No.89405

真・恋姫無双~魏・外史伝30

 こんばんわアンドレカンドレです。
書いては消して書いては消しての繰返しでこんな時間まで
掛かってしまいました。まぁ、こんな事が出来るのも長期休暇の特権ですね~。
 そんなわけで真・恋姫無双~魏・外史伝~第十四章~君は何がために・中編~をどうぞ!!

2009-08-12 04:27:33 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:5459   閲覧ユーザー数:4575

第十四章~君は何がために・中編~

 

 

 

  一体何が起きたのであろうか・・・。

 星の思考はただそれ一点に絞られていた。

 自分は今、蛸の様な得体の知れない物体を討ち取ったと思い、近づいたならば息を吹き返したそれに反撃を許した。

 もう駄目だ、とそう思った瞬間・・・、ぎりぎりの所で救われた、というべきなのか?龍牙に刺し貫かれていたそれは姿を消し、今度は目の前に男が現れた。その男は嬉しそうにこちらを見ている・・・。

 しかし、どうしてだろうか、助かった・・・とは微塵に感じえなかった。むしろ身の危険をより一層感じていた。

  「うっふっふふふ・・・。」

  彼女の目の前に現れた謎の男・・・、その跳ね上がった特徴的な髪型、この時代には珍しい鼻眼鏡、全身を赤い服で

 身に纏った。何が愉快なのだろうか・・・、男はさっきからにやにやと腹立たしい程に笑っている。

  「・・・・・・。」

  星は迷っていた。素直に助けてくれた事に礼を言うか、それとも身の危険を優先しこの男を・・・。

  「お主・・・。」

  「・・・?」

  「・・・とりあえず、危ない所を助けられたようだな。礼を言う。」

  素直に助けてくれた事をに礼を言うという選択支を選んだ。男は星の言う事を理解出来ないかのように

 眉をひそませ首をひねる。

  「・・・・・・。ああ!そう、そういう事!君も律儀な人なんだねぇ~。でも別に助けたつも

  りじゃなかったんだ。」

  「・・・?」

  成程、と言わんばかりにたちまち満面の笑みに変え、ケラケラと笑った。その後、訂正するかのように言葉を続けた。

  「さっき君を襲いかかろうとしたあのタコ君~、前に僕の所から逃げ出した奴でさ~。ず~っ

 と探していて今日やっと見つけたわ・け・!で、その時たまたま君が襲われかけていただけって 話さ!」

  男の話に星の眉が反射的に動く。嬉しそうに話終えた男、星は彼に今自分が一番知りたい事を尋ねた。

  「・・・つまり、あれは貴様の所有物か。」

  「そうだよ♪でもそれがな・・・」

  星は地面に突き刺さった龍牙を手に取る。地面から抜き取るとそのまま話の途中の男に横薙ぎの一撃を放った。

  ブウォンッ!!!

