No.907277

真・恋姫†無双~黒の御使いと鬼子の少女~ 26

風猫さん

白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。

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2017-05-25 23:51:25 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1029   閲覧ユーザー数:973

~夢~

 

「お母さん? お父さん?」

 

 赤い風景の中で、僕は、人を探す。

 

「こまねぇちゃん? ハヤシのじっちゃん?」

 

 親しい人の名前を呼びかけても、誰も答えてくれない。

 

「ねぇ、みんな、どこ?」

 

 でも、本当は分かっていた。誰も答えてくれるはずがない。三谷のばぁちゃんも、ケイタも、かよこも、誰も答えてくれない。

 

 だって、足元にいるんだもの。

 

「……ぁ、ぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 ベッドから跳ね起きた。

 

「はっはっはっはっはっはっ………」

 

 しばらくその状態で、荒い呼吸をしていたが、次第に落ち着いて、呼吸の感覚を元に戻していく。

 

「すぅー、はぁー、すぅー、はぁー……」

 

 何度か深呼吸をして、気持ちを落ち着かせると、俺は部屋を見渡す。

 

 日はとうに登り切っており、雪華は、部屋にいない。おそらく、先に起きてどこかに遊びに行っているか、誰かの手伝いでもしているのだろう。部屋の外にも人の気配はしない。誰かに聞かれたわけでもなさそうだ。

 

(ちっ)

 

 最悪だ。ここ数年は見なかったので、久しぶりの悪夢は堪えた。

 

「……酒、控えるか」

 

 二日酔いにはなってないのが幸いか。俺はベッドから抜け出すと、全身が汗まみれになっていることに気が付いた。

 

「……はぁ、水浴びしてから着替えるか」

 

 どうせ、こんな汗まみれだったら洗濯に出さねばならないから、服のまま浴びてしまおう。そう考えた俺は着替えと手ぬぐいを小さな籠に入れ、それを抱えて、井戸のある方へと足を向ける。

 

 と、その途中で慌ただしく走る孔明が視界に映り込む。どうやら、方向的に俺の部屋へ行こうとしているようだが……

 

「はわわ!? 玄輝さん!?」

 

 こちらに気が付いた孔明は方向転換して、こっちへと駆け寄ってくる。

 

「ど、どうした? なんかあったのか?」

 

 問いかけたものの、彼女はそれを無視して、逆に俺に問いかけてくる。

 

「体調は!? 何処か優れないところはありませんか!?」

「いや、ない、ないが?」

「本当ですか!?」

 

 ものすごい剣幕で俺に詰め寄ってくる孔明に思わずたじろいでしまう。

 

「あ、ああ。いたって健康、だと思う」

「はぁ~、よかったぁ……」

「え、え~と、何かあったのか?」

 

 で、もう一度問いかけると、彼女は安心した顔で、どうしてあんな剣幕だったのかを説明してくれた。

 

「雪華ちゃんが泣きながら私の所に来たんですよ。玄輝さんがすっごく苦しそうだって。それで」

「……そう、か」

 

 これは、どうしようもない、か。

 

「すまんな、少しだけ悪い夢を見たんだ。たぶんそれのせいだ」

「夢見が悪かったのですか?」

「ああ。昨日酒を飲み過ぎたせいだろうから、特に心配はいらんよ。それより」

「はい?」

「この事を知っているのは、お前だけか?」

 

 確かめておかなければ、対策のしようもないからな。

 

「え、えっと、雛里ちゃんが一緒にいましたし、今、雪華ちゃんを宥めてもらっていますから、私たち二人くらいだと思いますけど……」

(不幸中の幸い、か)

 

 そのぐらいなら何とかなる。

 

「じゃあ、悪いんだが他の面々には言わないでおいてくれるか? 酒のせいでうなされるような悪夢をみる、なんて知れたら、アイツら気を使うだろ?」

「は、はぁ……」

 

 とりあえず、これで孔明はどうにかなるはずだ。問題は鳳統だ。

 

「とりあえず、水浴びしたらすぐに雪華を迎えに行くから、先に待っていてくれ」

「分かりました……」

 

 何かが突っかかっているような表情で元来た道を孔明が戻っていくのを見届けてから、俺は再び井戸へと足を向ける。

 

「…………」

 

 水を汲んだ桶に映る顔を見ると、生気の宿っていない目をしていた。

 

「……ふっ」

 

 そうだ。俺はこの目でなければいけないのだ。忘れるな。そう言い聞かせてから、桶の水を一気に頭からかぶった。秋の終わりの水は非常に冷たく、頭にこびり付いた思考を一気に流し去ってくれた。

 

「…………」

 

 無言のままもう一度浴びる。そして、服を脱いでから手ぬぐいで体を拭い、用意していた着替えを身に着ける。

 

「……よし」

 

 濡れた服を絞り、籠の中へ手ぬぐいと共に放り込んでから、俺は孔明たちの部屋へと向かう。

 

(さて、どうする?)

