No.873361

同調率99%の少女(10) - 2

lumisさん

艦娘部に正式に入部して心機一転、艦娘の世界に入り込むことになった内田流留。川内となれる部員を得て、すでに艦娘である光主那美恵は喜びも程々に、いよいよ次なる艤装、神通になれる生徒を探すことにした。その人物とは・・・?
 そしてついに、流留は鎮守府なる基地と艦娘たちを目のあたりにする。

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2016-10-07 20:38:06 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:596   閲覧ユーザー数:595

--- 6 三人で行く鎮守府

 

 

 ついに那美恵の高校から3人の艦娘が揃うということで、那美恵は翌日の放課後に鎮守府に行こうと流留と幸を誘った。流留は一度行っているので別にいいと言ったが、那美恵はそんな意見は無視して流留を強制参加させた。一方の幸は初めての鎮守府ということで、どもりながらも行く意思を伝える。

 三千花らは艦娘部の勧誘活動から解放されたため、先日をもって艦娘部と生徒会の協力関係は一旦終了と区切りをつけて那美恵たちとは以後別行動をすることになる。その後は親友の那美恵からの要請で協力したり、一緒に鎮守府に行って用事を手伝うだけとなる。

 

 翌日土曜日の放課後。那美恵は授業が終わったらすぐに行く旨を流留と幸に伝えていた。一旦生徒会室に二人を呼び出して集まって準備を整えた後、鎮守府へ向けて学校を出て駅へと向かう。三千花らは提督や五月雨によろしくと言い那美恵たちを見送った。

 

 

--

 

 

「内田さんはこれで2回目だけど、さっちゃんは初めてだから、ドキドキするでしょ?」

「は……はい。あの…その…そのさっちゃんという…のは?」

 先日より何かとさっちゃんと呼ぶ那美恵に幸は戸惑った。生徒会長というすごい人とはいえ、面識がなかったのでいきなり親しげに呼ばれるのは違和感がある。そんな幸の様子を察してか、那美恵は一言断った。

「あ、そういうふうに呼ばれるの嫌だった?やっぱり苗字で呼んだほうがよかったかな?」

「う…え……と。あの、別に……どう呼んでいただいても…いいです。」

 

 先輩でもあったので幸は那美恵に妙な威圧感を感じており、逆らわないことにした。ただ冷静に考えると、呼び名はどうでもよかった。

「じゃあ今日から神先さんはさっちゃんで。あ、でもこれから神通になるんだから、神様とか?」

「う…あ……えと。」

 調子に乗って呼び名を変える那美恵に流留が突っ込んだ。

「会長、それじゃかみさまですよ~!もっと普通に呼んであげないと。」

「エヘヘ。そっか。それじゃあ、普段はさっちゃん、艦娘のときは神通ちゃんとかじんちゃんだね。」

 不満はないのか幸はコクンコクンと二度頷いた。隣でその様子を見ていた流留が那美恵に再び口を開いた。

「会長。どうせならあたしも何かあだ名で呼んでくださいよ。神先さんだけあだ名はずるいよ!」

 その意見にわざとらしくハッ!とした表情で口に手を当てておどけてみせる那美恵は、オーバーリアクション気味に腕を組んでうーんうーんと唸り、思いついたという表情に切り替えて流留を新しい呼び名で呼んでみせた。

 

「普段は流留ちゃん。艦娘のときはかわうちゃん。」

 那珂の発案に流留は一瞬目を点にして呆け、そしてツッコむ。

「……そりゃ川内ってかわうちとしか読めなかったっすけど、もはや別物じゃないですか!」

「うーん。注文多いなぁ~内田さんは。じゃあふつーに川内ちゃんで。」

「まぁそうなりますよね。」

 

 二人のこれからの呼び名を決めた那美恵は、逆に自分の呼び名を求める。

「じゃあ二人ともこれからはあたしのこと生徒会長とか会長って呼ぶのやめて。これからは同じ艦娘仲間なんだし、もっと気軽にあたしのこと呼んで欲しいな。」

 

 那美恵はそうは言うが、流留も幸も那美恵の学年と学校内での立場がどうしても頭にちらつき、気軽に呼ぶには躊躇してしまう。だが那美恵はどうしても会長以外の呼び名で呼んで欲しいという目で訴える。二人はそのわかりやすい視線に負け、両者一致でこう呼ぶことにした。

 

「じゃあ普段はなみえさん。艦娘の時は那珂さん。」

 さん付けかよ……と那美恵は少し不満を持ったが、自分の校内での影響力からして1年生の二人からすればこれが限界かと納得し、OKサインを出した。

「うーん。まぁいいや。それで。じゃあこれから電車に乗って鎮守府に行くよ、流留ちゃん、さっちゃん。」

「「はい、なみえさん。」」

 適当な雑談を交えつつ、気づいたら駅前までたどり着いていたので3人は電車に乗り、となり町にある鎮守府Aへ向かっていった。

 

 

 

--

 

 鎮守府Aのある町の駅についた3人。那美恵の案内のもと、流留と幸は町の周辺施設の案内を受けながら鎮守府までの道のりをてくてくのんびりと歩き続けた。やがて工事現場によくある仕切りが見えてきた。鎮守府Aのある区画まで辿り着いた証だ。

 

 2回目である流留は初回と同じようなリアクションで鎮守府の区画をキョロキョロしながら進む。一方で幸は、ノーリアクションで周りをほとんど見ずに先頭を進む那美恵の方向だけを見て進んでいる。そんな幸の様子を見かねて流留がツッコミを入れる。

 

「ねぇさっちゃん。せっかく鎮守府に来たんだからさ、もっと周り見たらどう?結構面白いよ?」

「え、あの……えと。いいです。」

 

 さらりと言う幸。そのあまりにクールで現実的で味気ない一言に流留はカチンときた。

「さっちゃんさぁ。それじゃ楽しめないでしょ?せっかく学校とは違う場所に来てるんだからもっと周りを見ないと。面白いものも見過ごしちゃうよ?」

 

 流留はもっとキョロキョロしようと幸を促すが、彼女はそれでも周りを見ようとしない。黙りこくって那美恵のほう、つまりこれから行こうとしている方向だけをまっすぐ見つづけたまま。一切視線を外そうとしない。その様子を見た流留は呆れた表情ではぁと溜息をついて、それ以上は言わないことにした。

