No.95346

真・恋姫無双紅竜王伝④~劉協の秘密~

『蜀の日常』を出す、と前回宣言していましたが、すみませんまた紅竜王伝を投下します・・・気を取り直して今回で第4弾!第2弾で伏線にしていたあれが明らかになります。
・・・しっかし相変わらず戦闘シーンは難しいなぁ・・・

2009-09-14 01:53:50 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:8898   閲覧ユーザー数:7338

汜水関、虎牢関を突破して洛陽に戻った舞人は本殿の前で舞月を降り、ある部屋を目指して駆けだした。

「おっさん!無事か!?」

彼が駆けこんだのは大将軍・何進の部屋だった。

部屋の寝台には血をにじませた何進が横たわり、医師が懸命に彼からあふれる血を止めようと奮闘していた。

「おう、舞人か・・・すまん、やられたわい」

「あんたが襲われたって聞いて戻ってきたんだ。戦には勝ったから名代の責務は果たしたぞ」

あの戦いで敵軍を粉砕した舞人は、追撃を曹操たち諸侯に任せて全軍の指揮を執るため本陣に戻った時に、玲から一通の書状が渡されたのだった。その内容が―――

『十常侍、挙兵。何進大将軍重傷を負い、何大后と陛下、さらに劉弁皇子が暗殺された』

書状を読み終わった舞人は鎧を脱いで身軽になると、指揮権を玲に移譲してそのまま舞月に乗って洛陽を目指して駆けだした。到着した汜水関でさらにまずい報告を受けた。

『劉協殿下の身柄が十常侍に押さえられ、奴らは長安目指して逃げ出した』

すぐにでも劉協を追いたい舞人だったが、ともかく何進を探して情報収集を図ったのだ。

「奴らは陛下と大后様・・・それに弁皇子を殺害したのは知っておろう?」

「ああ。奴らは長安で協を即位させてそれを操るつもりだろうな。その為に陛下とか、協に近いあんたを殺そうとしたんだろうな・・・それにしてもあいつらは弁を擁立していたんだろ?なんで弁まで殺したんだ?」

何進は余程辛いのだろうか、時折深呼吸をしながら続けた。

「民意だ・・・聡明な劉協様の即位を求める民の声は・・・洛陽のみならず、長安まで響き渡っている。簡単に・・・言えば弁皇子は不要になったから、消されたのだろう。そこで舞人よ、次の任務だ・・・」

「協を奪い返せ、か?」

「そうだ・・・だが1つお前に伝えておきたい事があるのだ・・・」

何進は人払いをして医師を追いだすと、舞人に耳を近付けるよう頼んだ。

「実は・・・協は・・・」

十常侍に捕らえられた劉協は、十常侍筆頭の張譲とともに長安に向けて馬車で誘拐された。途中、劉協の伯父にあたる何進の軍勢が同じ十常侍の趙忠達の馬車に追い付いて彼らを討ち取ったが、張譲と劉協が乗る馬車は彼らを身代わりにして追撃から逃れていた。2人が乗る馬車は50名の騎馬隊に守られて長安目掛けて疾走する。

