No.903593

SAO~帰還者の回想録~ 第4想 それは運命の出会い

本郷 刃さん

幼き時分の少年と少女の出会い
それは時を超えて記憶に蘇ることになる

2017-05-01 17:37:30 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:4292   閲覧ユーザー数:3858

 

 

 

 

 

 

 

 

SAO~帰還者の回想録~ 第4想 それは運命の出会い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和人Side

 

「俺は和人、桐ヶ谷和人」

「あ、明日奈。結城明日奈…///」

 

幼い俺の問いかけに答えた迷子の娘が、あの時に助けた女の子が明日奈だったのか…。

 

「俺の師匠(せんせい)が一緒だから大丈夫だよ。インフォメーションセンターに行こう」

「う、うん…///」

 

迷子だと思われたくなくてもそうなってしまっていることが恥ずかしいのか、

戸惑いや同年代の見知らぬ男子と一緒のことに照れを感じているのかやや頬を赤らめている。

亜麻色の髪とヘイゼルの瞳、それにこの姿は以前明日奈に見せてもらったアルバムにあった写真と同じ姿。

まさかそれらの情報から形作られたのかと思ったが服装は違うから、実際にあった出来事の可能性があるな。

 

〈それにしてもミニ明日奈か、可愛いな。確り覚えておかないといけないな、うん〉

 

写真でしか見たことのない、愛する女性の幼い時の姿が微笑ましい。

そんな幼い俺達に歩み寄る一人の男、俺は嫌な感じがして、幼少の俺も何かを感じたのか即座に振り返る。

 

「キミ達どうしたのかな?もしかして迷子かい?」

 

(はた)から見れば迷子の子供に親切な大人が助けようと声を掛けた、と見えるだろう。

だが、幼い俺は怪訝というか警戒しており、俺自身もその男の視線からこれは駄目な方だと判断する。

 

「知り合い、じゃないよな?」

「し、知らない人…」

「あぁ怖がらないで良いよ。さっき(はぐ)れた女の子と男の子を探している親御さんがいたからね、キミ達じゃないかと思ったんだ」

 

その言葉に明日奈は驚きながら、もしかしたら自分の両親なのではないかと思ったのか不安げだった表情が和らいだ。

だが、この男の言葉は違う、嘘でしかない。第三者である俺だからこそ分かること。

 

「あのさ、お兄さん。その親御さんって、女の子と男の子(・・・)を探してたんだよね?」

「そうだよ。きっとキミ達のご両親だよ」

「え?」

 

その言葉に幼いとはいえ小学生の明日奈も気付く、自分達は違うということに。

彼女は間違いなく不安が増しているはず、瞳は潤み目尻に涙が浮かび始めている。

きっと、この男がそういう者(・・・・・)だと理解してしまったのだろう。

 

「さぁ、親御さんのところに行こう」

 

―――バシッ!

 

幼い二人、特に明日奈に向かって伸ばされた手が、小さな俺によって(はた)かれる。

 

「痛っ…い、一体どうしたんだい?」

「悪いけどさ、俺迷子じゃないんだよ。それに俺達、“きょうだい”じゃないし。いま会ったばかりなんだ」

 

強めに叩かれた手を擦りながら苛立ちの声と表情を隠さずに問いかける男に警戒心を露わにした幼い俺が強い口調で吐き捨てる。

小さな明日奈を後ろに隠し、その彼女も恐怖心を露わにしている。

そうか、この男の幼い二人、特にいま明日奈に向けている視線は須郷の奴と似たものだ。

だから彼女は恐怖の中に嫌悪を持ったわけだ。

 

「それと俺の保護者だけど、そこに居るんだ。凄く強い人だから気を付けてよ」

「へ…?」

 

止めの言葉に間抜けな声を漏らした男の傍に一瞬で師匠が現れた。

俺は移動していることに気付いたが、幼少の俺はというとそう言った瞬間に後ろの明日奈の手を引いて男から距離を開けた。

師匠の手が男の肩に触れ、男は硬直する。

 

「動かないでいただきたい。理由は解りますね?言い訳は無用ですよ。話しは駅員と警察の方とお願いします」

「ひっ…は、はぃ…」

 

あ、これは怖いな。真剣な話しの時や戦闘時とかとは違って、マジに怒っているやつだ。

まぁ手出しは未遂に終わったから肉体言語(おはなし)はしないだろう。

覚えてないって便利だな、この時の師匠を忘れていられたのに。

だがこの時の明日奈になにかあったらと思うと忘れていたのは失敗か?

