No.858266

九番目の熾天使・外伝 ~ポケモン短編~

竜神丸さん

七夜の願い星 その4

2016-07-13 15:00:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1858   閲覧ユーザー数:882

ポケモンリーグ協会、とある一室…

 

 

 

 

 

 

「…カズキ君、突っ込んでも良いかな」

 

「何かしら、そのファンタスティックな髪型は」

 

「…ケーキ作りに失敗した」

 

そこにはダイゴとシロナ、そして真っ黒アフロヘアと化しているokakaの姿があった。よく見るとアフロヘアもまだ若干チリチリ焦げており、okakaの頬も黒く煤けている。

 

「今、カイナシティは爆発事故で大騒ぎだ。一体何があったんだい?」

 

「…俺がシラヌイ・グループに潜入する事、奴さんは始めから読んでいたみたいだ。おかげで、部屋全体にビリリダマの大群が『テレポート』の技で送り込まれて来たよ……どの個体も点滅した状態(・・・・・・)でな」

 

「…ドンマイ、と言った方が良いのかしら?」

 

「やめろ、虚しくなる……それよりも」

 

okakaはアフロヘアを掴んで外し、いつもの髪型に戻る。ダイゴとシロナは「あ、取れるんだそれ」と心の中で密かに思うが、敢えて突っ込まない事にした。

 

「シラヌイ・グループにいた部下達は、ボルカノがJと接触していた事を知らなかった。それと、自然保護団体で活動中のマツブサにも一応連絡を入れてみたんだが、奴もボルカノとJが共謀している事を初めて知ったって感じの反応だったな」

 

「つまり、ボルカノ一人の独断行動…?」

 

「そういう事になる。今までシラヌイ・グループ本社に身を潜めていた野郎が、Jに接触した途端、急にやる気を出して来やがったって訳だ。ジラーチを狙う目的はどうせ、眠るグラードンを再び目覚めさせる事だろうよ」

 

「迷惑極まりないわね」

 

「ギャロップに蹴られて死んじゃえば良いのにね」

 

「本当にな」

 

三人は紅茶を口にし、同時にふぅ…と一息つく。

 

「社長室が丸ごと爆発した事で、手がかりになりそうなデータは綺麗サッパリ吹っ飛んじまった。おかげでボルカノの行方は全く掴めそうにない」

 

「打つ手なしか……こうなった以上、ジラーチの監視を続けて、ボルカノやJが向こうから出張って来るのを待つしか無さそうだね」

 

「カズキ君、ジラーチは今どうしてるかしら?」

 

「ウルやレイ達が、ボディーガードも兼ねて監視中だ。今のところは安全だが、まだ今日はまだ一週間の内の初日だからな。警戒は怠れば面倒な事になるのは間違いないだろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、そのウル達が行っているダブルバトルは…

 

 

 

 

 

 

 

「ハッサム、『つるぎのまい』!!」

 

「グレイシア、もう一度『こおりのつぶて』!!」

 

ギャラドス&キングラーとハッサム&グレイシアの戦い、先に動いたのはハッサムとグレイシアだった。グレイシアが『こおりのつぶて』を放っている間、グレイシアの後ろに立ったハッサムは両腕の鋏を白く光らせて『つるぎのまい』を発動。ハッサムの攻撃力を安全に高めようとする。

 

「キングラー、真横に回避!!」

 

「ギャラドス、『りゅうのまい』で回避」

 

「グラッ!!」

 

「グォォォォォォォォォォン…!!」

 

「ッ……マズいな、向こうの攻撃力も上がった…!!」

 

キングラーが素早い横歩きで『こおりのつぶて』を回避する中、ギャラドスは『りゅうのまい』を発動。蜷局を巻くように踊るギャラドスは攻撃力と素早さが同時に上昇し、そのスピードを活かして『こおりのつぶて』を全て回避してみせた。

 

「ギャラドス、『たきのぼり』」

 

