No.912991

ゼロの使い魔 ~しんりゅう(神竜)となった男~ 第二十七話「パーティ、そして決別?」

光闇雪さん

死神のうっかりミスによって死亡した主人公。
その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。

第二十七話、始まります。

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2017-07-06 01:51:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2577   閲覧ユーザー数:1981

私は、ワルドとの原作通りのやりとりをした後、パーティ会場に向かった。そこでも原作通りの陛下と貴族たちとのやり取りをウェールズという仮面を被り、微笑とともに陛下を支える。

 

父親である王も私の変身には気づいていないようなので、このまま原作通りに事が運べばウェールズは助かるだろう。ただ、いささか原作とは異なることも起きているし、最後まで気が抜けない。

 

陛下とのやり取りが終わった後、いろいろ考えながら、いれかわりたちかわりに挨拶してくる貴族たちに対応していく。

 

大変疲れるが、ウェールズに変身している手前、下手なことはできない。

 

貴族たちはギーシュやキュルケ、タバサにも話しかけている。キュルケは優雅に、ギーシュは緊張気味に対応しているが、タバサは興味なさそうに、黙々と食事を続けている。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ふと才人やルイズがいた場所に視線を向けると、そこには才人が床にうずくまってボーっとしており、そばには誰もいなかった。

 

さっきまでルイズやワルドがいたはずだが・・・。

 

話しかけてくる貴族たちに気付かれないよう、周囲を見回しても二人を見つけられなかった。

 

どうやらルイズとワルドは出ていってしまったらしい。いや、ワルドは出ていったルイズを追いかけていったというのが正しいか。

 

「どうかしたかな? 使い魔くん」

「・・・・・・いえ。別に・・・」

 

貴族たちの挨拶が途切れたため、才人に近づいて話しかける。

 

別に意味はない。ウェールズなら、ほっとかないだろうという考えからの行動だ。

だから、才人に素っ気なくされても別になんとも思わない。

 

「具合でも悪いのかな?」

 

蹲っている姿を心配しているという表情を作りながら声をかける。

才人はそれに『いえ・・・・・・』と首を横に振って否定し、蹲ったまま質問してくる。

 

「・・・・・・本当にこれでいいんですか?」

 

聞きたいこと、言いたいことが何であるか分かっていたが、あえて『何のことかな?』ととぼけた。

才人は生気のない顔を上げて、周りに誰もいないことを確かめてから言葉を続けた。

 

「・・・・・・明日かわりに死ぬことです。怖くないんですか?」

「・・・・・・そりゃ、怖いさ。死ぬのが怖くない人間なんているわけがない。王族も、貴族も、平民も、それは同じだろう」

「じゃあ、どうして?」

「先ほども答えたが、この身が(ウェールズのために)役立つのならば死など恐るに足らず。守るべきものがある。それが、死の恐怖を忘れさせてくれる」

 

ウェールズならばそう言うであろう言葉を才人に答える。

才人は『・・・・・・馬鹿げてる』と呟いた。

 

私は思わず口元を綻ばせてしまった。

貴族の名誉のためならば死を選ぶというは馬鹿げてると、私自身も思っていたからだ。

 

「馬鹿げてるか・・・・・・、確かにそうかもしれない。しかし、(ウェールズを助けるためには)私がここで逃げ出すわけにはいかないのだよ。それが(影武者たる)私の役目だ。君にもわかる時が来るだろう。そうそう。大使殿に伝えてもらえるかい?」

「何ですか・・・・・・?」

「常に自分の心に問いかけなさい。そこに必ず答えがあると」

「それは・・・、どういう・・・」

 

私は才人に笑顔を見せると、再びウェールズとしてパーティの中心に入っていった。

 

 

**********

 

「・・・・・・・・・・・・はぁ」

 

再びパーティの輪に入っていったウェールズを見つめていた才人だったが、ため息を吐きだすと、ゆっくりと出入り口の扉に近づき、振り返って貴族たちを一瞥してからその場を後にした。

そして、しばらく廊下を歩いていた才人は、通りすがりの従者に寝る場所はどこか訊ねた。

その時、才人の肩を誰かが叩いた。才人がゆっくり振り返ると、ワルドが冷たい表情で立っていた。

 

「君に話しておきたいことがある」

「・・・・・・なんですか?」

「僕とルイスは、明日結婚式を挙げる」

「なっ・・・」

 

才人の身体が固まった。口をパクパクして、何も言えなくなった。

一瞬、ワルドは嘲りの表情になる。そして、才人が何も言わないのを良いことにワルドは、こうまくし立てる。

 

「是非とも、僕たちの婚姻の晩酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。皇太子も、快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕たちは式を挙げる。きみは明日の朝、すぐにあの三人とともに出発したまえ。私とルイズはグリフォンで帰る。問題はない。滑空するだけだからね」

 

