No.910197

SAO~帰還者の回想録~ 第10想 刀の研がれる時

本郷 刃さん

景一と詩乃はお互いの過去を振り返る
共に過ごした幼少期と罪を背負った日々を…

2017-06-15 11:25:15 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:4736   閲覧ユーザー数:4367

 

 

 

 

SAO~帰還者の回想録~ 第10想 刀の研がれる時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

景一Side

 

後悔が無いわけではない。

 

あの日、和人が瀕死の重傷を負った日の昼、明日奈と喧嘩をしてしまったというのを気にしていた風ではあった。

ただ、その時の和人の様子を思うと無理にでもバイトを休ませた方が良かったのではないかと考えてしまう。

何処か無理をしているような、あるいは疲れているのを隠しているような様子だった。

その後で明日奈に話を聞いたところ、どうやら数日に亘って遅くまで菊岡のところでバイトをしていたらしい。

その菊岡の話しでも時期が時期ということもあり人員の配置や休暇などの年末調整が込み入り、

忙しくなっているところで和人が受け入れたりしたという。

他にも何か目的があって可能な限りバイトをしていたというが、和人との約束ということで断固として口を割らなかった。

 

そして今日、この『オーシャン・タートル』にある『ソウル・トランスレーター(STL)』を使用したまま、

眠っている和人を見て少しばかりだが後悔をした。

無論、既に過ぎたことであり、私が気にしても仕方の無いことなのだから。

程度の差はあれ、それぞれが後悔をしていることに違いはない。

ならば、それを受け入れてどう進むのかが重要だ。

 

とはいえ、色々と考えてしまったからこそ、こうしてスタッフに案内をしてもらい、

気分転換を兼ねて詩乃と共に甲板の一部で外の空気を吸いに来たわけだ。

 

「外の空気、気持ちがいいわね。さすがは海の上ってところかしら?」

「……そうだな。とはいえ詩乃、寒くはないか?」

「平気よ、薄手だけどコートも着てるし。ケイは?」

「……これくらいはどうということはない」

 

強がりではない。十二月らしい厚着をしているし、ある程度は鍛えているからこれくらいの気温や海風は大丈夫だ。

十二月の寒さに海上ということで海風もあるので詩乃が大丈夫か気になったが、この様子なら大丈夫だろう。

 

「中を移動してる時に思ったけど、まるでGGOの世界みたいって思っちゃったわ。総督府(ブリッジ)のことを思い返したし」

「……確かにGGOに入り込んだような感じはしたな。和人のことがなければ来る機会が無かったことを思うと複雑だが…」

「そう、ね…」

「……すまない。気が利かなかったな」

「ううん、私こそごめん」

 

詩乃が気を利かせて話しを逸らそうとしてくれたのだろうが、色々と考え込んでいたせいでそれを無碍にしてしまった。

いけないな、気分転換のために詩乃と外に出てきたというのに、これでは意味が無い。

かといって、どうしたらいいものか…。

 

「ケイ。私ね、明日奈と和人のこと驚いたわ。まさか二人が小学生の頃に出会っていたなんて」

「……確かに、それには私も驚いた。運命という言葉にしたくはないが、二人にとっては間違いなく良い出会いだったのだろう。

 いまの和人と明日奈を見ていればそう思える」

 

昨日、明日奈から和人の見舞いについて話を聞いた時に同じく彼女が話してくれた和人との出会いの思い出。

これについては本当に驚かされた、それは今の和人の記憶力が印象に強いからだ。

思えば和人は小学校の中学年頃の機械関係以外の記憶力は当時の私達と然程変わりが無かったのを思い出した。

同時にその時のことを忘れてしまうくらいに自身の出自などに大きなショックを受け、『神霆流』に力を入れていたのだろう。

 

「でもね、驚いたのも確かだけど、同時に私とケイの方がやっぱり勝ってるとも思ったの」

「……勝ってる?」

「ええ。確かに明日奈と和人の出会いは十年前ってことだけど、私とケイの方がもっと長い付き合いだもの。

 お互いの昔からの良い所も悪い所も駄目だった所も、大抵のことは知ってる。

 そういうところはあの二人にも負けてないはずよ」

「……あぁ、それは私達が一番だな。和人と明日奈だけじゃなく、他の皆よりも」

 

私達の仲間内では間違いなく和人と明日奈の関係は絶大な信頼関係にあると思う。

尊敬もすると同時に嫉妬までしてしまうくらいの信頼関係だ。

勿論、私と詩乃だけでなく他の皆もそう思っていることは解り、

逆にその和人と明日奈も私達がそう思っていることがあることを理解しているのだから恐ろしいものだ。

その二人をして私と詩乃を越えられないのが彼女自身が言った付き合いという人間関係の時間だろう。

 

そうだ、私も詩乃もお互いの昔からのことを概ね知っている。

一度は私の引っ越しで住む場所が離れ、私が初めて人の命を奪った事件とSAO事件もあり物理的に離れた時間は長い。

それでもそれらを補えるくらいの時間を共に過ごして、お互いを想い合ってきたのも事実。

まぁ、それを両片想いというやつだったことに気付いたのが『死銃事件』の最中だったということだが…。

 

「昔話しましょうよ。前はあまり好きじゃなかったけど、これでもいまは好きなの」

「……そうだな。これからの時間を大切にするのもいいが、偶には後ろを振り返ってみるのもいいかもしれない」

「決まりね。それじゃあ、中の休憩所で話しましょうか」

 

