No.98930

その瞳に映りし者 第13話

madokaさん

小説「その瞳に映りし者」第13話です。
思わぬ形で再会したリリアとジュリアン…
果たしてこの先の二人の運命は…

2009-10-04 16:32:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:610   閲覧ユーザー数:596

                     その瞳に映りし者

                     ~第13話 喪失~

 リリアとジュリアンは、馬車に乗ってルドルフの家にやってきた。

リリアにとっては、久しぶりに見る我が家である。

こんな形で、戻ってこようとは思いもしなかったが…。

 

 「父さんっ!」

リリアは、すぐにルドルフの傍に駆け寄った。

ルドルフは、苦しそうに息をしていたが、目は閉じたままだった。

「リリア…よく戻ってきてくれたね…本当に夢みたいだよ」

コリンは、久しぶりの娘との再会に涙した。

「母さん…なぜこんなことに…」

リリアは、コリンと抱き合いながら、そうつぶやいた。

「仕事中に足を滑らして落下したんだよ…いつもだったら、もう少し気を付けるんだけど…まさかこんなことになろうとは…」

「もう…助からないの?お医者さまは何て…」

「落ちたときに、頭と背中を強打していて…もう、あまり長くはないと…」

コリンは落胆した様子で、リリアに話した。

「…そう…」

「それより、おまえ…ジュリアンとは一体どういう関係なんだい」

「えっ?!…あ…それは…」

リリアは、突然のコリンの質問に、いささか動揺した。

「母さん…ジュリアンは名門シュテインヴァッハ家のご子息なのよ…」

「え…あのシュテインヴァッハ家の?」

コリンは初めて聞いた事実にビックリしていた。

すると、ジュリアンがコリンにこう言った。

「コリン…彼女は僕にとってとても大切な人なんです…ルドルフが彼女のお父さんだったことを知って…彼女を絶対ここに連れてこようと思って…」

「そうだったの…それはそれは…」

コリンは、ジュリアンとリリアを交互に見ながら、納得したように頷いた。

リリアは恥ずかしそうにうつむいた。

まさかここで、ジュリアンがそんなことを言うとは思っていなかったのだ。

 

 まもなく、ルドルフがゆっくりと目を開けた…。

心配そうにみつめるリリアを見て、驚いたようだった。

「リリア…なんでここに…」

「父さんっ!私がわかるの…?戻ってきたのよ…父さんに逢いに…」

「そうか…戻ってきたのか…もう二度と逢えないと思っていたよ…でも、ここにいてはいけないんじゃないのかい…あちらの方も心配してるだろう」

「心配しなくても大丈夫よ、父さん…しばらくこっちにいてもいいって…」

リリアは精一杯の嘘をついた。

久しぶりに見る娘の姿に、ルドルフは目を細めた…。

「あちらでは、皆さんとうまくやっているのかい…」

「ええ、皆いい人達ばかりで…私は本当に恵まれていると思うわ…」

「そうか…それはよかった…それを聞いて安心したよ…もしかしたら、向こうで苦労してるんじゃないかって心配してたんだよ…」

ルドルフの言葉に、リリアは泣きそうになったが、グッとこらえた…。

「おまえも、随分と大きくなったな…ついこの間まで、小さい小さいと思っていたのに…もうすっかり一人前の娘だ…どこに嫁に出してもおかしくない」

「そうかな…まだまだだよ…」

リリアは、ルドルフの前では自分が子どもの頃に戻ったような気がした。

「思い出すなぁ…あの頃は、本当に貧しかったが…3人で毎日笑いあって…おまえは、学校の帰りによく仕事場に寄ってたっけ…」

「うん…そして、父さんの仕事が終わるのを待って…いっしょに帰ったんだよ…家が近付いたら、母さんの作った夕食の匂いがしてきて…」

「そうだった…美味しそうな匂いがしてくると…駆け足になって…」

2人は、懐かしそうに昔の思い出話をした…。

しかし、しばらくするとルドルフの息が少し苦しそうになった。

「父さん、大丈夫?もうやめようね…少し眠ったほうがいいよ…」

「そうだな…今日は本当にありがとう…逢えてよかったよ」

「父さん……」

ルドルフは、ゆっくりと目を閉じた。

リリアは、それを見届けると、コリンたちがいる部屋へと戻った。

 

 やがて、夜が明けてすぐ…

ルドルフの容態が悪化した。

再び街医者が呼ばれて、ルドルフの様子を見守った。

苦しそうに息をしながら、ルドルフはリリアの名を呼んだ…。

「リリア…リリア…」

「父さん…私はここよ…ここにいるよ…」

リリアはルドルフの手を握って、そう応えた。

コリンも、ルドルフの傍に駆け寄り、3人手を取り合った。

「母さんもここにいるよ…みんな一緒だよ」

リリアは、ルドルフに呼びかけ続けた。

すると…安心したようにルドルフの息がフッと静かになった…。

街医者は、ルドルフの脈を見ながら、しばらくしてこう言った。

「ご臨終です…」

「父さんっ!目を開けて…父さんっ!」

リリアは、その場に泣き崩れた…。

コリンもまたリリア同様、ルドルフの傍で号泣した…。

ルドルフは2人に見守られながら、天国へと旅立ったのだ…。

 

