No.950034

魔法幽霊ソウルフル田中 ~魔法少年? 初めから死んでます。~ 空き缶をゴミ箱にシュゥゥゥー!超!エキサイティン!な35話

憶えている方は、お久しぶりです。タミタミ6です。
前回の投稿からはや二年、すっかり小説を書く時間が減ってしまいましたが、そろそろ再稼働します。
初めての方は1話から見て頂ければ幸いです!
さらに感想まで頂くと私のテンションが上がります。よろしくお願いします。

2018-04-25 23:18:12 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:997   閲覧ユーザー数:988

真夜中の話し合いも終わり、俺たちはそれぞれ居るべき場所へと帰ることとなった。

 

リニスさんという強力な仲間が増え、本格的にハッピーエンドへの道が見えてきたというにも関わらず、俺の胸中は不安に包まれている。

 

「都市伝説級のイレギュラー……か」

 

不安を和らげる意味も込めて、夜空を見上げながらその存在を口にする。

視線の先には綺麗な三日月と星が、穏やかに夜を照らしていて、少しだけ安心できた。

 

 

花子さんが話してくれた『今までと違うイレギュラーの存在』、それが俺を不安にさせる原因である。

板張 剛と名乗ったそいつは、俺とリニスさんの決戦の最中に姿を現し、しかも俺と戦うために辺りをうろついていたという。

幸いにも花子さんに見つかってしまい、仲間と一緒に退散した……というのが話の内容だった。

 

板張という名前の、それも都市伝説級の幽霊に、心当たりなんてもちろん無く。仲間と思わしきユウと呼ばれた少女も、知らない。

この世界に転死してきてから、俺の知り合いは花子さん達しか居ないのだ。

 

「そもそもそんな奴の恨みを買うような事はしてないし、花子さん達でも正体が分からない都市伝説級なんていたのかってレベルなんだよなー」

 

本当に訳がわからない、しかもそんな奴らが徒党を組んで何かをしようとしているらしい。

その一環に、何故か俺に用事があるというのだから益々目的がわからない。

 

レギオン……そう名乗ったそいつらは、俺の思考に大きな影を落としていたのだった。

 

「……あ、もうなのはちゃん家に着いたか」

 

そうこう悩んでいるうちに、既に帰ってきてしまった。

とりあえず、今日のところは悩み事は一切排除して、明日からの原作ブレイクに勤しむべく休むことにしよう。

幽霊だから眠れないけど。

 

「ただいまー。……まぁ返事はないけど」

 

帰宅……といっても勝手に居候している身だが、返ってこないと分かりつつも礼儀は忘れずただいまの挨拶。

もし仮に返事があるなら、いまは結構遅い時間だし、高町家のみんなが起きちゃうので挨拶はしないけどね。

 

「ぉ……ぉじゃま……す」

「……ん?」

 

何か、聞こえたような気がした。

すっごいか細いが、後ろから声がしたのだ。

 

「…………?」

 

首を後ろに向けても、何もいない。

気のせいなのだろうか。

気のせいにしてはちゃんと聞こえたのだが、いないものはいなかった。

 

うーむ、もしやこれは、イレギュラーの事を気にし過ぎて聞こえもしない幻聴を聞いてしまったのかもしれないな……。

 

しっかりしなければ、と心の中で喝をいれながら、なのはちゃんの部屋まで移動する。

きっちり鍵がかけてある扉も、するりと抜ければなのはちゃんのお部屋に不法侵入である。

 

 

 

「…………ううっ、ゴジラじゃないもん……なのはゴジラじゃないもん……グズッ」

 

そこには天使の寝顔……ではなく、謎の寝言を呟きながらうなされてるなのはちゃん。

どんな夢みてるんだろうか、最近の小学生は想像力が豊かだなぁ。

 

その一点以外は、いつもの夜と何も変わらない。

ユーノくんは何事もなくフェレットになって寝てるし、なのはちゃんが幽霊関係の夢を見てないらしくレイジングハートさんは寝ぼけて砲撃の照準を合わせてくる事もない、至って平和な夜だ。

 

ああ良かった、もしかしたら既にイレギュラーが何か仕掛けているのではと心配してたんだけど、杞憂に終わってくれた。

 

後は俺がこの平和を守るだけだ。

いつものようになのはちゃんを見守るべく、この部屋での定位置になっている机の上に腰掛ける形で浮くと……

 

 

 

 

「あ、あのさ田中……。あんたのご主人様がいるとはいえ、終始無言のまま部屋に連れ込まれるのは、その、アタイもちょっと、こここ心の準備が……」

 

いた。

いや何がって、何故か顔が真っ赤になってる花子さんが。

…………花子さんが!?

