No.915063

「真・恋姫無双  君の隣に」 第76話

小次郎さん

流星から始まった物語。
一刀と華琳達の想いは。

2017-07-22 02:51:34 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:9352   閲覧ユーザー数:6373

・・誰も、口を開かなくなった。

今の私は、私達は、同じ事に思いを巡らしている。

此処にいる全員が益州に来てから見た夢を、大事な人が二度と手の届かないところへ逝ってしまう夢の事を。

その夢の中で私達は、泣いて、怒って、喚いて、そして耐え難い喪失感に襲われる。

思い出すだけでも身体の震えが止まらない。

もしもあれが現実で起こったなら、私はその事実に耐えられるだろうか?

無理だ!夢から覚めても涙が止まらなかったのに。

例え表面は取り繕えても、心は壊れて目に写る世界は無色と成り果ててるだろう。

今迄とは違うあの夢は私達に棘となって刺さり続けていた。

どうしても不安が拭えない、一刀様に真実を話して頂けないかと幾度も考えた。

でも出来なかった、怖いのだ、聞いても思い出せなかった時は、それこそ取り返しのつかない事になるのではないかと。

・。

・・そんなに、許されない事なのか?

愛した人と共に居るのを望むのが、願う事が!

俯き握る拳を震わしていると、頭上に光を感じた。

顔を上げた瞬間、流星に私達の意識は吸い込まれる!

・。

・・。

・・・光が消え、走馬灯のように頭に浮かぶのは・・・・・。

 

「・・・・隊・・長」

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第76話

 

 

俺は拳を何度も握り直し、自分の身体を一つ一つ確認する。

何だったんだ、先の光は?

一瞬だったけど、また消える事になるのかと本気で怖かった。

・・どうやら、何ともないな。

大きく息を吐いて、安堵から思わず愚痴る。

「驚かさないでくれよ」

「・・本当に、また私の前から消えるんじゃないかと冷や冷やしたわ」

えっ!華琳?

「そのままっ!振り向かないでっ!!」

振り返ろうとして制止された。

こ、怖っ、本気で怒ってる?

宴から勝手に抜け出して王の自覚が足りないって事だろうか?

とにかく謝っ、・・いや、ちょっと待て!

さっき、華琳は何て言った?

「か、華琳、・・またっ、て・・」

問う声が震える。

「・・そうよ。・・また私の前から消えるのかと言ったのよ。愛していたなんてふざけた言葉を残して消えた馬鹿に対してね!」

それは、確かに俺が言った言葉だった。

・・何で、・・どうして。

「聞かせてあげるわ。貴方が居なくなって私達がどうなったのか!」

心臓も脳も爆発しそうな俺に華琳が語り始める。

俺の知らない物語の後日談を。

「国に戻ってからの私達はそれこそ無心に働いたわ。貴方が戻って来た時に、貴方が齎した平和な世界を更に素晴らしいものにして見せたいと思って。・・でも二年が経った頃に国家間の関係がおかしくなってきたのよ」

