No.862442

九番目の熾天使・外伝 = 蒼の章 = 夏篇

Blazさん

さてさて。第三話ですよ。
一応予定としては五・六話で終わると思いますので、そこんところよろしくです。

2016-08-08 14:31:40 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1004   閲覧ユーザー数:869

第三話

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ。そこの君たち~」

 

「俺たちは遊ばない? っていうか一緒に泳ごうぜ!」

 

 

典型的なナンパだな、と目の前で並ぶ白蓮たち三人は集まって来たチャラいナンパ男五人の姿を見て同じことを考えていた。

だが生憎と一人は人妻。その娘。そして一人は恋人でなくても信頼という強い関係があり、最後の一人は腐れ縁という絆を持つ。かっこよく言えばそれまでだが、結果彼らの望むような独身やらなんやらや、調子に乗って彼らに寄り付くような彼女たちではない。

 

「阿保らしい…まさか今時こんなナンパがあるとはな」

 

「白蓮さん、その言い方はマズイですよ、色々と…」

 

「歳わかっちまうぞ~」

 

男たちの誘いを聞いても眼中にないという反応をする白蓮たちに、頑なに断るなと内心では思っていた彼らだが、ナンパを何度もしているお陰かめげずに彼女たちを誘い続ける。

 

「もしかして子連れ…っていうか家族かな? いやよかったぁ、家族なら話も分かりやすいし!!」

 

なんの話だよ、とツッコミたい彼女たちに、遂に白蓮は呆れてため息をつくと鋭く冷たい目つきで飛ばした。

 

「オイ若造ども。もし私を落としたいのなら、改造人間にでもなって化け物の首でもここに持って来い。そんな馬鹿みたいなナンパをする暇があるのなら就活でもしとけ」

 

「なんで就活だよ」

 

 

言い方と内容は兎も角、白蓮の目つきとその覇気にどうやら怖気づいたのか、さっきまでの威勢と調子の良さはどこかへと飛んでいき、彼らは口を強く締めて数歩後ろへと下がっていく。今までは単なる人妻だと思っていた彼らも、白蓮の気配というものに気付いたらしく、冷や汗を滲ませて言葉を詰まらせていた。

白蓮が人妻であり、場合によっては娘である蓮を人質にでもすればいいという安直な考えをしていたのかもしれないが、彼らにとっての最大の誤算はそれを白蓮にしようとしていたこと。相手の力量を見定められなかったことだ。

だが、それを知ってか知らずか。リーダーのような青年はそれに臆せずに彼らとは逆にずんずんと前に進み、彼女たちに接近する。

 

「―――――いや、すみませんね。俺の友達が。まだコミュニケーションに慣れてないんで…」

 

「………。」

 

間隔が一メートルもなくなった時、青年は白蓮の前に立つと、ゆらりと揺らめくような眼付きで顔を近づける。蛇のような目と舌回しは彼が蛇人間なのではないかと疑ってしまうほどの滑らかな動きだ。

だが、彼もただそれだけの為に顔を近づけるという愚考をしたわけではない。

その蛇のような動きで虚をつくために、彼はポケットに手を入れると同時に何かを抜き取った。

 

 

「そこはまぁ……ね?」

 

 

小さな金属音と共に短い刃が現れる。そのナイフの先は当然、さっき彼と仲間に上から目線で言って来た白蓮に向けられており、ナイフのような尖った目は彼女の言葉に怒りを見せていたという証拠の他にならない。

 

 

「あんましナマ言ってると……痛い目、見ますよ?」

 

まさか刃物を持ちだしてくるとは思わなかった。過去にもなんでもそういって強気な女性を屈服させてきた青年は、これで彼女も自分の言いなりになると思っていた。

が、当然たかが刃物で屈する白蓮ではないので、彼女が応対するハズだったのだか

 

 

「……あん?」

 

 

「……アルト」

 

「…すまねぇな。兄さん。アタシら先客がいるんだ」

 

細くも肉が整った腕で青年の手首をつかむアルトに白蓮は、お前がするのかと目で訊ねる。アルトは一瞬だけ白蓮に目を向けると、態度を崩すことなく一人話を続けていく。

 

「実はその馬鹿を探しててさ。ま、馬鹿は馬鹿でもいい馬鹿だ」

 

「……へぇ……じゃあその馬鹿がもし見つからなかったら……どうするの?」

 

