TINAMIX REVIEW
TINAMIX
青少年のための少女マンガ入門(12)太刀掛秀子

■ドラマチックなコマ構成

太刀掛先生の作品からは、優しく、温かな印象と、激しく、熱い印象を同時に感じます

太刀掛先生の絵そのものから受ける印象は、乙女ちっくの代表作家である陸奥A子先生の“フワフワとした温かい絵”(別冊太陽「少女漫画の世界 II」P114より)です。しかし作品を読むと、陸奥先生の作品には受けない、むしろ同じく『りぼん』で活躍された一条ゆかり先生の作品から受けるドラマチックさを感じるのです。これは、太刀掛先生が、陸奥%田渕先生とは異なり、連載ものを中心に作品を発表されていた点や、少女の夢見る恋愛ストーリーを家族の愛憎劇の要素を取り入れた点が一条先生と重なる部分があるからだと考えられます。

太刀掛先生の絵は、一条先生のような“叙情画の流れにある華麗なる絵”(別冊太陽「少女漫画の世界 II」P52より)ではありません。それにも関わらず、ドラマ性のあるストーリーを描くことができたのは、太刀掛先生のコマ構成に原因があると思われます。(注3)

「雨の降る日はそばにいて」の6年後に描かれた続編「6月のシロフォン」(RMC、「ひとつの花もきみに」収録)の中のコマ構成を見てみたいと思います。図1に、「6月のシロフォン」の最初の4ページを示します。(1984年『りぼん』6月号、P184〜188より)

最初のカラー2ページは、雨が降る中、すべてが霞がかかったような世界を描き、少女の孤独(外界に心を閉ざしている心理)を表現しています。また、雨も、雨の音をシロフォン(木琴)と楽器で表現するのも、前作「雨の降る日はそばにいて」からの流れであると考えられます。カラーでは主に青、緑、ピンクが使われていますが、2ページの最後から2番目のコマには黄色が使われています。「…危ない!!」というセリフが、注意を促す黄色と共に心に入り、一瞬で緊迫感が生まれます。

ページをめくると右側が広告で、「バァン!」という擬音と共に、ボールの軌跡に視線が流れます。次に飛ばされた傘が目に入ります。ボールをよける少女が傘のあるコマに重なっていることから、2コマ目の飛ばされた傘と3コマ目のボールをよける少女は同時刻のものであることがわかります。さらに3コマ目が下に斜めに延びているため、斜めにさがると、少年がフェンスを飛び越える4コマ目が目に入ってきます。1コマ目と4コマ目の間には間白があり、斜めとなった3コマ目と異なり分節がされています。5コマ目は、少年の顔のアップとなります。ここで注目すべきところは、3コマ目にあった泡のような浮遊物が続いてある点です。この泡は、1コマ目から3コマ目にある雨のしずくとは違います。少女マンガを読むと、よくこのような浮遊物が出てきますが、夢の世界にじゃぼん玉が飛んでいたりするわけで、深く考えてはいけません。

ページをめくると、泡が少女の顔に集中しています。この泡の動きは少年の心を表現したものです。2コマ目は、少年の顔のアップで、少年の動きが固まったことを示すように、泡も止まっています。3コマ目は2コマ目と並列させ、少女と少年の目が合ったことがわかります。 4コマ目は広い間白です。雨と泡(はっきりしているものと、ぼんやりしたものの2種類)を描かれています。ぼんやりした泡は、少年がぼーとしている様子を表現したものだと思われます。

以上の例は、作品の導入部なので、キャラクターの内面はこれから複雑に揺れ動くということで、比較的単純なコマ構成となっています。しかし、読者の心と、キャラの心理を少ないネームの中でも表現していることがお分かりいただけたのではないかと思います。>>次頁

(注3)
夏目房之介「マンガはなぜ面白いのか」(NHK出版、1997年、P168〜172)に、太刀掛先生の「雨の降る日はそばにいて」(集英社文庫コミック版、「ミルキーウェイ」収録P310、311)のコマ構成が詳細に解説されています。

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