No.976656

邂 逅

こしろ毬さん

最近、うちの探偵殿もちょこちょことしゃしゃり出てきたので…(笑)
うちの作品の主人公同士のファーストコンタクトなるお話をアップします。「星紋」の佑介と「探偵・飛鷹光一郎シリーズ」の光一郎です。
実はこのお話は、ブログ「佑遊草子」 http://blog.livedoor.jp/smysei/ にてアップしているものだったりします。光一郎を佑介の知人にしたらいいかも…という発想で書いてしまいました(笑)。今は年の離れた兄弟のような関係のふたりです。
ちなみに、この頃は光一郎と瑠衣はまだ結婚してません(笑)。

2018-12-14 17:47:14 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:622   閲覧ユーザー数:622

その日、土御門佑介は母・小都子からの頼まれごとで新宿まで足を伸ばしていた。その件も無事済み、彼は家路を辿っていた。

「……佑? 佑じゃないか?」

「……え?」

突然声をかけられて、怪訝そうに振り返った佑介。そこには…

「…飛鷹(ひだか)さん!? うっわ~~っ、久しぶり!!」

「よお。相変わらず元気そうだな」

佑介から「飛鷹さん」と呼ばれた、少し鋭さを漂わせる風貌の長身の男。新宿で私立探偵を営んでいる飛鷹光一郎である。

探偵と聞くと、一般的には身元調査が主な仕事になるが、彼の場合は元・警視庁捜査一課の刑事だということもあってか、警察の嘱託として事件の調査がメインである。

 

「こっち方面に来るなんて珍しいな。どうした?」

「あ。お袋から頼まれごとを言われちゃって。もう終わったけどね。飛鷹さんは調査中?」

「ああ、今日の分は終わったから帰るところだ。…そうだ、時間があるなら事務所に寄ってくか? 帰りは車で送るから」

光一郎はその鋭くも整った顔を綻ばせて言う。

「え、いいの?」

「瑠衣も陽司も、佑に会いたがってたぞ」

俺もそうだけどな、と心の中で呟く。

 

光一郎が口にした、ふたりの名前。

瑠衣…三杉瑠衣(みすぎ・るい)は光一郎の秘書であり、また恋人でもある。

少しウェーブのかかった長い髪の、たおやかな雰囲気の女性だ。だが芯はとても強い。

もうひとりの陽司こと、霧島陽司(きりしま・ようじ)は助手である。

その名の通り明るく陽気な性格の青年で、事務所のムードメーカー的存在だ。光一郎同様、佑介のことをすごく可愛がっている。

 

「わ、瑠衣さんも霧島さんもいるんだ。ちょっと待ってて、電話してみる」

佑介はそう言うと、少し離れた場所に移動した。

「…もしもし、母さん? 佑介だけど」

携帯をかけている佑介を見る光一郎の表情は穏やかだ。だが、佑介を見るときにだけ時折現れる、悲しげな光がその目にはあった。

 

しばらくして、佑介が小走りで光一郎の許に戻ってきた。

「…母さん、おっけーだって。よろしく伝えといてって言ってたよ」

「そうか。…じゃあ、行くか」

光一郎もにこりと微笑む。

「うん! 飛鷹さんちに行くのほんとに久しぶりだなあ~。1年ぶりかな」

ふたりはそう言いあいながら、並んで歩き出した。

 

母・小都子の許しも得たということで、佑介は久しぶりに光一郎の事務所兼自宅に立ち寄った。

新宿に建つそれは、1階が光一郎の愛車・フェラーリが収納されているガレージ、2階が事務所、そして3階が光一郎たち3人の住居(要するに部屋。客用もあり)となっている。

「あ、お帰りなさい、先輩」

陽司が光一郎の姿を認めて、声をかけると。

「こんちは…」

佑介がひょっこり、光一郎の後ろから顔を出した。

「お帰り…あら、佑介くんじゃない! どうしたの~?」

瑠衣も目を見開いて駆け寄ってきた。

「ひっさしぶりだなあ~、元気だったか?」

「へへ、おかげさまで」

「そこでぱったり会ったからね、連れてきてしまったよ」

思わず苦笑いの光一郎たった。

 

