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【小説】しあわせの魔法使いシイナ 『幻の小さな川』

YO2さん

普通の女の子・綾と、魔法使いの女の子・シイナは仲良し同士。
何事もマイペースなシイナを心配して、綾はいつもはらはらどきどき。
でも、シイナは綾に笑顔をくれる素敵な魔法使いなんです。

2017-10-23 00:51:00 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:387   閲覧ユーザー数:387

 

綾は、ごく普通の女の子。

 

でも、綾の住む「央野区」は普通の街と少し違っています。

 

街の中央には「魔法学園」があり、街には魔法使いが住んでいます。

 

綾の家にホームステイしているシイナも、そんな魔法使いの一人です。

 

 

暑すぎもしないし寒すぎもしない、とても気持ちのいいある休日のことでした。

 

綾とシイナは、お昼ごはんの材料を買った帰り道を、家へと歩いていました。

 

綾の持つトートバッグの中には、さっきパン屋さんで買ったふわふわの食パンと、果物屋さんで買ったプラムに桃、キウイフルーツが入っています。

 

いつも通る、れんが坂を過ぎて、小道を曲がればもうすぐ家、というところで、ふとシイナが歩みを止めました。

 

シイナは何かに気をとられたように黙ったまま立っています。

 

「シイナ?」

綾はシイナの様子が気になって、呼んでみました。

 

「綾ちゃん、しーっ。耳をすませてみて」

シイナが言いました。

 

綾は、よくわからないまま、言われたとおり耳をすませてみました。

 

すると綾の耳に、サァー、とかすかな音が聴こえてきました。

 

『何かしら?』

もっとよく聞き耳を立ててみると、

サァサァサァ

ジャパジャパジャパ

コポコポコポ

と、色々な音が混じって聴こえてきます。

 

「川の音がするよ、綾ちゃん」

シイナが言いました。

 

「確かに、川の音だわ」

綾はうなづきました。

シイナの言うとおり、川を流れる水の音が聴こえてきます。

 

「でも、この辺に川なんてあったかしら?おかしいな」

綾は、そんな覚えがなかったので、不思議に思いました。

 

『もしかして、地面の下の、下水道が流れる音かな?』

でも、下水道のこもったようなゴボゴボ、ジャージャーいう音とは違うようです。

もっと、遠くから風に乗って届いてくるような音です。

 

『誰かが、お庭にホースで水をまいているのかも?』

でも、まわりを見渡しても水をまいている家はないようです。

なのに、水が流れる音はまったく止む様子もなく聴こえてきます。

 

何より、遠くから聴こえる水音は、たくさんの水がゆったりと流れる川の音にこそふさわしい、心に沁みいるような音色でした。

 

サァーサァーサァー

ザザーザザーザザー

コポコポ、コポコポ

シャパシャパシャパ

 

「本当に川の音だわ。でも、どこから聞こえてくるのかしら」

綾は不思議に思いました。

 

「ねえ、音のする方へ探しにいってみようよ、綾ちゃん」

シイナは興味津々の様子でそう言いました。

 

「うん。でも、お昼ごはんを食べてからね」

綾はそう言いました。

 

「あっ、そうだった。まだお昼ごはんを食べてないんだっけ」

シイナははっと気づいた様子で、くるりと振り返ると、家への道をすたすたと歩き始めました。

 

綾もそれに続きます。

 

二人は家に着くと、買ってきたお昼ごはんの材料をテーブルに広げました。

 

さあお昼ごはんを作ろう、と思ったとき、ふと綾は思いついて手を止めました。

「ねえ、川を探しに行くなら、お昼ごはんはそこで食べたらどうかな?」

 

「なるほど、川のほとりで食べるお弁当だね!それいい!」

シイナは大喜びで賛成しました。

 

そう決まったらさっそく、綾はいま買ってきた食パンと果物で、フルーツサンドイッチを作り始めました。

 

耳を落とした食パンにクリームチーズを塗って、スライスしたプラム、桃、キウイフルーツをはさんでカットします。

 

「できたわ!」

お弁当ができあがりました。

 

