No.858476

AEGIS 第八話「intermission~生きるための戦闘準備~」(2)

ルーン・ブレイドを巡る状況、補給、そして暗雲

2016-07-14 21:13:41 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:369   閲覧ユーザー数:369

AD三二七五年六月二六日午前一〇時五五分

 

 空中戦艦という物珍しい存在、それもエクスガリバー級の叢雲が来たというのにどうもこの基地の連中は関心が薄いと、ルナは叢雲の窓越しに感じていた。

 エルルの街から西へ約三〇キロ、その地の駐屯地に補給のために寄ることになっていた。

 しかし、それにしたってこれはなんなんだと、ルナは心底思った。

「なんでなのかしらね?」

「どーせこーゆーのに興味がないんだよ、たぶん」

 ルナの隣にいたレミニセンス・c・ホーヒュニングは相変わらず気楽なことを言う。しかし、彼女持つエメラルドグリーンの瞳を見てみると本当に「ああそうなのか」と納得してしまいそうになるから不思議だ。

 今いるのは待機していた共同作業室だ。いわゆる雑務を片づけるところである。会社のオフィスを思わせるそこの窓から様子を見ても、どうもここの連中には何か違和感を覚える。

「まぁそういうけど……」

「で、ここの基地司令に申告っしょ?」

 レムの言葉にルナはハァとため息を吐く。

「そうなのよ、これがまた結構うざいのよね~、意外に。でもま、しょうがないから行ってくるわ」

 ルナは一つ大欠伸をしてから席を立ちとっとと管制塔にいるこの基地の司令官の下へ艦長の『ロニキス・アンダーソン』、副長の『ロイド・ローヤー』と共に行くこととした。

 管制塔に上るやいなや、ロニキスは単刀直入に本部から伝送されてきた補給の許可証を基地司令に突きつけた。

「という訳なので整備並びに補給を要求したい」

 ロニキスは燻し銀の聞いた、というと大げさな感じのする人物だ。

 と言うよりこの男、ルーン・ブレイドに派遣されてから神経性の胃炎持ちになってしまい、更に銀髪は徐々に白髪に変わってきている超が付くほどの苦労性である。

 彼の横にはルナともう一人、少しだけ気の弱そうに見える副長のロイドがいる。何でもそつなくこなす男であるが故に、キワモノ揃いのこの部隊で副長などという身分を与えられている。

 そんな彼の目の前にいるのはシナプスという名のベクトーア軍の中佐でこの基地の司令官だ。

 なんというか、肥えていると言う表現がピタリと当てはまりそうな典型的悪人面だ。ロイドも確かに下腹が出ているが、割と引き締まっている。

 だというのにこのシナプスとか言う男の下腹は弛みきっている。

 もうルナの心は辟易した思いであふれていた。

 しかも考えてもみれば、朝から何も食っていないため猛烈に腹が減り始め、途中からシナプスを見ながら『チャーシューメンが食べたいなぁ……』とまで思っていた。

 どことなく、シナプスが脂身の乗ったチャーシューの塊に見えてきたのだ。

 もう最悪である。

「補給、か。しかし、我々としてはなるべくなら早急に撤収して貰いたいね。これから来る艦隊の方がよほど重要なのでね」

 見事なまでに堂々と批判された。

 この部隊、上層部に顔が広い割には余りいい顔をされない。戦闘力を追求しすぎて人間性皆無の人物ばかり集められたからと言うのもあるが、実はもう一つあって、ここがかつて傭兵の巣窟だったことも重なっている。

 一五年にも及ぶ戦争の長期化によってどうしても生じてしまう人員不足、それを補う意味で多額の報奨金と共に傭兵を雇い入れる。そうすれば多少の人員不足は解消される。しかもその人物がイーグだった場合、それもエイジスがプロトタイプだった場合、下手したらミリタリーバランスが崩れ去る可能性まで備わっている。