事務所内はすっかり寛ぎモードとなり、瑠衣がコーヒーを持ってきた。

「佑介くんも光一郎と同じで、ブラックだったわよね」

「うん。ありがとう~。瑠衣さんの入れるコーヒーって美味しいんだよね。いいなあ~飛鷹さん」

佑介にそう言われ、光一郎はなんとも言えない表情になる。

「だろ~? 俺もこんなコーヒーを入れてくれる彼女がほしいよ」

「それはそーだけど、霧島さんだって瑠衣さんのコーヒー、いつも飲んでんじゃん」

溜め息交じりに言う陽司に、佑介はすかさず突っ込んだ。

「そうでした…」

そんなふたりの会話に、光一郎も思わず吹き出す。

「あの時は、佑介くんは高1だったから…会ってから1年たつんだなあ」

ふっと、懐かしげに陽司が言った。

「いろいろあったものね」

「僅かな時間で犯人を捕まえられたのも、佑のおかげでもあったしな」

瑠衣と光一郎も、同じように思いを馳せる。

 

 

 

それは、1年前――

 

光一郎が刑事時代の上司だった真先敬三(まさき・けいぞう)警部からの依頼で、ある殺人事件の現場検証に陽司と来ていたときだった。たまたま、親友の篁 和樹と一緒に、新宿に遊びに来ていた佑介も現場の前を通りかかったのだ。

「お、なんかあったのかな。すごい野次馬」

和樹が人だかりを見て、興味津々という風に言う。

「よせって。なんか事件じゃないのか? パトカーが一杯来てるし…」

佑介は少し顔を顰めるのだが。

「ちょっと見てみようぜ」

と言うやいなや、和樹は現場の方に走っていってしまう。

「あ、おい! …しょうがないな~」

渋々、佑介も現場に向かう。彼としてはあまり、こういう場には近づきたくないのだが…。

ちょうど「Keep Out」のテープが貼られた、割と前の方に和樹がいたので、その隣に並ぶ。

「…どうやら殺人事件みたいだな」

「殺人……」

そうと認識した佑介の身に、突然「それ」は起こった。

「……っ!?」

「? …おい、佑介!? どうしたっ!」

突然の少年の声に、そこにいた光一郎は振り向いた。見れば胸をわしづかみにして押さえながらうずくまる少年と、彼を心配そうに見ながら慌てる少年。光一郎はすぐさま駆け寄る。

「君、どうしたんだ、大丈夫か!?」

「急にうずくまってしまって…!」

和樹はすっかりうろたえてしまっている。

「すぐにもう1台救急車を呼ぼう。君、ここに横になって」

言いながら、光一郎は自分のコートを脱ぎ、背中と頭が当たる部分を下に敷く。しかし、佑介は微動だにしない。その口から彼のものとは思えない声が漏れる。

『―――くれ』

「………?」

光一郎は怪訝そうに佑介の顔を覗き込む。

「佑介?」

和樹も不安げな表情で佑介を見た。

『私を殺したヤツを捕まえてくれ…! ヤツらはあれを探している。聖陵株式会社のウラ帳簿だ…』

「!」

その名を聞いた光一郎の表情が強張る。というのも、この場で殺されたのは聖陵株式会社の社員だったのだ。そう言えば、現場である彼の部屋が荒らされていた。まだマスコミでも流れていない情報を知っているこの少年は、一体……。

和樹は心当たりがあるのか、心配そうに佑介を見ている。

 

「…そのウラ帳簿というのは、どこにある?」

信じられないことだ、今目の前で起こっていることは。だがこの少年は、嘘を言っているようには到底見えない。だから光一郎も、被害者である社員に話しかけるつもりで声をかけた。

『東京駅の…ロッカー…。鍵は私の背広の内ポケットにある財布の中…。犯人の名…も、それに書いて…ある……』

そう言うと霊が抜けたのか、がくっと佑介の体が前のめりに崩れて、光一郎がその腕に抱き留める。

「佑介!?」

「大丈夫、気を失っただけだ。…ああ、救急車が来たようだな」

救急車のサイレンが聞こえる。光一郎は陽司のほうを向いて。

「陽司。これから病院に行くから、すまんが俺の代わりに詳しいことを聞いておいてくれ」

「わかりました!」

爽やかさを感じさせる笑顔で、任しといてください、というように親指を立てる。それに笑って、腕の中の佑介を見る光一郎の表情は複雑なものだった…。

警察病院に運ばれ、ベッドに横たわっている佑介を、和樹はじっと身動きひとつせずに見ていた。病院に来たときは光一郎もいたのだが、また来るからと現場に戻っていった。あれから3~4時間はたっているだろうか。昼下がりの日差しが窓から差し込んでいた。

その時、ドアがノックされた。

「…はい」

和樹が返事を返すと、光一郎が静かにはいってきた。

「…まだ目が覚めていないみたいだね」

「ああいうときは結構体力を消耗するものだって、いつも佑介が言ってたから…」

和樹が、ぼつりと言う。

「ああいうときって……?」

意味がわからず光一郎が尋ねると、和樹は意を決したように顔をあげて。

「信じてもらえないでしょうけど、こいつ、子供の頃から強い霊能力を持ってるらしいんです」

光一郎は僅かに目を見開いた。

「いわゆる霊を見たりとか、聞こえないはずの声や音などを聞くのもしょっちゅうで。今でこそだいぶ制御できるようになったけど、やっぱり突然に取り憑かれることもあるって…」