 

そんなこんなで男は師匠の威圧と覇気に硬直し、師匠が呼んだ駅員さんと警察官により連行されていった。

俺は新幹線の時間が近く、明日奈は迷子ということで家族との合流が優先で聴取は無く、代わりに師匠が後日行うらしい。

現実世界に帰ったら聞くことが増えた。

 

「怖かったよな? もう大丈夫だよ。えっとハンカチっと。はい、涙拭いて」

「ふっ、ひくっ……あり、がとう…ふっ…」

 

緊張の糸が切れたのか涙を堪え切れなくなった明日奈にポケットに入れていたハンカチを取り出して渡している。

 

「すみません、もう少し早く間に入るべきでした。

 これだけの人ですからあまり強引な手段に出ないだろうと思い和人の意思も考えたつもりでしたが、裏目に出てしまったみたいで…」

「いえ、俺がちゃんと師匠と来ればよかったんです。ごめんな」

「ううん。キミがいなかったら、もっと怖いことになってたと思うの。先生さんも気にしないでください」

 

自己判断でタイミングを誤ったと考える師匠とそもそも師匠と一緒に行けば良かったとこちらも判断を誤ったと考える幼い俺。

しかし明日奈の言うように師匠どころか俺が一緒じゃなければどうなっていたかと考えると怖いところだ…。

 

「一悶着あり少し時間を食ってしまいましたから急いでインフォメーションセンターに行きましょう」

 

師匠に促されて幼い俺と明日奈は歩き出す。

さっきまでの出来事のせいなのか彼女は隣を歩く幼少の俺の手を握り、恐怖や不安を隠そうとしている。

それを察してか手を握られたことに応じて一緒に歩いていく。

 

〈なんか、羨ましい……いや俺も経験しているのか、だが覚えていないのが憎らしい〉

 

思わず声に出てしまうほどだな、うん。

師匠に続いてインフォメーションセンターに向かって歩く幼い俺と明日奈はこうしてみると父親の後ろを歩く姉弟に見えるな。

目的の場所に着くと早速カウンターに行き師匠が事情を話した。

 

『お知らせいたします。

 東京都よりお越しの結城彰三様、結城京子様。娘様の結城明日奈さんがインフォメーションセンターにいらっしゃいます。

 繰り返します、東京都よりお越しの…』

 

カウンターの女性職員の放送が行われ、これで一安心というところだな。

すると、数分も経たない内に足早にこちらに向かってくる三人の男女。

間違いない、十年前ということもあって若く見える彰三さんと京子さん、それに学生時代の浩一郎さんの三人だ。

 

「明日奈!」「お母さん!」

 

駆けて行く明日奈を京子さんが抱き締める姿にホッとする。

なにはともあれ、一件落着というところだな。

浩一郎さんは明日奈の頭を撫で、彰三さんは師匠と話しだす。

 

「娘のこと、ありがとうございました」

「いえ、私よりもこの子に。彼が見つけて助けに入ったのですから。

 ただ、先程捕まった不審者に二人とも危ない目に遭いかけましたので、どうか心のケアを」

「そうだったんですか!? 本当に、なんと礼を言えば…あぁ何かお礼をしなくては」

彰三さんにお礼をと言われるもその時、東京駅行き新幹線が到着したアナウンスが流れる。

あ、そういう流れか。

 

「師匠! 早く行かないと!」

「ですね! 申し訳ありませんが急がなければならないので、これにて失礼いたします」

「え、せめてお名前だけでも!?」

「名乗るほどの者ではありませんよ」

「師匠、ネタが古いです」〈師匠、ネタが古い〉

「ははは、貴方も中々言いますね」

 

幼い俺だけでなく俺自身も思わずツッコミを入れてしまうほどの流れだ。

幼少の明日奈の傍を通る為に駆ける時、声を掛けられる。

 

