No.89832

真・魏ルートIF ~6

θさん

季衣登場までの話となります。

話の展開は遅いかもですが、よければおつきあいください。

2009-08-15 03:03:40 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:10856   閲覧ユーザー数:7313

「大丈夫か北郷?」

「ああ、何とかな・・・・・・夜には尻の痛みに悩まされるだろうけど、絶対に行軍には支障をきたさないさ」

 

 春蘭の言葉に応えながら苦笑する。

 馬に乗るのは初めての経験だったが泣き言は言っていられない。

 

「それにしても、俺は場違いじゃないのか?」

 

 城を出発してどれくらい時間が経っただろうか・・・・・・。紛れもなくこれから向かうのは戦場だ。

 指揮を執るのは覇王、それに付き従う高い武を持った側近二人に確かな知謀を持つ天才軍師、それに鍛えられた屈強な兵士達。そんな中に一人交じる一刀はこの場にいるのが不相応だと感じていた。

 てっきり自分は留守番だと思いこんでいたが、華琳は付いてくるように指示した。情けないが全く何の役にも立たないと自分でも分かっているのだが・・・・・・。

 

「華琳様にもお考えがあるのだろうよ。それなら北郷がここにいることには何か意味があるはずだ」

「でもなぁ~」

 

 やっぱり釈然としない。

 一応帯刀はしているものの、いざ戦場に立ち己の身を守れるか? と問われると否と答えるだろう。

 訓練とは違うし、春蘭と違い敵はハンデも認めてくれない。実戦経験・・・・・・本当に命の取り合いをしたことのない一刀は春蘭、秋蘭は元よりその他大勢の兵士にも敵わないと自覚している。

 兵達は己が主を守るため、それこそ死兵となってでも最後まで戦い抜くだろう。

 そもそも、敵が思いの外大きくなり手が付けられなくなってきたから華琳がこうして出張ったのだ。決して圧倒的有利な立ち位置に居るわけではない。むしろ、遠征の疲労がある曹操軍のほうが分が悪いと言えるかも知れない。この大勢の兵達誰一人欠ける事無く陳留に帰還することは不可能だろう。死者が出ない戦場などという奇跡はありえないのだから。

 だから、兵達は死ぬ覚悟も当然にできている。

 しかし、一刀には守るべき者も場所も無い上に死の覚悟さえ出来ていない。

 実際に敵を目の当たりにしたら怖じ気づくかも知れない、泣き言を言うかもしれない、不様にも泣きわめくかも知れない。戦場を知らない一刀は、どういう行動を取ってしまうのか自分でも分からない。

 そんな自分がいれば兵の士気に大きく影響するだろう。そう、一刀がここにいてもデメリットこそあれメリットはない。

 

「まぁ深く考えるな。もしものときがあれば私が守ってやるから安心するがいいさ」

「はぁ・・・・・・女に守ってもらうとは情けないな」

 

 深くため息を吐き、隣を歩く馬に跨っている軍師殿に声をかけた。

 

「桂花も、俺がここにいるのはおかしいと思うだろ?」

 

 荀彧・・・・・・桂花は真名を呼ばれて思いっきりしかめっつらになった。

 

「ふん! 私もあんたみたいなのがいることは疑問で疑問でしょうがないわよ。でも、春蘭の言う通り華琳様にもお考えがあるのでしょう。実際、あんたがいたほうが兵の士気はあがるものね」

 

 一刀は桂花の言葉に首をかしげた。

 

「・・・・・・どうしてだよ?」

「あんた、自分の評価も知らないの? ・・・・・・まぁいいわ」

 

 一刀は城内で自分の人気がどれほどあるか知らないし、自分の影響力がどれほどあるのかも理解していない。

 天の御使い・・・・・・主が真名を許し、夏候惇を下した、その名の通り自分たちからしてみれば天のように高い位置にいるお方・・・・・・。しかし、その立場を誇示せず、振りかざさずに気さくに接し、あまつさえ頭さえ下げてみせる。そんなお方が主と共に後ろに控えている、守らねばならない・・・・・・! 

