No.897789

想いは再び、時空を超えて・前編

こしろ毬さん

「宇宙戦艦ヤマト」キャラと、私のオリキャラがコラボした「時空を超える者」第二章。
今回は自分の意思でヤマトの時代にタイムワープした佑介。いったいなにがあったというのか…。

この度、無事に完結したので前後編にまとめました。

2017-03-19 00:24:20 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1605   閲覧ユーザー数:1604

無限に広がる大宇宙。

静寂な光に満ちた世界。

死んでいく星もあれば、生まれてくる星もある。

そうだ…宇宙は生きているのだ。

 

そして人にも生と死、出会いと別れがある。

それらは繰り返され、輪廻を辿る。

人の想いも、同じ。

時間を超え、空間をも超えてしまうほどの力を、時に現すことがあるのだ。

 

信じる信じないは、汝次第―――

 

 

「いててて…」

“落ちた”拍子に打った腰のあたりをさすりつつ、少年はあたりを見渡す。

―――どうやら、無事に辿り着いたようだ。

彼にとっては、懐かしく思える場所。

 

「ヤマトの医務室…だよな。変わってないや」

その口元に、ふっと笑みが浮かんだ。

 

そう。ここは宇宙戦艦ヤマトの艦内なのだ。

 

少年の名は土御門佑介。かの陰陽師、安倍晴明の末裔である。

21世紀の現代に生きる高校2年生なのだが、その彼がなぜ2200年代の宇宙戦艦ヤマトに現れたのか。

 

かつて、佑介は一度ヤマトに“迷い込んで”しまったことがある。

白色彗星帝国大帝・ズォーダーの娘であるアレスの能力により引っ張られてしまったのがその理由だったが、今回は違う。

自分の意志で、時空を超えてヤマトに跳んだのである。

戻ることを前提に京都・戻橋に立ち、実は次元の層を繋ぎ開く呪文でもある九字を唱え、ここヤマトに向かったというわけだ。

 

―――ある疑問を抱きながら。

 

佑介の力は今では「霊能力」の域をゆうに突出しており、いわゆる「能力者」と言ってもいいくらいのハイスペックなものだ。

 

…と。

医務室に誰かが入ってきた気配を感じ、振り返った佑介が見たのは。

 

 

「………」

 

「………」

 

いささか、重い沈黙。

そこには赤いボディのロボット、アナライザーが佇んでいた。

だが、そこから微動だにしない。

「アナ…」

アナライザー、と声をかけようとした佑介の脳裏を、ある一説がかすめた。

 

もしも、これが初めて進たちにあった時より前だったら……?

 

佑介は時期のことまでは頭の中に入れてなかった。

ただ、かつて自分を受け止めてくれたヤマトの面々を思い浮かべていただけだ。

もしそうだとすれば、未だに反応のないアナライザーの状況も頷ける。

佑介の存在は、この時はないのだから。

…おそらくはこの後、不審者の侵入として報告に向かうだろう。

 

そう思い、覚悟を決めた時。

 

 

「……ユ、佑介サーンッ!!」

「のわぁ!?」

気がつけば、機械の腕にがっしりと抱きしめられていた。

中腰の状態でいたため、本当に「すっぽり」と。尻餅をつく羽目になってしまった。

「本当ニ、本当ニ佑介サンナノデスネ、嬉シイデスー!」

「お、俺も嬉しいけど…アナライザー、ぐ、ぐるじい…」

ぎゅうっ、という音が聞こえるかと錯覚するほどの力に、佑介は乾いた笑みを浮かべるしかない。

 

そこへ、また人が来る気配。

「アナライザー! いったい何を騒い…で…」

先ほどのアナライザー同様、そのまま動きを止めた小柄な人影は。

「ア、佐渡先生」

その人物に気づいて僅かに緩んだ腕の中で、佑介は思わずほうっと息をついた。

「…ゆう…すけ? 佑介なのか!?」

「お久しぶりです、佐渡先生」

信じられないという風に大きく目を見開いている「佐渡先生」―――医師の佐渡酒造に、佑介はふわっとした柔らかい笑顔を向けた。

 

気がつけば、酒造は未だアナライザーに抱えられたままの佑介の許へ走っていた。

「ほんに…ほんに佑介じゃな!? よう、よう無事でいてくれたのお…!」

まるで佑介の存在を確かめるように両手で佑介の頬や腕などに触れた後、酒造はアナライザーの腕越しにその首に抱きついた。目にはうっすらと光るものが。

「佐渡先生。嬉シイノハワカリマスガ、佑介サン苦シガッテマス」

「それをおまえが言うかっ!」

佑介を絞め殺すんじゃないかと思わせるくらいに抱きついていたのは、アナライザーではなかったか。

アナライザーと涙目で言い返す酒造の姿に、佑介はぷっと吹き出してしまった。

 

「佐渡先生。指切っちゃったんで絆創膏を…」

そう言いながら医務室に入ってきたのは。

「おお相原か。ちと待ってろ」

酒造がそう言ってどいたため、現れた姿に。

「……!?」

「相変わらずそそっかしいですね、相原さん」

「…ゆ、佑介くん…っ!?」

悪戯な笑顔でくすくす笑っている佑介。通信班長・相原義一は口をぱくぱくとさせていた。

だが。

「うわっ!」

「よ…よかった…っ、ほんとによかった、佑介くん!」

がばっと、相原も抱きついてしまった。

「相原さん…」

その様子に、佑介は何も言えなかった。

「…あの時は…、みんな後悔していたんだから。佑介くんを守れなかったって…」

「………」

「特に…古代さんはすごく後悔してた」

心の奥で、一番会いたいと思っていたであろう人の名前。僅かに目を見開く。

 

佑介は、ヤマトの戦闘班長兼艦長代理である古代進の目前でアレスの自爆に巻き込まれ、その姿を消すことになってしまった。

絶対に佑介を守って一緒にヤマトに戻るという決意を抱いていた進にとって、それは大きなダメージであった。

…むろん、他のヤマトクルーにとってもそうであったのだが。

 

「古代さんも…、雪さんもいるんですか?」

「ああ、みんな健在だよ」

少し体を離し、満面の笑みで答える相原だった。

 

 

シュン、と開く第一艦橋の扉。

「お、相原。指の怪我はどうだ?」

航海長の島大介が振り返る。

「かすり傷ですよ。…あ、そうだ」

答えてから、相原は楽しげな表情で。

「それよりも、ビッグニュースがあるんですよ」

「ビッグニュース?」

隣の古代進も怪訝そうに見る。

「ええもう。どうなっても知りませんけど」

変わらず悪戯な笑みを浮かべる相原に。

「もったいぶらずに、早く言えよ~」

戦闘班副班長の南部康雄がそうせかすと、

「ほんっとに驚きますからね。…入ってきていいよ」

相原が開いている扉に向かってそう言い、入ってきた人影に……

 

「……っ!?」

「……う、そ…!」

「…幻…でも見てる…のか? 俺たち…」

 

進たちは、ただただ呆然とするしかなかった。

 

「―――幻影でも、幽霊でもないですよ」

入ってきた人物―――佑介が、困ったような笑みを浮かべて、そう言った途端。

 

「佑介っ!」

「佑介くん!!」

「このやろ~っ、散々心配させやがって!」

 

島や雪、技師長の真田志郎や太田健二郎たちが佑介を取り囲んだ。

ある者は思いっきり抱きつき、またある者は佑介の頭をぐりぐりと撫でまわして。

そしてまたある者は、軽くヘッドロックを仕掛けてくる。

その顔は皆、目に涙をためている表情で。

 

「本当に…心配させてすみませんでした」

ふっと目を細めて言う。

「ほんとよ…! あの時は私もみんなも、佑介くんが死んじゃったと思ってたんだからっ!」

涙で濡れた顔をあげて、ばしばしと佑介の胸元を叩きながら言う雪だ。

「…でも…、ほんとによかった…!」

最後にはにこっと、嬉しそうに笑った。

 

その時、ある視線に気づいた島が、

「…そうそう。そこにもいっちばん喜びそうなヤツがいたな」

少しおどけて言った。

皆も佑介から離れると、その視界には自分の席の横で遠目に見ている進の姿があった。

 

「あ…」

 

それ以上は言葉が出なかった。…いや、出せなかった。

その佑介の心情を察してか、進は泣き笑いのような表情で目を細めている。

 

一歩、また一歩とゆっくり歩み寄って、進の前まで来た佑介。

 

「……古代、さん…」

詰まらせつつも、やっとの思いで出た言葉。

「まったく…。どんだけ待たせるんだよ、おまえは」

呆れた口調で言っているが、進の表情は変わらず優しいままで。

 

と。

不意にぐいっ、と腕を引っ張られたと思うと、強い力で抱きしめられた。

 

「こだ……」

「…やっと…っ…、やっと生身の姿で会えたな…」

「………」

進の声が、平静を装っていてもどこか潤んでいるように聞こえて、その肩口に顔を埋めた。

 

実は進とは、あれ以来何度か夢の中で会ってはいる。

だが、所詮は夢。

どんなに現実的に触れることができても、“生きて”触れられることとはわけが違うのだ。

 

「…何言ってんの…。今まで夢でも会ってんのにさ」

佑介も、少し強がってみせた。

それにくすりと笑う声。

「…そうであっても、やはり全然違うぞ?」

佑介の体を離し、苦笑交じりに言う進。

「こうして“現実”で会えることに勝るものはないさ」

わしゃわしゃと、佑介の頭を撫でまわしていると。

 