 

「っわあぁぁぁぁぁ!!? はっ、花子さん!? ななななんでここにっ!!?」

「きゃんっ!? き、急に大きな声をだすな!? びっくりするじゃないかいっ!」

「びっくりしたのはお互い様ですよ!? もしかして今までずっと付いてきてたんですか!?」

「はぁ!? あ、あんたまさかアタイに気付いてなかったのかい!?」

 

深夜なら絶対みんなを起こすであろう大声で花子さん共々びっくりする俺。

いや、だって花子さん背が低いし! 何か喋ってくれないと視界に入らなくて気づけないんだって!

安心できる事といえば、俺たちが幽霊で、この叫び声は誰にも届くことはないということであった。

 

 

 

「だから、あの時言ったじゃないか『お前が狙われてるから、今後は都市伝説級と一緒にいてもらう』って」

「それって、今すぐの話だったんですか、しかも高町家にいる時も一緒とは……」

「レギオンって奴らが何考えてるのかわからないからね。それとも、アタイに付き纏われるのが嫌なのかい?」

「いえ、超うれしいです。出来れば一生お供されたいくらい」

「…………………まっ、まままあアタイもぜっ、全然嫌じゃないからね。いいつだって一緒にいてやるさ」

 

そりゃあ、親愛なる花子さんと四六時中一緒できるなんて嬉しい事はない。

学校かトイレの中しか実体化できない花子さんなら、俺の傍にいてくれるのに適任だろうし。

 

「でも花子さん、無茶はやめてくださいよ」

「無茶ぁ? アタイに無茶なんて事は……」

「こないだのイレギュラーの事です。イレギュラーは花子さんに見つかったら逃げたって話してましたけど、ホントは戦って追い払ったんじゃないですか?」

「うっ」

「相手は都市伝説級って聞いて、俺、めちゃくちゃ肝が冷えたんですからね。確かに花子さんは学校にいなくても強いですけど、危ないのは確かなんですから」

 

ただ、俺を守るからといって無茶だけはしてほしくはなかった。

リニスさんと戦ってたあの時だって、花子さんが危ないとわかっていれば、俺は全部投げ出して駆けつけていただろう。

 

「……でもそれって、あんたにも言える事じゃないかい?」

「う゛っ」

 

見事にブーメラン発言でした。

そういえばそうだよねー、暴走体に始まり、果ては初対面のメリーさんと戦ってましたし……。

そう考えたら、花子さんも俺も、どちらもお互いの為に無茶をするんだろうなぁということが簡単に予想できてしまった。

 

「で、弟子も弟子なら師匠も師匠って事ですかね?」

「その台詞は当事者のアタイ達がいう事じゃないね」

「ですよね……あはははは」

「お互い人の事は言えないね全く……」

 

なんとまあ締まらない話のオチだった。

俺が説教など10年早かったか、まあ相手が花子さんですし……。

 

 

 

「さて、花子さん。何します? せっかくですから何かして遊びませんか? なのはちゃん家もちゃんとゲームありますよ、まあ有名どころのスマブラとかがオススメです」

「お前を見てると守護霊って案外いい加減でも務まるんだなって思うよ」

「まあまあ、流石に一晩中二人並んでなのはちゃんの寝顔を眺め続けるのは暇じゃないですか」

「もしかして一人の時はずっと眺めてるのかい!? …………じ、じゃあモンハンで。対戦だとお前に絶対に勝てないし」

 

時間を潰すため、恭弥さんと美由希さんの部屋からゲーム機を取りに行く。

高町家では一人ぼっちだったから、嬉しくて仕方なかったのだ。

 

「花子さんは恭弥さんと美由希さん、どっちのデータで遊びます? まあ両方俺が全部武器防具コンプリートしてますけど」

「違いが性別くらいしかないじゃないか。というか、そこまで他人のゲームやり込んでおいて良く気づかれなかったね……」

「いやー、高町家の皆こういうゲーム全然しないんですよね。恭弥さんも美由紀さんも学校の友達に勧められた流れで買っちゃって、一切手を付けていないんですよ」

「なんとまあ悲しい理由だね……」

 