 兵達の心は一つだ。一刀も彼らが守るべき対象である。後ろに控える一刀に被害が及ばぬように彼らは必死に戦うだろう。

 普段も決して低いわけではないが、この戦において彼らの士気は並々ならないものがある。その士気を上昇させたのが自分だと一刀は気づかない。

 

「まぁ納得いかないけど俺の事はこの際どうでもいいや。問題は糧食なんだけどさ・・・・・・」

「何よ? 文句あるの? あんたの脳みそじゃ理解できないかも知れないけど、これはここしばらくの訓練や討伐の報告書と今回の兵数を把握した上での計算よ。間違いなく遂行できるしこれでも余裕を持たせてあるのだから安心なさいな」

 

 桂花の用意した糧食の数、それは華琳が指示したものの半数ほどしか無かったという。

 試験とされた一刀にはそもそも華琳は何も指示しなかったのだが・・・・・・それでも一刀は桂花の用意した量に不安を覚える。

 一刀の知る三國志の知識では荀彧は名軍師だ。それこそ一刀とは月とスッポンほどの差がある。知謀は比べものにならないだろう。

 目の前の少女・・・・・・その荀彧の名を持つこの桂花も、それと同じ最高の頭脳の持ち主なのだろう。それは疑わない。

 でも、一刀には思うことがあったのだ。この一週間必死になって考えた糧食の量、それと桂花の用意した糧食・・・・・・。一刀の帳簿と桂花の帳簿、二つの数字を見、これで何か思わない方がおかしいというものだ。

 一刀は他者の力を借りた。それに対し桂花は一人で思慮し考え抜いた結果の数字だろう。

 しかし二人が出したその結論故に一刀は桂花に対して意見したかった。

 別に難癖付ける訳じゃない、純粋な疑問だから意見を聞きたかっただけだ。

 

「あのさ、この糧食の・・・・・・」

「一刀、黙ってなさい。少なくとも陳留に帰るまではね」

 

 一刀の言葉を遮ったのは華琳だ。

 糧食の件に関しては口を挟むな・・・・・・春蘭、秋蘭、一刀に対して出された命だった。

 

「華琳、でもな・・・・・・」

「あら? 心配せずともいいわ。私は勝利を手にするの・・・・・・そうでしょう桂花?」

「はい! 必ずやこの私めが勝利に導きます!」

 

 その言葉を信頼されていると受け取ったのか、桂花の顔が輝く。

 

「それよりも今は糧食より討伐のことを考えなさい」

 

 もっともな意見だ。糧食はこれ以上増やせない。ならば考えるべきはこの量でいかに迅速に事を片付けられるかだ。

 

「華琳様、先ほど偵察の者が帰ってまいりました」

 

 前方から秋蘭がやってきて状況の報告をする。

 

「報告を」

「はっ! 行軍の前方に数十人ほどの集団が・・・・・・旗はなく、格好がまちまちなところから野盗や盗賊かと思われるとのことです」

「・・・・・・様子を見るべきかしらね」

 

 真剣な顔で考え込む華琳。

 もう先ほどまでの談笑の空気はどこかへ飛んでいき軽い緊張が場に走る。

 

「もう一度偵察部隊を出しましょう。部隊の指揮は春蘭と北郷が執って」

 

 軍師である桂花が指示を出した。華琳が何も言わないことから賛成なのだろう。

 

「おう!」

「は? 俺!?」

 

 素直に返事をする春蘭に対し驚きの声を上げる一刀。まさかここで自分の名が上がるとは思わなかった。

 

「・・・・・・華琳様に偵察をさせる気なの?」

「いや・・・・・・俺なんかでいいのか?」

「人手が足りないのだから仕方がないでしょう。せめて春蘭の押さえ役くらいは引き受けなさいよ」

 

 それでも一刀は返事をしかねる。

 そもそもここにいること事態が場違いだと思っているのだ。それが偵察とはいえ部隊を率いる? 冷静に考えても無理だし無茶だ。

 

「一刀・・・・・・私からもお願いするわ。どうか春蘭と一緒に行ってくれないかしら」

 

 その華琳の態度に一刀と桂花、そして周りの兵達が度肝を抜かされた。

 華琳なら命令一つで一刀を行かせることができる。

 一刀に拒否権はなく、嫌でもそれに従うほか無い。それが、どうしてこうも下手にでているのか。それが理解できないのだ。

 

「かかか、華琳様!? どうしてこのような男にそのような態度を取られるのですか!?」

「そうだぞ華琳、魏王が俺みたいな不審者にそんな態度とるなんて・・・・・・それこそ行けと命令されれば俺は拒否できないのに!」

 

 華琳のその態度は・・・・・・まるで自分と同等、もしくは上の存在に接するそれに他ならない。だからこそ混乱しているのだ。

 

「・・・・・・一刀、あなたは自分の身分を勘違いしているようね。あなたは魏の客将になることが確約されているわ。客将と言ってもそこにあるのは一種の共闘や同盟関係。私の部下では断じて無いわ。それに現時点ではあなたの望みを叶えることはできない。だから一応客賓として扱っているのだけど・・・・・・。とにかく、私にあなたに対する命令権なんて無いのよ。だからこうしてお願いすることしかできないの」