 

 

 那美恵は鎮守府の本館へと歩いてきた。後ろからなんだかんだ話しながらついてくる二人を特に気に留めない。那美恵は、自分や三千花たちとは違う内田流留と神先幸という、どことなく凹凸がありそうな二人をこれから艦娘をするにあたり、教育のしがいがありそうだと楽しみでワクワクしていた。

 本館の玄関についた3人。ちょっとした市民会館ほどの大きさとはいえ、鎮守府の本館を目の前にして流留はもちろんのこと、さすがの幸も建物の前まで来ると、味気ない感想は鳴りを潜め、心臓の鼓動が早くなって緊張して畏怖の一言が飛び出る。

 

「ドキドキ……します。」

「でしょ~!?でしょ?この前初めて来た時あたしも同じだったもん。あたし艦娘って全然知らなかったけどさ、人知れず戦ってる人たちがこんなところにいるなんて知って、もうドッキドキだもの。ねぇ、さっちゃんは艦娘って知ってたの? 艤装の同調を何度も試しに来たようだったらしいけど。」

 

 流留が幸の身の上を聞こうとしたが、幸は口を開かず視線を地面に向けてしまう。それを見た流留はまたしてもため息をついて呆れ顔になってしまった。

 

--

 

 季節はすでに夏に入りかけており、汗が筋を成して滴り落ちる程度に暑くなってきていたため、室内に入って3人はやっと落ち着いて安堵の息を漏らす。まだ人が少ない鎮守府Aではあるが、勤務する人間のために人が入りそうなところだけはエアコンが効いている。つまりロビーと、艦娘待機室、そして執務室の3部屋だけだ。

 

「ふぅ。暑かった~。エアコン効いててよかった~。」

「あたしはこれくらいの暑さが好きだなぁ~。」

「……。」

 黙っている幸もフェイスタオルで頬や額を拭ってその暑さを示している。那美恵もハンカチで汗を拭ってパタパタと手で仰いでやっと手に入れた涼しさを堪能している。流留は汗をかいてはいるが、至って平気な顔をしている。

 

 

「早速だけど二人には提督に会ってもらいます。流留ちゃんは一度会ったことあるからもう大丈夫だよね?」

「はい!」

「……はい。」

 

 那美恵は執務室のある3階へと二人を引き連れて執務室の前で待機させた。コンコンとノックをして那美恵は室内からの返事を待つ。やがて男性の声で「どうぞ」と声が聞こえた。

 那美恵は来る前に確認しなかったが、どうやら提督がいることがわかった。今度から来る前に一報入れて確認しないとなーと思いつつ、扉を開けて中にいる提督に向かって挨拶をした。

 執務室には提督だけがいた。

 

「こんにちは提督。また来たよ!」

「いらっしゃい、光主さん。昨日四ツ原先生から連絡受けたよ。ついに3人目も揃ったんだってな?」

「よかった。ちゃんと連絡受けてたんだ。」

「あぁ。ともあれこれで光主さんの高校との学生艦娘の提携は完全に成ったな。俺も肩の荷が降りたよ。」

「うんうん。あたしもやっと安心して那珂としてお仕事に集中できるよ。」

「ははっ。よろしく頼むよ。そうそう。3人目の子を紹介してくれないか?」

「もちろんそのつもりで今日は来たんだよ。さ、挨拶挨拶。あちらにいらっしゃるのが、鎮守府Aの提督こと責任者の西脇さんだよ。」

 

 那美恵と提督と呼ばれた男性のやりとりをぼーっと見ていた幸はいきなり自分に振られたので一瞬慌てるが、すぐに冷静さを取り戻して那美恵の言うとおりに挨拶をし始めた。

 

「あの……神先幸と申します。わ、私は……今回神通の艤装と同調できました。艦娘部の部員にもなりました。よろしくお願い致します。」

 生徒会長の那美恵よりも偉く、四ツ原先生よりも敬うべき対象と判断した幸は口調を意識して挨拶を口にし始めた。普段のドモリや自信の無さをなるべく出さないためと心がけたが、結局普段通りの口ぶりになってしまった。

 

「はい。よろしくお願いします。私は鎮守府Aの総責任者、みんなには提督と呼ばれてます、西脇と申します。公式には支局長という役職です。この度はうちの鎮守府に来てくれてありがとう。神先さん、あなたにはこれから神通の艤装との同調をまた試してもらいます。俺や工廠の者達が確認して正式にあなたは合格です。すでに結果は出ているとのことで、あくまで俺の目であなたが本当に同調できてるねというただの確認です。よろしいですか?」

 

 提督から同調の再確認の話を受けて幸はコクリと頷く。了解したという意思表示だ。

 

「それじゃあみんなで工廠に行こう。」

 提督はそう3人に言うと、すぐに机の上にある電話で内線で明石に連絡した。そして那美恵たちとともに執務室を出て、本館から工廠に場を移した。

 

 

--

 

 工廠へと来た4人は明石とひとまず会い、しばらく工廠の入り口で話をしていた。すると工廠の奥から4人の少女、女性が出てきたのに那美恵たちは気づいた。それは、五月雨を始めとして、時雨・妙高・不知火の4人だ。いつも五月雨たちが一緒にいる夕立・村雨を含めた4人ではないのが那美恵は気になる。

 

「あ!那珂さん!みんな!」

「おぉ!!五月雨ちゃん、みんなお帰り~。」

「那珂さん、こんにちは。」と時雨。

「こんにちは。ただいま帰還いたしました。」丁寧な口調で軽く会釈する妙高。

 一番後ろにいた不知火はペコリと無言でお辞儀をして挨拶するだけだった。4人はそれぞれの挨拶をして那美恵たちからの出迎えに対応する。

 

「どしたの?今日は出撃?」

「はい。無人島付近に新手の深海凄艦がいると通報を受けたので、海上警備を兼ねてです。」

 旗艦五月雨の代わりに時雨が答えた。

 