「…はぁ。どうする……かぁ……」

 

その場合は普通にお縄になってるんだよな、とワリと冗談でもない現実に内心苦笑するアルト。全然青年の威嚇も威圧も効果がないということに、今までとは完全に違った反応と対応、態度に青年は苛立ちを募らせる。

 

「まぁ……その内フラっと戻ってくるだろ。特にそっちの亭主(げんぶ)は」

 

「………。」

 

ああそうか。お前も俺に逆らうのか。全てを手に入れた王のような気分だった青年は、アルトたちの態度に余裕という雰囲気を崩していく。

そして青年はナイフを持っていたこともあって、その刃を白蓮からアルトへと向けようと腕を動かすが

 

 

「………あっ……あれ?」

 

「………。」

 

青年がいくら腕を動かしても、ナイフを持った腕は動かない。アルトによって握られているだけだというのに、その腕はまるで硬く固定されたかのようにびくともしなかった。

 

 

「お、オイ……お前……このクソッ……」

 

「………アルト」

 

「ああ。だから―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わりぃけど、お前らじゃ釣り合わねぇから」

 

 

と、アルトが言うと片腕だけの力で青年を振るい、どこか遠くへと飛ばした。

彼女でも彼がどこに行ったのかは正直分からないほど遠くへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場は変わり、キリヤとルカを蹴り飛ばした男子面子は妨害電波となっている艦に対応するため、イーリスのバッグに入れられているという竜神丸のPCを求めて彼女たち女性陣を探していた。

が、やはり広い場所のため彼らも分かれて探すことにしたようで竜神丸はガルム、蒼崎と共にイーリスを探しエリア内を歩いていた。

 

の、だが…

 

 

 

 

「へい、そこのお嬢さんたち! ここらで面白いアトラクションってない?」

 

「え? ああ、ならあそこの巨大ウォータースライダーとか行けばいいんじゃない? あそこ結構面白いって聞くし」

 

「そうか。ありがとう。お陰で俺も白いウォータースライダーが―――――」

 

「それ以上の変態発言をするのなら、団長に告訴しますよ。蒼崎」←素

 

 

ナンパついでにセクハラ発言をした蒼崎に対し鋭い一刺しをする竜神丸。もはやその一言は下手をすれば彼の心臓にでも届きそうな一言だったので、直後に彼はトップスピードで竜神丸の前で土下座することになった。

 

 

「マジですんませんっしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「お前……こんな時にナンパして遊ぶ気か?」

 

「いやぁ…ここ等で高い場所って言ったらジャンプ台とアレぐらいだし…それにあそこからなら見渡せて探しやすいかなって……」

 

「理由としては正当ですが、本音がだた漏れていますよ」

 

遊びたいというより綺麗な女性に話しかけて花を咲かせたいという本人の私情駄々漏れの状況に呆れるガルム。竜神丸はいつもの事と一蹴し、本気で乗りたがっていた蒼崎を引きずってその場から離れていく。

まるで駄々をこねる子どもと父親なのだが、見た目と背丈が明らかに逆転しており、その見た目はシュールな他にガルムにとって恥ずかしさ以外なにでもなかった。

 

 

「うわーん!! うら若きお嬢さんたちぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

「本当にお嬢さんが待ってるんですから、探しますよ」

 

「…Blazの方に行っとけばよかったな」

 

 

残るBlaz、げんぶ、刃の三人は一度更衣室の近くに戻ると言ってガルムたちとは反対側に行ってしまったので、合流するにも時間が掛かり局員に見つかる可能性もなくはないのだ。

一応、まだ六課のメンバーもこのプールに居るのは確かで、それは気配察知で彼ら全員が理解していた。

今は、まだ再遭遇はしていないが、出来るだけ突然のエンカウントが無いようにとガルムは恥ずかしそうにする反面、周囲への警戒を続けていた。

 

「さて。どうしますかね。探すにしても、アテはなし。大人しくBlazさんたちと一緒に行けばと思いましたが、それはそれで危険ですし…」

 

「だな。三人に別れたのは俺も賛成だった。…コイツと一緒じゃなきゃな」

 

「なんか俺だけ生贄にようって顔してねぇか、お前ら」

 

生贄はキリヤたちで十分だ、と言った顔で睨む蒼崎だが、竜神丸とガルムは最悪見つかりそうになった場合は彼を生贄にしようと無意識の内に結託していた。しかも互いに恐らくそう思っているだろうという予想だけでだ。