 

 一刀と桂花は絶句し、周りの兵は息をのんだ。

 驚愕の表情の二人は一度目が合うと、驚くことの無かった夏候姉妹を見、同時に視線で訴えた。

 桂花は、どういうことか説明しなさいよ、と。

 一刀は、何これ俺知らない助けて、と。

 

「・・・・・・私は北郷が驚いているのが分からないのだがな、姉者」

「そうだな。そもそも北郷は我らの軍属ではないし、ましてはこの大陸の民でもない天の御使いだ。言ってみれば天帝の庇護下にある天の民。無理矢理にも従わせる事はできるだろうが、華琳様はそういう方法は好かないからな」

 

 一刀は自分はそんな大層な者じゃないというが、誰も聞く耳を持たない。

 

「で、私のお願いは聞いてもらえるのかしら?」

「も、もちろん! 力不足だが必死にやってくるさ! いくぞ春蘭!」

「おい、待て北郷!」

 

 居心地の悪さを感じた一刀が馬を走らせ、春蘭もそれに続く。

 

 桂花はまだ納得がいかないという表情を見せ、兵士達は更に一刀の評価を上げていった。

 

 

「見えたぞ」

「あれか・・・・・・でも行軍しているってわけじゃないような・・・・・・」

 

 酒盛り? こんな荒野で? それは無いだろう・・・・・・。なら何をしているというのか。

 

 夏候惇隊・・・・・・春蘭の部隊を偵察部隊として割り振り。本隊から離れて先行した。

 そして例の集団を見つけたのだが・・・・・・どうにも様子がおかしい。

 

「・・・・・・何かと戦っているようだな」

「あ、本当だ。今人が宙に舞った・・・・・・。って人!? 嘘だろ!?」

 

 人が宙の舞う? どんな冗談だ。笑えないしあり得ない。

 しかし現に人が宙に舞うほど吹き飛ばされ・・・・・・また一人地面とばいばいした。

 

「なんだあれは!」

 

 さすがの春蘭も驚く。

 

「誰かが戦っているようです! その・・・・・・数は一人、しかもまだ子供の様子!」

 

「なんだって!?」

 

 兵士の言葉に更に驚きの声を重ねる。

 

「くっ・・・・・・間に合えよ・・・・・・!」

「あっ! 春蘭!!」

 

 兵士の言葉を聞くと刹那に馬に鞭打ち駆け出した。

 加勢に行くつもりなのだろうが、一刀は追いつけない。

 

「くそっ・・・・・・追いかけるぞ!」

「はっ!」

 

 一刀の言葉に従い兵達も春蘭の後を追っていく。

 春蘭との距離は既にだいぶ開いていたが、追いつけないほどではない。

 なれない馬上で必死になりながら集団に向かう。

 距離が縮むほどにその集団の様子が分かるようになってくる。眼は良い方なのだ。

 確かに兵の報告通り戦っているのは一人の子供、それも少女だった。桜色の髪をしたその小さな少女は幼い体躯に不釣り合いな巨大な鉄球を振り回し野盗を薙ぎ払っている。

 

「破壊の鉄球ってか? そりゃあんなもん食らえば吹き飛ぶな」

 

 あの小さな体のどこにそんな力があるのか疑問だが、少女はこの大人数相手に互角以上に戦えていた。武力は一刀とは比べものにならないくらいの達人だ。

 しかし、疲労は蓄積されていくもの。

 このまま戦闘が長引けばやっかいだ。相手はまだ多い、一瞬でも隙を見せればそこで終わりと思っていいだろう。

 しかし、それも杞憂に終わるのだが。

 

「はあああっ!」

 

 怒声と共に愛剣を抜き放ち野盗を吹き飛ばす。

 

「大丈夫か! 勇敢な少女よ!」

「え・・・・・・あ、はい!」

 

 春蘭が到着した。

 夏候元譲がこの少女に加勢したのなら、この程度の敵、この程度の数、何も問題はない。

 

「貴様ら! 子供一人によってたかって・・・・・・恥を知れ! 卑怯者共め!!」

 

 怒り心頭の春蘭は、斬るわ殴るわ蹴るわの大暴れ。

 怖じ気づいた野盗はあわてて撤退していく。

 

「逃がすか! 全員この七星餓狼の錆にしてくれる!!」

「待て! 落ち着け!」

 