 さらに那美恵は先に気づいた二人がいないことを聞いてみた。

「夕立ちゃんや村雨ちゃんがいないけど?」

「あの二人は今日はちょっと……体調が悪くて待機室で休んでます。待機室行かれなかったんですか?」

 五月雨が少し言いづらそうに答える。

「あ~まっすぐに執務室に行っちゃったから気づかなかったよ。」

 二人の体調の意味を察した那美恵は提督がいることもあり、それ以上は聞かないことにした。

 2~3会話したのち、五月雨たちは那美恵の後ろにいた新顔の二人に気づいた。五月雨は流留のことはすでに知っていたがもう一人は知らない。時雨と不知火にいたってはどちらも知らない。一人だけなら五月雨たちもすぐに対応できるが、二人もいるとなんとなく聞きづらい。五月雨も時雨も積極的な性格ではないためなんとなく萎縮してしまう。

 それを察してか、鎮守府Aの最年長者である妙高が話題の助け舟を出した。

 

「そちらのお二人が提督がおっしゃってた、那美恵さんの学校から今度艦娘になる生徒さんなのですね。」

「そうです!みんなには紹介できてなかったよね。ささっ。」

 那美恵は流留と幸を促して前に押し出し、全員の前で自己紹介をさせた。

 

「初めまして!あたしは○○高校1年、内田流留といいます。この度正式に川内になることが決まりました。よろしくです!」

 元気よく、ハキハキと自己紹介をする流留。

 

「あ、あの……○○高校1年、神先幸と申します。これから神通にならせていただきます。よろしく…お願い致します……。」

 

 幸本人的にはまともな自己紹介をできたつもりであったが、聞いている側からするとぼそぼそと小声になっていたので聞き取りづらい印象をほぼ全員が持った。初見の五月雨・時雨・不知火は正直名前聞き取れなかったが、3人共それを口に出すような積極的な性格をしていないため、それとなくニコッと笑顔で会釈するだけにした。そんな幸を那美恵がフォローする。

 

「あのね、うちの神先幸は、実は昨日神通と同調出来たばかりなの。だからこれから提督に見てもらって、正式な合格をもらうの。鎮守府来たのも他の艦娘見るのも今日が初めてでさ、まだ全然慣れてないからまた後でみんなに改めて自己紹介させるよ。今日はこれで、ね?」

 

 那美恵のフォローを理解した妙高や提督は五月雨たちに合図を送り、これから用事があるからと彼女らを先に本館へと戻らせた。工廠前には大人たちと那美恵たち高校生の3人が残った。

 

--

 

 出撃メンバーで唯一残った妙高は提督に何かこのあと手伝うことはないかと確認したが、提督は彼女も疲れているであろうこと、それから主婦であるためこれから家事もあるだろうからと下がらせることにした。

 

「それでは申し訳ございませんが、お先に失礼致します。」

「お疲れ様。」

 妙高は提督らその場にいた面々に上がる旨の挨拶を言い会釈して本館へと戻っていった。提督は妙高に家事もあるからと言っていたのを耳にし、那美恵はすかさず聞いてみた。

 

「ねぇ提督。妙高さんって、家事やってるって……もしかして結婚してるの?」

「あぁ。そうだよ。」

「えっ!?提督の……奥さん?」

 

 那美恵の発言にその場にいた全員が凍りついた。提督も凍りついたがすぐにブルブルと頭を振ってそれを否定する。

「いやいや!俺が妙高さんと結婚してるわけじゃないぞ! 妙高さんが、一般男性と結婚してるってだけだぞ。 って同じ一般人なのにそういうふうに言うのも変だがとにかく。妙高こと黒崎妙子さんは、近所に住む主婦なんだ。もともと鎮守府A開設時に近所だからと何かと世話焼いてくれてさ、せっかくだから艦娘試してみませんかって妙高を受けてもらったら高成績で合格したから、それ以後縁あって交流があるんだ。」

 

「へぇ~ご近所さんだったんだぁ。まぁ、提督が結婚してたらおかしいもんね~。」

「おい…さりげなくひどいぞ。俺だって……まぁいいや。ツッコむのは疲れるわ。」

 

「ぶー!かまえー!」

「おいおい、後輩がいる前だぞ?」

 提督の腹に向けて至極軽いパンチを当てて不満をぶつける那美恵。そんな彼女に対し提督は彼女の後ろにいた流留たちを出汁に諌めようとする。

 

「あたしはいつだって正直に生きてるんですー!流留ちゃんたちがいようがいまいが提督にかまってほしいときもあるんですよ~だ。」

 そんな那美恵のおそらく素であろう態度を見た流留は呆れるどころか、逆の態度を取り始めた。

「なみえさんはいいなぁ~。提督。あたしとも後で遊んでくださーい。」

「へっ?内田さん!? あ、あぁ~。うん。後でね。」

 流留のお願いには少し表情と態度を変えて苦笑しつつもOKを出す提督。それを見た那美恵は提督をギロッと睨み、自分の場合と全然態度が違うことに腹を立て、スローな口調で提督に言い放つった。

「あたしのときと接し方違くない?」

「違わない違わない。ほら、神先さんが呆れてるぞ。もっとしゃんとしなさい。」

 

「「はーい。」」

 

 那美恵と流留は同じような間の伸びた返事で提督に返した。事実、幸はほとんど初対面な3人のやりとりをポカーンと見ていた。

 

 

 

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 工廠内に戻って準備をしていた明石が再び姿を表したので、那美恵たちは気を取り直して幸の同調の試験を開始することにした。幸の艤装の装備は那美恵がメインで手伝い、流留は艤装を運ぶのを手伝った。そうして幸は、神通の艤装をフル装備した形になった。

 

「どう?さっちゃん。艤装をすべて装備した感想は?」那美恵が聞いてみる。

「え……と。あの、腰のあたりが重いです。」

「アハハ。川内型の艤装は腰回りに機器が集中しちゃうからね~。でも大丈夫。同調しちゃえばまったく問題なくなるから。」

「……はい。」

 幸が腰回りを重そうにフラフラしているのを流留が支え、那美恵が明石の方を向いて合図をした。

「それじゃあ神先さん。私達の準備は整いましたので、いつでも同調始めてかまいませんよ。」

 明石のその言葉を受け、那美恵と流留が見守る中、幸は目を閉じて静かに同調をし始めた。

 

 

 先日と似た感覚が全身を包み込む。今日はあらゆる用事を済ませておいたので何が起きても大丈夫と幸は思い込んでいたがやはり不安は残っていた。しかしとにかく同調を始めなければ進まないとして覚悟を決める。

 ほどなくして節々がギシリと痛み、すぐに消える。それだけだった。思い出すだけでも逃げ出したくなるような先日の恥ずかしい感覚・催しは一切感じることなく、全身の感覚が人間のものとは違う感覚に切り替わったのがわかった。