「………」

和樹が話すことを、光一郎はその切れ長の目を閉じ、黙って聞いていた。

あの時の佑介の様子がよみがえる。少年にありえない低い声と口調、虚ろな表情…。

「……信じるよ」

静かに目を開け、穏やかな口調で光一郎は言った。

「え……」

「だてに俺も、以前は警察をやってたわけじゃないよ。嘘を言ってるかどうかは表情を…目を見ればわかる」

そう言って、安心させるように笑う。その横で、佑介が身じろぎをする。

「……ん…」

「佑介、大丈夫か?」

和樹が顔を覗き込んでくる。

「和樹…? 俺…」

眩しそうな表情で、佑介がそう言うと。

「気分はどうだ?」

低く、それでいて冷たさのない声が聞こえた。

「えっ!? …あの…」

佑介がそれに驚いて慌てて飛び起きると、長身の男性が立っていた。

「この人が佑介をここまで運んでくれたんだよ」

「そうだったんですか。すみません」

和樹が説明すると、佑介は申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた。

「いや……」

光一郎の表情に、佑介の表情が微妙に強張る。あの時のことを佑介も覚えているのだ。

(絶対、変なヤツだと思われただろうな……)

佑介は居心地悪さを感じてしまう。

佑介の表情で、自分もある程度は話したが、ここにいては説明しづらいだろうなと、和樹はこの場を辞することにした。

「迷惑かけて悪かったな、和樹」

苦笑交じりに言う佑介。

「おまえこそ、帰るときは気をつけろよ」

和樹はにこっと笑って、手を振りつつ帰って行った。

…かくして、病室には佑介と光一郎だけである。

 

「…えっと、あの…」

佑介が、おずおずという感じで口を開く。

「…君のおかげで、あの殺人事件の犯人が捕まったよ」

「えっ!?」

「例を見ないスピード解決だった。ありがとう」

光一郎はふっと微笑んだ。

あれから、佑介が言っていたということは伏せてすぐに東京駅のロッカーに行かせ(鍵も確かに財布に入っていた)、そこに入っていたウラ帳簿に載っていた関係者を逮捕したのだ。

 

「あの友達から聞いたが…、君には霊感があるそうだね」

問い詰めるわけでもなく、やんわりと言う。

「………」

佑介は俯いて、黙りこんでしまった。それに光一郎は少し困った風に笑って。

「確かに、俺も初めは信じられなかったよ。だけど、君の様子に嘘はないと思ったんだ。実際に君の言うとおりに物証が出てきたときは驚いたけどね」

「気味が悪いヤツだと…思ったんじゃないですか……?」

自嘲的な笑みを浮かべて、佑介は言った。

それに光一郎は驚いたように目を見開く。

「…どうして、すごいじゃないか。亡くなった人の思いを伝えられるんだろう? 誰にでもできることじゃない」

そう言いながら、光一郎は椅子に座った。

「今回の事件の被害者だって、君に力を貸して欲しくて憑いてしまったんだと思うよ、犯人を俺たちに捕まえて欲しくてね」

佑介は光一郎の顔を真っ直ぐ見た。ふざけてもいない、真摯な表情だ。そしてその言葉に嘘はないと感じたのだ。

 

「……ありがとうございます…あの…」

「あ、まだ名前言ってなかったか。俺は飛鷹光一郎、私立探偵をやってる」

戸惑う佑介の様子に気づいて、光一郎はばつが悪そうに笑った。

「え、警察の人じゃないんですか?」

目をぱちくりとさせる佑介。

「厳密に言うと元刑事。今は警察の嘱託として事件の調査などを請け負ってるんだ」

「そうなんですか。僕は土御門佑介といいます」

少し表情が柔らかくなった佑介に、ほっとする光一郎だった。

年が近いせいか、ふとその笑顔に面影がだぶる。……弟の。

 