詩乃に促されて中に戻り、またスタッフに案内してもらい休憩所に来た。

そこで適当に飲料を貰い、私と詩乃は昔話に花を咲かせる。

 

景一Side Out

 

 

 

 

No Side

 

東北地方のとある街に住むある夫婦の間に一人の命が誕生した。

夫婦の姓は国本、夫は県警察に務める警部、妻もまた警部補であったが結婚の後に妊娠し、

それを期に休職、育児休暇を経て交番勤務に異動することを決めていた。

そして、生まれた子供は男の子であり、彼は“景一”と名付けられた。

 

その一年後、関東のとある街に住む夫婦の間でも一人の命が誕生した。

夫婦の姓は朝田、生まれてきた子供は女の子であり、彼女は“詩乃”と名付けられた。

朝田夫婦は東北地方にある夫人の実家に帰省し、夫人は生まれた愛娘の詩乃を両親に紹介していた。

 

結婚を機に居を構えた国本夫婦の隣の家には50代前半の夫婦が住んでおり、

国本夫婦は初めての子育てということもあり不安を感じていたがその隣に住む夫婦の手助けもあり、なんとか子育てをすることができた。

 

その夫婦の娘夫婦が生まれた孫を連れて帰省した、それが朝田夫婦である。

そこで国本夫婦と朝田夫婦は出会い、交流を深めていった。

幼子とはいえ男の子である景一が赤子の詩乃に乱暴なことをしないか不安に思った国本夫婦であったが、

心配を余所に景一は幼子の身でありながら赤子の詩乃を静かに見つめ、

彼女が泣いてしまえば優しく撫でるという行動を取り、これには両夫婦共に驚かされていた。

本能的に兄心のようなものが働いたのだ。

そういうこともあって両夫婦の仲は一段と良くなり、「将来はこの子達で結婚もありかも」などと母親達は姦しく騒いだ。

 

それからは朝田夫婦が可能な限りで実家に帰省するか、

逆に国本夫婦が朝田親夫婦を車で連れて朝田夫婦の元に遊びに行くなどして、以降も交流を深め続けた。

両夫婦は実の子供も当然だが朝田夫婦は景一のことも、国本夫婦は詩乃のことも我が子のように可愛がった。

 

そして詩乃が生まれてから二年が経った。

 

「しの、こっちだ」

「まって、けいおにーちゃ」

 

景一は三歳になり、詩乃に二歳になっていた。

詩乃は景一を兄と呼び慕い、景一も詩乃をいつも守っており、傍から見れば本当の兄妹にも見えるだろう。

先を歩く景一の後をトコトコと追いかける詩乃、彼も彼女が追いつくのを待って今度は手を繋いで歩きだす。

仲睦まじい二人の姿は近所でも評判であった。

誰から見ても幸せな二人とそれぞれの両親、誰もがずっと続いていくものだと思っていた、その時までは…。

 

その年の末、詩乃は父の運転する車で家族三人揃って東北にある母方の実家に帰省することになった。

幼いながらに景一にまた会えることを楽しみに思いながら、後部座席のチャイルドシートに座っていた。

だがその道中、三人が乗る車を激しい衝撃が襲った。

対向車線上のトラックが道を外れて三人が乗る車に対向衝突したのだ。

 

これにより詩乃の父親は死亡、母親は重傷を負ったものの命に別条はなく、詩乃は軽い怪我で済んだ。

しかし、この時に母親は夫の死に様を間近で目撃したことなどが絡み、精神的に傷を負った。

ショックによる精神年齢の退行、夫や娘である詩乃を含めた夫と出会う以前までの記憶の喪失。

これにより詩乃は父親を失い、母親でさえも精神的に失うこととなってしまった。

 

詩乃と母は母方の両親である祖父母の家で生活することになった。

物心が付く前とはいえ父親を失った悲しみは確かに幼い詩乃にあり、また母親の状態も幼い彼女の心に小さくはない影を落とす。

だが不幸中の幸いと言えるのか、隣に住んでいる景一と国本夫婦の存在は幼い詩乃と祖父母の救いとなった。

率先して朝田夫人の助けになる国本夫婦に加え、景一や詩乃の姿をよく見ていた近所の人達も助力を惜しまなかった。

 

 

 

 

詩乃に物心が付く頃には景一も詩乃も保育園へと通うようになり、二人を迎えに行くのは景一の母か詩乃の祖母であり、

偶に仕事を終えた景一の父か詩乃の祖父が迎えに行くこともあった。

だが、家の事情というものはやはりどこかで漏れてしまうもので、人の口に戸は立てられないものである。

保育園の保育士かあるいは近所の井戸端会議か、どのようなことかは解らないが詩乃の家庭事情が周囲に知られてしまうことになった。

 

「おまえのかあちゃんってへん()なんだろ?」

「へんじゃない! わたしのおかあさん、へんじゃないもん!」

 

子供というのは残酷であり、持っている好奇心には時に悪意にも似た悪戯心が混ざり易い。

 

「うそつくなよ。おれのかあちゃんがいってたぞ、おまえのかあちゃんびょうきだって」

「でもへんじゃないもん! おかあさんはおかあさんだもん!」

 

この年頃だと物事の善し悪しにも無頓着であり、口の軽さに関してはその子供の性格にもよるだろう。

 

「あんたのおかあさんがへんなのよ!」

「なんだと!?」

「だって、きんじょのみんなおかあさんのことしってるけどそんなこといわないもん!

