No.86606

after to after sidestory~霞と娘~

kanadeさん

続くかどうかわからないサイドストーリー第3弾
霞とトラがメインです。
感想・コメント待ってます
それではどうぞ

2009-07-27 00:36:45 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:17618   閲覧ユーザー数:12752

 after to after side story霞と娘

 

 

 

 中庭の片隅で月見酒を楽しむ姿がひとつ。

 「ええ月や・・・・んく・・・ぷはぁ」

 張文遠――霞である。

 いつもなら、一刀なり凪なりを連れて飲んでいる彼女だが、今日は誰も誘わずに一人で飲んでいた。

 「トラ・・・だいぶ馬を上手に使うようにはなってんけど・・・・・・」

 自分の隊に入隊して随分たつ我が娘の事で、どうしても考えたいことがあったがために、こうして一人で飲んでいるというわけなのだ。

 張虎――トラの馬捌きは、張遼隊の中でも既にトップクラスであり、今では一刀と華琳の娘の曹丕に馬術を教えるのを任せているほどである。

 しかし、最近は霞とトラの仲はギクシャクしていた。

 「ええ加減、一人前って認めたらなあかんのかな~・・・」

 喧嘩の原因は、霞がトラを半人前扱いしかしていないところにあった。

 

 ――数日前に調錬をしている最中に、自分の腕を褒めてもらおうと頑張ったトラを、霞が褒めずに半人前扱いしてしまい、そこでついにトラがキレてしまったのだ。

 『ええ加減、ウチの事認めろや!馬鹿おかん!!』

 ――この直後に盛大に親子喧嘩をしてしまい、今日まで〝親子〟としては一切会話をしていない。 上司と部下としての会話はしているものの、それにしたって素っ気ない上に短いし、何よりトラが顔を合わせようとしない。

 

 「・・・ウチは、やっぱり親に向いてへん・・・・・・のかな」

 「そんなことないって」

 「わ!ったった・・・・って、一刀?」

 「こんばんは、俺も混ぜてもらっていいかな?」

 見上げてそこにいたのは、自分を女として・・・そして、妻として受け入れてくれた男、北郷一刀だった。

 「相談に乗ってくれるんやったらええよ」

 自分の隣をぽんぽんと叩いて一刀を座らせると、盃に酒をついで渡した。

 「ありがと。・・・で、なんであんなこと考えてたの?」

 「・・・ウチな、トラの事めっちゃ好きや。ウチを目標にしてくれてるとことか・・・・・・ちゃうな、そんなんどうでもええわ。どことかそんなんやのうて全部が好きやねんけど・・・」

 そこまで聞いて、一刀は思わず声を出して笑ってしまった。いきなり声をあげて笑われてしまった霞は、もちろん面白い筈がない。

 その証拠におもいっきりムスッとしてしまっていた。

 「ごめんごめん・・・・・思っていた以上に理由が可愛いものだから・・・つい、ね」

 「理由が可愛いって・・・どういうことや?」

 「うん、・・・これは、単純に霞がトラの事が大事で可愛すぎるってこと。トラの事を〝一人前〟って認めてしまったら、自分の傍からいなくなる気がしてるんじゃないかな?いつまでもずっと一緒にいたい、一緒に走っていたいって・・・」

 一刀に指摘されて、霞はどこか納得できている自分がいたことに気付く。

 胸のどこかに引っかかっていた〝何かが〟すとん、と落ちた気がしたからだ。

 (なんや・・・ホンマに可愛い理由やってんな・・・・・・なんか小さいわ、ウチ)

 全くもって情けない。そんな理由だけであんなに揉めてしまっていたなんて、軽く滑稽だなと霞は思っていた。

 自嘲気味のを浮かべる愛妻を横から見ら一刀は、あることを閃く。

 それは、親子の仲を直す自分なりの最良の策――。

 「霞、ちょっと耳貸して」

 「なんや?」

 「実は――――」

 頭を寄せてきた霞の耳下で、一刀は思いついた策を説明した。

 

 「ええ策とは思うねんけど・・・・・・肝心のトラのほうはウチからはどうしようもないで?」

 「そっちは俺に任せて。だから霞は待ってて」

 「ひゃ、かず・・・・ん・・・、はぁ」

 一刀は霞を抱き寄せてそのまま唇を奪った。霞も、最初は眼を見開いて驚いていたが、すぐに目を細めて体の力を抜き、一刀に身を任せる。

 「今日は俺が一緒にいてあげるよ・・・霞」

 「一刀・・・・・・うん、一緒にいてや」

 その日、霞は一刀の部屋で一晩中愛されたのだった。

 