「古代…。夢だとはいえ、佑介と会ってたのか?」

「え」

進と佑介が声の方を見ると、島がじと~っと見ていた。

「あ、いやな。それはその…」

「そういえば、何もないときはよく休憩だと言って部屋に帰ってましたよね、古代さん」

「そうか、あれはこーいうことか」

太田や真田にまで追及され、進は乾いた笑みを浮かべてごまかすしかなかった。

「いえ、それは俺が…」

佑介も苦笑しつつフォローしようとしたとき、雪がつかつかとふたりの許に歩いてきた。

その表情は怒っているようにも見える。

 

(あちゃ~、これは絶対俺への文句だろうな)

佑介はふう、とため息をついた。

婚約者が自分や仲間に内緒(?)でこういうことをしていれば相手に文句のひとつも言いたくなるだろう。

―――ところが。

 

「―――ずるいわ、古代くんったら!」

「……へ?」

予想外の台詞に、進と佑介は思わず間抜けな声を出してしまった。

「私だって、佑介くんに会えるものなら会いたいのに。ひとりでこっそり会うなんてずるいじゃない」

 

…どうやら雪が嫉妬していた相手は、佑介ではなく進のようだ。

 

「あ、あの~、雪さん?」

「なあに?」

佑介が恐る恐る雪に声をかければ、打って変ったように笑顔で振り返る。

「…そういうのって古代さんじゃなくて、普通俺に言いません?」

「やだ。佑介くんのことはそんな風に思わないわ。私も佑介くんのことは大好きだもの」

にっこりと笑って言ってのける。

 

「古代さん…雪さんってばあんなこと言ってるけど」

「ははは…」

お互い、苦笑いのまま顔を見合わせる進と佑介であった。

 

 

今回またヤマトに来ることになった理由は、佑介が疲れているだろうと察して改めて聞くことにして、この日はほとんどの者は部屋に戻った。

佑介は、前回同様進と同室である。

 

「…とにかく、今日は色々あって疲れたろ、佑介。ゆっくり休めよ」

「ありがと」

ふたつ並べられたベッドに、それぞれ横になる。

「…あ」

「ん? どうした」

ある方角を見て気づいたような表情の佑介に、進も同じ方角を見ると。

「…ああ、これか」

ふっと笑って進が腕を伸ばして手にしたのは、進と雪が佑介を挟んで笑っている写真が入れてあるフレームだった。

「…その写真、俺も持ってるよ」

佑介も、何とも言えない気持ちになる。

「そっか…」

更に目を細めて、

「俺にとっては、元気の源のひとつかな」

にこりと、佑介に優しく笑いかける進。

佑介は、何も言えず微笑み返した。

「…さ、早く寝ないと体に障るからな」

「うん。おやすみ」

一度はそう言い合って、眠る体勢に入ったのだが。

 

「……佑介」

 

薄闇の中、進の静かな声が響く。

 

「…なに?」

顔の表情ははっきりと判別できないが、進がこちらを向いていることはわかった。

「…今度は…。黙って消えたりするんじゃないぞ」

「!」

「俺はもう、あんな思いをするのは二度と御免だからな。…おやすみ」

言いながら、進は向こう側に寝返りを打った。

「……おやすみ」

一瞬顔を悲しげに歪ませ、佑介も布団を頭から被った。

目覚めて、佑介が身支度に取り掛かろうとしたとき。

「佑介。ほら」

既に身支度を済ませた進が、佑介に向かって放り投げたもの。

「これ…」

それに目を見開く。

「真田さんが何着かとっておいたみたいなんだ。また佑介が来るかもしれないからってね」

少しおかしげに笑いながら言う進。

佑介の手にあったのは、工作班を意味する白地に青のラインが入った隊員服だ。

 

ヤマトに迷い込んでしまった佑介にどの班の隊員服を着せるかという話があり、その際技師長の真田志郎が佑介から見えたオーラの色から「青」の隊員服を着せようと提案した。

後日の話だが、真田曰く「一言に『あお』と言っても、佑介の場合は『青』より『蒼』だ」。

 

食事をし、第一艦橋に入った進と佑介。

「よ。おはよう」

島がにこやかに声をかける。

「おはようございます」

「おはよう。…異常ないか?」

佑介が挨拶を返し、進もそうしつつ尋ねる。

「ああ、今のところはな。…って、やっぱりいいねえ。佑介の隊員服姿」

答えながら、佑介の姿を見てにやにやしている。

「島さん…。『オトコ』のカッコでそんな顔してどーするんですか」

呆れ顔で言う佑介の横で、進はこらえるように笑いをかみ殺している。

「ま、しゃーないよな。“素材”がめちゃくちゃいいんだから」

南部もにっと悪戯っ子のように笑っている。

「南部さんまで~…」

「…あ、俺ちょっと艦長室に行ってくるな」

おかしそうにそれを見ていた進が、第一艦橋を出て行った。

 

「…そか。古代さん艦長代理だから…。まだ怪我が治らないんですか? 艦長」

進の後姿を見送りつつ、島に尋ねる佑介。

あれから、どのくらいたっているのかはわからないのだが。

再会した時の皆の様子からして、かなり長い月日が過ぎているのだろうと察せられた。

「一度は復帰したんだがな、佑介がいなくなる直前に」

当時のことを思い出したか、一瞬表情を曇らせるが。

「でもまだ本調子じゃなかったようで、大事を取って療養してるんだ」

「そうですか…」

進が出て行った方角を見る佑介に。

「…艦長も、佑介に会いたがっていたんだぞ」

「え?」

真田がなんとも言えないような表情で苦笑しているのに、目を瞬かせていると。

 

「佑介」

 

声がしたほうを見ると、進が手招きしていた。

「俺?」という風に自分の顔を指差すと頷いている。

 

小走りで入り口にいる進の基に駆け寄って。

「どうしたの?」

首を傾げて佑介が言うと。

「え…っとな。佑介を艦長に会わせようかと思って…」

「へ…?」

「おまえに会いたいって言ってるんだよ、艦長が」

「ええ!?」

苦笑気味に言う進。佑介はただ目を大きく見開いているだけだ。

「え。だ、だって…俺部外者だし…」

「佑介。…以前に俺が言ったこと、忘れたか?」

真っ直ぐ佑介を見て、続ける。

「たとえ元の時代に還ったとしても、俺たちにとって佑介は大切な『弟分』だって」

「…あ」

優しく、安心させるような微笑み。

「だから、部外者なんかじゃないさ。行こうか」

進は笑顔のまま、ぽんぽんと軽く佑介の頭を叩く。

 

 

――そうして、艦長室の前まで来たのだが。

「うぅ、なんか緊張してきた…」

表情が固まってしまった佑介に。

「大丈夫、そんなに堅くならなくていいって」

苦笑交じりで笑いながら、進が扉をノックする。

「艦長。戦闘班長・古代です。失礼いたします」

そう言い、扉を開けて入る。佑介もおずおずとながらその後に続く。

「艦長、連れてきました」

「そうか。ご苦労だったな」

進の言葉に穏やかな笑顔で答える、30代前半ほどの端正な顔立ちの男性が、ベッドに身を起こしていた。そばには看護服の雪もいる。

隣で目を瞬いている佑介に気づいて、

「…佑介?」

そっと進が声をかける。

「…あ。す、すみません。…初めまして、土御門佑介といいます」

我に返った佑介は、慌ててぺこりと頭を下げた。

「そんなに畏まらなくても…。話は進からよく聞いていたよ。…進もいつもの通りでいいぞ」

男性に言われて、進は。

「…わかったよ。兄さん」

笑顔になり、「弟」の表情で答える。

「…え、兄さんって…」

佑介は混乱するばかりだ。

「改めて紹介するよ、佑介。俺の兄でもある古代守艦長だ」

「よろしくな」

進と守が、共に笑顔でそう言うと。

「えっ!? 古代さんのお兄さんなの?」

「そうだが…?」

ふたりを見比べながら言う佑介を、進は不思議そうに見ていたのだが。

 

「……似てないし…」

 

ぽろっと佑介の口からこぼれた言葉を、聞き逃すわけがなかった。

 

「…なーんだって~? どの口が言ってんだ、この口かっ?」

言いながら、にょにょ~っと佑介の両頬を引っ張る進だ。

「ひ、ひたひっ。やめれよこらいふぁん」

「おまえがそんなこと言うからだろーが」

そう言ってるが、進の顔は悪ガキのような笑みを浮かべていた。

そのまま、佑介の首に腕を回して締め上げる。

…もちろん軽く、だが。

「ぐえっ。ご、ごめんって、放してよ~」

佑介はじたばたと暴れるのみ。

「問答無用っ」

 

…傍から見れば、じゃれているとしか思えない。

未だぎゃいぎゃい言い合っている進と佑介の姿に、守は目をぱちくりとさせていたのだが。

一瞬雪と顔を見合わせると、ぷはっと大いに吹き出してしまった。

「…まったく。おまえたちのほうがよっぽど、兄弟みたいじゃないか」

くすくすと笑う守の声に気づいた進と佑介は、思わず顔を見合わせた。

 

守と進の兄弟も、仲はとてもいいほうだ。

だが、年が10も離れていて進が小さい頃から守は宇宙戦士として家を空け、たまの休暇で家に帰ってきても親族との宴会のほうへ顔を出し、あまり進のことを構ってあげられなかった。

そのため、進にはずいぶん寂しい思いをさせてしまったと思う。

両親は既に亡く、ふたりきりの兄弟なのに。

 

そうであったから、今こうして佑介とじゃれてふざけ合っている進を見るのは久しぶり…いや、もしかしたら初めてかもしれない。

こういうことができるのは佑介が進にとって、立場は違っても婚約者の雪と同じくらいに大切で、可愛くて仕方がない存在なのだろうと察せられた。

それは初めて佑介がヤマトに現れ、その後消えてしまった時の進の落ち込みようからもよくわかる。

 