逃げられぬように後ろ手に縛られた劉協は肥え太った老人の膝の上に乗せられ、脂肪がついた太い指で体中をまさぐられていた。

「しかし驚いたわい・・・まさか協皇子が、協皇女とはのう」

劉協の体をまさぐる彼の顔には純粋な驚きがあった。劉協―――いや、彼女の胸にそびえるささやかな膨らみを指で撫でる。

「や、やめろ・・・無礼だぞ、張譲・・・」

「ふぇっふぇっふぇっ・・・まさに女子の反応ですのぅ、劉協皇女」

劉協は屈辱に頬を赤らめて身をよじらせ、自分を腕で抱えている腕から逃れようとするが張譲の太い腕からは逃れることは出来なかった。

「張譲様、もはや夜も遅いですのでここらで休憩にいたしませぬか?」

「うむ、そうじゃな。兵たちに休息を取らせよ。わしも寝るゆえそちたちは殿下をもう一台の馬車にお移ししてお守りもうしあげよ」

劉協を膝から降ろして兵隊長に彼女を引き渡す直前、張譲はねっとりとした声で囁いた。

「・・・長安についたらじっくりと可愛がってやるからのぅ」

もう一台の粗末な馬車に移された劉協は、縄は解かれたものの馬車に設置された鉄格子の奥に押し込まれ、暗闇の中に一人きりにされた。

「洛陽を発してすでに5日か・・・」

十常侍筆頭の張譲が近衛兵を率いて父や母、伯父や兄を襲撃したのは5日前の夜の事だった。近衛兵らは後宮に乗り込んで父母を殺害すると、劉弁・劉協の兄妹が住む宮殿に突入した。そこで奮戦したのは兄の劉弁だったのだ。彼は妹に逃げるよう促し、使いなれぬ剣を近衛兵相手に奮って時間を稼ごうとしてくれた。

(兄上は、御無事だろうか・・・)

自分は兄の奮戦を無駄にしてしまった。今は兄の無事を祈るだけ・・・

「もう、寝よう・・・」

捕まってしまった事を兄に詫びながら、眠りに就こうとしたその時―――

『うぎゃぁぁぁぁ!』

絶叫が彼女の耳に響いた。

「よーやっと見つけたぜ・・・張譲」

舞人は袖で汗を拭った。駆けに駆けて3日間、ほぼ飲まず食わずでとうとう馬車に追い付いた。

「協は別の馬車に移されたか」

舞人は腰に差していた刀を抜き、強大な氣を込め始める。氣を溜めればためるほど強力な技を放出できるが、時間がかかり過ぎるのが欠点だった。

「いくぜ・・・」

大量の氣を込めた刀を構え―――舞月を走らせる!

「ん・・・?なんだ貴様!」

歩哨に立っていた兵が舞人に気がついて誰何の声を上げるが、答えてやる義理は舞人には無い。

「食らいやがれ!」

氣を込めた刀を一閃すると、巨大な炎を纏った氣が放たれて歩哨の兵を吹き飛ばし、敵兵の集まりをまとめて吹き飛ばし、炎上する。

『うぎゃぁぁぁぁぁ!』

天幕の中で眠っていた兵が焼きだされて右往左往するなかを、舞月を降りた舞人が一直線に粗末な馬車に向かって駆ける。

「協、無事か!?」

「舞人さん!?」

鉄格子の奥から劉協の声が聞こえる。舞人は格子の扉を開こうとしたが、ガチャガチャと音が鳴るだけだった。

「ちっ、鍵がかけられてるか」

舞人は舌打ちを一つすると、「下がってろ」と劉協に言って彼女を退かせると鞘に収まっていた刀を抜き打ちで格子を叩き切った。

「行くぞ」

舞人は劉協の手を取って馬車を降り―――

「そこまでじゃ」

降りようとした彼らの前に立ちはだかったのは、十常侍筆頭の張譲と彼に対する忠誠心にあふれた数人の焦げた兵だった。

「てめぇが張譲か?」

「いかにも。わしが十常侍筆頭・張譲じゃ」

肥った男が偉そうに名乗る。張譲は感心したようにうなずいた。

「お主の力はすごいものじゃな。その力、選ばれし者の為にあるべきものじゃ」

「何を言ってやがる、ジジイ?」

舞人は劉協を背にかばいながら訝しげな視線を張譲に向ける。

「簡単に言うとの―――お主、わしに仕えぬか?」

「なに?」

「もちろん何進よりも高い金を出すし、高い身分もやろう。わしに仕えて、天下を操ろうではないか!」

自信満々に演説する張譲。舞人の背に隠れている劉協ははっとした。

彼が怒っている事に。

張譲は演説を長々と続けていたようだったが、舞人の冷酷な宣告が彼の口を閉じさせた。

「もう黙れ、豚」

「なっ―――」

舞人は刀を抜き、正眼に構える。

「てめぇの粘着力の高そうな声はうんざりだって言ってんだ。俺は確かに今んところ誰にも心から忠誠を誓ってない。いまの何進のおっさんとだって契約上の忠誠を結んでいるだけで、いずれは消える忠誠だ。だがな」