 追撃しようとする春蘭を必死に押しとどめる。

 やっと追いついた一刀だが、どうやらギリギリのタイミングだったようだ。

 

「何故止める!」

「馬鹿! 俺たちの任務は偵察だ、この子を助けるのはいい、だけど全滅させることが目的じゃない。今追跡に何人か兵を出したから今は泳がせるんだ、上手くいけば本拠地が掴めるから」

「む、むむむむ・・・・・・」

 

 一刀が説明するともう春蘭も黙るしかない。何故ならこの一刀の行動は最善だと春蘭も判断したからだ。

 

「あ、あの・・・・・・助けてくれてありがとうございました!」

「怪我が無くて何よりだ。それにしても何故こんな所でしかも一人で戦っていたのだ?」

「それは・・・・・・」

「ん? 華琳も到着したみたいだぞ」

 

 少女が説明しようと口を開いたところに本体が到着した。

 その本隊を見て少女の顔つきが変わる。

 

「一刀、状況の報告をお願いするわ」

「了解。例の集団は春蘭が蹴散らしたんで尻尾を巻いて逃げていったよ。いま兵に後を追跡させてるからすぐに敵の本陣が割り出せると思う」

「あら、北郷のくせになかなか手際がいいじゃない」

「お褒めにいただき光栄の至り・・・・・・ってね」

 

 桂花の言葉にすこしおどけて答える一刀。二人は不敵に笑い合う。

 

「・・・・・・お姉さん、国の軍隊?」

 

 少女の纏う空気がどこか暗く冷たいものへと変貌する。

 

「・・・・・・っ!」

 

 一刀はとっさに体が動いていた。

 少女は先ほどまで野盗に振るわれていた鉄球をこちらに向かって振るったのだ。

 春蘭は華琳をかばうように前に立ち、一刀は更に春蘭をかばうように前に立った。

 とっさに抜きはなった剣で防いだが、衝撃のすべてを殺しきれない。

 

「うわっ!」

 

 一刀は短く声を上げ吹き飛んだ。

 その様子を桂花は呆然と見つめ、華琳は厳しい視線で少女を見、夏候姉妹は戦闘態勢をとった。

 

「貴様・・・・・・なんのつもりだ」

 

 春蘭の声は低く凍てついている。

 どんな事情があるのかは知らないが、目の前の小娘は主に手を挙げたのだ。見過ごせる訳がない。

 

「国の軍隊なんか信用できるもんか! 税金ばっかり持って行くくせにボク達のことはちっとも守ってくれない!」

 

 少女の悲痛な叫びと共に再度振るわれる鉄球。

 

「くぅ・・・・・・!」

 

 受けた春蘭の顔色が変わった。

 

「だから君は一人で戦っていたのか・・・・・・」

 

 兵に助け起こされた一刀が言う。まだ手のしびれはとれていない。それほどまでに強力な一撃だった。

 

「そうだよ! だから村で一番強いボクが戦ってみんなを守るんだ! 盗人からも、役人からも!」

 

 怒りに任せて振るわれる強力な一撃。

 春蘭は何とか耐えて見せているが内心はきついはずだ。何せ、その威力は大の大人を宙に舞わせるほど強力なものなのだから。実際に一刀は初手で防ぎきれずに不様に吹き飛ばされている。その状態で既に詰みだ。少女の次の攻撃で叩きつぶされ死んでいる。

 そこを耐えてみせるのはさすがに曹操軍の最高戦力といったところか・・・・・・余裕の表情は皆無だが。

 故に、異常なのは武名名高い夏候惇を追い詰めているこの少女だ。

 

「こ、こやつ・・・・・・中々」

「でえええええい!!」

 

 防戦一方の春蘭。しかしこのままじゃまずい。

 さすがに命の危機となれば春蘭も反撃せざるを得ない。しかし、そうすれば少女はただじゃすまないだろう。手を抜かず、本気で戦えばどうなるか見当が付かない。大怪我ですめばいいが、命を奪うことになるかもしれない。それほどまでに、夏候元譲が本気になるほどこの少女は強い。

 

「・・・・・・どうにかしないと」

 

 考える一刀。まず二人を止めようと武力介入すると挽肉になる。これは却下だ。

 ではどうやってこの場を収める? 少女の不満はもっとものことだし、現にこの地の軍が機能していないから華琳が兵を引き連れて出張って来たのだから。

 

「・・・・・・うん?」

 

 あぁそういうことかと納得する一刀。

 納得すれば行動するのは早かった。

 

「武器を収めろ二人とも!!」

 

