No.958868

紫閃の軌跡

kelvinさん

第117話 未知なる来訪者

2018-07-04 21:45:54 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1435   閲覧ユーザー数:1297

~リベール・エレボニア国境線~

 

「で、これをどう見る?」

 

「どう見る、と言われてもねえ……」

 

 二人はトリスタ南に広がる森の中にいた。お互いにどうしたものかと悩んでいる視線の先には、明らかに変質したヴァリマールの姿と、仰向けになって倒れている一人の青年の姿があった。その人物の服装はともあれ、紛れもないとある人物だとすぐに察した。

 

「未来のリィンなのには違いないが、大方あの怪物の目論見に乗せられたのかもしれねえな」

 

「それが妥当な考えだろう……とりあえず、ヴァリマールはどうにかしたほうがいいな」

 

 アスベルは息を吐き、ヴァリマールに向けて手のひらを翳す。淡い光がヴァリマールを包み、光が収まると旧校舎で見たそのフォルムに戻っていた。一点違うところは、何も喋らなかったはずのヴァリマールが言葉を発したことだった。

 

『ここは……そなた等は、一体何者なのだ? 我を元に戻せるなど、女神の所業に近きこと』

 

「灰の騎神ヴァリマール、ですね。貴方とそこで眠っている彼のこと、教えていただけますか? その対価として、貴方方の安全は保障します」

 

『良かろう。我の知識が役に立つのであれば、是非もない』

 

 ヴァリマールは話した。七耀暦1206年7月、変質したカレル離宮でリィンとヴァリマールは新旧Ⅶ組と戦ったこと。その過程でミリアムを失ったこと。それがトリガーとなって穢れた聖獣を殺め、終焉の始まりを呼んでしまったこと。そしてリィンとヴァリマールがギリアス・オズボーンの駆る騎神によって為す術もなく捕らわれようとしたとき、光に包まれて飛ばされたと説明した。

 

 突拍子もないことだと思いたいが、彼の話したことで敵と味方が明確に判断できた。そのお返しとして、ヴァリマールの話した世界とは異なる平行世界に飛ばされたと説明した。アスベルやルドガーの存在を聞いても聞いたことはないと返したからだ。

 

「移動手段もおそらくは問題なく使えるでしょう。ですが、この世界に九体の騎神が存在することになっています。この周辺に法術を張りましたので、暫くは回復に努めてください」

 

『忝い』

 

 そう言って、ヴァリマールの瞳の光が消える。しかし、平行世界のこととはいえ大方の未来が判明したことに溜息を吐く。ルドガーも首を傾げていた。

 

「とりあえず、リィンをどこか安全な場所に運ばないとな。ここからだと……セントアークしかないな」

 

「だろうね。トリスタやケルディックとかだったら、逆に混乱しか生まない」

 

 そうして、アスベルはリィンを担ぐ。二人の姿は霞のように消え、残ったのは森の中に潜むように佇むヴァリマールの姿であった。

 

 

~アルトハイム自治州 セントアーク~

 

「……ここ、は……」

 

 青年もといリィンは目を覚ます。いつの間にか寝巻に着替えさせられ、来ていた服はきっちりと折りたたまれており、コートや得物である太刀は丁寧な扱いを受けていた。見るからに貴族の屋敷のような場所で眠っていたのだろうとリィンは疑問を浮かべていると、そこに姿を見せたのは二人の男性。見るからに同い年ぐらいの青年であると感じていた。

 

「起きたか。具合はどうだ?」

 

「えと、大丈夫です。ここは一体……」

 

「アルトハイム自治州セントアークのアルトハイム家の屋敷だよ、リィン・シュバルツァー」

 

「え、なんで俺の名前を……」

 

「ヴァリマールから粗方の事情は聞いた。彼はトリスタ南の森の中にいる。誰かに触らせないよう処置はしているから、安心してくれ」

 

 彼の反応からして、間違いなくアスベルやルドガーといった存在がいない世界である。聞いた限りだと、リベール王国が小国のままだったことから『本史』ということなのだろう。何せ、リベール王国がエレボニア帝国の領土を吸収して大国にまで成り上がったことを聞いて吃驚していた。

 

「そういう意味だと、シュバルツァー家も違うな。こっちの世界じゃリベール王国の自治州で侯爵だ」

 

「……本当に、別の世界に来たんですね。俺は」

 

「いつ帰れるかも解らない。何かしらのきっかけで帰れるだろうとは思うが……リィン・シュバルツァー、その名前はこの世界で隠してもらうことになる。そうだな……クワトロという名前でどうだろう? 名乗りたい名前があるんなら、そっちでもいいけど」

 

「いえ、あまりいいものは思いつきませんし、それで構いません。えと……」

 

「アスベル・フォストレイトという。よろしく、リィン・シュバルツァーあらためクワトロ。俺のことはアスベルでいいから」

 