バスケットの中にできたてのフルーツサンドイッチを入れて、準備完了です。

 

玄関を出て、さっそく耳をすませてみると、

サァー、サァー

と、川の流れる音が聴こえます。

 

「よ〜し、出発!」

シイナが元気よく言いました。

 

二人は、川の音がする方に耳をすませながら歩いていきます。

 

『やっぱりおかしいなあ。こっちに川なんてあったかしら』

川の音に少しずつ近づいているのを感じながら、綾は考えていました。

 

すると、

「あっ!綾ちゃん、見て!」

シイナが言いました。

 

シイナが促した方を見て、綾はびっくりしました。

 

住宅街の道の真ん中を、小さな川がうねうねとした軌跡を描いて、流れていました。

 

川は道も塀も関係なく、自由に流れています。

民家の庭の中まで川の流れが入り込んでいます。

 

流れの先に家や建物があって、途切れているかと思いきや、裏側にまわってみると、平気で流れが続いています。

どうやら、地面の上に何があっても関係なく、川は流れているようです。

 

「なにこれ、不思議!」

シイナは驚いて言いました。

 

綾も、もちろん近所にこんな川があるなんて聞いたこともないし、見たこともありません。

 

「これは、魔法の川かも知れないね!」

シイナが言いました。

 

綾は興味がわいてきて、どきどきしました。

 

そのとき、一台の自動車が道なりに走ってきて、川の上を横切ろうとしました。

 

『危ない!タイヤが川にはまって事故になっちゃう!』

綾はそう思いました。

 

しかし、自動車は何事もなかったように、するりと走り抜けていきました。

 

『あれっ?』

綾は驚きました。

 

『もしかしたら、この川は私たちにしか見えてないのかも知れないわ』

綾はそう思いました。

 

「これはますます興味深いなあ」

シイナもさらにこの川が気になってきたようです。

 

「よーし、どんどん川をたどってみようよ、綾ちゃん!」

シイナは勇んでそう言いました。

 

「そうね!」

綾は賛成しました。

 

二人は川をたどって、歩いていきます。

 

川は街並みと関係なく、自由な曲線を描いて流れています。

 

家や塀に阻まれて、流れがたどれないときは、建物の後ろにまわって、その先の流れを見つけては歩き続けました。

 

大きなビルの後ろにまわり込んだり、広い道路を横切っている川を見失わないように追いかけたり、公園の中を流れる川をたどったり。

わくわくしながら、川の流れを追って歩きます。

 

『川に沿って歩いてるんだから、いざとなれば逆向きにたどって元の場所に戻れるんだし、迷子になる心配はないわ』

綾はそう思って、大胆にどんどん歩いていきました。

もちろんシイナも同じです。

 

お弁当を食べることも忘れて、二人は夢中になって川をたどって歩いていきます。

 

しばらく歩き続けると、綾はちょっとおかしなことに気がつきました。

 

『なんだか、見かける家が古い作りのものばかりになってきたなあ』

 

綾とシイナが歩く先にある家が、トタン屋根の家や板壁の家になってきました。

瓦屋根の家も、歩くほどにどんどん増えていきます。

 

『もしかしたら、私たちは時間をさかのぼっているのかもしれないわ』

綾はそう思って、シイナに聞いてみました。

 

シイナは、「なるほど、そうかもしれないね」と、うなづきました。

 

二人はちょっと考えた後、やっぱり川をたどって進むことにしました。

 

このままたどっていったらどうなるかを知りたかったし、魔法使いのシイナがいればきっとなんとかなると思ったからです。

 

歩いていくと、どんどん建物は昔のものになっていきます。

道路はアスファルトから砂利道、そして土がむきだしの道へと変わっていきます。

 

瓦屋根のお屋敷や、藁葺き屋根と板壁の小さな家が並ぶようになりました。

 

二人はお腹が空いてきたので、サンドイッチを一つか二つ、歩きながら食べました。

歩きながら食べるのはお行儀が悪いですが、早く先に進みたかったのです。

それに、二人の他には誰も見ていませんでしたから。

 

