No.88132

真・恋姫†無双~江東の花嫁達~(番外四)

minazukiさん

うん、夏です。
そして全国の蓮華ファンの皆様。

今回の話は非常に蓮華が壊れていると思いますので、どうしてもダメだという方は回避してください!

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2009-08-04 18:03:49 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:19242   閲覧ユーザー数:13736

(番外四)

 

 蓮華は自分にとってまさに至福のひと時を送っていた。

 

 愛する一刀に何度も「愛している」と耳元で囁かれ、自分の身体を優しく時には強く抱きしめて愛してくれていた。

 

 呉王としての重責から解放されて何もかもを一刀に委ねている心地よさの中、突如終わりを迎える。

 

「一刀「旦那様」「一刀様」「一刀くん」「一刀さん」「御主人様」「お兄さん」♪」

 

 蓮華と同じ妻である雪蓮達の登場にせっかくの心地よさが冷めていく蓮華。

 

「ほら蓮華よりも私の方がなんでもしてあげるわよ♪」

 

 強引に蓮華から一刀を引き離す雪蓮は、そのまま妹よりも豊かな胸を彼の顔に押し付けていく。

 

「お、お姉様!?」

 

 慌てて一刀を取り戻そうとする蓮華だがそれよりも早く冥琳に奪われた。

 

「旦那様。旦那様がお考えになった服ならばなんでも着ますよ」

 

 いつの間にか月や詠のようなメイド服を身につけている冥琳。

 

 紺色のロングスカートに純白のエプロンドレスに、同じく純白のカシューチャを頭にのせている冥琳に一刀は何度も嬉しそうに頷いている。

 

「か、一刀。わ、私も望むのなら着るわ」

 

 冥琳に負けないように説得をするが反応がない。

 

 一刀の視線は冥琳に釘付けだった。

 

「一刀!」

 

 そこへ酒を口に含んだ祭が一刀の頬を押さえて唇を重ねあった。

 

 祭の口の中から一刀の口の中へ酒が流れ込んでいく。

 

 唇を離すと一筋の唾液が伸びていき、ゆっくりと下へ落ちていく。

 

「どうじゃ。儂の酌は?」

 

 一刀の答えを聞く前にもう一度、口の中に酒を含み唇を重ねる。

 

 その様子を見ていた蓮華は自分では恥ずかしすぎて自分からはできない行為に羨ましく思いつつも、一刀の甲斐性なしを心の中で愚痴っていた。

 

「一刀様」

 

 唇を離した一刀にダイブしていく明命。

 

「私は一刀様のお猫様です♪」

 

 頭の上には猫耳、腰の辺りには尻尾が生えている明命は、本物の猫のように一刀の胸に頬擦りをしていく。

 

「にゃ~ん♪」

 

 猫になっていく明命を一刀は優しく頭を撫でるとさらに嬉しそうな雄叫びを上げる。

 

(わ、私だって明命には負けないわ)

 

 南蛮衣装を身につけて閨をともにした時を思い出して顔を真っ赤にさせる蓮華だが、誰かに見られてまでそれをしようとは思わなかった。

 

「旦那様」

 

 次に現れたのは亞莎。

 

 両手にはゴマ団子をのせた皿を持って恭しく両膝をついた。

 

 猫化した明命を片手で抱きしめたまま亞莎の作ったゴマ団子を手に取り一口食べていく。

 亞莎の顎の指を当てて一刀から顔を近づけていき、ゴマ団子を口移ししていく。

 

 顔を真っ赤にしている亞莎を抱き寄せていく一刀。

 

「だ、旦那様」

 

 恥ずかしながらも積極的に唇を重ねていく亞莎。

 

 小蓮もスクール水着を着て一刀を魅了していく。

 

 そんな一刀の首に両手を回して後ろから抱きしめ彼に甘える。

 

「シャオは一刀がしたいこと、してほしいことならなんでもしてあげちゃうもん♪」

 

 ある意味、姉である雪蓮よりも大胆な行動に出ることができる小蓮。

 

 蓮華はそんな姉と妹のように積極的、大胆的な行動をとりたいと思いつつも誰かがいるところではどうしても自制心が働いていた。

 

 そして彼女を一番驚かせたのは思春だった。

 

 立ち上がった一刀に何事もないように近寄っていき、一刀を自分から抱きしめていきそれを蓮華に見せ付けた。

 

「し、思春!」

 

「蓮華様。蓮華様もそのように我慢をなさることはないのです。誰に見られようとも一刀を愛しているのであれば問題はないはずです」

 

 思春ですら一刀に関しては蓮華に譲るつもりはなかった。

 

 いつしか風、葵、琥珀、それに美羽や七乃。

 

 悠里や京、真雪までもが一刀に自分から甘えていく姿を見ていた蓮華。

 

 手を伸ばそうとしても心のどこかで誰にでも優しく側室を多く持つ一刀のことが嫌で堪らなかった。

 

(いや……雪蓮お姉様だけならまだしも私以外を見ないで)

 

 心が潰されそうな感覚が蓮華を襲っていく。

 

 一刀を考えれば考えると苦しみだけが心を支配していき、息をすることすら苦しくなっていた。

 

 そして気がつけば手に南海覇王を握っていた。

 

(私だけを見てくれないのならいっそうのこと……)

 

 雪蓮達に囲まれて笑っている一刀を自身も気づくことなく冷たい視線を向けていた。

 

 ゆっくりと彼の前に歩いていく。

 

 蓮華は自然と南海覇王を握る手に力を込める。

 