 

 幸本人のその把握と同時に、明石が口を開いて結果を発表する。

「神先さんの神通の艤装との同調率、87.15%です。」

 

「おめでとう、神先さん。これであなたも正式にうちの鎮守府の艦娘です。」

 提督が幸をまっすぐ見ながらやや大きめの声で伝えた。

 

 ついに認められた3人目の艦娘、神通。幸は那美恵と流留から拍手を送られ顔を真赤にして恥ずかしがったが、それは今まで生きてきた中で負い目引け目を感じての恥ずかしさではない、一番気持ちが良い恥ずかしさだった。

 幸は弱々しい声ながらもその場にいた皆に一言の簡単な感謝の言葉を述べた。それを聞いた那美恵は満面の笑みを浮かべ、流留はやっと初めて感情を出したかと、少し呆れ混じりの表情でやはり満面に近い笑みを浮かべている。提督と明石は頷いてその様子を見ていた。

 

 

--

 

 

「よかったね、さっちゃん。これであなたも正式に艦娘だよ!これでうちの高校から、代表であたしたち3人が艦娘なんだよ。すごくない!?」

「……は、はい。」

「なみえさん!あたしもその気持ちわかりますよ。これであたしたち、世のため人のために戦うヒロインなんですよね!?」

「アハハ。そういえばそうだよね~。」

 たどたどしくひそやかな声で同意する幸と、熱く思いを打ち明ける流留。まったく異なる二人の反応だが、どちらも艦娘になれることを喜ぶ思いは等しい。

 

「なんかカッコいい名乗りとか考えません?」

「アハハ。まーそれは今後ゆっくり考えるとして、まずは二人の着任式。そうだよね、提督?」

 流留と幸と喜びを分かち合いつつ、次なる作業へと思考を切り替える那美恵。それを提督に確認すると提督は頷いて答えた。

「あぁ。内田さんの川内の着任式をやろうと思ってたけど、タイミングがいいね。神先さんと合わせてやろう。内田さんと神先さんの着任式は同時だ。」

 着任式と聞いて、幸はよくわからず?な表情を浮かべる。そして那美恵を見る。その視線にすぐに気づいた那美恵は流留の時と同じように着任式について幸に説明をした。提督も補足説明し、続いて今後のスケジュールについて3人に伝える。

 

「それじゃあ神先さんには書類に必要事項を記入してもらうから、後で執務室に来てください。」

「……はい。」

「でその前に、光主さんと内田さんは、神先さんの身体測定をしてあげてください。器具は1階の倉庫に閉まってあるから。適当な部屋開けていいからそこでね。」

「提督ぅ。どうせならいっs

「それは、なしの方向で。」

「ちっ。先手を打たれたわ。」

 いいかげん提督は那美恵の言わんとすること、茶化しの仕方がわかってきていたので素早く返すことにした。

 

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 日が落ちるのが遅い夏の時間なので19時近くになってもまだ明るい。鎮守府には那美恵たち高校生3人はもちろんのこと、五月雨たち中学生も普通に残っておしゃべりをしたり遊んでいる。(帰ったのは妙高と不知火の二人だけである)

 夏休みが目前に迫っているこの時期、鎮守府は学生の立場の艦娘たちの一種のたまり場にもなる。気の置けない者同士が集まっていれば時間など気にせず遊び続ける。国の組織に関わっているという意識は、防衛や戦闘という要素からは一般的には一番遠いであろう立場の女子中学生・女子高生にとって誇らしく、遅くまで外にいても堂々と振る舞えるといういわば箔・免罪符となるのだ。

 ただ時間は間違いなく夕方~夜が迫ってきているため、提督や成人の艦娘は未成年の少女たちの責任者として彼女らを安全に退館させなければならない。残っている大人は提督と明石、そして明石の会社の技術者2~3人である。

 

 那美恵と流留は幸の身体測定を終わらせ、幸を執務室に連れて行き書類記入のフォローをした。那美恵のフォローは的確で幸にとって十分すぎるため、途中で流留はやることがなくなり暇を持て余し始めた。せっかくなので提督と雑談をするために提督の席へと近づいていく。

 

「ねぇ西脇提督。提督は何が好き?」

「へ?なんだい突然。」提督はPCから顔をあげて流留を見た。

「いやさ、ゲームでも漫画でもなんでもいいんだけど。」

「あぁ。そういうことか。って言っても内田さんみたいな女子高生にわかるかな?」

 

 そう言って口火を切って話し始めた二人。提督は目の前にいた女子高生から繰り出される話題が、かなりモロどんぴしゃな趣味なので釣られてベラベラしゃべり始める。途中でやりすぎた!?と思い流留の顔色を伺うが、彼女がその内容についていくことができているのに驚いた。世代が違うため流留がわからないネタもあったが、彼女はおおよそ理解できていた。

 流留はというと、提督から繰り出された話題のポイントをつくネタを返したことにより、提督をノリに乗らせて大きく喜ばせる。提督が我に返ってふと時計を見ると12~3分少々熱中して話し込んでいるのに気がついた。

 流留は最初は提督の席の向かいに立っていたが、ネタを交わすたびに近づいていき、最終的には提督の座席の隣、デスクの左のスペースに片手で体重をかけてよりかかっていた。つまり提督の横に急接近していた。

 

 

「ちょーーとぉ!!お二人さん!何密着して話してるのさぁ!?」

「うわあぁ!!」

「きゃっ!」

 そんな二人をジト目で睨みながら二人の間に顔をグイッと割り込ませたのは那美恵だった。そうっと背後から近づいて二人がいつ気づくか黙っていたが、まったく気づく様子を見せないのに業を煮やして後ろから大声で叫んだのだ。

 提督も流留も一気に汗をかいてバクバクしている心臓を抑えつつ背後を振り返り那美恵を見る。

 

「な、なんだよ光主さん。」

「なんだよじゃなーい! こちとら作業終わったのに何二人しておしゃべりに熱中してるのさ!」

「ははっ、ゴメンゴメン。」

「もう!さっちゃんから早く書類受け取ってよ。」

「はいはい。わかったよ。」

 提督が正面に向きを戻すと、幸がじっと提督の方を見て立っていた。

「あの……もしかして、さっきからずっと立ってた?」

「はい。」

 幸はコクリと頷いて返事をする。提督は気まずそうにコホンと咳払いをしてから幸が手に持っていた書類を受け取った。

 