「グォオンッ!!」

 

「グレェェェェイッ!?」

 

そのまま突っ込んだギャラドスは『たきのぼり』を発動。全身に水流を纏い、まるで滝を登っていくかのような動きで突っ込んでいき、グレイシアを真上に大きく撃ち上げる。

 

「く……グレイシア、もう一度『れいとうビーム』!!」

 

「『アクアテール』で撃墜」

 

「グォォォォォォォォォォンッ!!」

 

「グレェェェェェェェェェェェェイッ!!?」

 

「ッ……グレイシア!!」

 

負けじと指示を出すディアーリーズだったが、グレイシアよりもギャラドスの方がスピードは上だった。水流で強化された尻尾の一撃『アクアテール』がグレイシアに直撃し、そのまま地面に撃墜。土煙が晴れたそこには、目を回して瀕死になっているグレイシアの姿があった。

 

「グレイシア、戦闘不能…!」

 

「ッ……そんな、グレイシアをあんなアッサリと…!?」

 

「グレイシアの場合、プテラの『ステルスロック』や『いわなだれ』によるダメージがあった。そこに『りゅうのまい』を積んだギャラドスの『たきのぼり』と『アクアテール』を喰らったんだ、倒れるのも無理は無いさ」

 

支配人が解説する中、ディアーリーズは瀕死のグレイシアをモンスターボールへと戻し、次のポケモンを繰り出そうとしていた。

 

「ありがとうグレイシア、ゆっくり休んで……ピカチュウ、再び君に決めた!!」

 

「ピッカァッ……ピカ!?」

 

ディアーリーズは先程『ほえる』で戻されたピカチュウを再び繰り出す。そしてピカチュウがフィールドに立つと同時に、周囲に配置されていた『ステルスロック』が一斉にピカチュウを攻撃、ピカチュウに一定のダメージを与える。

 

「ピカチュウ、まだ行ける?」

 

「ピカッチュ!」

 

「よし……ピカチュウ、『10まんボルト』!!」

 

「ピッカァァァァァ…チュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 

「ギャラドス、『アクアテール』で地面を粉砕」

 

「グォォォォオン!!」

 

大きく跳躍したピカチュウが『10まんボルト』を繰り出すも、ギャラドスは繰り出した『アクアテール』を地面に叩きつけ、砕けた複数の岩石を利用して『10まんボルト』の電撃を完璧に防ぎ切ってしまう。

 

「!? そんな防御法が…!!」

 

「任せろ……ハッサム、接近して『バレットパンチ』!!」

 

「ハッサァム!!」

 

動きの素早いハッサムは落ちて来る岩石の隙間を抜けながらギャラドスに接近し、右腕の鋏を青白く光らせて『バレットパンチ』を繰り出そうとする……が、そんなハッサムとギャラドスの間にキングラーが割って入る。

 

「だから忘れるなと言っただろう? 『クラブハンマー』!!」

 

「グゥラッ!!」

 

「ハッサ!?」

 

キングラーの『クラブハンマー』が、ハッサムの『バレットパンチ』を見事に弾き返す。しかし、それぐらいで後退するようなハッサムではない。

 

「良いぜ、ハサミ対決だ……連続で『バレットパンチ』!!」

 

「『クラブハンマー』で攻めまくれ!!」

 

キングラーもハッサムも、両腕の鋏を使って連続で攻撃開始。回避しては攻撃し、防がれてはまた攻撃し、二体の攻防は常人の目ではとても追いつかないような速度で繰り出される。

 

「キングラー、『ハサミギロチン』だ!!」

 

「グラァァァァ…!!」

 

「!? おっとマズい!!」

 

そんな中、げんぶの指示でキングラーは再び『ハサミギロチン』を発動。先程のエンペルトのように、ハッサムを一撃で仕留めにかかる……が。

 

「ピカチュウ、『アイアンテール』で弾き上げろ!!」

 