「ルドガー・ローゼスレイヴだ。名前で呼んでくれて構わない」

 

 そして、ダメ元でサングラスを掛けるように言っておいた。激しい動きでも一切外れることのないストッパー付で、それを見たアスベルとルドガーは揃って笑みを堪えるので精一杯であった。

 クワトロは1204年10月以降の歴史について話してくれた。本人はトールズ士官学院第Ⅱ分校の教官をしており、帝国史を学んでいたことからクワトロがこの世界に飛ばされる直前までの出来事を話した。

 

「俺は、何も守れなかった。力があるのに、何もできなかった」

 

「……リィン。それは単なる言い訳だろう」

 

「アスベル……」

 

「力があるのに、利用されたくないと思うのならなぜ磨こうとしなかった? それほどの経験を得てもなお、お前には覚悟が足りなかった。だから、ルーファス・アルバレアの言葉に迷った。向こうの世界のミリアムを死なせた。ギリアス・オズボーンの策略に乗せられた」

 

「それは……」

 

 どうやら、向こうでもこちらでも資質はあった。だが、目の前にいる人物はまだ恐れを感じている。こんな状況では、守るべき人物を死なせても何らおかしくはない。それを理解しているのか、クワトロは悔しそうな表情を浮かべている。それを突きつけるように、アスベルは冷酷な表情で現実を口に出す。

 

「力を忌避するあまり、暴走して破滅の一歩を歩ませた。お前は向こうのセドリック皇子と何ら変わりない」

 

「違います! 俺はっ」

 

「何が違う? 結局のところ力を欲した結果の破滅だろうに……支度をしろ、クワトロ」

 

「……アスベル?」

 

 それっきり黙るアスベルとルドガーは一度部屋を退出し、クワトロは言われるままに身支度を整えた。部屋の外に出ると、二人が待っていた。しかし、アスベルは黙ったまま歩き出し、ルドガーもそれについていく。クワトロもその後を追った。屋敷の外には装甲車が停まっていて、三人はそれに乗り込んだ。そして揺られること15分……王国軍の演習場に到着した。

 

 

 対峙するアスベルとクワトロ。アスベルが太刀を抜き放つと、その光景に目を見開いた。クワトロの眼前に立つのは紛れもなく八葉一刀流の剣士。殺気は感じられないのに、その佇まいからして隙が感じられない。まるで師父と対峙した時のような感覚に襲われる。そんな様子をよそに、アスベルの背後にいたルドガーが話しかけた。

 

「容赦ないな、お前は」

 

「どうせ鍛えることになるんだ。ここいらで中途半端な使い方は己の身すら滅ぼすと叩き込まないと、アイツの精神は完全に崩壊する。だから、思い切って踏み切ってもらう」

 

「荒療治なわけね……ま、精神科医みたいなことができるお前だし、心配はしてねえが……万が一の場合は止めるからな?」

 

「ああ」

 

 そうしてルドガーが離れたのを確認して、アスベルは神衣無縫を発動させる。それを見たクワトロは神気合一を発動させる。その反応は正しい反応であると内心でつぶやきつつ、真剣な表情を向ける。

 

「八葉一刀流奧伝、クワトロ……いざ、参ります!」

 

「それでは……八葉一刀流筆頭継承者、アスベル・フォストレイト。来るなら全力で来い……でなけりゃ、死ぬぞ?」

 

 そうして始まったアスベルとクワトロの一騎打ち。だが、免許皆伝を受けてから12年間休むことなく剣を研ぎ澄ませ続けたアスベルの実力は常軌を逸した身体能力を発揮させるクワトロでは相手にすらならなかった。戦闘を始めて10分後、仰向けで息切れしているクワトロと、汗一つかいていない立ち振る舞いを見せているアスベルの姿をルドガーは目撃すると同時に内心戦慄していた。

 

(あのリィンを完封か……まぁ、『本気の4歩手前』まで出せば無理もないか)

 

 単純な力押しも搦め手も通用しないような相手。それがルドガーから見たアスベルの評価である。

 クワトロは、自分の実力すべてにおいてなにも通用しなかったことが悔しかった。本人からすれば『鋼の聖女』以上の完全敗北。しかも、暴走した神気合一をも完全に抑え込んだ以上、何も言えなかった。力だけでなく、何もかもが足りていなかったからだ。そんなクワトロに、アスベルは言葉を発する。

 

「俺だってな、大切な人を目の前で失いそうになったことがあった。さっきのお前みたく、形振り構わずに相手を殺した。その一件があったから、俺は更に強くなろうと決めた。それに終着点はない……限界なんて、自分にできることを全てやりきった上で届かない壁。そこまでが一人でできる限界だと思う」

 

「……」

 