 

 雪華は、まぁ、どうにかなる。問題は孔明と鳳統だ。

 

(知識があるから、思考は大人と変わらないと考えてもいいが……)

 

 なら、大人として対応したほうがいいか? いやしかし……

 

(……いや、大人として考えよう。アイツらは割り切って考えられる人間だ)

 

 指針を決めたところで、彼女たちの部屋の扉が見えてきた。

 

「すぅー、ふぅ」

 

 一度だけ深呼吸してから、その戸を叩いた。

 

「俺だ、玄輝だ。入っていいか?」

『あ、はい!』

 

 扉が開いた先には、ベッドに座る雪華と、それを宥めている鳳統、そして、開けてくれた孔明がいた。

 

「雪華」

「ゲンキっ!」

 

 俺の姿を確認するなり、雪華は俺の胸に飛び込んできた。

 

「とっ」

「ぐすっ、ひっく」

「……心配かけたな」

 

 俺は優しくその背中を何回か撫でる。しばらくして、ようやく落ち着いたのか、俺から離れてこちらの顔を見上げてきた。

 

「……大丈夫?」

「ああ、ちぃとばかり悪い夢を見ちまってな」

 

 しゃがんで雪華に視線を合わせ、その頭を撫でると、ようやく安心した様な表情を見せてくれた。

 

「二人も、悪かったな。特に鳳統、雪華を宥めてくれてありがとな」

「い、いえ!」

 

 顔を真っ赤にして慌てて両手を振る鳳統。

 

「そ、それより、本当に大丈夫、ですか……?」

「まぁ、飲み過ぎたせいで少しばかり気分は悪いが、大丈夫だ。明日にでもなれば治るだろうさ」

「そ、そうですか……」

 

 その言葉に安堵する鳳統だが、孔明の方はまだ心配の眼差しで見てくる。

 

「大丈夫だっての。治らなかったら明日医者にでも診てもらうよ」

「……その、無理はしないでくださいね?」

 

 まぁ、渋々、と言った感じではあったが、孔明の方も納得はしてくれたようだ。

 

「本当に迷惑かけたな。今度何か奢らせてくれ」

 

 俺はそう言ってから彼女たちの部屋を出た。さて、これでとりあえず何とかなった、か。

 

(……にしても、やはり浸かりすぎているな)

 

 どうにも、ここは居心地がよすぎる。ここにいたら、俺はいつか……。

 

(だが、ここに雪華がいる以上は……)

 

 そう考えながら視線を雪華に向けると、彼女は心配そうな目でこちらを見上げていた。

 

「ど、どうした?」

「……本当に、大丈夫?」

 

 ……どうやら、いまだに納得してくれていなかったらしい。

 

「大丈夫だ。それにさっきも言ったが、明日まで響くようなら医者に行く。だから心配するな」

「…………」

 

 はぁ、むしろこっちの方が問題だったか。

 

「たっく、俺が嘘ついたことあったか?」

「……ない」

「だろ? だったら、」

「でも!」

 

 強引に俺の言葉を遮って、雪華は小さく、絞り出すような声で続ける。

 

「いつもと、違ったから」

「いつ、も?」

 

 どういう、ことだ?

 

「ゲンキ、私が起きると、いつも苦しそうな顔してて、でも、私が起こすと、すぐに元気な顔になってくれたけど……」

 

 ……あのボディプレス、そんな意味があったのか。出来れば止めてほしいが。

 

「今日は、全然違った。私、お布団から落ちて目が覚めたの。そしたら、ゲンキが唸りながら、転がって苦しんでて、いつもと違って……」

 

 そこから先は、泣き声で潰れてしまう。そんな彼女の頭を、俺は優しく撫でる。

 

「……そうか、そこまで心配してくれたんだな」

「ぐすっ、ひっく……」

 

 ……こいつにだけは、少しだけ話しておくべきかもしれない。

 

(……そう、だな)

 

 それに、このままだと他の誰かに相談しに行ってしまうかもしれない。ならば、少しだけ話しておいて、口止めすれば漏れることはない、はずだ。

 

「……とりあえず、部屋に戻ろう、な?」

「……うん」

 

 再び泣き出してしまった雪華を宥めながら、俺は誰にも見つかることなく部屋に戻った。

 

「さて」

 

 雪華をベッドに座らせて、その頭を優しく撫でながら、俺は意を決して口を開いた。

 

「雪華、その、なんだ。昔の夢を見ちまってな、それで、な」

「昔の……?」

「……ああ。俺の家族を殺された夢だ」

「!?」

 

 驚きで泣き止んでしまった雪華。だが、これ以上は、話さない。

 

「まぁ、そいつを久々に見たんでな、ちょいとうなされちまったんだ。だから」

 

 そこで、撫でていた手を止めて、俺は彼女の小さな肩に両手を乗せた。

 

「もし、また同じようにうなされることがあったら、その時はいつものように起こしてくれ。それでも起きなかった時だけ、他の誰かを呼びに行ってくれ」

 

 驚いた表情のままだが、頷いたのを確認してから、俺はもう一つ付け足す。

 

「あと、俺の見た夢の事は誰にも言うなよ?」

「……え?」

「いいな?」

 

 少しだけ威圧するように言うと、彼女は渋々といった感じで頷いた。

 

「ん、ありがとうな。礼に欲しいもん買ってやる」

 

 その言葉に一瞬だけパッと表情が明るくなるが、すぐにシュンとしてしまう。

 

「どうした? なんでもいいんだぞ?」

「…………」

 

 だが、雪華は俯いたまま答えを返さない。どうしたものかと思い悩んでいると、小さな声でぼそりと答えた。

 

「……今日一日、遊んでほしい」

「雪華……」

 

 ……しゃあない。

 

「……関羽と北郷に掛け合ってみるよ」

 

 顔を一気にあげた雪華の頭に再び手を置いて、今度は力強く撫でつける。

 

「たっく、人がせっかく買ってやるって言ったのに。後で後悔すんなよ?」

「……うん!」

 

 そこでようやく、彼女は眩しい笑顔を見せてくれた。さて、約束をした以上は何が何でも、休みを勝ち取るとしよう。

 

 その後、俺は約束を果たすことは出来たが、その次の日、一時の平和は戦乱へと再び巻き込まれていった。

 

 

えー、次から董卓編でございます。

 

でも、まだ未完成部分が多く、次の更新は不明です。

 

はい、申し訳ないです……


 
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