No.926981

みゆみこログ②

mofuさん

みゆみこ短編詰め合わせです。6巻後、時系列バラバラ。妄想捏造激しいのでご注意ください。
※スピンオフ前に書いたものなので矛盾点等あるかと思います。

気がついたらどちらかが寝てる話ばかりに(汗)
萌えポイントがバレバレだ・・・

2017-10-21 18:32:11 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:4009   閲覧ユーザー数:3955

<7月7日 七夕SS・高3設定>

 

7月に入ると夏休みも目前。1学期の期末テストがつつがなく終了した。

しかしホッとしたのもつかの間、浮かれていられないのが受験生だ。さっそく生徒会室にて深行との答え合わせが始まった。

「よし・・・この分なら、けっこういい順位までいくんじゃないか?」

「本当?」

泉水子は両手を握り締めながら固唾を飲んでいたが、深行の明るい声を聞き、ようやく肩から力が抜けた。

けれども深行の採点を見て、泉水子は顔を曇らせた。やはり数学がネックなのだった。

自分で自分を研究する。その分野に進むのであれば理系は必須科目である。深行のおかげで数学の成績は格段に上がったが、それでもまだまだ苦手意識が強い。

もう高校3年の夏。このまま本当に深行と同じ大学に合格できるのか、泉水子は不安で仕方がなかった。

深行がこの数学のへこみに気づかないはずはなく、気遣うように泉水子の頭に手を乗せた。

「合格圏内には入ってるんだ。これから追い込みをかければ絶対に合格できるはずだ。テストも終わったことだし、アイスでもおごってやるよ」

「アイス?」

一緒にアイスを食べる。そんなことがすごく嬉しくて顔を輝かせると、深行は苦笑して泉水子の頭をぽんぽんと撫でた。

―――現金だと思われたのかもしれない。

 

深行と連れ立って購買へ行くと、梅雨の中休みでひどく暑いためか、アイスはよく売れているようだった。

深行は迷うそぶりも見せずに、涼しげな色の棒状氷菓を手に取った。当り付きで、子供の頃によく食べたのだという。それを聞いたら泉水子も食べてみたくなり、真似して同じものにした。

カフェテリアはテスト明けで浮かれる生徒たちで混み合っていた。

これでは落ち着いて話せそうもないなと思っていたら、深行は2人分のアイスを持って出口へと向かう。生徒会室へ戻るでもなく向かった先は、中庭の木陰だった。

外はうだるような暑さでひと気がなく、それでも木陰のベンチは風が心地よくて涼しかった。

泉水子は空を見上げた。

今日は7月7日。

朝から日差しが強く厳しい暑さだったが、次第にどんよりと曇ってしまった。梅雨の真っただ中である今日は、予報では夕方から雨になるらしい。

(年に1度の逢瀬なのに・・・)

これでは星に願うどころではない。織姫と彦星のことを思うと黄昏てしまい、妙にシンクロしてどんよりした気分になる。

もしも受験に失敗してしまったら。

卒業をすれば同じ部屋の空気も吸えなくなるというのは本気なのだろうか。

年に1度・・・いや、それすらも会えなくなってしまうとしたら。

「鈴原? 早く食わないと溶けるぞ」

ハッと我に返った泉水子は、あわてて顔を上げた。

「うん」

深行がせっかく励ましてくれたのだ。切り替えるためにふるふる頭を振り、急いでアイスの袋を開ける。深行はしゃくしゃくと大口で薄水色の氷菓を食べ進めており、もう半分以上が消えていた。

頭が痛くならないのだろうかと感心していると、

「あ・・・っ」

あろうことか、取り出した瞬間、手が滑ってアイスを落としてしまった。

とても涼しげな棒つき氷菓は、無残にも足元で砂まみれになっている。アリが素早く寄ってきた。

(ど、どうしよう。深行くんが買ってくれたのに)

もうだめだ。泉水子は絶望的な気持ちになった。

数学も思うように成績が伸びないし、こうして迷惑ばかりかけている。来年の夏だってその次の夏だってずっとずっと一緒にいたいけれど、もしかしたら離れた方が深行のためなのでは・・・。