「ピッカァ!!」

 

「ッ……グラァ!?」

 

ギャラドスと応戦中だったピカチュウが、ギャラドスの『アクアテール』を回避してから一気に接近。ハッサムを挟もうとしたキングラーの右腕の鋏を、鋼鉄化した尻尾の一撃『アイアンテール』で真上に弾く事で『ハサミギロチン』を失敗に終わらせる。

 

「チッ……もう一度行け!!」

 

「ハッサム、ピカチュウを抱えて下がれ!!」

 

「!? 逃がすな、追え!!」

 

またも繰り出される『ハサミギロチン』だったが、今度はハッサムがピカチュウを抱きかかえたまま後ろに下がる事で不発に終わる。逃がすまいと横歩きで追いかけるキングラーだったが…

 

「『くさむすび』だ!!」

 

「ピカッチュ!!」

 

「グ、グラァッ!?」

 

「!? 何…!!」

 

ピカチュウの『くさむすび』が発動し、地面から生えた数本の草木がガッチリ結びつけられる。予想外の技にキングラーはすぐに止まれず、結びついた草木に足を引っ掛けて転倒してしまう。

 

「今だ、『10まんボルト』!!」

 

「ピッカ……チュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 

「グラァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

「キングラーッ!?」

 

そこにピカチュウがトドメの『10まんボルト』が繰り出し、キングラーに炸裂。回避する暇も与えられないまま電撃を浴びたキングラーはその場に崩れ落ち、目を回して瀕死となってしまった。

 

「グ、グラァ…」

 

「キングラー、戦闘不能…!」

 

「よぉし、やっと一体目撃破!!」

 

「ありがとうピカチュウ、よくやってくれた!!」

 

「ピカッチュウ♪」

 

「ハッサム…!」

 

ロキとディアーリーズは力強くガッツポーズし、ピカチュウとハッサムも仲良くハイタッチ。一方で、倒れたキングラーをげんぶはモンスターボールに戻す。

 

「ゆっくり休め、キングラー…」

 

「『ハサミギロチン』を失ったのはデカいですね。次はどうなさるつもりで?」

 

「まぁ見てな。俺にはコイツがいる……ヨルノズク!!」

 

「ホォーッ!」

 

げんぶが繰り出した二体目は、フクロウ型ポケモン―――ヨルノズクだ。現時点での残る手持ちはそれぞれ五体と四体で、げんぶ&竜神丸チームの方がやや優勢の状況だ。

 

「さて、相手はまだ五体もいる。油断は出来ねぇぞ」

 

「ですね。まだピカチュウがいるので、まずはギャラドスの方を先に落としましょう……ピカチュウ、『10まんボルト』!!」

 

「ピッカッチュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

「ギャラドス、回避」

 

「ヨルノズクもかわせ!!」

 

ギャラドスとヨルノズクは『10まんボルト』を同時にかわし、まずはギャラドスが動き出す。

 

「ギャラドス、『たきのぼり』」

 

「グォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!」

 

「ピカァ!?」

 

「ハッサァ…!?」

 

ギャラドスの『たきのぼり』が、ピカチュウとハッサムを二体同時に真上に弾き上げる。ピカチュウは大きく撃ち上げられるが、ハッサムはすぐに空中で体勢を立て直す。

 

「ハッサム、『シザークロス』!!」

 

「『りゅうのまい』で回避」

 

「ハッサ!!」

 

「グォォォォォッ!!」

 

「く、また積みやがったか…!!」

 

両腕の鋏を×字に交差したハッサムの『シザークロス』も、ギャラドスは再び『りゅうのまい』を繰り出す事で華麗に回避してみせる。そのままギャラドスはピカチュウ目掛けて突っ込んでいく。

 

「もう一度『たきのぼり』」

 

「ピカチュウ、『アイアンテール』で迎え撃て!!」

 

「ピッカ……ピカァアッ!?」

 

