No.892031

マイ「艦これ」(短編)「トモダチっぽい・下編」(完結編)

しろっこさん

中学生の私が轟沈させた艦娘が突然、私の目の前に出現した。ゲーム世界から来た彼女は、お約束どおり、この世界に留まる事は出来ないのか?

2017-02-06 00:09:34 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:512   閲覧ユーザー数:512

私が守ってあげなくちゃ。

 

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マイ「艦これ」(短編)

「トモダチっぽい・下編」(完結編)

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 私が初対面の人の前で服を脱ぐなんて今までの私には考えられないことだったけど。夕立ちゃんの前では自然に服を脱げた。

でも彼女は傷が痛むのか時々、顔をしかめている。あまりにも痛々しい。

 

「大丈夫?」

思わず私は彼女に声をかけて、お風呂に入るの手伝ってあげた。

 

「ありがとう……」

何となく無理に笑顔を作っている感じ。

 

 夕立ちゃんは美人なだけでなくスタイルも抜群だ。萌えキャラだから当然かな。兄や父親が好きなのも分かる。オタクの理想像だ。

 

「大丈夫? 身体痛む?」

「ううん……いつものことだから」

微笑む彼女。そう、彼女は単なるゲームデータなのだ。

 そうは言っても目の前に居るのは紛れもない実像で存在もリアルだ。

そんな彼女たちを私は平気で轟沈させていたと思うと、ちょっと複雑な思いだ。

 

「背中流してあげようか」

「ありがとう」

私は、お風呂場で夕立ちゃんのアザだらけで痛々しい背中から痛みそうな部分を慎重に避けながら洗ってあげた。

 

「アケミちゃん、背中流すの上手だね」

「そう?」

姉が居ない私には誰かの背中を流した経験はほとんど無い。そんなに上手いのかな?

 

「夕立ちゃんは、やっぱり他の艦娘と背中流したりするの?」

「うん、するっぽい」

「へえ」

何だかリアルだなあ。ゲームの世界でも艦娘が居て何人かで、お風呂にも入るんだ。

 

 それから私は立ち上がって彼女の背中にソッとお湯を流してあげた。

「もう湯船に入って良いよ……だけど傷口とか大丈夫?」

 

「多分、大丈夫っぽい」

夕立ちゃんは軽く手を入れて湯加減を見たあと「お先に」と言いながら湯船に入った。

 

湯船に浸かった夕立ちゃんは声を出した。

「はぁ……」

 

でも安堵した雰囲気だ。

「なんか本当に疲れている感じだね」

 

私が言うと彼女は苦笑した。

「うん。毎日、毎日、闘ってばかりで……」

 

そこまで言った彼女はハッとしたように慌てて言い直す。

「でもアケミのこと全然、恨んでないっぽいから!」

 

夕立ちゃんは湯船の縁に手をかけ、アゴを乗せながら私の顔を見る。その仕草がまるで子犬のようで、とても可愛らしい。

 

「大丈夫だよ、ありがとう……私も夕立ちゃんにお礼が言いたいくらいだから」

私は応えた。

 

「でも普通のお風呂も……いい感じっぽい」

そう言いながら夕立ちゃんは、とても安心した表情になっている。それを見て私もホッとした。

 今、この世界にいる限り彼女は安全なのだ。私が守ってあげなくちゃ。

 

 夕立ちゃんというとゲーム内ではネアカな元気印のキャラクターだけど目の前に居る彼女は、ごく普通の女子高生って雰囲気。何か、こうやって見ているだけでも健気(けなげ)過ぎて、また涙が出そうになってくる。

 

 目の前に実物が居ると私も『オタク』の気持ちがわかるような気がした。兄や父とは違和感があったけど……これを機に、少しは分かり合えるだろうか?

