No.923436

九番目の熾天使・外伝 ~短編29~

竜神丸さん

因縁 その1

2017-09-23 04:48:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5414   閲覧ユーザー数:1919

ミッドチルダ南部、アルトセイム地方。

 

フェイト・T・ハラオウン……否、フェイト・テスタロッサの出身地であり、かつて彼女の母親にしてPT事件の首謀者として闇に消えた人物―――プレシア・テスタロッサが拠点としていた時の庭園があった場所。

 

ミッドチルダにおいては辺境と言えるこの地は、豊かな自然の残る平穏な地域だった……のだが、この地域で再び、一つの戦いが巻き起ころうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐがっ!?」

 

「はいよ、そこで寝てな」

 

とある貨物線を走る長い貨物列車。一番先頭の列車には『Administrative bureau』という時空管理局を示す名前が記されている事から、管理局が所有している列車である事が分かる。その貨物列車のとある車両にて、列車の防衛に就いていた管理局直属の兵士が1人、黒いフードを被った男に手刀で気絶させられていた。

 

「…うーい、こちらロキ。後部車両の兵士達は一通り沈黙させたぞっと」

 

『こちら青竜。問題なく潜入出来ましたわ……それにしても、本当にこんな所にレリックがありますの?』

 

『こちらFalSig。桃花さん達から直々に確認取れてるんで、間違いないと思いますよ~? というか、こういう潜入任務ならokakaさんが一番ピッタリだと思うんですけどねぇ』

 

『こちらmiri。okakaの奴は基本的に潜入任務が多いから仕方ないだろうな。俺達で何とかするしかあるまい』

 

『こちらFalSig、それは分かりましたけど、もう一つお知らせ。一番最初に列車に潜入したはずの蒼崎さんが第5車両でグースカと幸せそうに居眠りしてる件について何か一言どうぞ』

 

『zzz…』

 

『…こちらmiri。FalSig、寝てる馬鹿を叩き起こせ』

 

『こちらFalSig、アイサー』

 

『zzz…ぷぎゃっ!?』

 

『…こちら青竜。黙祷しますわ』

 

『こちらmiri。しなくて良いです青竜さん』

 

「…何してんだあのアホは」

 

通信でそんなやり取りがありつつ、黒いフードを被っていた人物―――ロキは気絶させた兵士をまた1人、ロープと猿轡で拘束してから車両内の木箱の中に強引に詰め込み、木箱に窒息しない程度の小さな穴を開けてから木箱の蓋を閉める。これで兵士が目を覚ましても自分達の邪魔は出来ないだろうと判断し、ロキは他の貨物をゴソゴソ捜索する。

 

「こちらロキ。再度確認しておくが、ここの車両に乗ってる兵士達や機関士達は管理局の暗部について何も知らされていない一般人ばかりだ。間違っても殺す事が無いように」

 

『こちらmiri、了解。要するにコイツ等は何も知らされないまま危ないブツを運ばされてる訳か』

 

『こちらFalSig。蒼崎さんを叩き起こしましたよ~』

 

『こちら青竜。FalSigさん達と合流しましたわ……蒼崎さんは大きなタンコブが出来ていらっしゃいますが』

 

『こ、こちら蒼崎……タンコブが出来ました、痛いでございます…!』

 

『こちらmiri。自業自得だ居眠り馬鹿。徹夜しなきゃならないほど書類を溜めまくってたお前が悪い』

 

「こちらロキ……緊張感の無い会話はその辺にしとけ。お客さんが来た」

 

-ガギィン!!-

 

ロキは通信を切った直後、右手に出現させたデュランダルを真上に振り上げ、その瞬間に刃物同士がぶつかり合う音が鳴り響く。ロキが見上げた先には、同じくフードを被り素顔を隠した黒服の男が2本の短刀をデュランダル目掛けて振り下ろしている姿があり、ロキは小さく舌打ちする。

 

「天井に張り付いていた訳か……用心なさってるようで!!」

 

「…フッ!!」

 

黒服の男は口元をニヤつかせ、ロキが振るうデュランダルを短刀で華麗にいなすと共にロキを蹴り飛ばし、ロキも蹴り飛ばされる勢いを利用して大きく距離を取り、即座に魔力弾を発射。魔力弾は黒服の男の真横をスレスレで通過し、その拍子に破けたフードの下から男の素顔が露わになる。

 

「! …お宅、変わった顔をお持ちで」

 

「…フン、よく言われるよ」

 

黒服の男が見せた素顔……その左半分はメタリックな機械で形成されていた。赤いレンズの内側から覗く義眼はロキの姿をギョロリと睨みつけており、よく見れば男の左腕も袖と手袋の間から機械が見え隠れしている。

 

「機械と融合させられた改造兵士か……お宅等の上司さん達も、相変わらず趣味の悪い事で」

 

「その趣味の悪さに救われた人間もいるという事さ……白黒の傭兵」

 

「へぇ、俺を知っているとは光栄だ。出来ればアンタの名前も知りたいところだな」

 

「…時空管理局特務虚数課直属暗殺部隊隊員、ゴルドフ。貴様を殺す者の名だ」

 

「言うねぇ。なら俺も自己紹介と行こう……OTAKU旅団ナンバーズNo.06、ロキ。お前を倒す者の名だ」

 

「いざ…」

 