物音を立てないよう、慎重にポルターガイストを使って目的のブツ(ゲーム機)を取り出す。

存在すら忘れられているのか、二人のゲーム機は各部屋の箪笥の奥にしまい込んであり、無音で取り出すというのはかなーり難しい。

 

「しかも相手は手練れの剣士が二人、物音を立てようものなら即座にゲームもろとも真っ二つにされるだろう……。しかし! この俺のポルターガイストの精度はそんじょそこらの幽霊とは格が違うぜっ!」

「できればその格の違いは別の場面で見せてもらいたいね」

「いや、これほんと難しいんですよ。良い訓練になりますって。はい、これ花子さんの分」

「ああ、ありがとう」

 

ゲームを無事花子さんに渡した俺は、なのはちゃんの部屋に戻る。

まあ、流石になのはちゃんの部屋でゲームをすれば気づかれてしまうので、窓を抜けて屋外に移動するけど。

 

「うわ、本当に全部武器防具そろってる。本当によくやるよ」

「今まで暇すぎて、俺がやること全部やっちゃいましたからね。お互い初めからやり始めましょっか」

 

早速ゲームを起動した花子さん、俺がやりこんだデータを見て若干引き気味である。

まあ高町家で一人認識されない俺の唯一の楽しみみたいなものだったし、生前からゲームは好きだったから仕方ない。

……ぶっちゃけ、生きてる人間と関わってない以外は、この世界に転死する前とあんまし変わらない生活だったりする。

 

「じゃ、まずはハンターランク開放ささっとやりますか。俺は武器防具いらないんで花子さんの装備を整えたらさくっと攻略しちゃいましょう」

「田中、アタイ思うんだけど、アンタゲームが上手いって範疇を超えてないかい? いやアタイはゲーム機なんてなかった世代だから良くはわからないけどさ」

「うーん……地上最強のゲーマー決定トーナメントは参加前に出禁になっちゃいましたから、俺が前の世界でどれくらい上手かったかはよく分からないんですよねー」

「ちょっ、出禁!? しかも地上最強って相当なんじゃ」

「あ、でも対人戦ができるMMOゲームの攻略サイトに、対俺用の攻略情報とか載せられてましたしそこそこ有名かも」

「対俺用!? まてまてまて、実はアタイ今すごい奴とゲームしてるってのかい!?」

「いやートーナメントに参加しようとしたら、主催者のおじいちゃんに『やめてくれー! この大会はわしの悲願なんじゃ~!』って泣きつかれて大変でしたよー」

「仮想世界最強の生物扱い!?」

 

生前の事を語りながら片手間でモンスターを大量虐殺していく俺と、何故か俺の経歴に戦慄する花子さん。

こうして、二人でゲームをしながら夜が明けていくのであった。

 

 

で、そんなこんなで時間がたって、朝を迎えることとなり……。

 

「さーて皆さんお待ちかね! 浮遊霊生活24時の時間がやってまいりました! 今回はゲストに花子さんとあともう一人が来る予定でございます!」

「いきなりどうした田中。お前もしかして暇で街中彷徨ってるたびにそんな事言ってるのかい」

 

花子さんから可哀想なものを見るような視線を受けつつ、ビシリとポーズを決めて高らかに宣言する。

今、俺たちは海鳴市でも特に発展が進んだ街にいる。

 

 

「いやまあ宣言する意味はこれといって無いんですけど、前も同じ事言ってるし言わないといけないかなーと思いまして」

「全く、幽霊じゃなきゃ不審者確定だよアンタ……」

 

人々が行き交う交差点の上でそんな事してれば、花子さんのため息も仕方のないものだ。

まあ、どうせ見られないし、なのはちゃんの部屋に勝手に居候している紛れも無い不審者な俺には今更な気もする。

 

まあそれはさておき、浮遊霊生活24時の時間がやってきたという事は、みなさんお分かりだろう。

やる事が無くて暇なのである。

 

「まあ、一応暇じゃあないんですけどね。今夜はこの町にあるジュエルシードを巡って、なのはちゃんとフェイトちゃんが争いますから、俺たちは余計な邪魔が入らないように見張っておこうって予定があります」

「結局日が出てる間は暇ってことじゃないか。で、あと一人のゲストは一体誰なんだい? 」

 

そう、今度の浮遊霊生活24時は一味違う。

花子さんが一緒にいてくれるのに加えて、更にもう一人来るように言ってあるのだ。

 

「んー、多分そろそろ来ると思うんですけど……あ、来た」

 