「!? ピカチュウ!!」

 

しかしピカチュウは、宙に撃ち上げられたまま上手く動く事が出来ない。そこにギャラドスの『たきのぼり』が再び炸裂し、ピカチュウを大きく吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピカチュウ、何だか様子が変だよ…!?」

 

「『たきのぼり』の効果だよ。『たきのぼり』を喰らったポケモンは一定の確率で、怯んで上手く技を出せない事があるんだ」

 

「うぅぅぅぅ……ピーちゃん、まけるなー!」

 

「ウルさん、頑張って…!」

 

「チルチルー!」

 

咲良、美空、チルタリスが応援する中、ピカチュウを吹き飛ばしたギャラドスに再びハッサムが迫る。

 

「『バレットパンチ』だ!!」

 

「『アクアテール』です」

 

「ハッサ!!」

 

「グォンッ!!」

 

『バレットパンチ』と『アクアテール』がぶつかり合い、両者共に大きく後退させられる。しかしハッサムはいくらか疲れを見せているのに対し、ギャラドスはまだまだ余裕そうな表情だ。

 

「ハッ……サム…!!」

 

(マズいな。あのギャラドス、異常とも言えるくらいタフだ……ピカチュウも怯んで動けなかったし、ここは何としてでも俺達が頑張らないと…)

 

「ピカチュウ、まだ行ける?」

 

「ピィ、カ……ピッカ!」

 

「よし、もう少しだけ頼んだよ」

 

ピカチュウの方も、何とか怯んだ状態から体勢を立て直せたようだ。ピカチュウとハッサムは並び立ち、目の前にいるギャラドスを睨みつける。

 

「ピィカァ…!!」

 

「ハッサァ…!!」

 

「グォォォォォォン…!!」

 

ピカチュウとハッサムも、まだまだ諦めるつもりは毛頭ないようだ。そんな二体の様子を見て、ギャラドスはほんの少しだけだが笑うかのような表情を見せる。

 

「まずはギャラドス突破だ、気ぃ抜くなよ!!」

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉし、その調子だよウル!!」

 

「がんばれー!」

 

「チルチルゥー!」

 

「しかしあのギャラドス、なかなかに鍛えられてるなぁ。動きにまるで無駄が無いし、これはなかなか強敵だぞ」

 

「…あ、あの…」

 

「ん? どうした、美空ちゃん」

 

そんな中、美空は支配人にある事を問いかけた。

 

「これって、ダブルバトル…ですよね…?」

 

「? いきなり何を言ってるのさ美空ちゃん、それは見ての通りでしょ?」

 

「あの、えっと……私達、何か…忘れてる、ような、気がして…」

 

「どういう事だ? 何処からどう見てもダブルバトルじゃないか。ほら、フィールドにはアイツ等のポケモンが二体ずつ出て…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二体ずつ出て(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

支配人は再びフィールドの方を見る。

 

(えっと、今フィールドにいるのはピカチュウ、ハッサム、ギャラドスと…)

 

その瞬間、支配人の頭でピースが嵌まる音が鳴り響いた。

 

というより、忘れてしまっていた事をようやく思い出した(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)と言った方が正確だろうか。

 

(お、おいおい、ちょっと待てよ……アイツ(・・・)は……アイツ(・・・)は一体何処に行った…!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だ。

 

 

 

 

 

 

げんぶが再び、ニヤリと笑みを浮かべたのは。

 

 

 

 

 

 

「『さいみんじゅつ』」

 

「!? ハッサ、ァ……ZZZ」

 

「ピカ!?」

 

「「な…!?」」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

「!? え…!?」

 

「…ほぉ」

 

その時、突然発動された『さいみんじゅつ』を受けたハッサムが、その場に膝を突いて眠ってしまった。いきなり過ぎる展開に、ピカチュウだけでなくロキとディアーリーズ、観戦していたこなた逹、審判役のユイまでもが驚愕の表情を見せる。しかし竜神丸だけは、納得した様子の表情を浮かべる。

 

「作戦成功だ、ヨルノズク」

 

「ホーッ!」

 

「「ッ…ヨルノズク!?」」

 

ここでロキとディアーリーズはハッと思い出した。ギャラドスに集中するあまり、すっかり存在その物を忘れてしまっていたヨルノズクの事を。

 

(ちょっと待て、今コイツ何しやがった…!? いきなり何も無いところから出て来て…!?)