それも、蒼崎がそういう性格だからだというお陰だが。

斯くにも、今はイーリスたちを探す事が先決であるということで、蒼崎を引きずっている竜神丸とガルムは宛てなく探し歩いていた。

 

「……あの。出来ればそろそろ放して頂けると幸いなんですが…」

 

「ムリです。どうせナンパするでしょうから」

 

「デスヨネー」

 

「つーわけで、お前は俺と竜神丸が交代で引きずる」

 

「せめて歩かせて!?」

 

 

その後。しばらくはズルズルと引きずられていた蒼崎が居たのだが、それは竜神丸とガルムしか知らない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方。Blaz、げんぶ、刃の三人も同じく見つからないように警戒しつつ更衣室へと向かい、ようやくたどり着いたのだが…

 

 

「……クソッ」

 

「もうみんな出た後ですね…」

 

運悪く入れ違いになってしまったようで、つい少し前まで彼女たちが居た場所に三人が到着するということになってしまい、その場には誰一人として白蓮たち女性陣の姿はなかった。

彼女たちも自分たちを探して出てしまったと分かっていたが、どうせなら途中で会えるだろうという希望的観測が、ここで裏目に出てしまったらしい。

 

「白蓮たちも…気配はないな」

 

「ヤベェな……ってことはまたとんぼ返りかよ……」

 

「……だな。仕方ない」

 

二人とも、戻るぞ。と言いかけた次の瞬間。げんぶたちの耳にどこからか風の噂が流れてくる。

 

「なぁ聞いたか。ナンパしてたヤツがプールのエリア外に吹っ飛ばされた笑い話」

 

「ああ、アレな。本当かって疑っちまったけど…アレ見たらなぁ…」

 

女性をナンパしていた男があらぬ方に飛ばされたという話に、最初はなんだ普通かと思ってしまった三人だが、直ぐにその話がおかしいことに気付き刃が動いた。

 

「あ、あのすみませんッ!」

 

「はい?」

 

「その…さっきしていたその笑い話っていうのは…?」

 

「あん? アンタ見てないのか。なんか人妻(・・)にナンパしたヤツが一緒にに居たねぇちゃんに投げ飛ばされたんだよ。んで、それがまた変な話っていうか…あり得るんだなって話でさ。

 すげぇぜ? まさかフェンス越えて公園の木にまで飛ばされたって話なんだからな」

 

 

刹那。その話を聞いた三人は、既に嫌な予感がしてしまい、特にげんぶに至っては顔を引きつって声もかすれ気味になっていた。

それを知ってか知らずか、それでも刃は詳しい話とまでは行かないが、他になにか知っていることはないかと訊ねた。

 

「あの…飛ばした人ってどんな女性だったか…」

 

「うーん……確か、オレンジの長い髪(・・・・・・・)だった気が……」

 

 

 

 

そして。今度はBlazが口を半開きにして絶望した顔になってしまう。

もう二人の顔が大体予想できた刃は、噂を話してくれた二人に礼を言うと、恐らくこうなっているだろうと言う予想を立てつつ後ろへと振り返る。

 

そこには怒っていいのやら呆れていいのやらわからないげんぶと、いくらナンパから守るためとは言えやり過ぎだ、と頭を抱えていたBlazの姿があった。

 

 

「………まぁ、名前とかがバレなかっただけでもいいでしょうに」

 

「それでもやり過ぎだろ…」

 

「これでバレる…確率はないにしても下手をすれば管理局がでしゃばるって言うのに…」

 

「しかも、アルトの髪は結構特徴だからな。下手すりゃバレるぞ」

 

更に言えばアルトはBlazのメンバーの一人で、前線に出ては暴れたりと何かと彼と行動することが多いので自然と顔(サングラスをつけているが)が知られてしまっている。もし、これが原因で管理局に知られれば、それこそ確実に連鎖的に捕まってしまうことになる。

 

「確かに、お前ら愚連隊みたいに手あたり次第だからな…」

 

「もう少し存在隠せって団長から言われてましたね」

 

「いやぁ…隠したつもりが…な?」

 

どうにも隠しきれなかったことに、言い訳めいた言い方をするが、実際その所為で見つかってしまうのだから彼のせい以外何事でもない。

兎も角、今は彼女たちを見つけるべきだということを再認識し、人込みの中を歩き出そうとしたが

 