才人は頷くしかなかった。

ワルドは最後に『では、きみとはここでお別れだ』と告げると、離れた場所で待機していた従者に客室へ案内させ、この場を離れた。

その場に残った才人は、しばらくワルドの消えた廊下を見つめていたが、ため息とともに回れ右をして、トボトボと歩き出した。

 

〈・・・・・・ルイズ?〉

 

真っ暗な廊下の途中に、窓が一つ開いていた。

そこから覗く月からの明かりに照らされて一人の少女が涙ぐんでいた。ルイズであることに気づいた才人は小声でつぶやき、ルイズをじっと見つめた。

長い、桃色がかったブロントの髪・・・・・・。白い頬に伝う涙は、まるで真珠の粒のようだった。

 

(なんで泣いてんだよ。明日、結婚するんじゃないのかよ・・・・・・)

 

才人は、美しく、悲しげな横顔を見つめながら心の中で呟いた。

その時、ルイズが振り向いた。才人は何て話しかければよいのか分からなかったため、動げなかった。

ルイズは、それが才人であることに気づき、目頭をゴシゴシとぬぐった。

 

「な、何見てんのよ。そこにいたんなら声をかけなさいよ」

 

ルイズは、再びフニャっと崩れそうになるのを必死に我慢して、才人を睨みつける。才人は、『うるせえ』と呟き、ルイズに近づく。

 

「何考えてたんだよ・・・・・・」

「・・・・・・あの人のこと」

「あの人?」

「ウェールズ皇太子」

「な、なるほど」

 

ルイズは才人の質問に答えると、才人の身体にもたれかかった。才人は一瞬、戸惑ったが、平静を装って答えた。

 

「あの人は自らの死で(本物のウェールズ皇太子を)救い出そうとしている。あの人の行動は立派よ。でも、死を選ぶのは間違ってる。死を選ばなくても救える方法があるはずよ」

「・・・・・・それが自分の役目だ。君も分かる時がくるって言ってた」

「何よ、それ・・・・・・」

「分かるかよ。(王子様じゃないかもしれないけど)王子様が考えることなんて、俺には分かんねぇよ」

 

ルイズは才人の胸に顔をうずめながら呟くように言った。

 

「・・・・・・早く帰りたい。トリステインに帰りたいわ。それに約束だものね。あんたが、元の世界に帰れる方法を探すって」

「いいよ。手伝ってもらわなくても・・・・・・」

 

才人は顔をうずめるルイズを支えながら呟いた。その呟きが聞こえたのか、ルイズはガバッと身体から離れると才人を見つめて訊ねた。

 

「どうしてよ」

「さっきワルドさんに言われた。お前、結婚すんだろ。俺の帰る手がかりを探してる場合じゃねぇだろ」

「・・・・・・まだ結婚なんかできないわよ。立派なメイジにはなれてないし・・・。あんたの帰る方法だって、見つけてないし・・・・・・」

 

才人はウェールズから最後に言われた言葉を思い出した。

 

『常に自分の心に問いかけなさい。そこに必ず答えがあると』

 

全く意味は分からなかった才人だったが、ルイズの顔に迷いがある事に気づく。そして思った。自分がいたのでは、ルイズは結婚を断るのだろうと、将来絶対後悔をするだろうと。

だから才人は自分の気持ちをころして、あえてこう答えた。

 

「いいよ。変える方法は一人で探す。だからお前は結婚しろ」

「なによ・・・。あんたは私の使い魔なんだから勝手なことを言わないで。きちんと、帰れる方法を見つけるまでは、私を守る約束でしょ」

「・・・・・・あの時、俺は負けた。俺じゃあ、お前を守れない」

「・・・・・・・・・・・・」

 

ルイズは黙って才人を見つめる。

 

「俺は普通の人間だ。戦い方も知らない。ただ、やみくもに剣を振り回すのが関の山。それではお前を守れない。きっとお前は後悔する。だからお別れだ。お前はグリフォンで帰れ。俺は『イーグル』号で帰る。帰って(ウェールズ皇太子の)約束を果たしたら、もとの世界に戻る方法を一人で探す。これは最後のご奉公だ。ウェールズ皇太子から伝言を預かってる。『常に自分の心に問いかけなさい。そこに必ず答えがある』だってさ。じゃ、今まで世話になったな」

 

才人は踵を返すと、もと来た廊下戻っていく。

ルイズは目から涙をぽろぽろと溢れさせながら言った。

 

「あんたなんか嫌い! 大っ嫌いよ!」

「知ってるよ・・・・・・」

 

才人は振り返ってルイズを見たい衝動にかられるが、なんとか耐えて廊下をつつき進んだ。あとに残ったルイズは震えながら、才人が消えた廊下をただじっと見つめていた。

 

「・・・・・・常に自分の心に問いかけなさい。そこに必ず答えがある・・・・・・」

 

そう呟いたルイズは、涙をぬぐってくるりと踵を返すと、そのまま暗い廊下を歩きだしたのだった。

 

果たして二人の運命はいかに・・・・・・。


 
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