 たいへんだねっていつもたすけてくれるもん! そんなこといってるあんたのおかあさんがへんなんだもん!」

 

自分の母親が心を病んでいることは幼いながらにも詩乃は理解しているし、

それが死んでしまった父親を見てしまったということも祖父母や国本夫婦から聞いて納得もしている。

どうしようもないことだった、母は大変かもしれないが大好きな人達が居るから大丈夫だと、

詩乃は幼いながらに本能かなにかでそう思っていた。

 

大変な状態であってもその母親を馬鹿にされたことは詩乃にとって十分に怒る要素であり、

相手がよく保育園内で喧嘩をしているいじめっ子であっても彼女に退くという考えはない。

 

「うるさい、かあちゃんのことばかにするな! なまいきだぞ!」

「ひっ!?」

 

自分のことは棚に上げる辺りは幼い子供のすることらしいが、保育園内でするように詩乃に向かい握った拳を振り上げる。

本来、大人しく静かな詩乃にとっては精一杯の強がりだったが、向けられた暴力には竦んでしまい目を瞑る。

 

―――ドッ!

 

「うっ…!」

「あっ!?」

「え、けいおにいちゃん!?」

 

殴られて小さな声を上げたのは二人の間に割って入った景一であり、少年も詩乃も驚くしかなかった。

直後、景一はすぐさま殴り返した。

 

いっかい(一回)は、いっかい(一回)だ!」

「うくっ!? こ、このぉ!」

 

少年もまたすぐに殴り返し、そこからは取っ組み合いの喧嘩になった。

詩乃は止めようにも慌てふためいてしまい、

そこへ騒ぎを聞きつけたすぐ傍の家の大人が二人の間に割って入ることでなんとか治まった。

 

その後、両者の両親が駆けつけるも喧嘩をした当の本人達に困惑する。

怪我の具合では景一が数ヶ所で流血しているにも関わらずに泣きもせず申し訳なさそうにしており、

一方の少年の方はどれもかすり傷で小さな青痣程度でしかないにも関わらず大泣きしている。

 

二人の治療後、景一は確りと反省した上で怪我をさせたことと少年の父親には謝罪をしたが、

少年とその母親には先に詩乃に謝るように言った。

 

「詩乃のおかあさんをばかにしたことをあやまらないならおれもあやまらない」

 

その言葉を聞き、詩乃と少年の口論を聞き、二人の喧嘩を止めに入った近所の大人が証言した。

少年が詩乃の母親の悪口を言ったこと、それを母親が言っていたということを少年が話していたことを。

これには少年の父親も呆れ果てた後、その場で妻と息子を叱りつけ、家族揃って詩乃に謝ることで景一も確りと謝った。

 

とはいえ国本夫婦も景一が拳を振るったことに怒っている反面、腑に落ちない面もあった。

警察官である二人にとって息子が理由もなしに拳を振るうことはないと判断し、三人で話しあうことにした。

 

「景一。父さん達が怒っている理由は解るか?」

「けんかで、あいてのこをなぐったから、です…」

「そうだ、でもお前は父さん達が来た時からもう反省しているようだった。

 それにこのご時世とはいえ、喧嘩なのだし殴り合いもするから正直このことではそこまで怒ってはいない」

「母さん達はね、どうして喧嘩した理由と怪我した理由を話さないのかを怒っているの」

 

子供の喧嘩に親が割って入りネチネチと文句を言うモンスターペアレント的な親は多い。

それに対し、国本夫婦は警察官だからこそ、怪我の加減を学ぶためにも小さな子供の喧嘩くらいでは何も言わない。

 

ただ、景一は言い訳をあまりしない。

悪いことをしてしまった時は怒られる時に理由を理解しようとし、以降は繰り返さないようにしている。

一方、今回のような時にはほとんど口を割らず、理由は大体が詩乃か見ていた人から聞くことになり、

その理由も全てが周囲から見ても正当なものである。

 

もしかしたら、自分達親が警察官だからこそ、言い訳をしないのではないかとも心配している。

職業柄、息子にどういった職業なのかを説明しているし、時には絵本やテレビなどで学ばせている。

故に、悪いことは悪いことなので言い訳をしてはいけないと思っているのではないかと夫婦は思う。

だがそれではいけない、理由があるのならばそれを言うべきだと二人が判断しているのは、

仕事でそういった者達を見てきたこともあるからだ。

 

「父さん達にも言えないのか?」

「いえなくない、けど…」

「けど?」

「詩乃に、いわないなら、いう…」

「解ったわ。詩乃ちゃんには言わない、約束するわ」

「父さんも約束する」

 

両親が自分と目を合わせて約束してくれたので景一は理由を話し始めた。

 

「詩乃のおかあさんをばかにしたからっていうのは、詩乃からきいたからそういっただけ。

 ほんとうは、詩乃がないてたから。それに詩乃があいつになぐられそうだったから。

 だから、おれがたすけなきゃって、おもって…。

 でも、あいつにも、けがさせちゃいけないっておもって、それにおれがけがしたらわるいことしたってわかるとおもって」

 

