No.966835

Under Of World ZERO 第11話-戒する残影-

matuさん

前話同時系列のジャック&キングのお話です。

ジャック目線でお送りします。

2018-09-11 00:48:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:382   閲覧ユーザー数:382

-対小型セル戦終結十数分前-

 

 私とキングは小型セル二体を三人に任せ、河原を転げ落ちて行った中型セルを追う。私達が土手を滑るように駆け下りる頃には、奴が起き上がっていた。

「さて、さっさと終わらせんぞ」

「そうだね。彼らも心配だ」

深呼吸をし、構える私達に対して、奴は静かに漂流していた流木を手にした。

「……まさか、そんな」

「逃がす訳には行かねえな。ここで確実に息の根止めてやる」

 いつもより凄みの増した物言いから見るに、私と同じであの時を思い出したのだろう。あの人を失ったあの時を。

「キング、冷静にいこう」

「……分かってるよ」

「私が隙をつくる」

 手短にそうキングに伝え、私は奴との距離を一気に詰めた。対応するよう振るわれた流木を蹴りでへし折り、すぐさま軸足を入れ替えて後ろ蹴りを喰らわせる。奴がよろけた瞬間、キングの打ち下ろすようなフックが鈍い音を響かせた。やっぱりいつもより攻撃が重い。口ではどうとでも言えるけど、無意識にでも力が籠ってしまうものだな。内心、私だってどうしても穏やかじゃないんだから。私達からあの人を奪った奴もまた、ああして道具を扱い、学習する。つまり知能のある個体だったのだから。

「ジャック、ボーっとしてんな。見ろ」

 私が余計なことを考えている間に、奴は体勢を立て直し、足元にあった小ぶりな岩を手にした。私達が身構えると同時、素早い流れる様な動きで投擲された岩が私を掠め、背後の土手に着弾した。

「凄い威力だね」

「言ってる場合か。ありゃ直撃したら無傷じゃ済まねぇレベルだぞ」

「次が来るよ」

 奴はそれが有効な手段だと理解したのか、絶え間なく次々と弾幕を張る様に奴は投石を開始した。

「あの野郎、舐めやがって!」

「これは厄介だね……」

 利き手という概念など無い奴は、左右で交互に岩を投げる。その上、コントロールも的確。これには距離を取らざるを得ない。更にここは永く人の手の介さなかった河川だ。岩など腐る程転がっている。このままでは回避を続ける私達の体力が尽きるのも時間の問題だ。

「いくら避けてもキリがねぇぞ」

「だからと言って近づくのは自殺行為だろう」

「何発かは耐えれるだろうよ!」

「後のことも考えて言っているのかい?」

「チッ……じゃあどうすんだ。隙もクソもねぇぞ」

「さて、どうしようか」

「呑気だな、時間が無ぇってのに」

「キング、合図したら壁を作ってくれ、一瞬で良いから」

「あぁ? 壁だぁ?」

「頼んだよ!」

 言うだけ言って私は土手を駆け上がる。

「キング!」

「クソッ、どうなっても知らねぇからな!」

 私は踵を返し、全速力で斜面を駆け下りる。私の声に応じる様にキングの両腕は唸りを上げ、白煙を吐き出した。

「行くぞォォォオオオオ!」

 キングは大きく両腕を振り上げ、勢いよく拳を地面に突き立てた。腹の底に響く様な振動に遅れ、地面が中空に巻き上がる。加速した私は屈んでいるキングを足場に跳躍した。砂煙を抜け、奴の背後に着地した私は、振り向いた奴の頭部を掴み膝を入れる。そこからはひたすらに連打。無意識にも近い、夢中とでもいうのか、あの日からその身に叩き込み続けて来たあらゆる技を吐き出し続ける。合流したキングと入れ替わり立ち替わり、絶え間なく反撃のタイミングすら与えない様に攻撃を続けた。あの日、あの時、あの人を奪った奴への怒りを。そして、何もできなかった自分達への戒めを込める様に。拳を、脚を振るった。

「っらァア!」

「ハァァア!」

 奴の頭部を同時に捉えたキングと私の挟撃で、遂に奴が地面に平伏し沈黙した。

「ふぅ……いい動きだったよ、キング」

「全く、調子が良いぜ」

「ははは。まあまあ、倒せたんだし終り良ければって事で」

「さっさとあいつらんとこ……」

「おーーい! 兄貴方ぁあ!」

 キングの言葉を遮るように土手上から聞きなれた声が聞こえた。

「おや? これはこれは、予想以上の結果だね」

「お前ら! セルはどうした!」

「無力化しました。それより、さっきの振動は何なんですか?」

「生け捕りっすよ、生け捕り!」

「生け捕りだぁ?」

「はっははは! これはまた何とも頼もしい限りだね」

 こうして私達は無力化したセル、計三体をトラックに担ぎ込み帰路につくのだった。生け捕りにした小型セルと相乗り状態の車内は、何とも珍妙な空気感に満たされていた。荷台に一緒に乗せられた新米三人の顔と言ったら、この上なく笑える光景だった。

 それにしても、三人の功績は手放しに期待以上だ。初陣で時間稼ぎどころか無力化、それも生け捕りとは。私達もいよいよ負けていられないな。そして、これで今回の奴らについて色々と調べられる訳だけど。変異種か。全く、厄介な限りだ。あんなのがワラワラと現れる様になれば、戦闘は更に激化するだろう。死も、それだけ近くなる。ナラクに帰還した私は皆に任務終了を告げ、その足でハーミットの元へ向かった。

「只今、ハーミット」

「おう、今回は大手柄だな」

「主に彼らがね。それで、なんだけど」

「ふん、皆まで言うな。分かってる」

「どれくらい掛かるかな?」

「調査が終わってからになるだろうからな。材料は申し分ないが、ひと月って所だろう」

「急かす様で悪いんだけど、なるべく早く頼むよ」

「儂らも今回の戦闘報告は受けている。状況は分かっているつもりだ、任せてくれ」

「じゃあ、宜しくお願いするよ。新型をさ」

 私達も進化しなければならない。もう負ける訳にはいかない。もう誰も失わない為に。生き残る為に。


 
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