今の弟を見ていて、嬉しい気持ちになる守だった。

 

ひとしきり笑った後―――

「佑介くん…だったね。ヤマトに来たのは、前回のように『引っ張られた』のかい?」

守が真顔になり、佑介に尋ねた。進と雪も知らずに緊張した表情になる。

「…いえ…。今回はそうではありません。俺の意志でヤマトへ辿り着きました」

「え。佑介くん、そういう『力』もあるの?」

驚きで目を見張る雪に頷く佑介。

「そうだった。佑介の先祖はあの安倍晴明だものな。陰陽師の」

進も思い出したという風に納得している。

「…でもそれでも、なんでまた…」

進の問いに、

「俺も…まさか、とは思うんだけど」

言葉を詰まらせながら、佑介が口を開く。

 

「また…あの女の声が聞こえるんだよ、夢の中で。それも…毎晩」

「…!」

 

――あの女。

 

進と雪には、それだけで誰なのか分かった。

だが、しかし。

 

「あの女って…死んだはずだぞ!」

進が身を乗り出して言う。

「そうだよね。古代さんは目前で見てただろうし」

佑介はなんとも言えない表情になる。

「ああ、そうさ。…それに…っ」

進は当時のことを思い出したか、悔しさと悲しみがない交ぜになった表情で、ぎゅっと佑介の肩を掴んだ。

「古代くん…」

雪もつらそうに目を細める。

佑介は唇を噛みしめて、俯いてしまった。

掴まれた肩の体温から、あの時進がどんな思いだったのか…それが伝わってくるから。

 

悲しみ。

悔しさ。

苦しみ。

そして、つらさ。

 

それらはどれも、計り知れないものだ。

 

「…その『あの女』というのは…進が言っていた白色彗星帝国大帝の娘だな?」

重苦しい沈黙を破るように守が口を開くと、進がこくりと頷いた。

「進の言うように死んでいるとしたら、なぜまた佑介くんの夢に…?」

「俺にもわかりません…」

躊躇いがちに言い、言葉を切る。

「ただ、あの女…アレスは俺と同じ能力者です。肉体は滅んでも、意識体が残っているかもしれません。だから…」

と、進と雪を見て。

「だから、また古代さんたちが危ないんじゃないかって…!」

「佑介…」

その顔は、半ば泣きそうになっていた。

佑介の肩を掴んでいた手をすっとその頭に移動させ、ぽんぽんと優しく叩く。

「…大丈夫だ」

安心させるように佑介に笑いかける。

「それなら…私たちよりも、佑介くんのほうが危ないかもしれないのよ?」

「雪…?」

「雪さん?」

進と佑介の視線を受けつつ。

「だって…。彼女は佑介くんの『力』を狙ってるんでしょ? だったら、もし出てくるなら絶対佑介くんが…っ」

そう言い終わらないうちに、雪の目からぽろぽろと涙がこぼれ出した。

…雪も進と同じように、佑介がいなくなった瞬間を思い出していたのだろう。

 

「雪さん。…俺は大丈夫だよ」

にこっと雪に笑いかける佑介。

「…佑介くん」

「俺には『力』があるし、それに…」

さらに笑みを深めて、雪や進、そして守を見た。

「周りに、力になって守ってくれている人たちもいるんだもの」

「…っ。佑介くん…!」

雪は、佑介の肩のあたりに縋りついてしまった。進も。

「…今度こそ…絶対に守ってやるからな、佑介」

そう言い、佑介の頭を抱え込んだ。

 

その3人の姿を、守は優しい眼差しで見ていた……。

宇宙空間では時間が曖昧になりそうではあるが、ヤマトではしっかり管理されている。

そのため1日の時間もわかるようになっており、今は地球で言えば「夜中」だ。

ヤマト戦闘班長兼艦長代理の古代進は、自室のベッドで横になっている。

だが眠ってはおらず、腕を頭の後ろに回し、天井を見つめていた。

 

――あの女の声が聞こえてくるんだよ、夢で…

 

――アレスは俺と同じ能力者です。肉体は滅んでも、意識体が残っているかもしれません

 

艦長室での佑介の言葉が脳裏から離れない。

 

「まさか…な。そんなこと…」

 

あの時…自分は確かにアレスの死体を見た。

がれきに埋もれた、血塗れの腕。

とてもじゃないが、あれで助かるとは到底思えない。

 

軽く頭を横に振り、隣のベッドで眠っている佑介を見た。

 

精悍で整った顔立ちをしているが、寝顔のせいか幼さもある。

こうしてみれば、17歳という年相応の表情だ。

 

(佑介は…この年で既に、多くのものを抱えているんだろうか)

 

ふっと目を細める。

 

『特殊な能力』を持っていることで、人とは深く関われなかった…と話していたことがある。

進としてはそんなことは関係ないと思うのだが、世間では奇異の目で見られるのがほとんどだ。

しかも、佑介は人の「心の声」が否応なく聞こえてしまう時期があったとも…。

そういう人の醜さをも見てきた分、この若さで達観してしまっているということは感じられた。

年に似合わぬ大人びた雰囲気は、そのせいなのだろう。

それでも垣間見える幼さや健気さに、自分やヤマトのメンバーに頼ってほしいと思うことが多々あった。

なんでも、ひとりで背負い込むなと。

 

「ったく…たまには頼って、甘えろよな」

 

佑介には聞こえずとも、ぽつりと呟いた。

 

しばらく見ていると、佑介の顔が僅かに歪むのがわかった。

そして聞こえてきたのは。

 

「――めろ…」

 

唸るような、掠れた声。

 

「佑介…?」

上半身を肘で起こし、佑介の顔を覗き込む。

「…あの…ひ、とたちに…手を…出すな…!」

苦しげな表情。

 

進はがばっと起き上がり、佑介の体を揺する。

「佑介…おいっ、しっかりしろ!」

抱きかかえるようにして何度も揺さぶるが、目覚める気配がない。

「目を覚ませっ、佑介っ!!」

声の限りに叫ぶ進。

…と、はっとした表情で佑介が目を覚ました。

しばらくは目の焦点が合わず、呼吸も荒い。

 

「……佑介…?」

 

心配げな声に、ゆるゆると頭を動かす。

そこには、僅かに瞳を揺らしている進の顔。

 

「大丈夫か…俺がわかるか?」

「…こ、だい…さん…」

まだ息は荒いが、はっきりとした声だ。

それを聞いて、進は気が抜けたようにほーっと大きく息をつきつつ、

「…よかった…」

そのまま顎を佑介の頭の上に乗せた。

 

やがて体を離し、佑介が落ち着いたのを見計らって。

「…また…あの女が出てきたのか?」

穏やかでやんわりとした口調で尋ねると、こくんと頷いた。

「…でも、今回は違ってた」

憔悴しきった表情で続ける。

「声は確かに聞こえるんだ…。でも、出てきたのは男でさ」

「…男?」

「顔は、はっきりとは分からないけど…まるで昔の神官みたいな恰好をしていて。そいつが」

ふっと目を伏せて。

「次々と…みんなを…!」

 

目の前に広がる、赤。

自分のせいで進や雪、島たちが―――

 

「………」

片手で顔を覆ってしまった佑介の肩を、安心させるようにぽんぽんと叩く。

 

その時、どん! という振動が起き、けたたましい緊急警報が鳴り響いた。

ふたりは素早く隊員服に着替えた。…だが。

「佑介。おまえはここにいろ。…奴らかもしれん」

制するように佑介の肩に手を置いて、進がそう言うと。

「いやだ! だったら尚更行くよ。じゃなきゃ古代さんたちが…」

佑介は当然のように反論しようとするが。

「もう、おまえを『喪う』のは嫌なんだ!」

「!」

思いがけない進の言葉に、佑介は目を見開く。

「…また…、あの時みたいになったら、俺は…っ…」

両手を佑介の肩に置いたまま、顔を俯かせた進。

「古代…さん」

肩に置かれた、手の震え。

 

―――それでも。

 

「…大丈夫だよ」

「っ!」

進は弾かれるように顔を上げた。

「俺は消えないし、いなくならない」

「………」

穏やかな笑みを浮かべて言う佑介を、進はじっと見つめている。

「古代さんを信じてる。…だから、俺のことも信じてよ」

「佑介…」

穏やかでありながら、意志の強さがにじんだ光の瞳。

進は一度目を閉じ、再び開けて。

「…わかった…。行くぞ」

「うん!」

そうしてふたりは、部屋を飛び出した。

 

 

第一艦橋の扉が開き、進と佑介が駆け込んてきた。

それと同時に、激しい振動が起こる。

「うわっ!」

バランスを取り損ねて、佑介は思いっきり尻餅をついてしまう。

「佑介くん、大丈夫!?」

すぐ近くにいた雪が立ち上がろうとするのを、佑介は「大丈夫」と言うように手を挙げた。

「早速、仕掛けてきたか!」

島がぐんと操縦桿を切る。

よろけながらも、進は自分の席に、佑介は進から「そこに」と言われた島と反対側の進の隣に座った。

そして前方を見るが、攻撃してくる艦隊の姿などない。

ただ青い光の線が見えるだけだ。

 

「…やっぱり、あれって…」

佑介の瞳が剣呑に光った。

「ああ。佑介の読み通りのようだな」

進も険しい表情で前を見据えている。

「敵はレーダーに映ってるか?」

雪のほうを振り向いて言えば。

「いえ、全く反応してません!」

爆音に負けないように、声を張り上げる。

合点がいったように、進と佑介は顔を見合わせた。

 

