No.91554

九尾の使い魔

henkaさん

混沌好きな九尾のため、人とも獣ともどちらにもなりきれない容姿。
さらに青年の体では使い魔としては大きすぎて邪魔なため幼児化された。
右半身が赤いのは、契約の際に使った右指の血がそのまま呪となったため。
元は銀髪。半身は人なので、フードなどで隠しせば怪しいけど人里に下りれる。

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2009-08-25 19:46:13 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:5642   閲覧ユーザー数:5289

「ようやく……ここに辿り着いた……」

 

 男は暗闇の中で独り呟いた。

 片手に持った松明(たいまつ)の中に神妙な顔が映える。

 

「ここに源翁心昭(げんのう しんしょう)によって破壊され、世界各地に飛散したと言われる殺生石(せっしょうせき)があるのだな」

 

 コツ コツ コツ

 

 暗黒の道を男は一歩一歩奥へと進む。

 この場所をようやく探し当てた。数ある伝承のうちからホンモノを割り出すのにどれほど苦労したことか。

しかし、これもすべて〝魔生(ましょう)の渦〟を封印するためだ。

 

 コツ コツ コツ

 

 男は本来頭脳派ではない。肉体派だ。

古文書を解読するなんて芸当は持ち合わせていなかった。

頭を動かすより体を動かすほうがいい。もう、解読なんてまっぴら御免だ。しかし、ここに伝承の殺生石がなければ、すべては振り出しに戻ってしまう……

 

 コツ コツ コツ

 

 男は懇願と焦りが入り混じった複雑な心境で洞窟を進んでいた。

 

「ここは……」

 

 男の足がピタリと止まる。道が開けた。松明を前に向けると、そこはドーム状になっていた。男はドーム状の空間に入り、周囲を見渡す。

 

「!」

 

 奥に、禍々しい気配を放つ小さな石があった。

 

「見付けた……間違いない、殺生石だ」

 

 男は殺生石に近付こうとした――その時、危険を察知して後方へと跳躍した。

 

「忘れていた。殺生石は近くに生き物が来ると毒ガスを噴出するのだった」

 

 男は松明の火を消し、口から大きく息を吐き、続いて鼻から思いっきり息を吸い込んだ。

 息を止め、すぐさま殺生石の前まで走り、腰に下げたナイフを取り出す。男はそのナイフで右手の親指に傷を付け、鮮血を殺生石に垂らす。

 

 ドクン

 

 殺生石が呼応するのがわかった。

 男は傷付けた親指を地面に付け、殺生石の周りに血で大きめの円を描く。一重の陣。最初の円で外界と内界を隔絶する。もう一つ、さらに内側に小さめの円で殺生石を囲む。二重の陣。二つ目の円で内界と魔界を融結する。

 

「――解(カイ)――」

 

 封印破りの言霊を唱える。

 

 

 ドクン ドクン ドクン ドクン

 

 

 殺生石が妖しげな鼓動を打ち始める。

男はすぐに殺生石の前から離れ、大きく呼吸した。

 殺生石は心臓のように表面が波打ち、その鼓動は激しくなっていく。

 男はそれを静かに見ていた。

 殺生石の振動が限界に達すると――大きな音がして消滅した。

 

「…………」

 

 やり方を間違っただろうか? 男は冷静に考えた。すると、背後から甲高い声がした。

 

「ケケケケケ。アタシを封印から解くなんて、お前はマヌケだねぇ。ケケケケケ」

 

 男は静かに振り返る。

 すると、そこには金色に光る狐が浮いていた。闇の中でもその存在感は威圧的で禍々しい。これがこの国最高位の妖力を誇ると言われる〝白面金毛(はくめんこんもう)九尾の狐〟か。

 

「おや、よく見るとまだ若いじゃないかい。年はいくつだい?」

 

 九尾の狐はケラケラと甲高い声で笑いながら男に聞く。

 

「…………二十六だ」

「ケケケケケ。若い若い」

 

 何が面白いのか、九尾の狐は大いに笑う。

 

「それで、アタシの封印を解いて、一体何の用があるんだい?」

 

 九尾の狐は妖しく笑う。

 

「力を貸してほしい。何も言わず俺の使い魔になれ」

「カァーハッハ! 誰に向かって口を利いているんだい? アタシを何だと思っている」

 