「あ、あの、ハンカチ!」

「いいよ、持っててもいいし捨ててもいいから!」

「え、ちょ、あ、あと、ありがとう///!」

「どういたしまして~!」

 

後ろから声を掛けられつつ、師匠と共に新幹線のホームに向かって駆けていく。

ははは、随分と(せわ)しない出会いと別れだったな。

 

なんとか到着した新幹線への乗り込みには間に合い、無事に東京駅へと向かうことが出来た。

東京駅に到着すれば父さんと母さん、それにスグの三人が待っていて、師匠に改めてお礼を言ってから幼い俺は家に帰り着くことになった。

これがお盆に入る数日前のことか。

 

 

 

まぁこんな忙しいなら忘れてしまっても仕方がないか、このあとは俺も明日奈もそれぞれに重なるわけだし。

 

俺は主に『神霆流』の修行、そこに家族との関係が判明したことで修行だけでなく知識を得る為の勉強にも趣味にも没頭して、

救いがあったとすれば友人達に恵まれたことだろう。

 

一方の明日奈は必死に両親の期待に応え続けようとし、勉強等の学業や習い事に集中してしまい、

彼女の救いといえば兄の浩一郎さんと今は亡き母方の祖父母が居たことだろう。

 

それらの積み重ねに加え、止めに『SAO事件』とくれば昔の仄かな出会いなど忘れてしまって当然といえる。

それに俺自身、この当時はまだ記憶術の類は会得していないから覚えていない、または忘れてしまっていることも多かったんだな。

 

でも、これが運命なのだとしたら個人的には嬉しい運命の出会いだと思う。

また一つ、現実世界に戻る理由が増えた。

 

和人Side Out

 

 

 

 

明日奈Side

 

和人くんの手術は無事成功。傷よりも出血多量で一時期は危なかったけど、峠は越えて個室の病室に運ばれた。

 

「ご家族の方はこちらに来ていただけますか? それとそちらの方も」

 

そこでお医者様に翠さんが呼ばれて直葉ちゃんもそれに続き、菊岡さんも一連の当事者ということで呼ばれた。

その時、翠さんが振り返ってわたしとお母さんを呼んだ。

 

「明日奈さんと京子さんも来てくれますか? 大事な話しかもしれませんので、お二人にも」

「分かりました」

「私達で良ければ」

 

態々家族を呼ぶということは大事なことかもしれない。

翠さんがわたし達のことを家族として見ていてくれていることが分かる。

お医者様に呼ばれて案内された部屋で話を聞くことになった。

 

「ご子息の桐ヶ谷和人さんですが、怪我の方はいまのところは大丈夫です。

 余程の事態が起きない限りは問題ないはずですので、今後の経過を確りと見ていきます」

 

その言葉に改めてホッとする翠さん達、でもわたしと菊岡さんは良くないことがあると確信した。

お医者様がさっき翠さん達を呼んだ時の表情がそれを語っていたし、

和人くんと心を通わせてから彼ほどじゃないけど勘は良くなってしまっている。

こういう嫌な時ほど、当たってしまうものだもの。

 

「ですが、問題があります」

「それは、どういう…」

「ご存じかと思いますが心停止というのは文字通り心臓の動きが止まる状態のことをいいます。

 同時に心臓の停止というのは血液の循環も止まり、他の臓器や体内器官の活動も停止することです。

 そのため、他の臓器や器官への影響もありますが、

 幸い息子さんは臓器や器官を含め肉体も健康で心停止の間も体温を平均に維持させることが出来たので、

 いまのところは問題ないでしょう。そこも要経過観察ということになりますが」

「では、なにが…?」

 

心停止についての説明は専門的なものじゃなくて学生のわたしと直葉ちゃんにも分かり易いもの。

多分だけどこの説明は前段階で下準備、本題に入るためのもののはず。

 

「問題なのは心停止の血流停止による脳への影響です。

 数秒でも脳への影響がどれほど出るのか分からないというところに数分という時間の長さです。

 脳への影響は計り知れません。障害が残るのか残らないのか、障害が残ったとしてどれくらいのものなのか。

 そもそも目が覚めるのか、目が覚めたとしても何時のことになるのか。私どもでも、こればかりは分かりません」

「そんな…」

「お兄ちゃん…」

 

