポケモン』の場合、『ポケモン』自体が楽しいだけじゃなく、みんながやってるから遊んでるという現実もあると思います。

──同じフィールドを共有している感覚でしょうか。

高橋:そういう意味でもまずは共通のものにならないといけないですね。『To Heart』はたくさんの人がプレイしてくれたから話題になりましたけど、マイナーなゲームだったら話題も盛り上がりようがないわけです。

原田:PCゲームという枠で考えたとき、そのコミュニケーションの一般的なかたちがネット上での評論だとしたら? それは高橋さんの図にあたった?

高橋:それはもちろん抜きでは考えられない。ただし、ネット自体がいくつも問題を抱えているから──匿名性の問題とか、それについてはいろいろあるけど、ネットの評論自体は面白い。パソコンでゲームをやっているからには、画面の窓を閉じてすぐネットというのは自然な流れだし。僕や水無月も、おたがい顔を知ってる仲間内限定でだけど、作品の意見の交換はよくやっていて、それはとても面白いし。

原田:でも、語る価値を生み出そうとすると、さっき言ったような一ネタものではよほどのことをやらないとダメだし。ふんだんにネタを提供する大作主義に走ると、それこそユーザーが「長い時間プレイするの疲れる」と言ってついてこない?

高橋:必ずしも内容自体で勝負しなくてもいいと思う。その作品を通してどの部分でなにを残せたかが重要なわけで。

原田:そうなると扇情的なものに走って、物語そのものを放り投げるかたちなんかが一番適してしまったりすると思うんですけど……。

高橋:それもひとつの方法だとは思う。ただその辺に関して言わせてもらうと、作品内できっちり終わらせるのがセオリーだから、異端っぽくて話題になるだけで、ありすぎるとすぐ飽きられると思う。僕個人としてはきっちりまとめる方向が好きだから、それは徹底したいと思いますけど。なんにしても新しい風が必要だと思います。業界的にもひとつの流行で止まっていると話題の盛り上がりようもないし。

──いわゆる『泣きゲー』ですが、これについてはどうお考えですか?

高橋:本来物語の構成要素のひとつでしかない部分が肥大化してるのは妙ですね。泣き系自体をネタだととらえても、もう十分に盛り上がり尽くした感もあるし。もっとも作品を作る上でそういう要素は必要だと思いますが。まったく抜きにするとつまらないし。結局味付けのひとつでしかないんです。なのにそれ以外は認めないという現状には正直参ってます。メロドラマというのは所詮パターンで、直球のものはもう使い古されて飽きられたものだと僕は思ってました。例えば『To Heart』の『マルチ』は泣き方向かもしれないですけど、『マルチ』が任務を終えて死ぬからかわいそうだとか、そういうのを書いたわけじゃなく『マルチ』という究極なまでにピュアな存在への問いかけが主題なんです。そういう味付け程度でしか『泣き要素』は受け入れられないものだと思っていたんですけど。直球のメロドラマがこうも受け入れられるとは意外でした。もっとも『マルチ』に対するユーザーの反応でそれが明るみになった感はありますが。

原田:僕は基本的に、感動ものっていうのは見る方も書く方も苦手で(笑) 感動させることを目的にってのは、趣味ではほとんど書きませんし。一メーカーで何人かでグループを組んでやっているから、それもやるわけですけど。でも、社会的な流れを受けた波及効果はあると思いますから、高橋さんレベルの企画者が二、三人いたとして、その流れを突然に変えられるかというのは、また別の問題だと思いますね。

──リーフの今後の予定はどうなっているのですか?

高橋:次は魔女っ子ものなんですよ。

──『まじかる☆アンティーク』ですね。

高橋:「あのリーフが魔女っ子もの!?」というのはネタ的には良いと思うんですけど、「あのリーフが」という枕を外したときにそんなにインパクトはありませんよね。『雫』『痕』の頃はマイナーであることを武器にさせてもらいましたけど、『To Heart』以降はそれも通用しない。リーフだということで身構える人もいるでしょうし。だから魔女っ子ものなんてリーフはやるべきじゃなかったと思うんです。発売前なんであまり言えないんですけど、もっと刺激は欲しかった。ただ、そういう部分に特化しているスタッフの作品なので、面白いものには仕上がってると思いますけど。ですが、僕個人として──会社の企画者として方向性を示していく立場から言うと、リーフはもっと攻撃的にいくべきだと思っています。求められているからとか、企画者の好みだからとかじゃなく、ユーザーに衝撃を与え続けて欲しい。実際『雫』『痕』から『To Heart』まで、次に何が衝撃的かを考えて提示してきたつもりなんですけど。ぱっとまわりを見て、同じものがないものを。そういうのを狙っていきたいとは思います。

──その辺りの具体的なイメージは?

高橋:あるんですけど、まだ語るほどの段階では……。完成までにはまだしばらく時間がかかると思いますし。軽いスタンスの作品を挟むかもしれないし。ただ、そのときは僕がこれで勝負だと思う内容にはするつもりです。感動系を求むファンの声は多いんですが、全面的に応えるわけにもいかないんです。もっとも要素的にそういう部分は……。

原田:必要ではあるでしょうね。

高橋:ドラマを作る上で、入って然るべき要素だとは思いますから。

原田:塩分の摂りすぎが健康に悪いからといって、料理に塩を使わないわけにはいかないわけでしょう。

──主と従の問題ということですか。

高橋:重要なのは、いま時計の針が十二時を指してるとすると、五分とか十分のところを刻んでいくことなんです。同じ十二時を指すのじゃ意味がない、かといって半周先行して三十分のところを指してしまうと的外れで見向きもされない。ほんのちょっと先を提示することなんです。

──高橋さんの態度は一貫してそうですよね。

高橋:同じことを思っているクリエーターはたくさんいると思います。要はそっち方向のスタンスだというだけで。僕の作るものは言ってしまうとどれも佳作程度だと思っているので、上昇気流を味方に付けるのがすごく重要なんです。だからいま流行っているものではなく、新しいものを──といってもかつてあった良いもの+新要素なんですが、それを求めて今後もゲームを作っていくと思います。

――私たちも、そうした刺激的なものを求めるお二人の態度に期待しています。本日は長い時間、ありがとうございました。

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泣きゲー
端的に言うとユーザーを泣かせることを目的にしたゲーム。以前から評価の高いゲームシナリオに多い「泣けた!」という言葉を突き詰めた一つの結果。妹の死を主題化した『加奈』(99年D.O.)、少女達の悲劇が奇跡によって癒されていく『Kanon』(99年Key)などが代表的。

『まじかる☆アンティーク』
リーフの最新作で、主に新人スタッフを中心に制作されている。両親から骨董屋の経営を任された大学生の主人公と、魔法世界『グエンディーナ』からやって来た少女スフィーとのなし崩し的な交流を描く。シナリオ+シミュレーションという形式で、同ブランドの前作『こみっくパーティ』における同人誌制作の部分を骨董屋経営に置き換えたイメージ。

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