打ちひしがれていると、隣でプッと吹き出す声がした。

「そんなに死にそうな顔をするほどのことかよ。・・・ほら」

深行は泉水子の前に食べ終わったアイスの棒をちらつかせた。いきなりのことで焦点が合わず、泉水子は目をこらした。

「当たり・・・あ、当たり!? 深行くん、すごい!」

思わず声を弾ませると、深行は勝ち誇ったように笑った。

「もう1本もらってきてやるから、こんなことで泣くなよ。ちょっと待ってろ」

そう言うと、深行は小走りで購買へ戻って行った。その背中を見送り、泉水子は唇をとがらせた。

(・・・泣いてないもん)

暗く渦巻いていた気持ちが嘘みたいに明るくなった。

いつもこうして救ってくれる。小さい不安から大きな不安まで。なんてことのないように。

泉水子が沈みこんでしまっても、それ以上の力で引き上げてくれる。

星に願いをかけなくても。

(深行くんが大丈夫だと言ってくれる限り、私は大丈夫なんだ)

よくケンカもするけれど。一緒にいると楽しくて、泉水子の知らないことをたくさん教えてくれる。毎日幸せが更新されていく。

―――これでは本当に現金だ。

すっかり浮上して待っていると、深行は同じアイスを持って戻ってきた。

「ありがとう」

深行の幸運を泉水子に使ってくれた。何度だってお礼をいいたい気分だ。心からそう思っていると、深行は「そんなに大したものじゃないだろ」と呆れた顔をした。

泉水子はキーンと氷菓の冷たさを感じながら、幸福をかみしめた。横顔を見つめていると、深行は空を見上げて呟いた。

「空気が湿っぽい。降らないうちに帰るか」

それから泉水子を見て、やわらかく微笑んだ。

「七夕に雨が多いのは、逢瀬を周りに見られないように隠れるかららしいな」

「えっ、そうなの?」

てっきり梅雨時のせいだと思っていた。びっくりして瞬くと、深行はしばらくの間泉水子を見つめ、みるみる顔をしかめた。

「・・・やられた。適当なことばかり言いやがって・・・」

低い声にたじろぎながらも、泉水子は尋ねた。

「誰に聞いたの?」

深行は屈辱的な表情を浮かべて黙っていたが、泉水子がじっと待っていると観念したように重い口を開いた。

「・・・小さいころ、雪政が言っていたんだ。あいつにはもう何度騙されたか分からない」

泉水子ははたと口を押さえたが、堪えきれずに吹き出した。

トトロの話から思っていたが、深行が幼少のころはわりといい親子関係を築いていたのではないだろうか。

「笑ってないで、早く食えよ」

憮然と横目で睨まれ、泉水子は急いで残りの氷菓にかじりついた。

(そうか。お天気が悪くても、雲の上は晴天かもしれないんだ)

素敵なカササギの橋を思い浮かべて、泉水子の頬が緩む。

まだ泉水子が笑っていると思ったのか、深行はムッとした。泉水子の後頭部に手を回し、咬みつくようにキスをする。

冷たかったお互いの唇は、すぐに溶けそうなほど熱くなっていった。

 

 

 

 

<大学生設定・お泊りに少し慣れてきた朝>

 

深行の意識が浮上した時、腕の中の泉水子はまだすやすやと夢の中だった。

起きる時間にはまだ早いが、もう眠れそうもなく。深行はしばらく彼女を眺めた。

今の心情をどう言い表せばいいのだろう。一緒に朝を迎えるたびに幸福感で満たされる。泉水子といると、自分でも知らなかった感情がまだまだたくさんあるのだと思い知る。

起こさないように、抱きしめる腕にそっと力を込めた。細い肩だな、と初めて知ったのはいつだっただろうか。

(姫神との八王子城跡はそんな余裕なかったし)

異界まで迎えに行ったとき? それとも横浜で肩を抱き寄せたときか。そんなことを思い出して、感慨深い気持ちになる。

「・・・泉水子」

眠っているのをいいことに髪をくしゃっと撫でて、額にキスを落とした。形容しがたい満足感。

あどけない寝顔がどうしようもなく愛しく見える。抑えきれず、今度は頬に口づけた。

「・・・」

想いが込み上げ、うっかり好きだと囁きそうになったところで急に恥ずかしくなる。誰も見ていないし知らないと分かっていても。

さらに追い討ちをかけたのは、彼女の鎖骨あたりの赤い痕。最中は夢中になっているからどうってことないのに、頭が冷えるとこんなに・・・。

いたたまれない気持ちで眺めていると、泉水子の顔がみるみる紅潮していく。

―――もしかして。

泉水子の鼻をつまむと、むきゅ、と可愛い声をもらした。

ぱちっと目を開けた泉水子は、真っ赤になって口をぱくぱくさせた。

「あ、あの、寝たふりをするつもりはなくて、タ、タイミングを逃してしまったというか」

とても聞いていられず彼女の唇をふさいだ深行は、開き直って泉水子に覆いかぶさった。

*

パソコンのキーボードを打つ指を止め、深行は柱時計を見上げた。

レポートに没頭するうち、あっという間に2時間近く経っている。軽く伸びをして後ろを振り向けば、ソファに座って本を読んでいた泉水子はいつしか眠ってしまったようだった。