  「あっぶないな~。人に聞いておいていきなり斬りにかかるなんて・・・非常識もいい所だぁ~!」

  「・・・っ!」

  彼女の神速の攻撃、しかし男は避けていた・・・どうやって避けたのか。男はいつの間にか星の後ろに立っていた。

  「貴様、今・・・何をした?」

  完全に後ろ取られた星。その後ろに立つ男にそう聞いた。彼女の後ろを取った余裕からか、男はふふふ・・・と声を

 もらした。

  「聞いたところで、君達には到底理解出来ない事さ・・・。」

  そして、男は左腕を振りかぶるとそのまま星の首に掴みかかろうとした。

  「ふっ!」

  星は自分に向かって来た左腕を左肩の上を通らせるように体をずらし、男の左腕が伸びきった所を柔道で言う

 背負い投げのように腕を掴み、そのまま投げ飛ばした。

  「おわっ!?」

  投げ飛ばれた男は宙で体勢を整え、そのまま足から着地した。

 星は男との距離を取るべく、後ろへと下がる。

  「・・・星、こいつさっきのタコよりもっと・・・、危険。」

  そこに恋も加勢するべく、星の横に並ぶ。

  「そうであろうな・・・、さっきから武人としての勘が私にそう言っている。」

  「いや、危険って・・・。僕は別に君達に危害を加えるつもりはないって。」

  「よく言う・・・、貴様の所有物のせいで我々はかなりの被害を受けたのだぞ!」

  「そうなのです!あの黒いタコのせいで音々達はひどい目にあったのですぞ!!」

  星は槍を握る手に力を込める。星と音々音の責めに男は困った顔をする。

  「そうかもしれないけど・・・、でもそれは僕じゃなくてタコ君のせいだって・・・。」

  「ならば、そのタコ君とやらを今一度ここに出し、我々に引き渡してもらおうか。」

  「・・・引き渡せば、僕を見逃してくれる?」

  「うむ、考慮してもいいだろう。」

  「だが、断る!」

  「何っ!?」

  「僕がこの世で好きな事の一つは、自分が強いと思っている奴の鼻を挫いてやる事なのだ!」

  「・・・な、何という好き勝手な事を言う男なんです。怒りを通り越して呆れるのです。」

  えっへんと胸を張って言う男に、音々音は呆れ半分の心境であった。

  「それにタコ君はすでに僕の研究所に飛ばしちゃったから、もうここにはいないんだよ。分かる?」

  「・・・そうか。ならば、いたしかたない。ではそのタコ君に代わって、お主に投降して貰おう。」

  「・・・いやだ、って言ったら?」

  先程までへらへらと笑っていた男の表情が一瞬別のものに変貌した。

  「・・・出来ればそう言って欲しくは無いが・・・な。」

  「そう・・・、ふふふ・・・。じゃあいやだ。絶対・・・!君達に投降しない!」

  「断言するか・・・。では、止むを得まいな!」

  男との間合いを取った星はそのまま突撃していく。

  「実力行使させてもらう!!はあぁぁあああああーーーっ!!!」

  星の龍牙が男に牙をむく。

  ブウオンッ!!!

  「おっとと!」

  しかし、男は星の一撃をことごとく足捌きと体捌きを巧みに使う事で、横薙ぎ、振り下ろし、突き、

 さらには連続の突き、それらを男は紙一重に避けていった。それはまさに蝶が舞う様に。それでも星は攻撃

 の手を緩めなかった。

  「な、何と・・・!あやつ、へらへら笑っているだけかと思っていましたが・・・。

  趙雲殿の攻撃を全て交わしているのです。」

  「・・・それも、全部紙一重。」

  男の意外な動きに恋と音々音は驚きを隠せなかった。

  「そう言えば、この外史の君達にはまだ言っていなかったよね?僕の名前は・・・『女渦』。

  女の渦と書いて女渦。よろしくね♪」

  「断る!」

  星の攻撃を交わしながら、男は自分の名をへらへら笑いながら名乗ったが、星はそれを一蹴した。

  「星・・・っ!!」

  「恋っ!!」

  「え・・・!?!?」

  ブォウンッ!!!