「佑介くんの読み通りって、どういうことですか?」

相原が怪訝そうに尋ねる。

「また…奴らが攻撃してきたんだよ。白色彗星帝国のやつらが」

「ええっ!?」

クルーたちは信じられないという風に目を見開く。

「…まだ、指導できる人間がいたということか!?」

真田の声も震えている。

「佑介が…自分の時代で、あの女の声を聞いていたんですよ」

「!」

事情を知っている雪以外のクルーたちは、一斉に佑介を見た。

それに、ふっと困ったような表情で

「ずっと…夢に出てきたんです。『今度こそおまえたちを倒す』…って」

伏し目がちにそう言う佑介。

「死んだはずなのにどうして…と思って。でも、あの女なら…アレスならあり得るかもしれないと思い当たったから。だから…」

「佑介くん……!」

太田がつらそうに目を細める。島と機関長の山崎奨も唇を噛みしめていた。

「じゃ、佑介が自分からここに来たのは―――」

「それより、早く反撃しないと」

沈痛な表情で言い募ろうとした南部を遮り、佑介は進を見た。

「ああ。…いけるか、佑介?」

「うん」

力強く頷く。

そして佑介はおもむろに前を見、『気』を集中させた。

「南部さん、左舷60度!」

「了解。目標、左舷60度。発射!」

 

ヤマトでは、ガスに覆われた“見えぬ敵”に対して応戦を続けていた。

佑介がその『力』で敵の位置を指示し、主砲で迎え撃つという形だ。

 

だが。

 

「…佑介。大丈夫か?」

佑介が周りにわからないように深い息をついているのを、進が目ざとく見つけて声をかける。

「…! だ、大丈夫だよ」

慌てて笑顔を繕う佑介だが。

「あまり無理するなよ。また倒れるぞ」

進越しに身を乗り出すように島も言うのに、佑介は苦笑交じりに頷いた。

「…しかし、あの『壁』さえ壊せればな。そうすればコスモタイガーでも攻撃できるのに」

南部がぽつりと言う。

「俺の感じだと、宇宙ガスと同じものだと思うんです。レーダーの電波は吸収されるけど、エネルギーは通過するし…」

その佑介の台詞に。

「確かにエネルギーは通すな…。あちらの主砲もこちらの主砲も通用してるし」

真田が顎に手をやりつつ言うと。

「もっと強いエネルギーをぶつければ、壊せないこともないんですけど」

「もっと、強いエネルギー…」

佑介が少し自信なさげに言った言葉。それに真田は大きく目を見張って。

「そうか…! 俺としたことが」

言うや否や佑介の許に駆け寄り、

「うわ!?」

「佑介、よく言ってくれた! そうだよ、あれがあったよ!」

両手で佑介の頬を強く押しつけるようにして、嬉々とした表情になる。

「真田さん?」

進も目をぱちくりとさせている。

「波動カートリッジ弾だよ!」

「……あ!」

進も思い出したのか、目を見開く。

「そうか! 波動カートリッジ弾なら壊せるかもしれないぜ」

「なんてたって波動砲の100分の1とはいえ、波動エネルギーを積んでるんだからな」

太田と相原が頷き合う。

 

波動カートリッジ弾。

暗黒星団帝国との戦いで初めて使ったヤマトの新兵器だ。

艦首方向にしか発射出来ない波動砲に比べて波動エネルギーを使った攻撃を迅速かつ柔軟に行えるのが特徴である。昔の徹甲榴弾のように、弾頭が目標の装甲を貫徹したのちに内部で炸薬たる波動エネルギーが解放されるのが特徴の兵器である。

威力は波動砲の100分の1だが、時に思わぬ作用を生むほどの力を持つ。

 

「じゃあ、自分は砲術台に行ってきます!」

南部が勢いよく席を立って。

「ありがとな、佑介!」

走りすがら、片目をつぶってにっと笑い、佑介の肩をぽんっと叩く。

佑介も、なんとも言えない表情で笑った。

 

第一艦橋を出て行く南部を見送り、力づけるように佑介に笑いかけて。

「…次で最後だから、もう少し辛抱してくれ。どうしても駄目なら言えよ?」

進のそんな言葉に、佑介はふるふると首を振る。

「大丈夫だよ…。万遍なくエネルギーの影響を受けやすい位置を言えばいいんだよね?」

にこっと笑い返す。

だが、その笑顔はやはりどこか弱々しい。

無理もない。『力』を使うことで体力を消耗しているということは、艦長・古代守の一人娘、サーシャの例でもわかっていたはず。

 

その時、レーダー席の雪が立ち上がって、佑介の席に近づいてくる。

そして何も言わず、ぽん、と佑介の肩に手を乗せた。

「……雪さん?」

不思議そうに雪を見上げれば、優しく微笑んで頷いている。

進もそれを目を細めて見ていると。

『艦長代理、波動カートリッジ弾の準備ができました。いつでも発射可能です!』

南部の声が響き渡った。

「わかった。……佑介」

進の声に、佑介もこくんと頷く。

 

鳴り止まぬ爆音と振動の中、じっと前方を見据えて神経を集中させる。

佑介だけに視える、ガスの向こうの艦隊。

 

(端は論外だよな…。やはり真ん中か)

 

そう思い中央あたりを見れば、他の艦より一回り大きい旗艦が見えた。

 

(…あれが中心の戦艦かな。よし、あそこをメインに攻めれば…)

 

佑介の表情に確信の色が生じる。

 

「…古代さん。右舷30度と伝えて」

「わかった。…南部、目標は右舷30度の位置だ」

『了解!』

佑介の指示を伝える進。それに待ってました、とばかりの声音で答える南部だ。

 

―――その、一方…

 

「……メルーサ様、敵側からの攻撃が止まっております。ここで一気に…」

「待て、何かを企んでいるのかもしれん。油断は禁物だ」

参謀の言葉に、「メルーサ」と呼ばれた男は振り向かぬままそう告げる。

声からして、まだ若い雰囲気である。

「…それにしても、今の状態で我々の位置がわかるとは…。『あの者』がいるということだな」

前大帝・ズォーダーとは正反対の、鋭利な刃物を思わせる風貌。

メルーサはその口元を弧に描いた。

「攻撃しつつ、様子を見よう。時が来たら叩き潰す」

 

ヤマト砲術台。

「目標、右舷30度。…発射!!」

南部の号令と同時に、波動カートリッジ弾を詰め込んだ主砲が火を噴いた。

その青い光は、真っ直ぐ佑介が指した場所へと向かっていく。

 

―――メルーサ。艦(ふね)を退避させなさい

 

「!?」

突如聞こえた女性の声。

「…全艦、直ちに退避せよ!」

メルーサの指令に、付近についていた艦は移動しようとするのだが。

それはすぐに襲ってきた光によって阻まられた。

 

波動カートリッジ弾による作用なのか、艦隊を撃破するのと共に、それまで敵の艦隊を覆っていたガス体が瞬く間に消えていくのがヤマトクルーたちの目にも分かった。

全く見えてなかった艦隊の姿が見えてきたのだから。

 

「やった!」

「これで少しは戦いやすくなったぞ」

第一艦橋メンバーが僅かに笑顔になる。

「さっすが佑介くん! ドンピシャだよ!」

席が近い相原が駆け寄って、佑介の頭をわしゃわしゃと撫でまわしている。

「よし、これに乗ってコスモタイガーを出撃できれば…」

進もそう言っていたのだが。

 

ピピッ、ピピッ、

 

相原の席から通信音が聞こえた。

席に戻って、信号を見た相原の目が大きく見開く。

「古代さん、敵側から入電です!」

「なんだって?」

佑介も不安げに相原を見た。

「…どうします?」

慎重な口ぶりの相原に。

「…繋げてくれ。あちらさんの今回の目的を知りたいしな」

前方にいる艦隊を見つつ、進が答えた。

「了解」

佑介を気遣わしげに見ながら、相原はパネルを操作する。

すると、まるでギリシャの神官を思わせる姿の男が現れた。

 

(―――似て、る…)

 

男の顔を見て、佑介の表情が強張った。

 

「――私は大ガトランティス帝国大帝、メルーサ。なかなかの戦いぶりだな、地球の戦艦よ」

「宇宙戦艦ヤマト艦長代理、古代進だ。…なぜ我々を攻撃してきたのか、教えてもらおうか」

強い光の瞳で、進はパネルを見上げた。

すると、メルーサはふっと嘲笑うような表情になる。

「なぜ? 知っているくせによくそのようなことを言えるな」

鋭い目で第一艦橋の面々を見渡しながら続ける。

佑介の位置で一瞬止まったように感じたのは…気のせいじゃない。

「……おまえたちは『姉』を死に追いやったのだからな。…父のみならず」

メルーサのその言葉に、進たちは嫌な予感がぬぐえなかった。

 

……まさか。

 

「おまえは…何者だ」

僅かに掠れた声で進が尋ねると。

「聞こえなかったのか? 大ガトランティス帝国大帝、メルーサだと。つまり」

目を剣呑に細めて続ける。

「前大帝・ズォーダーの娘、アレスと同じ立場。…アレスは、私の姉だ」

「!!」

予感が的中してしまった。

ヤマトクルーたちの表情が驚愕に染まる。

佑介だけは…強く唇を噛みしめていた。

 

そんなヤマトクルーたちを見つつ。

「単刀直入に言おう。我々にはもう一つ目的がある」

進に向き直って言い放つ。

「艦長代理どの。その隣にいる少年を我々に引き渡せ」

「…なん…だと…?」

 

半分は予想していたことではあるが、いざそれを言われれば反応が鈍ってしまう。

 