(一刀……一刀……かずと……かずと……)

 

 彼の名前を呼びながら目の前に立った。

 

「蓮華?」

 

 ようやく気づいた一刀に蓮華が顔を上げると、そこには涙を流しながら笑顔を浮かべていた。

 

「一刀……。私だけを愛して」

 

「蓮華?」

 

 その時、一刀は背中から何かが身体を貫いていく感触に気づいた。

 

 蓮華が一刀のに抱き強くようにしていくと、背中から突き刺した南海覇王が一刀だけではなく彼女自身をも貫いていく。

 

「れ、蓮華……?」

 

 なぜ自分が刺されるのか理解できない一刀。

 

「あなたは私だけのものよ……。雪蓮お姉様よりも私を愛して……」

 

 二人はそのまま膝から落ちていき地面に横たわっていった。

 

(かずと……)

 

 薄れゆく意識の中で蓮華はようやく一刀が自分のものだけになると喜びに包まれていた。

 蓮華はそこで目を覚ました。

 

 全身が冷や汗で濡れており息が荒かった。

 

「ゆめ……?」

 

 自分にとって悪夢のような感じだった。

 

 隣を見るとそこには誰もいなかった。

 

 朝もまだ遠く、部屋の中は闇に染まっており寂しさを感じさせるには十分すぎるほどだった。

 

 寝台から起き上がり汗で濡れた夜着を脱ぎ捨てて、机の上に置いてある布を手に取りゆっくりと身体を拭いていった。

 

(嫌な夢ね……)

 

 思い出すだけで自分が恐ろしいことをしたと蓮華は右手に残る感触を確認していた。

 

 新しい夜着を取り出しそれを羽織ってから椅子に座って酒瓶に手を伸ばして杯に注ぎ、一気に呑み干していく。

 

 それを何度も繰り返していき、ようやく落ち着いた。

 

 力なく机の伏していく蓮華は、急に一刀に会いたいという気持ちが生まれて心の中に広がっていく。

 

 娘の孫登はどういうわけか恋に懐いており、政務で夜遅くまで働いている蓮華は恋に孫登をよく預けていた。

 

 ここに孫登がいれば悪夢を見たり、寂しさを感じることはなかったかもしれないが、今は寂しさが強くなりすぎていた。

 

(私はダメな母親かもしれない)

 

 政務ばかりで娘と遊び時間もほとんど持てない。

 

 休日の時ぐらいが辛うじて時間が取れるが、それとて何かと火急の用事があれば潰れてしまっていたので、妻としても母親としても、そしてなによりも一人の女としても不十分だと自分でも自覚していた。

 

(だからあんな夢を見るのかしら)

 

 絶対にあってはならないことなだけに現実にはしたくなかった。

 

 蓮華にとって自分は周りに比べて何かが足りないことも気づいていたが、それとて一刀に愛されるのであれば些細なことだと思っていた。

 

 以前、宴席の中で雪蓮に言われたことがあった。

 

「蓮華はいい意味では欠点がないわ。でも、それだけに他と比べて特徴がなさ過ぎるわね」

 

 雪蓮からすれば自分のようになれとまでは言わなかったが、せめてなにか一つぐらい誰にもないものを持っていたほうが一刀も喜ぶと付け加えた。

 

 そのことを蓮華は政務中にも考えていたが自分を振り返ると何も出てこなかった。

 

 自分では分からないことなのだと、閨を共にするとき一刀に誰にもない自分の良いところをそれとなく聞いた。

 

「蓮華のいいところ?そうだな~」

 

 そう答えたものの一刀はなかなか思い浮かばなかった。

 

「一刀にとって私はそれほど魅力ないの?」

 

 思わず愚痴ってしまい後悔した蓮華を一刀は優しく抱きしめた。

 

「蓮華に魅力がないなんて、あるわけないだろう?こんなにも可愛くてこんなにも柔らかい。それに抱いていても安心するほど温かさがある」

 

 蓮華からすればそれは一刀が誰にでも言っていることだと思っていた。

 一人で考えていても何もいいことがないと立ち上がり、静かに自分の部屋を出て行く。

 

 深夜の屋敷の中は静寂が支配していた。

 

 廊下の柱にも蝋燭の灯りはなく、ただ月の光りだけが頼りだった。

 

 周りを気にしながら蓮華は一刀の部屋を目指して歩いていく。

 

(今日はたしか誰とも一緒に寝ない日よね)

 

 三日に一日は一刀が一人で眠りたいという彼らしからぬ願いに誰もが驚いたが、妙に真剣さを感じさせていたので了承された。

 

 そのことを知っているだけに雪蓮達には申し訳ないという気持ちがあったが、今は自分のこの寂しさを埋めて欲しかった。

 

 部屋の前に着くと深呼吸を何度かして心を落ち着かせてから中に音を立てないように入っていった。

 

 寝台の方を見ると一刀らしい影があり吐息を漏らしながらゆっくりと近寄っていく。

 

(一刀……)

 

 さっきまで感じていた寂しさが一刀に近づいていくにつれて薄れていった。

 

 だが寝台の横に立つと我が目を疑うかのようにその視線の先に写る光景を見た。

 

 一刀の隣には雪蓮が幸せそうに寄り添って眠っていた。

 

「お、お、お姉様!」

 

 思わず大声を上げてしまった蓮華はすぐさま両手で口を押さえたが遅かった。

 

 一刀よりも雪蓮の方が目を覚まして眠たそうに目を擦りながら起き上がる。

 