 九尾の狐は笑う。よほど自信があるのだろう。

 

「イヤだと言ったら?」

「お前を喰う」

「ハンッ! できやしないよ」

 

 九尾の狐はフンと鼻から息を吐いた。

 

「それは交渉決裂と受け取っていいのか?」

「誰がニンゲンなんぞの使い魔になるかぇ」

「わかった。仕方ない。そうなると思っていた。では、参る!」

 

 男は言った瞬間、九尾の狐の視界から消えた。

 

「!?」

 

 九尾の狐は一瞬我が目を疑った。そして、次に男を視界に入れた時には、男は自分のしっぽを一つ捥いでいた。

 

「はぁ?」

 

 九尾の狐は理解できない。しかし、男が持っているのは間違いなく自分のしっぽだ。

 

「失望した。これが伝承の九尾の狐の実力か」

 

 男はそう言って、捥ぎ取った九尾の狐のしっぽを食べる。

 

「不味い」

 

 男は顔を歪めて唾を吐いた。

 

「こっのおおおお……ニンゲン風情があぁぁぁぁぁ――!」

 

 今や八尾となった九尾の狐の顔から笑みが消え、怒りが彷彿した。九尾の狐は指をパチンと鳴らし、巨大な火を男に向かって放射する。

 しかし、男はそれを素早い動きで避けた。

 

「何だ、できるじゃないか」

「ちょこまかと不愉快なぁっっっ!」

 

 九尾の狐の怒りは最高潮に達した。九尾の狐の周囲に数えきれないくらい多くの火の玉が浮かぶ。

 

「燃えちまいな。封印を解いてくれたことだけは感謝するよ」

 

 九尾の狐は数多の火の玉を男に向けて放射する。この数の火の玉を浴びれば、男は跡形もなく燃え尽きてしまうだろう。

 

「ケケケケケ。残念だね。イイ男だったのに…………!」

「熱いな。さすがは最高位の妖怪。右腕が火傷してしまった」

「お、お前……何故生きている?」

 

 男の手にはナイフが握られていた。

 

「霊刀か神剣の類か……」

「違うな。ただの果物ナイフだ」

「バカを言え。果物ナイフでアタシの火を防げるはずがない」

「防いだから俺はここにいる」

 

 男は無表情だ。右腕が焼け爛(ただ)れているにも関わらず痛そうな顔をしない。

 

「もう一度聞く。俺の使い魔になれ」

「火を防いだくらいでイイ気になるんじゃないよ!」

 

 しかし、九尾の狐は内心動揺していた。

 

「そうか。それは残念だ」

 

 男は確かに無表情な顔を崩し、残念そうな顔をした。しかし、次の瞬間には九尾の狐の視界から再び姿を消していた。

 

「!」

 

 引き裂かれた感覚があった。九尾の狐は後ろを振り返る。すると、そこには三つのしっぽを持った男が立っていた。

 

「お、お前……またアタシの尾を……」

 

 男は九尾の狐の言葉に耳を貸さず、むしゃむしゃとまずそうにしっぽを平らげた。

 

「不味い」

 

 男は極めて不愉快そうな顔をする。

 

「お前、何故、アタシの尾を狙う?」

「お前の尾は妖力の塊だと聞く。これを九つすべて食せば九尾の狐の力を得ることができると聞いている。俺は妖力なぞ、奇妙な力はいらんが、〝魔生の渦〟を封印するためには必要なのだ。お前が俺に力を貸さない以上、俺が自ら妖力を得るしかない。では――」

「ちょ、ちょっと待ちな! なぜそこまで必死になる。理由を教えなさい。場合によっちゃあ、考えてあげなくもないよ!」

 

 九尾の狐は男が向かって来ると思ってとっさに言った。この男はヤバい。尋常じゃない強さを持っている。

 

「妹が……めえが病に侵されている。日に日に体がウマの姿になっていくんだ。めえはものすごく喜んでいる(←真実)が、あれは俺に心配をかけさせたくないからそう振舞っているだけなんだ(←思い込み)。すべては〝魔生の渦〟の影響。あれを閉じればめえも元の姿に戻るはずだ」