 

 ざっと読んで内容を確認する提督。ところどころで頷く。そして顔を上げて幸を見た。読んでいる最中に那美恵も流留も幸の隣に戻っている。

「よし。問題ない。これは提出しておきます。後日艦娘の証明証が届くからそれを着任式の時に渡します。それと、うちの鎮守府としては着任証明書というのを渡してこの2つをもって、正式に鎮守府Aへの着任とします。あと二人には制服が届くから、それが届いたら試着してもらいたいのでその時また来てください。それまでは光主さんに付き添いという形であれば鎮守府に自由に出入りもらってかまいません。まぁ夏休みも近いだろうし、よければ五月雨たち中学生と仲良く付き合ってあげてください。」

「「はい。」」

 3人の返事を聞いたところで提督は両手を叩いて終了を合図した。

「今日の用事はここまで。3人共ご苦労様。」

「ふぃ~何事もなく終わったね~。」

 那美恵はぐっと背筋を伸ばして疲れたという意思表示をした。幸も動きは小さいながらも同じように背筋を伸ばし、緊張し続けて硬くなっていた身体をほぐす。

 流留は真面目な話は終わりとわかった途端に再び提督の側に行き、さきほどの雑談の続きをしようとする。

 3人が思い思いの行動をし始めてしばらくすると、提督が一つ提案をした。

 

「3人とも。このあと用事はあるかな?」

「え?あたしはないよ。」

「あたしも特には。」

「……私も、ないです。」

「そうかよかった。神先さんも加わって光主さんの高校との艦娘の提携もなったということでさ。ささやかながら食事を御馳走したいんだ。いいかな?」

「えー!?提督ふとっぱらぁ~」と那美恵。

「マジですか!?ラッキー!」

「え、えと…あの、よろしいんですか?」

 流留と幸も同様に喜びを交えて驚く。

 

「いいのいいの。おじさんに大人しく奢られなさい。」

「自分でおじさんって言っちゃってるしw」

 那美恵がそういうと、幸は苦笑しつつも提督の奢り発言に喜びを見せる。流留はもっと正直に喜びを見せた。

「おじさんっていうよりお兄さんで素敵だよ提督!じゃあ早く行きましょうよ!ねぇねぇ!」

 流留はすぐ隣りにいた提督の腕をがしりと両腕で組んで激しくボディタッチをする。提督は腕に当たる流留の双丘の膨らみを感じてしまい、たまらんという状態で鼻の下が伸びかけたがさすがに分をわきまえ、シャキッとするべく背筋を伸ばしながら流留をなだめる。チクチクと那美恵からの鋭い視線があたっていたが、あえて無視した。

「まぁまぁ。まだ五月雨たち中学生組も残ってるし、まだ俺出られないからもうちょっと待ってくれ。」

 

「だったらさ、五月雨ちゃんたちも一緒に連れてったら? 3人におごるのも3+4人に奢るのも社会人なら大して変わらないよね~? どぉどぉ?」

 ある種悪魔の囁きのような提案をする那美恵。提督としては金銭的な問題は確かにないので話に乗ってもいいが、かなり年下の娘7人を引き連れて食べに行くなどそこまで肝が座っているわけではないので少し尻込みをした。この際仕方ないとして、大人代表追加として明石を誘うことにした。

 明石は飲みに行くと高確率でハメをはずしてエンドレスにしゃべり続ける。趣味ネタが似通っている提督でも飲みの席後半ではおっつけなくなるほどだ。しかし今日は飲ませず、学生たちの付き添いとするから大丈夫だろうと提督は踏む。

 

「それじゃあ、俺だけだとちょっとなんだから、明石さんも誘っておこう。」

「おぉ!?今日の提督なんかすんげーふとっぱら!見違えたよ!」

 

 早速提督はその旨を待機室でおしゃべりしている五月雨と工廠にいる明石それぞれに内線で伝えた。すると五月雨たちも明石も多少驚きを見せたがすぐにその誘いに乗ることにした。

 その日は那美恵達3人、五月雨たち4人、明石と彼女の会社の技師1人の計2人、そして提督の総計10人で揃って帰ることになった。

 

 

--- 7 幕間:艦娘たちの語らい

 

 一同は本館のロビーで集まることにした。ちょうど19時になる頃合い、執務室の戸締まりをした提督と付き添いの那美恵がロビーに来ると、五月雨たちと先に行かせた流留と幸が集まって話をしている。幸は明らかに話の輪に加わることができていないが、うっすらとはにかんでいるので雰囲気は楽しそうだと那美恵も提督も感じた。幸の態度を多少知ってる那美恵は、少し時間はかかるだろうがこの分であれば、幸もすぐに鎮守府に慣れ、みんなと仲良くなれるだろうと期待を持つのだった。

 

「おまたせ。あとは明石さんたちだけかな?」

「はい。そうです。」五月雨が答えた。

「そういや五月雨。更衣室とかその辺の戸締まりは大丈夫かな?俺が入ったらまずいところ。」

「今日は窓とか開けてなかったと思いますけど……ちょっと不安なので見てきます!」

 そう言って駈け出してロビーから離れていく五月雨。

「あ!さみちょっと待って!僕も行くよ。」

 心配になった時雨が彼女についていった。

 

 

--

 

 五月雨と時雨が更衣室や女子トイレの戸締まりを確認しに行っている間、残りの6人はロビーで会話をしたりぼーっとしたりして待っていた。しばらくして明石と技師の女性が本館へと入ってきた。

「お待たせしましたー。おお、ロビーまだ涼しいですね。助かりますね~。」

 明石と技師の女性はパタパタとフェイスタオルで仰いで涼しさを味わう。夏場の工廠は非常に蒸すため、明石たち職員は長時間の作業は控えて工廠内の事務所に入ることが多い。

「お、明石さんに○○さん。今五月雨と時雨が戸締まり見に行ってるからちょっと待っててください。」

「はい了解です。今のうちに涼んでおきます。」

 

 しばらくして五月雨と時雨が階段を降りて戻ってきたので提督はロビーのエアコンのコントローラーのある場所まで行き、エアコンの電源を切って、本館内の空調設備をすべて落とした。