無防備にすうすう寝息を立てる姿が可愛い。深行は泉水子の膝から落っこちそうになっている本をラグの上に置き、おさげをひとふさ手に取った。

しばらく見つめ、しっかり眠っていることを確かめてから、泉水子の頬にキスをした。

 

 

 

 

 

<高2設定・ハグの日妄想。8/9だと夏休み真っただ中なので(笑)夏休み直前くらいで>

 

深行はめったに素の自分を出さない。

彼が賢くしていられないのは、父親を前にした時だけ。

ポーカーフェイスというのだろうか。鉄壁な優等生顔を日頃から常備しているのだ。

人当たりがいいので、生徒教師問わず頼りにされることが多く、気がつけばいつも忙しそうにしている。

要領がいいのでそつなくこなしていると思っていたけれど、もしかしたら少なからずストレスを抱えていたのでは。

そう気がついたのは、きちんと心を通わせてからだった。

「・・・」

お昼休みの中庭のベンチ。宗田きょうだいにそれぞれ所用があり、珍しく深行とふたりで昼食をとった時のことだった。

たまには外で食べるかということになり、木陰のベンチに腰を落ち着けた。

あっという間にサンドイッチをたいらげた深行は、泉水子の肩にもたれて眠っている。

はじめはびっくりしてどぎまぎ肩に力が入ってしまったけれど、疲れて寝入っている深行を見て、なんだか嬉しくなった。

いつも深行に迷惑ばかりかけてしまっている泉水子だけど、こうして無防備に甘えてもらえることは新鮮で。庇護欲みたいなものがかきたてられた。こんな姿、きっと泉水子しか知らない。

守られるばかりではなく、泉水子だって少しは深行を支えることができたらいいのになと思う。

(もっと・・・役に立てることないかな)

そういえば、真響はきょうだいで触れ合うのが基本だと言っていた。泉水子も深行もひとりっ子だから、そういう振る舞いに慣れていないと考えたことも思い出した。

ひとの身体はあたたかい。触れ合えば癒されるということを真響に、そして、深行にも教えてもらった。

彼も・・・そうなのだろうか。

泉水子はくれぐれも起こしてしまわぬよう慎重に腕を回し、そっと深行を抱きしめた。

深行の少し癖のある髪が頬に触れ、その頭を軽く撫でてみた。

なんだか可愛くて、ほのぼのした気持ちになってくる。

疲れている深行を癒したいと思っているのに、泉水子の方が癒されているような気持ちだ。

木々に守られているベンチは過ごしやすく、時折通り抜ける風が心地いい。

深行はぐっすり眠り込んでいる。

チャイムが鳴るまでは、ゆっくり休ませてあげたいと思いながら、泉水子は深行のやわらかい髪に指を通した。

*

寝たふりをしたのは、ほんの少しの出来心からだった。

泉水子に癒されたくて、充電、という軽い気持ちで。

それが、もぞもぞ動いたかと思えば抱きしめてきたり、頭を撫でてきたり。

普段は自分から触れてくることなどないくせに、人の忍耐を揺るがすようなこの動きはなんなのだろうか。こういうことは、起きている時にやれと言いたい。

(今起きたようなていを装えば・・・。いや、でも・・・)

こちらから抱きしめたい。けれども、このレアな状況も捨てがたい。一歩間違えば、泉水子は二度とこのような真似をしてこないだろう。

深行は理性を総動員し、ひたすら目を閉じて耐えたのだった。

 

 

 

 

 

<高3の夏・玉倉山帰省中>

 