「尋常に…」

 

「「参る」」

 

直後、刃と刃は再び激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、別の車両でも…

 

 

 

 

「あら、お出ましのようですわ」

 

「そのようで……蒼崎さーん、お願いだからさっさと眠気覚まして」

 

「だって眠いもんは眠いんだよ…っとぉ!?」

 

合流していた青竜、FalSig、蒼崎は同時にその場に伏せ、3人の頭上を複数のナイフと弾丸が通過。青竜が睨む先には、両足が機械化している赤髪の女性、右半身が機械化している黄色いモヒカン頭の男性、頭部全体と両腕が機械化しているモノアイの男性の3人が立ち塞がっていた。

 

「見ーつけた♪ ネルガ、エイブラハム、彼等が今回のターゲットだ」

 

「ギャハハハハハ!! なぁラミス、アイツ等OTAKU旅団の一員なんだってなァ!? 良いねぇ良いねぇ、殺し甲斐があるってもんだぜェッ!!」

 

「…アグロォ」

 

「ッ……嗅ぎつけるのが早いです事…!」

 

「これたぶん、最初から罠を張ってたパターンっぽいですね。やれやれ、どうやって察知したんだか…!」

 

「ぬぉ!? あの赤髪の子はなかなか……いやいや、今は任務に集中集中…!」

 

「青竜さん、その馬鹿もう1回シバいて下さい」

 

「こうでよろしいんですの?」

 

「へぶっ!?」

 

青竜が蒼崎の後頭部をシバくと同時に、赤髪の女性―――ラミスが機械化している右足で飛び蹴りを仕掛け、青竜もすかさず抜いた太刀でラミスの飛び蹴りを防御。その横ではFalSigが日本刀でモヒカン頭の男性―――ネルガの振り下ろして来た長剣を受け流し、蒼崎は突進して来たモノアイの男性―――エイブラハムのショルダータックルを華麗にかわす。

 

黒紅の舞姫(くろべにのまいひめ)、朱音……だったかな? 君はボクがお相手しよう」

 

「あら、そんな異名で呼ばれていましたのねあの女……それから、私は朱音とは別人でしてよ!」

 

青竜の太刀とラミスの義足が鍔迫り合いをする中、FalSigは左手から張り巡らせた糸をネルガの全身に巻きつけようとしたが、ネルガはそんな事などまるで意に介していないのか、無理やり引きちぎる形で糸から強引に脱出してみせた。

 

「嘘ぉん!? 鉄くらいの硬度はあったのに!?」

 

「無駄無駄無駄ァッ!! そんなんじゃこの俺を止められはしねぇよォッ!!」

 

「うわ危なっ!? 嫌だなぁもう厄介この上ないんだから……あれ、蒼崎さんは何処に…?」

 

ネルガが乱暴に振り回す長剣をヒラリとかわしたFalSigは、ここで蒼崎の姿が見当たらない事に気付く。そんな蒼崎はと言うと…

 

「グァロ…!」

 

「ギャアアアアアアアアアア!? 何コイツ気持ち悪い嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

奇妙な言語しか発しないエイブラハムに全速力で追いかけられ、車両から地面に飛び降りて必死に逃げている真っ最中だった。素顔の見えないモノアイの男性が、不気味な言語を発しながら後ろから全速力で追いかけて来ているとなれば、蒼崎じゃなくても逃げたくはなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一番後方の車両では…

 

 

 

 

「ぬぉっと!?」

 

同じくフードを被った黒服の男が、miri目掛けて回し蹴りを繰り出して来たところだった。miriはしゃがんで回避すると共に黒服の男の足元を引っ掛けようとするが、それを読んでいた黒服の男は軽く跳躍して回避し、miri目掛けて拳銃を発砲。miriもすかさずマシンピストルを乱射しながら貨物の陰に隠れ、忍者刀を構えると共に飛び出して黒服の男が振るって来たククリナイフと激突する。

 

「ッ……待ち構えてやがったとはな……テメェ等、何者だ?」

 

「…フッ」

 

黒服の男はフードの下で小さく笑みを浮かべ、互いの武器を弾き合ってからmiriと距離を離す。miriがすかさずドラム缶を蹴り飛ばし、黒服の男はそれをククリナイフで真上に弾き飛ばし天井を破壊。破壊された天井からは満月の光が照らされる。

 

「…悲しい」

 

「あん?」

 

黒服の男の呟きに、miriは眉を顰める。

 

「何だいきなり?」

 

「悲しいものだよ。せっかく再会出来たというのに、反応が如何にも素っ気ない」

 

「テメェ、何言ってやが…」

 

miriの言葉は途中で途切れた。否、途切れざるを得なかった。

 

それは何故か?

 

答えはただ一つ。

 

フードを取り、月に照らされた黒服の男の素顔が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷いじゃないか、ジョナサン・オブライエン。元上官の私を忘れたというのかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身が一番憎んでいる“宿敵”と、全く同じ顔をしていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ガキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから先、miriはほとんど言葉を発する事は無かった。

 

 

 

 

 

 

というより、もはや言葉を発する必要も無かった。

 

 

 

 

 

 

憎き宿敵と交わすべき物など、研ぎ澄まされた刃だけで充分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――エーリッヒ・マウザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因縁の対決は、あまりにも早過ぎるタイミングで訪れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 


 
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