「姉が欲したはずだ…。その『力』があれば、わが帝国は益々復興し、次こそ全宇宙を抑え支配できる」

「そんなこと…! 俺が目的なら、この人たちを巻き込むな!」

佑介が前に出ようとするのを、進がその肩をがしっと掴む。

そして庇うように自分のほうに引き寄せた。

「古代さ…!」

「おまえは黙ってろ!」

言い募ろうとする佑介を、進は強い語気で遮った。

 

「もう一度言う。その少年をこちらに渡せ。さもなくば更に攻撃を強めることになるぞ」

にやりと嫌な笑みを浮かべるメルーサ。

「…っ…」

佑介が悔しげに顔を歪めて、俯き加減になった時。

「……知れたことを」

ふっと笑う気配をすぐそばで感じて、顔を上げると。

「答えは…ノーだ!」

強い視線でパネルのメルーサを見据え、毅然と言い放った進。

佑介の肩を抱く手の力が、更に強まる。

「何があろうと…、何が起ころうと、佑介は貴様になど断じて渡さん!」

一点の迷いもない、横顔。

佑介はそれを、揺れる瞳で見つめていた。

 

「それは…残念なことだ」

意味深な表情のまま、そう言い置いてメルーサが姿を消す。

「加藤! 今のうちにやつらの艦隊に向かえ!」

進がマイクに向かってそう言うと。

『言われなくても、とっくに準備してます! いつでも発進OKですよ』

コスモタイガー隊長・加藤四郎の声が返ってくる。

『佑介くんを渡したくないのは俺たちだって同じです。行きます!』

「ああ、頼むぞ」

その会話の後、次々とコスモタイガーが飛び立っていく。

 

「………」

 

飛び立つコスモタイガーを見る佑介。

 

みんな…自分のために懸命になってくれている。

『力』があるくせに、何もできないこの身がもどかしい。

鼻の奥がつんとくる感覚が佑介を襲い、再び顔を俯かせた。

 

「おまえを失いたくないのは…みんなも同じなんだな」

 

佑介の体の僅かな震えに気づいたか、肩を抱く手はそのままに、優しい口調で呟く進だった。

波動カートリッジ弾による攻撃で、大ガトランティス帝国艦隊が見えるようになったことにより、コスモタイガー隊とヤマトからの応戦もいささか互角になってきた。

コスモタイガーの攻撃に、敵の艦載機が撃墜されていく。

もちろん、向こうからも攻撃を仕掛けてくる。

 

メルーサのいる旗艦も攻撃されていたのだが…。

 

「愚かな奴らだ。我々が用意しているもう一つの伏兵にも気づかないで…」

くつくつと含み笑いをして窓の外を見ている。

「こちらの艦隊がダメージを受けつつあります。そろそろ指示いたしますか?」

「そうだな…。向こうもうずうずしているだろうしな」

参謀に答え、振り返る。

「……ヤマトの後方で控えている艦隊に、攻撃命令を出せ」

 

一方、応戦を続けるヤマトでは。

 

「加藤たちのおかげで、幾分か楽になったな」

「ああ。佑介がガス体とエネルギーのことを言ってくれたから、思い出せたようなものだしな」

進と島がそう言い合っている横で、

「まったくだよ。…本当にありがとうな、佑介」

「いえ…」

苦笑気味に笑ってお礼を述べる真田に、佑介も照れくさそうに微笑み返した。

 

――その時。

 

「うわっ!?」

突然の振動と爆音で、第一艦橋内に緊張が走る。

「左舷後方、被弾しました!」

画面を見た太田の声が響く。

「なに!?」

「レーダーには前方の艦隊以外、反応ありません!」

雪の声も聞こえる。

 

「……まさか…、後ろにも奴らが…」

佑介はぽつりと言った後、

「島さん、反転して下さい! そこで俺が…」

「馬鹿! そんなことしたら本当におまえが倒れるぞ!」

島に言いかけたその言葉を、進が強い口調で遮った。

 

先ほどからずっと、その『特殊な能力』で敵の位置を知らせてくれた佑介。

本人は大丈夫だと言っているが見るからに顔色が悪く、疲労の色がとてつもなく濃い。

これ以上力を使えば気力、体力ともに消耗が激しく、今の時点で倒れてしまっていてもおかしくないのだ。

そんなことは、絶対にさせたくなかった。

 

「だって…! そうしないと奴らに反撃が」

「佑介!!」

更に言い募ろうとした佑介を一喝した進。

それにびくんと肩をすくめ、一瞬目を閉じている表情は、やはり17歳の少年といったところか。

進はその険しい表情を少し緩め、よろけつつも佑介の席に近づいた。

椅子の肘掛けに左手を置き、しゃがむようにして右手で佑介の肩を抱いた。

 

「…頼むから…、無茶をするな…!」

絞り出すような、掠れた声。

僅かに揺れている瞳。

「で、も…っ」

 

古代さんたちが、やられるのに。

 

その言葉を言いたいのに、声が出ない。

 

「…大丈夫。ヤマトは負けない」

にこりと、穏やかな笑みを浮かべる進。

まるで佑介の心情を読んだかのような台詞に、佑介の目が僅かに見開いた。

「おまえがいてくれるんだからな、佑介。負けるわけがないだろ?」

「こ、だい…さん?」

進の言うことが見えず、ただ目を瞬かせるだけだ。

 

「佑介がいてくれるから、俺たちは戦えるんだよ」

 

笑みを深くして進が言った言葉。

 

「…え…」

「さしずめ、佑介は俺たちにとって、勝利の女神の『ニケ』だからな」

上からの声に見上げれば、真田が椅子の背もたれに支えられる形で立っていた。

 

「ニケって、ギリシャ神話の…」

「そう。女神アテナに従う女神だと伝わってるが、アテナの化身がニケだとも言われてる」

 

ニケは有翼の若い女性の姿で描かれる神である。

年の頃を言えば、10代後半から20代前半にかけて…だろうか。

 

「あちらさんが単なる好戦的な戦神…アレスであるのに対して、こっちは戦神であるとともに勝利の神でもあるんだからな。そりゃ負けるわけがない」

にっと悪戯な笑みを浮かべる真田だ。

「ただでさえ…佑介はその存在だけで、俺たちを助けてくれてるんだよ」

真田の言葉に、佑介は既視感を憶えた。

 

――佑介くんは、その存在だけで私たちを助けてくれてるのよ。……気づいてなかったでしょ?

 

…いつぞや、医務室で居眠りをしてしまった佑介に、雪が言った言葉でもあった。

 

「そ…んな…。俺、何もしてないのに…できないのに…!」

 

懸命にみんなが戦っている中、自分だけが。

力で敵を見つけても、それだけだ。

結局、それしかできない自分に、もどかしくて。

悔しくて。

 

情けなくて―――

 

そこまで考えた途端、佑介の目からぽろぽろと光るものがこぼれ出していた。

「お…れ…、みんなに…なんにも…っ…」

そのまま俯かせてしまった。

 

「……馬鹿だな…、何泣いてるんだ」

進は困ったような、何とも言えない表情で微笑んで、佑介の頭を抱えて自分の肩口に押し付けるようにした。

「おまえが…佑介がいつも傍で笑っていてくれる。それだけで戦う勇気が湧いてくるんだよ」

優しく、囁くような進の声。

「…う…え…っ」

「それは俺だけじゃない…。みんながそう思っているんだからな。だから…」

嗚咽を漏らし、体を小刻みに震わす佑介の背中や頭を、あやすようにさすりながら。

「だから、何もできないなんて…そんなこと言うな」

最後にぎゅっと、その頭を抱え込むように抱きしめた。

 

「―――島、位置そのままで主砲だけ動かす。さっきのようにカートリッジ弾を撃ち込むぞ」

「わかった」

佑介を抱いたままで振り向いた進に、島が力強く頷く。

 

「…少し横になってろ、佑介。いいな?」

椅子の背もたれを後ろに倒して、進が念を押すように言うと、佑介は弱々しいながらもしっかり頷いた。

それを見てふっと柔らかく笑い、佑介の頭をひと撫でして席に戻った進は。

「南部、後部の主砲を使ってカートリッジ弾を撃て」

『ええっ!?』

南部の素っ頓狂な声が聞こえる。

「見えないが、敵が後ろにもいるのは間違いないんだ。いいから撃て!」

『…了解』

何故か、どこか笑いを含んだような声が返ってきて、通信が途絶えた。

 

「…まったく。相変わらず大胆というか、無謀というか」

くすくす笑いながら言う島。

「いいだろ、少しでも可能性があったらなんでもやるさ。…な?」

少々拗ねた表情で島に言ってから、進は佑介を見やる。

振られた佑介は…というと、こちらも苦笑交じりに笑っている。

そのせいか顔色が少しよくなったように見えて、進は心の中で安堵した。

 

「…本当に、レーダーには全く反応してないな」

後部主砲の砲術台に辿り着いた南部はひとつ息をついて、波動カートリッジ弾を装填させる。

「だが攻撃されるということは、古代さんの言うとおり敵がそこにいるわけで…。やるしかないな」

そう言った後、被弾した艦体の角度から位置を憶測する。

「左舷後方が被弾したから、こちらから見たら向かって右側…。よし」

そして。

 

「目標、右40度方向。…撃てっ!」

 

南部の号令と共に、主砲の青い光が真っ直ぐ、暗い空間に向かった。

だが、いくつかの爆発は認められたものの、位置が悪かったのか艦隊の姿が見えるまでには至らなかった。

 

『波動カートリッジ弾発射完了。…手応えはありましたが、ダメージは少ないようです』

「そうか」

進はふっと息をついた。

やはり、見えるのと見えないのとでは、こうも違ってくるのだろうか。

 