前半の理由には国本夫婦もやはりと思った、いつも詩乃を助けて守っている景一のことだから、今回も彼女のためだと予想していたのだ。

だが後半の理由を聞き始めて驚いた、景一は相手の少年を思って加減をし、矯正させるような行動を取っていたのだ。

 

景一が手加減をしていたのは個人で力に差があることを、詩乃を通して知っていたからだ。

詩乃を守ってきた景一にとって彼女の力は自分よりも弱く、怪我をし易いことは見てきたからこそ解る。

同時に詩乃よりも年上で自身よりもほんの少し体が大きかった喧嘩相手の少年の力も、

体が大きいだけで自分よりも力が弱いことを殴られた時に理解したのだ。

ならば、守る相手ではないが怪我をさせる相手でもないと思い、

逆に自分が怪我をすれば悪いことをしたと反省するはずだと思ったわけである。

暴力で相手に怪我をさせてしまうことを悪いことだと、両親から常日頃教えられてきたがゆえに。

 

景一が相手に大した怪我がないように、逆に自分がある程度怪我をするように行動したことに両親は愕然とした。

母は顔を蒼褪めさせ、父もまた頭を抱えた、自分達の職業病が息子に今回の行動をさせてしまったのだと理解したからである。

 

「分かった、分かったわ、景一。でもね、次からはこんなことしないで逃げてもいいから。

 誰かを守る為なら逃げることは恥ずかしくないことなのよ。

 それに貴方が怪我をしたら、お母さんもお父さんも、詩乃ちゃんも悲しいからね」

「ごめんな、怪我したのは父さん達のせいだな」

「ごめんね、景一」

 

話をする前の景一にはなぜ両親が謝ってきたのか解らなかったが、そのあとで誰かを守るために怪我をしてしまったら、

守られた人が悲しかったり辛い思いをするというのを聞かされたことで理解する。

例えで景一を守る為に両親が怪我をしたら自分のせいだと思うだろう、

とそう説明されたことで景一は自分の胸が痛くなり、理解したのだ。

 

偶には力を揮わないといけない時があるかもしれないが、それ以外でなんとかなるのなら詩乃と一緒に逃げてしまえばいい。

そう両親に言われて景一は以降そうするようになった、詩乃にも両親にも泣いてほしくないという思いから。

 

一方、変化は彼女、詩乃にも訪れていた。

これまで詩乃にとって景一は兄であると同時に父にも似た、自分がただ純粋に甘えられる存在であった。

しかし、今回の一件を経て彼女にとって幼いながらに景一への思いを慕情に変えるものとなった。

絵本で読んだ危機に瀕したお姫様を颯爽と助ける王子様さながらの彼の姿(実際には殴り合いの喧嘩だが)に詩乃の心はときめいた。

 

ともあれ、詩乃が景一に恋心を抱いた瞬間であった。

 

 

 

 

その後は特に問題が起きることもなく景一が保育園を卒園して小学校に入学し、一年後に詩乃も卒園して小学校に入学した。

この一年は詩乃にとってとても待ち遠しいものであり、それはいつも一緒だった景一と居られる時間が少なくなったこともあるからだ。

 

一方の景一も小学校に入学してからは新生活ということもあり楽しんでいたのだが、

詩乃の存在が傍にないことが彼の中に退屈と心配という感情を根強くさせていた。

帰宅して詩乃に会うとそれもなくなり、けれど学校に行くとまた二つの感情に苛まれた。

そのため彼は母に相談したのだが…、

 

「あらま、景一もそういうお年頃になってきたのね! 母さん嬉しいわ! あ、でもそれについては景一が自分で考えるのよ?

 母さん達に相談するのはいいけど、答えは自分で見つけなさい」

 

ということを言われた景一少年であった。

 

そして詩乃が入学した直後、彼女自身が先に打って出た。

 

「あのね、わたしね、おおきくなったらけいおにいちゃんのおよめさんになりたいの///」

「俺の、およめさんに?」

 

可愛らしく頬を紅く染める詩乃に景一は胸がドキリとしたのを感じた。

自分のお嫁さん、つまり自分の父における母に詩乃がなりたいと言っている。

それを聞いて景一は内心喜び、嬉しく思った。

 

「でもね、きょうだいだとけっこんできないって、けいおにいちゃんのおかあさんがいってたの」

「そうなんだ…」

 

実際には兄妹ではないが、兄妹も同然に育ってきた二人にとっては大事なことだった。

そのため景一は結婚出来ない、詩乃は俺のお嫁さんになれない、と残念に思った。

 

「だからね、きょうからおにいちゃんってよぶのをやめる」

 

そう言われ、景一は今度は寂しいと思った。

これまでずっと“おにいちゃん”と呼び慕われてきたこともあって、かなりのショックを受けている。

 

「きょうから“ケイ”ってよぶからね。これでよびかたもいっしょ、けっこんできるの!」

「あ……うん!」

 

しかし、ケイと呼ばれた瞬間、呼び方が一緒になった瞬間、結婚できると言われた瞬間に、景一の心は再び喜びで躍動した。

詩乃との兄妹という関係よりも、詩乃との両親のような関係の方が景一にとっても魅力的でなってみたい関係だったのだ。

 