 そのためゼロを筆頭としたイーグの傭兵達は各社から凄まじいまでの『就職案内』が届くのだ。

 そのため当然の事ながらゼロも超長期雇用傭兵に入るのである。

 しかしながらそれを行うには莫大な金がかかる。しかもこの部隊、実は設立コンセプトの中に『どんな手段を用いても最強たれ』なんて言葉もあった。そのため当然鬼のように強いメンバーが集められるのだが、先ほど述べたように傭兵も頻繁に集められた結果、一時期は正式隊員より傭兵の方が多いなどと言う異常事態も引き起こした。更にはこの部隊、現在パイロット全員がイーグであるため機体開発費も相当かかる。更には空中戦艦の保持や、戦闘行動がいちいち派手であるため弾薬費も莫大に生じる、そのため味方からは『金食い虫』とまでいわれているのだ。

 嫌われるのも分からないではない。

「これから来る艦隊、ですか」

「そうだ。そろそろ来る頃か……」

 シナプスがそう言った瞬間、窓の外には着艦しようとする三隻の空中戦艦があった。

「な、なんじゃ、ありゃあ……?!」

 ゼロが、空を見ながら呆然とする様を、ブラッド・ノーホーリーは苦笑していた。

 元々暗殺者だった自分だ、余程のことでは驚かない、はずだった。

「空中戦艦三隻 ってこたぁ……ドゥルグワントか!」

 ドゥルグワント、ゾロアスター教で『邪悪なる者』を意味する言葉、その名を持つ艦隊、それがベクトーア陸軍第二独立艦隊である。

 保持戦力、M.W.S.九〇機、エイジス一〇機、アスカロン級空中巡洋艦二隻と母艦にして司令塔であるグロンド級空中戦艦『モルゴス』を完備してあるという見事な完璧ぶりだ。ゼロが呆然とするのも無理はない。

 そして、艦船が全て重苦しい音を立てて着艦すると同時にハッチが開いて一人の男が多数の護衛と共に出てきた。

 胸には多数の勲章が掲げられている。

 茶系の髪と同系列の瞳を持った男だ。年齢的にはロニキスと同じくらいである。

 イーギス・ダルク・アーレン。年齢四九歳で空中戦艦を三隻も備える艦隊のトップにまでなった猛将。

 しかも、彼がこうなったのはここ六~七年の話であり、元々はさして冴えない仕官だった。

 ところがある時突然豹変したかのように数多くの戦いで勝利を重ね、メキメキと頭角を現したのである。

 そんな人物の来訪であるためもう基地は厳戒態勢だ。

 これならばルーン・ブレイドが半分邪魔者扱いされる理由もわかる。

「こりゃ厄介なことになりそうだ……」

 ブラッドは一本、ジャルムスーパー16を取り出して吸い始めた。不安を解消するには、この一本だろうと思ったが、味はあまり感じられなかった。

「久しぶりだね、諸君」

 イーギスは司令室に入って来るなり気楽に挨拶をする。

 突然の来訪者にルーン・ブレイドメンバーは驚く限りだった。

「イーギス准将」

「はっはっは、そんなに仰々しくならなくていいよ」

 嫌でも堅くなるわよ……。

 ルナはふとそう思う。

「ところで准将、今日はどのようなご用件で?」

 シナプスは訪ねる。

「隊の休息だ。それと、ルーン・ブレイドに補給物資の提供を、と思ったのだが」

 どうやら話を全部聞いたらしいが、それにしたって突然自分たちの物資を明け渡すというのだ。

 そんなに余裕があるのだろうかと、ルナは少し疑ったが、何はともあれ補給が取れるのはありがたい。

「准将?! このような者達を信用するのですか?!」

 本性現したか……。

 ルナは拳をギュッと握り、今にも殴りかかりそうな感じだったが、ロニキスが軽く肩を叩いて静止させた。

 しかもイーギスはルーン・ブレイドの運営にも協力的な人物であるため、事はルーン・ブレイドに有利になりつつある。しかもイーギスはシナプスより階級が上であるため命令権がドンドン彼の方へ移っていき、その場の雰囲気もイーギスが飲み込んでいった。