  女渦の隙を突くかのように、恋が天下無双の豪撃を放つ。星は恋の動きに合わせ、その一撃から免れたが

 女渦は思わぬ介入に対処出来ずそのまま巻き込まれた。恋の一撃により、地面には大きなくぼみが出来ていた。

 女渦はそのくぼみの側でやや仰向け気味に倒れ、そのくぼみを目を丸くして見ていた。

  「ふぉえ~・・・、さすが天下無双・呂布奉先だ。」

  半ば感心していた女渦の目の前に方天画戟の切っ先が現れる。

  「もう・・・、逃げられない。」

  方天画戟の切っ先を辿ると、それを握りしめる恋が女渦を見下ろしながら立っていた。

 そんな状況下でも女渦はにやにやと笑っていた。

  「・・・そんな無関心な目で見降ろされる。ちょっとゾクゾクってきちゃうねぇ・・・。」

  「・・・?・・・降参、する?」

  恋は女渦が言おうとしている事が分からなかったが、とりあえず彼の意思を訪ねた。

  「いや、降参はしないよ。」

  「・・・っ?」

  「な、何と・・・!?一体いつの間になのですか!?」

  恋が牽制していたはずの女渦の姿は無くまたしてもいつの間にか、今度は恋の後ろに腕を組みながら立っていた。

  「・・・よし決めた!君も研究所に連れて行こう・・・。」

  何かを思いついたように掌を叩きながら、女渦はそう言った。恋はすぐさまに振り返ると戟を構える。

  「・・・行かない。知らない人について行っちゃ駄目って、桃香達に言われてる・・・。」

  日ごろからの桃香達の教育の賜物といった所だろうか・・・。恋は女渦の誘いを頑なに拒んだ。

  「そうなんだ・・・。ふふっ、でも勘違いしないで。僕は君の答えなんか聞いていないよぉ?」

  そう言って、女渦は恋へと近づいて行く・・・。

  ブォウンッ!!!

  恋は何か危険を感じたのか、すかさず余裕を見せる女渦に一撃を放った。

 

  ポンッ!!!

   

  それはまるで長い間開封されずにいた蓋を力を込めてようやく取れた時に聞く空気の破裂音にも似た音が

 周囲に鳴り響き、風が吹き抜ける・・・。

  そこには左手を手前に出した女渦のみ・・・。彼に一撃を放ったはずの恋の姿が何処にも無かった。

 

  星は唖然とする、まただ・・・あの時と全く同じだ。星は蛸状の物体が消失した時の一連を思い返す。

 奴はどのような原理・手段で、一瞬にして消してしまったのだ?手品の類ならば、消す前に布か何かで消す

 対象を隠してから消す・・・、この対象を隠す動作に必ず種や仕掛けが存在する。が、目の前で繰り広げられた

 それは種も仕掛けもないものであった。本当に一瞬にして恋の姿が消えてしまったのだ・・・。

  「れ、恋・・・殿?」

  何度もまばたきをする音々音。今度は服の裾で目を擦る。が、それでも恋の姿を見つけられなかった。

  「れん、どの・・・?恋殿・・・。恋殿ーーーーーーーーーーっ!!!!」

  音々音は辺りをくまなく探す。

  「恋殿ー!何処に行かれたのですかーーー!!隠れていないで、出て来てくださいなのですーーー!!」

  音々音の両目から涙が落ちる・・・。が、彼女の努力も空しく恋を見つけられなかった。

  「あーーっはっはっはっは!!!その辺を探したって見つかるわけ無いじゃあないか!!」

  「ど、どういう事なのですか!?分かるように説明するのです!!」

  大爆笑する女渦に、涙目ながらに問いただす音々音。

  「くっくっく・・・ふぅ、彼女は僕ご自慢の研究所に招待してあげたのさ!今頃、研究所の檻の中で

  お寝んねしているんじゃないかなぁ?」

  「今すぐ・・・、今すぐに!ここに恋殿を戻すのです!!」

  「ああそれは無理だよ。さっきのタコ君同様、すでに僕の研究所に飛ばしちゃったから。

  一旦研究所に行かないと駄目なんだよね~。」

  「・・・だったら、お前の研究所まで案内しろなのです!!」

  「そう簡単に僕が、はい分かりました、な~んて言うと思う?」

  「だったら、力づくで言わせてやるのです!!お前達!!」

  怒りで頭に血が昇っている音々音は兵士達に号令を出した。

  「待て、音々!!勝手に兵を動かすな!」

  「趙雲殿は黙っているのです!!お前達、奴を捉えるのです!捉えた者にはいつもの倍の給金を

  支払ってやるのです!!」

  その彼女の言葉に、兵士達の士気は一気に上がる。そして武器を持った兵士達は我先にと女渦へと突進していった。

  「お前達!音々の言葉に乗せられてはいかん!!」

  だが、金に目がくらんだ兵士達の耳にはそんな彼女の言葉など入らなかった。

  「ふぅ・・・・・・。」

  やれやれと、自分に向かって来る兵士達に目をやる。

  「でやあああっ!!」

  「うおおおおっ!!」

  「ぬおおおおっ!!」

  兵士達は女渦を捕まえようと一斉に飛びかかる。

 

  ポンッ!!!