再び被弾し、第一艦橋が激しく揺れた。

「う…わっ」

なんとか踏ん張っていたが、佑介が椅子から転げ落ちた。

「佑介! 大丈夫か」

「う、うん」

椅子から身を乗り出す進に、笑顔を返す佑介。

その時、メインパネルが動いた。

 

「―――どうかね。少しは引き渡す気になったか」

勝ち誇った表情のメルーサが映し出される。

「くっ…」

佑介が前に乗り出そうとするのを制して。

「そんな気は、さらさらないと言ったはずだが?」

少し挑発的な笑みを浮かべる進だ。

それを見たメルーサは。

「おのれ…。全艦、総攻撃を…うわっ!?」

パネルの中のメルーサが、突然消えた。

 

「なんだ!?」

ヤマトクルーも何事かわからず前を見ると、旗艦が向こうから来た主砲らしき光で攻撃されていた。

「レーダーに反応あり。左舷、右舷後方に敵艦隊です!」

雪が声を張り上げる。

「いったい、何が起こったんだ」

真田も怪訝な表情で前方を見ていると、再びメインパネルが動いた。

 

「――古代、無事か?」

 

そこに映っていたのは。

 

「デスラー!」

「後ろの奴らは引き受ける。そちらは前の奴らに集中しろ!」

「わかった。すまない、デスラー」

進がそう言うと、ガルマン・ガミラス帝国総統デスラーは頷いて、画面から消えた。

 

最後に、進の隣の姿に目を細めて。

「全艦、ヤマトを援護しつつガトランティス艦隊を撃滅せよ!」

デスラーの声が凜、と響く。

「総統。ヤマトの前方にいる連中はいかがいたしましょうか?」

「ヤマトに任せておけば大丈夫だろう。しかし…」

タランの問いに答えて、デスラーはふっと目を細めた。

 

デスラーは「瞬間物質移送器」を使った、別名「デスラー戦法」でガトランティスの艦隊の中にワープしたのだ。

複眼状のレンズを持つ発生器から、ワープさせたい対象物に対しワープ光線を照射する。

発生器は二基で一組であり、ふたつの発生器から照射された光線が交わった範囲が、ワープ可能エリアとなる。光線のエリア内に収まってさえいれば、対象物の大きさや数に関係なく、任意の場所に転送することが可能である。

現在はそのシステムが変更され、二連三段空母の飛行甲板先端に個艦装備されており、発艦する機毎に転送させる方式で行なっている。

ガトランティス艦隊をを覆っているガスについても、今回はかつてガス生命体を作ったガミラスの技術で散らすことができる。

これもひとえに、レーダーにヤマトの姿を捉えたからであるが…。

 

先ほどのヤマトとの通信で、終わり間際に目に入ったあの者の姿。

生きていたことには、デスラーも嬉しく思う。

ガトランティスが再びヤマトを狙ってきたのは、あの者がいるからなのだろうか。

…だが。

 

「もしそうだとしても…そんなことはさせん。全砲門、開け!」

デスラーの号令と共に、各艦の砲門が火を噴いた。ガトランティスの駆逐艦を爆破させていく。

 

一方のヤマトも、デスラーに背中を押される形で応戦を続けていた。

コスモタイガー隊がガトランティス艦隊の間を縫うように飛行する。

 

「この…っ、くらえ!」

コスモタイガー隊隊長・加藤四郎機からミサイルが発射され、敵機を爆破する。

『加藤、敵の旗艦を狙え! 指導者が乗っているのはそれだ!』

進の声が聞こえる。

「了解! 全機続け!」

 

ヤマトからも、主砲やパルスレーザー、煙突ミサイルなどで迎え撃つ。

それらは間違いなく、次第にメルーサのいる旗艦を追い詰めていく。

次々と爆破される駆逐艦。旗艦も被弾し火の手が上がる。

「おのれ…。何をしている、撃て! 撃ちまくれ!」

「なりません! ここは一旦引き下がりましょう。さもなければ爆発します」

「…っ。わかった…。全艦、退却だ!」

悔しげにメルーサがそう言うと、残っている戦艦や駆逐艦がワープして消える。

 

『艦長代理、敵がワープして逃げていきます』

第一艦橋に、四郎の声が響き渡る。

「…深追いするな。あちらさんも修理するまでは出てこられないだろう。戻ってこい」

『了解』

進の指示を受けて、コスモタイガーはヤマトに戻って行った。

 

 

一旦、ガトランティスの艦隊を退けたヤマトとデスラー艦隊。

ヤマトのメインパネルに、デスラーの姿が映し出される。

 

「…ありがとう、デスラー。助かった」

穏やかな表情に戻った進が口を開く。

「いや、奴らを追っていたこともあるのでな。…やはり、また狙われたか」

そう言いつつ進の隣にいる佑介を見。

「…佑介、と言うたか。よく…無事でいてくれたな」

かすかに笑みを浮かべて言うデスラーだ。

急に話を振られた佑介はというと。

「…あ。ご、ご無沙汰してます!…いっで~っ!」

慌ててぺこんと頭を下げた勢いで、思いっきり額を操作台にぶつけてしまった。

それがおかしかったのか、進は思わず吹き出してしまう。

他のクルーたちも笑いをこらえてるらしく、あらぬほうを見ていた。

 

「…古代さん…。みんなも笑わなくてもいいでしょ」

「くく…っ、すまんすまん。…オーバーなんだよ、おまえは」

額を手で押さえてじと目で自分を見ている佑介の頭を、進はまだ笑いの残る表情でぽんぽんと軽く叩く。

ふと見れば、パネルの中のデスラーもおかしげに含み笑いをしていた。

「まったく…初めて会った時も思ったが。どことなくおまえに雰囲気が似ておるな、古代」

まだくつくつと笑いながら、デスラーは進と佑介を交互に見やる。

「…そうか?」

進はそう言い、佑介と目を合わせた。

「ああ。昔のおまえを見ているようだ。…あの頃はまだ『敵』だったがな…」

「…そうだったな」

デスラーと進が互いに懐かしむように目を細めているのを、佑介は不思議そうに見ていた。

 

今はこうして笑い合って話している進とデスラーが、かつては互いを『敵』として見ていた関係であったことなど、佑介には知る由もない。

そして進も、敢えてそれを話すことはなかった。もし佑介がそのことで尋ねたりすれば、話すかもしれないが…。

 

真っ直ぐで、時にとんでもない無茶をして。

そして何よりも、その命を投げ打ってでも相手を守ろうとする思い。

 

この共通点が進と佑介にあると、デスラーは思ったのである。

 

「…ところでデスラー」

進がそれまで笑みを浮かべていたその顔を引き締め、

「あのガトランティスの奴らは、今はどこを拠点として動いているのかわかっているのか?」

真っ直ぐパネルを見上げ、尋ねる。

 

かつての拠点だった超巨大戦艦は、今はもうない。

ならば、新たな場所を見つけているはずだ。

 

「それなんだが、どうやら植民星のひとつを母星として再建しているらしい」

「え。それではその星の者たちが抵抗するのでは…」

進の言葉に、

「私もそう思った。だが…」

デスラーはそう言いつつ、隣のタランを見た。

「私の部下に偵察させたところ、その星の者たちは皆洗脳されたように抵抗をせず、おとなしく従ったようだ」

「洗脳…」

口元に手をやり、考え込むように佑介がつぶやく。

「…あい、つだ…。あの女しかそんなことはできやしない…!」

「佑介…」

 

あの女なら、やりかねない。

自分も危うく、意識に入り込まれそうになったのだから。

 

心配げに見る進の横で、佑介はパネルを見上げ。

「…あの、デスラー総統」

「デスラーでよい」

「…へ」

佑介の呼びかけに、デスラーはかすかに笑んで静かにそう答えた。

「で、でも…」

「総統がこう仰っているのだ。言うとおりにせよ」

畳み掛けるようにタランも言う。だが威圧的な口調ではない。彼も笑っている。

助けを求めるような眼差しで進を見れば、苦笑気味に笑って頷いている。

 

「えと。デスラーそ…」

「デスラー、だ」

再び詰まってしまう佑介。もうここは腹を括るしかないだろう。

「で、デスラー…」

「なんだ?」

恐る恐るという雰囲気の佑介に対して、デスラーは変わらず笑みを浮かべている。

「あの女…アレスのことであれから何か聞いてますか」

デスラーはその名前に僅かに目を見開く。

「…元ガトランティス大帝の娘…だな。おまえたちとの戦いで死んだことは知っているが…。何か聞いてるか? タラン」

「いえ、私は特に…」

タランは申し訳なさそうに首を振った。

「…ですが、噂では今の大帝…ズォーダーの息子ですが、彼は神官のような性質を持つと聞いています」

「…つまり、意識体として存在しているかもしれないアレスを『戦神』と見なして、神託を伝えている可能性もある…ってことですよね」

ふっと剣呑に目を細める佑介を、進は気遣わしげに見ていた。

 

「…いずれにせよ、このままにしておく訳にもいかぬな」

同じように佑介を見ていたデスラーが、口を開く。

「ああ。こちらでも調べてみるが、また何か奴らのことでわかったことがあったら教えてくれ」

「わかった。…では、また連絡する」

そう言って、デスラーの姿が画面から消えるかと思ったが。

「――古代」

「……?」

真剣な表情で呼ばれ、目を瞬かせる。

 

「今度は……しっかり守ってやれ」

 

「!」

進の目が大きく見開く。

誰を、何をとは言わなかったが、進には充分すぎるほどにわかった。

……だから。

 