「なるほど、妹思いだねぇー。しかし、〝魔生の渦〟を閉じるとなると話は別だねぇ。あれはアタシにとっても有益なものだからねぇ」

「そうか……」

「ま、待ちな! 考える時間をおくれ! その間、ニンゲンの姿をしてあげるからねぇ」

 

 そう言うと九尾の狐は変化を始めた。手足の鋭い爪が徐々に短くなっていき、同時にそれぞれの指が細長くなり、肉球が体の中に吸収され、金色の毛が収縮し、人肌に変化する。突きだした口が徐々に顔の方へと縮んでいき、鼻と口が分かれ、鋭い歯が短くなり、口の周りにはぷりっとした唇ができる。三角の耳が徐々に縮んでいき、頭の上の方から目の横へと移動し、人のものらしい楕円形の耳になる。伸びていたヒゲが縮んでいき、顔の中に消える。体全体の獣毛が収縮し、体が金色から人の肌色に変わる。頭の上には髪の毛が生えてきて、肩にかかる。ムネが盛り上がり、りっぱなムネが出来上がる。秘所には黒い毛が申し訳程度覆って隠される――九尾の狐は裸の絶世の美女へと変化した。

 

「ねぇ、お兄さん。ちょっと待っておくれよ」

 

 美女になった九尾の狐は男に近付き、腕を組む。男は少し恥ずかしそうに顔を背けた。

 

「かわいいねぇ~アタシとヤっちゃう? ねぇ、触って」

 

 美女になった九尾の狐は顔を背ける男の手を股間に持って行く。その時、九尾の狐は焼け爛れた男の右腕を噛んだ。

 

「!!!」

「ケケケケケ。油断したねぇ。ったく、男は女に弱い。これだから簡単に国を滅ぼせるんだよ」

 

 九尾に噛まれた男の腕は赤く腫れあがっていく。噛まれた部分を起点として、赤い腫れ物は男の右腕を侵食していく。浸食が手に達した時、手が膨張し、爪が鋭く長く伸びた。赤い浸食は止まらず、肩から体の内側にも網目状に伸びてくる。

 しかし、男は動揺することなく、他人事のように変化していく自分の腕を見詰めている。

 

「ケケケケケ。呪いをかけてやったのさ。苦しいかい? もうすぐ人じゃなくなるからねぇ。ケケケケケ」

「それだけか?」

「は?」

 

 男は瞬間的に人のものでなくなった右腕で、美女の姿をしている九尾の狐の首を掴んだ。

 

「な、何をする!? アタシを殺せば呪いは解けないぞえ」

「別に構わん。その代わり尾をもらう」

「わ、わかった。降参だ。契約しよう。だから、腕を放してくれ」

「本当だな?」

 

 男は美女の姿をしている九尾の狐の首に爪を食い込ませた。

 

「ほ、本当だ。約束する! 〝魔生の渦〟も閉じる」

「…………」

 

 男は美女の姿をしている九尾の狐の首から手を放した。

 

「ゲホッゲホッゲホッ」

「契約はどうしたらいいのだ?」

 

 男は容赦無く美女の姿をしている九尾の狐に詰め寄る。

 

「ゲホッゲホッ……も、もう済んでるよ。その呪いが契約の代わりになる。ただ、契約が完了するにはもっと変化してもらうよ」

「あぁ、わかった」

 

 男がそう言うと、肩のあたりで止まっていた赤い浸食が体の右半身に広がった。首を伝って顔に侵食すると、耳がゴキゴキと音を立てて変形し、大きく尖った異形の耳になった。

浸食は髪にまで到達し、男の銀髪を血の色に染めていく。額には黒い紋様が浮かび上がる。

背中を伝って足の方にいくと、ゴキゴキと音を立て、こちらも異形の形になる。大きく爪が伸び、ケモノのように足が曲がるが、毛は生えない。

両肩より少し内側ではメキメキと肉が盛り上がり、グググと上方に細長く伸びていき、いくつかの起点で枝状に広がり、翼が形成される。また、お尻の方ではモコッと肌が盛り上がり、盛り上がった先が外へ外へと細長く伸びてライオンのようなしっぽになった。

 

「う゛あ゛ぁァ゛あぁ――」

 