「少なくとも、彼らの功績は相当の物だ。外人部隊であろうがなかろうがそれは真実だ。信頼に足ると、私は見ているのだが」

「しかし……!」

「ん?」

 その時、イーギスは鋭い目つきでシナプスを睨め付けた。

 その殺気に部屋は震える。ルナですら一瞬悪寒を感じる程の殺気だ。それに押されたのかシナプスは黙りこくった。

「問題ないようだね? あー、ルーン・ブレイドの諸君、補給に関しての人員ならば私の艦隊の方から人員を貸そう」

「協力感謝いたします、准将」

 ロニキスが一つ敬礼をしたが、彼の表情もまた険しい。

 イーギスはその後ルナの方を向く。

「ルナ君もまた大きくなったものだね。ルーン・ブレイドの戦闘隊長としての成果、かなりのものだ」

「あ、あ、ありがとうございます!」

 不思議と、自分が緊張していることに、ルナは気付いた。威圧感がそうさせるのかもしれない。

「君のお父上が帰ってくるのはまだかと言っていたよ。はっはっは」

 もう一気に間の抜けた話になってようやくルナはいつもの自分になった気がした。

 帰り際にまたイーギスに礼を言って、彼より先に三人で叢雲へと帰った。

 しかし、帰り際でも疑問が頭を駆けめぐっている。

「それにしても、なんで准将が……」

「確かに少し気になることではあるが……補給は受けられるだけありがたい。今はその気持ちに甘えることとしよう」

「そうですね。では、補給させておきます。いつ何が起こるか、わかりませんからね」

 一度ロニキスに敬礼をした後、彼女はすぐに整備デッキへと向かった。

「あ、ルナ、ゲイルレズの補給もあるみたいよ」

 整備デッキへ行くやいなや、アリス・アルフォンスが彼女の愛機である『BA-08-Lレイディバイダー』を整備しながら話してきた。

 ルナの愛機である『XA-022空破』は、千年前に天然レヴィナスを用いて開発された『プロトタイプエイジス』の一機というその性質上、マニピュレーターの形状が特殊であるため現行の兵器を使うにも改良が必須となる。

 そのためAR-68アサルトライフルのグリップと一部機構を改造した『CAR-No.01ゲイルレズ』を、空破は専用重火器としていたが、これが全て尽きたのは僅か一日前だ。

 たった一日で用意できるのか。そう考えると、何かあるのではないかと疑いたくなってくる。

 しかし、そう思っても補給物資だ。もう受け取り拒否など出来るはずがないためそのままルナはそれを受領した。

 そして、彼女は空破の前へと足を運ぶ。戦乙女を思わせるその姿を、ルナは割と気に入ってはいたが、同時に見ていると、嫌でも思い出すことがある。

「そうか……。あの人が死んじゃってからもう二年にもなるのね……」

 ルナにはルーン・ブレイド配属初期に世話になった日本人女性がいた。

 その日本人から誕生日祝いで浴衣を貰ったり、その人物から色々と影響されて日本語を学んだりもした。

 しかし、彼女は死んだ。空破の輸送任務中に。だからこそ、この機体は彼女がくれた誇りじゃないかとルナは思うのだ。その誇りを汚さないために、彼女は何人かの整備兵と共に整備に掛かった。

 整備自体は楽に進んでいる。

 このまま何もなければいいのだが。そう思っていた矢先、突然喧噪が整備デッキを支配した。

「なんじゃぁ、こりゃぁ?!」

 ゼロは自分の愛機であるプロトタイプエイジス『XA-006紅神』を見て愕然とするほか無かった。

 紅神の手に握られている主武装である『特殊両刃銃剣「デュランダル」』の形状が変わっている。

 前回の戦闘でも破損はない、なのに何故、新装備が既に出来上がっていやがンだ

 武装の改良の件は何一つイーグである自分には報告されていない。それ以前に、仕事が早すぎる。まさか一日で新型装備が出来上がっているとは、思いもしなかった。

「この前あの武器のガンモード見たッスけど、あれ破壊力有りすぎッスよ、いくらなんでも。ていうか都市吹っ飛ばす気ッスか?」

「それ以前にこいつエネルギーの効率が悪すぎるんだよ。だからちっといじったりなんなりして改造した。さすがにドクターが元紅神イーグだったのが効いてな、お前が医務室でグースカ寝てる間に構造教えてもらったからな、スムーズに改造できたぞ」