さらに進んでいくと、瓦屋根の家も藁葺き屋根の家も減っていき、見渡すかぎり野原になっていきました。

 

もう、道らしきものもありません。

それでも、不思議と歩きにくくはなかったので、二人はまわりの景色の変化を楽しみながら進みます。

 

綾は思いました。

『央野区の土地は江戸時代ごろに開かれたもので、それ以前は荒れ野原だったって、昔、学校の先生から聞いたことがあるわ。きっと江戸時代より昔の土地を歩いているんだわ』

 

歩きながら、綾は地平線まで広がる野原を見渡しました。

その景色を見ていると、なぜか心に清々しい気持ちがわいてくるのでした。

 

「綾ちゃん、どんどん行こう!川が海に合流するとこまで見てみようよ!」

シイナはうきうきしながら綾に言いました。

 

「うん、そうね!」

綾も賛成しました。

 

二人はずっと歩き続けました。

 

もう、どのくらい時代をさかのぼったのかもわからなくなり、どのくらい歩いたかもわからなくなっても、川は続いていました。

 

川の流れの先は地平線の向こうに霞んでいます。

 

「う〜ん、どこまで行けば海に着くのかな〜」

シイナがぼやきました。

 

「誰か道案内をしてくれる人でもいればいいのにね」

綾はシイナを慰めるように言いました。

 

「そうだねえ、ちょっと休もうか。そういえばお腹も空いてるし」

シイナが言いました。

 

ちゃんとしたお昼ごはんを食べていないことを思い出したら、二人ともそろそろお弁当が食べたくなってきました。

 

「そうね。どこか座って休めるところはないかしら?」

綾はあたりを探しながら言いました。

 

「あっ、あそこならちょうどいいんじゃないかな?」

シイナは、川沿いにある大きな石を見つけて、駆け寄りました。

 

その石はちょうどソファくらいの大きさで、そばにススキが一本、生えていました。

 

「よし、座っちゃおうっと。お弁当も食べようよ、綾ちゃん!」

シイナはそう言って、石に腰掛けました。

 

そのとき、

「もしもし、お嬢さん。わしは椅子ではないよ。どいておくれ」

と、声がしました。

 

「ひゃあ!」

シイナはびっくりして立ち上がりました。

 

どこからともわからない声に注意されて、シイナはおろおろしながらあたりを見回します。

綾もまわりを探しますが、誰も見当たりません。

 

「わしはここじゃよ」

シイナの足元あたりから声がしました。

 

シイナの座った石をよく見ると、それは石ではなく、ずんぐりとした姿の、土色をした小人でした。

 

「ごめんなさい、石だとばかり思っちゃって」

シイナはあわてて小人に謝りました。

 

「かまわん、かまわん。もうここに五百年ほど腰掛けて、魚釣りをしておるからの。すっかり体も固まって、半分は石みたいなもんじゃ。ほっほっほっ」

小人は笑いながら言いました。

 

よく見ると、石の隣に生えたススキだと思ったものは、ススキの茎でできた釣り竿でした。

 

「あなたはどなたですか?」

綾が聞きました。

 

「わしは石の精霊じゃよ」

小人はそう答えました。

 

「ここで魚が釣れるの?」

シイナは釣り竿が気になったので、そう聞きました。

 

「う〜ん、ずっと前は釣れた気がするが、二百年くらい居眠りしていたからのう。忘れてしまったわい」

石の精霊はそう言いました。

 

「のんきだなあ」

シイナが呆れて言いました。

 

「寝ているところを起こしちゃってすみません」

綾は丁寧に謝りました。

 

「気にせんでくれ…ふわぁぁ!…寝てても起きててもたいして変わらんでな」

精霊は大きなあくびをしながら言いました。

 

「最近はここを訪れるような者もおらんでの。退屈すぎて居眠りしておったわい」

精霊は、固まった顔の筋肉をもごもごとほぐしながら言いました。

 

「この川はとても不思議ですね。この川のことを何かご存知なら、教えていただけませんか?」

綾は精霊に向かって、丁寧にお願いしてみました。

 