 男もさすがにこの変形には苦しい様子で、ヨダレが口から零れ、目から涙が溢れた。それを見て元の狐の姿に戻り、しっぽが五つに減った九尾の狐が悦に浸る。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……終わりか……?」

 

 右半身が赤い人も獣ともいえない異形の姿、左半身は変わらず人のまま。奇妙に人と異形が混ざった姿になった。実はここまで浸食しなくても契約はできているが、それは九尾の狐の好みだった。

 男が九尾の狐に詰め寄る。ちょっと失敗したかもしれない。人の時よりも威圧感が増していた。

 

「い、いやまだだ。最後の変化が終わっていない」

 

 九尾の狐は慌てて付け加えた。そして、両手を合わせて指を組む。

 

「!?」

 

 すると、男はみるみる内に小さくなっていく。背が縮んでいるのではない。幼児化しているのだ。体のあらゆるパーツが縮み、まるでビデオを逆再生しているようだった。

 

「はぁ……こうしておけばアタシへの気害もないね」

 

 しかし、三歳児くらいの姿になっても男は強気だった。

 

「契約完了だな。いくぞ!」

 

 と、そこに、誰かがランプをもってドーム状の空間に入ってきた。

 

「! めえ!」

 

 妹のめえだった。

 

「お兄ぃ……ちゃん……?」

 

 何故めえは元の人間の姿に戻っていた。

 

「な~~んだぁ、お兄ちゃんも獣化好きだったんだねー(←勘違い)。ねぇ見てみて! 私もウマにも人にもどっちにも変身できるようになったんだぁ♪ いっくよぉー、ン―――!」

 

 ランプを地面に置いためえは何だか楽しそうに力み始めた。めえの着ているスカートのお尻の方が段々盛り上がっていく。耳がピクピク動きながら縦長に伸びていく。

顔では鼻の穴が大きくなり、口と共に前に突き出していく。手では爪同士がくっつき始め、足は履いている靴が悲鳴をあげる。首が上方に長くなる。

 

「ァアンッ! もう、この獣化してる感じがたまんない。アンッ」

 

 スカートの盛り上がりが限界に達し、ビリッと穴が空いた。その穴から長いウマのしっぽが顔を出す。手の爪は全部がくっついて茶色く変色し、丸い蹄になる。すると、蹄にならなかった手の部分から茶色いウマの毛が生えてくる。首はさらに伸び、元の二倍くらいになった。耳はさらに長細くなり、内側を向く。鼻と口先もグングン前へ前へ伸び、それに合わせて目が左右にそれぞれ離れていく。髪の毛と同じ色毛が背中側の首筋に生えてくる。肌の見える部分がだんだんウマの毛で覆われていく。

 

「アンッ! ァヒッ! ヒヒッ! ァヒーン!」

 

 めえはウマとも人とも言えない両方が混ざりあった声で喘ぐ。

 耳は完全にウマのものになり、鼻先と口先は数倍に伸びて茶色い毛に覆われ、目は左右に分れた。首筋に生えた髪の毛と同じ色の毛が背中の方まで伸びて髪の毛から繋がったたてがみとなる。太ももの骨格が変わり、筋肉質になって、スカートが無残にも飛び散る。しかし、下半身はすべてウマの毛で覆われていた。履いている靴も限界を迎え、大きくなった足の蹄が姿を現す。上半身も筋肉質になり、ビリビリといって着ていたブラウスが破れ落ちる。首も数倍に伸び、かなり高くなった。肩の骨格が変わり、めえは手(前足)を地面に着いた。

 

「ブルルル」

 

 全身が茶色いウマの毛で覆われると、めえは完全にウマに変身した。体をブルブル震わせ、ボロボロになった衣類を振り払う。

 

「はぁー、気持ちよかった。あ、今はウマだから、ヒヒ―ンがいいかな。ヒヒ―ン!」

 

 めえは口の筋肉をうまいこと使って歯を剥き出しにして笑う。

 男と九尾の狐はめえがウマになっていく様子を唖然と見ていた。

 

「あれがお前の妹か?」

「あ、あぁ……」

 

 めえは本当に楽しそうだ。パッカパッカとうまく四足歩行で走っている。

 男はそれを何だか切なげな表情で見ていた。

 

「おい、俺を元に戻せ」

「ヤダ」

 

お・し・ま・い


 
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