 

「悪いなぁ二人共、俺のヨルノズクはひっじょ~…に地味な奴でねぇ。俺もたまに忘れちまうくらいだ」

 

「地味だと…!?」

 

「そういう事。後は自分で答えに辿り着いてみな……ヨルノズク、『あくむ』!」

 

「ホォォォォォォ…!!」

 

「ッ……ハ、ハッサァ…ッ!!」

 

「ピカ、ピカピカァッ!?」

 

ヨルノズクが両目を怪しく光らせた途端、ハッサムは眠ったまま頭を押さえて苦しみ始めた。ピカチュウが必死に揺さぶって起こそうとするが、ハッサムはまだ起きる様子が無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そうか」

 

一方で、支配人は一つの答えに辿り着いていた。

 

「支配人さん、何か分かったの?」

 

「あぁ、何となくだがな……アイツ、わざとヨルノズクを空気にしていた(・・・・・・・・・・・・・)んだ」

 

「「…ヨルノズクを空気に?」」

 

「わかんなーい」

 

「チルゥ?」

 

「いや、あくまで推測なんだけどな……あのヨルノズク、恐らくげんぶの手持ちの中ではかなり地味な存在なのかも知れない。それはげんぶが言っていた『俺もたまに忘れちまう』って台詞で判断出来る」

 

「ん? という事は……あのヨルノズク、自分の地味さを利用したって事!?」

 

「そんな事、出来るん…ですか…!?」

 

「そういった事例を聞いた事ないから、俺もまだよく分からないが……たぶんそういう事だろう。加えて、ヨルノズクは『ふくろう(・・・・)ポケモン』だ。野生のヨルノズクは気配を隠し、無音で獲物に接近する狩りの能力に長けている。ヨルノズクだからこそ出来る戦法なんだろうな」

 

「で、でも、あのヨルノズク『あくむ』なんて使えたのかい!? 普通は覚えないんじゃ!?」

 

「今の時代ではな。昔の時代のヨルノズクなら、『あくむ』を覚えた個体も数件だけ目撃例がある。今の時代では見られない事例だろうから……あのヨルノズク、何気に超レアな存在だぞ」

 

「うっそぉ~ん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ!! 何だよそのヨルノズク、反則過ぎんだろ……ハッサム、起きろ!! やられちまうぞ!!」

 

「無駄だ。ヨルノズク、もっと『あくむ』で苦しめてやれ」

 

「ホォーホォー…!!」

 

「ハ、ハッサァ…!?」

 

ロキが必死に呼びかけてもハッサムは起きず、ヨルノズクの『あくむ』で苦しみ続ける。このままでは埒が明かない為、ディアーリーズはピカチュウに指示を出す。

 

「ッ……ピカチュウ、ヨルノズクに『10まんボルト』!!」

 

「ピッカッチュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

「竜神丸、任せた」

 

「任されました……『たきのぼり』」

 

「グォォォォォォォォォォォンッ!!」

 

「!? ピッカァ!!」

 

そこに今度はギャラドスが割って入り、わざと『10まんボルト』を受けつつピカチュウに『たきのぼり』を炸裂させる。流石のピカチュウも今度は怯まなかったが、ギャラドスに意識を向けてしまった所為で、またもヨルノズクを見失ってしまった。

 

「!? しまった、ヨルノズクは何処に―――」

 

「ヨルノズク、『ねんりき』だ」

 

「ピ、ピカァッ!?」

 