 提督がロビーの裏の部屋からでてきたのを全員が見届けると提督が辿り着くのを待たずに全員玄関から外に出る。提督はそれに合わせてロビーの電灯を消して非常灯だけにし、最後に外に出て玄関の鍵を締めた。ロビーは真っ暗ではなく非常灯だけが薄ぼんやりと、辺りを照らしきれない弱い光を発していた。

 

 

--

 

「よし、みんな行こうか。何が食べたい?」

 

「豪華なフランス料理~!」

「はったおすぞ?」

「エヘヘ~」

 提督がみんなに意見を求めると、すぐさまそれに冗談で返す那美恵。提督が期待通りのツッコミをしてくれたので満足気な顔をして周りを見渡してくるりと回転する。

 五月雨や時雨など数人は那美恵がおそらく何かしら荒唐無稽な冗談を言うだろうなとわかっていたため、苦笑するだけである。

 

「コホン!気を取り直して、みんな何食べたい?といってもこの人数だから豪華なものは奢れないぞ?」

 

 那美恵達高校生組や五月雨達中学生組はわいわい話し出した。一行は本館前から正門のところまでをのんびりと歩きつつ、そんなおしゃべりを楽しむ。門を抜けて道路沿いの歩道を歩きながら、明石と技師の女性は提督からの質問に分をわきまえた要望を伝えた。

「普通にファミレスでいいんじゃないですか?中高生がいなければ飲み屋に行きたいですけど、さすがに今日は……ダメですよね?」

 技師の女性もそうですねと言って頷く。

「みんなはどうかな?ファミレスでいいかい?」

 明石たちの提案を受けて改めて提督は学生たちに尋ねた。

「あたしはいいよ~。」と那美恵。

「あたしも食べられるならどこでも。」と流留。

「私もそこでいいですよ。」と五月雨。

「いつも行ってるファミレスですよね?いいんじゃないですか。」と時雨。

「そーいえばあそこのファミレス、夏の新メニュー出てたっぽい?食べてみたいよ~。」と欲望丸出しの夕立。

 幸と村雨も口にこそ出さないがコクコクと頷いて承諾する。

 全員の意見が決まったところで提督は号令かけて、皆を駅までの途中にあるチェーン店のファミリーレストランに連れて行くことにした。

 

 

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 10人揃ってファミリーレストランに入った。今回は誰も艦娘の優待特典を使わない。提督が本気で奢ると宣言したからだ。

 9人は思い思いの料理を注文した。たくさん頼むと息巻いてはみたが、なんだかんだで皆少食気味だったり、遠慮した結果となった。せいぜい2~3人で1つずつのサラダを追加で頼むくらいである。

 各自の料理が運ばれてくる。そんな中、明らかに量が多い料理が二人の目の前に配膳された。夕立と流留である。その量には頼んだ本人たちも驚いたが、周りの8人はもっと仰天した。遠慮せずにガッツリとした料理を頼んだ二人にツッコミが入る。

「お、おい二人とも……そんなに食べられるのか?」と提督。

「あたしは大丈夫だよ。昔から結構量食べて育ったから。」

「あたしは育ち盛りだからぜーんぜん平気っぽーい!」

 遠慮という言葉を全く知らないのかとばかりの言い草に幸と時雨がツッコミの言葉を入れる。

「……内田さん。普通、こういうときは……遠慮したほうがいい……よ?」

「ゆうも!君はしょっちゅう提督にねだってるじゃないか。少し我慢を覚えなきゃ。」

 

 二人のツッコミはどこ吹く風、流留も夕立も一切気にせず料理を口に運び続ける。食事中は茶化しもふざけも一切しない那美恵は流留を見て一つため息をついたのち、食事を再開した。

 

 

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 食事も一段落し、艦娘たちは別腹と言わんばかりに食後のデザートを注文し、そしてドリンクバーを往復し始める。食事を少なくしたのはこのためだったのかと提督は思ったが、メインの料理を普通にガッツリ頼んだ流留と夕立も他の娘と同じ行動を取り始めたため、提督の予想は外れた。

 甘いモノは別腹、二千年代も70~80年経っても、女性たちには当てはまるのだった。

 

 デザートが届き、各々おしゃべりしながら食べ始める。時雨と五月雨、夕立と村雨は隣同士で自身のデザートを分けあって食べている。那美恵と流留・幸はお互いあまりまだ知らないため分け合うということはせず普通に会話をしてデザートと一緒に堪能している。提督や明石たち大人勢もデザートを頼んだが、提督らは特に会話をすることもなく、若い子たちを眺め見ながら静かにデザートを口に運んでその場の雰囲気を調味料として味わっている。

 ふと、流留がポツリと呟いた。

「なんだか、艦娘って言っても、こうしてると普通の人たちなんですねぇ。」

「およ?どしたの流留ちゃん突然。」

 隣にいた那美恵がすぐに反応した。それにつられて提督や五月雨たちも流留に視線を向ける。皆の視線が集まったが流留は特に気にせず続ける。

 

「いやぁ。あたしさ、自分の生活とは全然違う環境ですごい人達がバリバリ活躍してるのが艦娘の世界なのかなぁって思ってたの。なみえさんのあの展示見て、深海凄艦っていう怖そうな化け物と戦う写真が異様に印象強く残っちゃって。そんな化け物と戦う人たちなんだから、きっとどこかの軍や自衛隊みたいなところなのかなぁって。」

 

 流留の素直な感想。それに提督が答えた。

「うちは最前線じゃないからのんびりしてる方なんだよ。深海凄艦の侵攻が激化してると言われてる九州や和歌山あたりの鎮守府に所属する艦娘たちは大半が職業艦娘で、皆すごい屈強だったよ。俺は管理者研修のとき防衛省の人たちに連れて行ってもらったことあるけど、雰囲気がまるで違ったよ。」

「へぇ~!そうなんですかー。」

 と流留は相槌を打った。

「あぁ。うちの鎮守府でさすがにあそこまで徹底するのは無理だろうと思う。それから俺の考えは甘いかもしれないけど、艦娘というのは艤装と同調すれば普通の人の数倍は強くなるからさ、その担当地区に応じた艦娘の運用、教育の仕方があっていいと思うんだ。もちろん最低限の教育はするけど。」

 