佐和に切り分けてもらったスイカを持って泉水子が宿所に行くと、深行は壁を背にしてうたた寝をしていた。

ふいにこうした無防備な姿を見れることも帰省の楽しみのひとつで、泉水子は嬉しくて頬を緩ませた。

音を立てないようにお皿をテーブルの上に置き、あどけない寝顔をじっくりと観察する。

気配を感じたのか深行は目を開けてしまった。目を細めて瞬きし、じっと見つめてくる。

「・・・寝ても覚めても鈴原とはな」

「え?」

「・・・なんでもないっ」

「もしかして・・・私の夢を見ていたの?」

「それより軽率に宿所へ来るなよ」

「だって佐和さんがスイカを持たせてくれたんだもん」

「・・・」

 

(文字通り寝ても覚めても泉水子ちゃんで寝ぼけちゃった深行くんと佐和さんからの痛い信頼、みたいな。笑)

 

 

 

<高2設定>

 

泉水子が熱を出したと真響から聞いた深行が保健室に行くと、保険医はおらず彼女は一人で寝ていた。

赤い顔の泉水子は、辛そうに胸を上下させている。深行はそばにある椅子を引きよせ、ベッドの脇に座った。

悪夢を見ているのか、眉がきゅうっと寄せられているのが痛々しい。頭をそっと撫でると、その瞬間、ホッとしたように泉水子の力が抜けた。

それに深行も安堵し、布団から出ている泉水子の手を握った。

自分の手の平にすっぽりと収まる小さな手。泉水子はこの小さな身体にはとても抱えきれない大きなものと向き合うための努力をしている。それを、一緒に背負ってやりたいと強く思う。

手の形を確かめるように握っていたら、泉水子はふにゃりと微笑んだ。

「深行、くん・・・」

吸い込まれるようにその赤い唇から目が離せなくなる。

(・・・だめだ)

深行は泉水子の小さな唇を指先でふにふにと突いた。やり場のない衝動をいたずらで誤魔化すくらいは許してほしい。

*

・・・泉水子。

誰かに呼ばれたような気がしたけれど、目が開かない。

身体が熱い。真っ暗で苦しい。ここはどこ。怖い。

暗闇の中をもがき走っていると、そっと頭を撫でられた感覚がした。途端に力んでいた身体の力が抜けていく。

そして、あたたかくて大きな手が泉水子の手を包み込んだ。

ああ、一人ではないんだ。この手があれば大丈夫。

ホッとして頬が緩むと、唇に柔らかい感触がした。

 

「・・・ちゃん。泉水子ちゃん。大丈夫? 起きられる?」

「真響さん・・・? 」

「先生が、今日はもう早退したほうがいいって」

泉水子はゆっくりと起き上がり、額に手をやった。重だるかった身体は少し楽になっていて、熱もいくらか下がっているようだった。

しかしまた迷惑をかけてはいけないので、大人しく従うことにした。

「うん・・・。ごめんね」

真響から鞄を受け取り、ふと泉水子は聞いた。

「真響さん、ずっとついていてくれたの?」

「ううん、ずっとじゃないよ。相楽に伝えたから、あいつもここに来たと思う」

「え・・・」

では、唇に柔らかい感触がしたのは。

泉水子は真っ赤になって唇を押さえた。急にまた熱が上がってきたみたいだ。

「どうしよう、真響さん。私、相楽くんに風邪をうつしてしまったかも」

真響はしばらくの間じっと泉水子を見つめ・・・にっこりと微笑んだ。

「大丈夫。相楽はちょっとやそっとじゃ風邪をひくタマじゃないって。それより、ほらほら早く帰って休まないと」

張りつけたような笑顔の真響に、泉水子はなかば追い出されるように校舎を出たのだった。

*

真響は大股でA組に戻ると、ガラリと勢いよくドアを開けた。男子と談笑している深行の腕をつかみ、ずるずると教室の外へ連れて行く。

「どうしたんだ? もしかして鈴原の容体が・・・」

「相楽。あんたって人は、女の子の寝込みを襲うなんて信じられない。教えてやった私がバカだったわ」

「え?」

「何とぼけてるのよ。泉水子ちゃん・・・唇を押さえて真っ赤になってたんだから」

「? ・・・っ! 待て、それは誤解だ! ただ触っただけ・・・」

「触った!?」

「あ、いや、違・・・」

「何が違うのよ」

「だから・・・」

あたふたと言い逃れしようとする深行に、真響はまなじりをつり上げたのだった。

 

 

 

 

 

<新婚直後妄想>

 