 

  恋が消失した時同様、破裂音が鳴った。

 気が付くと、女渦に飛びかかった数十の兵士達の姿が何処にも無かった。

  「そ、そんな・・・あれだけの数の兵を一瞬で・・・?」

  音々音の怒りは一瞬にして恐怖へと変貌し、後ろへと後ずさる・・・。

  「きええええっ!!」

  一人の兵士が女渦に勇敢にも立ち向かっていく。

  「ほっ!」

  しかし、女渦は右手で手刀をつくると兵士の頭に振り降ろした。

  ザシュウウウッ!!!

  不思議な事に手刀は兵士の脳天を抉った様に割り、そのまま下まで切り裂いて真っ二つにしてしまった・・・。

  「ひ、ひいいい!!」

  「化け者だあああっ!!!」

  「あんなのに勝てる訳が無いぞ!!」

  先程まで高かったはずの兵士達の士気はすでにどん底まで下がってしまっていた。

 このままではいけない・・・、星はこの状況を打破するべく行動をとった。

  「音々、ここは兵をまとめて先を急ぐぞ。」

  「何ですと!恋殿を諦め、逃げるというのですか!?」

  星の判断に怒りを示す音々音であるが、それでも星は言葉を続ける。

  「我々の目的はこの先にいる孫策殿達と合流する事だ!ここで全滅するわけにはいかないのだ。」

  「し、しかし・・・恋殿が、恋殿が・・・!!」

  「甘ったれるな!!」

  「ひぃっ!?」

  駄々をこねる音々音に対して星は一喝した。その一喝に怯む音々音、まるで母親に叱られる子供であった。

  「貴様の駄々でこれ以上兵士達を無駄死にさせる気か!!彼等は桃香様が我々を信じているからこそ

  大切な兵達を我々に託して下さったのだ!!それをこのような場所で、このような変態に殺させるわけ

  にはいかんのだ!!」

  「うぅ・・・。」

  今にも泣きだしそうな顔をする音々音。しかしそこは耐えながら、分かったという意思表示として

 その首を縦に振った。

  「では急ぎ、兵をまとめろ!」

  「そんな簡単に僕が逃がすとでも思っているの?」

  そこに女渦が割って入って来た。

  「ああ、そうさせてもらうつもりだ!」

  そう言って、星は女渦に強烈な突きを放つ。

  ブウォンッ!!!