直後、ピカチュウの身体が突然宙に浮かび上がった。いつの間にか真上に飛んでいたヨルノズクは『ねんりき』でピカチュウを宙に浮かべた後、そのまま勢い良く地面に叩きつける。

 

「くそ、このままじゃやられる……戻れ、ハッサム!!」

 

「ピカチュウも一旦休んで!!」

 

「! おやおや」

 

「ちぇ、このまま三体目も落とそうと思ってたのに」

 

このままではマズいと判断したロキとディアーリーズは、ハッサムとピカチュウを同時にモンスターボールに戻していく。そして次に繰り出されたのは…

 

「今度はお前の番だ、ドダイトス!」

 

「バシャーモ、君に決めた!」

 

「ドォダァーッ!!」

 

「シャモ!!」

 

ロキはドダイトス、ディアーリーズはバシャーモだ。しかし…

 

「!? ドダァ…!?」

 

「バッシャ!?」

 

交代した事で再び『ステルスロック』が発動。ドダイトスとバシャーモに一定のダメージを与えてしまう。

 

「ッ……『ステルスロック』ばかりはどうしようも無いか」

 

「それよりも、まずはあのヨルノズクを何とかしないといけませんね。ギャラドスだけでも手が付けられないというのに―――」

 

「戻りなさい、ギャラドス」

 

「え…!?」

 

「ギャラドスを戻しただと…!?」

 

そんなギャラドスも、竜神丸によってモンスターボールに戻される。そして…

 

「ドラピオン、実験開始」

 

「ドラァァァッ!!」

 

三番手のポケモンとして、竜神丸はドラピオンを繰り出した。ドラピオンは地面に降り立ち、両腕の鋭い爪をカチカチ鳴らす。

 

「ここでドラピオンに交代だと…?」

 

「ロキさん、気を付けましょう……確実に何か仕掛けて来ます…!!」

 

二人が警戒する中で、早速ドラピオンは動き出した。

 

「ドラピオン、『ミサイルばり』」

 

「ドォォォォォラァァァァァァァァァァッ!!」

 

ドラピオンは両腕の爪や尻尾の爪を同時に光らせ、そこから鋭い弾丸『ミサイルばり』を一斉に放射。その放射された『ミサイルばり』は二十……いや、三十本にまで増加する。

 

「!? 何だあの数は……ドダイトス、『リーフストーム』!!」

 

「バシャーモ、避けて!!」

 

「ドダァァァァァァァァッァァッ!!」

 

「シャモッ!!」

 

ドダイトスは背中の大木から発射した『リーフストーム』で『ミサイルばり』を相殺し、バシャーモは素早い動きで飛んで来る『ミサイルばり』を潜り抜けていく。しかし回避される事は想定済みだったのか、竜神丸はすぐに別の指示を出す。

 

「『クロスポイズン』」

 

「ドラァァァァァァァァッ!!」

 

「バシャーモ、後ろに回り込んで『ブレイズキック』!!」

 

「シャッ!!」

 

ドラピオンが両腕の爪で繰り出す『クロスポイズン』をスレスレでかわし、一気にドラピオンの背後まで回り込んだバシャーモ。右足に火炎を纏った『ブレイズキック』で、ドラピオンに攻撃を仕掛けるが…

 

「ドラッ!!」

 

「!? シャモォッ!?」

 

「な、後ろを見ないまま…!?」

 

ドラピオンは後ろを見る事なく尻尾を長く伸ばし、尻尾の爪でバシャーモの胴体を掴んで捕縛。しかもリーチの長い尻尾で捕まえられた為に、ブレイズキックがドラピオンに届かず失敗に終わってしまった。そんなバシャーモに対し、ドラピオンは360°回る胴体を後ろに向けてバシャーモを睨みつける。

 

「そのまま『こおりのキバ』」

 

「ドラァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「シャモォォォォォォォォォ…!?」

 