「悔しいと思うのなら強くなれ。自分一人で何でもできると思うな。大きなことを成すのなら、一人でも多くの信頼できる仲間を作れ。中途半端なんて許さない……守りたいと思うのなら、躊躇えばどうなるかなんてもう解ってることだろう?」

 

 中途半端な優しさは人をも殺す。人を活かしたいと思うのなら、躊躇いは捨てろ。鬼の力を中途半端にしか解放しなかったからこそ、暴走という結果として跳ね返ってきているのだとアスベルは結論付けた。その上で、クワトロに提案を投げかけた。

 

「だから、中途半端な考えなんて起きないように俺が面倒見てやる。俺は師父のように甘くはないから、死ぬ気でついてこい。で、返答は?」

 

「……よろしく、お願いします」

 

 返事をしただけでも及第点。そう判断したアスベルは太刀を鞘に納めて笑みを零した。そして、二人のもとにルドガーと一人の少年が近づいてきた。

 

「ルドガー、それに殿下」

 

「はぁ、頼むからその呼び名はやめてくれ。しかし、未来の人間が来るとはな……」

 

 どうやら、エレボニア帝国の動きを警戒する意味でセントアークに来ていたらしく、騒ぎを聞きつけて足を運んだようだ。シュトレオン王子の存在はクワトロのいた世界にはなく、おそらく抹殺された可能性が高いと結論付けた。一方、クワトロは疑問に感じていた。初対面とはいえ、自分の言っていることをそのまま鵜呑みにできるのかと。

 

「えと、信じてくれるのですか?」

 

「嘘を言っている風には到底見えないからな。それに、本気になりゃローラー作戦なり強権を発動させて処刑すればいいのに、それをしなかったのは……死を偽装する気満々だろうな。クワトロ、これからグランセルまで同行願いたいが大丈夫か?」

 

「はい。といいますか、行く当てもありませんので……」

 

「なら、俺の近衛騎士として身分の保証をしよう。王城の一室を宛がうし、必要なら遊撃士協会にも伝手を取っておくよ」

 

「……あの、そこまでしていただいて、いいのですか?」

 

「これでも王国宰相だからな。エレボニア帝国のことは将来的にリベールも被害を受けることになるから無視なんてできない。それにルドガーには悪いが、連中は厄介極まりない。同じ未来を目指しているなどとは思わないが、結果ありきで考えれば有り得なくもない話だ。クワトロ、ヴァリマールはこっちに呼び出せるか?」

 

「あ、はい」

 

 ヴァリマールをアルセイユに載せ、一路グランセルへと直行する。クワトロはグランセル城でリベールの国家元首であるアリシア女王と対面する。本人のプライバシーを保証するためにサングラスはシュトレオンの許可で付けたままとした。

 

 クワトロから話されたことにアリシア女王はもとより、その場にいたカシウス中将、モルガン将軍、ユリア中佐(通商会議の一件で昇進)、そしてクローディア王女は真剣な表情を浮かべていた。

 

「やれやれ、かの御仁が強気でいれたのはそのためですか。人間ではないような印象を持ってはいましたが」

 

「カシウス、気付いておったのか?」

 

「電撃訪問の時にですな。尤も、その時は漠然としたものでしたが、アスベルの言葉と彼の言葉で確信を得たということですね……陛下」

 

「将来的に彼がそのような暴挙に出るとなれば、結社の被害を受けたこの国を導くものとして、断じて許すことはできません。しかし、今は何もできないのが歯痒いです」

 

「ともあれ、喫緊の事態に備えてシフトの見直しを行います。よろしいでしょうか、中将」

 

「ひとまずはな。事態が動いた際は例のマニュアル通りに動くよう厳命しろ」

 

 そう言ったうえで、カシウスは一息吐いた。

 

「クワトロ……いや、未来のリィン・シュバルツァー。その様子だと、息子にだいぶキツイ仕置きをもらったようだな」

 

「え、息子さんって……アスベルと貴方は」

 

「血の繋がった親子だ。ま、俺は既に剣を置いた身だから、八葉の剣士で最も強いのは間違いなくアスベルだと評価している」

 

「いや、これでも師父にはずっと留め置かれているんですけれど」

 

「あれは完全に意地を張っているだけだと思う。男というのは簡単に負けを認めたくない生き物だということは、わかっているだろう?」

 

 八葉のすべてを継承した後、アスベルはユン・カーファイに手合わせを何度か願ったが、難癖をつけられて実現していない。カシウスの見立てからすれば、アスベルの八葉一刀流の技術は既に師父であるユンを超えていると推察した。そんな人物から説教を食らったことにクワトロは『命があるだけ物種だな』と内心そう思いながら冷や汗を流したのであった。

 

 

てなわけで、未来というか原作寄りの彼が飛ばされてきました。

今のところ彼にフラグを立ててもらう予定はありませんが、難しいところです(女難的な意味で)


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