  「おっと!」

  女渦はその突きを体をくの字にしてかわした。星はすぐに龍牙を引っ込め、女渦と距離をとる。

  「急げ!奴は私が引き留めておく!」

  「分かったのです!皆、急いで出立の準備をするのです!!」

  音々音は星の言葉に従い、兵達に指示を出していく。

  「うっふふふ・・・、健気だね~趙雲ちゃん♪自分が囮になって皆を逃がそうって?」

  「さてなぁ、私は囮になるなど一度も言ってはいないのだがな。」

  にやにやと笑う女渦に対して、不敵な笑みをこぼす星。

  「そう?だったら今度はこっちから攻めてみよう・・・かな!!」

  女渦は地面を踏みしめ、その体からは想像もつかぬような速さで星との距離を縮めていく。

  「ふんっ!!」

  女渦が左手を差し伸ばしてきた瞬間、それをかわすとすかさず身をかがめ女渦の足を龍牙で払う。

 しかしそれを読まれていたのか、女渦は体をひねらして一回転させる。そして一回転の勢いに合わせ

 手刀にした右手を星の首に振り放った。

  「ぐっ、甘い!」

  星は上半身を後ろに倒す事でそれを紙一重で避ける。その際、彼女の髪の毛が宙を舞った。

 再び足を地面につけた女渦は星の方に体を向けると、そこに龍牙の切っ先が飛んでくる。

  「うおわっと!」

  女渦は驚きながらもそれを体を右と左と捌く事でその突きの連続を避けていく。

 星はその隙に後ろに一歩二歩とステップを踏むように下がり女渦との距離を取ったが、星はそこで

 気が付いた。 

  「ぬぅ・・・!?」

  龍牙の二本の角状となっている切っ先がごっそりと無くなっていたのだ。星はとっさに女渦の方を見た。

 相変わらず、にやにやと笑っていた・・・。無惨な姿と化した自分の愛槍に悔しさが顔に出る。

  「可哀そうな趙雲ちゃん・・・、ご自慢の槍が無残な姿に。悔しいねぇ~、悔しいねぇ~♪

   ま、やったのは僕だけど!」

  それが分かっているかのように、女渦は嫌みにも似た台詞を星に吐きかけた。だが、星は龍牙を再び構える。

  「あれ?まだそんなので戦う気ぃ?よっぽどお気に入りだったんだね~?」

  「如何にも!この龍牙、あの乱世を共に駆け抜けてきた私が最も信頼する武器。例えその牙を失おうとも

  ・・・、戦う術はある!はぁぁぁあああーーーっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  気合いと共に龍牙の振り払いの一撃を女渦に放っていく。その攻撃を女渦は何事も無いかのように避けていく。

 攻撃の隙をついてくるように女渦は星に手を伸ばしていく。常人よりも長いその手足によって、本来届くはずの

 無い間合いからでも彼の両手が星に襲いかかって来る。奴の手に触れられたならば、それ即ち敗北を意味して

 いる。星は女渦の手を彼と同様、体捌きと足捌きを上手く使ってかわししていた。

  「うふふふ♪楽しいね~。こんな風に必死になって僕を殺そうと仕掛けて来る・・・。最高ぅ!」

  「そうか・・・、だが生憎私は全く楽しくないのでな!早い所、貴様を叩きのめして先を行く皆の後を

  追いたいと思っている!!」

  バシッ!!!

  「くっ!?」

  龍牙を右脇で挟んで星の動きを止めた。

  「追いかける・・・か。果たしてそれはどうかなぁ?」

  「ほう・・・?それはつまり私が貴様に負けると、そう言いたいのか?」

  「いや、そう言う意味じゃぁ無いさ。仮に、君が僕を負かして後を追ったとしても・・・生きている

  あの兵士さん達と合流できないかもって話さ。」

  「何だと・・・、貴様道中で伏兵を張って来たというのか!?」

  「いやいや・・・、僕は1人でここまで来たから伏兵なんて張れるはずも無い。」

  「では、どういう・・・!?」

  星の問いに答える前に、おもむろに左手を頭上よりも高く上げると、パチンッと指を鳴らした。

 