「わたしがおとなになったら、わたしをケイのおよめさんにしてください///」

「うん。詩乃を俺のおよめさんにする///」

「わたしとけっこんするやくそく、して…///」

 

頬を紅く染めながらも不安そうに俯く詩乃を安心させるように景一は彼女の頭を撫で、それに気付いた詩乃は顔をあげた。

 

「大人になったらだぞ」

「うん///! やくそく、ケイとけっこん///!」

 

指きりをするためお互いの小指を強く絡め合い、二人は幼くも確かな愛をここに約束した。

なお、景一少年は無自覚である。無自覚である。大事なことだから二回言う。

 

 

 

だがその一年後のこと、景一の父が仕事で異動となり、埼玉県に引っ越すことになった。

部署は東京の警視庁への異動、まさしく出世ゆえの出来事である。

 

けれど子供達にとっては簡単に受け入れられるものではなく、

しかし景一も詩乃も環境のためもあってか不満に思い不貞腐れることはあっても、決して親を困らせるようなことは言わなかった。

勿論、国本夫婦も景一と詩乃が離れたくないと思っていることは解っており、

けれど自分達の仕事の都合ということで二人の我儘を可能な限り叶えるようにした。

詩乃の祖父母も小さな二人のために国本夫婦に協力していた。

 

そしていよいよ引っ越しの前日となった時、詩乃は部屋に篭っていた。

この頃、詩乃は母親の状態というのをよく理解するようになり、母を守ろうと強がるようになった。

 

「いやだよ、ケイ……離れたくないよぉ…」

 

自分を強く見せようとするからこそ、景一に自分の泣き顔を見られたくなかった詩乃は部屋に篭っていた。

枕に顔を埋め、止めどなく溢れてくる涙がそのまま枕に滲み込み、声を押し殺して泣き続ける。

 

―――コンコン

 

ふと聞こえた音に詩乃は反応し、けれどそれが自室のある二階のドアを叩く音ではないことにすぐ気付いた。

するともう一度音が鳴り、聞こえたベランダの窓の方に視線を向けてみると、そこには景一が居た。

この時期にしては珍しくまだ雪の降る夜のベランダに、寒さで顔を紅くしながらそこに立っていた。

景一は自室の窓から彼女の自室のベランダに跳び移ったのだ。

彼の存在に詩乃は驚いたが、急いでガラス戸を開けて景一を招き入れた。

 

「詩乃ともう会えないかもって思って、こっちにきちゃったんだ」

「ケイ…!」

 

びっくりして止まっていた涙が彼の笑顔で再び溢れ、詩乃は景一に抱きついて泣きだした。

 

「ケイと離れたくない。我儘なのは分かってるけど、離れたくないよぉ…」

「俺も、詩乃と離れたくない…!」

 

詩乃は小さいながらも今度こそ声を出して泣き続け、景一もそんな彼女を抱きしめながらも頬を涙が伝っていった。

一頻り詩乃が泣いたことで落ち着きを取り戻したところで景一は彼女に語りかける。

 

「詩乃。俺は絶対に詩乃を一人にはしない」

「ほんとに…?」

「うん。離れてても俺が詩乃のことを忘れるわけないだろ」

「絶対、だよ? 忘れたりしたら、私…」

「大丈夫だって。俺、絶対に忘れないから。それに詩乃と約束したもんな、詩乃と結婚して、お嫁さんにしてやるって」

「ケイ、覚えててくれたんだ…///」

「おう。大切な詩乃との約束だし、それに俺の夢だからな!」

「うん、うんっ! ケイ、私ケイのこと大好き///!」

「俺も詩乃が大好きだ///!」

 

幼い時分の幼い恋心かもしれない、だがこの時の二人には何よりも固い絆だったことは間違いない。

景一はこの時、自分が詩乃に向けているのは恋心だと自覚したのだから。

そのまま二人はベッドで寄り添い合って眠りに付き、翌朝に両親と祖父母に微笑ましく思われながら見つかるのだった。

 

 

 

 

それから詩乃はより一層確りするようになったが、長期休みの間に景一が遊びに来た時には彼によく甘え、

祖父母にも強がらずに甘えることが出来たのは僥倖だっただろう。

その甲斐もあり、母との間にも確執を生まずに彼女は母を支えていた。

九歳の時にやってきた訪問販売に困っていた母を助けるために訪問販売員を追い返したこともあるほどである。

 

 

 

だが、二度目の大きな不幸が景一と詩乃と彼女の母を襲った。

 

景一が小学六年生、詩乃が小学五年生の二学期最初の土曜日、夏休みが明けたばかりのことだった。

国本家は親族の用事により急用で東北に訪れ、国本夫婦が用事を済ませている間に景一は詩乃と一緒に居ることを決めた。

夏休み以来の再会、間隔は短いとはいえ嬉しい再会である。

 

詩乃の母が郵便局に行くことになり、詩乃は母を手伝うために、景一も二人の手助けをするためについていくことした。

しかし、三人は郵便局に居たことで運悪く押し入った強盗と遭遇してしまった。

 

 

その時の様子はこれまでの物語でも語られた通り。

 

重度の麻薬中毒者による郵便局襲撃は強盗である被疑者が男性局員を銃撃し、金を女性局員に要求。

それを拒んだ女性局員から精神障害もありパニック状態に陥っていた朝田夫人に銃口が向けられ、

母を守ろうとした詩乃が被疑者の銃を持つ手に噛みつき、銃を奪取。

それを被疑者に向けて止まる様に脅すも被疑者は麻薬中毒者ということもあり、

それを無視して詩乃に襲い掛かろうとして彼女は恐怖からトリガーを引いてしまう。

 