珍しく定時で帰れた深行が玄関を開けると、ふわりと美味そうな匂いが漂ってきた。

深行は靴を脱いでリビングへ向かった。メールをしても返事がなかったのだが、料理をしていて気がつかなかったのだろう。度々そういうことがあるので気にしてなかったけれど、キッチンにはその姿がなかった。

コンロの火はついておらず、大きなホーロー鍋からは食欲をそそる湯気が上がっている。つい先ほどまで泉水子がここで料理をしていたことは確実だ。

というより、鍋を見なくても泉水子がこの家の中にいることは感覚で分かっているのだが。

「泉水子?」

あまりにも静かなことを不審に思いながらあちこち見て回り、寝室をのぞくと、泉水子がベッドの上で枕を抱えて眠っていた。

洗濯洗剤のいい香りが鼻をかすめる。今日は天気がいいので布団を干すと言っていた。どうやら洗ったシーツと枕カバーを交換したところで、ふかふかの布団の誘惑に勝てずにそのまま寝てしまったという図のようだ。

深行は小さく笑い、泉水子のそばに腰をかけた。その寝顔を眺める。

くの字になって子供のように眠る彼女が可愛くて。

起こすのが忍びなく、深行は泉水子の瞼に軽く唇を落とした。

*

泉水子がふっと瞼を開けると、自分に重い腕がかかっているのが分かった。

「え・・・」

ぼんやりした頭で寝がえりをうつと、深行が泉水子を抱きかかえるようにして目を閉じていた。

意識が一気に覚醒する。窓の外はもうどっぷりと暗くなっていて、泉水子は顔を青ざめた。

「み、深行くん・・・」

「ん・・・?」

いつ帰ってきたのか、一緒に眠ってしまったらしい深行は、うっすら目を開けると当たり前のように泉水子を抱き寄せた。

「あのう、私・・・寝てしまって」

「うん」

ぽんぽんと頭を撫でてくる。

「お帰りって言いたかったのに」

「今、言えば?」

見上げようとするよりも先に、額にキスをされた。

頭を撫でる手が心地よくて、嬉しくて、泉水子は深行にひたと身を寄せた。

「お帰りなさい、深行くん」

「・・・ただいま」

深行の心音を感じながら、泉水子は幸せをかみしめた。

泉水子は深行からいろいろなものをもらってばかりだったけど、ようやく泉水子も彼に与えてあげることができるのだ。

「おはよう」と「おやすみなさい」 「いってらっしゃい」と「お帰りなさい」の日々を。

こんなふうに考えるのは、自己満足だということは分かっている。

(でも・・・。それでも)

ふたりにとって、これ以上に特別なものがあるとは思えないのだった。

いつか夢見ていた未来に、この手が今、触れている。

「深行くん、お腹すいたでしょう。すぐ用意・・・」

顔を上げると同時に唇をふさがれて、泉水子はびっくりして瞬いた。

至近距離で見つめられて、ドキンと鼓動が跳ね上がる。

優しく触れてくる指先に、泉水子は素直に目を閉じた。

 

 

 

 

 

<大学生設定・お泊り数回目> 大人風味注意

 

指を絡めてつないだ泉水子の手は、弛緩して力が入らないようだった。深行はよりいっそう強く握る。

普段にはない熱が、指先から伝わってくる。

泉水子の熱の元が自分だと思うと、深いところで満たされてしまうのは、はたして愛情と言えるのだろうか。

独占欲? 支配欲?

深行は自分に組み敷かれて震えている泉水子の耳元に唇を寄せた。

「泉水子・・・平気か」

「や、」

目を閉じて呼吸を乱していた泉水子が、ぴくりと身体を震わせる。

「嫌・・・?」

「そんな、み・・・耳の、そばで・・・言うから」

熱い身体を逃げるようによじられて、深行は小さく息をついた。

『いや』という言葉が、本当に嫌なのではないかと未だに焦ることがある。自制しているつもりだけど、時々加減が分からなくなるのだ。抑えきれない劣情に我ながら呆れてしまう。

愛しい名をささやき、そばにある華奢な肩にキスを落とす。緩やかに揺さぶると、泉水子から小さな声が上がった。

これ以上ないほどの近い距離で、泉水子自身でさえ知らない彼女を暴いていくこと。

まれに泉水子は深行のことを救命ブイだなどとよく分からないことを言うけれど、溺れそうになっているのはこちらの方だと思う。

どうしたってもう、この手を離せないのだから。

 

 

 

 


 
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