「……飛鷹さん? どうしたんですか?」

「あ、いや」

慌てて笑顔を繕う光一郎を、なおもじっと見る佑介は…。

「飛鷹さんは信じてくれたから言いますけど…。『俺を思い出すときに悲しそうな顔しないで』って言ってますよ、そこにいる子」

「………!」

光一郎の隣を指差してそう言うと、光一郎は眼を大きく見開いた。

「弟さん…ですよね? 僕と同じか少し上くらいかな…」

「…ああ。高校3年の時に亡くなった。もう5年くらいになるかな。俺が24の時だったから」

光一郎はふっと息をついて言った。

あんな死に方をさせてしまった弟に対して、以前ほどではないがやはり、負い目を感じてしまう。

「まだ上がってなかったんだな…、俺が気持ちの上で縛ってるから」

光一郎が自嘲的に言うと、佑介は強く首を横に振る。

「違いますよ! 彼が『ここにいたい』と言っているんです」

「……え?」

思いがけない佑介の強い語調に、戸惑いを隠せない。

「確かに成仏させることも大切だけど、上げればいいってもんじゃないんです。中には、いつもは上にいて、時々守護霊のようにそばにいるという霊もいるんですよ。…弟さんはそのタイプですね、きっと」

照れくさそうに佑介が笑うと、光一郎の隣にいる「彼」も微笑んだような気がした。

「……そうか…」

光一郎の表情も、心なしか晴れたものになっている。

「……ありがとう」

「?」

唐突な感謝の言葉に、佑介は首を傾げた。

「土御門くん…ちょっと言いにくいな、名前で呼んでもいいかな? …佑介くんにそう言ってもらえて、あいつが今苦しんでないとわかって安心したよ…」

「いえ…そんな」

思わず俯いてしまった佑介の頭に、温かいものが乗せられた。光一郎の手だ。

それは子供の頃から、おぼろげに覚えている「あの手」を彷彿させる。

「自信を持てよ。こんなすごいものを持っているんだ。自分の力のこと……嫌いになったらダメだぞ?」

光一郎が優しく微笑んで言う。

「…っ……」

 

――泣いてしまいそうだ。

 

家族や友人以外に、こんなに自分の力のことを理解してくれる者はいなかった。肩が知らずに震えてしまう。

「……佑介くん?」

「すみ、ません…ちょっと」

あはは、と笑ってごまかそうとするが、その顔はどう見ても泣き笑いだ。

光一郎は溜め息交じりに苦笑し、佑介の頭をぽんぽんと叩く。

「……つらかったろう、今まで」

子供の頃から見えざるものが見えたり、聞こえない音が聞こえていたのだ。周りの大人や子供たちに言っても信じてもらえなかっただろう。それは、とてもつらいことだ。

光一郎のその言葉に、今度こそ佑介は顔を歪ませて、嗚咽を漏らしてしまった。佑介が落ち着くまで、光一郎はその背中を子供をあやすようにさすり続けた。

 

「…すみません、みっともないとこ見せちゃって」

だいぶ落ち着いたのか、佑介は恥ずかしさで赤らめた顔で言った。

「そんなことないよ、つらい時は我慢しないことだ。泣くのは恥ずかしいことじゃないんだからな」

光一郎の言葉に安心したように笑った佑介だったが、気がゆるんだのか、

 

ぐうううう。

 

彼の腹の虫が元気よく鳴った。

「………あ」

光一郎も思わず笑ってしまう。

「そういえばもう2時過ぎてるな。…よし、事件のお礼もあるしご馳走させてくれないか? 秘書に何か美味しいものを作らせるよ」

「えっそんなっ、お礼なんてとんでもないです!」

佑介は慌てて両手を振るのだが。

「いいからいいから。せっかくこうして知り合えたんだし、お近づきの印だよ」

悪戯っぽく笑って言う光一郎に「じゃあ、お言葉に甘えて…」と、佑介も笑顔でベッドから降りる。

そして病院を出、光一郎の愛車・フェラーリで彼の事務所に向かったことが、光一郎を初めとする「飛鷹私立探偵事務所」の面々とのつきあいの始まりだった――

 

 

「あの後、佑介くんが初めてうちに来たのよね」

「あの時の緊張した顔が懐かしいよなあ」

コーヒーを飲みつつ、そう言う瑠衣と陽司だ。

「だって、事務所という所に入るの初めてだったんだから仕方ないでしょ」

佑介は少し拗ねたように言い返す。

「ま、それはそうだな」

光一郎はくすくす笑っている。

「でも、飛鷹さんの事務所は全然堅苦しくなくて、居心地いいんだよね。場所の雰囲気も明るいし」

事務所を見回しながら言う佑介。

実際、光一郎の事務所は全体的にガラス張りだからなのか陽の光が入って明るく、とても開放的なのだ。

「そう言ってもらえると嬉しいね」

「単に人数が少ないだけかもしれないけどね…いでっ!」

陽司の頭に、すこーん! と光一郎の鉄拳が飛んだ。

「一言多いんだよ、おまえはっ」

そんな光一郎と陽司のやりとりを「相変わらずだね」「そうなのよ~」とおかしそうに見ている佑介と瑠衣であった。


 
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