 

「ねえ二人いっぺんには入れないっぽい?」

急に言う彼女。

 

「そうだね……ちょっと普通の風呂だから狭いけど」

「一緒に入ろう。私ね、鎮守府でよく皆で入って居たんだよ。そうやるとね……とっても仲間がいとおしくなってくるんだ」

「……」

そこまで言った夕立ちゃんは急に真剣な表情になった。

 

「アケミ……お願い。私ね、少し不安なの。こんなときはね、艦娘同士でも肌を密着させてさ、一緒にいると安心するんだ。だから湯船でも一緒になったりするんだよ」

「うん……」

普通の世界なら非常識かも知れないけど。私はゲームの世界では提督だったから。そして夕立ちゃんは私が沈めた……そんな想いが再び襲ってきた。私は慌てて、その過ちを誤魔化すように夕立ちゃんと同じ湯船に入った。

 ザーッとお湯があふれ出す。

 

「ウフフ」

「アハハ」

何だか私たちは自然に笑みがこぼれた。

 

「いつまでも、こうやっていたいね」

夕立ちゃんがボソッと言う。

 

「うん」

私も頷いた。

 

 お風呂から上がると脱衣所に少し大きめの寝巻きが置いてあった。

母が顔を出す

「えっとね、夕立ちゃんの制服は洗っといてあげるから」

 

母は私を見ていった。

「ごめんね、お母さんの服……ちょっと地味だけど」

 

夕立ちゃんは「ありがとうございます」と頭を下げる。

彼女は礼儀正しいなと時々感じる。軍人だから? でも、私にとっては『お姉さん』だと思う。

 

 さっき母親が言った通り私に姉が生きていたら、やっぱり夕立ちゃんのような感じになるのだろうか? そう思うと何か胸が苦しいような不思議な感覚に襲われた。

 

 私たちが風呂から上がってリビングに戻ると、珍しく家族全員がまだそこに居て待っていた。

「お茶が入っているよ」

「ありがとう」

 

私たちは居間のソファに腰をかけて、お茶を手に取った。

「わぁお茶だ。落ち着くっぽい」

 

 お風呂上りでさっぱりした夕立ちゃん。全身にアザがあることを除けば普通の少女だ。そして何度も言うが、美人で可愛い。

 それは母も認めている感じだ。そして何となく母も、この夕立ちゃんがゲームの世界からやってきたことを二人の男子から聞いたようだ。理解は出来ないが納得しようと務めている雰囲気。

 

 夕立ちゃんが、これからどうなるか分からない。いつまでも私と一緒に逃げるわけでもないだろうし、いつまでも隠せるとも思わない。

 

 物語によくあるように必ず夕立ちゃんは元の世界に戻らないといけないのだろう。何かそう思うと出会ったばかりなのに寂しい気持ちになった。

 

 何となく2人の男子たちも私と似たような感覚になっているようだ。

父親がボソッと言う

「でもこれからどうするかな」

 

「そうだね」

兄も同意するように言う。

 

母親もひと言。

「警察に言うのかな」

 

私は慌てて首を振った。

「そんなことしたら大変だよ!」

 

「なんで」

「だって……」

すると私が部室で心配したのと同じようなことを父親が言う。

 

「たって、この子は人間兵器っていうか……」

 

兄も言う。

「そうそう戦う兵隊なんだよ」

 

そこまで話が行くと母親は分からないらしい。彼女は夕立ちゃんに聞く。

「でも金髪だよね。あなた日本人なの?」

 

「多分、日本人ぽい」

夕立ちゃんは自分で答えた。

 

「……そうだよな日本の艦船だし」

その艦船という単語は母には理解不能らしい。

 

でもどうなるんだろう? 

「やっぱり向こうの世界から、そのうちに『お迎え』とか来るのかな」

 

この言葉には兄がすぐに反応した

「メールチェックとかしといた方がいいのかな」

「え?わざわざメールでくるの」

 

……て言うか

「うちのメールアドレスなんか知らないでしょ」

 

「でも物語のセオリーとしてだいたいさ向こうは、こっち側の、いろんな事知ってたりするんだよね」

「そんなもんかな?」

「ある日突然、ウチの電話が鳴ってさ、向こうの世界から」

「やだ、やめてよ怖いよ」

「無言電話で、フフフとか?」

「嫌だなあ」

そんなことを言いながらも夕立ちゃんはニコニコしている。やっぱり可愛い。

 

 萌えキャラかどうかは知らないけど生きている艦娘は貴重だ。しかも目の前にいる。不思議だ。

 

「どうなるか分からないけど。しばらくは家で面倒を見るしかないよね」

父親が言うと母親も頷いた

 

「そうね。家族が、もう一人増えるくらいは何とかなるかな」

「良いぞ」

にやけた顔で変な反応する兄。

 

「ダメ、お兄ちゃん変な気を起こさないでよ、艦娘は強いんだから」

私は釘を刺した。

 