三国は対等の国として互いに尊重していたはずが、いきなり呉と蜀が魏に対して領土の割譲を求めてきた。

槍玉に上がったのは荊州と涼州。

元々の国力差が大きい上、華琳達の努力が更にその差を開き続けていた為に平等であるべきと主張して。

その根幹には、呉では戦死した黄蓋や兵の怨恨。

蜀は戦で失ったものの少なさによる敗北を軽んじた驕り。

そして国力差による焦りと豊かさへの妬み。

二国の民は、特に将兵は平和への捉え方が傲慢になっていた。

実質は魏に与えられたものである事を認めず、自分達に都合の良い考えで押し通そうとした。

・・遂には実力行使で。

「桃香も雪蓮に代わって王となった蓮華も、国に広がる魏への不満を抑えきれなくなったのか、蜂起して魏領へ侵略してきたのよ」

平和は崩れた、僅か二年で。

「そしてそれは私達の逆鱗に触れたわ。貴方を失ってまで手にした筈の平和が、そんな風に思われて破棄されたのかと。私達は何の為に貴方を失ったのかと」

蓋をしていた悲しみの感情が怒りに変わって解き放たれた。

以前のような戦う相手に対しての興味も敬意も無く、ただ力をもって作業の如く徹底的に両国を潰した。

どんなに交渉を持ちかけられようと全面降伏以外は一切受け入れなかった。

例え降服してきても一度でも剣を向けてきた者は許さなかった。

「最後に覚えているのは炎上している成都の城。それを前に私達の想いは一つだったわ」

「・・・」

「こんな世界、滅びてしまえばいいと!!」

「・・・」

華琳達は、世界を、人を憎んだ。

原因の一端は間違いなく俺だ。

華琳達にそんな思いをさせておいて、肝心な時に傍にいなかった俺に。

・。

・・俺が何故、再び外史に来れたのか、時が遡っていたのか、その答えが分かった気がした。

以前の俺は天の御遣いとして何も成していなかった、仮初めの平和で勝手に物語を終わらせていたんだ。

・・後ろから華琳に抱き締められた。

「どうして、どうして私の傍からいなくなったのよ!ずっと、ずっと一緒だって言ったじゃない!」

「・・・・・」

「馬鹿、馬鹿ーーーーーーーーーー!!」

子供の様に大きな声で泣きじゃくる華琳。

・・俺は、本当に大馬鹿だった。

こんなに華琳達を傷付けて、泣き叫ぶほどに苦しい思いをさせていながら、今の今まで分かっていなかったなんて。

「ごめん、本当にごめん!!」

叫ぶように謝って、強引に華琳を抱き締め返す。

想いが口に出来ないほど窮まって強く唇を重ねる。

一瞬も離したくなかった。

華琳の俺を抱き締める力も更に強くなっていた。

 

 

私達は御主人様の姿を見届けて、その場から離れているところ。

「貂蝉よ、先程の流星は何であったのだ?」

「さあ、何だったのかしらねん」

私達は元管理者に過ぎないわ、今は一人の漢女よ。

「ただね、私はこう思うのよん。あれは頑張った御主人様への、世界からの贈り物なんじゃないかしらって」

「・・成程、きっとそうだの、がはははは」

想いは届くわ、諦めない限り、きっとね。

その想いこそ、外史の生まれた由縁なのだから。

 

 

・・どれだけの時間が経ったのか、華琳の涙も止まっていた。

「華琳、今度こそ俺はずっと傍にいる、約束する!」

「当たり前よ。今度私の前から消えようなどとしたら、私の手で貴方を消してやるわ」

ああ、それでいい。

どんな事があっても俺は二度と諦めたりしない。

俺の両手を華琳が掴んだ。

「その代わり、私も貴方を一人にしないわ。必ず隣にいるから」

それは華琳と再会した時に王を孤独にしないと言った俺の言葉。

あの誓いは、華琳が成してくれる事になった。

それなら、俺は絶対に大丈夫だ。

「・・それにしても、どうして思い出せたんだ?」

「知らないわよ。流星と関係があるのかもしれないけど、考えても分かる事じゃないでしょう?」

確かに、一体何が起こったんだろう。

「そうだな。でも、感謝しておくよ」

「そうね、何に対して感謝を告げる事になるのかしら?」

そればかりは永遠の謎かな。

そろそろ戻ろうかと考えたら、華琳が視線を俺の後ろへ向けた。

何事かと振り返った先には走って来る凪達の姿が。

「あの娘達も思い出したようね」

皆が俺の名を呼んで胸に飛び込んでくる、懐かしい呼ばれ方が含まれていた。

凪が、

真桜が、

沙和が、

春蘭が、

秋蘭が、

季衣が、

流琉が、

桂花が、

稟が、

風が、

霞が、

天和が、

地和が、

人和が、

大好きな皆が。

その温もりに、ようやく俺の心が追い付いて涙が流れる。

 

 

ああ、そうか。

 

・帰ってきたんだ。

 

・・今度こそ、今度こそ本当に、・・・俺は、皆のところに戻ってこれたんだ。

 

 

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あとがき

小次郎です、お読みいただきありがとうございます。

最初は前話と今話を一話でまとめようと思ってたのですが、どうにもしっくりこなくて二話に分けました。

その為に一話が普段より短くなってしまい、改めて書き物の難しさを感じます。

書きたかった事がほぼ書き終えれました。

次で最終話です。

悔いの残らないように書こうと思いますので、御覧になっていただけたら嬉しく思います。


 
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