No.86196

邂逅前

螺時さん

人が死ぬとはどんなことか。
この手の類に関してほかの人が常に疑問視してるか謎ですが、自分は結構考えてたりします。
で最終的にわかりやすく説明してもらおうと、代役として"死神"といえる存在を出したりするんです。

2009-07-24 21:19:04 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:991   閲覧ユーザー数:966

その人は空を意図もかんたんに飛んでみせた。

 

残業をしていた俺は、何気なしにそのとき外を見やった。

 

距離があった隣のビルの屋上に、ふらりとその人影は姿をみせたかと思うと――いきなり道路越しに向かい合っていたビルへあっさり飛び移ったのだ。

 

その手には、銀の鎌。大きく重たそうで、だけどどこか聖なるものを感じて。

 

疲れから幻でも見たのかと。

しばらくの間、呆然と窓越しにそこを見ていた。

 

・・・・・・そして。

 

やがて、人影が見えたそのビルに救急車が止まった

 

 

 

「あなた、私が見えたん」

 

 

「・・・」

 

 

朝、寝ぼけ眼で歯を磨いていたら突如、背後から声。

 

振り返れば見知らぬ少女がいた。

 

「・・・・・・、俺、1人暮らしなはずなんだけど」

 

不法侵入なら警察呼ぶよ?

 

パジャマ姿で間抜けながらもそう伝えると、

 

「あなた、昨夜私を見たん」

 

・・・昨夜?

 

仕事をした後まっすぐ帰ってきた。

 

覚えがないと首を捻りつつ、家を出ろと玄関へと促す。

 

だが、続いての少女の言葉に手が止まった。

 

「ビルの上」

 

凛としたその韻に、思わずポロッと歯ブラシを落としてしまった。

 

「い、いや。何いってんの」

 

あれは夢だ幻だ。だいたい鎌持って飛ぶ存在なんざいるか。

 

頭を振って否定しようとしたら、

 

「これ、見えた?」

 

すっと、手を突き出してきたらいきなり妙な光がそこに集中してきた。

 

「手、手品か!?」

 

ギョッとした瞬間、その光は形を成して――おおきな鎌となって現れる。それは、昨夜遠くから見たものと似てなくもなく。

 

・・・・・・。

 

 

その日、俺は激しい頭痛とめまいに襲われて会社を休んだ。

 

 

「・・・私は死神。

 

生と死を司るものや」

 

鎌を横に置いて。

 

黒い長髪を窓から差し込む日に照らして。そう彼女は正座したまま淡々と語った。

 

おいおいおい、冗談だろう?それじゃ昨夜のあの救急車はッ!!?

 

思わず誰かもわからぬ仏様を想像して、つられて布団の上で正座したままさらに青ざめる。

 

「ってなんだよ、生を司るって」

 

死神のクセになんでだよ。

 

思わずヤケクソ気味に突っ込む。

 

「死と生は同一。

 

何かが死を迎えなければ、何かが生を迎えぬえ」

 

「はぁ??」

 

よくわからん説明に眉間にしわを寄せる。

 

しかし彼女はいたってマトモ。いや真剣な様子。

 

ダメだ、俺がおかしいんだ。きっと何か危ない病気にかかったんだ、そうに違いない!!

 

そうだよ、だいたいこんなお嬢様みたいなのがこんなボロ屋に来るだけでもおかしいってのに・・・。きっと昨夜俺、忘れてるだけで何か仕出かしたんじゃ!!

 

思わずごろんと寝返りうって、視線を合わさないようにしたらば、とんでもない言葉が。

 

「・・・死期が何時なのか気になるんか」

 

おもわず、目を見開く。

 

恐る恐る振り返れば、

 

「残念だ、それを伝えるんのは禁忌。

 

かわりに・・・とりあえずご病気を患ってはいない。それだけは教えるわ」

 

思ったこと・・・口にして無いぞ。ないよな・・・?

 

さらに悪寒がしつつ、毛布をかぶりつつ訊ねる。

 

「な、何で禁忌なんだよ」

 

「ほかの生き物と比べると人間は、遠い昔から老いや死に対して恐怖を抱いているきや。

 

そんな存在に死の時間を伝えたらどうなるや・・・」

 

言って、少女は瞼を閉じた。

 

よく、漫画とか映画で不老不死をネタにしたものはある。

 

・・・何気にあるのか・・・?

 

「なぁ・・・」

 

「仮にあったとしても、人は足を踏み入れてはあかぬ」

 

やっぱり、思考を読まれた。

 

いや、あんがい俺は顔に出やすいとよくいわれる。それもあるのか・・・。

 

「・・・」

 

ごろんと仰向けになり天井を見やる。

 

少女はもう、何もいわない。

 

・・・。

 

「俺を殺しにきた、とか?」

 

思わず口端が引きつりながらも訊ねる。

 

「死神は食事はとらん。獣ならば腹をすかしたときに殺生をするが、私たちはそれはあらんわ」

 

せ、殺生って・・・

 

可愛い顔して凄いことを言う存在・・・。とてもじゃないが笑えない。

 

「――ここにきた理由を問うているのならば、見られたからだ」

 

「・・・い、いっておくが、その俺はいわゆる霊感とかそういうのは無いぞ!!?

 

昨夜は本当に偶然なんだ!

 

あんたがこうして姿をみせなかったら、疲れから来た夢か幻だと確実に思い込んでたぞ!!」

 

妙に、低い韻に聞こえて。

 

俺はとっさにガバッと起き上がると喚きたてた。口封じに殺されたりとかされないよう、必死に。

 

すると。

 

「そうか・・・それならばいい」

 

妙に複雑そうな笑みを浮かべて、少女は鎌を持つ。それをみて、つい俺は両手を前に持っていった。

 

「たまにいるのだ。理由はさまざま・・・私たちが見えるものたちが」

 

そう言うと少女は立ち上がった。

 

「想像してみん。

 

誰も何も生まれてこない世界を。

 

逆に、誰も何も死なない世界を」

 

「!?」

 

「そのために私たちはあるんき」

 

少女はそう紡ぐと、空気に同化するかのごとく。とけ消えた。

 

 

「誰も・・・生まれない・・・」

 

死なない・・・

 

それじゃ、何で俺はあの少女が見えた!?

 

 

 

 

 

 

「伝えなくて良かったのか」

 

「禁忌や」

 

そう言うたの、お前や。

 

何処とも知れぬ民家の上で。

 

黒いフードに身をまとった同族にそう語る少女。

 

「私はお前たちと違って・・・死にたくても死なれへん命をかる」

 

本当に人間達は同族やほかの命たちにとって面倒なものばかり生み出すわ。

 

銀に光る鎌を寂しそうに見つめる少女を同族は無言で眺め、

 

「お前が見えたのだ・・・。あの男もいずれ・・・」

 

「再会した時、覚えてくれてたらなんぼなもんやけんどな・・・」

 

たいがいが忘れてるもんや・・・・・。

 

年老いて。

 

変わり果てた姿で。

 

ただ、素直に死ねることに喜ぶ・・・

 

昨夜の命も薬まみれで補われていた。まだ白い部屋の中じゃなくて良かったもの。

 

 

「ほんとう、世知辛いわ」

 

世界は茜色に早くも染まろうとしていた・・・。

 


 
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