放たれた弾丸は間に割り込んだ景一の右肩を貫き失速、

その様を見た詩乃は自身が起こしてしまった事実の恐怖と反動で絶叫し銃を落とし、被疑者はそれを拾おうとするが、

既に神霆流の一端を垣間見せていた景一により手を踏みつけられたことで骨が粉砕されて痛みに悶える。

 

そこへ銃を拾った能面のように暗く冷たい、胸の内にはあまりにも大きな怒りを抱えた景一が頭に狙いを定める。

 

「(詩乃に手は出させない! 詩乃も小母さんも俺が守る! こんな奴は、ここで!)」

 

その頭部に全ての弾丸を撃ち込んで景一は被疑者を銃殺してしまった。

景一の手から銃が落ち、郵便局内に静寂が訪れる。

景一を右肩から流れる血と犯人の返り血が赤く彩り、詩乃の母は精神の許容量を超えて失神し、

残っていた局員達は呆然自失に、詩乃は振り向いた景一に対し呟いてしまった。

 

「来、ない…で…」

「……ぁ…」

 

彼女自身もあまりの出来事に許容量を超えていたために口から出てしまった言葉、それは確かに景一の心を抉ってしまった。

彼も肉体と精神のダメージにより失神、そのあとは警察の突入班が突入し、全員を保護して病院に搬送された。

 

駆けつけた国本夫婦と詩乃の祖父母は子供達の許へ向かった。

詩乃は母こそ守れたが景一を撃ってしまったこと、自身の余計な行動で景一に銃で人を殺させてしまったこと、

被疑者が銃で死ぬ様を目撃してしまったこと、銃を向けられたこと、それらのショックが合わさることでPTSD、

簡単に言うトラウマを発症してしまった。

 

一方の景一は傷こそ貫通していたために後遺症も障害も残ることは無いと診断されたが、

国本夫婦が到着しても目を覚まさなかったが、しばらくして目を覚ました。

 

「景一! 良かった、目が覚めたのね…!」

「お父さん達が解るか? 肩は痛くないか?」

「ここ、は……病院…?」

 

目覚めた景一は自分が寝ているのがベッドの上で、内装や特有の匂いから病院であると判断できた。

しかし、頭の回転が良いゆえに、それは即座に訪れた。

 

「う、ぁ…」

「景一?」

「あ、ああ、ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」

「「景一!?」」

 

慟哭にも似た絶叫を上げた景一はそのまま自傷行為を始める。

僅かに伸びた手の爪で全身を掻き毟ろうとし、直後にそれは目にまで届こうとした。

 

「やめろ、景一!」

「そのまま抑えていてください、鎮静剤を打ちます!」

 

景一の父は激しい自傷行為をする息子を抑えつけ、ナースがそれを手伝い、

医師が子供に適切な量の鎮静剤を落ち着いて注射器に入れる。

そんな中、大きく口を開いた景一は勢いよくそれを閉じようとした、そこに舌を残したまま。

父とナース、医師がゾッとする中、景一の母が閉じられそうだった口に自身の指を突っ込んだ。

 

「うっ…!」

「あっ…」

「大丈夫。大丈夫だからね、景一」

 

ガリッという音と共に軽く呻いた母の言葉にようやく景一は反応し、動きを止めた。

その間に医師は鎮静剤を打つ。動きは止まったが、ある意味で先程よりも凄まじい光景を一同は目にする。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

そう言いながら意識を失っていく景一に医師とナースは絶句し、両親は泣きながら愛息子を抱き締めるしかなかった。

 

その謝罪は奪ってしまった命に対してのものであり、大好きな少女の詩乃を怖がらせてしまったことへのものであり、

警察官である両親に対してのものであり、両親との怪我をしないようにという約束を破ってしまったことへのものであり、

自傷行為をしたことへのものであり、信頼する師と仲間を裏切ってしまったかのような殺人行為へのものであり、

自身の力を制御しきることができなかったことに対しての師への申し訳なさでもある。

 

 

 

事件の後、景一と国本夫婦は早急に埼玉へ帰ることになってしまった。

事件そのものの報告もあったが、なによりも夫婦は景一の精神状態が危険なものだと判断し、

彼の師である時井八雲氏に相談することを決めた。

その時、詩乃も精神科を受けるべく自分達と共に来ることを促し、祖父母もそうするように話したが詩乃自身がそれを拒否した。

 

「駄目です。私、事件の時、咄嗟にだけどケイに“来ないで”って、いっちゃったんです。

 ごめんなさい、私のせいなんです、ケイがああなっちゃったの。本当にすみません」

「詩乃ちゃん!? 顔を上げてくれ」

「詩乃ちゃん、お願いよ。お願いだから…!」

 

彼女は事件当時に自身が景一に対して発してしまった言葉を伝え、国本夫婦に土下座までして謝罪した。

夫婦はすぐさま詩乃の顔を上げさせたが、涙を流したままの彼女の中の意思に折れることになった。

結局、詩乃は事件後に景一を僅かに見ただけで別れることになった。

 

彼の心に闇を落としてしまった自身の罪を思いながら…。

 