 ――翌日。

 「――というわけなんだけど・・・・・・華琳、引き受けてもらえないかな?今回に限っては親である俺が頼んでも効果が薄いと思うんだ」

 「それぐらいだったら構わないわ。トラの事は曹丕から聞いていたことだし、それで二人の仲が戻るというのなら、安いものよ」

 「ありがとう、華琳」

 「その代わり、今日は私と閨を共にしなさい」

 「仰せのままに、我が愛する覇王様」

 (これで、後は二人に任せるだけだ)

 ――自分にできることはここまでだ。

 後はすべて霞次第だが、一刀には〝もう大丈夫〟だという確信があった。

 そして、一刀の策は華琳の手によってすぐに実行される。

 

 

 「なんでウチがおかんと一緒にいかなあかんねん・・・」

 「つべこべ言うなや。華琳の命令なんやから文句言ったてしゃあないやん」

 親子で馬を走らせながら愚痴をこぼすトラに、霞は軽くカッとしつつもこらえてたしなめる。

 「それに、一刀にも頼まれて喜んで返事したんはトラやないか」

 「やって、おとんの頼みは断れへんし」

 一刀が華琳に頼んだことは、とある場所に調査の名目で二人を向かわせることだった。

 ぶつくさと文句を言っているトラだったが、霞は愛娘とそれでも会話が出来ていることに内心で喜んでいた。

 

 ――ウチは、自分が親になるってわかった時、全く実感なんてわかんかった。やって、ウチは武官で戦ってばっかりの人間やったし。

 しかも、お腹が大きくなっていくにつれて馬にも乗れんようになるし、酒も飲めへんようになるし・・・良いことナシや。

 せやけど、トラが産まれて・・・抱きかかえた時、何も言えんようになるくらい幸せな気持ちで一杯やった。

 ――ああ、ウチの子供なんや・・・って、一刀との子供なんやって・・・嬉しゅうて涙が止まらへんかってん。凪や真桜、沙和に風も同じ気持ちやったんやろな。

 それから、トラが大きゅうなって一刀と三人で出かけて・・・・・・それから暫くしてトラが一人で馬に乗れるようになって、これからは親子で並んで一緒に走れるんや♪ってめっちゃ嬉しゅうて踊りたい気持ちで一杯やったわ。

 でも、トラがウチの隊に入って・・・ウチを目標に頑張るようになって、だんだんウチの手を離れるようになっていくのが嫌やって思うようになってもうて。

 自分の隊を持たせんように半人前扱いしかせんようになって・・・・・・結局、喧嘩になってもうた。

 

 (ほんま、一刀に感謝や。やなかったら、ずーっとトラとギクシャクせなあかんかったやろな)

 だから霞は心から、一刀と出会えたことに・・・愛してもらったことに・・・そしてトラに出逢わせてくれたことに感謝していた。そして、トラとの仲直りのきっかけを作ってくれたことにも――。

 

 

 二人が辿り着いたのは、一刀と三人で毎年野宿(キャンプ)をしに来ている山中にある川の近くだった。

 「おかん、なんでここなんや?」

 「そないなこと華琳に聞けや。そんなことより、今日はここで一晩過ごすんやから・・・トラは薪を集めり、ウチは食べ物集めてくるから」

 「・・・わかった」

 不承不精といった感じでトラが頷いた。

 

 パチパチパチ――――。

 薪の燃える音が川辺に響く。漂う魚や肉の焼けた匂いが香ばしい。

 「おかん、幾らなんでも猪は頑張りすぎや」

 「仕方ないやろ、倒さんとしつこそうやったし、そないに大きいわけでもないんやから別にええやんか」

 「それに美味いしな」

 いつの間にやらトラが笑っていた。

 父親がいないことに最初こそ不機嫌そうにしていたものの、薪集めの最中にきのこやらなんやらを一緒に見つけたりして気付けばご機嫌になっていた。

 「なんや、えらい機嫌ようなったやんか」

 「めっちゃ綺麗な石拾ってん。おとんにお土産にするんや」

 「トラ」

 少しだけ真剣に愛娘の名前を呼んだ。

 呼ばれたトラの方もニコニコしていた笑顔を引っ込め、表情を引き締める。

 「おとんの・・・・・・一刀の事、好きか?」

 「当たり前やろ、いきなり何を聞いてん?」

 「ウチの事・・・好きか?」

 声がどうしても震えた。どんなに腹を括っていても、この質問だけは怖かったからだ。

 「昔のおかんは好きや、でも・・・今のおかんは嫌いや。ウチ、あんなに頑張ってんのに・・・おかんはちっとも褒めてくれへん。ちょっと前までは褒めてくれたのに・・・・・・そのくせ、鎮姉とかが頑張った時は褒めてばっかりや」