約束した時間にはまだ十分ほど早いものの、あの人ならこのぐらいの時間には来るだろう。

上空を見ると、思った通りその人影……といっても幽霊は影がないんだけど、まあその人が来るのが確認できた。

 

「太郎さん、おはようございます。時間より早く来たつもりでしたけど……待たせてしまったでしょうか?」

「どーもです。いやいや、リニスさんなら早く来ると思って先に来てたんで、ちょうどいい感じです」

「なんだ、リニスか……」

 

そう、先日仲間になってくれたリニスさんである。

今日は俺と花子さん、そしてリニスさんを交えた三人で海鳴をパトロールしようというわけだ。

学校に居ないとはいえ並みの幽霊には引けを取らない花子さん、幽霊の知識は乏しくても魔導師としての戦闘技術は一級品のリニスさん、そしてポルターガイストだけは上手い俺がいれば都市伝説級にだって負けはしない。

……俺だけ実力的に浮いてる気がしないでもないけど。

 

「ここで今夜、フェイト達が戦うんですね」

「はい。あ、なのはちゃんとフェイトちゃんの戦いには手出ししないであげましょう。一応その戦いは俺の知ってる未来なんで」

 

リニスさんが仲間となった今、なのはちゃんとフェイトちゃんについてはお互い不可侵条約を結んでいる状態だ。

俺はなのはちゃんに肩入れせず、フェイトちゃんの邪魔はしない。

リニスさんはフェイトちゃんに肩入れせず、なのはちゃんの邪魔はしない。

あの二人の戦いは一種のコミュニケーションみたいなもんだし、お互い非殺傷で戦ってるからほっといてもいいくらいだ。

まあ下手に介入するとなのはちゃんにぶっ飛ばされるんだけどね!

 

「あたい達は、その未来通りに事が進むように邪魔する奴を蹴散らすってわけだね」

「そういうことです。というわけで、早速パトロールしましょうか」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

早速怪しい奴を探しに行こうとすると、リニスさんが俺たちを引き留めた。

どうしたんだろうか? 

ま、まさかさっそく怪しい奴がいたのか?

 

「あの、フェイトたちが戦うということはここにもジュエルシードがあるんですよね? こんな町中ですから、そっちの所在も確認したほうが……」

 

ああなんだそんなことか、正直そっちはさほど気にしていなかった。

だって今回のジュエルシードは発動するまでもなく封印されるのだから、イレギュラーが介入しなければ安全だろうと考えていたのだ。

まあ流石にノータッチというわけでもなかったりする。

 

「あ、大丈夫ですよ。ジュエルシードならちょうど真下の植え込みにおちてます。ほらここ」

「もう見つけてたんですか!? そ、それなら、怪しい人物が狙っているかもしれませんし、敵の狙いが太郎さんなら一か所に纏まって護衛したほうが」

「大丈夫ですって、ほら上。カラスたちが飛んで(監視して)ますから」

「確かに飛んでますけどそれで大丈夫なんですか!?」

 

実はここに来る前にティーに相談して、先に見つけておいたジュエルシードを見張ってもらえるように頼んでいるから大丈夫。

いざとなったらカラスが騒いで知らせてくれるという完全セキュリティ体制が出来上がっているのだ。

俺たちがジュエルシードを持ち歩くのも、ポルターガイストで浮かすことになるから外観的に不審すぎるし。

 

「カラス共に監視させてりゃあとりあえず安心だね。ほらリニス、とっとと行くよっ」

「え、ええー……?」

 

どうやらまだ信用しきれてないリニスさんだったが、花子さんに急かされて渋々移動し始めた。

そうだった。リニスさんはまだティーと面識が無かったんだ、後で紹介しないといけないな。

そんな事を考えながら、俺たちは海鳴の街をふよふよと浮きながらパトロールを始める。

 

「さーて、今日も見えなさそうで実は見えてるゴミがあるかな」

「あたい的には、排水溝の下とかに小さい奴が溜まってると見た」

「流石花子さん、鋭い。タバコの吸殻が多いんですよねー」

 

会社へと通勤する人々や車が混み合う中、俺と花子さんは慣れた動作で道路の脇に落ちてるゴミを発見していく。

花子さんの指摘通り、溝の中に溜まっている水をポルターガイストで動かすと小さな手応えが幾つもあって、それがポイ捨てされたタバコの吸殻なのだと分かる。

全く……携帯灰皿とかを常備するべきだ、それに歩きタバコも良くない。

 