「…なんかさっきより人が増えてないか!?」

 

「……ああ。こりゃマズいな。どうやら昼の時間になって遊ぶ客が増えたらしい」

 

「昼の二時……最悪のゴールデンタイムですよ…」

 

時計を見て焦りを見せ始めた刃。時刻は二時を回り、日もそこそこ上がって来た。

親子連れが次々と更衣室から姿を現しては、プールへと向かい遊びに向かう。それだけに既に多かったプールはかなり満杯の状態で陸地も歩行者天国のように歩ける個所が限られ始めてしまう。

まるで吸い寄せられるように出てくるが、帰りはしない客の様子はまるで蜜を吸うために集まる虫だ。

ぞろぞろと増え続ける客に嬉しいのは経営側だけだと舌打ちするBlazは、どうにかして探さねばとげんぶたちに言う。

 

「ッ…クソッ……このクソメンドくせー時に……なんか手はねぇのかよ」

 

「普通なら迷子案内とかする時なんでしょうけど……それだとバレる可能性がかなりありますし……」

 

「こうなったら三人で別れて―――」

 

「やめとけ。それこそ見つかった場合に俺たち全員が終わるぞ…!」

 

二手に別れたのも、そうなった場合逃げやすいためだと、更に念を押すBlaz。しかし実際そうでもしないと探せるような状態でしかないので、彼も頭をフル回転して、どうかに探せないかと考える。

 

(チッ……こうなったら…俺がなんか騒ぎでも起こして……!)

 

 

騒ぎを起こせば絶対に目は自分に向く。そうすれば見つけやすいハズだ。

逃げる場合は自分だけでいいし、見つかった場合。捕まった場合は……その時だ。

もう破れかぶれな状態にまでなりかけた彼の考えは熱さのせいか。自分が捕まることも厭わない考えに覚悟を決め、Blazは口を開いた

 

 

「―――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが次の瞬間、鈴の音と共に彼の頭に上った血と熱は瞬時に冷まされ、どこからか声が響く。

 

 

 

 

 

「―――北の湖。回りまわって集まります故…その地に行って下さい」

 

 

「―――――ッ」

 

 

「大丈夫です。会えますから」

 

 

 

もう一度。優しい鈴の音が鳴り響くと、Blazは現実の世界に引き戻される。

どうやら一人呆けていたらしく、気づいた時にはげんぶが肩を揺すってくれていた。

 

「オイ、Blazッ…!」

 

「ッ………すまねぇ。ボケてたわ…」

 

「お前なぁ…」

 

こんな時に呆けてる場合か、と呆れるしかなかったげんぶは、兎も角白蓮たちを探そうと言い刃もそれに同意して首を縦に振る。

二人の考えは先ほどと変わっていなかったらしく、それに気づいた彼は待った。と声をかけて二人を制した。

 

「Blazさん…?」

 

「……北だ」

 

「……え?」

 

「北の子供用のプールがあるだろ。そこ目指して行こうぜ」

 

「唐突にどうしたんですか? そりゃ、北の方角に行けば中間地点ですから……」

 

あっ、と何かに気付いた刃。そう、Blazたちの居る更衣室から北は仮に彼女たちが自分たちを探していれば絶対にぶつかるだろう地点だ。プールから泳ぐにしても、流れるプールになっているので進行方向さえ間違わなければ恐らく出会えるハズ。

そして白蓮たちが自分たちと同じ方向に歩いて探しているのであれば

 

「逆から行けば多分、出会える…可能性だけどな」

 

「…なるほど。それにプールの流れも同じだ。俺たちが反対側…逆流に沿って行けば」

 

「ああ。多分お前の嫁さんたちと会える」

 

そうと決まれば善は急げ。

三人は今までとは違う頼れる彼の言葉に信じて、流れるプールを逆に向かい走り出した。

白蓮たちは彼らの言う通りあくまで陸とプールに別れただけで、流れに沿って向かったので反対側から行けば会える確率は高い。

加えて分散して探すよりももう一度三人で行けば周囲の警戒も三人で行える。そうなればもしもの時に対応も容易になる。

 

「盲点…というより忘れてましたね。ここの大半がこのデカい流れるプールだったってことに」

 

「全くだ…よく見つけられたな、Blaz?」

 

 

…ああ。と嬉しいがなんだか釈然としないという顔で付いて行くBlaz。

彼の脳裏では、その盲点を教えてくれた声と鈴の音が、どうしても耳と記憶から離れなかった。

 

 

(…女…の声だったな。ってことは……?)