脳という未だ全容が明らかになっていない領域でのこともあり、専門医じゃない限り判断はできない。

仮に障害が残らないと分かったとしても、何時目覚めるのかは和人くん次第としか言えないはず。

 

「診断では脳そのものへの外傷はありません。

 CT、MRI、レントゲン等でも検査しましたが内部の異常も現段階ではありませんでした。

 彼が目覚めるのを待つことしか…」

 

明日、専門医を交えて改めて検査するみたいだけど、おそらく結果に差はないらしい。

 

「明日奈、大丈夫? 無理しないでいいのよ?」

「お母さん。うん、まだ大丈夫」

 

確かにショックは大きい、でも翠さんと直葉ちゃんの方がショックは大きいはず。

でも、わたしは二度泣いてお母さんに甘えられた。

ならあとはユイちゃんの母親としてしっかりして、和人くんの恋人として誇れるようにしないといけない。

 

「先生。彼の、和人くんの脳の損傷自体は少なくとも現段階ではないんですよね?

 目覚める可能性自体も高いんですよね…いえ、むしろ目覚めない可能性の方が低いんじゃないですか?」

「ええ、その通りです。確かに脳は未だに謎の多い部分ですが、それでも医学とて進歩がないわけではありません。

 まず、目覚めないということはほぼないでしょうし、年単位・1年以内・月単位ということも低いです。

 長くとも半月、早ければ本当に明日にでも目覚めるかもしれません。

 勿論、先程言ったようにどうなるか分からないのが脳という領域ですが…」

「わたしにはそれで十分です。彼は“絶対はない”と教えてくれましたけど、“絶対はないということもない”とも言いました。

 ならわたしは和人くんを信じるだけです」

 

これは偽りのないわたしの本音。

もしかしたら途中で泣いてしまうかもしれないし、辛いと思うかもしれないけど、その時は周りの人を頼ろう。

わたしらしく、彼が目を覚ますのを前に進みながら待とう。

 

「なら、その間の明日奈を支えるのは母である私が代わるわ。もしかしたら、今の和人君には休息も必要なのかもしれないもの」

「うん、それはあるかも。和人くんってば、ここのところずっと忙しかったみたいだし」

「あぁ、それに関しては僕に心当たりがあるよ。理由は言えないけどどうしてもやりたいことがあったみたいでね」

 

お母さんの言葉にわたしと和人くんがしちゃったちょっとのすれ違いの経緯を思い出した。

菊岡さんが知っているということは確かにわたしにも言えないことだと思う。

話して良い範囲のことは許可が出て周囲に話さない約束で聞くけど、全てを聞ける仕事の内容じゃないのは理解してるから。

 

「そうよね。みんなが信じてくれるのなら、私が信じないとね。和人の母親なんだもの」

「お兄ちゃん、いままでだって大丈夫だった。今度も大丈夫だって、刻くん達も信じてる」

 

翠さんも直葉ちゃんも持ち直せたみたい。きっかけはわたしでも、きっと二人なら持ち直せたと思う。

 

「じゃあ僕はキリト君が目覚めるための足がかりを用意しよう。

 検査の結果次第だけど、きっと彼の為になるはずだ。キリト君には数えきれないほどの恩もあるからね」

 

菊岡さんにとって和人くんは仕事仲間であると同時に様々な件での恩人でもある。

だから彼の力になりたいって、そう思わせるようになったのも和人くんの人徳の賜物かな。

 

「患者さんのご家族や関係者の方が信じていらっしゃるのであれば、我々も最善と全力を尽くします。

 一先ず今日は皆さんもお疲れでしょうし、明日ということに」

 

お医者様の言葉に従い、わたし達は和人くんの病室に向かう。

 

 

 

 

病室に着くとみんな揃っていて、お医者様から言われたことをみんなにも伝える。

途中、ちょっと里香と珪子ちゃんが感情的になりそうだったけど、そこは志郎君と烈弥君が抑えてくれた。

そしてわたしの思いも話すことでみんなも分かってくれた。

 