「とりあえず近場の吸殻入れ……もないか。仕方ない、とりあえず空中に浮かしとこう」

 

バシュバシュバシュバシュ! と排水溝の網目からタバコの吸殻が次々と空中へ発射されていく。

このまま空高く飛ばしておいて、後で吸殻入れを見つけたら纏めてダストシュートしておこう。

 

「まあ妥当な判断だね……ってコラ、上をよく見て飛ばしな。カラス共に当たりそうになってるよ」

「クァッ!?」

 

ゴミ拾いのために下を向いたままやったもんだから、町中にいるカラスの一羽に向かってしまっていた。

だが、同じくタバコを上に飛ばしていた花子さんが、自分が動かしているタバコをぶつけて阻止。

 

「うわっしまった! あっ、ありがとうございます花子さん」

 

カラスに悪いことしたなぁ。いかんいかん、ポルターガイストが便利すぎてついつい軽く使ってしまう。

たとえるなら、テレビのリモコンを取るのがめんどくさくて足で取っちゃうような感覚である。

 

「キヲツケロー!」

『ごめんごめん! 次からは注意する!』

 

上空にいる一匹のカラスにラップ音を使って謝り、再びゴミ拾いをするべく地面に目を向ける。

 

「あのっ!? 太郎さん、花子さんっ! っわわ……、パッ、パトロールですよね!? 私達、今パトロールしてるんですよね!? ひゃっ!?」

 

花子さんも交えたいつも通りの作業にいそしんでいると、後ろからリニスさんが念を押すように声をかけてきた。

ちなみに、なぜところどころ言葉を詰まらせているのかというと、行き交う人々が自分の体をすり抜けてくのに慣れていないから。

どうやら幽霊になってから人の多い街を訪れたことがないみたいで、ぶつかりそうになると意味もなく避けようとして、避けた先ですりぬけてビビるという大変微笑ましい光景が見られる。

懐かしいなあ、俺にもあんな時期があったっけ。

 

「はい、パトロールしてますよー。に海鳴の街を汚す廃棄物に目を光らすのが、この街に住む幽霊の礼儀なんです」

「いや、怪しい人物に目を光らせましょうよ!?」

「まあまあ、ついでに不審者も掃除するって感じで」

「上手いこと言ったつもりかい。というかそんなことしてるのはお前だけだよ田中……」

 

どうやらごみ掃除をしてる幽霊は俺ぐらいなものらしい。

いや、俺だって最初はごみを掃除するため街を歩いていたわけじゃないですけどね……。

どうにか俺が見える人間を探して彷徨い歩いてて、その後花子さんにポルターガイストを教わってから趣味でやりだしただけですし。

 

「とはいえですねリニスさん、これもなかなか侮れないんですよ。例えばそうですね……ちょうどいいところに、あそことか空き缶が転がってますよね」

「え、ありますけど……。ごみ箱に入りきれなかったんでしょうか?」

 

俺が指をさしたのは、ちょうどビルとビルの隙間にある路地裏、そこに設置してある自動販売機だ。

その隣にあるゴミ箱の下に、空き缶が転がっていた。

まったくもってちょうどいいタイミングである、リニスさんにこのボランティアの価値を知ってもらおう。

 

「試しにアレ、ポルターガイストを使って捨ててみてください」

「ポルターガイストって、あの物を動かすスキルですよね? どんなかんじで……?」

「『空き缶を透明な手でつかんでゴミ箱に入れる』イメージです。自分が透明な手になった気持ちで、イメージしやすいなら身振り手振りを混ぜて念じれば出来ますよ」

「あっ、ありがとうございます。むむむむ……!」

 

俺のアドバイスを受けて、リニスさんは集中しやすいよう少し上へ飛んで空き缶に手をかざす。

しっかりと空き缶をにらみつけて2秒たてば、すでにカタカタと揺れ始めていた。

流石はリニスさん、呑み込みが早い――――なんて思っていたのもつかの間。

 

「むーっ、むーっ!」

「……浮きませんね、空き缶」

 

リニスさんは必死に力を込めているみたいだけど、それに反して空き缶はカタカタ動くだけで浮きはしなかった。

というか必死なリニスさんがちょっと面白い。

 

しかしどうして浮かないのだろう、リニスさんは俺と同じくらいの霊格だから、精度は兎も角ポルターガイストの力は同じくらいある筈なのだが……。

 

「むむむーっ!!!」

「あ、浮いた」

「というより飛んだねあれは。しかも真上に」

 

ばひゅーん、という擬音がぴったり合いそうな感じで空き缶は吹っ飛んでった。

あっという間に空に吸い込まれて見えなくなってしまった、すげぇ。

いや、俺も出来るけど流石にポルターガイストを教えてもらって直ぐにあんな出力はだせなかったぞ。

 

しばらく花子さんと二人で空を見上げて呆然としていると、吹き飛んだ空き缶が落下してきて…。

 

スッコーン!