 提督の言葉を聞いて皆今後のことに不安を持っていたのか、質問や感想を言い始める。最初に口を開いたのは時雨だった。

「でも提督。一応ひと通りの訓練したとはいっても、やっぱり戦うのそれなりに怖いです。なんだかんだでしっかりした訓練や勉強できてるとはどうしても思えないです。よその鎮守府の時雨や五月雨がどうなのかはわからないけれど、少なくとも僕たちは……中学生だし、那珂さんや五十鈴さんだってまだ高校生ですし、なんというかこのままでいいのかなって疑問に思います。」

 

 提督は言葉を発さずに相槌を打つ。次に村雨が自身の気持ちを打ち明ける。

「うちの鎮守府、10人くらいしかいませんけど、本当に私達だけでこの先大丈夫なんですか?いくら最前線じゃないって言っても、最近立て続けに出撃や警護の任務があって今はさみや私達が毎回出てるじゃないですかぁ。私達一人ひとりの力が十分足りてるとは思えないですし、もっと艦娘増えないと私達の負担が増えます。今だと一人欠けても任務が進められなくなっちゃうと思うんです。」

 

 村雨の不安に提督が答える。

「村雨、君の不安ももっともだ。この1ヶ月ほど、かなり君たちの負担が大きくなっていることは本当申し訳ないと思ってる。ちょうど任務が舞い込む数が多いタイミングというのか時勢というべきなのかな。今が落ち着けばまたのんびりできるはずだよ。それに今回、光主さんの学校から内田さん、神先さんの二人が加わることで、だいぶ変えられると思うんだ。二人は高可用性な軽巡洋艦担当になる。駆逐艦の君たちの負担も減るだろうし、作戦の幅も広がるはず。もちろん二人にはこれからしばらく訓練を受けてもらって早く慣れてもらっての話だが。」

 

 提督の言葉の中で触れられたので流留は口を挟んだ。

「ねぇ提督。その訓練、どのくらいかかるの?」

「えーっと。各艦の種類に応じた基本訓練の内容が提示されてるんだ。光主さんもそれをこなしてもらって今の那珂になってる。光主さんは確か2週間ほどだったっけ?」

 

「うーんとね。あたしは実質的には1週間と3日だよ。」

「へぇ~那珂さんそれくらいで訓練終わったんですか?」

 感想を言ってきたのは村雨だ。

「そーだよ。そういえば村雨ちゃんたちはどのくらい?」

「私たちは揃って訓練して、みんな2週間でしたよぉ。」

 村雨から確認の視線を求められた時雨と夕立は互いに顔を見合わせながら訓練に費やした期間を打ち明ける。五月雨はそもそも初期艦で訓練内容が異なるので口を挟まずに黙っていた。村雨たちの言葉に提督が補足する。

「駆逐艦と軽巡洋艦じゃ必要な基本訓練が違うからね。一概には言えないけど、毎日みっちりというわけじゃないから、駆逐艦で約2週間というのは普通かな。那珂の1週間と3日はちょっと早いと評価されるレベルかな。」

「ふーん。なみえさんで1週間と3日かぁ。あたしたちだとどのくらいになるのかねぇ?」

 流留は幸の方を見ながら自分らがかかる訓練時間を想像する。当然何もわかっていないので想像できるはずもなく、同意を求められた幸は無言で首を傾げるだけであった。

 

「ねぇ提督。なんだったらあたしが二人の面倒見るよ?」

二人の様子を見ていた那美恵が提督に提案した。

「あぁ。そうしてもらえると助かる。それで訓練が終わったら、軽巡洋艦の君たちをリーダーにして、駆逐艦の五月雨たちをつければ2部隊ほどにわけて運用できるようになる。そうすれば出撃任務もかなりやりやすくなるかな。……本当は小回りの効く駆逐艦を増やしたいんだけど、艤装の配備が希望通りには来なくてさ。」

 

「次に配備されるのなんだっけ?」

 那美恵がそう提督に聞くと、提督は五月雨に視線を送り答えを求めた。それを受けて五月雨は飲みかけていたジュースのグラスを置いて呼吸を整えた後、提督の代わりに答える。

「ええとですね。もうすぐ軽巡洋艦長良と名取、その後駆逐艦黒潮、重巡洋艦高雄です。大本営の方からちょろっと聞いたんですけど、その後はもう一つ重巡洋艦、それから時期はわかりませんけれど、空母の艦娘の艤装が行くかもよと言われました。」

「一気に4人?6人?かぁ~。どんな人が同調できるんだろ、楽しみぃ~!」

 那美恵が期待を持って言葉を弾ませる。だが提督の心境は複雑だ。

 

「気軽に言ってくれるけどな、募集かけて採用試験するのしんどいんだぜ? その間明石さんたち工廠の人たちの作業も時間割いてもらわないといけないし、広告出すのだってもらってる予算からやりくりしないと。経理ができる人を艦娘に迎え入れたいくらいだよ……。」

「アハハ……管理職って大変なんだねぇ。」

 那美恵がそう茶化すと、それまで不安げな気持ちにより表情を暗くしていた時雨や村雨たちはやっと表情を柔らかくし、笑顔を見せた。

 

「ねぇなみえさん。またうちの学校でその4~6人の艦娘の募集引き受ければ?」

 流留がそう提案した。

「あ~それいいかも。どう提督?」

 

 那美恵は提督の心境を知って少しでも彼の負担や悩みを減らせればと、先の川内・神通と同じやり方で艦娘探しを引き受けるつもりで流留の提案に乗ることにした。が、提督は首を横に振ってそれを拒んだ。

「いや、俺の考える艦娘になって欲しい人・タイプがあるんだ。せっかくの提案申し訳ないんだけど、今回は普通に採用したいんだ。ゴメンな。」

「ううん。いいですって。あたしもなんとなく言っただけですし。」と流留。

「あたしも流留ちゃんの案いいかなぁ~って思ったけど、提督の考えが一番だからね。また今後もらえるんならお願いってことで。」

「光主さんには、内田さんと神先さんの教育を再優先にお願いしたい。そしてタイミングが合えば、出撃任務や依頼任務の現場に早く復帰してほしい。」

 提督の考えを聞いた那美恵たち3人はそれぞれのタイミングで頷いた。

 