 整備兵のアルバーンとグレアムは立て続けに言った。

 もうこの二言でゼロは一気に沈んだ。手すりで必至に沈みそうな自分の体を抑えている。

 この船のドクター『玲・神龍』は本名『ジェイス・アルチェミスツ』といいゼロにとって『第二の師匠』であり、かつて華狼から亡命してきた経歴を持つ男でもある。その亡命せざるを得なくなった理由が『研究するのに専念したいから』ということだけでゼロに紅神を譲り渡した『公共物無断譲渡』の罪に問われ自分の命が危なくなったからというのが実に情けない。要するに自業自得である。

 しかもこの男、確かにナノマシン工学の第一人者だし若くして数多の本を執筆してはいるが、性格は最悪かつマッドサイエンティストの気まである。

 そんな男がこういった話に手を貸さないわけがない。

 ゼロの頭の中には玲が『ふははははは』とまるで安っぽい特撮ヒーロー物の悪役のような感じで笑っている声が聞こえてきている。もう自分も末期だなと、自分自身で呆れた。

 しかし、整備班の考えも分からないわけではない。毎度毎度、いくら大量に気を消費するにしても四〇%の出力で前方一キロを焦土にしてしまうような破壊兵器を振り回されていたら気が気ではないのだろう。それに威力が有りすぎる。

 その理由で改良したのならば百歩譲って許そう、形もいいしそれも許そう。しかし、しかしだ。

「何故俺に何も言わねぇんだ?」

 もうゼロはこの思いはこの言葉に集約されている。

 それに対し目の前にいる二人は口を揃えて言う。

『言ったら絶対反対しただろ』

 ゼロはこくりと頷いた。

 この時彼は、何故バカ正直に頷いたのだろうと疑問を抱いたという。

 結局これはもう二人に完全に推されて負けた。仕方ないと思うしかなかった。

「仕方ねぇ、次だ次。手持ちの銃器だな」

 で、ここから話がスムーズに進む……かに見えたのだが、三分後。

「だから何度も言ってンだろ! もう少し強力な重火器ゃぁねぇのか?!」

「あるわきゃねぇだろ、こんボケ! だいたいてめぇの要求が無茶苦茶すぎんだよ!」

「そうッスよ! 機動力を損ねないけど、滅茶苦茶威力の高くて弾数もいっぱいあって更に軽量な武器を用意しろなんて言う事出来るわけないッス!」

 ゼロがアルバーンとグレアムに怒鳴り散らすと、グレアムに続いてアルバーンがゼロを怒鳴り返した。

 元々この部隊の整備班は暴走族の出身であるためか、威圧感も結構あった。なかなかに豪気な返し方をする。

 ぬぅと、少し唸りながら互いを牽制し合った。

「てめぇらくだらねぇ事で争ってンじゃねぇ! 口動かす余裕あるんだったら手ぇ動かしやがれ!」

 整備班班長のウェスパー・ホーネットが怒鳴り散らす。

 さすが大物暴走族『Beat it』の一五代目総長だっただけのことはある。覇気が並大抵ではない。

 なんだか気分も萎えた。にらみ合いが暫く続くかと思っていたが、あの覇気に圧された形となって結局にらみ合いを解いた。

「しゃぁねぇな。ならあのアサルトライフルよこせ」

ゼロはゲイルレズを指さす。

 しかしルナはその事に簡単に気付いた。そしてゼロに近づいた後、有無を言わさずに頭頂部に鉄拳を喰らわせた。

 ゼロは頭を抱える。

「あれは空破専用なの! そんなにほしいンなら本国行った後自分で作りなさい!」

 ゼロは恨めしそうにルナを見つめた。その視線は極めて大人げない。

「せやったらワイのガトリングやったろか?」

 ブラスカ・ライズリーがゼロの横に来た。ベクトーアにしては珍しく白色系ではない。案の定、彼は華狼の出身だという。

 傷だらけでかつ顔の左半分は火傷で覆われ、それに伴ってか左目も義眼だ。だが、厳つい見た目とは裏腹に、優しさが感じられる、そんな男だった。

 ブラスカの愛機の『BA-012H不知火』はその彼の特性に合わせた重装甲高火力を実現させた機体だ。その機体の保持する武装が『BHG-012-H』三〇ミリガトリングガンである。