 

「あいたっ!? えっ、痛い!? どうして!?」

「うわ痛そう……。そういえば言ってなかったですね。ポルターガイストで動かしてる物って、幽霊にも触れるんですよ。」

 

ギャグ漫画みたいな感じで、空き缶はリニスさんの頭に直撃した。

というか今のが当たるってことは、落下したのはポルターガイストを止めたんじゃなくて、単純に出力が弱くなったということなんじゃ……?

 

「出力が安定しなさすぎやしないかい。めちゃくちゃ強かったり弱かったりで危なっかしいね……」

「ううう……難しいですよこれ、プレシアみたいな遠隔操作系統の魔法が使えたら私も出来たかもしれませんけど」

 

花子さんが言うなら間違いない、空き缶が吹っ飛んでから頭に直撃するまで、一貫してポルターガイストで力を加え続けていたということだ。

どうやらリニスさんにとってポルターガイストは苦手な部類に入るらしかった。

 

「あ、でもシュートの魔法(人魂)で空き缶を弾いたらできるかも……」

「それはそれで凄いですけど、何事も練習あるのみですよリニスさん。ほら、この空き缶を捨てることだって立派な練習になるんですから」

 

まあ、俺はこのボランティアの有用性に気付いてもらいたかっただけで空き缶を捨てることが目的なわけじゃない。

ゴミを捨てることで、ポルターガイストの精度を高める事が重要なわけである。

 

「さあリニスさん! 俺がお手本ってやつを見せてあげますよ!」

 

ということでポルターガイストなら得意中の得意な俺が空き缶の処理をしますよっと!

断じて自慢したかったわけではない。

そう、これはいわゆる、後輩指導的なあれなのだ。

別に今まで自分より立場が上の人達しかいなかったことに対するうっぷんを晴らしたいわけではないのだぁーっ!

 

「どう見ても自慢したいだけだろ」

「す、すごい……!? 明らかに無駄と分かるほどにウネウネ動いている!?」

 

俺のポルターガイストによって、空き缶は滝を上る龍のごとく、渦を巻きながらゴミ箱へと向かっていく。

ふっふっふっ、まっすぐ直線的に動かしてゴミ箱シュートなんて初心者のすることよ!

渦潮のごとく、最初は幅広くらせん状に回りつつも、最後にはあの穴の中へ収束するように力を加えていけばカップイン間違いなしなのだ―――――

 

コンッ!

 

「あ」

「弾かれたね、あのゴミ箱中身がいっぱいなんじゃないかい?」

 

カランコロン……ともの悲しい音を立てて空き缶は再び地面に転がった。

あー、そっかー、いっぱいだったのかー、そりゃそうだよなー普通ゴミ箱そこにあるのにわざわざポイ捨てする奴なんていないよなー。

 

「ぷっ……!」

「笑わないで! 自分でも笑えてくるけどそれ以前に泣きたい!」

「す、すみません……ふふっ、い、いや、散々格好つけた見本がアレだと思うとつい……!」

「何気に酷いこと言うね」

「うわぁぁぁぁぁぁ……!」

 

 

恥ずかしさのあまり死にたくなってきた、いや死んでるけど。

こっそりゴミ箱の入り口に詰まってる缶を押し込んでリベンジを試みてみるが、案外ギッチリ詰め込んであるせいか、空き缶が入るスペースは作れそうにない。

 

「仕方ないこうなったらコレも上に飛ばしておいておこっかな」

「おいコラ、ポルターガイストは得意なんじゃないのかい。まったく見てられないね……、ほらっ!」

 

すっかりヘタれた俺をジト目で睨む花子さん。

この場でこの空き缶を処理する手段なんてないんじゃ……とか思っていると、花子さんはひょいと人さし指をゴミ箱に向ける。

 

グシャグシャグシャ! とゴミ箱の中から缶が潰れる音が連続で鳴った。

ゴミ箱に詰まっている空き缶を、一つ残らずポルターガイストで潰したのだ。

 