「もぅ、明日奈がそこまで言うなら、あたし何も言えないじゃない」

「ごめんね、里香。でもありがとう」

心配してくれた友達が抱き締めながら明かしてくれた気持ちはありがたい。

 

「あの、明日奈さん。あたし、何か出来るわけじゃないけど、それでも、あの、和人さんのこと信じてます」

「その気持ちだけで十分だよ。ありがとう、珪子ちゃん」

深夜の病室ということもあって静かに、でも確かにその思いを伝えてくれる珪子ちゃんはやっぱり良い子だ。

 

「ま、この無茶ばかりする旦那が目を覚ましたらたくさん甘えたらいいわよ。ついでに溜めに溜めた文句を吐き出してやりなさい」

「あはは、そうだね。詩乃のんの言う通りにしようかな」

彼女の言う通りにすれば、少しは無茶がマシになるかなぁと思う。

 

「私が言えることは無さそうですが、一時の間は朝霧の方で周囲を固めておきますね」

「お願いします。そうするのが多分一番だと思いますから」

きっと雫さんならそうするだろうと思っていて、だからこそお願いする。

本当に何もないのかを確認しない限り、みんなも安心できないだろうから。

 

その時、今度は奏さんからギュッと抱き締められた。

 

「不謹慎かもしれないけど、明日奈ちゃんと和人君があたしと従兄(にい)さんみたいにならなくて良かったって思ったわ。

 明日奈ちゃんは前を向いて、和人君もどうなるかはまだ分からないけど、それでも希望が持てる。だから、良かった…!」

「奏さん…」

奏さんは大好きだった従兄の人を亡くして、わたしと和人くんに自分達の時を思い出したのだと思う。

震えて泣いている彼女を遼太郎さんに任せる、こういうのは男の人の役目ね。

 

「こういう時、男ってのは駄目だな。気が利いたことなんて言えそうにない」

「……そうだな。だが明日奈もご家族も信じている以上、私達もそうするだけだ」

「犯人は、PoHはもう動くことは無理みたいですからね。僕達の役目も実質終わりですね」

「だね。あとはまぁ、自分達の人生を生きるだけっす」

「目覚めるまでの間、俺達が和人の周りの人達を守ってやるだけだな」

『神霆流』の彼らは逸早く自分自身を持ち直して、和人くんのこともこれからのことも考えているみたい。

きっと、わたしよりも彼らの方が早く和人くんのことを信じていたと思う。

 

「俺は和人のやつが目を覚ましたら、これまでのも含めて労ってやるか」

「なら俺は食いたいだけ店の品でも食わせてやろう」

遼太郎さんとエギルさんも和人くんが目覚めた時のことを考えることに決めたみたい。

いままで和人くんが戦ってきた因縁の一区切りの労いとお礼ってところかな。

 

『ママ。わたしが出来ることは限られていますが、パパの心拍や体温を逐一報告できるようにしておきます』

「ユイちゃんもありがとう。でも無理だけはしないでね」

 

愛娘のユイちゃんにはいつもわたしと和人くんのことで負担を掛けてしまう。

今度も区切りが付いたら一杯甘やかしてあげよう。

 

本当はみんなも個人で思う所や考えることもあるだろうけど、きっとわたしや翠さん達のことを優先しようとしているから。

だからいまはそれに甘えるのがいいと思う。

 

「皆さん、私達はそろそろお暇しましょう。もう深夜ですし、少しでも休んだ方がいいと思います。

 行きと同じようにうちの車で送りますので」

「明日、改めて見舞いに行こうぜ」

 

雫さんと公輝さんの提案にみんなも頷く、程度の差はあってもそれぞれに疲労の色が浮かんでいるものね。

 

「直葉。刻君と一緒でいいから、貴女も先に帰って少し休みなさい。お父さんには私から連絡しておくから、分かったわね?」

「うん……刻くん、一緒に居てもらっていい?」

「了解っす。両親に話すからウチに来るといいっすよ」

 

翠さんは少し病院に残るみたいだけど、直葉ちゃんは刻君に任せるみたい。

 

