TINAMIX REVIEW
TINAMIX
青少年のための少女マンガ入門(7)新井理恵

■迷走末期:そして彼岸へ

図9
図9:エッセイ風漫画
(c)新井理恵

97年後半にはもはや漫画とはいえないネタまで登場する。絵を描かず4コマすべてが作者のモノローグ(つまり字のみ)の作品や、最初の3コマがまったくの空欄で4コマ目だけ絵が描かれている作品が並んでいる(7巻P56)のを見たとき、「そろそろヤバいかな」と感じ始めた。そして98年。彼女はついに4コマ漫画が描けなくなる。別冊少女コミック1月号では8ページにわたってダラダラしたヤル気のなさ全開のエッセイ風漫画が繰り広げられていた(図9)。しかもそれが次の号も続く。おそらくファンなら誰しも連載の行く末を危ぶんだに違いない。

さらに3月号では漫画ですらなく8ページに渡る絵日記だ。しかもここで「現役高校生との同棲→妊娠→結婚」という、まるで本編のネタのような衝撃的プライベートを暴露。それまではなんとか描いていたネタも、この幸せボケ(?)事件により一気に描けなくなっていったのだろう。もはやここまでくるとただの穴埋めのための原稿でしかなく、4月号以降、新井理恵の名前は消えた

3ヶ月間の間を置き、7月号で連載復活。なんとかこれまで通りのネタもの4コマに復帰するが妙に裸ネタも多く、仮にも少女漫画誌にコレはOKなのかというネタも登場(図10)。

図10
図10:少女漫画誌にコレはOKなのかというネタも登場
「×-ペケ-」より (c)新井理恵

2号ほどそれが続いて「ネタはややあやういが、少しは復帰してきたかな」と思ったが、またその次の号では絵日記に戻る。プライベートは充実しているようだが漫画家としてはいかがなものか、という状況の中、いよいよ「×-ペケ-」は最終回を迎えてしまった。主要登場人物の将来図を描き一応のラストを迎えさせたモノの、連載終了に関して「あーせいせいした」という作者の気分丸出しの、読者にとっては悲しいラストとなった。(→7巻:97〜98年)

その後、出産と子育てに集中していたのか一時漫画界から新井理恵の名前は消えた。その後しばらくして少年誌にて「ケイゾク」漫画版を手がけるなど、現在はまた漫画家稼業に戻っているようだ。しかしもはや4コマ漫画を描くことはなく、ギャグとはいえストーリー漫画を描くようになった(現在別冊少女コミックにて「うまんが」連載中)。

いずれにせよ「×-ペケ-」は少女漫画界を代表する4コマギャグ漫画だった。たとえそれが一時的なものであったとしても。また、「描けなくなっていく漫画家のアリサマ」を克明に表現した漫画としても、その価値はあるに違いない。そう、これは新井理恵が身体を張って描いた「生き様ギャグ」なのだ。◆

文:小雪


■マンガと音楽の奇妙な関係

あ
『-ペケ-の体操CD』
PONY CANYON,1993

マンガを読むとき、しばしば音楽を流しています。本連載でも、もとむら氏がマンガと音楽の絶妙な関係を語っていますが、確かに相性のいいBGMにハマると気分もさらに昂揚します。

で、人気があるマンガになると、イメージアルバムが出ることがあります。さすがにその音は、多くの場合、マンガの世界観にピッタリ合致します。イメージアルバムをBGMにマンガを読むと、感慨もひとしおです。が、中には驚くほど期待と違うものもあります。

新井理恵『×-ペケ-』も人気があったため、CDが2枚出ています。1枚目のCDが『-ペケ-の体操CD』(PONY CANYON,1993)[図]ですが、正直言って、これがなんだか、実によくわかりません。名前のとおりラジオ体操風味やエアロビクス風の曲が収録されていますが、マンガとの関連が甚だしく不可解なのです。これをBGMに『×』を読んでも、ちっとも盛り上がりません。逆に、その萎え萎え加減が実に『×』らしいといえば、そう言えないこともないのでしょうか。付録でついてくる「ペケ体操出席カード」など、実に脱力します。

しかし、マンガのイメージアルバムには、思わぬミュージシャンが参加していることがあります。『-ペケ-の体操CD』の場合、それが大槻ケンヂです。そして、大槻ケンヂが作詞した曲を、新井理恵本人が熱唱しています。新井理恵のかわいくて色っぽい声の脱力具合がハンパではなく、ハイ・レベルの萎え萎えパワーを放射しています。聞いた後、しばらくは力が抜けて動けません。

しかし、大槻ケンヂのオリジナル歌詞をもらえるとは、うらやましい限りです。そこで、筋肉少女隊をBGMに『×』を読むことを思いつき、さっそく実行してみました。そして、それは想像どおりというか、予想に反してというか、尋常ならざる驚くべき相乗効果を発揮したのです。ちっとも笑えなくなるのです。音なしで読んでいたときは、ヤケクソの愚痴も、脱線気味の悪口も、ときどき荒れる描線も、ギャグだと思って陽気に笑えました。が、「ダ〜メ人間〜」という音波で満たされた空間では、徹底的にシャレになっていなかったのです。

この世にはそっとしておいたほうがいい世界もあるのだなあと痛感した次第です。(はいぼく)

page 1/2

==========
ホームに戻る
インデックスに戻る
*
前ページへ
EOF