「それと、こっちもついでにっ」

 

更に指を空き缶へ向けると、指先から青白い人魂が放たれる。

ホタルの光くらい小さな人魂なのだが、結構なスピードで空き缶にぶつかり、コンッ! と打ち上げた。

ゴミ箱の投入口と同じくらいの高さまで上がった缶に、人魂はギュインと旋回して追撃を加えてゆく。

カンッ!カンッ!スコンッ!と、あっさりゴミ箱にシュートされる。

 

「ま、こんなもんだね」

 

「「お、お見事です……」」

 

花子さんの鮮やかなお手並みに、平伏する俺とリニスさん。

あんな器用な事は俺だって無理である、ゴミ箱の中身を全部潰すだけならできるけど、人魂は真っ直ぐしか飛ばないし。

リニスさんは言わずもがな、人魂だけならいけるかもしれないけど。

流石花子さん、都市伝説級の力がなくともテクニックは超一流だ。

 

「まあアレだ、幽霊たるもの隙あらば自分の能力を磨くことだね」

「うっ、……はい」

 

とまあそんな感じで教えたり叱られたりしていると、頭上から黒い影が近づいてきた。

 

「ヨウ、タナカ。ボランティアハ、ジュンチョウカ?」

「ティーじゃないか。おう、お前たちが見張ってくれてるお陰で、こっちも安全にゴミ拾いができてるよ」

 

バサバサと猛禽類並みの大きな翼をはためかせて来たのは、海鳴カラスのリーダー、ティーだ。

ティーは俺の眼の前に降り立つと、お互い挨拶を交わす。

 

 

「ありがとうな」

「レイニハ、オヨバン。ヘイワノタメダカラナ」

 

ティーとは初めこそ争いはしたが、今ではお互いを高め合うライバル的な存在。

そのお陰で海鳴中のカラスたちはある程度いうことを聞いてくれている、こうやって気軽に手伝ってくれるのだ。

 

「この世界にも、人語が喋れる魔法生物がいるんですね」

「こいつらカラスどもは普通の鳥だから……ホントにカラスかって思うぐらい賢いけどさ」

 

人語を理解して、尚且つ使いこなすティーに驚く事もなく、普通に受け入れてしまうリニスさん。

やっぱり次元世界にはティーみたいな生き物がごまんといるのだろうか。

いや、この世界に於いては花子さんの言う通り、ここまで頭の良いカラスなんてそうそういないわけだが。

あ、リニスさんで思い出した。

まだティーにリニスさんのことを紹介してなかったんだ。

 

「そうそう、丁度お前に紹介したい人が……」

「トコロデ、タナカヨ。スコシ『チュウコク』ガアルノダガ」

「へ? 忠告?」

 

リニスさんを紹介しようとした途端、ティー自身が俺の言葉を遮った。

忠告って、なんのことだ?

ま、まさか、もうイレギュラーが何か行動を起こしているのか!?

その考えに至った俺は思わず身構えて。

 

 

 

「『ゴミヒロイ』ヲスルノハイイガ……、コンナヒトゴミノナカデ、メダツコトハサケタホウガイイゾ」

 

辺りを見回してみる。

そこには、まるで俺たちが見えているかのように人が集まっていた。

 

「おかーさーん、空き缶が勝手に動きよったー? びゅーんってお空に飛んじょったよー!」

「るいちゃん! き、きっと気のせい! お母さんはなーんにも見ちょらんからね!」

「かっ、館長! 今、落ちてた空き缶がすんごい勢いでゴミ箱に入ろうとしてるの見えませんでした!?」

「ん? 何を驚いてるのだ司書くん。あれはこの街では割とよく見られる現象だ」

「すみませーん! ここでボヤ騒ぎがあったと聞いたんですが……あれ?」

「あっ!フーセン取ってくれたカラスさん! 誰とおしゃべりしてるの?」

 

「…………わーお、すっげぇ注目されてる。いや、見えてない筈なんだけど」

 

あれだ、脇道でやったとはいえ、好き勝手にポルターガイストとか人魂とか使いまくってたら、こうなるよね!

あとティー、お前まで注目の的になってて本当にスマン。

 

「あ、あわわわわわ」

「逃げたほうがよさそうだね」

「ティー。場所を移すぞ!」

「リョウカイダ」

 

人には見ることはできなくても、こんな状態であれこれ話し合うのは流石にマズイ!