「お母さん、わたしも休んでからお見舞いに行くね。和人くんに心配かけたくないし」

「そうね。彼が起きた時に体調を崩していたら、自分のことは差し置いて心配してくるわ」

「はは、それは違いないですね」

 

帰って休むことを言うとお母さんと菊岡さんが茶化して、でも彼のことだから本当にそうしそう。

みんなもそれを簡単に想像できたのか、笑みが浮かんでいる。

 

「皆さん。検査結果次第になりますが、僕の方で上に掛け合ってある試みをしようと思っています。

 これは前にキリト君も関わっていたことなので彼も知っていることですが、最終的にはご両親の許可を経て行おうと思っています。

 説明とかを聞きたい人は今日の午前十時には病院に、翠さんもよろしいですか?」

「はい。分かりました」

 

菊岡さんの提案がどんなものかは分からないけど、聴いてみる価値はあるとわたしは思う。

話すことも終わって順番に病室から出ていく中、

 

「おやすみなさい、和人くん。いまはゆっくり休んでね」

 

そう言葉を投げかけて、彼の額に口付けてからわたしも病室を後にした。

 

病院から家に帰ればお父さんが起きて待っていてくれて、和人くんとわたしのことを心配してくれた。

お父さんに彼の容態を話して、今日の十時にはまたお見舞いに行くことも伝えておいた。

 

寝る時にはまた不安になって、お母さんがベッドに一緒に寝るように勧めてくれて、それに甘えた。

久しぶりのお母さんの温もりは不安があってもわたしを眠りに誘った。

 

 

 

 

数時間の睡眠を経て、午前十時になる前に身嗜みを整えて病院に辿り着いた。

昨日の夜に集まった人達はみんな来て、それについ昨夜のことだというのに時井家の皆さんもやってきてくれた。

 

「八雲さん、葵さん。態々、遠い所からありがとうございます」

「弟子の一大事ですからね。駆けつけないわけにはいきません」

「和人君の容態はどうですか~?」

 

翠さんのお礼に真剣な様子で対応する八雲さんと葵さん。

特に葵さんは元看護士であり、いまも技術は衰えていないということだから居るだけでも心強いと思う。

 

「九葉君と燐ちゃんもありがとうね」

「いえ、早く来れて良かったです」

「いま会えるの?」

 

わたし達が帰るまでの和人君の容態を公輝さんが伝えていたらしいけど、

今朝の状況はまだということでみんな一緒に彼の部屋へと向かった。

翠さんから和人くんの再度の検査が終わっていることを聞いたのでお医者様と菊岡さんの話を聞くことになった。

 

「まず桐ヶ谷和人さんの容態ですが、怪我は十分に完治できるものです。

 輸血による拒絶反応も見られませんし、脳を含めた頭部の外傷や内部の傷も細かく調べましたが問題はありませんでした。

 ただ、やはり心停止の血流停止による脳への影響からか意識レベルがよくありません」

「それで先生方の診断も踏まえての提案が僕の方から。

 キリト君の脳、あるいは意識へ刺激を与える手段に『ソウル・トランスレーター(STL)』を使ってみませんか?」

「STLをですか? 『メディキュボイド』じゃなくて?」

 

先生の説明から菊岡さんが出した提案はSTLの使用というものだった。

医療として用いるのなら、STLじゃなくてメディキュボイドだと思ったんだけど。

それにメディキュボイドは広く知られているわけじゃないけど世間的には公表されているものなのに対し、

STLは世間的には詳しく公表されているものじゃないから、特に翠さんやお母さんはさっぱり分からなさそうな反応をしている。

 

「メディキュボイドは数こそ以前より増えて配備されるようになったとはいえそれでも数が少ないし、

 なにより稼働中のものは既に各患者さんが使用中だ。

 そこでキリト君の怪我の具合などを考慮した結果、STLが最適だと判断した」

「どうしてか聞いてもいいですか?」

「うん。キリト君の体そのものは最適な医療設備と医官さえ揃っていれば治療はできる。

 そのうえで問題なのは意識が覚醒していないこと、STLならメディキュボイド以上に意識へ干渉することができる。

 復旧が完了した『オーシャン・タートル』にはそれら全てが揃っているということさ」

 