 

 

 

事件そのものはマスコミも自主規制をし、警察側も注意深く緘口令を敷いたが、

それでも周囲に話が広がるのを止めることは出来なかった。

何処かで漏れたのか詩乃が事件現場に居合わせたこと、

彼女ではないが子供が犯人を銃殺してしまったことなどが広まり、結果的に詩乃が犯人を殺害したと噂が広まった。

 

それにより詩乃に対するいじめが始まり、教師ですら腫れ物のように扱い、一部とはいえ地域住民にも及んだ。

それでも詩乃は耐えた、いやそれを当然のように受け入れた。

 

「(これは私への罰。ケイに人を殺させておいたくせに拒絶した、弱い私への罰。

 ケイが何も言われないならそれでいい、これは私の罪だから)」

 

景一への想い故に詩乃はそれらを受け入れたのだ。

ただ、なにも全てが彼女を悪く思うことはなかった。

祖父母は勿論、昔から詩乃と景一を知っている近所の住民、保育園の時からの友達とその家族は詩乃の味方だった。

だが詩乃は敢えて友人達には自分に近づかないように言い含めた、自分のようにいじめられたり家族を悪く言われたくないのならと。

 

母と祖父母を守る為に、大好きな人にちゃんと向き合えるように、PTSDを乗り越えよう。

 

詩乃は心にそう決めて、壮絶な小中学生時代を送った。

 

 

 

一方の景一は両親と埼玉に戻ると事前に呼ばれていた八雲と面会した。

この頃には景一も会話が出来る状態になってはいたが、それでもかなり不安定である。

 

「景一、体の具合はどうですか?」

「……右の肩はまだ痛いけど、他は大丈夫です…」

 

その会話と様子を見ただけで八雲は景一の精神状態を概ね察した。

様々な出来事を昇華、あるいは消化しきれていない、ならばどうするかを八雲は考えて、すぐに話しだした。

 

「景一。犯人を殺してしまった後、苦しかったでしょう?」

「……っ、はい…」

「私も初めて人の命を奪った時は凄く苦しくて、いまでも苦しいと思いますし、その時のことを忘れたことは一度もありません」

「……師匠(せんせい)、も…?」

「ええ、職業柄そういったことはありますから……景一、人の命を奪ったことを忘れてはいけませんよ。

 それが苦しくても辛くても悲しくてもです。でも、その思いを誰かに吐いてしまうのも大事なことです。

 私は勿論、ご両親だって受け入れられます」

「……師匠…」

「まずはどうやってその思いを背負っていくかです。

 一生をかけて背負うものですからね、私も葵さんや私の師匠に同僚といった人達に助けられてこうしていられるのです」

 

同時に全てを処理しようとするから不安定になっていたのだろう、

景一はまず一つのことが決められたことで先程よりも落ち着きを見せた。

 

「次にですが、大好きな女の子は守れましたか?」

「……はい……でも、怖がらせちゃって…」

「それはそうでしょう。ですが怖かったのは貴方もでしょう?

 その子に心の傷が出来たかもしれませんが、それは景一……きっと貴方でしか癒せないものだと私は予感します。

 それにその子に怪我は一つもないのでしょう? ならば、いまは自身の目標を一つ守れたことを誇りなさい」

「……そっか、詩乃を、小母さんも、守れたんだ…」

 

詩乃と彼女の母を守れた、その事実が大好きな女の子とその子が大切なものも守りたいという自分の目標を守れたと認識させる。

 

「ご両親もきっと、貴方の心身が無事であることを願っています。

 警察官という立場の二人ではなく、自分の大切な家族である二人を信じなさい。

 怪我をしても、なによりも貴方の命の無事と心が治ることをご両親は願っているはずです」

「……っ、はい…!」

 

厳しい時は厳しいが、普段は優しい両親。自分の前ではいつだって親として在ろうとしてくれたのを景一は知っている。

だから怪我を確り治して、心もゆっくりでいいから治そうと彼は決める。

 

「あと、私達(神霆流)に対して申し訳ないと思う必要はありませんよ。

 本来古流武術とはそういうものだと教えましたし、先程言ったように私も命を奪ったこともあります。

 和人達はきっと、大切な子を守る為だったのなら仕方がないと言うでしょうね」

「……そうかも、しれないです…」

 

事実、このあとで会う神霆流の面々の反応は以下の通りだ。

 

〈好きな子を守れたのなら、いまはそれで良しとしろよ〉

〈苦しかったら俺達に言えよ、相談に乗るからさ〉

〈僕は家族を強盗に殺されましたから、景一さんは守れてよかったと思います〉

〈ボク達が一緒に居られたらもっと良かったっすけど…〉

〈とにかく、景一とその子とお母さんが無事で良かった。俺からはそれだけだ〉

〈オレ達ともっと強くなろう景一さん、それならこれからは良い結果になると思うから〉

 

和人、志郎、烈弥、刻、公輝、九葉、それぞれの言葉に景一は涙を流して礼を言うことになる。

 

これまでの八雲の言葉を受け、景一は改めて師に向き直った。

 

「……師匠、今回のことで(・・・)(・・・)(・・・)として戒めます。

 これからもより一層修行に励みますので、ご指導の方よろしくお願いします」

「はぁ、私に似てしまいましたか。まぁそれは貴方自身に任せますよ。心身共にビシビシと鍛えさせてもらいますね」

「……はい!」

 