「うむ。この川はもともと、雨が降ったときや、本流の川が増水したときにだけ水が流れる、小さくて浅い川だったんじゃ」

精霊はもごもごした口調で言いました。

 

「そのせいで、四百年ほど前にここに街が作られたとき、土地の整理のためにこの川は埋め立てられてしまったんじゃよ」

精霊は懐かしむような、惜しむような感情をこめて、そう語りました。

 

「やっぱり、今はもうない川だったんだね」

シイナがちょっと悲しげな顔で言いました。

綾も、真相を知って寂しい気持ちになりました。

 

「でもなぜ、私たちにだけ見えたんでしょうか?」

綾はずっと気になっていた疑問を聞いてみました。

 

「そりゃあ、この川が寂しがり屋だからじゃろ。自分のそばをたどって歩いてきてくれるようなもの好きに、自分のことを気づいてほしかったんじゃろうな」

精霊はこともなげにそう言いました。

 

「もの好きだって。失礼しちゃう」

シイナが口をとがらせて抗議しました。

 

「ほっほっほっ」

精霊はからかうように笑いました。

 

「川なのに寂しがり屋なんて、ちょっと変わってますね」

綾はそんなふうに思ったので、言いました。

 

「そうでもなかろうさ。誰だって、忘れられたら寂しいじゃろう」

精霊はそう答えました。

 

そう言われると、綾もシイナも、なぜ自分たちには川が見えたのか、わかったような気がしました。

 

「なるほど。確かにそうかもね」

シイナは腑に落ちたように、そう言いました。

 

「誰からも忘れられちゃったら、きっと寂しいもんね」

綾も言いました。

 

それから二人は、そのあたりのなるべく地面が平らな場所で、お弁当を食べることに決めました。

 

綾が念のため持ってきたビニールシート敷いて、二人は地面に座りました。

 

バスケットを開けると、まだ半分以上、フルーツサンドイッチが残っていました。

 

桃のサンドイッチは三角形、プラムのサンドイッチは長方形、正方形なのはキウイフルーツのサンドイッチです。

 

「わぁい!」

シイナはさっそく食べ始めます。

 

いつの時代とも知れない風景に囲まれながら、二人は石の精霊を話し相手に、楽しくお弁当を食べました。

 

サンドイッチをかみしめると、生クリームに包まれた果物の甘さが口の中に広がって、とても幸せな気分になります。

 

シイナは石の精霊に、桃のサンドイッチを一つあげました。

 

精霊は一口でぺろりと平らげると、「人間の食べ物の味は、うまいのかまずいのかよくわからん」と、言いました。

 

シイナは、「もったいないなあ、だったらあげなきゃよかったよ〜」と、がっかりした顔でぼやいたので、綾はつい笑ってしまいました。

 

いつの間にか、日が傾いてきて、空がオレンジ色に染まりつつ、薄暗くなってきました。

 

そのとき、綾とシイナはまわりの変化に気がつきました。

 

まわりの風景がうっすらと透き通って、消えていこうとしています。

薄れた風景の向こうに見えてくるのは、綾たちがもと居た央野区の街なみです。

 

『魔法が解けようとしてるんだわ』

綾は思いました。

 

「もうお別れなんだね」

シイナも察して、そう言いました。

 

「話し相手になってくれてありがとうよ、お嬢さんたち」

石の精霊が言いました。

 

「いいえ、こちらこそ。お元気で、精霊さん」

綾は精霊に向かって言いました。

 

「また会おうね!」

シイナが言いました。

 

「おう。また百年後か二百年後か…」

精霊がそう言うと、

「そんなに生きられないよ〜!」

シイナが言い返しました。

 

それから二人は、川に向かってお別れをしました。

 

「川さん、さようなら!」

「楽しかったよ!またね!」

 

今にも消えゆこうとしている川の水面に、夕焼けの日の光が反射して、とても美しい輝きを放っていました。

 

二人はその光景をいつまでもずっと眺めていました。

 

ふと気がつくと、綾とシイナは央野区の区ざかいの、とある道に立っていました。

 

