Leaf 高橋&原田 INTERVIEW
TINAMIX
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高橋:僕は、物語は「キャラクター」「世界観」「ストーリー(ネタ)」の三角形でできていると考えます。このバランスが取れれば理想ですけど、キャラクターも立っていて、ストーリーもおもしろくて、世界観もオリジナリティがあるものなんて、ほとんどない。宮崎駿のアニメーションくらいで。宮崎アニメはこの三要素のバランスが良いですよね。でもバランスが良すぎて面白味に欠けることもあるんです。だから基本的にひとつに特化していればいい。ミステリーだったら「ネタのみ」で勝負するのもありかと。

──「ネタ」というと、パズルというかトリックですね。

原田:かつてのミステリにしても、探偵や、固定化されたキャラクターはいたんですよ。「ワトソン役」という言葉ができるくらいに、ワトソン君が読者に定着していたんです。

高橋:往年の少年ジャンプの漫画は、どれもキャラだけで押し切った感じですよね。ああいうキャラものは、ゲームにはあまりなかったんですよ。映画にもなかった。でも最近のハリウッドはほとんどキャラものですね。日本の影響とも言われてますが、あれは当然の進化だと思うんです。キャラが弱いな、というのをみんなわかってきたと思うんです。

原田:映画にしても、昔はブロンソンマックイーンがひとつの画面のなかに収まったりもしてたんですよね。すごく豪華という。でも、キャラクター性を強くするにはむしろ、壁を走る黒ずくめのキアヌ・リーブスひとりにカメラを集中させることの方が向いていたと(笑)

高橋:この三要素で僕が得意なのは、やっぱりキャラクターなんです。だから出来るだけそっちに力を入れていきたい。欲張って世界観まで創作しようとすると、そっちにパワーを取られて肝心のキャラクターとストーリーが弱くなってしまうかもしれない。地に足のついた世界設定を作るのは大変な作業ですから。だから世界観は「出来合いの良いもの」を引っ張ってくるしかない。言うなれば現実世界が手っ取り早いんです。

──キャラクターで言うと、高橋さんは対立する性質を組み合わせたりして、パターンを増やしましたけど、でもそれは順列組み合せの果てにつきる気もするんですよ。あるいは、もうつきかけているのかもしれませんが。

高橋:『To Heart』ではたくさんの嫌味のない子を書いたので、同じカテゴリーで新しいキャラを生み出すのは苦しいかも知れませんね。『あかり』『マルチ』『葵』の三人でも当初は差を出すのにのに苦労したんです。書いていくうちに個性が出るもんなんですけど。結果的にあかりはお茶目、マルチはひたすらピュア、葵はひたむきに努力、みたいな感じでキャラが立ちましたけど、全然違うキャラになったとも言い切れないのがつらいですね。

──好かれるポイントで言うと『初音』『マルチ』『葵』は結構かぶってますよね、あの笑顔が(笑) あれは水無月さんが描く絵で最もポイント高いところに思えるから、個人的には快調に続けて欲しいですけど。

高橋:でも、同じようなキャラを作り続けてもしょうがないですから。それこそ初音やマルチに再登場してもらった方がいいです(笑) 作ったキャラは大切にしたいですし。新しい要素でいうと、これが流行るかどうかは別なんですが、最近魅力的に思えるのは自分自身で完結して突っ走ってるキャラなんです。言うなれば『To Heart』の志保みたいな。ただ志保は個人的にあんまり好みじゃないんですけど(笑) この前『ナイトライター』でコリンというキャラを出したんですが……。

──あのわがままな……?

高橋:わがままというか、自分のペースで突っ走るやつなんです。本人的には一生懸命。以前からやってみたくて、やってみたら案の定人気ないですね。キャラが書けなくなった、とか言われたり(笑) 他では明らかにそういうキャラが流行ってるんですけど、遅いんですよ、この業界は、入ってくるのが。主人公に依存しないキャラは人気が出ないというお約束がいまだに続いてて。結局ある程度好かれることを前提に作らなくちゃいけないのかなと思ったり、そういうのはありふれてるから今更うちがやることもないかなと思ったり。矛盾してるんです。

──難しいところですね。

高橋:『To Heart』以降、露骨にウケるキャラってのは描かないようにしています。いまそれをやると結局『To Heart』と同じ方向性になってしまいそうで。

──坂下好恵の初期稿が「人気出るからボツ」になりましたよね。私はあれだけで萌えそうになってしまいましたが、やはりわかるのですか?(笑)

