No.85962

フォーチュンクエストR 「聖なる夜に」(1)

kotomiさん

3~4年前に、携帯小説として書いていた、フォーチュンクエストの二次創作小説です。本家に似せた書き方、雰囲気を出したかったのですが、携帯専用ページでの文章だったために文字数制限が厳しかったです(´・ω・`)

2009-07-23 11:23:12 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2536   閲覧ユーザー数:2483

「やっぱビールだね、ビール!」

「もぉ、トラップ飲み過ぎ!」

あっさりと三杯目を飲み干した赤毛の青年に、わたしは思わず注意した。

「ケチくせぇこと言うなよなっ

クリスマスくらいパーッとやろうぜ」

と、口を尖らせる。

彼の名はトラップ。本名じゃないんだけど、いわゆる通り名。

ひょろりとした体つきと、何より口の悪さがトレードマーク。黄色の上着とか緑のタイツとか、派手な色の服を着ている事が多いけど、職業はシーフ。

「まぁまぁ、パステルも飲みなよ」

トラップの横から優しい笑顔を向けてくるのは、わたしたちのパーティのリーダーで、ファイターのクレイ。

トラップの幼馴染み。とっても優しくて、人望もある。ちょっと優しすぎかも?

「ぱーるぅ。きっとぉんとのりゅはどこいったんら?」

わたしのすぐ横で、ちっちゃな手も口の回りもベタベタにしていたのは、エルフの子供、ルーミィ。

ふわふわのシルバーブロンド、サファイアブルーに輝く瞳。愛らしいその姿も、今は生クリームたっぷりのいちごケーキによって酷い状態だった…!

慌てて拭く。けど、またすぐに汚すんだろうな。

「キットンとノルなら、先に飯食って森に行ったぜ?」

と言いながら、トラップは猪鹿亭の看板娘のリタに、ビールのおかわりを注文していた。

あぁあぁ、うちの経済状況わかってるのかしら?わたしたちパーティは、大所帯。今この場にいない、農夫で頭脳派のキットンと運搬業で巨人族のノルを合わせると…六人と一匹。あ、一匹って言うのは、今ルーミィが抱いてる白い、一見犬のように見えるシロちゃん。

「しぉちゃんも、いちごたべぅかぁ?」

「ボクはいいデシ!ルーミィしゃん、食べてくださいデシ」

普段犬のように振る舞ってもらってるんだけど。帽子をとれば小さな角、リュックを退かせば一対の翼がある、ホワイトドラゴンの子供!

冬真っ只中に野宿ってわけにもいかないから、シルバーリーブ唯一の安宿"みすず旅館"に泊まってるわけなんだけど。安いって言ってもね、レベルの低いわたしたちのパーティにとっては辛いことこの上なくて…パーティの財布を担当してるわたしとしては、あまり不必要にお酒飲まないでほしいんだよね。

あ、それで。

わたしはパステル。

職業は、詩人兼マッパー。詩人って言っても縦笛くらいしか吹けないし、マッパーって言っても方向音痴で…あ、なんか自分で言ってて空しくなってきた。

とりあえず、普段は冒険談を小説にして生活費の足しにしてるんだ。

「パステル、いいプレゼントあったの?」

こっそりと耳打ちしてきたのは、クレイ。

「うんうん、可愛い飾りのついた靴が売ってたの」

「女の子らしくていいんじゃない」

「でしょ?」

そう、今日はクリスマスイブ。もう、わたしたちはプレゼントとか貰える年齢じゃないけど、ルーミィとシロちゃんにくらいは、ね。

代表してわたしが夕方買ってきたんだけど、これが可愛いの!薄いピンクの子供用ブーツなんだけど、生地はふわふわ。靴ひもの先には、白いボンボンがついてる。シンプルだけど、可愛いの!絶対、ルーミィに似合う。ルーミィのために作られたんじゃない?!って思えるくらい!これからもっと寒くなるんだし、いいでしょ?

で、シロちゃんには、ルーミィに買ったブーツと同じ色のマフラーを作った。

喜ぶルーミィ達の顔が浮かんで、口許がゆるむ。

「なぁにニヤニヤしてんだよ。気持悪ぃやつ!」

トラップが悪態つく。

ニヤニヤなんて、してないわよ!まったく、失礼しちゃう!

わたしたちは、夕食を終えて早々に宿に戻った。キットンもノルもまだ戻らないけど、ルーミィがウトウトし始めたからね。

シロちゃんと一緒にベッドに寝かし付けて、わたしは枕元にプレゼントの入った包みを置く。

クレイたちはまだ部屋でお酒飲んでるみたい。隣の部屋から、トラップと話す声が聞こえる。

わたしはルーミィの隣に横になって、目を閉じた。

 

小さい頃、物音に目が覚めて起きると、お父さんが枕元にリボンで飾った袋を置いてたっけ。目があって、お父さんはお母さんに困ったような顔で笑って。

「パステル、メリークリスマス」

って微笑んだんだ。

わたしの育った町ガイナは、夜中だというのに明るくて。雪の降る窓の外では、大人達がもみの木に飾り付けをしながら笑いあってて。焚き火を囲って、お酒を飲んでた。

目が覚めてしまったわたしは、プレゼントのくまのぬいぐるみを抱えて、お母さんとホットミルクを飲んで…

サンタさんはお父さんだったけど、プレゼントが嬉しくて。

暖かく燃えた暖炉の前で、わたしが眠くなるまで優しく絵本を読んでくれて…

戻れるものなら、戻りたい時間。

でも両親は、ガイナは…

 

カタン、と物音がして、わたしは目をさました。

温かいルーミィを抱いてたら、いつの間にか着替もせずに寝ていたみたい。

暗い部屋。

体を起こすと、寒さにびっくりした。雪が降ってるんだ。と、何気無く窓を見ると、カーテンもあいてて。風に揺れていた。そして…

サッと、あいた窓から影が外へ飛び出した!

なに?なに?

泥棒?!

見回してみたけど、盗まれたものは…

「パステル!」

扉が世話しなく叩かれて、慌てて静かにあける。立っていたのはトラップだった。

「お前、なんか盗られなかったか?」

「えっ?トラップたちの部屋にも、誰か来てたの?」

トラップはムッとした顔のまま、部屋を見回した。

「パステル、ルーミィのプレゼントは?」

「それなら枕元に…あああっ?むぐっ…」

ベッドに置いておいたはずの、ルーミィのプレゼント!

大声を出しかけたわたしの口を、トラップは思いっきり手で閉じた。

「馬鹿、ルーミィ起きるだろぉが」

こくこくと頷くと、トラップはやっと手を放した。

窓に駆け寄って下を見ると、うっすらと積もった雪の上に、点々と足跡が見えた。

「うそぉ。あのブーツ、最後のいっこだったのよぉ?」

泣きそうな声でうめくわたしの頭を、トラップはポカッと叩く。

「だぁほ。追うに決まってんだろ」


 
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