そしてドラピオンは『こおりのキバ』を発動し、バシャーモを捕まえている尻尾の爪を通じてバシャーモの身体に冷気を送り込んでいく。胴体が少しずつ凍り始め、バシャーモは何とか脱出しようとする。

 

「マズい……バシャーモ、『かみなりパンチ』!!」

 

「シャ、シャモ…!!」

 

「腕を押さえなさい」

 

「ドラッ!!」

 

「シャモッ!?」

 

両腕に電流を纏って『かみなりパンチ』を繰り出そうとするバシャーモだったが、そんなバシャーモの両腕をドラピオンは両腕の爪でガッチリ挟んで拘束してしまう。拘束する際に電流が僅かにドラピオンの身体に流れるが、それだけではドラピオンはビクともしない。

 

「ドダイトス、『じしん』だ!!」

 

「ドォダァァァァァァッ!!!」

 

「!? ドラッ…!!」

 

「ッ…シャモ!!」

 

そんなバシャーモを助け出すべく、ドダイトスが『じしん』を発動。地面が大きく揺れた事でドラピオンは思わずバシャーモを捕まえていた拘束を緩み、その隙にバシャーモが素早く脱出する。

 

「よし、抜け出せた……『とびひざげり』!!」

 

「『クロスポイズン』で防御」

 

「バッシャア!!」

 

「ドォラ!!」

 

バシャーモが繰り出した『とびひざげり』に対し、ドラピオンは『クロスポイズン』を繰り出す事で防御。ドラピオンのパワーがバシャーモを弾き返し、バシャーモが地面に着地する。

 

「助かりました、ロキさん」

 

「なぁに、まだまだここからだぜ」

 

しかし、ここで竜神丸が仕掛け始める。

 

「ドラピオン、『どくびし』」

 

「ドォォォォォォォォォ…ラァッ!!!」

 

「!? これは…」

 

ドラピオンは開いた口から毒々しい紫色のエネルギー弾を生成し、それを真上に撃ち上げる。撃ち上げられた紫色のエネルギー弾は『どくびし』となってフィールドに散布されていき…

 

「!? シャ、モォォォ…!!」

 

「ド、ドダァ…ッ!?」

 

「バシャーモ!?」

 

「ドダイトス!!」

 

直後、バシャーモとドダイトスに毒のダメージが入り込んだ。バシャーモは膝を突く事で倒れるのを防ぎ、ドダイトスは苦しそうな表情で必死に立ち続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「支配人さん、今の技って…!」

 

「『どくびし』……『ステルスロック』と同じで、フィールド全体に罠を配置する技だ。『どくびし』の場合、鋼タイプのポケモンや特性が『めんえき』のポケモンでなければ、地面に足を付けた瞬間に毒状態となってしまう」

 

「ッ……じゃあ、ウルさん達のポケモンは…!」

 

「あぁ。ロキとディアの手持ちだと、『どくびし』のダメージを受けずに済むのは鋼タイプのハッサムだけ。しかもハッサムは眠った状態だから、逆転の鍵には至らない」

 

「うぇぇぇぇぇぇ!? じゃあ万事休すじゃーん!?」

 

(ウル、さん…!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、このままじゃマズい……ドダイトス、『ギガドレイン』で体力を奪え!!」

 

「ドダァァァァァァァァッ!!」

 

「させませんよ……『ミサイルばり』」

 

「ドラァァァァァァァァッ!!」

 

ドダイトスは背中に生えているトゲトゲから緑色に光る触手を伸ばし、『ギガドレイン』を発動してドラピオンから体力を奪い取ろうとする。しかしドラピオンも即座に『ミサイルばり』を連射し、ドダイトスの伸ばす触手を簡単に打ち消してしまう。

 

「チッ……回復もさせてくれねぇか…!!」

 

「それならバシャーモ、スピードで撹乱!!」

 

「バッシャ!!」

 

「!? ド、ドラァ…!?」

 