 何一つとして反論できなかった。グサグサと突き刺さる言葉の刃だったが、霞はぐっとそれを堪える。

 自分でも気付かなかったトラと一緒にいたいという気持ちが、ここまでトラを傷つけてしまったのだから、耐えるほかない。

 「おかん、なんでウチの事褒めてくれへんの?なんでウチの事、認めてくれへんの?」

 「・・・・・・」

 「おかん、聞いてんの?」

 トラが問いかける最中、霞は自分の荷物を手繰り寄せゴソゴソと中を漁っていた。そして、取り出したのは酒瓶と杯――。

 杯は二つあり、一つをトラに放り投げて渡す。

 「おかん?」

 受け取ったトラは何の事だかわからないといった感じでポカンとしている。

 一方の霞はそんなトラを無視して突然語りだした。

 「ウチはな、お前の事・・・めっちゃ好きやし、頑張ってるのもわかっとる。でもな、それで褒めたり認めたりしたらな、トラがどっかにいってしまいそうな気がしてん。せやから、いつまでも一緒に入れるように・・・・・・いつまでもウチを目指したままでいてほしいって・・・ま、このことはトラにいつか子供が出来たらわかるかもしれへんな。」

 トクトクトク――。

 注がれる酒を見てようやく何かがわかったトラは眼を見開く。

 「結局、そのせいで喧嘩になってしもうて・・・どうやって仲直りしたらええかわからんで悩んどったらな、お前のおとんが・・・一刀が言うてくれたんよ『だったら一人前に認めてあげたらいい。本当は認めているんだって思っているなら、後は簡単だよ』って」

 「おとんが?」

 「せや、約束したやろ?〝お前に酒を飲ませるんは、お前が一人前になったときや〟って・・・それまでは絶対飲まさへんって。あんとき一刀も聞いとったからな、『きっかけは俺がなんとかするから』って言うて・・・まさか華琳まで協力させるとは思わへんかったけど・・・・・・せや、お前は曹丕に感謝せなあかんで?華琳が協力してくれたんは曹丕から話聞いとったからなんやし」

 「曹丕が・・・あ、曹丕様が・・・」

 「敬語なんて公の場だけで十分やろ?トラはお姉ちゃんなんやから呼び捨てでええんやって」

 「うん・・・」

 恥ずかしいのか、ちょっと顔が赤い。それを見て可愛いなと霞は思うのだった。

 「ほら、乾杯しようや。折角美味い酒の肴があんねんから」

 「う・・・うん」

 照れ気味に杯を持ち上げるトラ。 

 「じゃあ、いくで」

 

 「「乾杯」」

 

 こちん、と杯同士がぶつかる小さな音が二人の間に響いた。

 

 