母は言う。

「夕立ちゃんって何歳なの?」

 

「ワカラナイっぽい」

「そうか、向こうの世界では年齢なんて無いのか」

兄が知った風にいう。

 

「だろうな」

父親も同意する。何だこの二人は。

 

「それじゃ、学校に行く必要も無いのね」

お母さんまで……。

 

夕立ちゃんは言う。

「暫くここに居るなら、いろいろ、お手伝いできるっぽい。掃除とか

洗濯とか……料理は苦手だけど」

 

恥ずかしそうにうつむく夕立ちゃん。その反応に家族は微笑んだ。

 良いな、こういう感じ。

 

 夜は私の部屋に布団をもう一枚敷いた。普段の私はベッドに寝ているから夕立ちゃんは床になるのか。

「私が床で寝ようか?」

 

「ううん、大丈夫っぽい。鎮守府ではいつも、二段式ベットだったから、これでも贅沢っぽい」

何か細かい反応の一つ一つが、とてもリアルな感じだ。疑っては居ないけど、やっぱり本物の艦娘なんだな、と思う。

 

そのとき彼女は何かに反応をした。

「……あ!」

 

「どうしたの?」

私が聞くと彼女は、なぜか小声で応えた。

 

「大淀さんから通信が入った……無事かって」

「え?」

そうか……もうお迎えが来るのだろうか?

 

 夕立ちゃんは、通信を受けながら何度か頷いている。それをまとめると自分は無事であること。そして安全なところに匿われていることなどを報告しているようだった。

 

そして彼女は無線に応えた。

「迎え……出来るっぽい?」

 

その台詞を聞いた私は血の気が引く思いがした。

 

 私の気配を察したのか、夕立ちゃんは私のほうとチラチラと心配そうに見ながら通信を続けている。

「……うん、わかったっぽい」

 

そこで通信は終わった。

「……」

 

「……」

一瞬、お互いに気拙い雰囲気。

 

やがて夕立ちゃんが言う。

「アケミン、よく聞いて」

 

「え? アケミンって?」

私が不思議そうな顔をすると彼女は笑った。

 

「大淀さんにアケミのことを報告したら、急に大淀さんが『アケミン』って……これって大淀さんが直ぐに信頼してくれた証っぽい」

「あ、そうなんだ」

それは喜んで良いことなのだろうか?

 

彼女は続ける。

「今から24時間以内に私を救出する作戦を立てるっぽいけど……成功率は不明。今、敵も攻めてきたりするから私だけに艦娘を回せないって……でも時雨とかが、絶対に助けてほしいって言うから強行するって」

 

「時雨」と聞いて私は、

「ああ、あの自分のことを僕って言う艦娘」

 ……って言いながら思い出した。

 

私の言葉に頷きながら夕立ちゃんは続ける。

「今夜はもう寝て良いって。明日、夕方までに何かの方法でこっちの世界に道を作るって……でも、うまくいかないかも」

 

「そう」

私は半分上の空で聞いていた。いつまでも一緒には居られない。それは分かるけど……私の心のどこかで拒否反応が起きている。なぜ? 

 

「二つの世界は行き来しちゃだめっぽい。大淀さんがそう言ってた」

下を見ながらポツポツという夕立ちゃん。

 

「やっぱり……」

それは分かっていた。何となく。

 

顔を上げた夕立ちゃんは見る見る涙をためる。

「私も……アケミンと別れたくないんだよ。だけど……分かる? 許されないことが起きているって」

 

 私は枕を抱きしめながら必死に涙をこらえた。

 

夕立ちゃんは言う。

「明日。アケミンの両親に話して……その時を待つっぽい」

 

「うん」

私は枕に半分顔をうずめて応える。

 

「……」

夕立ちゃんは、そんな私を見ながらずっと黙っていた。そして立ち上がって私に言った。

 

「ねえアケミン」

「……」

「一緒の布団で寝ても良い?」

「……」

私は小さく頷いた。

 

 すると夕立ちゃんはスッとベッドで寝ている私の布団の横に滑り込んできた。その動作が妙に慣れているので私は突然可笑しくなって来た。

 

彼女も笑いながら言う。

「鎮守府でもね、ホントは禁止されているんだけど、よく艦娘同士で布団に潜りっこして、一緒に寝ているっぽい!」

 

「うふふ」

「あはは」

私たちは本当の姉妹のように一緒になって抱き合った。

 

「夕立ちゃん、良い匂いがする」

「ありがとう」

「ああ、このままずっと一緒にいられたら良いのに」

「……そうだね」

夕立ちゃんの同意の言葉。それは私にとっても、嬉しい一言だった。

 

 でも明日になったら……お別れなのだろうか?