バシャーモは素早い動きでフィールド全体を駆け回り、ドラピオンを撹乱し始める。ちなみに本来のバシャーモの特性は、体力が少ない時に炎タイプの技が強化される『もうか』だ……がディアーリーズのバシャーモは違う。現在フィールドに出ているバシャーモの特性は『かそく』であり、その効果はフィールドに長く出ているほど素早さがどんどん上がっていくという物。それを活かし、バシャーモのスピードでドラピオンを混乱させる作戦で仕掛けるつもりのようだ。

 

「慌てる必要はありませんよ。フィールド全体に『ミサイルばり』」

 

「ッ…ドォラァ!!」

 

「全てかわせ!!」

 

「シャモッシャモッシャモッ!!」

 

ドラピオンの連射する『ミサイルばり』をかわし、一気にバシャーモがドラピオンに接近。ドラピオンは間近にいるバシャーモを両腕や尻尾の爪で捕まえようとするが、それすらもバシャーモはかわして見せる。

 

「顔面に『とびひざげり』!!」

 

「シャモォッ!!!」

 

「ドラァァァァァァァァ…!?」

 

バシャーモの『とびひざげり』が、見事ドラピオンの顔面に炸裂。ドラピオンは大きく後退し、バシャーモは毒のダメージを受けつつも何とか地面に着地する。

 

「よし、もう一度…」

 

「ド、ドダァァァァァァァァァッ!?」

 

「!? え、何だ…!?」

 

しかしこの時、ディアーリーズ達はまたも忘れてしまっていた。あのふくろうポケモン(・・・・・・・・)の存在を。

 

「ヨルノズク、『ねんりき』だ」

 

「ホホォー…ホォッ!!」

 

「ドダァイッ!?」

 

「くそ、ドダイトス!!」

 

再び気配を消していたヨルノズクが、『ねんりき』で宙に浮かばせていたドダイトスを地面に叩きつける。それに反応したバシャーモが思わずドダイトスの方に振り返るが、それがマズかった。

 

「『クロスポイズン』」

 

「ドラッ!!」

 

「しまった!? バシャーモ、避けて!!」

 

「!? シャモ……シャアッ!?」

 

すかさずドラピオンが『クロスポイズン』を繰り出し、バシャーモは防御が間に合わず吹き飛ばされてしまう。しかも急所に当たった為、ドラピオンの特性『スナイパー』の効果で大ダメージだ。

 

「ヨルノズク、バシャーモに『ねんりき』」

 

「ホホォォォォォォォォォ…!!」

 

「ッ…シャ、シャモ…!!」

 

「ドラピオン、もう一度『クロスポイズン』」

 

「ドォォォォォォォォォォォ…ラァッ!!!」

 

「シャモォォォォォォォォォォォォォォォォッ!?」

 

「ッ…バシャーモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

ヨルノズクの『ねんりき』がバシャーモを地面に押さえつけて拘束し、そこにドラピオンが『クロスポイズン』による無慈悲な一撃を炸裂させる。ディアーリーズがバシャーモの名を叫ぶが…

 

 

 

 

 

 

「シャ、シャモ…」

 

 

 

 

 

 

現実は非情だった。

 

「バシャーモ、戦闘不能…!」

 

「そんな、バシャーモまで…!?」

 

「マズいな……これでロキとディアは残り三体だが、げんぶと竜神丸はまだ五体もいる。かなり厳しい状況になってきたぞ…!」

 

 

 

 

 

 

あまりに凶悪なドラピオンとヨルノズクの連携でバシャーモまで倒され、一気に窮地に追い込まれてしまったロキとディアーリーズ。

 

 

 

 

 

 

このまま、残る三体も続けて撃沈されるのか。

 

 

 

 

 

 

それとも、残る三体が打開策を見つけるのか。

 

 

 

 

 

 

ダブルバトルの行く末や如何に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『七夜の願い星 その5』に続く…

 


 
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