  ここより少し先を言った林道・・・、音々音は隊を率いていた・・・。

  「ん、何だあれ・・・?」

  行軍していた一人の兵士がふと空を見上げて何かを見つけた。

  「おい、皆あれ見てみろよ!」

  兵士は周囲の兵士達に声をかけ、空で見つけたものを確認し合う。

 それは前を走っていた音々音にもその声が聞こえていた。

  「どうしたのですか・・・、何を騒いでいるのです?」

  音々音は近くの兵士に尋ねてみた。

  「はっ、どうやら空から何かが降ってきている・・・みたいな。」

  「?雨が降って来たのですかな?」

  そう言って、音々音も他の兵士同様空を見上げる。空はところどころに雲が浮いてはいたが雨を

 降らせるような雨雲は無かった。

  「・・・ん?何ですかな、あれは?」

  それは彼女にも見る事が出来た。空から何かが降って来ている事を・・・。

  「皆ー、行軍速度を速めるぞ!急ぐのですーーー!!」

  音々音は空から降って来るものの正体に気が付き、行軍速度を速めるよう進言した。

 だが、すでに手遅れであった・・・。

  「ぐぎゃあああっ!!!」

  突然、後ろの方から断末魔が聞こえる。

  「うぎゃあああっ!!!」

  そしてまた別の所からも聞こえる。

  「陳宮様!速くお逃げ下さ―――、がああああっ!!!」

  隣にいた兵士の背中に一本の剣が上から突き刺さり、口から血を吐きだした。

  「ひ、ひいいいいーーーーーーーーーー!!!」

  それをあるがままに見ていた音々音の叫びがこだまする・・・。

 誰も予想だにしていなかった敵の攻撃に為す術が無かった。

 今日この日・・・、この大陸の一部限定の地域にて剣、槍、戟などの刃の雨が降る・・・。

 その雨は、その地域を通りかかった者達全てに等しく降ったという・・・。

 

  「何のつもりだ、貴様?」

  パチンッと指を鳴らした女渦に改めて問いただす。

  「さて・・・何のつもりだろうね・・・。僕を倒して彼等の後を追いかけてみれば、

  僕がした事も・・・わかるかもねぇ~。・・・でも。」

  女渦はそこで息をつく。

  「行かせはしないけどね・・・。」

  「・・・!」

  星は気が付く。が、すでに遅かった。

 またしても女渦に後ろを取られてしまった。分かっていたはずなのに、それに対処出来なかったのだ。

 ほんの一瞬、意識が別の所に向いてしまったからだろう・・・。たった、ほんの一瞬が、命取りとなってしまった。

 対処しようにも、すでに彼女の右腕は女渦の右手に掴まれていた。振りほどこうにも彼の手から解放されなかった。

 幸いな事に、彼の右手に触れられているのに星の右腕がまだ健在であった。同時に彼の左手は星の顎を捉えていた。

 星は女渦によって体の自由を奪われていた。 

  「・・・・・・殺せ。」

  星は自ら敗北を認めた・・・。ひと思いに殺せと背中の方の女渦に言った。

  「それってつまり、自分の運命を僕に委ねるって事だよね?」

  女渦は星の言葉を自分なりに解釈した。

  「そう、受け取っても差異は無かろう・・・。」

  「前に消した外史の君も全く同じ事を言っていたね・・・。あの時はそのまま殺しちゃったんだけど、

  今回はどうしようか。」

  外史だの何だのと、この男は何を言っているのだろう・・・、星は心の中で呟いた。

  「じゃ、君も僕の研究材料になってもらおうかな♪」

  この時、星は桃香達の姿を思い描いた・・・。

 

  ポンッ!!!

 

  破裂音が響く・・・。そしてそこに残るは、女渦一人・・・。

 

  別の頃・・・、刃の雨が降った場所。

 道に至る所に空から降ってきた大量の剣、槍、戟が突き刺さっていた。そしてそこを偶然通りかかった

 兵士達も体を刃に刺し貫かれ、大量の血を吐き出していた。

  「う、うーん・・・!う~ん・・・!」

  そんな悲惨な光景の中、もぞもぞと動く影があった。

 あの刃の雨から奇跡的に生還していた少女がただ一人いたのであった・・・。

 その少女は、周囲にいた兵士達が空から降って来る刃から彼女を守るため、自らを壁とし命と引き換えに

 救ったのであった。

  「う、う~ん・・・!こ、困ったのです・・・。足が抜けなくなっちゃったのです。」

  すでに肉塊と化した兵士達は、少女の上に圧し掛かる形に倒れ少女の足を抜けなくしていた。

  「手を貸してあげましょうか?」

  そんな彼女の前に、左手が差し伸べられる。

  「おぉ!助かったのです!」

  少女は何の考えもなしにその左手を掴んでしまった。

 少女は、自分を助けてくれようとする者の顔を見ようと、顔を上げた。

 その表情は助かったという安著に染まっていた。

  「・・・!?!?」

 が、顔を上げ、その者の顔を見た瞬間・・・それは恐怖と絶望に一気に染まり代わった・・・。

 そんな少女の表情が変貌するのを見て、左手を差し伸べた者は不敵な笑みをこぼした。

 

  ポンッ!!!