 

まさかハメられたんではないか、と一応の警戒をしてポケットに入れた銃を再び握りしめる。用心に越したことはないが、出来ればその言葉通りであってほしいと思い、抜くことがないことを願っていた。

 

 

 

 

「………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プールから離れた場所に変わり、偵察を終えたokakaと朱雀は彼らの様子でも見に行くことと六課が居ることを知らせるためプールエリアへと向かっていた。

彼らはBlazたちや竜神丸たちと違い、八神家の面々と遭遇し危うく見つかりそうになったので、六課が居ると瞬時に理解しもしかすればと、脳裏には既に起こっている結果を想像した。

 

「調べたいことは終わったからな…プールに行ってアイツらに言わないとマズイな」

 

「まさか六課までもがここに居るとは……タイミングは最悪ですね」

 

「ああ。八神が居るってことは六課のエースもここに居るってワケだ…」

 

まさか、そのエースたちと遭遇一歩手前だったことに今は気付いていない彼ら。だがもしかすればという考えは残っており、それが事実だというのを知るのは必然的に後になる。

 

「……バカンスのハズがとんだ事になりましたね」

 

「団長にバカンス延期を上申するかね」

 

この事を聞いて団長がバカンス延期をしてくれないかと考えるが、あの団長がそれを許してくれるかはokakaでも難しいと考えていた。儚い夢で終わるかもしれないが、それでも一縷の望みに希望を持ちつつ、二人はプールエリアへと向かう。

望みは望みでも彼らがエースたちと遭遇していないかという望みと、焦りに自然と二人の足取りは早くなり、急くように熱帯の中を移動していった。

 

 

「…okakaさん。調べたいことって終わったんですか?」

 

「うん? まぁな。あとは作戦立ててさっさと終わらせるに限るぜ」

 

oakakが港で目撃した自社の役員は運搬業などを担当していたので、恐らくそこから操作していたと、密輸のやり方はざっとこんなものか、と想像する。

重機業にも手を出している彼の企業なので、輸送に関しても事欠かない。しかし船舶となればその業界に手を出すのだが、企業はそこまで手を出していなかったハズだ。

 

(Blazが新西暦の世界と関わったから多分そこから流れたんだろうな。で、ウチが仲介をして大方管理局の連中が流してる。そして、ウチが売り上げを伸ばさないようにリークしたヤツがストッパーの役割も果たしている…か)

 

兎も角、リークした役員の正体は分かった。あとは彼を拘束して密輸の事実を暴露するだけ…と思っていたのだが。

 

 

 

 

(…待てよ。アイツ(役員)がリークしたってことは別に納得がいくから問題もない。

 だけど……海に関して全くの素人の管理局が海運なんてことが、そう簡単に出来る筈がねぇ。そもそも奴らは航空と次元航行に関しちゃ知識は持ち合わせてるけど、その所為で海運がレベルダウンして止まっちまってるんだ。だからってそれが一朝一夕で、大型船舶を大量配備して運航できるわけなんて……)

 

 

港では約数隻の大型のクルーズ船などの姿があった。だがokakaの言う通り、管理局は現在運搬や輸送などは全て航空か次元航行のどちらかで行っている。

ヘリや次元航行艦といった空を自由に飛べるものは存在するが、海を行く船というのは航行艦が完成してから姿を消してしまっている。つまり、彼らが海を渡るということ自体、彼らにとってはあり得ないことだ。

加えて今回のリゾートオープンに合わせて大量に運行が開始された船舶も、一体どこでどうやって建造されたのかさえも不明だ。あれだけの船舶を一度に量産するにはそれだけのドッグが必要。しかし、海運自体既にない管理局にそのためのドッグなど存在すらしない筈だ。

そして。それがもし、あのリークした役員の仕業だとしても無理がある。彼は役員であっても運搬業に関しての専門と担当であり、他のことに関して素人なのはoakakが影で査察部に調べさせて知っている。

そして何より、okakaの企業は海運自体に手を出していない。これはokakaが経営方針として決めた時に未だ変更していない事実で、今でもその禁則は守られていたはずだ。

 

 

(………そういや、昔BFFに居たって奴が居たな…)

 

 