とにかくこの場を離れるべく、俺たちは空へ逃げることになった。

 

 

「ふぅ……ここまで離れたら大丈夫だろう。まさか集団で行動してるとあそこまで注目されるとは予想外だったな」

「というか田中、割とゴミ拾ってるところを目撃されてないかい?」

「うぇ、い、いやーそんな事はないと思いますよ? 確かにボランティアはしょっちゅうやりますけど、基本的に姿は見えないですし」

「オドロカナイニンゲンモイタナ。トイウカ、オレハショッシュウミカケテイルゾ」

「…………死んでいても案外好き勝手できるんですね」

 

海鳴の上空までにげた俺を待っていたのは、耳が痛くなるような追及だった。

しかもリニスさんに伝えたかった事が、こんな形で伝わるとは……。

いや、もうちょっと別の場面で伝えたかったけども!

 

「ま、まあそれはいいじゃないですか。ほらリニスさん、こいつがこの街のカラスを纏めてる、ティーっていうんですよ。ティーも、この人が前に言ってたリニスさんだ」

 

その場をごまかす意味合いも込めて、当初の目的だったティーをリニスさんに紹介する。

 

「はじめまして、リニスといいます」

「オレノナハ、ティー。フム……キイタトオリノ、ネコミミコスプレ。ハヤッテイルノカ?」

「コスっ……!? こ、これは自前です!」

「ソウナノカ? ワリトサイキンハ、ヨクミカケルノダガ、イヌミミトカネコミミトカ」

 

リニスさんは自分のネコ耳を引っ張って自前アピールをする。

それにしても、リニスさん以外のイヌミミとかネコミミに心当たりしかない件。

……もしかしてティーって、転死者の俺より原作キャラの動向が分かってるんじゃないだろうか。

 

「というか、なんで貴方も私たちが見えてるんですか? まさかカラスの幽霊なんじゃ」

「シツレイナ、オレハイキテイル。テラウマレノ、フツーノカラスダ」

「「いや、普通じゃないから」」

 

花子さんと二人で否定する。

ホントなんでティーは幽霊が見えるのか。

寺生まれってすごいなと改めて思った。

 

「ところでティー、ジュエルシード周辺に怪しい奴はいないか?」

「イヤ、イナイナ。ジュエルシードニハ、ダレモキヅイテイナイ」

「ん、サンキュ。……とまあこんな風にカラスたちが見張ってくれてるというわけです」

「なるほど。それでジュエルシードは放置してるんですね」

 

さらっとカラスたちの役目を教えておく。

なにせ数は多い上に一匹一匹がそこらのカラスよりはるかに賢いので、監視にはうってつけの人……いや鳥材なのだ。

 

「トコロデ、イレギュラーヲハッケンシタバアイ、オレタチデハイジョシテモイイノカ?」

「排除できるんですか!?」

「いや、ティーが手を出す(お経を唱える)と相手も消滅しちゃうからな。こっちも向こうの情報が欲しいから、今回は監視に徹してくれ」

「消滅!?」

 

ティーに関しては、対幽霊として十分すぎる手段を持ってはいるが、今回はお休みだ。

レギオンの情報を集めたいのに、相手が消滅してしまったら元も子もない。

敵かもしれないとはいえ、同じ幽霊を消滅させるのには抵抗があるし。

まあやばかったら異次元さんがみんなを連れて全力で排除しにくるけど。

 

「アタイらのやることは、とりあえず見守って、レギオンの連中が出てきたらとっちめて情報を聞き出す。こんなところだろう?」

「はい、俺たちならできると信じてます」

 

なんせここにいるメンバー全員、俺が普通に戦ったら絶対に勝てないからな!

互角だと信じたいのはティーぐらい、そのティーすらお経を唱えれば俺は文字通りお陀仏である。

ぶっちゃけ俺が一番弱いのだ!

 

「なのはちゃんとフェイトちゃんの戦いを、絶対邪魔はさせないぞ!」

 

太陽が沈みつつある海鳴の街を見渡して、改めて俺たちは決心するのであった。

 

 

 

 

『ネムノキ、ジュエルシードは見つかったか?』

「はいはーい、リーダー。ちゃんとあったよぉー、すっごい見づらいけどー」

『あとは作戦通りだ、そのまま決して見つかるな』

「だいじょうぶだってぇー、見つかってないし『今すぐにでもとれちゃう』よー」

『……一応、まだ手出しするな。田中たちが動く瞬間を狙え』

「はーい」

 

闇が、まもなく動き出す。


 
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