 だが、ゼロは速攻で「てめぇの装備重いからやだ」と言い放った。

「あ、せか。ま、せやろな」

 ブラスカは周囲にいる連中と違い滅多なことでは喧嘩腰にならない穏和な性格の持ち主だ。

 元華狼兵士で裏切り者であることに変わりなくとも、信頼感が熱いのはこの性格の部分が大きいのだろうと、ゼロは接していて感じていた。

 とりあえず話が済んだのでブラスカも退散し、更にゼロもブラスカの介入によって落ち着いたのか喧嘩腰ではなくなっていた。

「近距離戦闘ならまだしも、中距離から遠距離をスクウェアブレードやMG-65でやるのは無理ありすぎンだよ。なんとかなんねぇのか?」

 ゼロは整備デッキを適当に見渡す。

 すると彼はある武装に目を付けた。

 ライフルのようにバレルは長いし、全体的に異常に大きい。しかしただのライフルではないようで横から変なチューブが出ている。しかも冷却口は見つかるがマガジン装填場所がどこにもない妙な武器だ。

「ンだ、あれ?」

 ゼロの問いにはルナが答えた。

「ああ、あれ? この前テストで入ってきた『YB-75』試作型ビームカノンよ。データでは威力射程ともに文句ないけど、エネルギーの回復に時間が掛かりすぎるというイロモノ武器」

 ルナは少しため息をもらしたが、ゼロは明らかに興味津々だった。

 そして一言「あれよこせ」と言った。

 その言葉にどよめきが走る。

「……マジ?! あんたあんなゲテモノ使ってみたいの?!」

 ゲテモノ武装甚だしい、というかビーム兵器などと言う夢物語的な装備を何故使いたがるのか理解に苦しむ。

 だからルナも一度は説得を試みるがゼロは首を縦に動かすだけだ。

 どうやら決意は固いらしい。

「別に使ってもいいけどよ、お前の武器どれもでかいのばっかじゃねぇか。せめて小振りなのを……」

「デュランダルだって発生させりゃいいわけだし、別に文句ねーだろ。とっととやろーぜ、作業」

 ゼロは整備兵の言葉を遮り、とっとと作業を行う気満々だった。

 ちまちました攻撃が気にくわないのだ。一撃で相手を屠る。そうすることで、自分への被害も抑えられる。そんなことを考えていたら、いつの間にかどれもこれも大振りな武装になっていた。それに、今更このスタイルを変える気もない。

 それでいいと、ゼロには思えた。

 ロイドはイーギスに会いに行っていた。モルゴス内にあるイーギスの執務室にイーギスと二人きりだ。

 イーギスと接触しているという情報を言うには、まだ時期が早すぎると、ロイドは感じていた。このことを知っているのはロニキスだけである。

「首尾はどうだ?」

「上々です。しかし、本当にそのようなこと、可能なのですか?」

 イーギスが頷いた。

「可能だとも。我々の計画が成れば、この国を強くするなど、造作もない」

「ならば、私はそれに従いましょう。これ以上、戦を長引かせるわけにはいきませんからね」

 少しばかり性急にも聞こえるイーギスの言葉をロイドはただ受け止めた。

 純粋に国を強くしたい。誰にも負けないくらいに強く、そして、どこよりも気高く。それがロイドの理想であった。

 しかし、いつの頃からか、何処か違うと思い始めた。それがきっかけでロイドはイーギスを洗い始めている。

 だが、未だに尻尾がつかめない。

 何か奇妙な感覚を覚えながら、二、三話をしてモルゴスを去った。

 既に太陽が南に傾き始めている。

 何もなければいいのだが。ロイドは雲一つ無い空を見ながらふと思った。


 
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