 やがて、近所の人々の援助もあり、教会で葬儀が行われた。

ルドルフの人柄もあるのか、多くの人々が葬儀に参列した…。

リリアは、ひとり生気を失ったように、呆然としていた。

そんなリリアを見て、ジュリアンは傍にきてこう言った。

「リリア…お父さんはきっと最後にリリアに逢えて嬉しかったと思うよ…安心して天国に旅立ったんじゃないかな…」

「そうね…そうだったらいいのだけれど…」

「きっとそうだよ…だって君のお父さんは、君をすごく愛してたじゃないか…君は、親孝行をしたんだよ」

「親孝行…?私は親不孝者よ…結局、何もしてあげられなかった…ソユーズ家に行った当初、何度も家に帰りたいと思ったわ…正直、はじめは馴染めなくて…でも帰れなかった…迷惑がかかると思ったから…」

「それでよかったんだよ…君のご両親はそれを理解していたと思う…お互いに思いやってのことなのだから、後悔することなんてないよ…」

ジュリアンはリリアの肩を抱いて、慰めた。

リリアは、それでもすぐには立ち直ることは出来なかった。

 

 葬儀が終わって、柩は近くの墓地に埋葬された。

ルドルフの好きだったユリの花が手向けられ…

リリアとコリンは祈りを捧げた…。

「母さん…これからどうするの…ソユーズ家に頼んで、うちに一緒に…」

リリアの言葉を遮るように、コリンはこう言った。

「それは駄目だよ、リリア…私はソユーズ家の屋敷には絶対にいけない…罪を犯しているのに、それは許されないことよ…」

「でも、このまま母さんをひとりここに置いてはいけないわ…」

心配そうにリリアはコリンをみつめた。

「そのことなんだが…リリア…」

同行していたセルゲイが突然口を開いた。

「コリンをうちで預かろうと思うんだ…コリンさえよければ、うちで働いてもらおうかと思ってね」

「え…本当ですか?」

リリアは、びっくりしてジュリアンの方へ目をやった。

するとジュリアンは、深く頷いた…。

「だから、何も心配することはないんだよ、リリア…安心してソユーズ家に戻れる」

「そうですね…少し安堵しました…ありがとうございます…何とお礼を言っていいか」

「わたしも、何かできることはないかと思ってね…君たち親子を見ていると、本当に心があらわれるようだった…」

セルゲイは、リリアを優しく見つめながら、そっと肩をたたいた。

「このことは、ジュリアンも心配していたんだ…生前、ジュリアンはルドルフに世話になっていたからね…彼は本当にいい人だったよ…」

「ジュリアンと父さんが…なんだか、不思議な気がします…私の知らない間に2人が出会ってたなんて…」

「まったくその通りだ…縁なんてそんなものだよ、リリア…きっとこれは運命なんだ」

「運命……」

ついこの間まで…もうジュリアンとは逢えないのではないかと思っていた。

しかし、今はこうやって傍にいる…。

何かの運命に導かれて、2人は再会した…。

確かに不思議な縁で結ばれているような気がする…

リリアはそう思わずにはいられなかった。

そして、ジュリアンも同様にそう思っていた。

ずっとリリアに逢いたいと思っていたが、きっかけが掴めずにいたのに…

こうやって、何かに導かれるように再会できた。

今は、とにかくリリアを守りたい…

自分にとってはそれが使命なのだとさえ思えた。

 

 やがて、リリアがソユーズ家に戻る日がきた…。

カイルが馬車で迎えにきたのだ。

「リリアさま…お迎えにあがりました…ご準備はよろしいですか」

「ちょっとだけ待ってちょうだい…」

リリアは足早にコリンのところへやってきて、別れの抱擁をした。

「母さん、元気でね…」

「リリアも、向こうで頑張るんだよ…」

そして、リリアは後ろにいたジュリアンに目をやった。

「ジュリアン…色々とありがとう…本当に今度のこと、嬉しかった…」

「リリア…当たり前のことをしただけだよ…」

「また…きっと逢えるよね!」

「勿論!…まだしばらくはこっちにいるけど…必ず連絡するよ…」

「うん…待ってる…」

少しの間に2人の絆が深まったことはカイルの目にもみてとれた。

「リリアさま…もう時間ですよ…そろそろ」

「わかったわ…今いきます…」

リリアがカイルの方へ向かおうとした瞬間…

ジュリアンが呼び止めた。

「リリア…」

そしてリリアを強く抱き締めた…。

「ジュリアンッ!…」

ほんの一瞬時間が止まったような気がした…。

そして、リリアは実感した。

この人は、自分にとってかけがえのない人だと…。

 

 やがて、リリアを乗せた馬車は遠くに消えた。

それを見送りながら、ジュリアンはクロディーヌの言葉を思い出していた。

「自分の愛するものを失う…いつか…」

ジュリアンは強く首を振った。

「違う…そんなことにはさせない…」

そう何度も不安を打ち消すようにつぶやいた…。

 


 
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