高橋:そんな大袈裟なものでも(笑) ある程度流れの把握していれば、あとは相対的なものですから。要は食傷気味のものを見てちょっと先を見れば比較的簡単に見つかるとは思いますよ。以前は反応がよくて明るいキャラが主流だった。それを踏まえて『エヴァンゲリオン』の綾波レイが来ますよね。隠れたマニア好みだったはずの無表情系が主流になった。でもあんなに人気が出ると一気に消耗されてしまう。時計の針が進むわけです。クールの次はハートフルというのが現状です。『マルチ』が受け入れられた背景にはそういうのもあると思います。なんだか自分の娘を分析してるみたいで心苦しいですけど。でも『綾波』も『マルチ』もまったく新しいキャラというわけではないんですよ。王道パターン+ワンという感じですね。結局はそれしかないですから。

──そうなると新鮮で個性のあるキャラって出ませんか。

高橋:新鮮に感じるキャラというならそろそろ出るとは思いますけど。要はタイミングがすべてなような気が……。いまは新しいキャラの登場を業界が必死に止めているといった印象ですね。いろいろな事情が絡み合って(笑)

原田:意図的じゃないとは思いますけど。

高橋:タイミングの話をすれば『To Heart』のキャラは三年前だからいけたと思うんです。いまはもうダメなんじゃないかな。そろそろ嫌でも好みが動くと思うんですよ。たとえばこれまでは今風の女の子の感性に拒否反応があって、80年代的な女の子のイメージを業界が引きずっていた。でもこの流れもようやく動きつつある。コギャルが流行るというわけじゃなくて、たくましく生きてるキャラを魅力的に感じる傾向がきてるように思います。だからそういうテイストを積極的に出そうとは思っているんですけど。

──『コリン』はデザインからそんな感じでした。

高橋:例えば『スペースチャンネル5』とか、GAINAXから出る『フリクリ』とかも今風のセンスを前に押し出してると思うんです。ゲーム業界もコンシューマなんかでは積極的に新しいセンスを提示しようとしているんですけど、ギャルゲーというかアダルトゲームの世界はまだ80年代の女の子を引きずっていますね。

──なんというか、正直なところ「使い回し」ですよね。

高橋:本質的なところは変わらないにしても、せめて受ける印象ぐらいは変わって欲しいと思います。三年前も同じことを思っていて、そのピリオドとして『To Heart』を出したつもりでした。その時期に流れが変ると思ったんです。だからその流れの集大成として、ディフォルメ的なもの、パロディ的な要素を詰め込んだキャラでギリギリの線までやったつもりだったのに、それが続いてしまったんです。

原田:『To Heart』自体が戯画化されたものだったのに。

高橋:朝起こしに来てくれるリボンの幼なじみがいて、ロボット少女がいて、格闘少女がいて、魔法使いがいて、超能力者がいて、メガネの委員長がいて、金髪グラマーがいて、情報情報と言いながら走ってくる女の子がいて……なんというか、パロディですよね。

原田:TV版の『学園エヴァ』みたいなノリで……。

高橋:そういうちょっといじわるな感覚で作った部分も多少なりともあるんです。ところがその後はロボットや超能力者では飽き足らず、次はどうやって個性を出そうかと、さらにすごいことになってますよね(笑) この辺で終止符が打たれて路線が変わると思ったのに、さらに味付けが濃い方向へと。

原田:加速させただけならまだしも、元祖になってしまいましたからね(笑)

──常に流行りの要素を先取りしていたから、外からはそう見えるのかもしれません。

高橋:そういうつもりは全然なかったんですけど。

原田:あのノリを純粋に新しいと言った人もいたというのを知って、少し驚きましたけど。

高橋:サザンが出した『TSUNAMI』は、僕らにとっては古いサザンでしかないのに、今の若い子はあれを新しいと言うらしいんですよ。音楽会社のマーケティングでは、サザンのユーザーは元々百万人以下らしいんです。でも『TSUNAMI』は二百万枚売れた。残りの百万枚は誰が買っているのかというと、若い子たちなんです。要は今のR&Bを新しいと聞いてしまう世代が、サザンを聞いてさらに新しいと思ったんですよ。『To Heart』も新しいと思われたのかもしれない。今までのラブコメのパロディとして受け取られることを想定していたのに、それが新鮮に感じられてしまった。

原田:『To Heart』がまだ予告段階だった頃は、70年代から90年代にかけてのオタクメディアを充分に味わってきた人たちが「こういうのあり……?」みたいに思って食指を動かしていた感じがあったんですよ。パターンの再構成というか、レトロとまではいかないまでも、そんなノリをちょっとマニアックな視点で楽しもうとしてた感じが。『To Heart』が大ブレイクして、「すごいおもしろいです!」といった反応をみてみると、前と同じ層からのものじゃなかった。どこかで入れ替わっちゃったような印象を受けてました。