嫌な予感というより、マズイ気がしてならないokakaは、組み上げられた仮説を脳裏に置くと早歩きだった足を走らせ汗を飛ばしながらプールへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そもそも。管理局が海運が出来る……というのもおかしな話ですよね」

 

ポツリと何の前触れもなく独り言のように話しだしたイーリスの話題。白蓮も改めてその不自然さに気付いたのか、そうだな。と返す。時折、蓮を水浴びさせつつも、辺りを見回しては夫が居ないかと探していたが、ふとイーリスからの話題に乗ってしまった彼女は、貼り付けていた神経を少しだけ緩めた。

 

「アイツらは空から征服するのが好きな奴らだったからな。私もてっきり陸と空の二つだけかと思っていたが」

 

「……ええ。航空と次元航行。そして陸戦。部類としては二つに分かれる筈の管理局が…第三の海にまで手を出した……」

 

「………。」

 

 

可笑しくないか? と訊ねるように言うイーリスに隣を歩く白蓮も改めてその疑問に不信感を感じた。確かに、時空管理局というだけあって次元航行はお手の物だ。そしてミッドや管理世界での隊員たちの移動のために陸戦と航空の整備、拡張が進められた。

だがそれに伴い、海運は進められたかというと実際は完全に技術進歩はストップしてしまっている。というのも、全ては次元航行艦による物資運搬が可能となり、輸送する物資もかなり大きさが縮小されてきたので航空輸送で済むようになってきたからだ。

それによって航空と次元航行、場合によっては陸地輸送で事足りることから海運技術は廃れていき、自然と姿を消してしまった。

本来。彼らの海船技術は現代のものよりもかなり劣っており、建造できたとしても様々な問題などがあって実用は遠い夢と同じのハズだ。

なのに。管理局はそれをまるで数年かけたかのように僅か数か月で数隻のクルーズ船を建造。問題なく運航するということを可能とした。

 

 

「……可笑しいな。確かに」

 

「…ええ。仮に海運が出来る企業があったとしても、それがあそこまで簡単に……」

 

 

元々要らない筈の海運が突如実用段階まで技術が引き上げられた理由。

それが、もしかすればokakaの懸念なのではないかと、歩くイーリスと白蓮は考えていた。

 

 

 

 

「……あ」

 

「……あ。」

 

そして。ふと目の前から聞こえたアルトと蓮の声に、考えていた二人は目の前の光景に口を開けて驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っていうわけでや。うち等は陸戦のゲンヤさんらからの指令で、局の将官が密輸汚職をしているという事を見つけて晒せっちゅうワケ。

 手がかりは今んところ少ないけど…揺さぶる手はあるで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――「グランダーI.G社」

 そのCEO。岡島一城氏への事情聴取。

 彼がこのアトランティスに入ったことは確かや。彼をとっ捕まえて、色々と聞き出すで。

 ……当然。旅団のことについても…な」

 

 

 

 

 

 

誰がやったのか。誰のせいか。

誰がこんな事をしたのか。

斯くにも。彼ら旅団を陥れるために、その誰かは彼女たちに情報を売った。

彼が今回の件に関与していることを。彼の会社が関連していることを。

そして、彼が旅団と何らかの関係を持っていることを。

 

さぁ。これが貴方にとっての最期です。

まるでそういうかのように、誰かが不適な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ。

その頃の女子チーム(レイナチーム)

 

 

白蓮たちと違い、流れるプールに流されていた彼女たち。だが、彼女たちは今は何処かに行った男たちと一緒に楽しむために来たので、その彼らがどこにいるのかと心配になりつつも剥れた顔で周囲を見回していた。

 

「キリヤさん、どこに行ったんだろう……」

 

 

実は蹴り飛ばされたキリヤと弟のことを知らないリリィは、どこにいるのかと彼ら二人の姿を探していた。折角、彼に見てもらいたいと思って頑張って選んだ水着だが、肝心の彼が居なければ意味もない。

頑張りは無駄だったのかと落ち込むリリィは、浮輪にしがみ付きながら流れに従って周囲を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ごんっ

 

 

 

 

 

 

「あ。すみませ―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………。」←うつ伏せの状態で流れているキリヤ(と後ろにルカ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後。リリィの絶叫と共にキリヤとルカは盛大に水柱と共に殴り飛ばされ、地上数十メートルの高さからプールに再突入したのだった。

 

 

 

 

 

 

 


 
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