――翌日。

 「一刀、今帰ったで!」

 「おとん、ただいまや~!」

 洛陽に戻った霞とトラは、二人とも一刀のもとに駆け寄り、トラのほうは父親に飛びつく。

 「おかえり、霞、トラ・・・その様子だと仲直りできたみたいだね?」

 「おとんのお陰や!それとな、おとんにお土産があるんや」

 「お土産?」

 「せや、めっちゃ綺麗な石拾ってん・・・・これや!」

 懐から取り出したのは翠色の石――翡翠だった。

 「綺麗だね・・・・・・ありがとうトラ、大事にするよ」

 頭を撫でられると、トラは猫のように目を細めて嬉しそうに笑う。

 ほんわかな気持ちになっていた一刀だったが、直後「ヒック」とトラがしゃっくりをした。

 気になってよく見てみると、頬がほのかに赤く、息が酒臭い。

 「し~あ~・・・・トラは一体どうしたのかな~?」

 「あははは・・・・・・トラ、結構飲んでん。ウチも大概止めたんやけど、まぁウチの娘やし止まるはずあらへんわな」

 「で、酔っぱらって、今も酒が抜けてない・・・・・・なわけないだろ。大方、帰ってくる前も飲んだんじゃないのか?」

 「んふふ~。おとん~お酒ってめっちゃ美味いんやな~・・・ウチ、めっちゃ気に入ったわ~」

 赤く染まった頬をすりよせるトラは完全に酔っぱらっている。

 「しゃあない。トラ、おぶったるから部屋で休み」

 「いやや~。おとんにおんぶしてもらうんや~」

 「だってさ、ほら・・・おいで、トラ」

 背を向けてしゃがみ込むとトラは千鳥足のまま、父親の背にもたれかかる。

とそこで華琳と曹丕の覇王親子がやってきた。

 「あら、仲直りできたみたいね」

 「ん?華琳、おおきにな・・・」

 「別に気にしなくていいわ。礼を言うのだったら曹丕ほうに言いなさい」

 「おと~ん、いっぺん降ろしたってや」

 言われたトラを降ろすと、ふらふらとした足取りでやはり曹丕にもたれかかる。

 「そ~ひ~・・・ほんまに、ありがと~な~」

 「トラお姉様、お酒臭いですよ。わ、お姉様、涎が・・・ああ、寝ちゃわないでください~・・・お父様、助けて~」

 全体重を曹丕に預けて眠ってしまったトラを、苦笑している一刀が改めて背負うトラを部屋に寝かせに行く。

 「一刀~。おおきに!」

 「どういたしまして」

 そのまま城内に一刀とトラは入って行った。

 

 「なぁ華琳、ウチらってホンマに果報者なんやな」

 「ええ、一刀に出逢えたというだけで私たちは幸せ者なのよ。だというのに妻にまでなれて・・・母にまでなれて・・・間違いなく三国で一番幸せなのは私たちだわ」

 「せやな」

 

 二、三歩離れたとこで二人の話を聞いていた曹丕は。

 「お母様も霞様も惚気です」

 そんなことを聞こえない程度の声量で言った二人だったが、かく言う曹丕も、一刀という人物が自分の父でよかったと心から思っていたのであった。

 

 「んふ~・・・おとん、おかん、大好きや~」

 ちょっと振り向けば幸せそうな寝顔で寝言を言う我が娘の顔があった。

 「俺も霞も・・・皆だってトラの事が大好きだよ」

 聞こえたかどうかは分からない。

 

 ――だけども、トラの笑みはさっきよりも幸せそうな笑みになっていた。

 

 

~epilogue~

 

 

 

 ――トラと霞が仲直りしてから数日が過ぎたある日。

 一刀は霞とトラの二人を呼び出した。

 「おとん、きたで!」

 「一刀、どないしたんや?」

 「実は、二人に渡したいものがあってさ・・・・手を出してくれないかな?」

 「「?」」

 なんだろうかと思いつつ二人はそれぞれ右手を一刀に差し出す。

 「真桜に頼んで作ってもらったんだ・・・・・・・よし、これでいい」

 腕に巻かれたリード線っぽい腕輪には、小さな翠色の綺麗な石が球状に加工されてあった。そしてトラにはそれが何か一発で分かった。

 「おとん、これって・・・」

 「ああ、これってあん時にトラが拾ったお土産やんか」

 「そうだよ。折角だから真桜に頼んで腕輪にしてもらったんだ」

 「「・・・・・・」」

 二人はそれを空にかざして無言で見詰める

 ((綺麗やな・・・・・・))

 それから霞がトラに何か耳打ちすると、トラは耳まで真っ赤になって頷いた。なんだろうかと一刀が思っていると。

 「一刀ちょっとだけしゃがんでや」

 「おとん、頼むで」

 「?いいけど」

 さっきの二人の様に訳のわからないまましゃがむと、二人が両頬に軽くキスをしてきた。

 一刀がびっくりしているのを見た二人は、してやったりといった感じでお互いに拳をコツンとぶつけあってウインクをする。

 

 「一刀(おとん)、大好きや!」

 

 腕に巻かれた腕輪の翡翠よりもきれいな二人の笑顔を、一刀は生涯忘れずにいようと心に誓うのだった。

 

 

~あとがき~

 

 

 

 いかがだったでしょうか?以前のお話の様に産まれる前ではなく、産まれた後・・・それもトラがだいぶ成長したころをにスポットを当ててみたのですが・・・・・・・ちょっと不安です。

 霞が母親になったらきっとこうだ。そんな感じで書いてみましたこの物語は皆さんにはどう感じていただけたでしょうか?

 凪や風の時と違って結構難航しました。After to afterシリーズの時と違って全部が繋がっているにもかかわらず、それぞれの時間軸がずれているためにそれぞれが一話で完結しているこのシリーズ・・・全部書くかどうかが、全くもって未定です。というのも構成やネタがなかなか浮かばないのです。

 駄目な作者でホントにすいません。

 次の作品がどんなものになるかは未定ですが、変わらず読んでいただけたら嬉しい限りです。

 それでは次回作で。

 Kanadeでした

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
145
18

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択