高橋:まさに時計の針が一周したんだと思います。

ワトソン役
シャーロック・ホームズの助手、ジョン・ワトソン医師のこと。シャーロック・ホームズシリーズはほとんど彼によって記述されている。こうした探偵=主人公の助手=脇役としての役割はミステリーにおいて「聡明な探偵・愚昧な警部」などに典型化されている。とはいえこの組み合せは文学上一つのパターンでもあり、源流を溯ると『ドン・キホーテ』で主人公ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャことアンロソ・キハーソに付き従うサンチョ・パンサに行き着く。

ブロンソン
チャールズ・ブロンソン。男臭いダンディズムを放つハリウッド・スターの一人。リトアニア移民を父に持ち、貧困家庭に育つ。高校卒業後炭坑夫など様々な職業に就く。43年に空軍入隊、B29の射撃手となる。除隊後舞台を経て、51年『YOU'RE IN THE NAVY NOW』でスクリーンデビュー。68年の『さらば友よ』でアクションスターの仲間入りを果たす。代表作に『さらば友よ』『雨の訪問者』『狼の挽歌』。彼とマックイーンが共演した作品には『荒野の七人』『大脱走』がある。

マックイーン
スティーヴ・マックイーン。かつてのハリウッド・アクションスターの一人。義父との不仲が原因で不幸な少年期をすごす。15才で海兵隊入隊。除隊後『傷だらけの栄光』でスクリーンデビュー。『荒野の七人』『大脱走』でスターダムを獲得。80年肺ガンで死去。左記の他に代表作『ゲッタウェイ』など。

キアヌ・リーブス
父はハワイ系中国人。カナダ移住後、高校時代アイスホッケーのスター選手に。94年『スピード』の世界的ヒットでスターダムを獲得。原田さんが言及しているのは『マトリックス』(99年)で演じた黒づくめの主人公ネオ。トレンチコートを舞わせながらのブレッドタイム撮影はあまりにも有名。

あかり
『To Heart』のヒロイン神岸あかり。主人公の幼なじみで、ちょっぴりおせっかい焼きやさん。トロトロしているけれど、芯は結構しっかりしている。かわいい顔してお姉さんっぽく振る舞われると、もういけません。CV(キャラクターヴォイス=声優)の川澄綾子がそれに拍車をかけている。高橋さん指摘の三人は皆タレ目で可愛らしく、何もかも明るくしてしまいそうな笑顔がとても素敵なのだった。

マルチ
『To Heart』のヒロイン。来栖川重工が開発したメイドロボットで正式名称はHMX-12マルチ。その開発中、試験運用の為に主人公がいる高校に送りこまれてくる。その純粋すぎるキャラ造形はプレイヤーの心をグッとつかみ、『To Heart』がブレイクする大きな要因となった。ロボットをどう描くかは、SFジャンルの末裔でもある現在のオタク文化において重要な問題でもあるが、マルチのような存在が許される背景に何があるかは一考に価するだろう。耳の突起物が特徴的。


『To Heart』の登場人物の一人、松原葵。格闘少女。主人公より一つ下の一年生で、総合格闘技エクストリームの同好会を立ちあげる為に孤独に活動をしている。常にひたむきな努力を惜しまない頑張りやさんで、そのまっすぐな態度はときに痛々しいほど。

坂下好恵
『To Heart』の登場人物。恐ろしくストイックな空手少女。ファンブックで紹介された初期設定の頃は若干髪が長く、まだかわいらしさも。バリバリに刈りこんだ髪はもはや男子にしか見えず、スポーツ系少女のリアリティとしては本物。原田氏が隠れた坂下ファンであることは知る人ぞ知る事実。

『スペースチャンネル5』
SEGAのDreamcast用ゲーム。未来の放送局「スペースチャンネル5」を舞台に、新米リポーターうららと謎の宇宙人モロ星人のダンスバトル(なぜ?)が繰り広げられる。
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『フリクリ』
GAINAX制作のOVA。監督 鶴巻和哉、キャラクターデザイン 貞本義行、脚本 榎戸洋司と制作スタッフは豪華。キャラクターデザイン、ファッションセンスなどから現代的感覚を強く意識していることが伺える。2000年4月にOVA第1巻発売。全6巻予定。
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『学園エヴァ』
『エヴァンゲリオン』第26話に突如挿入されたスラップスティックな学園劇のこと。表面上のノリの良さとは裏腹に「オタクはこれを望んでいるのだろ?」という冷笑的な自己言及。しかしアスカ萌えには感涙ものの出来という側面も。

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