「嫌だな」

「うん」

 

いつの間にか私は、そのまま寝入っていた。

 

 翌朝いつもより少し早く目覚めた私は、もう夕立ちゃんがいないことに気付いた。

 

 慌てて階下に降りた私は弁当を作っている母親に聞いた。

「夕立ちゃんは?」

「……あ、早くから用事があるからって……出て行ったよ」

 

するとリビングで新聞を広げていた父が言う。

「今日、向こうの世界からお迎えが来るらしいな……私たちにも、ありがとうって頭下げて出て行ったぞ」

 

「そう……」

私は元気なく朝ごはんを食べると、学校へ向かった。

 

 その日の授業は一日上の空。

部活も休むことにして、放課後直ぐに家に向かう。

 

すると後ろからミサトの声がした。

「アケミ!」

「あ? ミサト?」

 

彼女は走り寄ってきて言った。

「夕立ちゃん……」

 

私は彼女の何かを悟った表情を見て頷いた。

「今日、お迎えが来るって……」

 

「あ……そうか。やっぱり」

ミサトも少しうな垂れた。

 

「それよか、あんた部活は?」

私が聞くと彼女は苦笑いした。

 

「だって……気になるじゃん。 ……そうそう、ホラ? 部室に隠したはずの夕立ちゃんの煙突」

彼女は思い出したように言った。

 

「どうかしたの?」

私が聞くと彼女は眼を丸くしてわざとらしく言う。

 

「無いんだよ……消えたの」

「え?」

「だからだよ……私もこりゃ、何かあったと思ってさ。だから腹痛と頭痛で……休部した。だって、頭いたいのはマジだから」

「あはは」

いや、彼女の頭の痛いのは分かる。私も今、同じ気持ちだ。

 

「ねえ、念のためにアケミの家に寄っても良い?」

「うん」

私たちは小走りに家へ向かう。

 

「ただいま」

「お帰り」

「こんにちは!」

「あら……」

ミサトのことは母もよく知っている。そして……今日、なぜミサトがうちに来たのかも、母は直ぐ理解した。

 

「アケミ……大変だよ」

「どうしたの?」

靴を脱ぐ私たちに母は言った。

 

「とにかく2階へ……」

私とミサとはお互いに頷き合うと、かばんを置いて慌てたように2階へ急いだ。

 

そして自分の部屋の扉を開けた瞬間……私たちは信じられない光景に自分たちの目を疑った。

「夕立……ちゃん?」

 

「あ?」

「あ」

夕立ちゃんと同時に言葉を発した、もう一人の艦娘が居た……私たちはそれが誰であるか直ぐに分かった。

 

「時雨……ちゃん?」

私は言いながら彼女を見た。

 

「不覚……」

悔しそうに呟く彼女。

 

……え? いったい何が起きたのだ?

 

 沈着冷静なはずの時雨ちゃんの表情は暗かった。

 

ところが逆に夕立ちゃんはニコニコしているのだ……これはもしかして?

 

「そうっぽい……」

ニコニコして夕立ちゃんは力こぶを作る真似をする。気のせいか、彼女の髪の毛が少しネコ耳のように立っている。

 

 ミサトが私の背中を小突く。

「そうか、結果はこう出たかアケミ! ……要するに救出作戦は失敗した。夕立を回収しようとした時雨ちゃんも無残にこの世界に取り残されてしまいました……ってところかな?」

 

 ミサトの妙な解説に、硬い表情で頷く時雨……

 

 夕立ちゃんは時雨ちゃんに言った。

「ねえねえ、時雨ちゃん、紹介するね。この人がカオリン……提督だよ」

 

「提督……失礼したね。ボクが時雨だよ」

それでもきちんと私に敬礼をする彼女。

 

 ああ……これは、さらに私の周りがカオスと化す予感がした。

 

 

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「トモダチっぽい」(完結)

 

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※これは「艦これ」の二次創作です。

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サイトも遅々と整備中~(^_^;)

http://www13.plala.or.jp/shosen/

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