No.99746

連載小説10

水希さん

第10回

2009-10-08 21:21:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:381   閲覧ユーザー数:379

ガイダンスばっかりの数日は、あっという間に過ぎた。

 

教科書の配布、学校案内、それから部活説明会、とかとか。

 

その間も、木谷さんはことあるごとに私に生徒会での活躍を、

それこそくどいくらに勧めて来たけど、それを除けば、まぁ、

いい友達関係を築けてるんじゃないかと思う。

 

楓との仲は相変わらずで、クラスでも友達が出来たみたいだけど、

私との付き合いも相変わらずだし、木谷さんともそこそこ仲良くしてるみたいだ。

 

私はと言えば、相変わらず木谷さん以外の友達はできないでいるけど、

たまに、話しかけられる事はある。

と言っても、話題がこの前髪の事だから、ちょっと気になるけど。

 

一度ぱっつんにしちゃうと、なんとなく他の前髪にし辛いと言うか…

それほど伸びたわけでもないんだけど、木谷さんが気に入ったと言ってくれたし、

まぁいいか、くらいに思う。

 

絶対、どっかのタイミングでイメチェンしてやるけど。

 

そして今はガイダンス最終日、最後の休み時間。

この日はなぜか木谷さんが私の髪を触りまくって来る。

ん? そんなに障り心地のいいもんじゃないはずだけど。

手入れに手間がかかる分、バサバサになってる部分はあるだろうから。

 

「はぁ~、いい髪」

「ちょっと、そんないいものじゃないよ? 何しろ入学式当日に

切りすぎた前髪だし」

 とはいえ、コンプレックスを気に入ったと言ってくれたその意見は、

今でも変わらないらしい。だから、ありがたくはあるんだけど…

「好み好み♪ ほら、私なんて生まれつきちょっと茶色いし、短いしね」

 どうやら、私みたいな黒くてストレートな髪質になりたかったらしいんだけど、

こっちはこっちで日本的過ぎて、茶色くしたかったくらいだ。

「髪の交換が出来たらいいのにね~」

「倉橋さんは、染めたかったんだっけ? うちの中学厳しかったから、

そんないいもんじゃなかったよ?」

 むむむ。無い物ねだりか。

「それに、前髪ぱっつんもそうだけど、そうやって髪を伸ばしてるのは、

明らかに自分が選んだスタイルでしょ?」

「ま、まぁ」

 似合うと言うか…髪が伸びるの早いし…真っ黒だし…日本人形が唯一?

といってもいいほどの選択肢だからな…

「真っ黒でつやつやで太くて、その割にうねってないんだから、これは自慢すべきね!」

「じ、自慢って…手入れ大変なんだから!」

 それでも短くしないのは、小さなこだわりなわけだけど…

「私だって、手入れしてるけど?」

「それはそうだろうけど、そんなもんじゃなくてさ!」

 言っても通じないだろうなー。深追いするとどうしても面倒になるし。

「ふむ。じゃあ、後で楓さんの意見も訊いてみよう」

「え、楓? なんで楓が…」

 そういえば、どういうわけだか木谷さんは楓の事を「楓さん」て呼ぶなぁ。

私なんて、いまだに「倉橋さん」なのに。

「前からの友達なんだから、その意見は聞いてみたいっす」

「そ、そういうもの?」

 ま、いいか…楓の意見は私にとって毒になる物でもないし…

「じゃ、授業後だね」

「だ、だねぇ」

 そうして、私達はチャイムが鳴るのをただただ聴いていた。

 

もちろん、するりするりと私の髪を木谷さんの手から抜いて。

 

~つづく~


 
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