 一度大きな欠伸をして目の前にいる妹を見て驚いていた。

 

「あら?蓮華じゃない。こんな夜更けにどうしたの?」

 

 まるで自分がここで眠っていた事など気にしていない様子の雪蓮に、蓮華は嫌な気持ちが広がっていくのを感じた。

 

「ど、どうして……」

 

「どうかしたの、蓮華?」

 

「どうしてお姉様が一刀の部屋に……それも寝台にいるのですか?」

 

 決まりごとを破るような姉ではないと思っていただけに、なぜか蓮華は自分でも驚くほど敵意を向けていた。

 

「どうしてというのであれば、夜這いをかけたというべきかしら?」

 

 蓮華の視線とあわすことなくただ眠たそうにしていた雪蓮。

 

「今日は一刀が一人で寝る日ではないですか。たとえお姉様でもそれを知らないとは言わせません」

 

 全員がいるところで一刀が言った事なので知らない事はなかった。

 

 だが、現実は全く違っていた。

 

「いいじゃない。一刀だって許してくれたのよ」

 

「そ、それはお姉様が強引だからでしょう?それに紹はどうしたのですか?」

 

「あの子なら風のところよ。何でも面白い話を聞かせてくれるからってお泊りしているわ」

 

 同じ屋敷内で娘が別の部屋にお泊りをすることは別に変な話ではなかったが、今の問題はそれではなかった。

 

「それではお一人で眠ればよろしいのでは?」

 

「だって~、一人で寝るなんて寂しいわよ。それに蓮華だって寂しいからここにきたのでしょう?」

 

「そ、それは……」

 

 事実なだけに言い返せない蓮華。

 だがそれでも姉の軽率な行動がこの時ばかりは許せなかった。

 

「お姉様。この際、はっきりと申し上げておきたい事があります」

 

「なにかしら?」

 

「お姉様は一刀の正室です。それはわかっています。だからといって何をしてもいいわけがありません」

 

 雪蓮だけが特別扱いというのは仕方ないと思いつつも、度が過ぎればそういうわけにはいかない。

 

 蓮華としても許容できる範囲であれば引き下がっていた。

 

「蓮華」

 

「なんでしょう?」

 

「私は一刀を愛しているのよ」

 

「存じています」

 

 蓮華達でも勝てないほど雪蓮は一刀のことを愛しているのは十分わかっている事だった。

 

「本当ならば側室なんて持たせるつもりもなかったわ。でも一刀が変に浮気するより側室として迎える方がマシだと思っているわ」

 

 雪蓮は一刀が誰かと閨を共にすること自体、心のどこかで不満を感じていた。

 

 それを今まで抑える事が出来たのは愛娘の存在だった。

 

 だが孫紹がいろんな所で泊まり始めて一人で過ごす夜が最近担って増えてきたことでその不満が爆発していた。

 

 そして夜這いという行動を起こしていた。

 

「私は一刀を独占したいわけなの。蓮華や冥琳達にあげたくないわけ」

 

 雪蓮は本気でそう思っていた。

 

「それに言ったでしょう?きちんと一刀の許しももらっているって」

 

 一刀なら雪蓮の強引さに折れることは十分に考えられる事だが、それが蓮華にとって気に入らないことだった。

 

「お姉様」

 

「なによ?こっちは眠いのよ」

 

 さすがに不機嫌になってきている雪蓮だが、蓮華の怒りの篭った視線を感じると悪ふざけをし過ぎたかと思った。

 

「今から私がそこで眠ります。だからお姉様はどうぞご自分の部屋にお戻りください」

 

「は?」

 

「聞こえませんでしたか?お姉様はさっさと部屋にお戻りください」

 

 何を言っても聞かないのであれば実力行使しかない。

 

 そう思った蓮華は寝台の上にのぼり、強引に一刀の横に横たわっていく。

 

「ち、ちょっと蓮華!」

 

 雪蓮の声に一刀も目を覚ました。

 

「うるさい………………え?」

 

 一刀は何かに気づき慌てて身体を起こす。

 

「雪蓮……?それに蓮華も?」

 

 なぜ二人がここにいるのかといった感じの一刀。

 

「何で二人ともここにいるんだ?」

 

 ごく当たり前の質問だが蓮華は違和感を覚えた。

 

 一刀は蓮華だけではなく雪蓮に対してもここにいることを容認していない言い方だった。

 

「お姉様、どういうことですか?」

 

「な、なんのことかしら?」

 

 ごまかそうとする雪蓮。

「一刀」

 

「なんだよ?」

 

「お姉様と共に過ごすと認めたの?」

 

「は?」

 

 間の抜けたように一刀は蓮華を見返す。

 

「今日は一人で過ごす日なのにどうして俺が雪蓮と寝ているんだ?」

 

 その質問を逃げ出そうとしていた雪蓮を見ながら言った。

 

「たしか、雪蓮が持ってきてくれた酒を呑んでしばらくしてから妙に眠気が……」

 

「お姉様!」

 

 寝台からおりかけていた雪蓮の腕を掴んだ蓮華の表情は黒い笑みが浮かんでいた。

 

「だ、だって~寂しかったのよ。いいじゃないの、別に」

 

 自分は特別だと言わんばかりに雪蓮は言い訳ではなく正直に答えた。

 

「寂しいのは誰でも同じです。それにお姉様は少し我侭が過ぎています」

 

 雪蓮腕を掴んでいる手に力を込めていく蓮華。

 