「――もちろんだ」

強気な笑みを浮かべる進に、デスラーも頷きつつ口角を上げた。

そして片手をあげ、その姿は消えた。

―――メルーサ。もうすぐ第2の白色彗星が完成するというのに、何をしているのです

 

「…申し訳ありません」

どこからか聞こえてくる女性の声に、メルーサは平伏して頭を垂れる。

若き大帝とは思えぬ姿だ。

 

―――本来なら、我々ガトランティス人は古来より旅をする民…。旅は我が先祖の意思。過去から未来永劫へと続くガトランティスの心なのです。一定の地に留まることはそれに反します

 

「はい」

 

―――白色彗星が完成するまでに必ずやあの邪魔者を廃し、次こそ『あれ』を手に入れよ…よいですね

 

変わらぬ威圧的な声。

メルーサは一礼して。

 

「畏まりました、エンプレス。……いえ…『姉上』」

 

 

一方、こちらは宇宙戦艦ヤマト。

 

「―――だーから、大丈夫だって! 少し休んだから」

「駄目デス! 古代サンノ命令デス」

第一艦橋でそんな押し問答をしているのは、佑介とアナライザーだ。

 

ガトランティスとの戦いで、佑介は前に増してその『特殊な能力』を最大限に駆使した。

それは顔色を悪くし、表情にも精彩がなくなるほどに。

もっとタチが悪いことに、本人にその自覚がほとんどないと来ている。

今はいくらか元に戻っているが、そのことを懸念した進が今のうちに佑介を医務室で休ませようと、佑介と仲のいいアナライザーに連れて行ってもらおうと思ったのだが…。

 

「古代さん、本当に俺大丈夫だから」

「だ・め・だ」

懇願するように言う佑介にすっぱり言い切って、

「アナライザー。さっき言った通り佑介をしばらく『入院』させる。直ちに強制連行だ」

「了解シマシタ」

「こ、古代さ~ん」

情けない声になってしまう。

「問答無用」

またもきっぱりと、にべもなく言ってのける進だ。

島や雪たち他のクルーたちは、3人のやりとりにただ苦笑いを浮かべるだけである。

 

「う~…」と唸っていた佑介だが、次の瞬間。

「ぉわ!?」

「佑介サン、往生際悪イデス!」

アナライザーがひょい、と佑介を抱え上げていた。

「ちょお…っ、こらアナライザー! 下ろせよ!」

「下ロシマセン」

「抱き上げるのはいいけど、このカッコが恥ずかしいのっ!」

ロボットであるアナライザーには、身長178cmの佑介ですら抱え上げるのは造作もない。

しかし抱え上げられた状態が横抱き…俗にいう「お姫様抱っこ」というものだ。

佑介は足をばたばたさせるだけで、その体はしっかりと固定されていた。

「デハ、コノママ医務室ニ直行シマス」

「頼むぞ、アナライザー」

吹き出しそうになるのをこらえつつ、進は頷いた。

「後で私も行くから、おとなしくしてなさいね、佑介くん」

雪もくすくすと、悪戯っぽく笑っている。

「雪さんまで…」

がっくりとうなだれる佑介を抱えたまま、アナライザーは真っ直ぐ医務室に向かった。

 

「…やれやれ。佑介も意外と強情だからなあ」

ふたりを見送り、苦笑気味に笑う進に。

「そーゆーとこも、デスラーの言うとおり古代に似てるよな」

「し~ま~…。どーいう意味だ」

にやにや顔で言う島を、進は半眼で見るしかない。

だが。

「…ま、後で俺も行ってみるか」

そう言って目を細める進の表情は、やはり優しかった。

 

ほとんど強制的に医務室に連れて行かれた佑介は、渋々着替えてベッドの端に座るが。

「佑介サン、チャント寝テ下サイ」

「アナライザー…」

「ソンナ顔シテモ駄目デス。私ガ古代サンニ合ワセル顔ガアリマセン」

そこまでアナライザーに言われてしまっては、佑介も観念するしかない。

はあっと一息ついて。

「…わかったよ」

言いながら、ベッドに横になった。

「ジャ、点滴ヲ打チマスカラネ」

アナライザーはそう言い、てきぱきと疲労回復にいいと言われる「ビタミンB」の入った点滴を佑介に処方する。

佑介の時代で言えば、いわゆる「ニンニク点滴」だ。

 

「今回ばかりは、おまえさんの完敗じゃな、佑介」

からからと笑いながら歩み寄ってくる、医師の佐渡酒造に佑介は。

「佐渡先生…」

なんとも言えない表情になる。

「なんというか…みんな過保護ですよ。本当に大丈夫なのに…いてっ」

「そんな顔色して、何を言うとるか!」

酒造は佑介の額をぺちっと叩いていた。

 

「…力になりたい、心配させたくないという佑介の気持ちもわかるが…」

仕方がないという風な笑みになって、酒造は佑介を見る。

「少しは古代たちの気持ちも汲んでやれ」

「先生…?」

佑介は目を瞬かせた。

「あいつらは、あらゆる者を喪っておるからの…。ここが戦艦だということを考えれば、わかるじゃろ?」

こくりと頷く佑介。

 

自分自身も、悪霊や怨霊との戦いで何度も危険と隣り合わせになったことはある。

だが、ここではそれをも凌駕するほどのものだった。

 

「じゃが…、佑介は違った」

「え…?」

話が見えず、僅かに瞠目して酒造を見る。

「佑介も…喪ったと思っておった。あの時はとてもじゃないが…」

当時を思い出したか、一度目を伏せて続ける。

「あいつらの…、特に古代の落ち込みようは見られたもんじゃなかったわい」

「………」

 

本当は、大声で泣き叫びたかっただろうに。

だがそれを隠して、最後まで戦闘班長として…艦長代理として振る舞っていた進。

その姿は見ていて痛々しいほどであった。

 

酒造は穏やかな表情で佑介を見。

「じゃが、こうしてまた戻ってきてくれた。それがとても嬉しいんじゃ、あいつらはの」

「先生…」

 

再会した時の進や雪、島たちの表情を思い出す。

泣き笑いの表情で。本当に自分のことを忘れずにいてくれて、心配してくれていたことがひしと伝わってきた。

 

「それだけ、あいつらにとっても、そして…」

酒造は佑介といる時の、進のあの穏やかな表情を思い浮かべる。

 

たとえ非常時であっても、笑みを絶やすことはなかった。

どんなに険しい顔をしていても、気がつけば優しい笑顔を佑介に向けていたのだ。

 

「古代にとっても、おまえさんは大切で可愛い弟…『家族』なんじゃよ、佑介」

「……!」

「だからあいつは、何が何でも佑介を守りたい…喪いたくないんじゃ」

「佐渡…先生…」

 

――もう、おまえを『喪う』のは嫌なんだ!

 

――…また…、あの時みたいになったら、俺は…っ…

 

佑介の脳裏に、苦しげに顔を俯かせた進の姿がよぎった。

 

ぎゅっと、こらえるように目を閉じる。

 

「今は…古代や皆に、思いっきり甘えてやれ。佑介がひとりで背負うことはない」

にっこりと笑う酒造の姿に、佑介は咄嗟に掛け布団をかぶった。

「…佑介? どうしたんじゃ」

怪訝そうに覗き込む酒造の耳に、

「――るよ…」

「え?」

 

「…みんな…、本当に優しすぎるよ…!」

 

布団をかぶっているので表情はわからないが、きっと――泣いている。

佑介の潤んだ声がそれを物語っていた。

酒造はふっと目を細め、見えているその頭を「今は休め」とばかりにぽん、と軽く叩いた。

 

そして…近くの衝立の向こうでは。

 

「………」

 

進が目を閉じて、酒造と佑介の会話を聞いていた。

盗み聞きするつもりはなかったが、その内容に体が止まってしまったのだ。

 

酒造が、そのまま代弁してくれたから。

――自分の“想い”を。

 

佑介が、なぜあそこまでになるのかは正直わからない。

ただ…ふとした言動の中で、

 

「自分がしっかりしないと」

「できることなら周りを巻き込みたくない」

 

そういう思いが伝わってくることはあった。

 

進たちは知らないが、佑介がまだ3歳の頃にその秘められた強い『力』を狙って復活した鬼の怨念によって、佑介の父・祐孝が命を落としている。

長じてそのことを知った佑介は『力』を持っていたのになぜ父を助けられなかったのかと、強い自責の念に駆られ、自暴自棄になってしまったものだ。

 

今はすっかり立ち直っているが、その出来事からそういう思いが強く根付いていると言ってもいい。

だから、佑介はああも無茶をしてしまう。

 

進はどうあっても、それだけはさせたくなかった。

ひとりで背負い込むなと…。自分や、ヤマトクルーもいるのだからと。

 

「今は…ゆっくり休めよ。佑介」

ぽつりと呟いて、進は静かに医務室を出た。

「…タラン。確かにこの星に間違いないのか?」

「はい、偵察隊の報告によれば…ですが」

 

銀河系核恒星系からかなり離れた名も知らぬ星。

デスラー艦のパネルには指揮官らしきガトランティス系の男や、艦載機に乗り込む無表情の兵士たちが映し出されていた。

「今まで戦った艦載機は、確かにこの辺りから現れてはいたが…。それにしてはどうにも腑に落ちんな」

「私も同感です」

 

先ほどから改めて見ていれば、ここが敵の本拠地というよりは、拠点のひとつという雰囲気だ。

かつてのガミラスで言えば、冥王星や七色星団のように。

 

「第一、ガトランティスの奴らが一定の場所に収まる訳がない…」

 

そう言うデスラーの目が、遠くを見るような視線になる。

 