 

  今日で四回目の破裂音が響き渡る・・・。

 すでに日は暮れ、夕方の頃となっていた・・・。

 

  同時刻、ここよりさらに離れた・・・蜀と呉の国境の蜀側に近い場所。

 その開けた土地にて呉軍は天幕を張り、夜に備えていた。

  その中で最も大きい天幕・・・、そこには呉王孫策と軍師周喩がいた。

  「・・・それにしても遅いわねぇ、星達。」

  「予定では、すでに合流しているはずなのだが・・・、向こうで何か問題があったのだろうか?」

  「すでに例の集団に出くわしちゃったのかしら?」

  「斥候を放って、情報は集めているのだがな・・・。蜀内に入ってから連中の動向が完全に

  途絶えてしまった。可能性としては無いかもしれないが・・・。」

  「やっぱり・・・もっと先を急げばよかったわ!」

  「雪蓮・・・、何を言おうとしているかは分かるがこの辺りは人の手があまり入っていない未開の地・・・。

  幸いこの開けた地を見つけられたが、この先しばらくは道なき道を突き進む事なる。土地勘の無い我々が

  これ以上・・・。」 

  「あーあー、聞こえなーい!!」

  冥琳の説教にも似た長い話を聞きたくないと、いわんばかりに雪蓮は両耳を塞いでそう言った。

  「・・・・・・。」

  そんな呉王の姿を見て呆れる冥琳。そして、雪蓮は子供の様に頬を膨らませる。

  「そんな事言わなくたって分かってるわよ・・・。それに、星の事だから仮に出来わした

  としても上手い事切り抜けられるでしょうしね。」

  「・・・・・・。」

  「何よ冥琳、その顔は~?まだ何か言いたいの?」

  「別に・・・。」

  「もう~・・・、何よそ・・・。」

  緩んだ表情であった二人の顔が一気に引き締まる。

 雪蓮は側にかけてあった南海覇王を手に取る。冥琳もそれに合わせて雪蓮の後ろへと下がる。

  「出てきなさい。そこにいるのは分かっているのよ!」

  南海覇王を鞘から抜き取った雪蓮はその切っ先を天幕の入口に向ける。 

  「・・・・・・。」

  観念したかのように、入口の前でこそこそしていた者が天幕の中へと入って来る。その身を

 白装束を纏わせ、顔を隠した人物であった。なお、天幕の前で警護していた兵士達はすでに気を失っていた。

  「その姿・・・、ひょっとしてあなたなのかしら?以前、蓮華達が出くわしたっていう白装束

  っていうのは・・・。ここへ来たって事は私の首が狙い?それとも・・・悪事を認めて降伏しに来たのかしら?」

  雪蓮の言葉に、白装束は黙って聞いていた。しかしこの後の白装束の発言が雪蓮と冥琳を驚愕させる。

  「お久しゅうございますな・・・、策殿。」

  「っ!その声は・・・、そんなまさか!?」

  そして白装束は自分の頭に被さっていたフードを両手で丁寧に取り外すと、フードの下の顔が出て来た。

 その顔を見て、雪蓮と冥琳はあまりの衝撃に言葉を失ってしまった・・・。

  「・・・・・・・・・祭。」

  「・・・・・・・・・祭・・・殿。」

  二人がやっとの思いで喉から出した言葉は・・・目の前に立つ人物の真名であった。 


 
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