「れ、蓮華、その辺で許してやれよ」

 

「ダメよ。ここで許したらまた同じことを繰り返すだけよ」

 

 いくら一刀の願いだからといって聞き入れるわけにはいかなかった。

 

 こういう場合はとことん厳しくしなければ雪蓮のためにも、何よりも自分が愛している一刀のためにもならないと蓮華は思っていた。

 

「いいですか。お姉様」

 

「い、いやよ。一刀~助けて~」

 

 本気で助けを求めているようには見えない雪蓮に一刀はどうしたものかと悩んだが、何かをしようとすると蓮華に睨まれてしまったいた。

 

「一刀は黙ってて」

 

 それだけを言うと姉の腕を掴んだまま寝台から降りて引きずるようにして部屋を出て行った。

 

「な、なんだったんだよ?」

 

 まだ事態を掌握しきれていない一刀はため息をつき、仕方ないといった感じで身体を横にして中断されていた睡眠を再開させることにした。

 

 その時、遠くから雪蓮の悲鳴が聞こえてきた。

 

「雪蓮!」

 

 さすがに心配になってきた一刀は飛び起きて部屋を出て行こうとすると、それより先に入り口が開いてそこから冥琳が入ってきた。

 

「旦那様?」

 

「冥琳、今、雪蓮の声というか悲鳴が聞こえなかったか?」

 

「悲鳴……ですか?」

 

 まるで聞こえなかったというような態度を冥琳はとりつつ部屋の中に入っていく。

 

「それよりも旦那様、このようなものはお好きですか?」

 

 一本の蝋燭に灯りとともしてから一刀の方を見る冥琳の姿はメイドそのものだった。

 

「め、冥琳?」

 

「旦那様が考案なされた服だと以前、月達から聞いたもので私も喜んでいただこうと思って着てみましたがどうですか?」

 

 恥ずかしがりながらも紺のロングスカートに純白のエプロン、同じく純白のカシューチャ、それは蓮華が夢で見た冥琳そのものだった。

 

「聞くところによりますと、このめいどというものは自分の主人に奉仕をするものだそうですね」

 

「ま、まぁ、間違ってはないけど」

 

 だからといって彼女がメイド服を着ていることに何の意味があるのだろうかと一刀は思った。

 

「だから今宵は旦那様にご奉仕させていただきます」

 

「えっ?」

 

 どこで知ったのか冥琳はスカートを指でつまみ貴族のお姫様のごとく礼をとってから一刀に近寄っていく。

 

「ち、ち、ちょっと!」

 

「大丈夫ですよ。今は旦那様のめいどです。何をなさっても構いませんよ?」

 

 昔の冥琳が見れば間違いなく顔を顰めるようなほど、今の冥琳は一刀に依存し過ぎていた。

 

(メイド服に眼鏡……や、やばい、破壊力がありすぎる)

 

 ゆっくりと歩いてくる冥琳からに逃げ出すことも視線を逸らすこともできない一刀は、自分の意志とは関係なく彼女を手を伸ばしていく。

 

 そして二人が触れ合おうとした瞬間。

 

「冥琳!」

 

 息を切らしながら蓮華が部屋に入ってきた。

 

「蓮華」

 

 一刀の声を気にすることなく、蓮華は問答無用といわんばかりに冥琳の肩を力任せに掴んだ。

 

「蓮華様?」

 

「冥琳、ちょっといいかしら」

 

 そのまま蓮華は冥琳を連れて行き、しばらくして冥琳の悲鳴が聞こえてきた。

「まったくお姉様も冥琳も油断できないわね」

 

 自分も同じことをしていることを棚に上げて蓮華は一刀の部屋に戻ると、今度は祭と部屋の前で会った。

 

「おや権殿。このような夜更けに一刀の部屋にどうなされた?」

 

「祭、それは貴女にも言えることよ」

 

 祭の手には酒瓶が握られていることを発見した蓮華。

 

「そうだわ。祭、少し話があるのだけどいいかしら?」

 

「話?こんな夜更けにどのようなことかの?」

 

 話であれば朝でもよいのではと祭は思いながら蓮華を見る。

 

「ここではなんだから私の部屋にでも行きましょう」

 

「何も今でなくてもよかろう?」

 

「いいから来なさい」

 

 強引に祭の腕を掴んだ蓮華はそのまま引っ張りながら自分の部屋に祭を連れ込んだ。

 

 灯りのない部屋に入れさせられた祭は不満な表情を浮かべた。

 

「それで話とはどのようなものかの?」

 

「祭、貴女も一刀に夜這いをかけるつもりだったの?」

 

「夜這い?」

 

 蓮華の口から予想もしない言葉が出てきたため、祭は自分が連れてこられた理由を理解した。

 

「儂が一刀に夜這いをかけようとしておると権殿は言われるのなら、それは少々勘違いをしておられるの」

 

「勘違い?」

 

「儂はただ日頃の疲れをとってもらおうと魏の曹操殿に頼んでおいた美酒を持ってきただけじゃ」

 

 だがそれならば夜更けに来ることではなかった。

 

「まぁそれを肴にして一刀と呑もうと思っておったがの」

 

 酒が入れば必然的に理性が失われていき、酒の上の出来事として言い訳もできる。

 

 蓮華はそう思うと自然と笑みが浮かんでいく。

 

「祭。後ろを見て」

 

「後ろ?」

 

 言われるままに自分の後ろを振り返ると、視線の先に何かが重なるように床に置いてあった。

 

「……雪蓮様!それに冥琳!」

 

 近寄っていき確認するとその二人に間違いなかった。

 

「権殿、これはいった……!」

 

 祭が振り返ろうとした瞬間、口を手で押さえられ声を遮られた。

 

「祭、貴女もお姉様達と同罪よ」

 

(権殿!)