「かりそめとはいえ主と仰ぐ人間が傷つけられたんだ。その借りはきっちり返させてもらうぜ・・・!」

殺気を纏った舞人に怯えた張譲は喚いた。

「こ、こいつを殺せ!この男の首を取ったものには大将軍の地位を与えるぞ!!」

張譲の喚き声に兵たちが馬車に乗った舞人に襲いかかる。

「遅ぇんだよ!」

舞人は刀を奮って真っ先に上ってきた兵の首を一閃して刎ねる。胴体だけになった兵の体を敵兵に向けて蹴り飛ばして怯ませる。さらに槍を構えて突撃してきた数人の敵兵には

「てめぇらは火球でも抱いてろ!」

右手に溜めた氣を数人の敵兵にぶつけて火達磨にさせる。

『ぎゃぁぁぁぁ!』

炎上して、黒焦げになった味方の惨劇に敵兵たちは浮足立った。

「う、うわぁぁぁ!」

「逃げろぉぉぉぉ!」

主人を置いてバタバタと逃げ出した兵たち。

「お、おい貴様ら、わしを置いていくな!わしを守らんか!」

しかし張譲の命令に従うものは無く、ついにこの場にいて舞人に対峙しているのは張譲ただ一人になった。

「あ、ああ・・・」

張譲は腰を抜かし、じりじりと後ずさる。舞人は冷徹な瞳で張譲を見下ろしている。

「皇帝・劉宏様、何大后様、劉弁皇子殺害及び何進大将軍殺傷、加えて劉協皇子誘拐の罪が貴様に課せられている―――何か申し開きはあるか?」

「た、助けてくれ・・・!金はいくらでも出すから・・・」

張譲は必死で命乞いをするが、舞人の冷徹な瞳に揺らぎはない。

「あの世で『搾取』って言葉の意味を誰かに教えてもらいな」

舞人の刀が張譲の脂肪がついた首を薙いだ。

「あの・・・舞人さん」

張譲の血がついた刀を布切れで拭って鞘におさめた舞人の背に劉協はおずおずと話しかけた。

「お、お話があるんです―――ひゃっ!?」

バサッと劉協の頭に被せられたのは、舞人が羽織っていた外套だった。

「話なんかは洛陽に着いてからにしろ。夜の山は寒いから、その寝巻のままだと風邪ひくぞ」

ぶっきらぼうだけど、自分を気遣う優しい彼の声。劉協は耐えていた何かの線が切れた。

「う・・・うわぁぁぁぁ!」

劉協は彼の背に抱きつき、涙を流した。舞人はがりがりと困ったように頭をかきながらも、

「ったく、しょうがねぇな・・・」

彼は自分に抱きついた少女に向き直って、頭をポンポンと撫でてやった。その行為は、劉協が泣き疲れて眠りにつくまで続いた。

張譲の挙兵からさかのぼる事数日、涼州のとある勢力の居城―――

「―――まだ起きてたの?」

「あ、―――ちゃん。なかなか眠れなくて」

「明日には洛陽に向けて出陣するんだから、大将が寝不足なんて恰好がつかないわよ?」

「へぅ・・・ごめんなさい。でも久しぶりに舞人君に会えるって思うと、なかなか眠れなくって・・・」

「まったく・・・早く寝なさいよ?」

「うん。分かったよ、―――ちゃん」

親友であり、頼れる軍師である少女が自室に退いた後、少女は自らの真名と同じ字を持つ空に輝く球体を見上げて呟いた。

「舞人君・・・」


 
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