確かに。あそこには最新の医療設備が揃っているし、自衛隊の医官の人達も配備されているのを和人くんや安岐さんから聞いたことがある。

それにSTLの破格の性能はわたし自身が体験して知っている。

 

「問題というほどのことじゃないけど、

 前ほどじゃないとはいえいまもオーシャン・タートルはある程度離れた沖合に停泊しているから移動はヘリか船という手間になるね」

 

問題じゃないけど、確かにそれは手間かもしれない。まぁ、わたしにとってはそんなことは苦労とも思わないけど。

 

「あとは、うん、意識への干渉方法がね…」

「それは問題になることですか?」

「問題、というか……アスナ君なら知ってると思うけど、

 フラクトライト・アクセラレーションによる時間の加速は意識に干渉している場合、魂の寿命を消費するよね」

「和人くんがUWで既に消費している分を考えたらこれ以上は行えない、ですか?」

「その通り」

 

これに関してはこの中でわたしが一番詳しいから主導で話しちゃってる。

とりあえず、翠さん達にはある程度を決めてから選択してもらう方がいいかもしれない。

 

「UWにキリト君を落とし(ダイブさせ)てっていうのが手っ取り早かったけど、

 そういう事情からやらない方がいいと思ったんだ。そこで一応他の方法も考えたんだ」

「他の方法ですか?」

「うん。おそらくだけどキリト君は目覚めてこそいないけど、深い部分の意識はSTLで覚醒させられるはず。

 まずは深い部分で覚醒させて、そこから徐々に慣れさせていく。

 覚醒させるための干渉なんだけど、キリト君の記憶でいこうと思うんだ」

「「「「「「「「「「和人(さん・君)の記憶?」」」」」」」」」」

 

和人くんの記憶という言葉にわたしも皆も揃えて疑問を浮かべる。

 

「キリト君自身が持つ記憶は脳を刺激させて、さらに彼に関わる記録や情報、

 端末のデータとかをSTLを通してVR化して、彼の意識に見せるんだ」

「……な、なんだ、そのSFチックなのは…」

 

思わず呆然とする中で逸早く公輝さんが反応を見せたけど、本当にそんなことが出来るのかな?

 

「実験を経て確立させてある技術だから安全性に関しては安心してください。あ、ちなみにキリト君も監修には携わっていますから」

『あ、やっぱりですか…』

 

ユイちゃんが思うのも仕方ないかな、わたしももしかしてと思ったし。

 

「翠さん、詳しい説明は勿論行いますが旦那さんと相談して決めてください」

「分かりました、主人と相談してみます。明日奈ちゃん、参考までに聴きたいのだけど、貴女ならどうする?」

「わたし自身の観点で良いのなら、すぐにでもやってもらうところです」

「そう……うん、ありがとう。参考にするわね」

 

翠さんはそう言ってから病室を出て、電話のできる場所に行ったみたい。

 

でも、それから数分もしない内に翠さんは戻ってきた。

 

「菊岡さん、どうか息子のことをお願いします」

「あ~、随分と早いご決断ですが…」

「息子のことを一番信じている人の意見を参考にしたら、主人も構わないと」

「分かりました、至急手配します。皆さんにはキリト君に関する記録媒体や情報の提供をお願いします。

 写真や動画のデータ、話しを聞かせてもらったらそれを文章にしますし、とにかく彼に関わることを一つでも多く」

 

記録や情報をVR化するには情報量と精確さが必要らしい。

そう言われ、わたし達は一度解散することにして各自で和人くんに関する写真や映像等のデータを集めたり、

彼に関することを思い出して文章化することにした。

 

一先ず午後四時には和人くんを搬送することが決まって、それまでに可能な限り纏めることになった。

 

 

 

 

家に帰ってきたわたしとお母さん。

 

わたしは自室でユイちゃんに手伝ってもらいながらパソコンや端末に収めていたデータを持ち運び用のHDにコピーしていく。

あとは写真に現像した物をアルバムに収めているからそれも持ち出す。

他には何かなかったかな?