この事件により景一も心に傷を負ったが師と仲間、両親の支えにより形を取り戻すことはできた。

同時に彼は自分のやるべきことがより明確になったともいえる。

 

詩乃も家族も仲間も、皆を守りつつ守り合おう、戒めと共に必ず彼女と向き合おう。

 

景一はそう心に決めて、壮絶な修行時代を迎える。

 

 

 

そして二人は時を超えて向き合った。

自身の罪、自身の戒め、それぞれを携えて、銃と硝煙の世界にて二人はぶつかり合い、確かに心を通わせた。

 

No Side Out

 

 

 

 

景一Side

 

「……壮絶だったんだな、詩乃」

「壮絶だったのは貴方の方でしょ、景一」

 

お互いに補足しつつ進めた昔話だが、終盤はさすがの内容だった。

 

「……まさか詩乃が校内どころか一部地域ぐるみのいじめにあっていたとは…」

「私だって、まさか景一が自傷行為どころか自殺行為寸前までいってたなんて…」

 

それを知らなかったことに、同時に教えなかったことにも今更だが後悔している。

 

「「昔の私ドン引きするほど最低…」」

 

声を揃えてしまうのは仕方がない、詩乃が最低なはずはないがな。

 

「いま私のこと最低じゃないって思ったでしょ? ケイだって最低じゃないわ」

「……なんだかんだ、私も詩乃も自分で精一杯だったということか」

「そうね。でも、だからこそいまがあるんじゃない?」

「……そうだな」

 

詩乃の言う通り、この道を選んだからこそ、今この時があるのだろう。

それにしても、随分と話しこんでしまった。

 

「……そろそろ和人の場所に戻ろう、かなりの時間を話してしまったからな」

「ええ、行きましょう」

 

飲み干していた飲料のペットボトルをゴミ箱に捨て、私と詩乃は休憩室を後にしてSTLのある部屋に向かう。

 

「そういえば……約束は守ってね、ケイお兄ちゃん…」

「……っ///」

 

いきなり腕に組みついてきた詩乃が私の耳元でそう囁き、彼女の顔を見てみれば悪戯が成功したような表情だ。

くっ、あの時以来だから随分と久しぶりで、本当に不意打ちだ。

だが、やられてばかりではいられないな…。

詩乃の腕を引き、そのままいわゆる壁ドンというやつをして、彼女の耳元で囁き返す。

 

「あぁ、約束は守る。だが帰ったら覚えておけよ、詩乃。俺はやられっぱなしは趣味じゃないからな」

「んっ……は、はい…//////」

 

かつての俺を真似て囁き、返事を聞く前にキスをしてちゃんと返事をしたら彼女の腰に腕を回して和人の場所に向かう。

道中顔が真っ赤だったが、志郎達の姿が見えたら咄嗟にそれを引っ込めたあたりはさすがだな。

 

志郎と里香を相手に話をしていたら明日奈がSTLの部屋から出てきて、

ご機嫌な詩乃と里香が逃げていくのを明日奈が追いかけユイちゃんが促している。

三人を追いかける前に志郎と共に一度和人のいる部屋を見る。

 

―――いまは少しでも休め。だが、あまり明日奈とユイちゃんを寂しくさせないようにな。

 

景一Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

一日遅れてしまいまして申し訳ない、しかも完成したはいいものの三人称のせいか志郎の時の倍ほどになりましたw

まぁ景一についてはこっちの方が都合がよかったものですから。

景一と詩乃の過去はGGO編にてそれぞれの一人称で描写していましたから三人称の方で書いたのです。

 

さて、今回の話しで解った方もいらっしゃると思いますが実を言うと烈弥よりも景一の方が根は正義感が強いです。

両親の職業柄それに憧れ、一方で二人の職業病が景一に根強い正義感を植え付けてしまい、

それゆえに自身がしてしまった犯人殺害という行為に対し過剰なまでの拒絶反応を示して自傷行為などをしてしまったのです。

この当時、景一だけではなく和人達もですが彼らにとって神霆流とは守る為の力でした。

それが人を殺すのに作用してしまったのも景一の慟哭なまでの謝罪にも繋がります。

とはいえ、こういった苦難やSAOを経て、和人達は神霆流を自身を高めるための要素の一つと認識するようになるのですが…。

 

一方、書いていて楽しかったのはショタ景一とロリ詩乃の逢瀬じゃw

シリアスだけだとつまらないんだもん……あ、石は投げないでくださいw

まぁこの繋がりがあったからこそ、景一は立ち直れて、詩乃は原作よりも強い意思があったのです。

とはいえ二人ともこの時点では救われていません、自分を許せて救われたのはあくまでGGO編の最後です。

 

そして最後はいつも通りに甘めw

景一はいまでこそ素は“私”の方ですがGGO編の時のように“俺”も偽ることができます。

ウチの詩乃はそれをされるとギャップで悶絶する使用ですw

 

よし、それではまた次回、今度は烈弥になりますが今度は志郎の時と同じくらいの長さか短くなる予定。

また一人称に戻して珪子と過去話をする感じです。

明日奈がアンダー・ワールドに行ってユージオ達と話している様子は神霆流メンバーの後にします。

 

それではサラダバー!

 

 

 

 


 
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