まわりには、見慣れた現代の住宅やお店が並んでいます。

 

「川、見えなくなっちゃったね」

シイナが言いました。

 

「そうだね…」

綾が答えました。

 

それから二人は、家への道のりを歩いていきました。

 

歩いている途中で、綾は川のことを考えていました。

『今日あったことも、時間がたったら忘れてしまうかもしれない。それって寂しいことだわ』

 

歩きながら、綾は思いました。

『川は忘れられることを寂しがっていたけど、忘れてしまう方だって寂しいんだな』

 

綾がそんなことを考えているうちに、二人は家に着きました。

 

ちょうど綾のお父さんとお母さんが仕事から帰ってきたところだったので、綾は四人分の晩ごはんを作って、みんなで一緒に食べました。

 

晩ごはんの片付けはお父さんとお母さんがやってくれたので、綾はお母さんが買ってきた雑誌をめくりながら、ぼうっとしていました。

 

ふと見ると、シイナがリビングで何かを書いています。

 

綾が気になって見てみると、シイナはテーブルの上に紙を広げて、青いペンで線を書きこんでいました。

 

「あっ、綾ちゃん。見て見て」

シイナは綾に気がついて言いました。

 

シイナが見せた紙は、央野区の地図をコピーしたものでした。

その上に青いペンで、曲がりくねった線が引かれています。

 

「これは…もしかして、あの川が流れてた場所を書いてるの?」

綾は、はっと思いついてそう聞きました。

 

「当たり〜!そうだよ〜!」

シイナは笑顔でそう言いました。

 

「私がね〜、将来えらい大魔法使いになったとき、私が見つけたいろんな不思議なことを、世紀の大発見として発表するんだー」

シイナは得意げな顔で言いました。

 

「これは、『シイナの魔法ノート』。これに貼っておいて、後々まで残しておくんだよー」

それはごく普通のノートでしたが、シイナは丁寧に地図のコピーをノートに貼りつけました。

 

地図には、川の音が聞こえた場所や、だんだん昔にさかのぼり始めた場所が書いてあります。

さらにその先は真っ白な紙が繋いであり、江戸時代になり始めた場所、荒れ野原になり始めた場所も大雑把ですが、書いてあります。

 

最後は、石の精霊と出会って夕焼けを見た場所も書いてありました。

 

綾はそれを見て、嬉しい気持ちが湧きあがってきました。

 

「そうだね。こうしておけば、いつでも思い出せるね」

綾は微笑んでそう言いました。

 

そのとき、シイナはふと、何かを思いついたような表情を浮かべました。

 

「もしかしたら、今日、あの川が現れたのは、誰かが思い出したからかもしれないよ」

シイナは突然、そんなことを言い出しました。

 

「えっ?それってどういうこと?」

綾は不思議に思って聞きました。

 

「う〜んとね、川がなくなっても、央野区の街はずっとあの川のことを覚えてたんじゃないかな」

シイナは考えながら答えました。

 

「央野区は昔から魔法の街だから、大昔にいなくなった寂しがり屋の川のことをたまたま今日、思い出したんじゃないかな」

シイナはそう言いました。

 

シイナの考えは突拍子もないものでしたが、なぜか綾は、それを信じたい気持ちになりました。

 

「そうだね、そうかもしれない」

綾はシイナのノートを見つめながら、そう言いました。

 

「よし、魔法ノート完成!ねえ、綾ちゃんのお母さんとお父さんに、今日のこと聞かせてあげようよ」

シイナは立ち上がると、綾を促しました。

 

「うん、川のことを知ってる人が多ければ多いほど、あの川も喜びそうだもんね」

綾は言いました。

 

「なにしろ寂しがり屋の川だからなあ」

シイナは笑ってそう言いました。

 

二人はお母さんとお父さんに、寂しがり屋の不思議な川のお話をするため、キッチンへ向かいました。

綾の心にあった寂しい気持ちは、いつの間にか、暖かい気持ちへと変わっていたのでした。

 

ーおしまいー


 
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