 

 それが黒い笑みを浮かべる蓮華の声を聞いた最後だった。

 

 祭も雪蓮と冥琳に重なるように倒れていき動かなくなった。

 

「謝ろうとは思わないわ。だってこうする以外、どうしようもないことだから」

 

 そう言って小さく笑う。

 

「さて、一刀のところに戻らないと」

 

 そう言って何事もなかったように蓮華は部屋を出て行った。

「かずと~♪」

 

 部屋の前に戻ると小蓮が一刀と共に寝台の上に座っていた。

 

「どうしたんだよ、こんな夜更けに?」

 

 さすがに困っているのか一刀は小蓮にここに来た理由を聞いた。

 

「だってシャオは一刀の妃なんだもん。だから愛する人に夜這いをかけるのは常識よ♪」

 

 雪蓮と同じ、もしくはそれ以上の大胆さを持ち合わせている小蓮は大人になっても変わることのない身体を一刀の腕に密着させていく。

 

「夜這いって……さっきも雪蓮がいつの間にかいたし、冥琳もメイド服きてきたし、まったく俺との約束はどうなっているんだよ?」

 

 さすがに自分と約束を破られて少々不機嫌な一刀の様子に蓮華も頷いていた。

 

(そうよ。一刀と約束をしたのだから守らないといけないわ)

 

 そう思いつつも自分も来ていることを失念している蓮華。

 

 様子を伺っていると、さらに小蓮が一刀に擦り寄っていく。

 

「一刀だってシャオに迫られて嬉しいでしょう?」

 

「あのな~……」

 

 口では文句を言いつつも小蓮を突き放そうとしない一刀に、蓮華は軽い嫉妬を覚えた。

 

(なによ、一刀のバカ)

 

 握っていた拳を軽く壁にぶつけながら蓮華は中の様子をさらに伺った。

 

「そうだ。シャオね、一刀のためにすご~い技を覚えてきたんだよ~♪」

 

「凄い技?」

 

 それが気になったのかさっきまで感じさせていた嫌々な感じが消えていた。

 

「一刀に喜んでもらうために日々、シャオは努力をしているんだから♪」

 

 そう言いながら一刀を押し倒していきその上に馬乗りした。

 

「シャオがなんでもしてあげるから、一刀はそのままね♪」

 

 そうして自分の夜着に手をかけようとした瞬間、部屋の明かりが消え真っ暗になった。

 

「え、な、なに?」

 

「落ち着け、風で灯りが消えただけだ」

 

「そ、そうなん…………」

 

「小蓮?」

 

 話の途中で感じていた小蓮の重みがなくなった一刀は身体を起こすと、入り口が閉まる音がした。

 

「小蓮?」

 

 部屋の灯りをつけた時には誰もいなかった。

 

「自分の部屋に戻ったのか?」

 

 そう思ったがお預けをくらったような感じで一刀としては欲求不満だった。

 

「今度の時に続きをさせるかな」

 

 そんなことを思って机の上においてある茶瓶に手を伸ばして杯に注いで呑んだ。

 小蓮は羽交い絞めにされたままどこかの部屋に連れ込まれた。

 

 中に突き飛ばされた小蓮が声を出そうとする前に喉元に刃が触れるのを感じた。

 

「まったくお姉様といい、小蓮といい、孫家の恥ね」

 

「お、お姉ちゃん!」

 

 まさか実の姉である蓮華が自分をここまで連れてきたとは思いもしなかった小蓮の驚きは尋常なものではなかった。

 

「どうしてお姉ちゃんが邪魔するのよ?」

 

「何を言っているの。今日は一刀が一人で過ごす日でしょう?それなのに雪蓮お姉様と同じように夜這いなんて、恥知らずもいいところよ?」

 

 冗談で南海覇王を向けられているとは思えなかった小蓮は逃げる好機を伺っていたが、ふと自分の後ろに何かがあることに気づいた。

 

「それは一刀を邪魔した者の成れの果てよ」

 

 ひどくおかしそうに笑いながら蓮華は説明をしていく。

 

 そして聞き終えた小蓮は身体を震わせ逃げようとした。

 

「ダメよ」

 

 短い言葉とともに南海覇王は小蓮を捉えた。

 

「か、かずと…………」

 

 背中を斬られた小蓮は床に伏せた。

 

「まったく大人しくしていればここまでしなかったのに」

 

 残念そうに言いながらも口元が笑っている蓮華。

 

 部屋には小蓮を含めて四人が横たわっていた。

 

「四人とも今日、自分が行ったことを恥じるべきね」

 

 南海覇王に付いた鮮血を払うことなく鞘に収めていく蓮華は部屋を出て行こうとした。

 

 すると、誰かに見られているような錯覚がした。

 

「誰?」

 

 振り向くことなくそれに問うが、それは出てくることはなかった。

 

「そう。出てこないのなら邪魔だけはしないでね。もし邪魔をしたらどうなるかわかっているわね?」

 

 蓮華は冷たく言い放つと部屋を出て行った。

 

 静けさが戻ってくると壁掛けの後ろから穏が出てきた。

 

「蓮華様ったら怖いですね~」

 

 床に転がっている四人を見てやれやれといった感じの穏は自分のお腹に違和感を感じた。

 