 兵の肩を借りながらも大声を張り上げる一刀。

 二人は手を休め一刀を見る。他の三人も同様に一刀を見ている。

 

「そこのお姉さん・・・・・・曹孟徳はね、山向こうの陳留の刺史をやってるんだ。お嬢ちゃん、この意味わかるかい?」

 

 一刀の言葉を聞き顔を青くした少女は鉄球を放り投げ頭を下げた。

 放られた鉄球がずしん・・・・・・という音と共に地面を陥没させた気がするが多分気のせいだろう。

 

「山向こうの話は聞いています。刺史様は立派な方で・・・・・・税金は少なくなったし治安もすごくすごく、よくなたったって・・・・・・。そんな人にボクは・・・・・・」

 

 華琳の統治する場所でこういう事態は起こらないだろう。

 少女が言ったことは本当で、実際にこの少女達を苦しめていたのは華琳が無能と蔑んだこの地の統治者だ。

 

「・・・・・・いえ、構わないわ。あなたが言う通り今の国が腐敗しているのは刺史であるこの私が一番知っている。官と聞いて憤るのも仕方がないわ」

 

 目をつむり、数秒間を置き、後華琳は言葉を続ける。

 

「でもね、私が王になればこんな腐敗は絶対に許さないわ」

「え?」

「華琳様・・・・・・!」

 

 驚く少女に歓喜の表情を見せる桂花。

 

「私はいずれこの大陸の王になる・・・・・・だけど今の私にはあまりにも力が少ない。だから、村の皆を守るために振るったあなたの勇気と力を私に貸して欲しい」

「曹操様が・・・・・・王に?」

「この大陸に皆が幸せに、安心して暮らせるようにするために私は王になるの」

 

 その覇王が紡ぐ言葉はここにいる全員を魅了した。

 あぁ、それでこそ我らの主だと、それでこそ曹孟徳だと。

 

「あなた、名前は?」

「許緖です・・・・・・」

 

(許緖・・・・・・許緖だって!?)

 

 一刀は表情に出さずに内心で大きく動揺した。

 

(許緖がこんな小さな女の子・・・・・・。く、最初に出くわしたデブが許緖っていうほうがまだ納得がいくな)

 

 しかし、そこは納得するしかない。

 許緖と名乗ったからにはこの子が魏を支える名将の一人なのだ。今更知識としての三國志はあてに出来ない。特に登場人物の性別は。

 

「・・・・・・偵察の兵が戻ったようね。許緖、まずあなたの村を脅かす盗賊団を根絶やしにするからその力を貸してちょうだい」

「は、はい!」

 

 どこか緊張した面持ちで答える許緖。

 

「春蘭、秋蘭。とりあえずこの子はあなたたち二人の下に付けます。しっかりと面倒みてやってね」

「はっ!」

「御意!」

 

 短く返事をする夏候姉妹。

 

「桂花、あなたの手腕見せて貰うわ。失望させないでちょうだいね」

「はっ!」

 

 桂花は軍師の顔に戻り真剣な顔で頷いた。

 

「一刀は私の側にいて。・・・・・・あまり無茶はしないことね」

「はは・・・・・・肝に銘じておくよ」

 

 すでにしびれはとれたが、許緖が最初から殺す気でかかってきたなら一刀は既にこの世にいないだろう。しびれ程度ですんだのはむしろ僥倖だ。

 

「あの、夏候惇様もお兄さんも・・・・・・ごめんなさい」

 

 今度は泣きそうな表情の許緖。

 そんな許緖の頭を優しくなでる一刀。

 

「気にするなって。それより今までよく一人で頑張ったな。でも大丈夫だよ、華琳が許緖も村のみんなも必ず守るさ」

「北郷の言う通りだ。すまないと思うならその力、少しでも華琳様のために役立てるのだぞ」

「はい!」

 

 少女が目元を手の甲で拭って元気よく答えると。一刀と春蘭は頷き合った。

 

「では行軍を再開する。全員騎乗!」

 

 華琳の号令と共に行軍は再開された。

 許緖の村を荒らしていた野盗はもう風前の灯火だ。

 

 

 後書き的なものを・・・・・・。

 さほど期間を空けずに更新できました。

 

 盆休みでなおかつ大雨で家に引きこもってましたからね。

 

 

 やっと季衣を登場させる事が出来ました。

 それにしてもあの鉄球、行軍の時は季衣が肌身離さず持っているのでしょうか?

 それじゃあ跨ってる馬やばいですよね。

 パトリシア並にたくましいんですかね、曹操軍の馬。

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
110
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択