 それを見ていた中学生組の一人、夕立が訴えかけるように声を上げた。

「前に合同任務から帰ってきた後からの約1ヶ月、那珂さんがいなくてあたしたち大変だったんだよぉ~!頼れる人五十鈴さんしかいなかったしぃ、あたしたち4人でさぁ~。」

「ゴメンね~。でも妙高さんと不知火さんがいるじゃない。あの二人は?」

 

「妙高さんはママっぽいから、むしろ鎮守府に居てくれたほうがうれしいっぽい。ぬいぬいこと不知火ちゃんは別の中学校だし、あまりあたしたちと話してくれないし、正直あの子よくわからないっぽい。てかてーとくさん、ぬいぬいをあまりうちらと組ませないよね?わざと?」

 夕立が鋭く指摘すると、提督は焦りつつ答えた。

「いやそんなつもりはないんだが、彼女は一人で来てるし他校の生徒と一緒だと気まずいかなと思って。」

 

「提督。それは余計な配慮だよ。せっかく同じ鎮守府に勤めてるんだし、僕たちはできれば出撃のときだって仲良くしたいよ。」

「私もそう思います。私にとっては初めての艦娘仲間ですし、今回久々に一緒に出撃できて嬉しかったです。不知火ちゃん無口ですけど楽しそうでしたし。」

 時雨の意見に五月雨が賛同する。

 

「そうか。じゃあ今度から編成はもっとみんな均等になるようにするよ。」

「ねぇ、あたしもその不知火さんと出撃してみたいな~。妙高さんとも。提督。あたしたちの方ともお願いね?」

 那美恵も時雨達の意見に賛成だった。今まで駆逐艦といえば五月雨たち白露型の艦娘としか仕事をしたことがなかったためだ。

「あぁ。わかってるって。」

 提督は時雨たちだけでなく、那美恵からも押される形になり、彼女らをなだめるようにその要望を承諾した。提督は、川内と神通の着任式が成ったら、そのタイミングで全員参加の親睦会を開こうと考え始めた。

 

 

--

 

 その後20~30分会話が続き、頃合いを見て提督は全員に号令をかけお開きとさせた。レストランを出て駅に向かう一行。その間も五月雨や時雨たち中学生の間、那美恵たち高校生の間でぺちゃくちゃおしゃべりが続いていた。提督や明石、技師の女性は子どもたちの様子を後ろから眺めて、静かに2~3の会話を交わすのみである。

 駅のホームで電車を待つ間、那美恵はふと思いついたことがあり提督に話しかけた。

「ねぇ提督。流留ちゃんやさっちゃんは当然だけど、あたしもなんだかんだで鎮守府のみんなをみんな知れてないと思うの。」

「うん。」

「それでね、もし提督がノってくれるんならの話なんだけど、いつかのタイミングでみんなでパァ~っと飲んだり食べたりして親睦を図れる場を作らない?」

 那美恵の発言の鋭さに驚いた提督はすぐに言葉を返す。

「おぉ。実はさ、俺もそれ考えてたんだよ親睦会。そうかそうか。光主さんもそういう考えしてくれたのか。」

「え?提督も考えてたんだぁ。あたしたち気が合うねぇ~?」

 那美恵は提督の腰を自身の左肘で軽くツンツンと突っついて口でも物理的にもツッコミを入れる。提督はややのけぞり気味になりながら、側にいた明石や流留たちに聞こえるように返す。

「そうだなぁ。気が合う人がいるってのはいいもんだわ。ぶっちゃけ俺、艦娘制度の中では知り合いいないしさ、こう見えて寂しいんだぜ? 明石さんは同じ技術系で話題合うし気楽なんだけど、この人暴走すると手を付けられないしさ。たまに何考えてるかわかんねぇ人だし。」

「あらあら?私の右隣りで何か失礼な事言ってる人いますね。誰でしょうか?」

 わざとらしく明石は顔をキョロキョロさせて最後に提督を笑みを含んだ睨みを向ける。

 

「おや、聞かれてしまったかな? それはそうと、ほかは歳の離れた娘ばかりで話も合わないし。でも内田さんは俺と趣味ドンピシャっぽいから、実は内心かなり嬉しかったんだよ。」

「アハハ。あたしもまさか提督が同じオタ趣味な人だなんて思わなかったですよ。これからの鎮守府勤務楽しみです!」

 流留は提督や那美恵の前に幸と一緒に立っていたが、クルリと後ろを向いて提督に向かって言った。

「そして真面目な考えるところ、そこでは光主さん。なんか君とフィーリングが合いそうな感じがするんだけど、こんなこと言ったらおかしいかな?俺自意識過剰かな?」

「ううん。そんなの気にしないでいいよ。提督ちょーーっと頼りないところあるけどそれがいい味だってみんな思ってるだろーし、気が合うならあたしも遠慮なく提督にツッコミ入れられるからオールオッケーですさ、西脇さんや。」

 フィーリングが合いそう、はっきりとそう言われ那美恵は内心ドキドキしつつ、照れをひたすらに隠して普段通りの茶化しで提督をからかって会話の収束先を綺麗にそらしてまとめる。

 やはりこのおっさんは自分で恥ずかしいこと、相手をドキッとさせる発言してる意識あまりないのか?と那美恵は呆れて失笑する。

 

「言ってくれるね……。まぁいいや。内田さんや明石さんも、親睦会開くのにはどうかな?賛成してくれるかな?」

「いいと思いますよ。私の同僚の○○さんとか、なんだかんだであまり艦娘の子たちと話したこと無いって人いますし。」

「あたしも賛成ですよ。ワイワイ騒ぐの大好きです。」

 

「賛同者がいてくれるなら助かるよ。それじゃあ日取りは追って伝える。それまでにアイデアとかあったらくれるとうれしいな。」

 提督の言葉に那美恵は間延びした声で同意の返事をした。

「はーい。ところでさ、五月雨ちゃんたちには賛同求めなくていいの?」

「あ~、まぁ彼女らはいいだろう。聞かなくても五月雨は多分同意してくれるだろうし。時雨たちも反対はせんだろう。」

 提督の言い方が少し気になった那美恵。流留や明石は気づいていない様子だったので那美恵はそれを表現を隠してつぶやくのみにした。

「そっかそっか。あの子たちを心から信頼してるんだね、提督は。」

「ん?あぁ、まぁそんなところかな。」

 

 しばらくして電車がホームに到着したので乗り込んだ一行は、それぞれの自宅へと帰っていった。

 

 


 
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