そうだ、クローゼットには和人くんからのプレゼントを纏めている小物入れや収納スペースがあるからその中も見ておこう。

 

色々と探し出しては見つけていく中、

ハンカチを纏めているスペースで和人くんからの贈り物のハンカチの奥にわたしが使わない色のハンカチを見つけた。

お兄ちゃんかお父さんの物が紛れていたのかもしれないと取り出してみる。

 

「二人のじゃ、ない? 結構、子供っぽい感じのだけど……あれ、名前が書いて……え?」

『ママ、どうかしましたか?』

 

いや、待って、そんな、何時? ユイちゃんなら何か知ってるかも!

 

「ユイちゃん、これ見て! 名前のところ!」

『は、はい……って、この名前は!?あれ、でも全部平仮名ってどうして…』

「ユイちゃんでも分からない? じゃあ、いつ彼からもらって…。あれ、平仮名ってまさか……昔、わたしと和人くんは会ってる…?」

『ママ、おばあちゃんなら!』

「っそうね、聞いてみる」

 

礼儀がなってないけど走ってお母さんの場所に向かう。

 

「お母さん、ちょっといい!?」

「明日奈、どうしたの? 用意はまだ終わってないでしょう?」

「あの、これに見覚えない?」

「あら、このハンカチは確か十年前のお盆に京都へ行った時の物じゃないかしら?」

「京都?」

 

京都、十年前だから小学三年生の頃ね。あの時はそう、なにかあったような気が…。

 

「明日奈は覚えていないかしら。いえ、忘れたままの方が良いのかもしれないけど、いまだからいいかもしれなわね。

 貴女、京都駅で迷子になったのよ。

 そこで不審者に連れて行かれそうになったところを男の子が助けてくれて、放送の呼び出しで私達と合流出来たの」

「京都駅、迷子………あ、思い出した…。そう、そうよ、あの時の男の子、やっぱり…!」

 

多分、その不審者の男のこと、それにそれ以降の思い出したくないこととかも相まって、忘れていたんだ。

そうだ、あの時にわたしを助けてくれたのは…!

 

「明日奈、今度はどうしたの? また不安になっちゃった?」

「ううん、違うの。嬉しくて、堪らないの…。お母さん、これ見て、名前のところ」

「名前?……え、嘘、まさか…」

 

お母さんも驚いてる。こんなの驚くしかないよね。でもわたしはそれ以上に嬉しい!

 

「凄いよね。十年も前から、わたしと彼は繋がってたんだよ。偶然でも、運命だったって信じられるくらいに!」

『凄いです、本当に…!』

「彼がずっと、貴女を守ってくれていたのね…!」

「うん…!」

 

わたしが見つけた男の子が使うようなハンカチに刺繍されていた名前は平仮名でこう書かれていた。

 

―――きりがやかずと

 

色褪せながらも思い出せた昔の風景。アルバムで見た幼い彼と同じ姿。

 

あの時、わたしを助けてくれたのは、今も変わらずに大好きな桐ヶ谷和人くんだったんだ!

 

明日奈Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

なんとか執筆が完了し、投稿できました。

 

前半の幼少時和人と明日奈の部分ですがこれで笑いごとにならないんですよね。

最近は子供のそういう痛ましいニュースが目立つので辛いところです。

皆さんもご家族や親族、知人のお子さんなどで心配することも増えてますよね。

そういう思いも込めて、周りの大人注意喚起をと思っております。

 

中盤から後半にかけての全員の心情に関しては各々のパートになった時に書きます。

明日奈自身も感付いているようにみんながほぼ空元気という感じです。

それでも明日奈や和人の家族のためにっていう心持を書いてみました。

 

STLの性能・機能に関しては完全に捏造設定ですのでスルーしてください。

ただUW時の記憶を封じたり、ほぼ消しているようなことが出来るのなら記憶を思い出させたり、

記録や情報を映像化して見せることもできるんじゃないかなぁと作者は思いました。

 

結論、結局はショタ和人とロリ明日奈を絡ませたかった、以上(オイッ

 

次回は再び兼もう一度和人視点、内容としては黒衣衆メンバーとの出会いをあくまで和人視点で書いていきます。

 

それではまた次回を・・・。

 

 

 

 


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