「あれれ?」

 

 よく見ると刃の先がお腹から出ていた。

 

「やっぱり貴女も油断できないわね」

 

 部屋を出て行ったはずの蓮華がいつの間にか穏の後ろに立って、南海覇王を背中から突き刺していた。

 

「蓮華様……それは卑怯ですよ~」

 

 そう言いながら倒れていく穏を蓮華は何事もなかったように見下ろして、改めて部屋を出て行った。

「一刀」

 

 いつもどおりの彼女の表情に戻って一刀の部屋に入ると、またしても彼女の悪夢がそこにあった。

 

「一刀様~♪」

 

 猫化している明命が本物と同じように頬擦りをして寝台の上で一刀にいた。

 

「私は一刀様のお猫様です~♪」

 

 何の遠慮もなく一刀にべったりな明命を見て蓮華は無言で近づいていき、二人を見下ろした。

 

「れ、蓮華!」

 

 殺気に近いものを放っている蓮華に気づいた一刀は凍りついていく。

 

「明命、楽しそうね」

 

 猫化していた明命もさすがにそれに気づいたのか、さっきまで幸せに包まれていたものが一瞬にして消え去り言葉では言い表せないほどの恐怖を感じ始めた。

 

「あら、どうしたの?もっと一刀とそうしていたいのでしょう?」

 

 表情は笑っていても声はとてもそんな風に感じさせない蓮華に明命は涙目になっていく。

 

「どうやら明命にもお仕置きが必要みたいね」

 

「ヒィィィ」

 

 明命ばかりか一刀も起き上がり壁の方に逃げていく。

 

「明命。来るのよ」

 

 そう言って手を伸ばしていき、明命の両肩を掴んで一刀から剥ぎ取った。

 

「いゃああああああああああああああああああああ!」

 

 泣きじゃくる明命の襟元を掴んで引きずっていく蓮華に一刀は寝台から降りて慌てて行く手を阻むように立った。

 

「蓮華、落ち着け」

 

「私は落ち着いているわ」

 

「それでも今の蓮華はおかしいぞ?」

 

 普段ではありあえないほど冷酷さを感じさせていた。

 

「私はいつもどおりよ。ただ明命達の度を越えたやり方を注意しているだけよ」

 

 すべては一刀のためよと付け加えて蓮華はもはや悲鳴すら出なくなった明命を引きずって部屋を出て行く。

 

「蓮華……」

 

 本当であれば明命を助けなるはずがこの時ばかりは身体が動かなかった。

 

「あら、亞莎もちょっといらっしゃい」

 

 扉の向こう側でそんな声が聞こえてきた。

 

(まさか!)

 

 一刀は亞莎まで蓮華の『お仕置き』の対象になったのかと思い扉を開けたがそこには誰もいなかった。

 

(ど、どうなってるんだよ?)

 

 まるでサスペンス劇場のような不気味さを誰もいない廊下は感じさせていた。

 

 

「どうかしたのか、一刀?」

 

「え?」

 

 そこへやってきたのは思春だった。

「なるほどな」

 

 部屋に入ってこれまでのことを思春に話した一刀は不安でしかたなかった。

 

「蓮華様の様子が変なのはわかった。だが気になるのはどうしてそうなったかだが」

 

 その原因までは一刀もわからなかった。

 

 静けさが二人を包んでいく。

 

「ところで思春もどうしてこんな時間に?」

 

「ああ。以前から気になっていた山越の情報を持ってきた。お前がほしがっていたからな」

 

 ここ何年かは不気味なほど静けさを保っていた山越だが、最近になってその活動が少しずつ増えていた。

 

 大都督として一刀は何かと情報を集める為に思春に動いてもらっていた。

 

「いつもすまないな」

 

 一刀は手を伸ばして思春の頭を撫でた。

 

「お、お前というやつはどうしてそう……」

 

 恥ずかしさを悟られないようにするが、一刀から見ればバレバレだった。

 

「思春だって俺にとって大切な奥さんだからね。これぐらいは当然だろう?」

 

「…………ふん」

 

 態度は素っ気無いが思春の心の中では喜びで満ちていた。

 

「ならば褒美をよこせ」

 

「褒美?」

 

 一刀が答えと同時に思春はそれとなく抱きついてきた。

 

「思春?」

 

「お前が言っただろう。私もお前の奥さんだと。ならばこれぐらいしてもいいはずだ」

 

 娘の甘述が産まれた時、一刀から「ありがとう」とお礼を言われた時、思春は誰を愛しているのかを再確認できた。

 

 主君としては蓮華、愛する者としては一刀。

 

 それは思春にとってまさに幸福そのものだった。

 

 だがその幸福も今宵は長く続かなかった。

 

「思春」

 

 並みの者であれば凍りつきそうな声が二人に聞こえてきた。

 

 入り口に立つ蓮華の表情はもはや陰の笑みしかなかった。

 

「思春まで一刀の邪魔をするのね」

 

「蓮華、違うぞ。思春は山越の報告に来てくれたんだ」

 

「そう……。そうやって口実を作って誰もが来るのね」

 

 蓮華は左手に持っている鞘から南海覇王を抜いていく。

 

 刃には赤いものがべっとりとついていた。

 

「ま、まさか」

 

 一刀が雪蓮達が戻ってこない理由に気づいた。

 

「大丈夫よ。すぐに思春から解放させてあげるわ」

 

 そう言って思春に向かって南海覇王を突き出していく。

 

「蓮華様!」

 