「――タラン、覚えておろう。かつての白色彗星帝国に身を寄せていた頃、前大帝のズォーダーが言っていたことを」

「もちろんでございます。『ガトランティス人は古来より旅をする民。旅は我が先祖の意思。過去から未来永劫へと続くガトランティスの心なのだ』と…」

タランの言うことに、デスラーは頷き。

「そうだ。…もし、ズォーダーの息子である今の大帝がその思想を軽んじてなければ、あのように一ヶ所に留まると思うか?」

「!」

タランの目が大きく見開く。

「総統、それでは」

「憶測に過ぎぬが…。予想が外れてなければ、連中は…」

デスラーの脳裏に、あの少年の姿がよぎる。

「連中はおそらく、第2の白色彗星をつくるつもりだ。そしてそのためにあの少年…佑介の『力』を利用しようとするかもしれん」

「至急に、ヤマトに知らせなければ…!」

「むろんだ。そんなことは絶対にさせん」

デスラーの目が剣呑に光る。

 

――そう。

あの時の二の舞には、断じてさせない。

 

「タラン、ヤマトの現在位置を調べろ。判明次第、通信可能地点までワープする」

「はっ!」

タランが一礼して出ていくのを見送って、デスラーは目前の宇宙を見据え…。

 

「また…つらい戦いになりそうだぞ、古代…」

 

ぼつりと独りごちた。

 

 

「古代さん、デスラーから入電です」

相原がそう言うと、メインパネルにデスラーの姿が映し出された。

「デスラー」

「古代、先日話したガトランティスの拠点を見てきた…。だが」

デスラーはすうっと目を細めて。

「あの星は、奴らの本拠地じゃない。拠点のひとつに過ぎん」

「やはり…そうか」

進の顔に落胆の色がにじむ。

 

「古代たちは知らぬかもしれんが…私から見れば、ガトランティスの奴らが一ヶ所に留まるとは思えん」

「どういうことだ…?」

進の問いかけに、デスラーはふと目を伏せた。

「私がかつて、ガトランティス…白色彗星帝国に身を寄せていたことは覚えておろう」

「…ああ」

「その頃に、ズォーダーが話していたことがあるのだ」

そこで再び、視線を進に向けて。

「ガトランティス人は古来より旅をする民。旅は我が先祖の意思。過去から未来永劫へと続くガトランティスの心なのだ…とな」

進の目が僅かに見開く。

「だから、父親の…ガトランティスの思想を否定していなければ、息子であるメルーサも同じことをするはずだ」

「それは…つまり」

掠れたような進の声。

「おそらく、奴らは第2の白色彗星をつくるつもりだ。そして…」

僅かに躊躇いつつも、デスラーは告げた。

「そのために、佑介の『力』を利用しようとしているかもしれんのだ」

「なん…だって…!?」

ヤマトクルーたちの顔に、驚愕の色が広がる。

 

「…それじゃ、敵は別のところにいるはずですね」

 

「…佑介!」

不意に聞こえた声に皆が振り返れば、佑介が歩み寄ってくる。

「佑介サン、マダ本調子ジャアリマセン! 戻ッテ下サイ」

後から慌てたようにアナライザーも入ってきた。

「大丈夫。…曲がりなりにも俺は、今はここの人間なんだし」

「! …佑介…」

それを見ていた進が、目を細めて佑介に近づく。

「…本当に…大丈夫なのか?」

「やだなあ。このとーりだよ」

佑介の肩に手を乗せ、心配げに顔を覗き込む進に、屈託のない笑みを見せる。

 

確かに、顔色はすっかり元通りになっている。

だが、中身もそうとは限らない。

 

「もうすっかり…ヤマトの一員だな、佑介」

「え」

パネルを見上げれば、デスラーがどこか優しげに口角を上げて見ていた。

「…ああ。今は立派なヤマトクルーだよ、佑介は」

乗せていた手でそのまま佑介の肩を抱き、誇らしげな笑みを浮かべる進だ。

そうされた佑介は照れくさそうにしている。

デスラーも更に笑みを深めた。

 

だが、佑介はその顔から笑みを引っ込めて。

「…デスラー、少し聞きたいことがあるんですけど…」

躊躇いがちに切り出した。

「ん、なんだ?」

「デスラーの本星の位置は、どのあたりなんですか?」

何故そんなことを聞くのか、という風に僅かに目を見開いたデスラーだが。

「今は銀河系核恒星系のガルマンガミラス本星だが、かつては大マゼラン星雲サンザー太陽系のガミラス星がそうだった。今はなくなってしまってるがな」

「そうですか…。すみません、つらいことを聞いてしまって」

なんとも言えない表情で話すデスラーに、謝る。

「いや、気にするな」

デスラーはふっと目を細めるのだった。

 

「佑介、そのことが何か関係あるのか?」

進の隣に立っていた島が尋ねる。

「確信はないんだけど…、デスラーと、そしてこのヤマトの動きをすぐに感知できるとしたら、ガトランティスの連中は近くにいると思って…」

考え込むように、口元に手をやり。

「かといって、連中も馬鹿じゃない。すぐ見つかってしまうところに本拠地を置くわけがないし…」

「確かにそれはそうだな」

真田が同感という風に頷く。

「近いようで、すぐにはわからない場所か…」

その横で太田も考え込んでいる。

 

その時、佑介が思い出したようにはっとした表情になる。

「…大マゼラン星雲というと、近くに小マゼラン星雲がありますよね?」

「ああ。そこにもかつての私の小マゼラン方面軍の残存艦隊があるはずだが…」

そこまで言って、デスラーも目を見開く。

「…どうした、デスラー?」

進がその様子に訝しむと。

「いや…。今思い出したんだが、ガルマン星を見つけるまでに、小マゼラン方面軍が突然現れた謎の艦隊に襲撃されたことがある」

「……!」

「本当に気づかぬうちに…だったらしい。今思えば、もしかしたらあれが…」

デスラーの隣のタランも合点がいったような表情になった。

 

「じゃあ、奴らが…メルーサがいるのは小マゼラン星雲の可能性もあるってことか!」

「灯台下暗しってヤツだな、こりゃ…」

相原と南部が顔を見合す。

「デスラー。少しでも可能性があるなら俺たちは今から小マゼラン星雲に向かう」

進がパネルを見上げる。

「あの大帝を…メルーサさえ倒せば、今度こそガトランティスは崩壊する…!」

「うむ。こちらもすぐに向かう。…また、あちらで」

「ああ」

お互いに頷き合った後、画面からデスラーの姿が消えた。

 

 

「ヤマトはこれより連続ワープに入る。総員、準備にかかれ!」

艦内中に、進の声が響き渡る。

ヤマトのワープ距離は、1回で最大2000光年といわれている。

だが、今はスーパーチャージャーの波動エンジンとなっており、もっと長くなっているかもしれない。

第一艦橋でも、一斉に皆が持ち場に戻る。佑介も島とは反対の進の隣の席に座る。

……が。

 

「うわ!?」

座るなり、がくんっと後ろに倒された。

ふと見れば、背もたれを倒したのは進だった。

「初めてのワープはきついからな。横になってたほうが割合楽だ」

言いながら、佑介の席のベルトを固定していく。

「体中の力を抜け。なんなら目を閉じていろよ」

「う、うん…」

戸惑うような表情の佑介に少し笑い、ぽんとひとつその頭を軽く叩いて席に戻る。

 

「…ワープ10秒前。9、8、7、6…」

凛とした島の声が響く。

「…3、2、1、ワープ!」

 

それと同時に、ヤマトの姿がシュン! と消えた。

 

その後、何度かヤマトの姿が現れては消え。

そして――

 

 

「…着いた…な」

進が鋭い瞳で前を見据える。

「ここが…小マゼラン星雲…」

むくりと佑介も身を起こした。

 

目の前には、鮮やかな色彩の星々が拡がっていた。

 

「佑介くん、急に起きちゃだめだよ」

相原が声をかけるのと同時に、

「へ…?」

僅かにくらっとする感覚に襲われた。

「馬鹿、病み上がりで無理するな」

「病気じゃないんだから、病み上がりじゃないんだけど…」

「倒れりゃ同じだっての!」

突然の進と佑介の掛け合いに、こんな状況なのに思わず笑いがこぼれてしまう。

「古代さん、“兄弟喧嘩”なら他でやってくださいよ~」

「兄弟喧嘩って…あのなあ」

笑いながら突っ込む太田に、じと目になる進だ。

真田や雪、機関長の山崎もしょうがないなという風に笑っている。

……だが。

 

「あそこに…あいつが、メルーサがいるかもしれないんだ…」

 

低くなった佑介の声に、進は振り返って目を僅かに見開いた。

 

―――『あの時』と、同じ瞳。

 

進とコスモタイガー隊長の加藤四郎がズォーダーの娘・アレスに囚われた時、佑介が自分の聖剣でアレスを刺した時に見せた表情。

ぞっとするほど、冷たく鋭い光を宿した瞳。口元に浮かんでいた笑み。

これがあの佑介なのかと、信じられないくらいだった。

 

「佑介」

 

佑介の肩が、それにびくんと反応したようだ。

「え…」

進を見る佑介の瞳には、既にその片鱗もない。

 

進はぐっと佑介を自分のほうへ向かせ、その肩を両手で抱き、

「…いいか。思い詰めて、絶対にひとりで突っ走るんじゃないぞ」

「古代…さん」

「俺や、みんなもいるんだ。つらかったら頼れ。…わかったな?」

この上もないほど、真剣な表情でそう言う進。

佑介はただ、頷くことしかできなかった。

 

そしてふたりは、目の前の星雲を見つめるのだった。

 

 

【後編へ】


 
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