 本来の思春であれば問題なくかわせたが、今は一刀に抱きついていた。

 

 避けるわけにもいかず、自らの身体を盾にして一刀を守った。

 

「ぐっ」

 

 南海覇王が思春の身体を貫き、蓮華は根元まで食い込ませていく。

 

「残念だわ、思春。貴女だけは私を裏切ることはないと思っていたのに」

 

「れ、蓮華……さ……ま」

 

 南海覇王を引き抜かれると力なく思春は床に堕ちた。

 南海覇王を鞘に収めず、そのまま呆然と立っている一刀の前に行く蓮華。

 

「これでもうあなたと私を邪魔する者はいないわ」

 

 もはや呉王としても一刀の妻としても、孫登の母親としての面影などどこにもなかった。

 

 ただそこには愛に狂っている一人の女しかいなかった。

 

「蓮華……」

 

 もはや逃げることも出来ず、ただ彼女に抱かれていく一刀。

 

「愛しているわ、一刀」

 

 愛しそうに一刀を抱きしめる蓮華の表情は歪んだ幸せに包まれていた。

 

「蓮華……ダメだ」

 

 残された勇気を総動員して一刀は最後の抵抗を試みる。

 

「みんなを殺してまで俺を愛するなんて間違っているよ」

 

「そんなことはないわ。誰かに取られるぐらいなら始末した方がいいでしょう?」

 

「そ、そんなの蓮華らしくない」

 

「これが私よ」

 

 何も欠点がなく特徴もない。

 

 雪蓮に言われてからそれが彼女の心の中に暗い影を落としていたことなど誰も気づいていなかった。

 

 一刀すら気づけないほどそれはいつしか心を蝕んでいた。

 

「一刀が望む事ならなんでもしてあげるわ。だって私はあなたの妻であり奴隷でもあるのよ」

 

 冷たさだけが一刀に伝わってくる。

 

「だからあなたは私だけを愛して欲しいの。永遠に……」

 

 ゆっくりと顔を上げて一刀の凍り付いている表情を楽しみながら唇を重ねていく。

 

「ダメだ!」

 

 力の限り蓮華を突き飛ばす一刀。

 

 せっかくの甘い一時を遅れていた蓮華にとって自分を否定された。

 

「どうしてなの?あなたになら何をされてもかまわないと思っているのよ?」

 

「それでもダメだ。こんなの蓮華じゃない」

 

 一刀が必死になって蓮華を説得する。

 

「どうして……」

 

「えっ?」

 

 説得の途中で蓮華は力のこもっていない声でつぶやく。

 

「どうしてわかってくれないの?」

 

 俯いていた顔を上げるとそこには涙で頬を濡らしていた。

 

 それでも口元は笑っていた。

 

「私のことを愛してよ」

 

「今の蓮華は愛せない」

 

 誰かを傷つけるような蓮華を一刀は否定する。

 

「どうして……どうして愛してくれないの。こんなにも私はあなたを愛しているのに」

 

 自然と南海覇王を構えていく蓮華。

 

「お願い。愛しているって言って。私だけを愛しているって」

 

「できない」

 

「愛して!」

 

 蓮華は南海覇王を突き出していく。

 

 対する一刀は自分からその刃に突っ込んでいき、そして刃が触れる寸前に避けてそのまま蓮華を抱きしめた。

「あっ」

 

 今までにないほど力強く蓮華を抱きしめる一刀。

 

「今の蓮華をどれだけ愛しても俺は満足できない。だってそうだろう。そんな悲しそうな顔をしている蓮華なんてみたくない」

 

 狂ってしまった愛情ほど他人を傷つけるものはなかった。

 

 それに巻き込まれた者達には何の罪もない。

 

「お願いだ。いつもの蓮華に戻ってくれ」

 

 犯してしまった罪は償っていけばいい。

 

 それをしてくれるのであれば一刀は蓮華を支えていくつもりだった。

 

「俺の大好きな蓮華に戻ってくれ」

 

 だが蓮華は何も言わなかった。

 

「蓮華!」

 

 これ以上、彼女自身を傷つけさせないためにも正気に戻さなければないが、一刀の説得は蓮華には届かなかった。

 

「…………いや」

 

「え?」

 

「そんなのいや」

 

「どうしてだよ?」

 

「あなたは私のもの。私はあなたのものだからよ」

 

「それじゃあダメだ」

 

 みんながいて初めて幸せを感じられる。

 

 蓮華を残して誰もいなくなっては寂しさだけが何時までも消えることはない。

 

「頼む。俺の言うことを聞いてくれ」

 

「わかったわ」

 

「えっ?」

 

 気づくと一刀の背中から南海覇王の刃がゆっくりと食い込んでいき、そのまま力を込めて蓮華の身体も貫いた。

 

 口から赤に染まった雫が溢れ出ていく。

 

「れ、れん……ふぁ……」

 

「私だけの……ものにならないのなら……いっしょにしんで……」

 

 南海覇王を根元まで食い込ませていく。

 

 悲しみに沈んでいる蓮華は一刀の唇を求めた。

 

 涙と血の味がする最後の口付け。

 

「れ……ん……ふぁ……」

 

 消えゆく意識の中で一刀は蓮華を抱きしめ、一緒になって床に倒れていく。

 

「かず……と……」

 

 蓮華はこれで一刀が自分だけのものになるという幸福感に包まれながら意識を手放していった。

「…………ぁ」

 

 誰かが自分の名前を呼んでいる。

 

 そう感じた蓮華は声のする方を見る。

 

「…………ふぁ」

 

(誰なの?)

 

 蓮華は声の主に問う。

 

「だい……じょう……ぶ……?」

 

「えっ?」

 

 気がつけば視界に一刀の心配そうな表情が映った。

 

「かず……と?」

 

「大丈夫か?」

 

 自分を心配してくれている一刀に蓮華は泣き出し彼に抱きついた。

 

「れ、蓮華?」

 

 子供のように泣きじゃくる蓮華に驚きつつも優しく抱きしめる一刀はどうしたのかと理由を聞いた。

 

 そして蓮華は怖い夢を見たと正直に話した。

 

「そっか~……」

 

 さすがに一刀も夢の中だとはいえ、蓮華に寂しい思いをさせていることに申し訳ない気持ちで一杯になっていた。

 

「大丈夫だ。俺は蓮華にしかないものを知っているから」

 

「えっ?」

 

 抱きしめられたまま蓮華は一刀の顔を見る。

 

「私にもあるの?」

 

「もちろん」

 

 嬉しそうに答える一刀は蓮華をもう一度強く抱きしめる。

 

 肌同士が直接触れ合う中で蓮華は温もりに包まれていき、二度も見た悪夢が消えていくような感じがしていた。

 

「そ、それで私にしかないものってなに?」

 

「それは」

 

 一刀は蓮華の耳元で囁いた。

 

 聞いていくうちに蓮華の顔が紅くなっていった。

 

「というわけ」

 

 満足そうな顔で一刀は蓮華の長い髪を楽しむかのように指に絡ませていく。

 

 呆然としている蓮華は正気に戻ると、一刀から離れて身体を起こして思いっきり拳を彼の腹に打ち込んだ。

 

「ぶぉっ!」

 

 手加減のない拳に一刀はお腹を押さえて悶絶する。

 

 蓮華は顔を真っ赤にしたままこう言った。

 

「ならば今日私が主導権を握るから手加減する必要はないわね」

 

 そう言って悶絶している一刀の腕を強引にどかし、彼の胸の中に飛び込んでいった。

 

「一刀」

 

「な、なに?」

 

「あまり私を放っておくと正夢になるから気をつけたほうがいいわよ」

 

「…………マジか?」

 

 一刀はそうならないように全力をもって蓮華を抱きしめた。

 

 そして朝を迎える頃、二人は幸せそうに抱き合って眠っていた。

 

「かずと……」

 

 幸せな夢を見ている蓮華の表情は穏やかだった。

 

 夢の中で蓮華は一刀に言われたことを思い出していた。

 

(蓮華は俺とこうしている時、誰よりも一番激しく求めてくるから凄く愛しいよ)

 

 夢の中でも蓮華は一刀に拳をぶつけていた。

 後日。

 

「蓮華様、一刀くん、新作ができました」

 

 そう言って悠里が持ってきた一冊の本。

 

 どうせ中身はいつもの物だろうと思っていた一刀が開いていくとそこにはサスペンスの世界が広がっていた。

 

 内容は一人の美少年を愛するが故に狂ってしまった少年が、同じように美少年を愛する少年達を次々に亡き者にしていき、最終的には美少年に受けいれてもらえなかった少年が無理心中を図るという、とんでもない内容だった。

 

「小蓮様と穏さんから聞いたお話を参考に書いてみたのですがどうでしょうか?」

 

「どうって言われてもなあ……」

 

 返事に困る一刀は蓮華の方を見ると本を持ったまま固まっていた。

 

「蓮華「蓮華様」?」

 

 彼女からすればその内容は自分が見た悪夢そのものだった。

 

「瑾、この本は許可をするわけにはいかないわ」

 

「蓮華」

 

「ダメなものはダメよ。瑾、貴女なら分かってもらえるわよね?」

 

 必死に懇願する主君に悠里は理由を聞くことなくその申し出を受け入れた。

 

 だが蓮華は知らなかった。

 

 小蓮と穏が日頃から蓮華を観察しており、独り言などを書き記しては悠里にネタとして提供していたことを。

 

 そして闇市場でその本が流通し、蜀や魏にも広がっていった。

(座談)

 

水無月:久しぶりの更新です!

 

蓮華 :言い残したいことはあるかしら?

 

水無月:ヒィィィィィィィィ!?

 

雪蓮 :でも蓮華をそういう風に思っている人は結構いるわよ?

 

一刀 :アンソロジーなどでもネタになるぐらいだしな。

 

蓮華 :お姉様、一刀、このお話のようになりたいのかしら?

 

雪蓮 :あ、孫紹ちゃんとおでかけしてくるわ。(逃走)

 

一刀 :雪蓮、俺も(ガシッ)ヒィィィ!

 

蓮華 :まったくもう……。今日という今日は容赦する必要はないわね。

 

水無月:一刀、安らかに眠れ。

 

一刀 :テメェえええええええ!汚いぞ!

 

蓮華 :安心しなさい。今日は二人にお仕置きだから。(にっこり)

 

水&一:ヒィィィィィィィィィィィィィィ!?

 

詠  :バカ男二人ね。

 

冥琳 :まったくその通りね。

 

詠  :作者も連れて行かれたことだし、次回の告知はボク達がするしかないけど。

 

冥琳 :次回から最終章が始まるわ。ただ、作者が今週、試験があるらしくて次回の更新は来週みたいなので待っててあげてもらえるかしら?

 

雪蓮 :というわけで最終章もよろしくね♪

 


 
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